「んー……」
ある晴れた日の昼頃。
霊児は縁側にある柱に背を預けながら空を眺め、ボケーッとした表情を浮べていた。
特に何かをする事も無く、のんびりと過ごす。
何時も通り、平穏と言える様な一日なのだが、
「何であいつの事を考えてるんだ?」
今日に限ってはある人物の姿が霊児の頭の中の一部を支配していた。
霊児の頭の中の一部を支配している人物と言うのは、霧雨魔理沙と言う名の少女。
霊児とは幼馴染と言って良い様な間柄の少女だ。
兎も角、頭の中の一部が魔理沙で支配されている事に、
「別にここ最近会って居なかったって訳じゃないんだがな……」
一寸した疑問を霊児は覚えた。
霊児がポツリと漏らした通り、霊児は魔理沙と全然会って居ないと言う訳では無い。
魔理沙はご飯を作ると言った様な家事をしに来たり、只単に遊びに来たりと言った感じで割と頻繁に博麗神社に足を運んでいる。
魔理沙が魔法の研究に集中していたら来なくなる事があるが、それでも一週間に一度は顔を出す。
つまり、霊児は最低でも一週間に一度は魔理沙と顔を会わせている事になる。
となると、ここ最近会っては居ないと言う事にはならないであろう。
だと言うのに、現在進行形で霊児の頭の中の一部分を魔理沙が支配している。
その事に付いて少し考え様としたが、
「思えば、魔理沙との付き合いも長いんだよな」
考える前に、魔理沙との付き合いが長い事を霊児は思い出した。
霊児と魔理沙が初めて出会った日は、霊児が人里で商売をし始めた日。
あの日から、霊児と魔理沙の付き合いは始まった。
出会ってから暫らくは霊児が人里に行った時に魔理沙と会ったら話をする程度であったが、魔理沙が魔法を習得してからはそれが一変。
霊児と魔理沙の二人が会う頻度は大幅に増大する事となる。
何故ならば、魔法を習得して空を飛べる様になった魔理沙が暇さえあれば霊児に会いに直接博麗神社へと遊びに来る様になったからだ。
それからと言うもの、気付いた時には魔理沙が霊児の隣に居た。
何時の間にか、霊児にとって魔理沙は直ぐ傍に当たり前の存在になっていたのである。
一通り魔理沙と出会ってからの事を思い返した霊児は、
「だから、魔理沙が居ない事に俺は違和感を感じていたのか」
どうして違和感を覚えたのかを理解した。
理解したからか、霊児は納得したと言う様な表情を浮べて再び空を見る事に意識を向けていく。
但し、先程までと違って意識的に魔理沙の事を考えながら。
霊児がのんびり、まったりとした雰囲気の中で過ごし始めてから幾らかすると魅魔が博麗神社に遊びに来た。
なので、
「と、言う訳で魔理沙の事が頭から離れないんだがどう思う?」
霊児は魅魔に魔理沙の事が頭から離れない事に付いての相談をする。
相談された魅魔は、
「何がと言う訳でかは分からないが、行き成りだね……」
驚いたと言った表情を浮べてしまった。
何故かと言うと、霊児からこの様な相談事をされるとは全く想定していなかったからだ。
だが、
「それにしても成程ねぇ……」
直ぐに驚きよりも嬉しさが勝ったと言った感じで、魅魔は浮べていた表情を驚きから喜びのものに変える。
急に浮べていた表情を変えた魅魔を不審に思った霊児が、
「どうかしたのか?」
どうかしたのかと魅魔に尋ねると、
「いや、何でも無いよ」
何でも無いと魅魔は返し、
「さて、お前さんの疑問の答えだがね。お前さんは魔理沙の事を好いて愛している。だから、お前さんは魔理沙の事ばかり考えているのさ」
何故、霊児が魔理沙の事ばかり考えているのかと言う疑問に対しての答えを述べた。
