龍也が紅魔館の中に入り、咲夜と戦ってから結構な時間が流れた。
だが、龍也は一向に次の階へと続く階段を見付けられないでる。
龍也のレミリア・スカーレットは最上階に居ると考えているので、次の階へと続く階段が見付からなければ話しにならない。

「紅魔館って迷路みたいだな。紙に書かれた迷路ならだったこんなに手古摺る事はなかったんだろうな……」

龍也はそんな事を呟きながら周囲を見渡す。
龍也が周囲を見渡している間に何時の間にか現れた妖精メイド達が龍也に向けて弾幕を放つ。
妖精メイドが放った弾幕は龍也へと向って行くが、龍也は避ける素振りを全く見せない。
龍也が避け様としなかった為、妖精メイドが放った弾幕は龍也に次々と命中する。
弾幕が命中していると言うに龍也はそれを気にした様子がない。
何故か。
それは咲夜との戦いで目覚めた力を使っているからだ。
咲夜との戦いで目覚めたのは地の力。
この力を使っている時の龍也は防御力が極めて高くなる。
妖精が放つ弾幕など気にならない程に。
それ故に龍也は妖精が放つ弾幕を避けたり迎撃をしたりせずに無視しているのだ。
何かを探している時などに邪魔が入っても無視出来ると言うのは非常にありがたい。
無視出来ずに他に意識を向けて仕舞えば、何処を探していたか分からなくなる可能性があるからだ。
そんな風に周囲を見渡しながら歩いて行くと曲がり角に差し掛かる。
他に道が無いので龍也はその道を曲がると、

「……ここ、通ったな」

既に通った道に出てしまった。
本当に迷路と変わらないなと龍也は思いながら、

「なぁ、次の階に続く階段って何所にあるんだ?」

さっきから自分に弾幕を放ってくる妖精メイドに次の階へと続く階段が何所にあるのかを尋ねてみる。
すると、妖精メイドは話す事は無いと言わんばかりに弾幕を放って来た。
そんな妖精メイドの対応に龍也はイラっと来たのか弾幕を避けて、自身の力を変える。
地の力から炎の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色は茶から紅へと変化する。
力の変換が完了するのと同時に龍也は右手から炎を生み出し、

「りゃあ!!」

右腕を振るって迫って来た弾幕を炎で掻き消す。
弾幕を消し終わると、龍也は炎の出力を上げて妖精を威嚇する。
それを見た妖精メイドは一目散に逃げて行く。
その様子を見た龍也は、

「……はぁー、何八つ当たりしてるんだろ。俺」

溜息混じりにそんな事を呟く。
今の対応は少々大人気なかったかもしれない。
若しかしたら、次の階へと続く階段が見付からない事に龍也は知らないうちにストレスが堪っていたのかもしれない。
龍也は気持ちを入れ替える様にして体を伸ばしたり深呼吸をし、龍也は再び足を進め始める。





















「……やっと階段を見つけた」

あれから暫らく歩き通した結果、漸く次の階へと続く階段を龍也は発見した。
その階段が在った場所は、

「一応……これも灯台下暗しって言うのか?」

何と、龍也がこの階に来た場所の近くであった。
この階に来た時にもっとよく探していれば直ぐに次の階へ行く事が出来たであろう。
しかし、咲夜と戦ったお陰で新たな力に目覚める事が出来たので一概にこの階を彷徨った事は無駄であったとは言えない。
まぁ、トントンかなと龍也は思いつつ次の階へと向う。
そして次の階に着くと、

「……ッ!!」

龍也は空気が重くなったのを感じる。
空気の重さから、この階にレミリア・スカーレットが居るのではと龍也は思い始めた。
そんな事を思ったから、龍也は少し緊張し始める。
緊張し始めた気分を落ち着かせる為、

「すぅー……はぁ……」

龍也は深呼吸を行う。
それを何回か繰り返せば気分も完全に落ち着いていく。
気分が完全に落ち着くと、

「……よし!!」

両頬を叩いて気合を入れ直し、歩き始める。
空気が重い方へと。
歩き始めて少しすると、一際大きな紅い扉の前に辿り着いた。
この先にレミリア・スカーレットが居るのだろうか。
龍也はそう思いながら扉を開け、中に入って行く。
扉の中の部屋は咲夜を運んだ部屋よりも圧倒的なまでに広い。
龍也は周囲を見ながら進んで行くと、

