「ふあ……」

ふと、目を覚ました霊児は周囲を見渡す。
周囲の様子を見渡した霊児の目には、博麗神社の縁側と庭先の景色が映った。
何故、起きて早々にこんな景色が見えるのかと霊児は寝ぼけた頭で考えていると、

「……ああ、縁側で酒を飲みながら寝たっけか」

ここ、縁側で寝ていた訳を思い出す。
同時に首を回し、上半身を伸ばしながら頭を覚醒させていく。
そして、頭が完全に覚醒した辺りで、

「さて、飯でも食うか」

そう呟きながら霊児は立ち上がり、居間へと向う。
朝食は今日も何時も通り適当に野菜を切って鍋に入れる鍋料理で良いかと考えながら居間へと続く襖を開けた瞬間、

「……ん?」

見慣れない少女の姿が霊児の目に映った。
目に映った少女は黒く長い髪に大きな紅いリボンを着け、腋が露出した巫女服を着ている。
少なくとも、こんな格好をした少女は霊児の知り合いにはいない。
もっと言えば、博麗神社には自分以外の者は住んでいないのだ。
だからか、

「お前、誰だ?」
「あんた、誰?」

誰なのかと言う問いを霊児は少女に投げ掛けたが、同時に少女からも霊児は誰なのかと言う問いが投げ掛けられた為、

「「…………ん?」」

霊児と少女は疑問気な表情を浮かべてしまった。
ここ、博麗神社は霊児の神社。
故に、霊児が目の前の見知らぬ少女が誰なのかを問う事は普通である。
だが、目の前の少女が霊児の事を問うのは些か不可思議だ。
その事に付いて霊児が疑問を抱いていると、少女も同じ様な疑問を抱いたからか首を傾げてしまっていた。
お互いがお互い目の前の存在に疑問を抱いてるこの現状。
これでは埒が開かないと霊児は判断し、

「先ず、自己紹介でもしないか?」

自己紹介をしないかと言う提案を行なう。

「……そうね、そうしましょうか」

少女の方も埒が開かないと判断した様で、少女は霊児の提案に同意した。
これからする事も決まり、

「なら、言い出しっぺだし俺から名乗るな。俺は霊児。博麗霊児。今代の博麗、七十七代目博麗だ」

言い出しっぺと言う事は、先ずは霊児から簡単な自己紹介を行なう。
すると、

「……ッ」

少女は驚いた表情を浮かべながら霊児の事をジッと見詰め、

「嘘……じゃないみたいね」

自己紹介の内容に嘘が無い事を少女は感じ取り、

「なら、私も名乗るわね。私は霊夢。博麗霊夢。今代の博麗の巫女よ」

少女、博麗霊夢も霊児に倣う形で自己紹介を行なった。
霊夢からの自己紹介を受け、

「……ッ」

霊児もまた、驚いた表情を浮かべてしまう。
何せ、博麗の名を持つ者は今の時代に置いて霊児以外に存在している訳は無いのだから。
とは言っても霊夢が嘘を言っている様子は見られないし、霊児の勘も彼女が嘘を言っていると言う事を訴えてはいない。
ならば、これはどう言う事だと霊児が考え始めた時、

「ねぇ、お互いの事をもっと話してみない?」

もっとお互いの事を話してみないかと言う提案だ霊夢からされた。
確かに、この儘では何も分からない。
判断材料は多いに越した事は無いので、

「そうだな、そうするか」

霊夢の提案を霊児は受ける事にした。






















二人が自分の事や知っている事を色々と話し合ってから暫らく経った頃、

「つまり、あんた……霊児は平行世界の私で……」
「俺はその世界からお前……霊夢が博麗の巫女である世界にやって来たと言う事だな」

霊児と霊夢は平行世界の自分同士で、霊児は霊夢の世界にやって来たと言う結論に達した。
この様な結論に達した理由として前者は霊児と霊夢の二人が嘘を言っていないと言う事、後者の決め手となったのはこの博麗神社にあるとある部屋だ。
決め手となった部屋と言うのは、霊児と霊夢の部屋。
霊児と霊夢の部屋が在る位置は一緒であったが、部屋の内装が霊児のものではなく霊夢のものであったからだ。
以上の事から、二人は霊児が霊夢と言う存在が博麗の巫女として存在する世界にやって来たと言う結論を出したのである。
取り敢えず、お互いがどう言った存在であるかを理解した後、

