何かを言っている。
大きな紅い鳥が何かを言っている。
声を発していると言う事は龍也にも分かっている。
だけど……聞こえない。
大きな紅い鳥が発している言葉は龍也には聞こえない。
聞き取れない。
龍也は思う。
何故、自分には聞こえないのだと。
故に、龍也は問う。
お前は何が言いたいんだと。
俺に何を伝えたいんだと。
しかし、大きな紅い鳥が言っている事は龍也には伝わらない。
それで尚、龍也は問い続ける。




















「ッ!?」

龍也は何かに気付いたかの様に目を大きく見開く。
最初に目に映ったのは天井。
その後、上半身を起こしながら周囲を見渡し、

「ここは……家の中か?」

ここが家の中ではないかと言う考えに至る。
もう一度周囲を見渡すと、清潔感のある部屋の中に自分が居ると言う事が分かる。
そして視線を下げると龍也は自分の体に包帯が綺麗に巻かれている事に気付き、ベッドの上で寝ていた言う事に気付く。
自分の体を見て、龍也は誰かが治療をしてくれたのだろうと思った。
治療が良かったからか、体の痛みはもうない。
龍也は上半身を少し動かして体の調子を確かつつ、

「俺は……あの後どうなったんだ?」

あの後、どうなったのかを思い出そうとする。
が、獣に襲われて囲まれたところから先は思い出せなかった。
しかし、龍也はこうして無事なのだ。
なので、龍也は誰かが自分を助けてくれたのではないかと考え始めると、

「あら、起きたの?」

ふと、声が掛かる。

声がした方を見ると、そこには肩口位の長さの緑色の髪をした少女と女性の中間位の年頃の女の人がいた。
この人が自分を助けてくれたのかなと思いながら、

「貴女は?」

龍也は名を尋ねると、

「風見幽香。幽香で構わないわ」

すんなりと名を名乗ってくれた。
ならば自分もと思い、

「俺は四神龍也です」

龍也は自己紹介を行う。
そしてもう一度部屋を見渡し、

「ここは……」

ここが何処なのかを訪ね様とすると、

「ええ。察しの通り私の家よ」

幽香がここは自分の家だと口にする。
やっぱりかと思いつつ、

「貴女が……俺を助けてくれたんですか?」

龍也は幽香が自分を助けてくれたのかと問う。
問われた事に、

「それは違うわ」

幽香は否定の返事を返す。

「え?」

じゃあ、誰が自分を助けてくれたのかと龍也は考える。
思案気な表情を浮かべている龍也に、

「私が行った時にはもう終わっていたわ。私は火柱の原因を探しに来ただけ」

幽香は自分の行った時には既に終わっていたと言う事を伝えた。
その幽香の言葉から、龍也は一つの答えを得る。
幽香の言葉通りなら、あの獣達を倒した者は自分と言う答えが。

「んー……」

今一つ、龍也には実感が湧かなかった。
それも仕方が無いであろう。
何せ、その時の記憶がないのだから。
しかし、龍也にじゃそんな事よりも他に聞きたい事があった。

「幾らか、尋ねたい事があるんですが……」
「ええ、構わないわ」

龍也の問いを幽香は答えてくれるそうだ。
その事にやったと内心で喜びつつ、

「ここはどういった場所なんですか?」

龍也はここが何処なのかを訪ねる。

「ここは幻想郷にある太陽の畑と言った場所よ」
「幻想……郷?」

聞き慣れない単語だからか、龍也が首を傾げてしまう。
首を傾げてしまった龍也を見て、

「その口振りだと……やっぱり外来人ね」

幽香は確信したと言う表情になった。

「外来人?」
「良いわ。そこから説明してあげる」





















「つまり、幻想郷とは結界で覆われた土地。俺が今まで生活してきた場所は外の世界と呼ばれている。外の世界とここは結界で覆われているものの
繋がっている為、異世界とは言い難い。この地に来るものは外の世界で幻想になったもの……つまり忘れ去られたり、存在が否定されたり、信じら
れなくなったものがくる所。それ以外にも結界の不備などの何らかの要因でここに来る事がある。そしてここには人間、妖怪、妖精、幽霊、神などと
言った様な様々な存在が暮らしている。俺の様に外の世界から来た奴を外来人と呼ぶ。後、幻想郷に来る事を総じて幻想入りと呼ぶ……って言う
感じ良いですかね?」