行き成り突拍子も無い答えを述べられたからか、
「好いて愛している?」
疑問気な表情を霊児は浮かべ、首を傾げてしまう。
そんな霊児を見て、
「ああ、そうさ」
そうだと言う肯定の言葉を魅魔が霊児に掛けると、霊児は何かを考え込む様な体勢を取り、
「……愛ってどう言うもの何だ?」
ポツリと愛とはどう言ったものなのかと呟いた。
霊児の呟きを耳に入れた魅魔は目を点にしてしまったが、
「……ああ、そう言えば霊児は物心を付く前からここで一人で暮らしてたんだったね。なら、愛情を知らなくても仕方が無いか」
物心を付く前から霊児が博麗神社で暮らしていたのを思い出し、ならば愛情を知らなくても仕方が無いかと考え、
「そうだね……霊児、あんたは魔理沙の事が頭から離れないって言ってたね?」
確認を取るかの様に魔理沙の事が頭から離れないのだろうと聞く。
聞かれた事に、
「ああ」
肯定の意を示すかの様に霊児が頷いた時、
「どうだい? その事に嫌悪感を感じたりはしているかい?」
魔理沙の事が頭から離れない事に嫌悪感を感じてはいるかと魅魔は問う。
「いいや」
「嫌悪感を抱いていない相手が頭から離れてないって事はその相手……つまり、魔理沙の事をそれだけ意識しているって事さ。勿論、良い意味でね」
問うた事を霊児が首を振って否定すると、それだけ魔理沙の事を良い意味で意識しているのだと言う事を魅魔は霊児に教える。
「そうなのか?」
「ああ、そうさ」
教えられた事を頭に入れた霊児が疑問気な表情を浮べたのと同時に、魅魔が間髪入れずに肯定の返事をした為、
「ふーん……」
確かにその通りかもしれないと霊児は思い始めた。
まぁ、実際に魔理沙の事が頭から離れないのだ。
少なくとも意識していると言う部分に間違いは無いであろう。
「それとどうだい? 魔理沙はよくここにご飯を作りに来たり家事をしに来たりするけど、その事はどう思っているんだい?」
霊児が自分の発言を聞き入れたの察した魅魔は、話を変えるかの様に魔理沙が博麗神社にやって来てご飯を作ったりする事に付いてはどう思っているのかを尋ねる。
魅魔にそう尋ねられた霊児は、
「……………………………………」
暫しの間、頭を回転させていく。
その結果、
「助かってるし、ありがたいと思っている」
助かっているしありがたいと言う答えが出て来た。
尋ねられた事に対する答えを霊児が出した後、
「ふむ……じゃあ、魔理沙が危険な目に遭っていたらどうする?」
魔理沙が危険な目に遭っていたらどうするのかと言う疑問を投げ掛ける。
今回も先程までと同じで何か答えを返して来ると魅魔は思っていたが、
「魔理沙が危険な目に遭うって言うのも考え難いけどな」
霊児は答えを出す前に、魔理沙が危険な目に遭うとは思えないと漏らした。
幼少期の頃なら兎も角、今の魔理沙は相当な実力を有している。
そこんじょそこ等の妖怪の群れに囲まれたとしても、魔理沙なら余裕の表情で対処する事であろう。
霊児の漏らした発言は間違っていないからか、
「あくまでも仮定の話しだよ。仮定の」
あくまでも仮定の話しだと言う事を魅魔は口にした。
そして、
「まぁ、まだ私には及ばないものの魔理沙もかなり強くなったからね。多分、私を超える日もそう遠くはないだろうさ」
続ける様に魔理沙が自分を超える日もそう遠くないだろうと言って、嬉しそうな表情を浮べる。
師である自分を弟子である魔理沙が超えると言うのは、魅魔に取っては嬉しい事の様だ。