「それにしても平行世界ねぇ……そっちじゃ私は男になっているのね」

平行世界の自分が男である事に少し意外と言った感想を抱き、霊夢がお茶を啜ると、

「探せばもっと細かい違いも出て来そうだが……一番の違いは俺が男か女かって事だろうな。序に言えば、俺が歴代初の男の博麗だぜ」

霊児がその様な事を返しながら煎餅を齧った。
お互いがどう言った存在であるかを理解したと言う事で、霊夢は憑き物が落ち着いた様な表情を浮かべ、

「で、何で霊児がこの世界に来たかって事なんだけど……」

本題に入るかの様に、霊児が自分の居る世界に来てしまった話題を霊夢は出す。

「可能性として一番高いのは……」
「紫……よねぇ」

出された話題に対する答えを霊児が出す前に、霊夢から犯人と思わしき者の名が発せられた。

「だな。と言うより、紫が犯人だろ」

発せられた名は霊児が答え様としていた名であった様で、霊児は驚く事無く同意し、

「ま、それ以外考えられないわね」

紫以外は考えられないと言う発言を霊夢は零す。
どうやら、最初っから二人は霊児が霊夢の居る世界に来る事になった原因は紫であると考えていた様だ。
一番胡散臭くて怪しいと言うのもあるが紫の能力、"境界を操る程度の能力"以外で世界移動を出来る能力などを持っている存在が思い付かなかったと言うのがある。
ともあれ、

「それにしても、紫は何の目的があって霊児をこの世界に送ったのかしら? いや、若しかしたら呼んだと言う可能性も在るけど」
「さぁ? 何も考えてないんじゃないか? 若しくは寝惚けて隙間を開いたらここだったとか」

霊児を霊夢が居る世界に来る事になった原因が紫であると判断した霊夢と霊児の二人は、どうしてこの世界に来させたのかと言う話を始めた。
と言っても、

「有り得そうね。冬の間はずっと寝ている様な奴だし」
「だよな」

霊夢と霊児はどうせ大した理由でも無いだろうと推察し、二人は溜息を吐く。
その後、霊夢は再び茶を啜り始めたが霊児は霊夢を顔を見ながら何かを考え始める。
何を考えているかと言うと、霊夢と言う名に付いて。
どうも、霊夢と言う名に霊児は引っ掛かりを覚えているのだ。
具体的に言えば埋没し、磨耗した記憶の何所かに。
暫しの間、引っ掛かっていた部分に付いて考えていたからか、

「……ん? どうかしたの?」

急に黙ってしまった霊児を不審に思った霊夢が、霊児に声を掛ける。
掛けられた声で意識を現実に戻した霊児は、

「いや、何でもない」

何でもないと返し、考えていた事を忘却の彼方へと飛ばす。
何故考えていた事を忘却の彼方に飛ばしたのかと言うと、思い出せないのなら無理に思い出す必要もないからだ。
もしそれが重要な事であれば、霊児の中の何かが思い出す様にもっと訴えてくる筈。
兎も角、話が一段落着いた事でこれからどうするかと言う話を二人が始め様としとタイミングで、

「「ん?」」

スパンと言う音と共に襖が開かれた。
襖が開かれた音に反応した霊児と霊夢がは誰が来たのかを確認する為に襖の方に顔を向ける。
すると、

「「魔理沙……?」」

魔理沙の姿が二人の目に映った。
但し、映った魔理沙は二人いるのだが。
どうして魔理沙が二人も居るのだと言う事に付いて二人が思案し始める前に、

「あ、霊児!!」

二人居る魔理沙の内の一人が霊児の方へと近付いて行く。
それを見て、

「あんた……若しかして霊児の居る世界の魔理沙?」

霊児の方に向かって行った魔理沙が、霊児の居る世界の魔理沙ではないかと霊夢は考えた。
霊夢が考えた事は正しかった様で、

「ああ、どうやらそうらしぜ。それにしても、霊児って見た目は霊夢を男にしたって感じだな」

もう一人の魔理沙が霊夢の考えは正しいと言いながら霊夢に近付き、霊児に付いての感想を漏らす。
今の霊夢とこの世界の魔理沙の会話から、

「つまり、魔理沙も俺と同じ様に朝起きたらこの世界に居たって事か?」

霊児は自分が居た世界の方から来た魔理沙に、この世界に来た来た時の状況は自分と同じかと尋ねる。

「ああ、それで合ってるぜ」

尋ねた事に、霊児の居た世界の魔理沙が合っていると言う言葉を霊児に返す。
分かっていた事であるが、魔理沙も霊児と同じ様な感じであった。

「そういや……私は自分の部屋の内装の違いでここが私の部屋じゃないって言うか私の部屋と良く似た部屋だって言う事が分かり、それから色々あって
ここが平行世界だって言うのに気付いたんだが霊児はどうやって気付いたんだ?」
「俺は霊夢と色々と話し合い、俺……って言うか霊夢の部屋を確認してここが平行世界だって確信を得たな」

