「それでね、それでね」
「へー……」

人里にお守りやお札を売りに来る様になって以来、人里に来ると魔理沙と会って雑談をする事が当たり前になって来たなと霊児は思った。
こうやって人里に来て露店を開く場所は毎回毎回違うのだが、魔理沙はよく霊児の居る場所を見付けてやって来る。
探査能力が良いのか運が良いのか、それとも霊児が露店を開く場所が魔理沙の活動範囲内なのかは分からないが。
それは兎も角、魔理沙は色々な事を霊児に話してくれる。
自分の家であった事。
寺小屋であった事。
寺小屋の先生は宿題忘れると怖いとか、その時は世にも恐ろしい頭突きを喰らうとか何とか。
こんな事を色々話してくれる。
そのお陰で人里の事がわかった。
人里ではその寺小屋の先生……上白沢慧音が守護者という位置に付いているらしい。

「でね、この前慧音先生がね」
「へー」

魔理沙の話す内容は慧音の内容が結構多い。
その事から、霊児は慧音と言う人物は慕われているんだなと思った。

「あ、そうだ。今日はおにぎりを作ってきたんだよ」

話の途中でおにぎりを持って来た事を思い出した魔理沙は鞄からおにぎりを取り出す、それを霊児に手渡す。

「サンキュ」

そう礼を言いながら霊児はおにぎりを受け取って食べ始める。
魔理沙は霊児に会いに来る時はよく食べ物を持って来てくれるのだ。
その辺の店で買って来た物だったり、家で作って来た物だったりなど。
こうやって魔理沙が食べ物を持って来るのは霊児と一緒に食事をしながら雑談を楽しみたいからであろうか。
理由はどうあれ、食べ物を食べれるのなら何でもいいと言うのが霊児の考えだったりする。
そんな二人の思惑は兎も角、霊児と魔理沙は一緒に食事をしながら雑談をしていく。
お互いの事だったり、噂話だったり色々と。
それから少しすると、

「ごちそうさん」

霊児はおにぎりを食べ終える。
同時に魔理沙に幾つかの守りを手渡す。
魔理沙から食べ物を貰った時は、お返しとして霊児は魔理沙にお守りやお札を渡しているのだ。

「頼まれたて健康用のお守り」

今回は頼まれたお守りであったが。
霊児が何のお守りなのかを説明すると、

「あ、ありがとう」

魔理沙は礼を言いながらお守りを観察していく。
すると、

「あれ、一個多いよ」

魔理沙がお守り一個多いと指摘する。
魔理沙にその事を指摘された事で霊児はある事を思い出す。
魔理沙に頼まれていたの両親に二つのお守りであったと言う事を。
一体、どこで間違えたのだろう。
お守りやらお札を大量に作っていた時に魔理沙に頼まれていたお守りも一緒に作ったので数を数え間違えたのであろうか。
幾ら理由があったとは言え、間違えたと言うのは恥ずかしい。
なので、

「サービスだ。サービス」

霊児は誤魔化す事にした。
そう言うと魔理沙はキョトンとした顔になり、

「ありがとう!!」

満面の笑顔でお礼を言った。

「どういたしまして」

霊児はそう返し、心の中でバレなくて良かったと思う。

「あ、そうだ。私、お使い頼まれてるからそろそろ行くね」
「何買うんだ?」

霊児は興味本位で何を買うのかを尋ねてみると、

「筍」

魔理沙から筍と言う答えが返って来る。

「筍?」
「うん、筍。お母さんがね、筍ご飯にするから買ってこいって」

それを聞いて、霊児はもう筍の季節かと思っていると、

「それじゃ、またね」

魔理沙は手を振って去って行く。

霊児も手を降り返しながら筍の事を考えると、

「筍か……」

急に筍が食べたくなって来た。
かと言って、今から買いに行くと言うあれである。
どうせなら自分の手で取りたいと霊児は考えた。

「筍……」

そして何所でなら取れるか考える。

「筍……竹……竹……!!」

そして思いつく。

「迷いの竹林!!」

迷いの竹林と言う場所を。
迷いの竹林とは一度入ったら二度と出られず、一生迷い続けるとも言われている竹林だ。
更には危険な妖怪も多数生息しており、危険度もそれなりに高い。
普通の人間なら進んで入ろうとはしない様な場所だ。
だが、自分ならどうだと霊児は考える。
霊児には精度の高い勘があるので迷う事はないであろうし、万が一迷ったとしても空を飛んで迷いの竹林を脱出すれば良い。
そこんじょそこ等の妖怪では霊児の敵にもならないのだから。