「……ん?」

光が差し込んで来た事に気付く。
気になった龍也は光が差し込んできた方に顔を向けると、

「月が……紅い……」

窓の外に紅い月が出ているのが見えた。
何故紅いのかと龍也は一瞬思ったが、直ぐにこの紅い霧のせいだと理解する。
紅い霧が月を紅く見せているのだ。
そう理解したのと同時に龍也はもうこんな時間になっていたのかと驚いていると、窓の外から差し込んで来る月光が部屋全体を照らしていく。
月光のお陰で部屋の全体が見えそうになると、

「いらっしゃい」

そんな声が聞こえて来た。
龍也は誰が声を発したのかを確認する為に声が聞こえて来た方に顔を向ける。
龍也が顔を向けた先には変わった帽子を被り、背中から蝙蝠の翼の様な物を生やし、少し薄い青い髪をした女の子が大きな椅子に座っていた。
見た目はただの女の子。
だが、見た目が女の子だからと言って龍也は油断をする気はない。
チルノにしろ美鈴にしろ咲夜にしろ、見た目と強さが一致していないからだ。
龍也は目の前の相手を油断無く見ながら、

「あんたがこの館の主、吸血鬼のレミリア・スカーレットか?」

レミリア・スカーレットであるかを尋ねる。

「ええ、私が吸血鬼のレミリア・スカーレットよ」

大きな椅子に座っている女の子は自身がレミリア・スカーレットである事を肯定した。
どうやら合っていた様である。
見た目は子供だが館の主で吸血鬼と言う位だ。
この館で一番強いのだろう。
龍也はその事を頭に入れ、紅い霧に付いて問おうとしたところで、

「貴方は名前を名乗ってくれないのかしら?」

レミリアが龍也の名を問うて来た。

「龍也。四神龍也だ」

龍也が自分の名乗ると、

「四神龍也ね」

レミリアは龍也の名前を呟きながら龍也の方を面白そうな表情を浮かべた。
そして、

「それで、私に何の用かしら?」

自分に何の用かと尋ねる。

「……一応聞いておこうか。紅い霧を出しているのはあんただな?」

龍也は用件を答える前に確認を取る様に紅い霧を出しているのがレミリアであるのかを問い掛けた。

「ええ、その通りよ」

レミリアが当たり前だと言わんばかりの表情で肯定したので、

「なら単刀直入に言わせてもらう。紅い霧を消してくれ」

龍也は紅い霧を消してくれと口にする。
しかし、

「いやよ」

悩む時間も無く一瞬で断られた。

「理由を聞いても?」
「私、日光が苦手なのよ」
「……つまり、あの紅い霧で自分に日光がこないようにしてると」
「正解」

レミリアは可愛らしい笑みを浮かべて正解と口にする。

「つまり、紅い霧を消す気はないと」
「その通り」

レミリアがそう言ったのと同時に交渉決裂だと龍也は感じた。
まぁ、元々交渉などあって無いようなものであるが。
龍也は自分の力を火の力に変えて左手から炎の剣を生み出し、炎の剣の切っ先をレミリアに向ける。

「なら、力尽くか」
「あらあら恐いわ。こんな女の子にそんな物を向けて」
「そう言う台詞は恐がってから言うものだぜ」

龍也の言う通り、レミリアの表情から恐怖を全く感じられない。
恐怖よりも面白いと言ったものが感じられる。

「それに……」
「それに?」

レミリアが首を傾げると、

「俺がこのまま帰ると言って、大人しく返す気はあるのかい?」

龍也は自分を大人しく返す気があるのかと言う。

「無いわね」

龍也が言った事にレミリアはそう返して椅子から降り、数歩前に出る。

「良い感じに月も出て来た事だし……」

レミリアは窓の外に見える月を一瞥した後、龍也に向き直り、

「少し本気で遊んであげるわ」

翼を羽ばたかせて龍也目掛けて一直線に向かって行く。
龍也は向かって来るレミリアに右手を向け、炎の塊を放つ。
レミリアは炎の塊が来る事が分かっていたかの様に高度を上げて避ける。
高度を上げたレミリアは龍也の頭上を通り過ぎて龍也の背後に降り立つ。
そして龍也に肉迫して己が爪で引き裂こうとする。
龍也はそれを振り返ると同時に左手の炎の剣で受け流し、右手から炎の剣を生み出して斬り掛かった。
だが、龍也が振るった炎の剣はレミリアにあっさりと掴み取られ、