霊児の居た世界の魔理沙と霊児がどうやってこの世界が自分達に取って平行世界であるか気付いたのかと言う会話を交わす。
そんな二人の会話を聞き、

「いやー、朝起きたら私のドッペルゲンガーが現れたのかと思って吃驚したぜ」

この世界の魔理沙が自分のドッペルゲンガーが現れたのかと思って吃驚したと言う発言をしたからか、

「それは私も同じだぜ」

自分も全く同じ事を思ったと霊児の居た世界の魔理沙が軽い突っ込みを入れた。

「私と霊児の場合は男と女だったからそうはならなかったけど、あんた達の場合はそうなるわね」

自分達と違って二人の魔理沙は同性同士なので、相手をドッペルゲンガーだと思うのは仕方が無いだろうと言う事を霊夢は口にする。
口にされた事を耳に入れた二人の魔理沙は、

「ま、お陰で自分との弾幕ごっこが出来て新鮮だったけどな」
「普通は出来ない事だからな。良い経験になったぜ」

自分との弾幕ごっこと言う普通は出来ない経験が出て来たと言い合い、煎餅を手に取って齧る。
煎餅を食べたり茶を飲んだりと言った感じまったりとした時間を過ごしている中で、

「そう言えば、あんた達はこれからどうするの?」

ふと、霊夢は気になった事を霊児と霊児の居た世界の魔理沙に尋ねた。
尋ねられた霊児と霊児の居た世界の魔理沙は顔を見合わせ、

「どうするって言っても……俺は世界間を移動する術は使えないぞ」
「私も世界間を移動する様な魔法は使えないぜ」

世界間を移動する術は使えないと言う事を述べ、二人は霊夢とこの世界の魔理沙に視線を向ける。
向けられた視線の意味に気付いた霊夢とこの世界の魔理沙は、

「私もそんな術は使えないわよ」
「右に同じだぜ」

自分達も世界間を移動する様な術は使えないと断言した。
結局、ここに居る全員が世界間を移動する術が使えないと言う結論に達した為、

「となると、やっぱり紫頼みになるわね」
「まぁ、十中八九あいつが原因何だろうから無理にでも力は貸して貰うさ」

霊夢と霊児が紫の力を借りる必要が有ると言っていると、

「あ、やっぱりそっちでも紫が原因と言う結論に至ったか」
「まぁ、あいつが一番怪しいしな」

二人の魔理沙も霊児と霊夢の二人と同じ様に、霊児と霊児の居た世界の魔理沙の二人がこの世界に来た原因には紫を上げていた様だ。
となると、二人が元の世界に帰る為にはどうにかして紫を呼び寄せる必要が在る。
では、どうやって紫を呼び出そうとかと言う事を一同が考え様とした瞬間、

「よし、宴会を開こうぜ。宴会を」

突如として、この世界の魔理沙が宴会を開こうと言い出した。

「宴会を?」
「ああ。ほら、紫って宴会開いていると呼んでもいないのに来ている事が良くあるだろ。そっちは違うのか?」

宴会を開くと言う部分に霊児が疑問を覚えると、この世界の魔理沙は宴会を開こうとした理由を霊児に伝える。

「ああ……成程」

伝えられた内容を理解して霊児は、納得した表情を浮かべた。
紫だけに限らず、宴会を開いていると呼んでいない者が何時の間にかやって来ては宴会に参加するのは良くある事。
だからか、紫を誘き寄せるのに宴会を開こうと言う空気が流れ始めた。
その流れた空気を感じ取った霊夢は、

「また、ここで宴会?」

呆れた声色でまた自分の神社で宴会をするのかと呟く。

「気にするな。何時もの事だろ」
「確かにねぇ……」

また自分の神社で宴会する事に幾らかの不満を持っている霊夢にこの世界の魔理沙が何時もの事だと言う突っ込みを入れると、霊夢は諦めたかの様に溜息を一つ吐いた。
二人のやり取りを見て、霊児はこの世界でも宴会会場は主に博麗神社である事を理解した。
そして、改めて自分が居た世界とこの世界の大きな違いは自分の性別なのだろうと言う事を思っていると、

