紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は最近一寸した悩みを抱えていた。
悩みと言うのは紅魔館に良く遊びに来る珍しい人間の一人、四神龍也の事だ。
何故、龍也の事で悩んでいるのか。
答えは簡単。
ここ最近、龍也に抱く感情が咲夜自身でも今一解らないものに成って来ているからである。
龍也は咲夜の能力の事を知っても態度を変えたり怯えたりしなかった数少ない人間の一人だ。
因みに、霊夢と魔理沙の二人も龍也と同じ様に咲夜の能力を知っても態度を変えたり怯えなかった数少ない人間である。
その事に付いて咲夜は少し呆れていたが、内心嬉しく思っていた。
だからか、龍也、霊夢、魔理沙の三人に対する対応などが咲夜自身でも気付かない内に甘くなっている。
例えば龍也好みのご飯を作ったり、時たま博麗神社に何かしらの食べ物などを持って行ったり、パチュリーの図書館に盗みに入る魔法使いを見逃したり等々。
対応が甘くなっている以外には、龍也、霊夢、魔理沙の三人に友情などを感じていたりもする。
だが、その中で龍也に抱く感情だけが変化している様なのだ。
嫌いになったのかと問われたら、それは違うと咲夜は断言する事が出来る。
嫌悪感と言ったものを感じないからだ。
それはさて置き、普段であれば変化していく感情に付いての答えを出す為に咲夜は頭を回転させていく事だろう。
が、今回に限っては上手く頭を回転させる事が出来ないでいた。
何故ならば、変化した感情の正体を探ろうとすればする程に咲夜の頭の中は龍也で一杯になってしまうからだ。
おまけに頭の中が龍也で一杯になれば、変に心臓が高鳴ったりすると言う事態に陥ってしまう。
今はまだ、頭の中の大半を龍也が支配していても業務に支障は無いし仕事のミスも無い。
しかし、これから先はどうだろうか。
もし、頭の中の龍也に気を取られて仕事でミスをし様ものなら完全で瀟洒なメイドの名折れだ。
そうなる前に何らかの手を打つ必要が有ると考えた咲夜は、ある人物に相談する事にした。
知識人として名高い魔法使いであり紅魔館の客人、自分の主であるレミリア・スカーレットの親友であるパチュリー・ノーレッジに。
と言う訳で、パチュリーの所へ紅茶と昼食を運んだ時に自身の悩みに付いての相談すると、
「それは恋ね」
恋と言う答えが返って来た。
「恋……ですか?」
恋だと返された事に咲夜は驚くも、表情を崩さずに恋なのかと尋ね返す。
尋ね返された事に、
「そう、恋よ。特定の異性にのみ他の同姓とは抱く感情が異なり、それに嫌悪感が無いとなったら恋になるわね。まぁ、親愛の情と言う線も
考えられたけど……貴女の口振りからそれは無いと判断したわ」
恋と断定した理由をパチュリーは話し、紅茶を飲む。
そして、カップの中の紅茶が少し減った辺りでパチュリーは一旦紅茶を飲むのを止め、
「少し意外だったけど……まぁ、龍也は貴女にとって一番親しい異性だから友情が愛情に変化しても不思議は無いのかしら」
咲夜に取って一番親しい異性は龍也なので、龍也に抱く感情が友情から愛情に変化しても不思議は無いかと呟く。
パチュリーの呟きを聞き、
「そう……なのでしょうか?」
良く分からないと言った表情を咲夜は浮べた。
分からないと言うのは龍也に恋愛感情を持っている事なのか、それとも友情が愛情に変化する事なのか。
どちらかなのかまでは判別が付かなかったので、
「男女間の間で友情が愛情に変化するのは良くある話よ。男女間で友情が成立し難いと言う話もあるしね。まぁ、友情が愛情に変化するって言うのは少し語弊が
