「あー……こっちは涼しいな……」
そんな事を呟いている龍也は現在、冥界の地で足を進めて行た。
何故、龍也は冥界に来ているのか。
答えは簡単。
避暑の為だ。
日に日に暑くなって来ているこの夏の日々。
好い加減暑さでダレ始めた龍也は、暑さから逃れる為に冥界にやって来たのである。
尤も、避暑以外にも冥界の探索をし様と言う狙いもあるが。
兎も角、冥界の涼しさを堪能しながら足を動かしていると、
「おっと」
目の前を人魂が横切った為に龍也は一旦足を止めた。
因みに、冥界が涼しいのはこの人魂が大量に居るお陰である。
人魂の体温と言って良かは分からないが、人魂は非常に冷たい。
その冷たい人魂が多いが故に冥界は涼しいのだ。
と言った様に横切った人魂から、冥界が涼しい理由を思い返している龍也の耳に、
「龍也さん?」
背後から自身の名を呼ぶ声が入って来た。
入って来た声に反応し、背後へと振り返った龍也の目には、
「妖夢」
声を掛けて来た者、魂魄妖夢の姿が映る。
但し、何時もと違って大量の荷物を持っている様ではあるが。
ともあれ、龍也が自分の存在を認識した事で、
「やっぱり龍也さんでしたか」
妖夢は柔らかい笑みを浮かべた。
笑みを浮かべた妖夢を見ながら、
「どうしたんだ、その大量の荷物?」
取り敢えずと言った感じで龍也は妖夢が持っている荷物に付いて問う。
「これですか? 食材ですよ」
問われた妖夢は荷物の中身を教えながら溜息を一つ吐き、
「幽々子様、かなり食べられますから」
幽々子がかなり食べると言う事を口にする。
「ああ、食事とかはお前が作ってるんだっけか」
口にされた事を受けた龍也が、白玉楼で料理を作っているのが妖夢であるのを思い出した時、
「基本はそうですね。白玉楼に住んでいる人魂も手伝ってはくれますが……如何せん人魂には手が在りませんから分担して料理を作ってるって訳じゃ
無いですから。まぁ、それでも助かってると言えば助かってますが」
一寸した補足を妖夢は行ない、
「そう言えば、龍也さんは冥界に何かご用ですか?」
話を変えるかの様に冥界にやって来た理由を龍也に聞く。
「避暑に」
「避暑って……」
聞かれた事に龍也が正直に答えると妖夢は若干呆れた表情になり、
「そんな理由で冥界に来る人間何て普通は居ませんよ」
そんな事を言い出す。
「そうかね?」
言われた龍也が疑問気な表情を浮かべて後頭部を掻いたタイミングで、
「そうですよ。まぁ、霊夢と魔理沙辺りは普通に来そうですけど。と言うか来ましたし」
少し遠い所を見る様な表情を浮かべた妖夢は冥界に来る様な輩は一部だけと言った感じの事を呟いた。
「何だ、あいつ等も来てたのか?」
「あの二人は避暑目的と言うよりは人魂が目的でしたけど」
呟かれた中に知ってる名前が在ったので龍也がその事に付いて尋ねると、妖夢は霊夢と魔理沙が冥界にやって来た理由を話す。
「人魂?」
人魂目的で冥界にやって来たと言う部分に龍也が疑問を抱いたからか、
「はい。人魂は冷たいですからね。人魂を瓶詰めにして涼むのが目的の様です」
霊夢と魔理沙の二人が人魂目的で冥界にやって来た訳を妖夢は説明した。
「へぇ……」
説明された内容を頭に入れたが龍也が自分も二人に倣って人魂を瓶詰めにし様と言う計画を立てた刹那、
「……ん? どうした?」
ジト目で自分を見詰めている妖夢の視線に気付いた龍也はそう尋ねた。
すると、
「龍也さん、まさか龍也さんも人魂を瓶詰めにし様だ何て事を考えてたりは……」
「か、考えてねぇよ」
まるで龍也の心中を見抜いたかの様な台詞を妖夢が発して来た為、慌てた感じで龍也は妖夢が発した台詞を否定した。
「本当ですか?」
「ほ、本当だって!!」
否定した際の龍也の態度から怪しんでいると言う感じの表情に妖夢がなったのと同時に、龍也は大きな声で本当だと言う主張を行なう。
行なわれた主張に一寸した焦りを妖夢は感じるも、
「…………なら良いですが」
取り敢えず龍也の主張を信じると言う様な事を零し、