「んじゃ、早速宴会を開くって事を知らせに回るか」

宴会を開く事を皆に知らせる為にこの世界の魔理沙が立ち上がる。
後はこの世界の魔理沙に任せれば勝手にメンバーが集まる筈なので、この世界の魔理沙以外がまったりとした時間を過ごそうとした瞬間、

「どうもー、清く正しい射命丸文でーす!!」

スパーンと言う音と共に襖が開かれ、文が入って来た。
入って来た文に何の用だと言った感じで一同が視線を向けると、文は霊夢と霊児と二人の魔理沙を見て、

「……成程、実は霊夢さんにはお兄さんが居て魔理沙さんは双子だったと。これは大スクープですよー!!」

文は一人で盛り上がり、大スクープを得たと言いながら大はしゃぎし始める。
文の性格上、今得た情報を様々な独自解釈を行なって幻想郷中に広めるのは確実。
ここで文に変な情報を撒き散らせれたら面倒な事になるのは確実なので、変な情報を広ませない為に霊児達は文に事情を話す事にした。






















文に事情を話してから幾らかすると、一同は外に出る事になった。
そして、

「どうしてこうなった……」

霊児はどうしてこうなったと呟く。
どうしてその様な事を呟いたのかと言うと、霊児と霊夢が戦う事になったからだ。
何故二人が戦う事になったのかと言うと、文の一言が原因となっている。
その一言と言うのは、『どっちの博麗が強いのか』と言うもの。
霊児も霊夢も自分達のどちらが強いのかと言うものに大した興味を示さなかったのだが、文が戦ってくれたら金一封を授けると言ったが為に状況が一変。
突如として、霊夢のやる気が激増したのだ。
どうやら、この世界の博麗神社の賽銭箱も閑古鳥が鳴いている様である。
兎も角、そんな事情が在って霊児と霊夢の二人は戦う事になったのだ。
これから戦おうと言った感じで向かい合っている霊児と霊夢を見て、

「霊夢の方はやる気満々の様だが、霊児の方は余りやる気は無いみたいだな」

賽銭箱を背凭れにする様にしているギャラリーの一人、この世界の魔理沙がそう漏らす。

「うーん……霊夢さんと同じく、博麗である霊児さんならお金で釣れると思ったんですけどね……」

この世界の魔理沙が漏らした言葉に反応した文が顎に指を当てて霊児も金で釣れなかったのは予想外と言った事を零すと、

「霊児はお金に困っている事は無いからな」

霊児が金に困っている訳では無いと言う情報を霊児の居た世界の魔理沙が語った。
余談ではあるが、霊児の居た世界の魔理沙はこの世界の魔理沙と見分けが付き難いと言う事で自分の傍らに二つの陰陽玉を佇ませている。

「あや、そうなのですか? そちらの博麗神社にも参拝客などはまるで来ないと聞きましたが?」
「参拝客が来ている所は私も見た事はないが、霊児は人里に行ってお守りやお札を売って稼いでいるからな。だから、霊児はそこまでお金に執着している
訳じゃないんだぜ。まぁ、霊児は食べ物や酒には釣られ易いがな」

金に困っていない言う部分に疑問を抱いた文に、霊児が金に困っていない理由を霊児の居た世界の魔理沙が教えた。
それを聞き、

「霊夢も人里でお守りやお札を売って稼いでみたらどうだ?」

この世界の魔理沙が霊夢にそう提案する。
確かに、その方法なら安定した金稼ぎは出来るだろう。
が、

「嫌よ、面倒臭い」

面倒臭いから嫌と言う理由で、霊夢はお札やお守りを売って稼ぐと言う案は却下した。
有無を言わせぬ感じで物の売買による金稼ぎを却下した霊夢を見て、

「霊児も結構面倒臭がり屋だけど、霊夢も大概だな」

少し呆れた声色で霊児と霊夢は同じレベルの面倒臭がり屋であると言う感想を霊児の居た世界の魔理沙は抱く。

「まぁ、あれでも異変はキチンと解決してるんですけどね」

抱かれた感想があれであったからか、文は霊夢をフォローする様な発言をし、

「確かにな。でも、普段はグータラ巫女だがな」

この世界の魔理沙からは、フォローしているんだかしていないんだか分からない様な発言が発せられた。
何やらギャラリーの間で霊児と霊夢のグータラ度に付いての話題が出されている中で、