あるかしら。正しく言うのであれば友情と愛情を両方持ち、その比率が愛情の方に大きく傾くと言うべきかしらね。ま、先程言った様に友情が愛情に変化すると
言う事も勿論あるし、男女間での友情が変化せずにその儘友情を保ち続けると言うのもあるわ」
パチュリーはその両方に付いての説明を行なった。
「そうなのですか?」
「そうなのよ。で、咲夜」
今の説明でも今一つ分からないと言う雰囲気が咲夜から感じられた為、パチュリーは話を変えるかの様に咲夜に声を掛ける。
「何でしょうか、パチュリー様?」
「一寸、龍也と龍也以外の異性を頭に思い浮かべてみて」
掛けられた声に反応した咲夜に、龍也と龍也以外の異性を思い浮かべる様にとパチュリーは指示を出す。
「龍也と龍也以外の異性をですか?」
「ええ、やってみて」
「はぁ……」
咲夜としてはやる意味が余り分からなかったが、取り敢えずパチュリー指示された通りに龍也と龍也以外の異性を頭に思い浮かべていく。
一番最初に思い浮かべたのは龍也。
次に思い浮かべたのは人里に買い物をしに向った時に会った人里の男性達。
最後に思い浮べたのは時たま買い物に行く事がある香霖堂の店主を。
咲夜が一通り異性の事を頭に思い浮かべたタイミングで、
「どう? 龍也と龍也以外の異性を思い浮かべて何か違うところは有ったかしら?」
龍也と龍也以外の異性を思い浮かべて何か違うところは有ったかと問う。
問われた事に、
「そうですね……龍也の時はこの辺が変にドキドキしましたね」
正直な感想を返し、咲夜は自身の胸に手を当てる。
返された感想と咲夜の反応から、
「なら決まりね。それが恋よ」
改めてパチュリーは咲夜が抱いている感情が恋だと断定した。
「これが……恋?」
恋と断定されても今一つ実感が沸かないと言った表情を咲夜は浮べてしまう。
確かに、行き成り恋だと言われても実感が沸かないのは当然と言えば当然だ。
故に、
「まぁ、行き成りそう言われても余り実感が湧かないわよね。時間は有る事だし、ゆくっりとその感情と向き合いなさい」
時間を掛けて自分の中に在る感情と向き合う様にと言うアドバイスをパチュリーは行なった。
その後、息を一つ吐き、
「話は変わるけど、龍也に想いを告げるのなら解り易くストレートに伝えなければ駄目よ」
龍也に想いを告げるのならば解り易くストレートに伝える様に言う。
自分の中の気持ちと向かい合えと言った瞬間に想いの告げ方に付いて言及された為、
「想いを告げるって……少し話しが飛躍していませんか?」
幾ら何でも話が飛躍しているのではないかと言う突っ込みを咲夜は入れる。
「そうかもしれないけど、覚えて置いて損は無いわよ」
入れられた突っ込みを肯定するも、続ける様に覚えて置いて損は無いと言う発言をパチュリーが発したからか、
「損は無いですか?」
咲夜は首を傾げてしまった。
「ええ。いざ龍也に告白する時に成ってどう告白して良いか分からないって成るよりはね」
首を傾げた咲夜に覚えておいて損は無いの部分に付いてパチュリーが教えると、
「やはり話が飛躍している様な気もしますが……それはそうと、解り易くストレートにとは?」
やはり話が飛躍していると咲夜は呟いたが、一応解り易くストレートにの部分に付いての意味を尋ねる。
「どうも龍也って恋愛感情に疎いみたいなのよね」
尋ねられたパチュリーは、咲夜が尋ねて来た事は予想通りだと言う様な表情で龍也は恋愛感情に疎い事を伝え、
「でも、恋愛に全く興味が無い……って訳でも無いみたいなのよね。唯、愛情と言うものが理解出来ていない……いえ、解らないと言った方が正しいのかしら?