幽香の話を聞いたり自分が質問して返って来た答えを纏め、龍也が自分なりの認識を口にすると、

「ええ、概ねそんな感じよ。もっと詳しく知りたかったら人里に行くべきね」

幽香から問題無いと言われる。
その事を良かったと思いつつ、自分の目の前に居る幽香が妖怪には全然見えないなと思った。
何せ、見た目が人間と全く変わらないからだ。
ここ、幻想郷では見た目が人間と変わらない妖怪、妖精、神などが多数にいるとの事。
自分をここに連れて来た八雲紫も自分の事を妖怪だと言っていたなと龍也が思い返している間に、

「まぁ……貴方の場合は幻想入りしたというより、八雲紫に連れてこられたと言った方が正しいのかしらね」

幽香がそんな事を口にする。

「やっぱ有名何ですか? その八雲紫って」
「有名ね。"幻想郷の賢者"とも"神隠しの主犯"とも呼ばれているからね。後は……"隙間妖怪"とも」
「隙間妖怪?」

龍也が首を傾げると、

「八雲紫の能力が"境界を操る程度の能力"だからね」

幽香が紫の能力に付いて説明する。

「境界を操る……」
「解り難かったかったら、何所にでもワープが出来ると言う認識でいいわ」

何やら凄そうな能力であると龍也が思っていると、 幽香は紫の能力は何所にでもワープが出来る程度の認識で構わないと言う。

「はぁ……」

何となくは理解したので龍也は気になった単語に付いて聞いて見る事にした。

「能力っていうのは?」
「その存在が持ってる固有能力の事よ。これは持ってる者と持ってない者がいるわね。先程言った八雲紫が"境界を操る程度の能力"。私は"花を操る程度の能力"」
「へぇ……」
「それと、貴方も能力持ちね」
「俺も……ですか?」

幽香に自分も能力を持っていると言われ、龍也は意外そうな顔をする。

「ええ。幾ら相手が只の下級妖怪だからと言っても、大群で囲まれたら普通の人間なら間違いなく死ぬわね。おそらく危機的な状況下で眠っていた力が
目覚めたんだと思うわ。まぁ、外来人で能力持ちって言うのは珍しいけどね。因みに、能力が有ると当たりを付けたのは、霊力が扱える様になっただけ
では炎を起こす事は出来ないからよ。多分、霊力を扱える様になったのと同時に能力が目覚めるか覚醒したんでしょうね」

幽香が龍也が能力持ちで有ると言う理由を説明すると、

「能力……」

龍也はそう呟いて自分の掌を見詰めた。
先程、幽香が言った火柱。
その言葉から、龍也は自身の能力は"炎を操る程度の能力"なのだろうか考える。
ものは試しは思い、龍也は掌に力を篭めていく。
が、炎が出る様子は欠片も見られない。
違うのかと思って龍也は落胆し、ならば何だと考え始める。
その瞬間、龍也の脳裏に大きな紅い鳥の姿が過ぎり、

「わっ!?」

突如、龍也の掌から炎が生み出された。
龍也が生み出してるせいか、龍也自身に熱さは感じた様子はない。
龍也は自分の掌から生み出された炎を暫らく眺める。
しかし、何時まで経っても炎が消える気配がない。

