朝、目が覚めると霊児は軽くストレッチを行って台所に移動する。
台所に着くと事前に炊いていて置いたご飯は茶碗に要れ、切って置いた野菜を鍋の中に入れて煮込む。
そして、煮込み終わると鍋と茶碗を持って居間へと向かう。
居間に着くと、霊児は持って来た物を卓袱台の上に置き、
「いただきます」
そう言って朝食を取り始める。
作った物を食べながら、味の方はまずまずだなと霊児は思った。
霊児は別段味に拘りはしない。
特に自分が食べる分には、食べれないほど不味くなければいいと言う考えなのだ。
腹が膨れればそれで良いらしい。
朝食を取り始めて少しすると、
「ごちそうさま」
朝食も食べ終わる。
食べ終えるのと同時に霊児は茶碗と鍋を台所に持っていき、水洗いを行う。
洗い物が終わると霊児は外に出て、ストレッチをしながら考える。
今日は何をし様かと。
食料も買ったし、昨日の売り上げにはまだまだ余裕があるので今日もお守りとお札を売りに行く必要はない。
ならば今日も修行をし様かと霊児は考えたが、ふとある事が頭を過ぎる。
過ぎった事とは、修行修行で実戦経験がないという事だ。
ここらで実戦の空気を知っておく必要があると霊児は考えた。
いつ起きるかはわからない異変に向けて、備えはして置くべきであろう。
相手を如何し様かと霊児は考えたが、直ぐにその辺にいる妖怪で存在を思い付く。
幸い、神社周辺の森の中には野良妖怪がウヨウヨ存在している。
直ぐ近くに妖怪が居て博麗神社は平気なのかと思われるかも知れないが、平気なのだ。
何故ならば、理由は分からないが野良妖怪は神社の敷地内には入って来ないからである。
別に結界を張っている訳ではないので霊児は不思議に思っているが、気にしても仕方が無いので霊児は気にしないでいるのだ。
兎も角、霊児は本日の予定を野良妖怪相手に戦いを挑むと言う事に決めた。
思い立ったら何とやら。
霊児は早速森の中へと向かって行く。
霊児が神社周辺の森の中に入ってから暫らく経つが、妖怪は一向に現れない。
霊児は森の中に入るのは初めてなのでこんなものなのかと考える。
まぁ、時間はタップリあるのでノンビリ行こうと霊児は思い、散策を楽しむ事にした。
よく見れば、美味しそうな山菜がいたる所にある。
これは近々、山菜採りに来るのもいいかもしれないと霊児は思った。
茸もチラホラと見掛けるが、どれが毒かは分からないので採りに来る時は茸は放置するか勘に頼るかのどちらにし様か。
そんな事を考えながら歩いていると、
「ん?」
霊児の目の前に妖怪が現れる。
大きささ霊児の数倍程。
両手にある爪が肥大化している。
そして熊のような風貌をした妖怪だ。
「おー……」
でっかい妖怪だなと霊児は妖怪を見上げながらそう思い、そんな声を上げる。
その瞬間、妖怪は霊児に向かって思いっ切り腕を振るって来た。
振るわれた腕を霊児は後ろに跳んで避ける。
腕が振るわれた影響で風が発生し、霊児の髪を揺らす。
攻撃を避けられた事に腹を立てたのか、唸り声を上げながら妖怪は突撃して来た。
霊児はそれを落ち着いた様子で観察していると、霊児が自身の間合いに入った時に妖怪は腕を突き出して己が爪で霊児を貫かんとする。
そのまま霊児は貫かれてしまうかと思われたが、そうはならなかった。
「ッ!?」
何故ならば、突き出された爪を霊児が掴んでいたからだ。
親指と人差し指のみで。
これには妖怪は驚愕する。
あんな小さな体の何処にそんな力があるのかと。
その状態から抜け出そうとするも、押しても引いても微動だにしない。
妖怪が渾身の力を籠めてもだ。
その時、霊児は何を思ったのか掴んでいた爪を離す。
そして次の瞬間、霊児の姿が消えてしまう。
自由になった妖怪は霊児が何所に行ったのかと探していると、霊児が妖怪の懐に現れる。
そしてそのまま妖怪の腹部と思わしき部分に正拳突きを放つ。
それをまともに喰らった妖怪は吹き飛び、背後にあった木に激突する。
正拳突きを放ち終わった霊児は体勢を戻し、右手の掌を妖怪に向けて掌から霊力を放つ。