取り敢えずそんな感じなのよね、龍也は」
下唇に人差し指を当て、自分なりの推論を述べていく。
迷い無く龍也の恋愛間と言えるものを述べたパチュリーに、
「良くお分かりになられてますね」
少し驚いた感情を咲夜は抱く。
そんな咲夜に、
「魔法使いたる者、観察眼は無いと困りものだからね」
魔法使いならば観察眼が無ければ困ると返し、
「それはそうと、今日はこんな喋っても咳込まなかったし良い日ね」
これだけ喋っても咳き込まなかった今日は良い日だと漏らしながら残っている紅茶を飲み干し、
「もう一杯、淹れてくれるかしら?」
空になったカップに紅茶を注いでくれと頼む。
「畏まりました」
頼まれた事に了承の返事をし、空になったカップに紅茶を注いでいき、
「そう言えば、パチュリー様は恋愛経験が御有りなのですか?」
カップの中に紅茶が満たされたタイミングで、咲夜はふと思った事をパチュリー聞く。
すると、パチュリーはピシリと言う擬音が聞こえそうな動作で動きを止めてしまった。
が、直ぐに再起動し、
「……相変わらず良い味ね、咲夜」
紅茶を飲み、良い味だと言う感想を零す。
今のパチュリーの反応から大体の事を咲夜は察したが、
「お褒め頂き光栄です、パチュリー様」
特に何かを言う事はせず、紅茶の味を褒められた事に対する礼を現すかの様に頭を下げた。
咲夜がパチュリーに龍也の事を相談をしてからと言うもの、咲夜は暇さえ在れば龍也に抱いている感情と向き合っていた。
その結果、何日か過ぎた頃には龍也に抱いている感情が霊夢や魔理沙と言った同姓の友人に抱いている感情とは別物である事を咲夜は理解する。
それから更に何日か過ぎると咲夜の心の中の大半が龍也の事で支配され、咲夜は龍也の事をよく考える様になっていた。
だからか、
「これが恋や愛と言ったものなのかしら……」
今、自分が龍也に抱いている想いが恋や愛と言えるものなのかと咲夜は考えながら紅魔館の廊下を歩いて行く。
だが、考え事に集中しながら歩いていたせいで、
「……とと」
咲夜は掃除するべき部屋の前を通り過ぎてしまったので、少し慌て気味に通り過ぎた部屋の前へと戻る。
そして、部屋の中に入って掃除をしながら考えていく。
何に付いて考えているのかと言うと、龍也に抱いている感情が恋や愛だと言うのであれば自分は龍也の何処に惹かれたのだろうかと言う事だ。
考え始めて直ぐに龍也の立ち振る舞い、性格、雰囲気などが思い付いた。
が、惹かれた要因の一番は自分の能力を知っても態度を変えたり怖がったりしなかった点であろう。
兎も角、自分の能力を知っても態度を変えたり怖がらなかった龍也にで少しずつ惹かれていき、
「龍也の事を好きになっていた……か」
気付けば龍也の事を好きになっていたのかと咲夜は推察した。
改めて龍也の事が好きであると認識した咲夜は、
「ッ!!」
自身の頬を赤く染めてしまう。
同時に、心臓の鼓動が強くなっていく。
そんな自分を落ち着かせるかの様に咲夜は深呼吸をし、心臓の鼓動が落ち着きを取り戻した辺りで息を大きく一つ吐き、
「そっか……これが好きと言う感情……」
ポツリとそう呟いた。
パチュリーに相談し、自分自身の中に感情と向き合って出した答え。
正直言って、咲夜は自分がこう言った感情を抱く事になるとは全く想定していなかった。
しかし、
「……でも、悪いものじゃ無いわね」
悪いものでは無かった為、自然の表情が嬉しそうなものになる。
が、直ぐに表情を何かに気付いたかの様なものに変えて周囲を見渡す。
すると、
「あ……」
掃除が全然進んでいない事が分かった。
どうやら、考え事に集中していたせいで掃除の手が止まってしまっていた様だ。
自分でも気付かない内に掃除の手を止めていた事を内心で叱責しつつ、咲夜は遅れを取り戻すかの様に掃除を再開した。
