彼、博麗霊児が前世の自分の事を思い出してから一週間程経過した頃。
最初は少し混乱していたものの、今では前世の記憶と霊児としての記憶と言う二つの記憶がある事に違和感は感じる事もなくなっていた。
どちらの記憶も自分の記憶だと思えるようになったからだ。

そんな彼が今しているのは修行。
何故そんな事を彼がしているのかと言うと、彼が博麗だからである。
望もうが望まかろうが、何か異変が起きた時には博麗である彼は異変解決の為に動かなければならないだろう。
流石に生涯平穏で何も起こらないと思えるほど霊児は楽観的な男ではない。
磨耗した記憶の中には何かが起こったと言う記憶がある。
何時、何所で、何が、誰がという情報までは思い出せなかったが。
そして異変が起きた時に話し合いのみで解決できるとは到底思えない。
なのでその時に備えての修行を霊児は行っているのだ。

今現在、霊児がやっている修行は霊力のコントロールと保有霊力の底上げ。
因みに霊力の扱いはすぐに出来る様になった。
息をするのと同じくらい簡単に。
おそらく、体が覚えていたのだろうと霊児は考えた。
話を戻すが、霊児はどんな修行方法としているのかと言うと、針を使った修行方法だ。
まず、針の一部分を地面に埋める。
そこに指先を乗せ、指一本で体全体を支えると同時にバランスを取っていく。
指を乗せると言ってが、実際に針の先端に指を乗せている訳ではない。
指先から霊力を放出し、それを針の先端に乗せているのである。

なぜこんな方法で修行しているのかと言うと、磨耗している記憶の中にこんな修行をしている漫画の主人公がおぼろげながらも思い出せたので実践してみたのだ。
どんな漫画のどんなキャラクターだったのかは思い出せなかったが。

漫画の修行と言うかも知れないが、これが中々難しい。
霊力が強過ぎれば針を破壊してしまうし、逆に霊力が弱ければ針が指に刺さってしまう。
そして、程好い強さの霊力を見つけてもそれを維持し続ける為には集中力が必要だ。
因みに、霊児がこの修行方法を始めて彼是数時間は経っている。
よく続くものだ。
何時まで続けるのだろうと思われ始めた時、

「あ……」

霊児の腹が鳴った。
同時に、霊児は霊力の放出をやめて浮かび上がって体を反転させて着地する。
腹が減った為、ご飯を取るために一旦修行を止めた様だ。

地面に刺さっている針を回収し、霊児は食料庫に向かう。
ある物を適当に鍋に入れて食べ様と思いながら。
そして、食料庫の襖を開けると、

「あ……」

霊児は唖然とした表情になる。
何故ならば、

「空だと……」

食料庫の中身が空であったからだ。
今まで意識して中身を確認してこなかった事が仇となってしまった様である。
食料庫の中身が尽きたのであれば人里に買いに行くのがセオリーなのだが、一つ問題があるのだ。
その問題とは、

「金……どうすっかな」

お金である。
博麗神社にはお金が全く無いという訳ではない。
一応、先代の巫女が残してくれた遺産は在る。
しかし、だからと言ってそれに頼り続けるのもどうかと霊児は思う。
そのお金が底を尽いたらまた同じ事を考えなければなるまい。
今、お金の問題を解決しなければ問題を先送りにしているだけ。
先送りしても良い事はないので霊児は考える。
お金を作るのにはどうしたらいいか。

考えて少しすると答えは出た。
物を売れば良いと。
ならば、何を売ればいいか。
また考えを廻らせると、

「あ……」

霊児は今、自分が住んでる場所が頭を過ぎった。
そう霊児が住んでいる場所は博麗神社である。
神社なのだ。

「……札とかお守りを作って売ればいいんじゃないか」

思い立ったら何とやら。
霊児は直ぐに食料庫を後にして自分の部屋に向かう。
幸い、札やお守りを作る技術は既にある。
他にも攻撃術や結界術、儀式の方法と言った物も霊児の頭にはあるのだ。
初めてこの事に気付いた霊児は自分の事を中々にとんでもない存在だなと思った。
今はそんな事はどうでもいい。
霊児は気持ちを切り替え、これからの収入源になるかもしれないお札とお守りの作成に取り掛かった。





