「それはそうと、龍也さんも白玉楼に来ますか? お昼をご馳走しますよ」
話を変えるかの様に白玉楼でお昼ご飯を食べないかと言う提案をする。
「それはありがたいけど……良いのか?」
「はい。多少作る量が増えても大して変わりはしませんし。はは……」
された提案は龍也に取ってありがたいものであったが妖夢の負担が増えるのではと言う心配すると、何処か渇いた笑みを浮かべた妖夢がその様に断言した。
断言した際の妖夢の渇いた笑みを見て、龍也は妖夢に同情しつつ、
「なら、ご馳走させて貰おうかな」
白玉楼でお昼を食べる事を決める。
「分かりました。それでは一緒に行きましょう」
「ああ。それと荷物は俺が持つよ」
その後、白玉楼に一緒に行こうと言って来た妖夢に龍也は荷物は自分が持つと返す。
「良いんですか?」
「ああ。俺はご馳走になる立場だからな。これ位はさせてくれ」
返された事を受けて反射的に良いのかと聞き返してしまった妖夢に対し、お昼を御馳走になるのだからこれ位はさせてくれと龍也は言う。
だからか、
「そう言う事でしたら、お願いしますね」
お願いしますと言う言葉と共に妖夢は龍也に荷物を手渡す。
手渡された荷物を龍也が受け取った後、龍也と妖夢の二人は白玉楼へと向かって行った。
龍也と妖夢の二人が白玉楼に着くと、妖夢は大量の荷物である食材を持って台所へと向かって行った。
龍也にのんびり寛いで待っていてと言う様な言葉を残して。
台所へと向かって行った妖夢を見届けた龍也は、適当に白玉楼の敷地内を散策し始めた。
それから少しすると、
「……っと」
何時の間にか西行妖の前にまで来ていた為、
「別段意識してここに来た訳じゃないんだが……」
龍也はそう呟きながら足を止め、西行妖を見上げる。
この西行妖の力が龍也の中に有るせいか、西行妖からは力と言うものが感じられ無かった。
それ故に只の巨大な枯れ木にしか見えないと言う感想を龍也は抱きつつ、思う。
自分がここまで来たのは西行妖を求めての無意識によるものなのか、それとも自分の中にある西行妖の力が西行妖に引っ張られたからかと言う事を。
と言った感じで少々思考の海に沈みながら西行妖を見始めてから幾らか経った頃、
「だーれだ?」
そんな台詞と共に何者かが龍也の視界を塞いで来た。
ここ、白玉楼でこんな事をする様な者は限られているからか、
「……幽々子だろ」
誰だと言う部分に対する答えを龍也は迷う事無く発する。
発せられた答えに間違いは無かった様で、
「もー、ちゃんと悩んでくれないと面白くないでしょ」
直ぐに自分の正体を言い当てた龍也に文句の言葉をぶつけながら幽々子は視界を塞ぐと言う行為を止め、
「だから……えい!!」
代わりと言わんばかりに幽々子は抱き付く様な形で龍也の背中に自身の体を押し付けた。
「ちょ!! おま!! 当たってる当たってる!!」
背中から感じられる感触の正体を察した龍也は慌てながらそう言い放つが、
「あら、当たってるって何が? ちゃんと言ってくれないと分からないわ」
からかう様な声色で何が当たっているのかと尋ねながら幽々子は更に強く自身の体を龍也の背中に押し付ける。
「ちょ、おま!! だから……」
より強く体を押し付けられた龍也が更に慌てて何かを言おうとしたが、
「ふふ、怒られる前に止めるとしましょうかね」
言い切る前に幽々子は龍也の背中に自身の体を押し付けるのを止める。
そして、幽々子は龍也の隣に並び、
「龍也もこの西行妖が気に入ったのかしら?」
西行妖が気に入ったのかと言う問いを投げ掛けた。
「まぁ……そうだな」
「それなら今度は龍也にも春度を集めるのを手伝って貰って、また異変でも起こそうかしら」
投げ掛けられた問いに落ち着きを取り戻した龍也が肯定する様な返事をすると幽々子は物騒な提案を出す。
「いや、流石にそれは……って、こんな会話前にもしなかったか?」
出された提案に龍也は何かを言おうとしたが、言う前にされた提案は以前にもされた覚えがあったのでそんな突っ込みを入れる。