「ともあれ、楽して大金を得るチャンス!! このチャンスを逃す手はないわ!!」

宣戦布告をするかの様に霊夢はお払い棒を霊児に突き付ける。
どう足掻いても一戦交える事になると言うのを感じ取ったからか、

「はぁ……」

霊児は溜息を一つ吐き、左手で左腰に装備している短剣を抜き放つ。

「あら、霊児はそれを使うの?」

抜き放たれた短剣を見て、霊夢は少し驚いた表情を浮かべた。
平行世界の自分であるならば、得物は自分と同じでお払い棒だと考えていたからだ。
霊夢の驚いている理由を何となくではあるが感じ取った霊児は、

「俺の戦闘方法は歴代の博麗の巫女達とはまるで違うらしいからな。それに、俺はお払い棒よりも短剣の方が使い易いんだよ」

自分と歴代の博麗の巫女達とでは戦闘方法が全く違うと言う事を霊夢に教える。

「ふーん……ま、あんたはあんたの世界の魔理沙に陰陽玉を上げてるんだから戦闘方法が私と違うって言うのは予想出来てはいたんだけどね」

教えられた内容を受けた霊夢は納得した表情を浮かべ、

「いくわよ」

一気に霊児へと肉迫し、お払い棒を振るう。

「……っと」

振るわれたお払い棒を霊児は短剣で受け止め、

「ほいさ」

受け止めたお払い棒を払う様にして短剣を振るい、霊夢を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた霊夢は空中で体を回転させながら懐に手を入れ、懐から取り出したお札を霊児に向けて何枚か投げ付ける。
投げ付けられたお札は、霊児にある程度近付いた辺りで何倍もの大きさになった。
急に大きくなってしまったお札を見た霊児は慌てた様子を見せず、自分の間合いに入って来たお札を順々に短剣で斬り捨てていく。
そして、

「こいつでラスト!!」

巨大化したお札の最後の一枚を斬り捨てると、何本もの針が迫って来ているのが目に映った為、

「危ね!!」

霊児は短剣を盾の様にして針を防ぎ、跳躍を行なう。
すると、

「やっぱり、勘は良いみたいね」

霊児の真下から勘が良いと言う霊夢の声が聞こえて来た。
声が発せられた位置から考えるに、霊夢は投擲した針を隠れ蓑にして霊児にスライディングを仕掛けて来た様だ。
取り敢えず、霊夢の攻撃を避け切った霊児が地に足を着け、

「封魔針を投擲して来るとか……危ない事するなよ」

封魔針を投擲して来た霊夢に突っ込みを入れる。
封魔針は通常の針と比べてかなり強力な代物。
更に言えば、投擲された封魔針は刺さらない様にと言った感じで霊力によるコーティングもされていなかった。
そんな強力な代物を、軽い手合わせ様なもので躊躇も無く投擲されたら突っ込みたくもなるだろう。
ともあれ、突っ込みを入れられた霊夢は、

「失礼ね、ちゃんと急所は外したわよ」

霊夢は立ち上がりながら何処吹く風と言った感じで急所は外したから問題無いと返す。
返された内容を聞き、自分の事を棚に上げるかの様に霊児が物騒だなと思った時、

「…………あ」

グーッと言う音が霊児の腹から鳴った。
明らかに空腹を訴える音である事を理解した霊児は自身の腹部に手を当て、

「そう言えば……朝からって言うか、今日は殆ど何も食ってなかったな。まぁ、朝から色々あったからだけど」

思い出したかの様に今日は殆ど何も食べていないと呟く。
この儘空腹で居る気は無いからか、霊児は腹部から手を離し、

「腹も減って来たから、そろそろ終わらせるぜ」

勝負を決めにいくと言う事を口にし、一瞬よりも短い一瞬で霊夢との距離を詰め、

「しっ!!」

短剣を振るう。
寸前で気付けたのか運が良かったからなのかは分からないが、

「ッ!?」

霊児が振るった短剣は霊夢のお払い棒に当たった。
しかし、

「くう!!」

振るわれた短剣をお払い棒で受け止めた衝撃で、直撃を避けれた代わりと言わんばかりに霊夢は弾き飛ばされてしまう。
弾き飛ばされた霊夢を追う様にして、霊児は地を駆けて行く。
霊児の接近に気付いた霊夢は袖の中に隠していたお札を何枚か取り出し、取り出したお札を霊児に向けて投げ付ける。
その瞬間、霊児は一気に加速して霊夢が投げたお札を全て掴み、