「決定」

霊児は迷いの竹林で筍狩りをする事を決め、風呂敷を畳んで立ち上がって迷いの竹林を目指して空を飛んで行く。





















「この辺りで良いかな……」

空中から迷いの竹林を見下ろし、何かを感じた地帯に霊児は降下する。
着地したのと同時に霊児は周囲を見渡し、

「お、大量じゃん」

大量の筍を発見する。
迷いの竹林の入り口付近なら人里の人間もこれると霊児は考えて少し奥地の方に降り立ったのは正解だった様だ。
霊児は早速筍を採っていき、採った筍を風呂敷の中に入れていく。
幸先が良いなと霊児は思い、この良さを維持し続け様と思った瞬間、

「…………よく、良い事と悪い事は順々にやって来ると言うが、早すぎないか?」

妖怪が現れた。
数もそれなりにいる。
現れた妖怪は猪に近い姿をしている様だ。
皆、鼻息を荒くして霊児に襲い掛かろうとしている。
やる気溢れる妖怪とは対照的に霊児は不満気な表情だ。
折角幸先の良いスタートが切れたのに何でお前等は出て来るんだよと言う様な事を思っているのだろうか。
そんな霊児の心情を知ってか知らずか、その妖怪のうちの一体が突撃を仕掛けて来た。
突撃と言う攻撃方法を見ながら見た目通りだなと霊児は思い、突撃して来る妖怪に自分の間合いに入ったのと同時に右手を翳す。
すると、丁度そこに妖怪が激突して激突音が響き渡る。
妖怪はそのまま霊児を押し込もうとするが、

「ッ!?」

押し込めない。
どれだけ力を籠めて進もうとしても妖怪のいる地面が削れるだけで霊児を僅かでも動かす事は出来なかった。
それでも妖怪が霊児を押し込もうとしている間に霊児は妖怪の体毛を鷲掴みにし、

「そら」

その妖怪を一番妖怪が密集している場所目掛けて投げ付ける。
投げた妖怪は見事妖怪達に激突し、妖怪達のバランスが崩れいく。
バランスが崩れた事で生まれた隙を突く様にして霊児は右手を拳銃の形にし、それを妖怪達に突き付け、人差し指の先から霊力で出来た弾を撃ち出す。
撃ち出された霊力で出来た弾は妖怪達に命中し爆発を引き起こした。
その爆発に巻き込まれた妖怪は爆発の影響で宙を舞って落下し、地面に激突する。
今のに巻き込まれなかった残りの妖怪達は、一目散に逃げていった。
このままここに居ても殺されるだけだと本能で理解したからだ。
逃げて行った妖怪達が見えなくなると、

「やれやれ……」

折れた竹を見ながら霊児はそう漏らす。
若しかしたら、今の一撃で筍を吹き飛ばしてしまったかと思いながら。
そんな時、

「……ん?」

霊児は折れた竹の先にある竹に目を向ける。
何か普通に竹と違うと感じた霊児はその竹に向かって歩いて行くと、

「これは……光る竹?」

薄っすらとではあるが、竹が光っているではないか。
念の為に少し目を凝らして見ると、薄っすらとだが光っているのが確認出来た。
どれ位の光量なのかと霊児は思い、竹を手で少し覆って暗くして確かめる。
すると、一部屋位なら楽に明るくする事が出来る光量である事が分かった。

「これがあれば蝋燭に火を点ける必要が無くなるんじゃないか?」

霊児はこの竹があれば一々蝋燭に火を点ける必要性が無くなるのではと思い、この光る竹を持って帰る為に手刀を作る。
そして手刀を覆う様にして霊力を発生させて霊力の刃を作り、腕を軽く二度振るって光っていない部分の竹を斬っていく。
その後、斬り取った光る竹を風呂敷の中に仕舞う。

「ラッキー、これで一々蝋燭に火を点ける手間が省けたぜ」

今後は楽が出来ると言う事を霊児は口にしながら再び筍を探し行く為に足を進め様とすると、

「爆発音がしたんで来てみれば、あるのは妖怪の死骸と子供……か」

そんな声が聞こえて来たので霊児は声が聞こえて来た方に顔を向ける。
霊児が顔を向けた先には地面に届きそうな位の長さの白い髪し、白いシャツに赤いもんぺを来た少女が居た。

