「ふっ!!」

炎を纏わせた腕を振り払い、自分に向かってきた弾幕を龍也は掻き消す。
レミリア・スカーレットと言う吸血鬼が主の紅魔館と言う館を目指して森に入り始めたばかりの頃は紅い霧を除けばごくごく普通の静かな森であった。
しかし、森に入って暫らくすると弾幕が飛んで来ると言う賑やかな事態になったのだ。

「今の……多分妖精……だよな?」

幽香に教えて貰った事を思い出しながら、龍也は弾幕を撃ってきた存在を確認する。
小人や子供に羽を生やした様な存在。
幽香の話通り、妖精で間違いないだろう。
その数、十二。
龍也は自分に弾幕を放って来ている妖精の姿を一通り目に入れた後、

「しかし……やりにくい、なっ!!」

腕に纏わせている炎を強くしながら、もう一度腕を振るって弾幕を掻き消す。
こういった異変時には妖精も活性化やら凶暴化するものだと言う事も幽香が言っていた事だ。
だが、妖精はこちらに害悪を与えるような容姿ではない。
容姿は普通の人間の子供と大差ないのだから
幻想郷に来て最初に襲われた妖怪の様な存在なら兎も角、妖精の様な容姿では龍也もやり難い。
妖精は死んでも直ぐに生き返るらしいので気を使う必要はあまり無いだろう。
しかし、だからと言って妖精に対して積極的にそう言った事はしたいくないと言うのが龍也の心情だ。

だが、弾幕を振り払った後に掌に比較的大きな炎を生み出して睨みを利かせれば逃げていく妖精もいれば、逃げずに仕掛けて来る妖精もいる。
自分に向って来る妖精を見ながら、

「チィッ!!」

龍也は腕に纏わせている炎を消して突っ込んで来た妖精の突撃を紙一重で避け、軽めの裏拳を妖精の後頭部に入れる。
裏拳が当たった妖精は近くにあった木に激突し、ズルズルと木に顔を擦りつけながら落ちていく。
妖精が落ち切った後、龍也が近くまで行って様子を伺って見るとその妖精は目を回しながら気絶していた。
その事に安堵し、妖精が出て来なくなったのを確認すると

「ふぅ……」

龍也は一息入れる。
そして自分の掌をジッと見詰め、

「やっぱり……強くなってる」

ポツリとそう呟いく。
体力、力、速さ、反射神経、動体視力などが自分自身でも実感出来る程に上がっていたし、
妖精達が襲って来た時も慌てずに冷静に対処出来た。
まるで、妖精達よりも自分の方が強いと認識していたかの様に。
少なくとも、幻想郷に来たばかりの時の自分ではこうはいかなかったであろう。

この紅い霧のせいで正確な日数は分からないが、おそらくまだ一日も経っていない筈。
それなのにここまで飛躍的に強くなった。
強くなった理由として、龍也は思い当たる事が一つだけある。
それは、

「能力に目覚めたからか……?」

能力に目覚めた事。
今までの龍也との一番の違いは能力の有無。
それだけで……と龍也は思ったが、幽香に言ったある事を思い出す。
人間が扱う力は基本的に霊力だと言う事を。
その言葉を頭に入れながら、龍也は能力が目覚めた事で霊力も一緒に目覚めたのかと考える。
よく漫画やゲームなどではそう言った力で肉体などを強化する描写がある。

自分もそれなのだろうかと龍也は考えるが、そこで一つの疑問が生まれて来る。
霊力を扱った事など一度も無い自分にそんな事が出来るのかと。
そんな疑問が浮かんだのと同時に自身は本能的に霊力の扱い方を理解しており、無意識のうちにその力を行使しているのだろうかと言う可能性が龍也の頭に浮かんだ。
この他に考えられる事と言えば、能力に目覚めたと同時に人間の限界を超えたと言う事。
だが龍也自身、人間の限界がどれ位なのかと言うのを理解していない。
様々な可能性が龍也の頭の中を廻るが、