そして、それから数時間程経つと、

「出来た……」

結構な数の札とお守りが完成した。

これだけあれば問題ないだろうと霊児は思い、着替えを始める。
そして着替え終わった霊児の格好は、背中に陰陽のマークが付いた白いシャツに黒いジャージ状のズボン。
とてもじゃないが神職に携わる人間の格好には見えないが、霊児は全く気にしていない。

「さて……」

霊児は作ったお札とお守りを風呂敷に包み込んで部屋を出て縁側に向う。
縁側に着くと、霊児は飛び出す様にして外に出て空に飛び上がる。
空に浮かび上がると、霊児は人里を目指して飛んで行った。





















「到着っと」

霊児は空中から直接人里の中に降り立つ。
周囲の人間は何事かと言った様子で突然降りて来た霊児を見詰める。
霊児はそんな視線を気にせず、露天商が出来そうな場所を探し始め、

「おっ」

丁度良さそうな場所を発見した。
霊児はそこに移動して座り、風呂敷を開く。
そして、

「はーい、いらっしゃいいらっしゃい。博麗神社印のお守りとお札だよー。効果抜群だよー。買わなきゃ損だよー。今ならお払いも受け付けてるよー」

霊児はやる気が有るんだか無いんだかよく分からない呼び込みを始める。
その声に釣られてチラホラと人が集まって来た。
ある程度人が集まると、

「博麗と言っていたけど、坊主は博麗神社の関係者かい?」

その中でガタイのいい男性が霊児の事を尋ねて来る。
尋ねられた事に、

「俺が今代の博麗、博麗霊児だ」

霊児が正直に答えると、周囲の人間がざわつき始めた。
その反応はある意味当然だろう。
博麗は巫女。
つまり、女性が代々勤めてきたのだから。
男性が博麗など聞いた事がないのだろう。

「博麗だって言う証拠はあるのかい?」

今度は別の男性が霊児が博麗あるかどうかを尋ねて来る。

「証拠ねぇ……」

身分証明書と言った類の物は存在しない。
ならば、力を見せるだけだ。
霊児はそう思い、右手を天へと向けた。
そして指で拳銃の形を作る。
すると、霊児の指先から青白い光が溢れ始める。
光の強さがある一定以上の強さになると。指先から直径2m程の青白い光の弾が発射され、放たれたそれは空へと消えていった。
その光景を見た人々は唖然とした様子をしていると、

「今のが証拠にならないか?」

霊児がそんな事を口にする。
同時に、人々は意識を取り戻し始めていく。
どうやら博麗かは兎も角、霊児が唯の子供ではないと言う事は分かった様だ。
そんな中で、

「で、そのお守りと御札の効果は良いんだろうね?」

肝っ玉が据わってそうな女性がお札とお守りの効果は良いんだろうね尋ねる。
霊児はその尋ねられた事を

「それは勿論」

当然の様に肯定した。
だからか、

「よーし、アタシは買ったよ!!」

その女性は買う事を決意する。
女性が発した一言を皮切りに次々と俺も、自分もと言う声が上がっていく。

「毎度あり」

これは結構売れるぞ思いながら、霊児はお札とお守りを売り捌いていった。





















そして時は過ぎ、時刻は夕方。

「いやー、殆ど売れた」

霊児は思っていた以上に売れたを思いながら数え終えた札束を懐に仕舞う。
大分、懐が温まった。
これならば暫く持つであろうと霊児は思いつつ、人通りも少なくなって来たのでそろそろ店仕舞いをし様とした時、

「ねぇねぇ、何やってるの?」

そう声を掛けられた。
霊児が声を掛けられた方を見ると、そこには霊児とそう年の変わらない金色の髪をした女の子の姿が目に映る。
隠す様な事でもないので、

「商売」

霊児は正直に話す。

「商売?」
「そう、商売」
「へー、私と変わらない年位なのに凄いんだね」

金色の髪をした女の子が驚いた顔をする。
人懐っこい女の子だなと霊児は思い、

「そーいやお前は誰だ?」

女の子の名前を問う。

「私? 私は霧雨魔理沙って言うの」

女の子が自分の名前を言うと、、霊児は何所かで聞いた事あるなと思った。
磨耗した記憶の中に該当する名前でもあったのだろうか。
若しかしたら、博麗と幻想郷に関係があるのかも知れない。
と言っても、記憶は磨耗しているので思い出す事は不可能であろう。
それならば気にしてもしょうがないと霊児は考え、この事を忘れる事にした。
そのタイミングで、