「あら、そうだったかしら?」
入れられた突っ込みに幽々子は惚ける様な返答をしながら扇子で口元を隠した。
された返答を耳に入れた龍也は相変わらず読めないなと言う感想を抱く。
ともあれ、折角西行妖の前まで来た言う事もあってか、
「「……………………………………」」
龍也と幽々子の二人は黙って西行妖の鑑賞に入った。
二人だけの鑑賞会から暫らく経った頃、
「……さ、そろそろご飯が出来る頃だろうから戻りましょ」
そろそろご飯が出来るから戻ろうと言って幽々子は白玉楼へと足を動かし始める。
足を動かし始めた幽々子を見て龍也も足を動かそうとした刹那、
「あ、そうそう」
何か思い出したと言う表情になりながら幽々子は一旦足を止めて振り返り、
「貴方の力が西行妖に反応する事は無いと思うわ。貴方の力は貴方だけの力になっているのだから。西行妖に再び力が宿れば何かしらの反応を見せるとは
思うけど……その兆候は全く見られないのよねぇ」
龍也の持つ力と西行妖に付いて少し語った。
語られた内容を頭に入れた龍也が動かそうとした足を戻し、
「成程……」
西行妖に触れたりしても何の反応も無かった事に納得した感想を抱いた時、
「さ、早く行きましょう」
改めてと言った感じで幽々子は早く行こうと言いながら龍也に笑みを向け、再び白玉楼へと向けて足を動かし始める。
再度白玉楼へと向かって行った幽々子を追う形で龍也も足を動かし始めた。
白玉楼の中に入り、居間に入ると妖夢の手によって昼食の準備が整っていたのが龍也と幽々子の目に映った。
だからか、二人が居間に入ったのと同時に昼食を食べ始める。
勿論、妖夢も一緒に。
そして、昼食を食べ終えてから幾らか経った頃、
「龍也さん、食後の運動がてらに私と手合わせしませんか?」
妖夢から自分と手合わせをしないかと言う提案がされる。
空腹が満たされ、少し体を動かしたいと思っていた龍也は、
「そうだな、手合わせをするか」
された提案を龍也は直ぐに受け入れた。
すると、妖夢は嬉しそうな表情を浮かべ、
「では、早速庭先に行きましょう!!」
今直ぐ手合わせをし様と言う様な事を口にしつつ、龍也の手を引いて庭先へと飛び出した。
庭先に飛び出した二人が間合いを取った瞬間、
「あ、そうだ」
何かを思い出したと言う表情を龍也は浮かべ、
「妖夢、一寸頼みが在るんだが良いか?」
妖夢に頼みが在る事を伝える。
「頼みですか?」
伝えられた事を受けた妖夢が首を傾げたので、
「ああ、少し前に近接用のスペルカードを四枚新しく作ったんだ。で、それのテストに付き合って欲しいんだけど……良いか?」
頼みの中身を龍也は妖夢に教えた。
教えられた内容を頭に入れた妖夢は興味が有ると言った表情になり、
「良いですよ。龍也さんがどんなスペルカードを作ったのか興味が在りますし」
龍也からの頼みを快く引き受けると言った様な返事をする。
「ありがとう」
快く自分の頼みを引き受けてくれた妖夢に龍也は礼をしつつ、自身の力を変えた。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅に変わると、龍也は二本の炎の剣を両手から生み出して構える。
龍也が構えを取ったのを見た妖夢は楼観剣を鞘から引き抜き、引き抜いた楼観剣の刀身を妖力でコーティングして構えを取った。
構えを取った二人はジリジリと間合いを詰めて行き、
「「ッ!!」」
ある程度間合いが詰まった辺りで龍也と妖夢は同時に駆けて一気に間合いを詰め、自身の得物を振るう。
振るわれた二人の得物は当然の様に激突し、鍔迫り合いの様な状態へと移行する。
それから少しの間二人はその状態を維持した後、弾かれる様にして間合いを取った。
間合いを取った二人が地に足を着けた刹那、龍也に肉迫する様に妖夢は地を蹴り、
「はあ!!」
自身の間合いに龍也を入れたのと同時に楼観剣を横一文字に振るう。
振るわれた楼観剣による一撃を龍也は跳躍する事で避け、
「らあ!!」