「……これ以上考えても答えは出そうにないな。先に進もう」

龍也はこれ以上考えても意味なしと判断し、森の奥へと足を進める。




















どれだけ歩いただろう。
あれから結構な時間は経った。
それまでの間に龍也は結構な数の妖精達からの襲撃を受け、先程と同じ様な要領で妖精達はに追い払っていく。
弾幕は炎で打ち消して威嚇して妖精を追い払う。
特攻して来たら気絶させる。
これを何度となく龍也は繰り返してきたが、龍也が肉体的な疲労を感じた様子は無い。
しかし、精神的な疲労は少しずつ蓄積している様だ。
だが、龍也はそれでも休まずに歩き続けている。
半ば、意地を張っている様にも見える。

「でっかい草だな……」

一際大きな草を見付けた龍也はその草を掻き分けながら進んで行く。
その行為を何度か繰り返すと大きな草はなくりなり、龍也の目には、

「湖……」

湖が映った。
それもかなり大きさの。
龍也は湖の近くまで走って近付く。

「幽香の言った通りならこの反対側に紅魔館があるんだよな……」

龍也はそう呟いて目を凝らして湖の先を見てみるが、紅い霧が邪魔でよく見えない。
もっとよく凝らして見てみると、建物の影らしきものが見える。
そこが目的地なかと思い、龍也は眼前の湖を見て、

「でかいな……泳いで行くって言うのは一寸無理そうだな。回り道をしなきゃならないな」

湖を直接渡って行くのは不可能であると判断する。
船やボートを作って向こう岸に行こう言う案も考えたが、龍也にそんな物を作る技量はない。
空を飛んで行けば楽だろうが、それも無理。
何故ならば、龍也は空を飛ぶ事が出来ないからだ。
そうなると残された手段は一つ。
湖の円周を沿う様に歩いて行く事。
また結構な距離を歩く事になりそうだと龍也が思っていると、

「チョーッと、待ったーーーーー!!!」
「ん?」

何所からかそんな声が聞こえて来る。
声が聞こえて来た方に龍也が振り向くと青い髪に氷出来た羽、青い服を着た妖精の女の子が龍也の近くに降りて来た。
ここまでの道中であった妖精とは会話らしい会話はなかったが、龍也の近くに現れた妖精は普通に声を掛けて来たではないか。
その事からちゃんと会話できる妖精もいるのかと龍也は思いながら、

「俺に何か用か?」

何の用かと尋ねる。

「ここはあたいの縄張りよ!! 何勝手に入って来てるのよ!!」

妖精の女の子は龍也の訪ねた事に大きな声でそう返す。
どうやら、自分の縄張りに龍也が入って来た事が気に喰わない様だ。
ここでどうこう言っても余計な戦闘を生みそうだと龍也は感じ、

「なるほど、ならすぐに出て行くよ」

それだけ言って踵を返す。

だが、

「ふっふっふ……」
「?」

急に妖精の女の子が笑い出す。
何事かと思って龍也が振り返ると、

「あたいの縄張りに入って唯で帰れるとは思わない事ね。お仕置きをしてあげるわ!!」

妖精の女の子はそう言い放ち、龍也に向けて弾幕を放って来た。

「なっ!?」

それに対し龍也は驚きの声を上げる。
弾幕を放った事にではない。
目の前の妖精が放って来た弾幕の量、密度、速さにだ。
今まで襲い掛かって来た妖精達が放つ弾幕とは全て桁が違う。
その事に驚くも、それは一瞬。
龍也はすぐさま右側に跳び、弾幕を回避する。
そして再び妖精に目を向けると、

「ッ!?」

再び驚きの声を上げそうになる。
何故ならば、先程と同じ弾幕が目の前に迫って来ていたからだ。
龍也は直ぐに視線を体が向いている方に戻し、飛び込み前転を行って弾幕を回避する。
そして回転している最中に龍也は見た。
あの妖精が再び弾幕を放って来た事を。
再び飛んで来た弾幕に対し、龍也は前転が終わった瞬間に大地を蹴って避け様する。
だが、