放出されたそれはそのまま妖怪に向かっていき、妖怪に命中する。
命中したのと同時に爆発が発生し、爆風は発生した。
その爆風が霊児の顔を撫でる。
勝敗が決すると、
「……思ってたより強くなかったな」
霊児はそんな事を呟く。
初めての実戦だったので少しは苦戦するのではないかと霊児は考えていたのだ。
だが、いざ戦ってみると驚く位に楽に勝てた。
自分が強すぎたのか、それとも妖怪が弱すぎたのか。
そんな疑問と共にもう一つ疑問が浮かぶ。
それはプレッシャーを何も感じなかった事だ。
力の強さはどうあれ、大なり小なりのプレッシャーは感じる筈である。
そう言った類のものを無効化する術式を発動した覚えは霊児のは無い。
そしてそう言った類の術式が体に刻み込まれいる事もない。
これ風呂に入った時に確認済みの事だ。
では何故と思い考えると、一つの可能性に思い至った。
思い至った可能性を確信に変える為、霊児は集中し自身を探っていく。
そして、
「やはりか」
答えを得る。
その答えは霊児自身の能力。
"空を飛ぶ程度の能力"だ。
これはただ、飛行能力があるという能力ではない。
ありとあらゆる物から浮くのだ。
何ものにも束縛されない。
それは重圧と言った類の物でもだ。
更には敵意や殺意と言ったものも感じない。
故にあの妖怪からプレッシャーを霊児は感じなかったのだ。
だが、これはまずいと霊児は思った。
重圧の類を感じなければ相手の強さを読み間違える事に繋がる。
敵意や殺意を感じなければ不意打があった場合避けきれないかもしれない。
幾ら何でもそれら全てを自身の勘だけに頼りきるのはどうかと霊児は思った。
勘の精度が幾ら良くてもだ。
「どうするかな……」
今はこれで良くても何れは致命的な何かを負おう事になると霊児は感じていた。
そして何とか能力の制御しようと試みる事にする。
やる事は簡単だ。
飛行能力以外を発動しないようにする。
これだけだ。
自分の能力だ。
出来ない事はない。
霊児は早速実行して見る事にした。
そして一時間。
二時間。
どれだけ時が経ったであろうと思われた時、
「お?」
霊児は周囲の雰囲気が変ったのを感じる。
能力の制御に成功したのであろうか。
その証拠とも言わんばかりに霊児は背中にピリピリとしたものを感じた。
そのピリピリしたのが敵意や殺意であろうか。
そんな事を霊児が考えていると、妖怪の群れが現れる。
現れたのは四足歩行の獣タイプの妖怪だ。
その獣のタイプ妖怪達からは先程の妖怪からは感じなかった何かを感じた為、
「……能力の制御には成功したみたいだな」
霊児はそう結論付ける。
その瞬間、妖怪達は一斉に襲い掛かってくる。
霊児はその場から動かず、自分の間合いに入った者から拳と脚で迎撃していく。
そんな事を何度も繰り返していると気付いた時には妖怪達は全て地に伏し、立っているのは霊児だけと言う状態になった。
その場で少し体を動かして調子を確認しつつ、
「やっぱり一対多の時は殺意とかが感じられたほうが戦いやすいな」
霊児はそう結論付け、普段から能力の大半を制限することを心掛ける。
そう決心したのと同時に霊児はその場で浮かび上がった。
「よし、能力の制御は出来てるな」
キチンと浮かび上がられたので能力の制御は出来ていると霊児は確信する。
同時に霊児の腹が鳴ったので博麗神社に帰る事にした。
「ふぅー……」
昼食を取り終えた霊児は縁側で茶を啜りながらのんびりと過ごす。
そんなのんびりとした雰囲気の中、突然風の塊が霊児の前の現れる。
何事かと霊児が思った時には風の塊は消え、中から黒い髪をし、黒い羽を生やした少女が現れた。
「あやややや、貴方が今代の博麗ですね!?」
そしていきなりそんな事を尋ねてくる。
「そうだが、誰だあんた?」
霊児が若干警戒しながら何者かと聞く。
すると、
「申し遅れました。私は"文々。新聞"の記者をしております烏天狗の射命丸文と申します」
少女は自分の名と役職を名乗った。
どうやら新聞記者の様だ。
「それで、何のようだ?」