降下と共に二本の炎の剣を振り下ろす。
振り下ろされている二本の炎の剣を見ながら、楼観剣での防御は間に合わないと判断した妖夢は左手で白楼剣を抜き放って龍也の斬撃を受け止める。
が、
「ぐっ!!」
受け止めた斬撃が予想以上に重かった事で妖夢は顔を歪めてしまう。
とは言え、受け止めた斬撃を妖夢が重く感じてしまうのも仕方が無いと言える。
何故ならば、両手で斬撃を繰り出した龍也に対して妖夢は片手で受け止めたのだから。
おまけに、龍也の斬撃には降下速度がプラスされている。
斬撃の重さが妖夢の予想以上なのは当然だろう。
ともあれ、この儘では押し切れるのは時間の問題。
そう判断した妖夢は白楼剣を傾け、龍也を自分の真横に滑り落とさせる。
「なっ!?」
滑り落とされると言うのは予想外の事態であったからか、驚いた表情を龍也は浮かべてしまった。
驚いた事で生じた隙を突くかの様に、
「たあ!!」
妖夢は龍也の脇腹に蹴りを叩き込む。
蹴りを叩き込まれた龍也は、
「がっ!!」
蹴り飛ばされ、強制的に妖夢との距離を離して行ってしまう。
蹴り飛ばされた龍也を目に入れながら妖夢は白楼剣を鞘に収め、楼観剣を両手で掴みながら地を蹴って駆ける。
自分に向けて近付いて来ている妖夢に気付いた龍也は体を回転させながら体勢を立て直し、勢い良くと言った感じで両足を地に着けた。
そして、その両足で地を蹴って妖夢との距離を自分からも詰めに掛かりながら二本の炎の剣を合わせて一本の炎の大剣に変え、
「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」
龍也と妖夢は同じタイミングで炎の大剣と楼観剣を振るう。
振るわれた炎の大剣と楼観剣は当たり前の様に激突し、大きな激突音と衝撃波が発生する。
互いの得物を激突させた事で再び鍔迫り合いの形になったが、今度は直ぐに鍔迫り合いを止めるかの様に二人は互いの得物を離した。
その後、鍔迫り合いの代わりだと言わんばかりに龍也と妖夢は自身の得物を連続で振るう。
当然、連続で振るわれている二人の得物は何度も激突し合った。
何度も。
何度も、何度も。
何度激突し合ったか分からない程に激突し合った辺りで、龍也と妖夢は自身の得物を大きく振り被り、
「「はあ!!!!」」
振り被った得物を力強く振るう。
力強く振るわれた得物は今までと同じ様に激突し、今までよりも一際大きい激突音と衝撃波を発生させた。
発生した激突音と衝撃波を無視しながら二人は三度鍔迫り合いの形に入り、
「随分と腕を上げましたね、龍也さん」
龍也を称賛する様な発言を妖夢は零しながら力を籠め、龍也を押し切ろうとする。
「そう言うお前もな、妖夢」
された称賛に龍也はそう返しながら力を籠め、妖夢に対抗し始めた。
お互い、力で相手を押し切ろうとしている中、
「そりゃそうですよ。私だって負けたくはありませんから」
「それは俺も同じだ」
負けたくないと言う事を妖夢と龍也は言い合いながら軽い笑みを浮かべ、
「そういや……こう言った手合わせ等を除くと、俺とお前って何回戦ってるんだっけか?」
ふと気になった事を龍也は口にする。
「そうですね……確か三回だったと思いますよ」
口にされた事を受けて少し昔を思い出す様な表情になった妖夢がそう零し、
「最初は私が春度を集めてた時でしたね」
「あの時は俺がボロ負けしたんだったよな」
「確かにあの時は私が勝ちましたが……ボロ負けと言う訳では……」
「気を使うなよ。で、次に戦ったのが……お前達が起こした異変の解決の時だったな」
「ええ、そうですね。あの戦いは私の完敗でした」
「完敗って訳でも無かっただろ」
「いえ、完敗でしたよ」
「お前……まぁいいや。で、その次が……」
「萃香さんが起こした異変の時でしたっけ」
妖夢と龍也は一寸した思い出話に華を咲かせ始めた。
そして、
「近接戦込みの弾幕ごっこだったけど、俺の勝ちだったな」
「そうですね、それで私の一勝二敗。負け越しですね」