「ぐ!?」

そうはいかなかった。
飛んできた弾幕の一発が龍也の左腕に当たってしまったからだ。
龍也が予想していたより弾幕は速かったのである。
ダメージを受けた左腕の様子を見ようと目を向けると、

「氷っている!?」

自身の左腕が氷っている事が分かった。
手から肘の部分までが。
ここまでの力があるとは思っていなかったと相手を甘く見ていた自分の間抜けさを龍也が痛感していると、

「ふっふっふ、どーだ!!」

この状態を引き起こした妖精が勝ち誇ったかの様にに胸を張り、

「これが氷の妖精、チルノの力だ!!」

名乗りを上げる。
その名乗りを聞き、龍也は氷の妖精という言葉と氷り付いた左腕を見て分かった事を纏めていく。
目の前の妖精……チルノの能力は氷に関するものだと言う事。
チルノは今まで襲ってきた妖精よりもずっと強いと言う事。
今まで戦って者の中では間違いなく一番の強敵である。

「フフン、あたいったら最強ね」

だが、その動きや弾速は反応仕切れない程じゃない。
そして相手の力や能力が氷が主体なら……勝機は十分にある。
龍也はそこまで考え、

「おい」

チルノに声を掛ける。

「何?」

その声にチルノが反応すると、

「俺の名前は四神龍也だ。」

龍也は自分の名を名乗る。

「? 何よ急に」
「よっく覚えておけ……」

そう言いながら龍也は左腕に力を籠める。

「お前を」

そして、

「倒す」

左腕から

「男の名だ!!!!」

炎を生み出し氷を溶かす。

「火!?」

龍也の左腕から生み出された炎を見て、チルノが怯えたかの様な声を上げる。
今の反応から察するに、やはりと言うべきかチルノは火が苦手な様だ。
だが、有利な状況になったとしても龍也は油断をする気はない。
目の前の相手は見た目と強さが一致しないからだ。
只の子供。
只の妖精。
そう思い、挑めば地に伏しているのは自分になってしまうからだ。
龍也は気合を入れ直し、

「フッ!!」

一気に駆ける。
駆けながら右腕に炎を纏わせ、チルノが眼前に入ったのと同時に殴り掛かった。

「わっ!?」

龍也の拳が当たる前にチルノは後ろに飛び上空へと逃げる。
攻撃を避けれた事でチルノが一息入れるも、龍也は直ぐに大地を蹴って跳ぶ。
そしてチルノに肉迫すると同時に蹴りを放つ。
が、チルノが更に高度を上げた為に龍也の蹴りは空を切るだけに終わる。
そして蹴りを放ち切ったのと同時に龍也は地上へと落ちて行く。
龍也が地面に着地するのと同時に、

「なーんだ、アンタ飛べないじゃない!!」

チルノは龍也が飛べない事を指摘し、余裕がある表情になる。
龍也が飛べない事に知ったからからであろう。
更に優位な立場になろうと考えたからか。チルノはより高度を上げ、

「喰らええええ!!」

そこから弾幕を放つ。

「チィッ!!」

迫って来る弾幕を見ながら龍也は舌打ちしながらその場を離れる。
あんな遠距離から攻撃されては龍也に攻撃手段が無い。
何とかしなければと龍也は思いながら弾幕を回避していくと、チルノの放った弾幕が急に方向を変えて来た。
その事から、

「追尾機能があるのか!?」

龍也は追尾機能があるのではと考えた。
考える時間もくれないのかと思いつつ、龍也は避けるのは無理と判断する。
ならば、迎撃すれば良いと考えて両手で拳を作る。
そして両腕に纏わせている炎の出力を上げ、

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

連続で拳を振るって弾幕を迎撃していく。
全ての弾幕を迎撃した後、龍也は構えを解いてチルノの方を見て思案する。
どうするべきかと。
このまま戦っていても龍也はチルノに攻撃出来ず、チルノの弾幕を迎撃するだけと言う事態になってしまう。
チルノの方が有利な状況なのは火を見るよりも明らかだ。
このままでは龍也は消耗する一方である。
何か手はないかと龍也は考えを廻らせ様としたが、チルノはその時間も与える気は無い様で直ぐに追撃の弾幕を放って来た。