幾つもの部屋の掃除を終わらせた後、洗濯物を手に持ちながら咲夜が廊下を歩いていると、
「……あら?」
一寸した喧騒が外の方から聞こえて来た。
喧騒の発生源は門の方かと考えた咲夜は、近くの窓から紅魔館の門の様子から確認しに掛かると、
「龍也……」
龍也の姿が咲夜の目に映った。
同時に、咲夜の心臓の鼓動が強まって気分が高揚して来てが、
「……落ち着け、私」
高揚し始めた気分を落ち着かせる為に咲夜は深呼吸を行なう。
何回か深呼吸を行なうと心臓の鼓動も高揚した気分も落ち着きを取り戻し始めたので、改めと言った感じで門の方に目を向ける。
改めて見た結果、龍也が美鈴と戦っている事が分かった。
いや、戦っていると言うよりは手合わせをしていると言った方が正しいであろう。
兎も角、後幾らかもすれば手合わせも終わる筈だ。
ならば、手合わせが終わる頃合を見計らってタオルと飲み物でも持って行こうかと咲夜は考え、
「……よし」
さっさと洗濯物を片付けてそれ等を用意する事を決め、早足で移動を始めた。
龍也と美鈴の手合わせが終わった辺りで、
「お疲れ様」
タオルと飲み物が入ったコップを持った咲夜がお疲れ様と言う言葉と共に紅魔館の門の前に現れた。
突如として現れた咲夜に龍也と美鈴は驚くも、直ぐに時間を操って現れたのだろうと言う事を理解し、
「ありがとう」
「ありがとうございます」
礼の言葉を述べ、咲夜から飲み物が入ったコップとタオルを咲夜から受け取って汗を拭き始める。
そして、龍也が汗を拭い終わったタイミングで、
「貴方はこれから図書館に行くのかしら?」
咲夜は龍也にこれから図書館の方に向かうのかと問う。
問われた事に、
「ああ、その積りだけど」
龍也が肯定の返事を返すと、
「そう。図書館までの案内は必要かしら?」
図書館までの案内は必要かと咲夜は聞く。
「いや、大丈夫だ。入り口から図書館にまでの道のりは何度も通ったからな。流石にもう迷わないでも行けるさ」
何度も通った道なので、迷わないで行けると主張した龍也に、
「そう。でも気を付けてね。配置自体は変わってないけど、最近お嬢様の意向で空間を弄ってまた広くなったから。一度迷ったら大変よ」
配置自体は変わっていないものの、紅魔館内部がレミリアの意向で広くなったので迷わない様にと言う注意の言葉を掛ける。
紅魔館内部がまた広くなった事を知った龍也は、
「また広くなったのか……」
少々ゲンナリした表情を浮べた。
幾ら内部構造が変わっていないとは言え、広ければ広い程に紅魔館内部で迷ってしまう確率が上がってしまうのだ。
ゲンナリとした表情を浮べてしまうのも無理はないだろう。
取り敢えず、紅魔館内部を歩く時は現在地をちゃんと把握する必要があると龍也が思っている間に、
「あ、そうそう。浴場は使う?」
何かを思い出したかの様な表情を咲夜は浮かべ、浴場は使うかと尋ねる。
尋ねられた龍也は自分の体の状態を確認するかの様に視線を落とす。
美鈴との手合わせで汗は掻いたものの、衣服が汗で張り付いたり汗臭く感じる程に掻いてはいない。
別段、今直ぐにでも風呂に入らなければ成らない事も無いだろう。
だが、風呂に入れるのなら入りたい。
しかし、図書館で本も読みたいと言う欲求も強くなって来ている。
どうするべきかと考えた龍也は、少しの間頭を回転させ、
「んー……図書館で本を読みたいから……二、三時間位したら風呂に入れる様にしてくれないか?」
二、三時間位したら風呂に入ろうと言う結論を出し、風呂の準備はその様にしてくれと言う事を咲夜に頼んだ。
「了解。二、三時間後ね」
頼まれた咲夜は快く了承の返事をして美鈴の方に顔を向ける。
咲夜からの視線を受けた美鈴は、咲夜が何を言いたいのかを察し、
「私は夜に成ったら入らせて頂きますね」