萃香が起こした異変の時の勝敗に付いての話しを龍也がすると、その時点での自分の戦歴が一勝二敗である事を語りながら妖夢は溜息を一つ吐き、
「他には永夜異変と妹紅さんとの弾幕ごっこで戦いましたが……」
永夜異変と妹紅との弾幕ごっこでも戦ったと言う事を述べる。
が、
「あの時は俺がお前等に不意打ち気味にスペルカードを使ったし、妹紅の時は二対九の変則的な弾幕ごっこだったからなぁ。あれはノーカンだろ」
その二つはノーカンだろうと龍也は言う。
言われた事に妖夢は納得しつつ、
「後は……あ、花の異変の時にも戦いましたよね」
異変かと思える自然現象の際に戦った事も言及したが、
「戦ったけど、あれは手合わせだったろ」
あの時の戦いは手合わせだっただろうと言う指摘を龍也はする。
「あ、そうでしたね」
された指摘で妖夢は異変と思える自然現象の際に龍也と会った時に発した自分の言葉を思い出しつつ、
「またその内、龍也さんとは本気で戦いたいですね」
自身の願望と言えるものを零した。
「そうだな……また何時か本気で戦おう」
零された願望が耳に入った龍也がまた何時か本気で戦おうと言う約束の言葉を発すると、
「約束ですよ。今度は私が勝ちます」
嬉しそうな表情になった妖夢は約束だと言う念を押し、次は自分が勝つと言う宣言をする。
「いや、次も俺が勝たせて貰うぜ」
された宣言に龍也がそう返すと二人は笑みを浮かべ、弾かれる様にして間合いを取った。
間合いを取った後、妖夢は先程と同じ様に地を蹴って駆ける。
地を駆けて自分に向けて迫って来ている妖夢を見た龍也は炎の大剣から右手を離し、離した右手を懐に入れてスペルカードを取り出す。
取り出したスペルカードを持ちながら龍也は妖夢が自分の間合いに入るのを待ち、妖夢が自分の間合いに入った瞬間、
「炎柱『駆け上がる炎』」
スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、龍也から炎柱が発生した。
丁度発生した炎柱の範囲内に居た妖夢は、
「くっ!!」
炎柱に呑み込まれてしまう。
しかし、直ぐに妖夢は斜め後方に跳躍する形で炎柱の中から脱出して、
「火柱を上げるスペルカードですか……」
降下しながら発生している炎柱を視界に入れながらある事を思った。
龍也がスペルカードを取り出した時点で突っ込む速度を落として良かったと。
もしスピードを落としていなかったら妖夢は直ぐに炎柱から抜け出す事は出来なかったであろう。
少しゾッとした想いを抱いてる間に炎柱が消えて龍也の姿が露になり、露になった龍也の姿を目に入れながら妖夢が地に足を着けた瞬間、
「ッ!!」
目に入れていた龍也の姿が消えてしまった。
その事実に妖夢は驚くも、反射的に振り返りながら楼観剣を振るう。
すると、振るわれた楼観剣は龍也が振るった炎の大剣と激突した。
楼観剣を振るった先に龍也が居た事から超速歩法で自身の背後に回った事を妖夢は察し、
「ッ……それにしても便利な移動術すね。私もそんな感じの移動術、覚えたいな……」
自分も超速歩法の様な移動術を覚えたいと言う事を零した。
零された発言が耳に入った龍也は便利な移動術と言う部分を受け、
「超速歩法の事か? 間合いを詰めたり離したり、不意を付いたりと色々使えるからな、この技」
超速歩法に付いての使用用途の簡単な説明を行なう。
「やっぱり便利ですね、それ。空中に足場を作る方法と一緒に練習しよっと」
行なわれた説明を受け、妖夢は空中に足場を作る方法と共に超速歩法の様な移動術の練習もする事を決めながら押し切る為に力を籠める。
それに対抗する為に龍也も力を籠め始めた。
お互い力を籠めた事で拮抗状態に入ると思われた矢先、
「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
突如、龍也が霊力を解放した事で妖夢は一気に押されてしまう。
理由は勿論、解放された霊力の影響で龍也の力が大きく増大したからだ。