「く……そっ!!」

龍也は悪態を付きながら拳を突き出す。
どうやって向こうまで攻撃を届かせるか考えながら。
すると、

「……え?」

龍也の拳から拳の形をした炎の塊が撃ち出された。
これには龍也も驚いたがチルノも驚いた。
龍也は拳から炎の塊が撃ち出された事に。
チルノは自身の放った弾幕を打ち消しながら進んでくる炎の塊に。
その炎の塊は途中で驚きから脱したチルノの避けられてしまった。
龍也は避けられた事を気にせずに両腕に纏わせている炎を消し、自分の掌を見詰める。

龍也が自分の掌を見つめている中、チルノはそれをチャンスと思ったのか大量の弾幕を撃ち出す。
今度は消されない様にと。
弾幕が迫って来ている事に気付いた龍也は、迫って来ている弾幕に掌を向ける。
試して見るかという気持ちで。

そしてイメージする。
大量の炎の弾幕を。
すると、龍也の掌から大量の炎の弾幕が打ち出される。
撃ち出せれたそれはチルノの放った弾幕とぶつかり、相殺していく。

それを見た龍也は一つの確信を得る。
自分の生み出しているこの炎はある程度の自由が利くと。
ならばと龍也は思い、掌をチルノへと向けて再び炎の弾幕を放つ。

「わっ!!」

だが、放たれたそれはチルノに易々と回避されてしまう。
どうやら、距離が離れすぎている様だ。
このままここで撃ち続けても炎の弾幕がチルノに当たる確率はかなり低い。
そう考えた龍也は大地を蹴って跳躍し、チルノに迫りながら炎の弾幕を放つ。
先程よりも命中精度が上がったものの、その弾幕は掠りはしたが直撃はしない。

龍也が跳躍で到達出来る高度に着くと同時に落下し始める。
それを見たチルノはお返しと言わんばかりに弾幕を放つ。
放たれた弾幕は比較的大きな弾幕だ。
その弾幕を見た龍也は拳で迎撃するのは分が悪いと判断し、剣をイメージしながら右腕を振るう。
すると龍也の右手から炎の剣が生み出され、弾幕の一つを焼き斬る。
弾幕は一つ焼き斬ったとしても、弾幕はまだまだ残っているので、次の弾幕を迎撃する様にして龍也は左腕を真横に振るう。
その手にも炎の剣が握られており、弾幕を焼き斬る。
そして、龍也は左右の剣を使いながら弾幕を捌いていき、全ての弾幕を捌ききったのと同時に着地した。

龍也は自分の力の応用性に驚きつつ、チルノに目を向ける。
チルノは用心しているのか攻撃をせずに龍也の様子を見ているだけ。
対する龍也もチルノの様子を見つつ思う。
今の自分の跳躍力ではチルノを自分の間合いに入れる事は出来ないと。
せめて空中でもう一度跳躍が出来ればと龍也が考えていると、チルノが再び弾幕を放って来た。
それを見た龍也は何かを決心した表情をし、弾幕に向かって跳ぶ。
そして弾幕が直ぐ近くにまで来た瞬間、龍也は足を大きく振り上げ弾幕を踏む。
そう、龍也が決心した事とは弾幕を足場すると言う事である。

無論チルノの弾幕には命中したものを氷り付かせると言ったものもあったので、踏み込んだ瞬間足が
氷付く可能性もあったが……そうはならなっかた様である。
少々分の悪い賭けであったが、その賭けに龍也は勝った。

龍也はそのまま弾幕を足場にしてもう一度跳躍。
そしてチルノに肉迫し、斬り掛かろうとしたが、

「な……に……」

龍也が斬り掛かろうとした場所にチルノは居なく、その更に上の位置にチルノは居た。
飛べない龍也と飛べるチルノ。
その差が今、明確に現れた。
自分のやろうとしている事に気付いて高度をより上げたのかと思って龍也が驚愕している間にチルノは龍也に向けて弾幕を放つ。
それに龍也が気付いた時にはもう既に目の前に弾幕が迫って来ていた。
この距離では迎撃は不可能であると判断した龍也は二つ炎の剣を消して両腕で交差させ、
防御の体勢を取る。
その瞬間に、