夜に成ったら風呂に入ると言う旨を咲夜に伝えた時、
「ご馳走さん」
ご馳走様と言う言葉と共に龍也は空になったコップと汗を拭き終えたタオルを咲夜に差し出す。
差し出されたそれ等を、
「お粗末様」
咲夜はお粗末様と返しながら受け取り、美鈴の方に顔を顔を向ける。
顔を向けた先に居る美鈴はまだ飲み物を飲んでいる最中であった。
そして、
「ご馳走様でした、咲夜さん」
美鈴が飲み物を飲み干したタイミングで、
「じゃ、俺は先に中に入らせて貰うな」
中に入らせて貰うと龍也は口にし、体を紅魔館の方に向ける。
龍也の言動から紅魔館の中に入り、図書館の方へ行こうとしているのを察した咲夜は、
「分かったわ。迷わない様にね」
念を押すかの様に迷わない様にと言う。
「分かってるって」
押された念に適当な返事をしつつ、龍也は紅魔館の中へと入って行った。
紅魔館の中へと入って行った龍也を見届けた後、本当に大丈夫かと咲夜が思っていると、
「何か時間を掛けた様ですみません、咲夜さん」
空になったコップと汗を拭き終えたタオルを差し出しながら美鈴は謝罪の言葉を述べる。
どうやら、汗を拭いたり飲み物を飲むと言う行為に時間を掛けた事を気にしている様だ。
が、
「別に構わないわ。今日はそれ程忙しいって訳でもないし」
別に気にしていないと言った態度で咲夜はタオルとコップを受け取り、
「それに、キチンと起きてたみたいだしね」
ちゃんと起きて門番をしていた様なので、多少の事は見逃すと言う様な発言を零した時、
「あ、あはははは……」
美鈴は苦笑いを浮かべ、咲夜から顔を逸らした。
急に美鈴の反応が変った事で咲夜はジト目になり、
「貴女、まさか龍也が来るまで寝てた。何て事は……」
龍也が来るまで美鈴は寝ていたのではと考えた瞬間、
「ね、寝てません!! 寝てませんとも!! 私は真面目に門番をしてましたとも!!」
大慌てと言う言葉が似会う様な動作で美鈴はちゃんと起きて門番をしていたと言う主張をし始める。
主張をしている美鈴の姿が滑稽であったからか、
「……まぁ、良いわ」
息を一つ吐いてこれ以上言及する事を咲夜は止め、
「それじゃ、私はこれを片付けて洗濯と浴場の準備をしなければならないから中に戻るわよ」
中に戻る事を伝えて美鈴に背を向けた。
そのタイミングで、
「……あ、そうだ。咲夜さん」
何かを思い出したかの様な表情を美鈴は浮かべ、咲夜を呼び止める。
呼び止められた咲夜は動かそうと足を止めて振り返り、
「何?」
何の用かと首を傾げ、態度で呼び止めた理由を話す様に促す。
咲夜からの雰囲気で自分が話すのを待っている事を理解した美鈴は、
「今日、龍也さんに告白するんですか?」
話したい事をストレートに口にした。
余りにも予想外、且つ想定外の事を口にされた為、
「は、はあ!?」
誰の目から見ても分かる程に咲夜は取り乱してしまう。
そんな咲夜を見て、こんな風に取り乱す咲夜は新鮮だなと少々呑気な事を美鈴が思っている間に、
「あ、貴女が何でそれを……」
何故、自分の想いを知っているのかと言う疑問を咲夜は美鈴に投げ掛け様とする。
「何日か前に図書館に行った時、パチュリー様が教えてくれたんですよ。咲夜さんが龍也さんに恋愛感情を持っているって言う事を」
投げ掛けられ様としている疑問の答えを美鈴が咲夜に伝えると、咲夜は顔を真っ赤に染めてしまった。
若しかしたら、自分の気持ちが紅魔館に住む者全員に知れ渡っているのかもと考えてしまったからだ。
思っていた以上に咲夜が狼狽えていたので、
「咲夜さんが取り乱す何て珍しいですね。中々新せ……いえ、何でも無いです。はい」
チャンスだと言わんばかり美鈴は咲夜をからかおうとしたが、咲夜が太腿に装備しているナイフに手を付けたのでからかうのを止める様に口を閉ざす。