「そら!!」

掴んだお札を纏めて霊夢へと投げ返す。
投げ返されたお札は途中で何倍もの大きさになった。

「ッ!?」

大きくなったお札を見て霊夢は驚きの表情を浮かべるも、直ぐにお払い棒を使って迫り来るお札を打ち払い、

「まさか、私の技をそっくりその儘返す何て……」

つい先程自分が使った技をそっくりその儘返された事に驚いたと言う台詞を零す。
零された台詞を聞いた霊児は一瞬で霊夢の背後に回り込み、

「忘れたのか? 俺も博麗だぜ。少なくとも、博麗の術や技は俺も使えるんだよ」

自分も博麗なのだから博麗の術や技は使えると言う事を述べた。
述べられた内容に反応した霊夢が振り返ると、霊児が蹴りを放とうとしているのが分かったので、

「ッ!!」

霊夢は咄嗟に両腕を交差させる。
咄嗟に防御の体勢を取ったお陰で霊児の蹴りの直撃は避けられたが、交差した両腕には霊児の蹴りが当たってしまい、

「くう!!」

蹴り飛ばされる形で霊夢は霊児との距離を離して行ってしまう。
霊児との距離がある程度開いた所で、霊夢は体を回転させて体勢を立て直し、

「くっ!!」

両足を地に着けて減速し、完全に止まったタイミングで顔を上げる。
顔を上げた霊夢の目には、両手を広げている霊児の姿が映った。
目に映った霊児の体勢から霊児が何をし様としているのかを理解した霊夢は、霊児と同じ様に両手を広げ、

「「夢想封印!!!!」」

霊児と霊夢はお互い同じ技を同時に発動させる。
技が発動すると、霊児と霊夢の体中から七色に光る弾が次々と射出された。
射出された七色の弾は二人の中間地点で激突して爆発と爆煙を引き起こす。
激突し合った事で二人の七色に光る弾は全て相殺されたものだと思われたが、

「なっ!?」

爆発で生まれた爆風や衝撃などは全て霊夢の方へ流れていった。
それ即ち、霊夢の夢想封印よりも霊児の夢想封印の方が上であると言う証拠。

「………………………………………………………………………………」

今までの攻防、そして夢想封印のぶつけ合いを照らし合わせた霊夢は理解した。
攻撃力、防御力、スピード、反応速度、技の威力、その他諸々戦いに必要な能力の全てが霊児は自分を大きく上回っている事を。
相手が霊児、つまり平行世界の自分とも言える存在と言う事もあって霊夢はつい悔しそうな表情を浮かべしまう。
が、直ぐに表情を戻して次の一手に移ろうとする。
しかし、

「ッ!!」

行動に移る前に、霊夢の直ぐ近くに霊児の短剣が迫って来ていた。
手に持っていた短剣を投擲したのだろうと推察しながら霊夢は回避行動を取ろうとしたが、直ぐに回避行動を取るのを止める。
何故ならば、迫って来ている短剣が霊夢に当たるコースではなかったからだ。
牽制かミスかまでは分からないが、この隙に反撃に移ろうと霊夢がした時、

「俺の勝ちだな」

何時の間にか霊夢の背後に回っていた霊児が、霊夢の首元に短剣を突き付けて自身の勝利を宣言した。

「……え? 一体何時……」

一体何時背後に回り込んだ分からないと言った表情を霊夢は浮かべ、恐る恐ると言った感じで顔を後ろに向け様とすると、

「たった今だ。解り易く言えば、これは二重結界の応用だな」

二重結界を応用した術で後ろを取ったと言う情報を霊児は語る。

「二重結界の……」

防御、若しくは防御と攻撃を兼ね合わせた術を移動術にすると言う霊児の発想に霊夢が驚いている間に、霊児は霊夢から短剣を外す。
そして、短剣を仕舞おうとした時、

「も、もう一回よ!! もう一回よ!!」

再戦要求が霊夢からされた。
どうやら、平行世界の自分に負けたのが相当悔しかった様だ。
ここまで霊夢が悔しがっているのを見るのは初めてであるからか、この世界の魔理沙と文が驚いた表情を浮かべているのを余所に、

「えー……」

霊児は思いっ切り面倒臭そうな表情を浮かべていた。
霊児としては腹が減っているのでもうこれで終わりしたかったのだが、そんな霊児の想いは関係ないと言わんばかりの勢いで、