「慧音の所の生徒……って訳じゃなさそうね」

霊児の姿を見ながら少女は勝手に納得し、

「君は誰?」

霊児が誰なのかを問う。

「今代の博麗、博麗霊児だ」

自分が今代の博麗である事を霊児が口にすると、

「博麗……博麗?」

少女は驚きながら霊児の姿をもう一度見る。

「博麗は巫女……女性が代々勤める筈だけど……君、男の子だよね?」
「俺が歴代初らしいぜ。男の博麗ってのは」

目の前の少女に自分が歴代初の男の博麗である事を告げ、文の新聞は全然効果が無かったなと霊児は思い、

「そう言うお前は誰だ?」

目の前の少女に誰だと尋ねる。

「私かい? ここの竹林に住んでる藤原妹紅。ただの健康マニアの焼き鳥屋さ」

少女……妹紅はそう自分の事を名乗った。
その後、霊児の姿を改めて見て、

「しっかし、その年で博麗ね……」

少し驚いた表情になる。

「信じられないか?」
「いいや。これやったの霊児だろ」

妹紅はそう言いながら妖怪の死骸を指さす。

「ああ、襲い掛かってこられたからな」

霊児もシレっとその事を肯定する。

「やっぱりね。で、霊児は何しにこの迷いの竹林に来たの」
「筍狩り」
「筍狩り?」
「そ、筍狩り」

迷いの竹林にやって来た目的が筍狩りであると言う事を聞いた妹紅は唖然とした。

「そのために態々ここまで? 迷いの竹林……特に奥の方はかなり迷い易いのよ」
「ああ、急に筍が食べたくなったからな。帰りは空を飛べば迷ったとしても問題ないしな」

霊児の返答を聞き、妹紅は霊児の年でもう空を飛べるのかと驚いていると、

「それ位出来なきゃ博麗なんて勤まらないからな」

その驚きを察したのか、霊児の口からそんな言葉が発せられる。

「やれやれ、とんでもないお子様ね」

何処か呆れた様な表情をしていると、

「そーいやあんたは人間みたいだけど、人里には住まないのか?」

霊児は妹紅に人里に住まない理由を尋ねた。
人間である妹紅が人里に住まない事が少し気になったからだ。

「色々あるのよ、色々」
「ふーん。ま、妹紅ぐらいの強さがあれば問題ないか」

言いたくないのなら別にいいかと霊児は思い、妹紅の強さならここに住んでいても平気だなと言う事を口にした。

「あら、私の強さが分かるの?」
「雰囲気とかで大体な」

そう言った後、霊児と妹紅は雑談を始める。
それから少しすると。

「あー、こうやって普通に喋ったのって慧音と位だったから新鮮かも」

妹紅はどこか新鮮だと言う顔付きをしながら体を伸ばし、

「そう言えば、竹林の案内は……」

迷いの竹林の案内は必要かと問うが、

「別にいい。空飛べば問題ないしな」

霊児は不要だと言う。

「それもそうだね。もう帰る?」
「ああ、腹も空いたしそろそろ帰るよ」

そう言って霊児は浮かび上がる。

「あ、そうそう。夜の竹林には近づかない方がいいわよ。危ないから」
「何かあるのか?」
「一寸ね……」
「取り敢えず、忠告は受け取っておく」

まぁ、何かの気紛れでも起こさない限り夜中に迷いの竹林に来る事はないであろうが。
そんな事を思いながら、霊児は博麗神社に帰って行った。




















霊児が持って帰った筍は筍ご飯となって霊児の胃袋に収まる事となり、光る竹は主に霊児の部屋の蝋燭代わりと使われる事となる。
因みに、光る竹の光を消す事が出来ないので寝る時に霊児の頭を若干悩ませる事なったが、直ぐに机の中にでも入れればいいと言う考えに達した為に霊児の悩みは簡単に解決した。





















翌日、

「はーい、いらっしゃいいらっしゃい。本日はお札とお守り以外にも筍が売ってるよー。迷いの竹林で取れた一品だよー。買わなきゃ損だよー」

余った筍を霊児は人里で売り払っていた。
かなりいい値で売れたのか、霊児の顔はホクホク顔であったらしい。













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