美鈴の口が閉じた事で、咲夜をナイフから手を離し、
「全く……」
気を取り直すかの様に息を一つ吐く。
何とか咲夜の機嫌が直った事を感じ取った美鈴は表情を戻し、
「それで、咲夜さん。今日、龍也さんに告白するんですか?」
改めてと言った感じで今日、龍也に告白するのかと問う。
再び告白に関しての話題を出された為か、
「いや、告白って……その……」
咲夜の声量が段々と小さくなってしまった。
今日は本当に咲夜の珍しい姿が見れるなと言う事を美鈴は再び思いつつ、
「一応アドバイスですけど、かなり積極的な言葉や態度で龍也さんに告白しないと咲夜さんの想いに気付いて貰えないと思いますよ」
龍也に告白する際のアドバイスを行なう。
パチュリーと似た様なアドバイスを美鈴がして来た事で、
「……貴女もそんな事が分かるの?」
驚いた表情を咲夜は浮べてしまった。
知識人であり洞察力に長けている魔法使いであるパチュリーと同じ様なアドバイスを美鈴がしてくれるとは予想していなかったからだ。
それはそれとして、
「龍也さんとは何度も何度も拳を交えたりしてますからね。全部解るって言うのは言い過ぎで自惚れですけど、拳を交えればそれなりの事は解りますよ」
驚いている咲夜に美鈴はこう言ったアドバイスする事が出来た理由を説明する。
「……ああ、武道家は拳と拳で。剣士は刃と刃で語るって言うものね」
「龍也さんは炎の剣とかも使いますから、咲夜さんもナイフで語れると思いますが……」
説明された理由を聞き、何処か羨ましそうな表情を浮べた咲夜に美鈴がナイフを使って語り合えば良いだろうと言う様な提案をしたが、
「私も龍也と手合わせしたりする事はあるけど、回数はそんなに多くは無いのよね。職務中に昼寝が出来る程暇があったりはしないし……」
咲夜から職務中に昼寝が出来る様な暇は無いと返されてしまった。
だからか、
「あ、あはははは……」
美鈴は再び苦笑いを浮かべ、咲夜から顔を逸らす。
本来であれば美鈴の職務態度に付いて色々と問い詰めたいところではあるが、これからやらなければならない事が色々とあるので、
「話がそれだけなら私はもう行くわよ」
話を切り上げるかの様に美鈴に背を向け、紅魔館の方へと歩き出した。
紅魔館の方に歩き出した咲夜に、
「龍也さんが相手なら、きっと良い結果が出せますよ」
告白をしたら良い結果が出ると言う言葉を美鈴は掛ける。
安心させるかの様な言葉を掛けられた咲夜は、
「はいはい」
適当な返事をし、普段通りの佇まいで足を進めて行く。
但し、咲夜の頬は赤く染まっていたが。
深夜。
一通りの仕事を終えた咲夜は、龍也が使っている部屋の前に来ていた。
何故かと言うと、龍也に自身の想いを伝える為。
周囲の声に急かされた感はあるが、ある可能性が咲夜の頭に過ぎったので今日想いを告げる事を決意したのだ。
過ぎった可能性と言うのは、自分以外の誰かも龍也に惹かれているのではと言うもの。
龍也は幻想郷中を歩いて旅をしている事もあってか、様々な人妖などと交友関係を持っている。
となれば、その中の誰かが龍也に惹かれていると言う可能性は十分に存在しているだろう。
現に咲夜が龍也に惹かれているのだから。
それはそれとして、龍也に想いを告げる際に言葉が詰まってしまってはあれなので、
「すぅー……はぁー……」
軽い深呼吸をし、咲夜は気分を落ち着かせていく。
そして、気分がある程度落ち着いた辺りで咲夜はドアをノックする。
すると、
「誰だ?」
部屋の中から誰だと言う声が返って来た。
龍也が部屋の中に居る事が分かった咲夜は、
「私よ、咲夜」
取り敢えず、部屋の前に自分が居る事を伝える。
「咲夜か、どうした?」
「少し話が在るのだけど……中に入っても良いかしら?」