「いくわよ!!」

霊児目掛けて霊夢はお払い棒を振るう。

「……っと」

振るわれたお払い棒を霊児が短剣で受け止めたのを合図にしたかの様に、霊児と霊夢の戦いは再び始まった。






















「いやー、霊夢がここまで手も足も出ないって言うのを見るのは初めてだぜ」
「そうですね、私も驚きましたよ」

この世界の魔理沙と文が大の字になって倒れ、息を切らしている霊夢を見ながら驚いた表情でそう呟き、

「流石、霊児だぜ」

霊児の居た世界の魔理沙は嬉しそうな表情で霊児にそう声を掛ける。
結局、あれから霊児と霊夢は十回程戦ったのだが全て霊児の勝利で終わった。
で、その戦いで力の全てを使い果たした事で霊夢はこうして息絶え絶えで大の字になって倒れているのである。
ともあれ、倒れている霊夢が、

「はぁ……はぁ……ここまで手も足も出ない何て……」

息を整えながら上半身を起こすと、

「お前……修行とか全然してないだろ」

霊児は修行等を全然していないだろと言う指摘を行なう。

「うぐ……」

行なわれた指摘を受け、霊夢は押し黙ってしまった。

「図星か」

押し黙ってしまった霊夢を見て、霊児は自分の指摘が的中した事を理解しつつ、

「俺とお前の差はそれだな。俺は幼少期の頃からずっと修行を続けて来た。お前だってちゃんと修行していれば、ここまで一方的な戦いには
ならなかったと思うぜ。と言うか、お前が真面目に修行していれば俺との間に差は生まれなかった筈だ」

自分と霊夢の差は修行をしているかどうかだと言う言葉を霊夢に掛ける。
掛けられた言葉は他の面々にも聞こえていた様で、

「そうなのか?」

この世界の魔理沙が霊児の居た世界の魔理沙にそう尋ねる。

「ああ、そうだぜ。程度の差はあれど、霊児は毎日修行は続けているぜ。少なくとも、私が博麗神社に行く様になってからはずっとな」
「はぁー……霊夢と霊児ってこう言う所も違うんだな」

尋ねた事に肯定の返事が返って来た為か、この世界の魔理沙は何処か感心した表情を浮かべた。
二人がそんな会話を交わしている間に、霊児が霊夢に伝えるべき言葉は伝え終えたからか、

「一応、男と女の違いはあれど俺はお前でお前は俺であるんだ。俺に出来てお前に出来ないって事はないだろ」

自分達は同一の存在と言っても良いので、自分に出来て霊夢には出来ない事はないだろう言う言葉で締め括る。
一通り二人の会話を聞いていた文は、

「言い換えれば、修行をすれば霊夢さんも霊児さんの様になれると言う訳ですね。霊児さんの動き、私でも見えない部分が多々在りましたし。更に言えば、
霊夢さんはかなり本気になって戦っていたと言うのに霊児さんはあれでかなり加減しながら戦っていたとの事。末恐ろしいですね……」

今でさえかなりの実力を有していると言うのに、まだ相当な伸びしろを残している霊夢を文が末恐ろしいと称した時、

「はぁ……少しは真面目に修行をした方が良いのかしら」

真面目に修行をし様と言う事を考えながら霊夢は立ち上がった。
修行など全くと言って良い程にしない霊夢ではあるが、平行世界の自分である霊児に手も足も出なかったと言う事実に流石の霊夢も思う所があった様だ。
色々あったがこれで一件落着だと霊児が思ったの同時に、霊児の腹が再び空腹を訴えて来たので、

「あー……本格的に腹が減って来たな。魔理沙、何か作ってくれ」

霊児は自分の居た世界の魔理沙に何か作ってくれと頼む。

「了解したぜ」

頼まれた霊児の居た世界の魔理沙は二つ返事で頼まれ事を了承し、立ち上がって神社の中に入って行った。
神社の中へと入って行った霊児の居た世界の魔理沙を見送ったこの世界の魔理沙は、