ともあれ、この儘では押し切られてしまう事を理解した妖夢は妖力を解放して龍也が解放した霊力に対抗し様とした。
だが、丁度そのタイミングで、
「しまっ!!」
妖夢の両腕がカチ上げられてしまう。
両腕がカチ上げられた事で大きな隙を見せて妖夢は、慌てて間合いを取って体勢を立て直そうとしたが、
「……ん?」
その前にある物が妖夢の目に映る。
目に映った物と言うのは霊力の解放を止めた龍也の右手に在るスペルカードだ。
この事から、新たなスペルカードを今使うのかと言う事を妖夢が思った刹那、
「超速『閃風連牙』」
新たなスペルカードを龍也が発動する。
新たなスペルカードが発動された事で炎の大剣が消え、龍也の瞳の色が紅から翠に変わって両腕両脚に風が纏わさられた。
同時に、
「かっ!?」
妖夢は腹部に衝撃を感じ、上空へと投げ出されてしまう。
感じた衝撃の正体を確かめる前に妖夢は斜め下から閃光の様な突撃を何度も受け、どんどんと高度を上げて行ってしまった。
そして、妖夢が一定以上の高さにまで来ると、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
何時の間にか妖夢の上方に来ていた龍也が妖夢に踵落としを叩き込んだ。
踵落しを叩き込まれた妖夢は地面に向けて一直線に落下して行ってしまう。
落下した妖夢を追う様にして龍也が降下して行く。
さて、落下してしまった妖夢はこの儘地面に激突すると思われた。
が、地面に激突する直前に妖夢は体勢を立て直して地に足を着けて後ろに跳んだのだ。
激突前に体勢を立て直した妖夢を見た龍也は流石だと言う感想を抱きつつ、勢い良く地に足を着け、
「らあ!!」
地を蹴って妖夢に肉迫して拳を放つ。
「ッ!! 速い!!」
肉迫して来た龍也の速度に妖夢は驚くも、咄嗟に楼観剣の腹で龍也の拳を防ぎ、
「たあ!!」
楼観剣を振るって龍也を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた龍也は妖夢から少し離れた場所に着地し、構えを取る。
自分から距離を取った位置に居る龍也を視界に入れながら妖夢は楼観剣を両手で構え直し、
「これまで使った二枚のスペルカード、龍也さんの戦闘スタイルに合っていて良いですね」
龍也が使った二枚のスペルカードを称賛する様な事を口にした。
「そうか? ありがとな」
された称賛に龍也がそう返すと、
「残りのスペルカードも楽しみにさせて貰いますね」
そう言いながら妖夢は地を蹴って龍也との距離を一気に詰め、楼観剣を振るう。
振るわれた楼観剣を龍也は紙一重で避け、
「りゃあ!!」
反撃だと言わんばかりに蹴りを放つ。
放たれた蹴りを見た妖夢は楼観剣から片手を離し、
「くっ!!」
離した方の手の甲で龍也の蹴りを防ぐ。
龍也の蹴りを防ぎながら蹴り飛ばされない様に妖夢が踏ん張っていると、
「なっ!?」
蹴りを放っている龍也の脚に纏わさっている風が炸裂した。
炸裂した風に驚いたのと同時に妖夢は吹き飛ばされ、地面を転がって行ってしまう。
転がり始めてから少しすると妖夢は地面を掌で弾きながら体勢を立て直し、龍也が居た場所に目を向ける。
しかし、
「……居ない?」
目を向けた先に龍也の姿は無かった。
姿が見えない龍也を妖夢が捜そうとした瞬間、
「……ん?」
妖夢の顔に影が掛かる。
掛かった影の正体を瞬時に理解した妖夢は、
「上か!!」
上空へと顔を向けた。
すると、それなりのスピードで降下して来ている龍也が妖夢の目に映る。
やはりと言うべきか、妖夢が顔が向けた先には龍也の姿が在った。
ともあれ、龍也の姿を認識した妖夢は迎撃する為に楼観剣を構える。
構えている妖夢を見て降下に合わせられると判断した龍也はこの儘では不利だと言う判断を下しながら懐に手を入れ、
「粉塵『炸裂する土の拳』」