「あらあら、熱くて火傷しちゃいそう」

そんな事を言われてしまう。
レミリアは火傷しそうと言っているが、言葉とは裏腹に涼しそうな顔をしている。
要するに温過ぎると言っているのだ。
解り易過ぎる挑発。
その挑発を受けた龍也は、

「チィ!!」

苛立ち共にレミリアに向けて蹴りを放つ。
レミリアは炎の剣を掴んでいた手を放し後ろに跳ぶ事で龍也の蹴り避ける。
そして龍也から少し離れた場所に着地すると、

「そんな怒った顔をしたら良い男が台無しよ」

再び挑発を行う。

「うるせえ!!」

いい様に遊ばれている。
龍也はそう感じて腹を立てるが、直ぐに冷静になる。
レミリアは頭を熱くしたままでどうにかなるような相手ではない。
そう思い、龍也は炎の剣の出力を上げる。
攻撃が効かないのでは如何し様も無いからだ。

「ふーん……」

龍也が炎の剣の出力を上げた様子を見たレミリアは、

「そのまま掴んだりしたら少し熱そうね……」

右手から真紅の槍を生み出す。

「私もこれを使わせてもらおうかしら」

レミリアは真紅の槍を回転させ構えを取る。
レミリアが生み出した真紅の槍を見ながら、

「……何かのエネルギーで出来ているのか」

龍也がそんな事を呟くと、

「ご名答。この槍は私の魔力で生み出された物」

レミリアは自身の槍が魔力で出来ている事を口にする。
同時に、レミリアは一瞬で龍也の目の前まで移動して真紅の槍を振るう。

「ッ!?」

それに何とか反応した龍也は右手の炎の剣で真紅の槍を受け止め、左手の炎の剣で反撃を行う。
だが、その炎の剣が当たる直前にレミリアは斜め後ろに跳ぶ事でそれを避ける。
そして真紅の槍を両手で持ち、龍也の頭上目掛けて振り下ろす。

「ぐっ!!」

龍也は二本の炎の剣を頭上で交差させて真紅の槍を受け止める。
二人が持つ得物がぶつかり合い、このまま均衡するものだと思われた。
だが、

「ぐう……ぅぅ……」
「あら、少し力を入れ過ぎたかしら?」

レミリアの真紅の槍が龍也の炎の剣を少しずつ押し込んでいった。
そう、龍也がパワー負けしそうになっているのだ。
体格では龍也が勝っているが、力はレミリアが上。
しかもレミリアの台詞から、レミリアはまだまだ力を上げる事が可能である様だ。
このままでレミリアの真紅の槍が二本の炎の剣を押し切ってしまい、龍也は叩き斬ってしまうであろう。

「ぐううう……ぅぅぅ……」

龍也は堪える。
歯を喰いしばり、腕に力を籠めて。
だが、それも限界に近づいてきた。
完全に押し切られてしまうと思われたその時、

「う……うう……ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

突如、龍也の体中から青白い光が爆発的に溢れ出す。
するとどうだろう。
劣勢だった龍也がレミリアの真紅の槍を押し返し、レミリアを上空へと吹き飛ばす。
吹き飛ばされたレミリアは空中で一回転をし、床に足を着けた。
レミリアが着地したのと同時に龍也から溢れ出ていた青白い光が消える。
その時、龍也は自分がした事に疑問を疑問を覚えた。
今、自分は何をしたのかと言う疑問を。
その疑問の答えは、

「霊力を一気に開放して身体能力を一時的に爆発的に上げ、上げた力と霊力を開放した余波の二つで私を吹き飛ばした……か。中々面白い事をするじゃないか」

レミリアから聞けた。
霊力の開放。
レミリアはそう言った。
つまり、龍也は霊力を扱えている。
そこで一つの仮説が龍也の頭に浮かび上がった。
自分は既に霊力の扱い方を本能的に知っており、無意識のうちにそれを行使しているのではないかと言う仮設を。
それと同時に龍也は咲夜との戦いの終盤で自分が体中から青白い光……霊力を解放した事を思い出した。
その時の感覚は覚えていないが、たった今霊力を解放した感覚は覚えている。
ならばと龍也思い、試してみる事にした。
今感じた感覚を思い出しながら。
すると、龍也は自分の体の中に何かが駆け巡るのを感じる。
今のが霊力だろうか。
そう考えてみると違和感がない。
だからか、龍也は今のが霊力であると確信を得ると同時に今の感覚は完全に覚えた様だ。
つまりこれからは霊力を何時でも使えると言う事。
だが……と龍也は思う。
霊力は扱える様になったが自身の最大保有霊力が分かっていない。
まぁ、たった今霊力が扱える様になったので仕方が無いと言えば仕方が無いが。
仮に先程の様に霊力の解放を常時行って途中で息切れを起こしてしまったら目も当てられない。
そうなったら龍也はレミリアに為す術も無くやられてしまうであろう。
霊力の解放は先程の様に緊急時になった時のみに使おうと決心していると、