「そう言えばさ、そっちの世界の私も私達みたいに弾幕ごっこの勝敗でどっちが料理を作るのか……って言うのを決めてるのか?」

自分達と同じ様に弾幕ごっこの勝敗でどっちが料理を作るのかを決めているのかと尋ねる。

「いいや。魔理沙は来てくれれば普通に作ってるぞ」
「へぇー……」

尋ねた事に対して返って来た答えは弾幕ごっこなどしなくても魔理沙は料理を作ってくれると言うものであったからか、霊夢は何かを思い付いた表情を浮かべ、

「ねぇ、魔理沙……」

この世界の魔理沙の方に顔を向け、何かを言おうとしたが、

「だが断るぜ」

何かを言おうとする前に魔理沙から断ると言う発言がされた。

「ちぇ、ケチ」

言い切る前に断られてしまった事で霊夢が少々不機嫌になってしまったが、それを無視するかの様に、

「あ、そうだ。今日、ここで宴会を開くからその事を皆に伝えくれないか?」

文に向けてこの世界の魔理沙は宴会を開くと言う旨を皆に伝えてくれと頼んだ。

「別に構いませんが、珍しいですね。何時もなら貴女がそれをやるでしょうに」
「私もその積りだったんだが……」

頼まれた内容を聞き、少し驚いた表情を浮かべた文を見てこの世界の魔理沙は博麗神社の方に顔を向け、

「別の世界……平行世界の私が作る料理に興味が在ってな」

平行世界の自分が作る料理に興味が在ると言う事を口にする。

「成程」

口にされた内容を頭に入れた文は納得した表情になり、

「それでは、宴会開催のお知らせを伝えに行きますね」

黒い翼を羽ばたかせて空中に躍り出て、何所かへと飛んで行く。
飛んで行った文を見届けた後、霊児達三人は神社の中へと入って宴会の準備をする事にした。























時が少し流れて夜にもなると博麗神社には様々な存在が集まり、宴会が始まった。
最初の内は霊児や霊児の居た世界の魔理沙に興味があった様で色々な者が良く話し掛けて来たが、暫らくするとそれも止んで皆が好き放題に盛り上がり始める。
好き放題騒いでいる面々を見ながらこの辺りは自分の所と同じだなと言う事を霊児が思っていると、

「飲んでる?」

そう声を掛けながら霊夢が霊児の隣に座って来た。

「ああ」

掛けられた声に反応した霊児はああと返し、杯に入っている酒を少し飲む。
そんな霊児の隣で、

「それにしても、紫の奴は来ないわね」

紫がまだ来ていない事を呟く。

「ま、その内来るだろ」

呟かれた内容が耳に入ったからか、霊児はその内来るだろうと零す。
確かに、紫ならその内来そうであるからか、

「それもそうね」

霊夢は納得した表情になり、杯に入っている酒を少し飲む。
その後、

「それにしても、こっちでも宴会を開けばこうも簡単に集まるんだな」
「と言う事は、そっちでもこっちと同じ感じなのね」
「ああ。気付いたらドンチャン騒ぎだ」
「で、何時も片付けは私達に回って来ると」
「そうそう。でもま、良く魔理沙が片付けを手伝ってくれるけどな」
「あら、羨ましい。こっちの魔理沙は偶にしか手伝ってくれないのに」
「けどま、宴会会場が俺の神社ばかりってのはなぁ。まぁ、移動する手間が省けるのは良いんだけどな」
「ああ、それは分かるわ。ここで宴会する分は移動がなくて楽が出来て良いのよね」
「ま、その代わり酔っ払った連中が神社を壊さない様に目を幾らか光らせて置く必要は在るんだよなぁ」
「あ、それは分かるわ。私もここで宴会する時は目を少し光らせてるのよねぇ。ま、お互い苦労してるみたいね」
「だな」

霊児と霊夢は自分達の相違点などを話し合い、

「「はぁ……」」

話に一段落着いた辺りで二人は溜息を同時に吐いた。
そして、二人揃って杯に入っている少し飲んだ後、

「けど……」
「退屈はしない……だろ?」

何かを言おうとしていた霊夢の言葉を遮り、霊夢の言わんとしている事を霊児は口にする。
霊児が口にした事は霊夢が口にし様としていた事だったからか、

「……流石、平行世界の私と言うべきかしらね。私が言おうとしていた事を、見事に言い当てる何て」

感心したと言った表情を霊夢は浮かべた。
それを見た霊児は軽い笑みを浮かべ、

「結局、俺達はこう言った状況を楽しんでいるんだよ」

どうこう言っても自分達はこう言った状況を楽しんでいるんだと零した時、

「そうね……」

何かを認めるかの様な表情を霊夢は浮かべ、

「あんたの言う通りね」

たった今零された発言を認める。
結局の所、霊児と霊夢はこの騒がしく退屈しない日々を楽しんでいるのだ。
改めて自分の心境と言う様なものを理解したからか、

「ま、そう言った意味じゃ紫には感謝かもね」
「だな」

霊夢と霊児はこんな出会いを寄越してくれた紫に若干の感謝の念を抱きつつ、

「ま、取り敢えずは」
「ああ」

二人は酒が入っている杯を手に持ち、

「「乾杯」」

杯を合わせた。























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