声を掛けて来たのが咲夜であると龍也が認識したのと同時に、咲夜は話しが在るから中に入っても良いかと問う。
「ああ、良いぞ」
問われた龍也が入室の許可を出すと、咲夜はドアを開いて部屋の中に入る。
同時に、ベッドの上に腰を落ち着かせている龍也の姿が咲夜の目に映った。
その事から、
「若しかして、もう寝るところだったのかしら?」
もう寝るところだったのかと考える。
が、
「いや、少し横になっていただけだ」
単に横になっていただけだと言う答えが龍也に口から発せられた為、
「そう」
何処か安心したかの様な表情を咲夜は浮かべ、龍也に近付いて行く。
龍也との距離が縮まれば縮まる程、自身の心臓の鼓動が強くなっていくのを咲夜は感じてた。
ここまで緊張するのは初めてかもしれないと言う様な事を思っている間に龍也の目の前にまで来ていたので、咲夜は足を止める。
足を止め、龍也と咲夜が見詰め合う様な状態になった時、
「それで、話ってのは?」
何の話かを話す様に龍也は咲夜に促す。
促された咲夜は言葉を紡ごうとしたが、
「え、ええと……」
上手く言葉が出て来なかった。
いざ、龍也に想いを告げ様としたら頭の中が混乱してしまった様だ。
だが、幾ら混乱していると言ってもここまで来た以上告白しないと言うのは有り得ない。
何とか言葉を発し様と必死に回転させている咲夜の頭に、パチュリーと美鈴のアドバイスが思い浮かんだ。
解り易く、ストレート、積極的と言うアドバイスを。
つまり、変に着飾った言葉では龍也に伝わらない可能性が多いに在ると言う事だ。
混乱した頭の中で何とか解り易い言葉を咲夜が並べている間に、
「どうした?」
急に黙ってしまった咲夜を不審に思ったからか、龍也が咲夜にどうかしたのかと声を掛ける。
声を掛けられた事で咲夜は意識を現実に戻し、覚悟を決めたかの様に深呼吸をし、
「龍也……」
改めてと言った感じで龍也に声を掛け、
「貴方が……好きなの。愛しているの。一人の女として貴方の事が」
自身の想いを告げた。
咲夜から発せられた言葉が余りにも予想外のものであったからか、
「……………………へ?」
間の抜けた声を龍也は出してしまう。
同時に何の冗談かと思ったが、咲夜の表情を見るに今の発言が嘘偽りものである事が分かった。
愛情などなど全く受けずに育って来た龍也に取って、愛情と言うものは良く解らない感情だ。
しかし、それを理由に咲夜の真剣な想いに何も返さないと言うのは失礼だろう。
そう考えた龍也が何か言葉を発し様とした瞬間、
「貴方が愛情とか恋愛感情と言うもを余り理解出来ていないのは知ってるわ」
咲夜から龍也が愛情や恋愛感情を余り理解出来ていないのは知っていると言われた為、龍也は驚いて発し様としていた言葉を詰まらせてしまう。
自分が愛情と言ったものを余り理解出来ていない事を言い当てられるとは思ってはいなかったからだ。
驚いた事で動きを止めてしまった龍也の隙を突くかの様に、咲夜は更に龍也へと近付き、
「ねぇ……」
膝をベット上に立たせ、龍也と視線を合わせた後、
「龍也」
自身の体重を龍也に預けるかの様にして、龍也の体を抱きしめた。
体重を掛けられた事で龍也は背中からベッドに倒れ込みそうに成ってしまったが、
「おっと」
上半身に力を籠める事で龍也は倒れ込みそうに成るの防ぎ、咲夜を抱きしめ返す。
暫しの間、龍也と咲夜が抱きしめ合っていると、
「ねぇ……私にこう言う事をされるのは嫌?」
こうやって自分に抱きしめられる嫌かと咲夜は龍也に問う。
問われた龍也は、
「……嫌だったら振り払ってるよ」
嫌だったら振り払っていると呟く。
龍也が呟いた事を耳に入れた咲夜は、
「そうよね、貴方はそう言うタイプよね」
何処か納得した様な表情を浮かべて体を引き、再び龍也と見詰め合う様な体勢を取り、
「ねぇ、目……瞑ってくれる?」