「ぐっ!?」

龍也の両腕に弾幕が直撃する。
弾幕を受けた時に生まれた衝撃は強く、龍也は弾かれる様にして体勢を崩しながら落ちて行く。
が、龍也は強引に体を動かして体勢を立て直す。
同時に後どれ位で地面かと思い龍也が下に目を向けると、

「湖!?」

湖が龍也に目に映る。
弾かれた時に湖に飛ばされたのだろうと龍也は考え、直ぐに不味いと思った。
湖に落ちた瞬間に湖を氷り付かされたらその瞬間負けてしまからだ。
先程の様に体の一部分が氷らされただけなら未だしも、体全体が氷らされたら意識を保っていられるか分からない。
足をバタつかせて足掻いてみるものの、落下が止まる事はなかった。
それでも龍也は足掻き、何かを掴もうと手を伸ばす。
だが、その手は空しく空を切る。
それでも龍也は足掻き続ける様にして手を伸ばす。
その時、

「…………え?」

龍也の手は何かを掴んだ。
龍也は恐る恐る掴んだ所に目を向けるが、何も無い。
そう、そこには何も無いのだ。
だけど、何かを掴んでいる。
そこで龍也は考える。
自分は何をし様としたのかと。
何を成そうとしたのかと。






「……何かを集めて固め様とした」






無意識のうちに、龍也の口からそんな言葉が漏れた。
自分が発した言葉を認識したのと同時に龍也はそれを意識し、足で同じ事をし様とする。
集め、固め様と。
するとどうだろう。
龍也の足元には見えない足場が出来ていた。
龍也はそれ何度が足で触れて確かめてみる。
そこに足場はちゃんと存在している。
その事を確認したのと同時に龍也は掴んでいた手を放し、そこに着地すると同時に一気に跳躍すし、上昇が終わった瞬間にまた足場を作って跳躍する。
それを何度か繰り返しチルノと同じ高さに龍也が辿り着くと、

「ふ、ふん!! 飛べる様にになったからってあたいに勝てるとは思わない事ね!!」

チルノは多少焦った様子を見せる。

「それは……どうかな? もうお前だけが空を飛べるって言う優位性は無くなったぜ」

龍也がそう言った瞬間、チルノが弾幕を放って来た。
龍也はそれを右に跳んで避ける。
跳んだ先で向き直ると、弾幕が再び飛んで来たので龍也はまた右に跳んで避ける。
龍也が弾幕を避け切ったタイミングで三度弾幕が飛んで来たので、今度は左に跳んで弾幕を避ける。
また右に跳ぶと思っていたから、チルノは弾幕を放ち損ねてしまう。
それをチャンスだと思った龍也は、正面からチルノに突っ込んでいく。
正面から迫って来た龍也に驚いたチルノが掌を龍也に向け弾幕を放とうとするが、弾幕が放たれるより先に龍也がチルノの掌を左手で掴み持ち上げ、
右手から炎を生み出し殴り掛かろうとすると、

「ひっ!?」

チルノは怯えた表情をしながら悲鳴を上げる。
その悲鳴が聞こえたからか龍也は殴り掛かるの止めて炎を消し、チルノの襟元を掴んで一本背負いの要領で森に向けて投げ飛ばす。
悲鳴を上げながら森に消えていくチルノを見ながら、

「……甘いのかな、俺は」

ポツリとそう呟き、思う。
予想外の事態は遭ったが得るものはあったと。
一番の収穫は空を飛べる様になった……と言うには少し妙だが、空中の移動が可能となった。
湖の円周を沿う様に歩くよりは大幅な時間の短縮が望めるであろう。

「……よし、行くか」

龍也は気合を入れながら湖の先を見据え、紅魔館を目指して空中を駆けて行く。










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