「えっと、これ……」

このまま出しっ放しは不味いと思い幽香に尋ねてみる。

「消そうと思いなさい。そうすれば消える筈よ」

幽香のアドバイス通り、消えろ龍也が思うと掌の炎は消失した。

「コツは掴んだ様だからこれからはもっと楽に使えるようになるわ」
「………………」
「どうかした?」

黙ったままの龍也を不審に思ったからか、幽香がどうかしたのかと尋ねると、

「あ、最初は俺の能力は"炎を操る程度の能力"だと思ったんですけど違うと思って」

龍也は自分の考えを口にする。

「どうしてそう思ったの?」
「ただ漠然とそうだとしか……。別の能力だと思うと、ストンと落ちてくる様な感じがするんです」
「成程……その考えは正しい」
「え?」

自分の考えが正しいと言われ、龍也は少し驚いた顔をする。

「能力の使い方や名前っていうのは誰かに教わったりするものじゃないの。何故なら、自分の能力がどういうものなのかは自分だけが知っているから」
「知っている……」

そう呟きながら龍也は自分の掌を見詰める。

「そう。貴方の場合は知っているけど理解出来ていないと言った状態。そのうち、自由自在に使えるようになるし名前も解るわ」
「………………」

知っているけど理解出来ていない。
なら、自分の力を理解出来る様に頑張ろうと龍也は決意する。

「他に聞きたい事はあるかしら」

幽香にそう言われて龍也は思考を切り替える、

「あ、はい。紅い霧って幻想郷じゃ普通なんですか?」

紅い霧に付いて尋ねる。

「いえ、違うわ。人為的なものよ」
「人為的って……」

人為的に起こされているのかと龍也が驚いた表情をしていると、

「これを起こしている者の名はレミリア・スカーレット。紅魔館の主で吸血鬼ね」

幽香から紅い霧を出している者の名が語られる。

「吸血鬼……」

吸血鬼と言われて龍也は男爵みたいな者を想像する。

「多分、貴方の想像している吸血鬼とは大分違うと言って置くわ。こっちとしてはいい迷惑よ。この紅い霧は太陽の光を通さない性質を
持っているから花の大敵。ここ等一帯の地域……取り分け太陽の畑付近の霧は私の力で全部吹っ飛ばしているけどね」
「凄いですね」

霧を吹き飛ばす様な事を遣って退けた幽香を龍也は純粋に凄いと思った。

「そう? ほんと、あの吸血鬼は何を考えているんだか。人里に言って花の種を見てこ様と思っていたけど、人里は消えているだろうし……」
「人里が……消える?」

どう言う意味だと思いながら龍也が首を傾げると、

「人里には守護者がいてね。名前は上白沢慧音。能力が確か……えーと……人間の時が……"歴史を食べる程度の能力"で半獣の時が"歴史を創る程度の能力"だったかしら?」

幽香は下唇の下に指を当てながら人里が消える理由を口にする。

「えーと……」

幾らか分からない単語あり、龍也は今一分からないと言った感じだ。

「彼女は人間の時と半獣の時では能力が違うのよ。半妖みたいな存在と言う認識でいいわ。で、その能力を使って人里を消して被害が出ないようにしているの」
「成程……」

能力にも色々あるのだなと龍也は思った。

「つまり、この紅い霧をなんとかしないと人里には行けないって事か……」
「そういう事ね。霊夢は何やってるんだか……」
「霊夢?」

知らない人物の名前に龍也は首を傾げる。

「博麗霊夢。博麗の巫女でこう言った異変を解決するのが仕事……なんだけど」
「なんだけど?」
「一向に動く気配がないのよねぇ。この霧を自然現象か何かと勘違いしてるのかしら」

博麗霊夢と言う人物からダメダメな印象を龍也は受けた。

「紅魔館にレミリア・スカーレットか……」

この紅い霧を何とかしないと情報収集等もできないと言う事を龍也は理解する。
なので、龍也は自分が解決しに行こうと思った。
しかし、自身にそれだけの力あるかどうかと言う疑問が龍也の中に存在している。
だが、それ以前に吸血鬼を見てみたいと言う強い気持ちが龍也にはあるのだ。
どうすべきかと考えるが。中々答えがでない。

「行って見たいって顔をしてるわね」
「え?」

考え事をしている最中に幽香から声を掛けられた為、龍也は驚いた様に顔を上げる。

「そんな顔してるわよ」
「そう……ですか?」
「そうよ。紅魔館までの道順は教えてあがるから、やばいと思ったら途中で引き返したらどうかしら?」

幽香にそう言われて、それで良いかなと龍也は感じ始める。
今までの自分の人生はわりと行き当たりばったりだったし、それも良いだろうと龍也は思った。

「じゃあ……お願い出来ますか?」
「ええ、良いわ。あ、貴方の着ていた服はそこに置いてあるから。それと、破れてた部分はちゃんと縫って置いたし、洗濯もして置いたから」