目を瞑る様に言う。
「ん、ああ」
言われた龍也は、特に疑問を抱かずに目を瞑った。
それから数瞬後、龍也は自身の唇に柔らかい何かが接触している事を感じ取る。
この事から、龍也は咲夜にキスをされたと言う事を理解した。
咲夜にキスをされてから少しすると、龍也は自分の唇から咲夜の唇から離れて行くのを感じ取ったので瞑っていた目を開く。
すると、頬を赤らめて上目遣いで自分を見ている咲夜の姿が龍也の目に映る。
そんな咲夜を見て、龍也が何か言葉を紡ごうとした刹那、
「今のは……嫌……だっ……た?」
不安さと気恥ずかしさが混ざった様な声色で咲夜が自分とキスしたのは嫌だったかと尋ねて来た。
尋ねられた事に、
「嫌だったら振り払ってるさ」
先程と同じ様な言葉を返すと、咲夜は再び龍也に抱き付いて来た。
が、抱き付いて来た咲夜の勢いが強かったせいか、
「お……っと」
龍也は背中からベッドに倒れ込んでしまう。
体勢としては龍也が下で咲夜が上だ。
咲夜に押し倒されている様な形に成ってはいるが、龍也はそれを気にせず咲夜を抱きしめて思う。
ここでキチンと答えを出さなければならないと。
そう思った龍也は咲夜の温もりを感じながら、改めてと言った感じで自分が咲夜に抱いている感情に付いて考えていく。
こうやって咲夜に抱きしめられたりキスされたりする事に、龍也は嫌悪感を抱いてはいない。
だが、自分は咲夜に恋愛感情を抱いていると言う確信までは得られなかった。
何故かと言うと、龍也は今まで恋愛と言うものをした事が無いからだ。
だからと言って、これ以上時間を掛けるのも咲夜に悪い。
なので、咲夜に伝えるべき言葉を出す為に龍也が頭を素早く回転させていると、
「ねぇ……」
咲夜が先に口を開き、
「急いで答えを出そうとしなくても良いわ」
急いで答えを出さなくても言う。
告白した当人から急いで答えを出す必要は無いと言われた事で、
「……良いのか?」
早く答えを出して欲しいと思っているだろうと考えていた龍也は驚いた表情を浮べてしまった。
驚いている龍也に、
「ええ。貴方が恋愛感情や愛情と言ったものがよく解らないと言うのを知っていて貴方に私の想いを告げたんだもの。早く答えを言ってくれと言うのは
私の我が儘。唯……」
龍也が愛情や恋愛感情と言ったものを余り理解出来ていない事を知った上で告白したのだから直ぐに返事を出さなくても良い漏らし、
「それでも出来るだけ早く答えが欲しい……ってこれも私の我が儘ね」
それでも出来るだけ早くに答えが欲しいと呟いたが、直ぐにこれも自分の我が儘だと口にして自省する様な表情を浮べる。
「…………………………………………………………………………」
ここまで咲夜に言わせて置いて、自分は何も言わないと言うのは男としてどうかと龍也は思った。
なので、
「咲夜……これが恋愛感情かは解らないが……俺はお前の事は好きだ」
ストレートに今の自身の想いを咲夜に伝える事にする。
その瞬間、咲夜は龍也をより強く抱きしめ、
「私も。貴方の事が好き。大好き。愛してる」
再び自分の想いを龍也に告げた。
純粋に好意を伝えられたからか、それとも咲夜から好意を伝えられたからか。
どちらかなのかは分からないが、龍也はとても嬉しく感じられたので、
「ありがとう、咲夜。俺、お前に好きだって言われて凄い嬉しい気持ちになった」
嬉しいと言う事をその儘咲夜に伝え、咲夜をより強く抱きしめ返した。
咲夜が龍也に自身の想いを告げてから幾らかの月日が流れると、龍也と咲夜が仲良く一緒に居る光景が良く見られる様になったらしい。
一緒に居る時の二人は、とても幸せそうなものであったと言う。
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