「あ……」

一人の少年……いや、少年と言うには若すぎる年の頃の男の子が目を覚ます。
目を幾ら閉じたり開いたりをした後、上半身を起こして周囲を見渡していく。
見える光景は、男の子にとって見覚えのない光景だ。
そして思う。
少なくとも自分はこんな所で寝てはいなかったと。
こんな古風の場所ではなく、もっと近代的な場所で寝ていたはずだと。
寝ていた場所も布団ではなくベットだった筈であると。

そう思いながら男の子は立ち上がる。
すると、ある事に気付く。
それは、

「何でこんなに視線が低いんだ……」

視線が低いと言う事にだ。
どう言う事だと思い、男の子は自分の手を見詰め、

「な……!?」

驚く。
何に驚いたかと言うと、自分の手の小ささに。
動揺が隠せない儘、

「なんで……こんな……大体、俺は……」

そこまで呟いたが、

「あ……あれ?」

その先の言葉が出て来なかった。
何故ならば、

「俺……何歳だっけ……」

自分の年齢が思い出せなかったからだ。

「な……なんで……」

そんな馬鹿な思った。
自分の年齢を忘れる訳なんて無いと。
だが、幾ら思い出そうとしても何一つ思い出せなかった。

生まれた年も。
誕生日も。
住んでいた場所も。
親の名前も。
友達の名前も。
そして、

「俺は……誰だ……」

自分の名前さえも。

「俺は……」

その事を認識した瞬間、

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

物凄い頭痛が男の子に襲い掛かる。
あまりの痛さに男の子は膝を崩し、頭を押さえながら布団に倒れ込む。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

叫び声を上げても痛みが収まる気配は一向に来ない。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
叫ぶと言う事が、自分がここに居る唯一の証に思えたから。





















「あ……」

ふと、目が覚めた男の子は起き上がりながら周囲を見渡していく。
そしてフラフラと歩きながら目の前にある襖を開け、真っ直ぐ歩き出す。
少し歩くと、庭の景色が見えた。
そして顔を上げると、満天の星空が見える。
その星空を見ながらボーッとしていると、段々と男の子の頭が覚醒していき、思い出す。
想像を絶する程の頭痛に襲われた事を。
その頭痛のせいで気絶した事を。

そして、

「俺の名前は……博麗霊児」

自分の名前を。
いや、自分の名前と言うよりはこの体の名前であろう。
そう、これは

「俗に言う憑依ってやつか……」

そう呟き、霊児は疑問を覚える。
何で憑依したのかと。
立って考えても仕方が無いと考え、霊児は縁側に座りながら考える。
前の自分と言っていいのかは分からないが、それが死んで憑依したのか。
まぁ、死んだというのも正しいのかはわからないが。
それは置いておくとして、霊児にはもう一つの可能性が思い浮かぶ。
思い浮かんだ事と言うのは、


「生まれ変わりか」

そう、生まれ変わりと言う可能性を。

「いや、寧ろ両方か……」

そう呟きながら霊児は考えを纏めていく。
何かしらの事態で前世の自分は死に、この体に生まれ変わるか憑依してしまう。
そして今日の朝、前世の自分と言う意識が表面に出た。

「その後、今まで博麗霊児として生きてきた全てが流れ込んできた来たか……いや、逆か。寝ている最中に前世の俺の記憶が流れ込んで来たのか……?」

考えてみるが、答えは出て来そうにない。
どちらにせよ、分かっている事は自分が自分を思い出した。
これに尽きる。
霊児はこれで合っていると思った。
何故なら、自分の勘がそう言っているからだ。
自分の勘は、信ずるに足るものがある。
理由はないが、霊児にはそんな確信があった。
そして、もう一つ気付いたことがある。

「博麗神社に幻想郷……」

この二つの単語を呟きながら、霊児は一つの確信を得た。

「ここって……何かのゲームの世界じゃなかったか?」

ここがゲームの世界であると言う確信が。
何故、この様な結論に達したのかと言うと理由がる。
磨耗しまくっている前世の自分の記憶にこの二つの単語を照らし合わせると何かゲームと言うのが霊児の頭に過ぎったからだ。

「にしても、確か博麗ってのは女性……つまり巫女じゃなかったっけか?」

記憶が磨耗しているので定かではないが、何となくではあるがそうだった筈であると霊児は思った。

「若しかして……その巫女となる女性が見つからなかったのか?」

この世界は普通に霊力とか妖力とか魔力とかがある世界である。
当然、巫女となるのであれば霊力が必要であろう。
それもとびっきり高い霊力と潜在能力。
因みにこれは前世の記憶ではなく霊児自身の記憶だ。

何故、男の自分が博麗になっているのかと言う疑問が霊児の頭を過ぎったが、直ぐにある可能性が思い付く。
その可能性とは、条件に当て嵌まる女性がいなかったと言う可能性だ。
博麗の名を持つ女性が居ない。
だが、その条件に当て嵌まる男性はいた。
博麗の名を持つ者がこれ以上いないのはマズイ。
なので、その条件に当て嵌まった自分が博麗になった。
霊児は自分が博麗となった原因をその様に考える。

「この場合、俺は博麗の御子? 斉主になるのかな?」

そう呟きながら霊児は立ち上がり、体を伸ばす。
泣いても笑っても怒鳴っても、自分はもう博麗霊児としてしか生きられない。
ならば、

「俺は俺として生きていくだけだ」

霊児は自分は自分として生きていくと呟く。
思った以上に落ち着いていられるのは元々自分があるがままを受け入れ、静観していられる様な存在であるからかではと霊児が思っていると、

「……ああ、思い出した」

霊児はある事を思い出す。
霊夢と言う博麗の巫女の名を。
若しかしたら自分は彼女がTSした存在であり、彼女が元々慌てふためく様な存在ではなかった為に自分も慌てふためく様な事ではないかと考えたが、

「ま、どうでもいいか」

直ぐに考えるのを止める。
考えたところで答えは出ないと思ったからだ。

「何はともあれ」

霊児は立ち上がり、

「腹も減ったし飯にするか」

そう呟いた。








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