そう言いながら幽香は龍也の学ランやらワイシャツが置いている場所を指さすと、

「ありがとうございます」

龍也は頭を下げる。

「別に構わないわ、それ位」

そう言って幽香は部屋から出て行った。
それを確認した龍也は置いてある自分の服を取り、着替えて部屋の中から出て行く。





















「ここから真っ直ぐ行けば大きな湖があるの。そこまで行ったら湖の反対側に行き、反対側に着いたら真っ直ぐに歩きなさい。そうすれば紅魔館には着くわ」

そう言われ、龍也は幽香が指差した方を見つめる。

「色々とありがとうございました」

礼を言いながら龍也が頭を下げると、

「良いのよ。あ、そうそう別に敬語は使わなくて良いわ」

幽香は敬語を使わなくていい言って来た。

「でも……」

幽香は龍也にとって恩人だ。
そんな相手にとタメ口で良いのかと龍也は頭を上げて考える。
悩んでいる龍也に、

「良いから」

幽香は再度使わなくて良いと言う。
だからか、

「分かり……いや、分かった」

龍也は幽香に敬語を使うのを止め、紅魔館を目指して歩き出した。




















龍也の背中が見えなくなると幽香は笑みを浮かべ、思う。
自分は非常に運が良いと。
そして、この異変の始まりを思い返す。

紅い霧が出始めた時はあの吸血鬼は何を考えているんだと幽香は思いながら自身の力で太陽の畑一帯に有った紅い霧を全て吹き飛ばし、花の無事を確かめて花に水を遣る。

この異変は霊夢あたりが解決するだろうと思い、幽香自身は特に行動を起こす事はなかった。

それから何日か経った後、香霖堂に行ってみると非常に珍しい花の種が有ったので購入。
帰り道、非常に気分も機嫌も良い時に魔法の森の中で下級妖怪の群れに襲われている人間が目に映った。

紅い霧が出ている時に人里の人間が出歩くことは無いし、その人間の服装は何年か前に香霖堂の店主が言ってた外の世界のものだろうと推察する。
なので、外来人かと幽香は思った。

普段であれば気紛れでも起こさなければ助け様とはしなかったが、その時の幽香は気分も機嫌も良かっのでギリギリの状態になったら助けて上げ様と思い、幽香は成り行きを見守る事にする。

そしてその外来人が殺されそうになったので助け様かと幽香が行動を起こそうとした瞬間、その外来人が襲ってきた下級妖怪を炎で消滅させたのだ。

それを合図にしたかのように次々とその外来人……龍也に下級妖怪が襲い掛かるが、龍也はその全て返り討ちにする。

下級妖怪を全滅させた後、龍也は糸が切れた人形の様に倒れてしまった。
その後、幽香は龍也を自分の家に連れ帰り介抱したのだ。




















「ふふ」

幽香の顔に自然と笑みが浮かぶ。

戦っている姿と介抱している時に気付いた龍也の潜在能力の高さ。
威力は大分低くなっていたが、ほぼ無意識の状態で使った能力を扱って見せた龍也の順応性の高さ。
会話と仕草で気付いた龍也の内心……戦いと強くなることを望む心。

尤も、これらの事は龍也本人が気付いてる可能性は低い。
だが、そんな事は幽香にとってどうでも良い事である。
何故ならば、風見幽香は一つの確信を得たからだ。

四神龍也は誰よりも強くなると言う確信を。
勿論今は弱い。
今の龍也と幽香が戦えば文字通り一瞬で龍也は負ける。
だが、鍛え続ければ何れは最強という名を龍也は欲しいが儘にするだろう。
そして今回のこの異変。

「ふふ」

また幽香の顔に笑みが浮かぶ。





















「悪いわね、レミリア・スカーレット。まぁ、欠片も悪いとは思っていないけど。レミリア、貴女には龍也を強くする為の踏み台になって貰うわ。
私の予想が正しければ自身の能力を知るかはさて置き龍也の能力は覚醒する。龍也自身の基本能力も飛躍的に上昇する事になる……。
そして、龍也。貴方がそれ相応の強さを手に入れた時……私と対等以上の強さを手に入れたその時は……私と戦いましょう、龍也」





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