懐からスペルカードを取り出し、取り出したスペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が翠から茶に変わり、両腕両脚に纏っていた風が消える。
消えた風の代わりと言わんばかりに龍也の右手から土が生み出され、生み出された土は形を成して巨大な土で出来た拳になった。
そして、降下方法を巨大な拳を振り被りながらと言うもののに切り替える。
振り被られている土で出来た巨大な拳を見た妖夢は正面から迎撃するのは分が悪いと感じ、今居る場所から離れる事にした。
そのタイミング土で出来た巨大な拳が地面に激突する。
攻撃を外した隙を突く為に妖夢が動こうとした刹那、
「なっ!!」
地面に激突していた土の拳が破裂して、無数の土の塊が辺り一面に飛び散り始めたのだ。
妖夢としては拳が叩き込まれて終わりだと想定していたので、つい驚いた表情を浮かべてしまう。
だが、妖夢は直ぐに表情を戻して白楼剣を鞘から抜き、
「はあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
楼観剣と白楼剣の二本の刀を使って飛び散って来ている土の塊を斬り払い始めるも、
「く……」
飛び散って来ている土の塊の数が余りにも多かった事もあり、斬り払っている妖夢の表情は段々と歪んでいってしまう。
それでも、一発も被弾していないのは流石と言えるが。
兎も角、少々危うい感じは在ったものの飛来する土の塊を全て斬り払えた妖夢が白楼剣を鞘に収めた時、
「ッ!!」
龍也が妖夢の眼前にまで迫って来ていた。
眼前にまで迫られてた事に妖夢は驚くも、直ぐに土の塊を目晦ましにして近付いたのだと言う事を悟る。
悟ったのと同時に龍也から拳が放たれたので、放たれた拳を避ける為に妖夢は後ろに跳ぶ。
そして、龍也が拳を振り切ったのを見た妖夢は突撃と共に刺突を繰り出す。
繰り出された刺突は龍也の腹部に見事命中したのだが、
「ッ!!」
当の龍也に大したダメージは見られなかった。
この事実に妖夢は驚きの表情を浮かべてしまう。
龍也と妖夢の今回の戦いは手合わせだ。
殆ど切れ味の無い白楼剣は別として、楼観剣は普通に斬れる。
何せ一振りで幽霊十体は斬れる程の切れ味を誇るのだから。
故に手合わせや弾幕ごっこの時は楼観剣の刀身を妖夢は妖力でコーティングして斬れない様にしているのだ。
とは言え、偶にコーティングする事を妖夢は忘れたりもするが。
しかし、今回はちゃんと楼観剣に妖夢は妖力でコーティングしている。
なので刃が刺さっていないと言うのは妖夢にも解るのだが、ダメージが見られないのは別。
斬れたり刺さったりと言う事が無くても衝撃自体は伝わるからだ。
と言う様な事を思っている間に、楼観剣から伝わって来た感触を感じ取った妖夢は、
「……硬い」
反射的に硬いと言う言葉を口にし、理解した。
今の龍也の体が何時もよりも硬くなっているが故に刺突のダメージが全然無かったと言う事を。
であるならば、より力を籠めて攻撃しなければと言う決意を妖夢がした瞬間、
「ッ!!」
龍也が妖夢の懐に入り込んで来た。
どうやら、妖夢が思考に耽っていた数瞬の間に入り込んで来た様だ。
懐にまで入り込まれた理由を妖夢が知った時点ではもう既に遅く、懐にまで入り込んだ龍也は妖夢に掴み掛かり、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃ!!!!」
妖夢の腹部に蹴りを叩き込みながら巴投げの要領で投げ飛ばし、起き上がって投げ飛ばされた妖夢の落下予測地点へと向う。
その間に妖夢は投げ飛ばされた際に蹴りを叩き込まれた腹部を片手で押さえながら体を回転させて着地し、
「防御力が上がっているのなら!!」
気合と共に妖力を解放しながら楼観剣を両手で掴んで龍也へと突っ込み、
「攻撃力を上げるのみ!!」
先程した決意を口にしながら龍也の鳩尾に楼観剣の柄頭を叩き込む。
刺突による攻撃が来ると想定してからか、
「ぐ……」
避ける事も刺突による衝撃に備える事も出来なかった龍也は直撃を受け、踏鞴を踏むかの様に数歩後ろに下がってしまう。