名が分かったからか、今度は何の用で神社にやって来たのかを霊児が尋ねると、
「それは勿論、今代の博麗である貴方にインタビューしに来たのです!!」
文は元気よくやって来た目的を口にする。
「歴代博麗の中で唯一の男の博麗!! そしておそらく歴代博麗の中で最年少で博麗の名を継いだであろう貴方の話題性はナンバー1で間違いなしです!!」
「……一つ聞いて良いか?」
「何でしょうか?」
「何故今なんだ? 俺が博麗の名を襲名したのはつい最近って訳じゃないぞ」
これは霊児自身の記憶にあった事だ。
少なくとも、霊児は数年前には博麗を名乗っていた。
だから、霊児には文が今になってやって来た理由が分からなかったのだ。
「私は妖怪の山に住んでいるのですけれど、妖怪の山は一寸した閉鎖社会になっていましてね、あまり外部の情報が入って来ないのです。
妖怪の山に住んでいる者以外が妖怪の山に入ろうとすると追い返されてしまいますしね。そう言う訳で、情報を手に入れる為には自分の足を
使って手に入れるしかないのです。で、ネタ集めに人里に行った時、貴方の情報を手に入れてこうやって来た訳です」
文から事情を説明され、成程と霊児は思った。
確かにそれならば情報はあまり入って来ないであろう。
それに霊児は積極的に博麗神社の近辺から出て行く様なタイプではない。
と言うか前世の事を思い出したりしなければ昨日、人里に行く事が無かった可能性がある。
霊児はそんな事を考えつつ、
「で、インタビューの方は?」
霊児は文のインタビューに応じるか考える。
文の情報からは博麗はまだ不在と言う感じがあった。
流石ににそのままではあまりよろしくないだろう。
それならば、霊児が今代の博麗であることを知らしめる為には新聞という媒体は丁度良いかもしれない。
霊児はそこまで考え、
「分かった、インタビューを受けるよ」
インタビューを受けることにした。
それで今代の博麗はもう存在するとう言う情報が流れる事を期待しながら。
「ありがとうございます」
文は笑顔になりながらペンと手帳を取り出す。
「まずは貴方のお名前を」
「霊児。博麗霊児」
「ふむふむ」
そう言いながらメモを取っていく。
「ご職業は?」
「それ聞く事か? まぁ、博麗の御子? 斉主的な感じかな」
「人里に行った目的は?」
「お守りやらお札などを売って金を稼ぐためだな。一応先代の巫女が残してくれた遺産は有るけど、それに横着するのもあれだしな」
「それならお賽銭で事足りるのでは?」
「人里からここまでは陸路なら妖怪がわんさか出るからな。流石にここに来ようとして死人が出たとなったら寝覚めが悪いしな。それに人里の方で
空を飛べる奴なんて殆ど居ないからな。賽銭は期待できない」
「なるほど。で、次はですね……」
「いやー、ありがとうございました」
「結構掛かるものだな」
肩を回しながら霊児がそう言うと、
「まぁ、こんなものですよ」
こんなものだと言う返答が返される。
文にとってはこれ位は当たり前の事の様だ。
「それでどうです? これを機に"文々。新聞"を購読してみては?」
「んー……」
霊児は暇つぶしに丁度いいかもしれないと考える。
それに自分の記事の内容も気になったので、
「そうだな、これを機に購読してみるよ」
"文々。新聞"を購読する事を決める。
「ありがとうございます!!」
そう礼を言って文は黒い羽を羽ばたかせて空を飛び、
「それでは、本日はありがとうございました!!」
もの凄いスピードで何所かへと飛んで行った。
それを見送った後、
「さて」
もうする事もなくなったので霊児は修行を行う事にする。
翌日、博麗神社に"文々。新聞"が放り込まれる。
霊児が目を通してみると、割と普通に書かれていた。
これなら今代の博麗が存在していると言う事が伝わるであろうと霊児は考える。
が、霊児の考え通りにはならなかった。
何故ならば、後日に知る事になったからだ。
"文々。新聞"はあまり人気がないと言う事を。
なので、あまり効果がなかった事に霊児は肩を落とす事になった。
前話へ 戻る 次話へ