それはそれとして、話が脱線して来ている事に気付いた魅魔は、
「って、それはいいんだよ。で、さっきの質問の答えはどうなんだい?」
少々強引に話を戻し、先の疑問に答える様に言う。
すると、
「助けるだろうな」
間髪入れずに助けると言う言葉が霊児の口から紡がれた。
今回投げ掛けた疑問に霊児が間髪入れずに答えた事で、
「成程ねぇ……」
何処か嬉しそうな魅魔は浮かべ、
「つまり、霊児。お前さんは魔理沙の事をとても大切に想っているって事だね」
霊児が魔理沙の事をどう想っているかを断言する。
「そうなのか?」
そう断言されても今一つ良く分からないと言った表情を霊児が浮べてしまったので、
「そうだよ。お前さんの発言を纏めると魔理沙の事が頭から離れず、傍に居て欲しいと思い、魔理沙がご飯を作りに来たり家事をしに来たりする事を
ありがたく想っており魔理沙が危険な目に遭っていたら助けるんだろ? なら、お前さんは魔理沙の事を大切に想っているって事さ。もっと言うので
あれば、博麗霊児は霧雨魔理沙の好いて愛しているんだよ」
念を押すかの霊児は魔理沙の事を大切に想っており、好いて愛している事を伝えた。
改めてと言うより、念を押される形で自分の魔理沙に対する気持ちを魅魔に伝えられた事で、
「ふむ……」
もう一度、霊児は魔理沙に付いて考えていく。
すると、
「……………………………………………………」
魔理沙の事を好いて愛していると言う部分に何の違和感も抱いていない事が解った。
つまり、魅魔は霊児の心中を見事言い当てた言う事になる。
まぁ、魅魔はかなり長い年月を存在しているのだ。
心中の一つや二つ、言い当てる事位は訳無いであろう。
「……ふむ」
霊児から感じられる雰囲気から魅魔は今後の予定を立て、
「それはさて置き、その想いはちゃんと魔理沙に伝えた方が良いね」
魔理沙にその想いは伝えた方が良いと口にする。
「そうなのか?」
「ああ、そうさ」
口にされた事を聞いて疑問気な表情を浮べた霊児に魅魔は再び肯定の返事をし、
「善は急げだ。魔理沙を呼んで来て上げるよ」
善は急げだと言って立ち上がって体を宙に浮かび上がらせ、博麗神社を飛び出して行く。
その後、
「……呼んで来るにしても、もう少し大人しく行けっての」
魅魔が飛び出して行った事で舞い上がった塵や埃を見て、大人しく行けと言う愚痴を零した。
魅魔が博麗神社を後にして暫らく経った頃、
「霊児ー!!」
魔理沙がやって来た。
どうやら、魅魔はちゃんと魔理沙に博麗神社に向かう様に言ってくれたみたいだ。
兎も角、やって来た魔理沙は縁側を通って霊児が居る部屋と向かい、
「魅魔様から霊児が私に用があるって聞いたんだけど、一体何の用だ?」
霊児の居る部屋へと辿り着いたのと同時に、何の用かと尋ねる。
尋ねられた霊児は、
「ああ、実はな……」
そう言って魔理沙に近付き、魔理沙の顔を真正面から覗き込む。
顔を覗き込まれている魔理沙は、
「ど、どうしたんだよ?」
少し顔を赤らめてしまう。
そんな魔理沙に向け、
「魔理沙、好きだ。愛してる。ずっと俺の傍に居てくれ」
霊児は自分の素直な想いを告げた。
突然告白された魔理沙は目をパチクリさせ、
「……もう一回、言ってくれるか?」
霊児に今の言葉をもう一度言う様に頼んだ。
同じ言葉をもう一度言う様に頼まれた事で、
「魔理沙、好きだ。愛してる。ずっと俺の傍に居てくれ」
たった今発した発言と一字一句同じものを霊児は再度口にした。
「……………………………………」