「君はなんて言う名前なの?」

魔理沙に名前を尋ねられた事で、霊児は意識を戻す。
そして、

「霊児。博麗霊児」

自分の名を口にする。

「霊児って言うんだ」
「ああ」
「霊児って何所に住んでるんの? 私は霧雨道具店って言う所に住んでるんだ。お父さんがやってるお店なんだよ」

魔理沙は自分の住んでいる場所を言い、霊児が何所に住んでいるのかを聞く。

「俺は……ってこっからじゃ見えないか。あっちの方に山があるんだけど、そこの頂上に神社がある。そこにある神社……博麗神社って所に住んでる」

霊児が博麗神社がある方向を指さし、そこ住んでいると伝えると、

「へー」

魔理沙は霊児が指をさした方に視線を移し、一所懸命見ようとしている。
それから少しすると、

「ね、ね」

魔理沙は霊児の方を見て、

「ん?」
「今度、博麗神社に行ってもいい?」

博麗神社に行ってみたいと言う旨を伝えた。
が、

「ダメだ」

霊児にダメだと言われしまう。

「えー、なんでー」

断られたからか、魔理沙が不満気な顔になる。
まぁ、理由もなく断られたら仕方がない。
それを察したからか、

「何でって危険だからだ」

霊児は危険だから来てはいけないと言う。
それを聞いて魔理沙は何かを言おうとしたが、

「そもそも魔理沙って空、飛べるのか?」

その前に霊児が魔理沙に空を飛べるのかと問い掛ける。
その問いに、魔理沙はフルフルと首を横に振って飛べないと言う答えを返す。
魔理沙の反応を見て、予想通りだと霊児は思った。
そもそも、空を飛べる人間はそう多くはない。
その中で空を自由自在に飛べる人間はどれだけ少なくなる事やら。
はっきり言って、まだまだ子供の年頃であるのに自由自在に空を飛べる霊児が異常なのだが。

「だろ。なら陸路で来るしかない訳だ。ここから神社までの道のりには妖怪がわんさか出るからな。それなりの実力がないと妖怪に食われて終わりだぞ」

霊児も自分の神社に来ようとして死んだとなれば流石に寝覚めが悪くなる。

「妖怪に? 食べられちゃうの?」
「ああ」

妖怪に食べられる事を霊児が肯定すると、魔理沙は怯えた表情になってしまう。
自分がそうなるところを想像してしまったのだろう。

「………………」
「そうびくつくな。これやるから」

そう言って、霊児は売れ残ったお札とお守りを魔理沙に渡す。

「これは?」
「俺が作ったお札とお守り。効果は非常にあるぜ」

魔理沙は渡されたお札とお守りをマジマジと見詰め、

「ありがとう。大事にする!!」

そう口にする。
どうやら気を持ち直した様だ。

「そう言えば霊児って神社で何してるの?」
「神社でか? 修行とか御子っぽい事とか斉主的な事とかな」
「巫女?」
「発音が違う。巫女じゃなく御子だな」

そう言って霊児は巫女と御子に付いて簡単に説明する。

「へー」
「と、そろそろ帰らなくていいのか?」
「あ、早く帰らないとお父さんとお母さんに叱られる」

慌てふためく魔理沙を見て、この位の年の子供は怒る親と言うのが怖いものなんだなと
霊児は思い、そう言えば今の自分も同じ位の年である事を思い出す。
まぁ、前世の自分が何歳であったかは全く思い出せないが。
少し霊児が思案している間に、

「それじゃ、またねー」

魔理沙が手を振りながら駆けて行く。
それに気付いた霊児も手を振り返す。
魔理沙が見えなくなると霊児は風呂敷を畳んで立ち上がり、神社に帰ろうとしたところで、

「あ……野菜とか米が無いんだった……」

博麗神社の食料庫の事を思い出し、米と野菜を売ってる店を探しに歩き出した。








前話へ                                       戻る                                         次話へ