後ろに下がってしまった龍也の隙を付く様に、
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
渾身の力で妖夢は楼観剣を降り抜く。
振り抜かれた楼観剣は見事龍也の体に命中して、
「がっ!!」
龍也は殴り飛ばされる様な形で吹き飛んでしまう。
吹き飛んだ龍也に追撃を掛ける為、妖夢は龍也を追って行く。
追って来た妖夢に気付いた龍也は咄嗟に地に足を着けて強引に減速しながら体勢を立て直し、懐に手を入れ、
「噴出『地より出ずる水流』」
懐からスペルカードを取り出して、取り出したスペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が茶から蒼に変わり、龍也の目の前の地面から水が噴出した。
追い討ちを掛ける為に龍也に近付いていた妖夢は噴出した水の直撃を受け、その衝撃で妖力の解放が止まってしまった。
それと同時に水流に押し上げられる形で妖夢は上空へと打ち上げられてしまう。
打ち上げられた妖夢は水流から弾かれ、転げ落ちる様な形で地面へと墜落してしまった。
墜落してしまった妖夢は直ぐに立ち上がろうとするも、
「みょん!?」
噴出した水が落下する様な感じで妖夢に直撃してしまい、水に押し潰される様な形で妖夢は地面に激突してしまった。
そんな妖夢を見て、
「大丈夫か」
そう声を掛けながら龍也は力を消しながら妖夢に手を差し出す。
「ええ、何とか」
丁度龍也の瞳の色が元の黒色に戻ったのと同時に、妖夢は龍也の手を取って立ち上がる。
すると、
「ありがとな。俺のスペルカードのテストに付き合って貰って」
立ち上がった妖夢から手を離して龍也はスペルカードのテストに付き合ってくれた事に対する礼を言う。
「いえ、私の方も手合わせに付き合って貰いましたしお相子ですよ」
言われた礼に妖夢がお相子だと返しながら楼観剣を鞘に収めた瞬間、
「随分と楽しそうに戦ってたわね」
縁側から何処か楽しさが感じられる声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した龍也と妖夢の二人は声が発せられたであろう方に体を向け、
「幽々子」
「幽々子様」
声を発した者の名を零す。
その後、
「見てたのか?」
「ええ。お茶を飲みお茶菓子を食べながらね。それにしても随分と腕を上げたわね、妖夢」
自分と妖夢の戦いを見ていたのかと言う疑問を述べた龍也に幽々子は肯定の返事をして、妖夢の成長を褒める台詞を述べる。
「あ、ありがとうございます!!」
褒められた妖夢は嬉しそうな表情を浮かべながら礼の言葉と共に頭を下げた。
幽々子に褒められた事で表情だけではなく内心も嬉しくなっている妖夢に、
「でも……」
幽々子は何か言葉を言い掛ける。
「でも?」
言い掛けた言葉に気付いた妖夢が表情を戻しながら顔を上げた刹那、
「この庭の惨状はどうするのかしら?」
ニッコリとした表情を浮かべた幽々子が庭の惨状に付いて二人に問う。
「「庭の惨状?」」
問われた二人が軽く周囲を見渡した矢先、
「「あ…………」」
二人の目が点になってしまった。
何故かと言うと、白玉楼の庭が悲惨な状態になっていたからだ。
まぁ、あれだけ派手に戦ったり霊力やら妖力やら解放すれば白玉楼の庭が悲惨な状態になるのは当然で言える。
ともあれ、幽々子から問われた事の意味を知って何とも言えない表情を浮かべた龍也と妖夢に、
「二人とも、お夕飯までにはこの庭を直して置いてね」
幽々子は夕飯までに庭を直す様にと言う指示を出す。
「「………………はい」」
出された指示を了承する返事をしながら二人は項垂れる。
これは大変だぞと言う思いを抱きながら。
そして、龍也と妖夢の二人は大急ぎで庭の修復に取り掛かった。
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