再び同じ発言をされた事で、魔理沙は霊児の発言が聞き間違いで無い事を理解し、
「……今の言葉、嘘じゃないよな」
確認を取るかの様に今の発言に嘘じゃないよなと聞く。
「ああ」
聞かれた事を霊児が肯定すると、
「本当に本当なんだよな」
魔理沙はもう一度真偽の確認を取りに掛かる。
それに対し、
「ああ。本当に本当だ」
霊児がもう一度肯定の返事をした瞬間、魔理沙が霊児に勢い良く抱き付いて来た。
抱き付いて来た魔理沙の勢いが強過ぎた為か、
「……っと」
霊児は魔理沙を抱き止めた状態で尻餅を付いてしまう。
そんな状態になっていると言うのに、魔理沙は霊児に抱き付いた儘。
いや、寧ろ抱きしめる力が強くなっていっている。
別段振り解く理由は無いので、霊児は抱き付き抱き付かれと言う状態を維持する事にした。
霊児と魔理沙の二人が抱き合う様な形になってから幾らかすると、
「私さ、霊児に告白されて凄く嬉しいんだぜ」
ポツリと、霊児に告白されて凄く嬉しいと言う事を魔理沙は呟き、
「ずっと……ずっと霊児の事を想って来たからさ」
ずっと霊児の事を想って来たと言う事を漏らす。
「……ずっと?」
魔理沙が漏らしたずっとと言う部分。
そこに霊児が引っ掛かりを覚えた時、
「そうだよ、ずっとだよ。昔からずっと霊児の事を想い続けてたんだよ。最初の頃は只、ずっと霊児の味方でい様と思っていただけだった。けど、気付いた
時には、それだけじゃなくなってたんだ。気付いた時には、霊児の事が大好きで愛してた。気付いた時には、私の中は霊児で一杯だった。尤も、霊児は私の
気持ちに全然気付いてくれてなかったけどな」
自分の想いを伝えるのと同時に、一寸した愚痴を魔理沙は零した。
愚痴を零した時の魔理沙の声色が少し拗ねた感じがするものであった為、
「あー……謝っといた方が良いか?」
謝った方が良いかと霊児は問う。
そう問われた魔理沙は、
「良いよ、別に。元々は私が勝手に霊児の事を想ってただけだしさ。それに……」
謝る必要性は無いと言って顔を上げ、
「私と同じ様に霊児も私の事を想ってくれてるって言うのが分かったからさ。凄く嬉しくてその……何て言ったら言いんだろ? 胸が凄くドキドキしてて
その……兎に角!! 私は凄く嬉しくて幸せなんだから良いんだよ!!」
霊児も自分と同じ気持ちである事が分かって凄く嬉しいのだから気にするなと断言し、霊児の顔をジッと見詰める。
魔理沙に自分の顔をジッと見られた事で、霊児も魔理沙の顔をジッと見始めた。
霊児と魔理沙が見詰め合ってから少し時間が流れた頃、
「ん……」
唐突に魔理沙は目を閉じ、自分の唇を霊児の唇に押し付ける。
魔理沙から唇を押し付けられた事でキスをされたと言う事を認識した霊児は魔理沙に合わせるかの様に、
「ん……」
目を閉じた。
霊児と魔理沙の二人がキスを交わしてから幾らかすると、魔理沙は自分の唇を霊児の唇から離して目を開き、
「もう、離れないからな。ずっと……ずっと傍に居るからな、霊児」
自身の想いの口にし、霊児の胸に自分の顔を埋める。
すると、
「ああ。ずっと俺の傍に居てくれ、魔理沙」
霊児も目を開いて自身の想いを口にし、魔理沙をより強く抱きしめた。
こうして、この日から霊児と魔理沙の関係が恋人同士に変わる事となる。
恋人関係になったと言っても霊児と魔理沙の間で劇的に何がか変化したと言う事は無かったが。二人の様子はとても幸せそうであったと言う。
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