「考え事は終わったかしら?」

不意にレミリアがそう声を掛けて来た。
その声に反応した龍也はレミリア方に顔を向けると、構えも取らずに佇んでいるレミリアの姿が目に映る。
少し考え事に没頭していた龍也の隙など幾らでも在ったであろうに、レミリアはその隙を突く様に攻撃をする事はしなかった。
隙を突く様な事をしなかったのは絶対の自信と余裕の表れ。
隙なんぞ突かなくても倒せるとレミリアは言っているのだ。
目の前の相手はやはり油断出来ないと龍也は改めて思いながら構えを取り直す。

「時間掛けたみたいで悪かったな」
「別に構わないわ」

そう言ってレミリアは体勢を低くし、

「じゃ、いくわよ」

先程とは比べ物にならないスピードで龍也へと突っ込んで行き、真紅の槍を突き出す。
龍也は咄嗟に二つの炎の剣を交差させて防御の体勢を取ると、真紅の槍の先端が交差した部分に激突する。
最初はある程度均衡していたが、

「ぐあ!!」

龍也は突き出される様にして弾き飛ばされてしまう。
弾き飛ばされた龍也は、

「ぐっ!!」

床に激突して転がって行く。
床を転がって少しすると龍也は左足を使ってブレーキを掛けて体勢を立て直して立ち上がり、レミリアの位置を探し始めると、

「……居た!!」

直ぐに見付かった。
レミリアは上空を大きく旋回するように飛んでいる。
龍也が自分を見ている事に気付いたからか、レミリアは再び龍也へと突っ込んで行く。
龍也は突っ込んで来るレミリアにタイミングを合わせる様にして炎の剣を突き出す。
だが、レミリアは体を傾ける事で突き出された炎の剣を避け、龍也とすれ違う瞬間にレミリアは真紅の槍で肩を斬り裂く。

「ッ!?」

龍也が肩に鋭い痛みが走ったのを感じたの同時に鮮血が舞う。
血の噴出具合と感じる痛みからそこまで深く斬られた訳ではないと龍也は判断し、レミリアの方を向くと、

「どうしたの? もう終わり……って訳じゃないでしょ?」

レミリアは龍也から少し離れた位置に立ちながらそう口にする。
絶対の自信と余裕を感じさせる表情で。

「それこそまさか……だ」

龍也はそう返しながら、先程のやり取りでレミリアが自分のスピードを完全に上回っている事を理解した。
このままではレミリアに攻撃を当てる事は難しい。
そう考えた龍也は自身の力を変える。
炎の力から風の力へと。
すると炎の剣が消失し、龍也は両腕両脚に風を纏わされる。
力の変換が終わるのと同時にレミリアと龍也は少し驚く。
レミリアは龍也の力が変わった事に。
龍也は力の変換の速度が上がっている事に。
二人は驚いた動きを止めてしまったが、

「ッ!!」

龍也は直ぐに現状を思い出し、レミリアに肉迫して殴り掛かる。

「ッ!! 速い!!」

龍也の速さが大きく上がった為、レミリアは反応が遅れてしまう。
回避が間に合わないと判断したレミリアは龍也の拳が来るであろう場所に槍を持っていない腕を持っていく。
その瞬間、レミリアの腕に龍也の拳が激突する。
予想よりも重い拳にレミリアが若干目を見開くと、

「らあ!!」

龍也は真紅の槍を持っている手の方に向かって蹴りを放つ。
龍也の蹴りは見事当たり、レミリアの手から真紅の槍が離れる。
それを見た龍也は拳を突き出したままの腕に纏ってる風を竜巻にする様にして放つ。

「ッ!!」

レミリアは竜巻に呑み込まれる様にして吹き飛ばされて行く。
吹き飛ばされたレミリアを目に入れながら、龍也は風を纏い直して何時レミリアが出て来ても良い様に構えを取り直す。
この程度で倒せる訳がないからだ。
何時出て来るかと思いながら龍也はレミリアが吹き飛んだ場所を見ていると、

「やれやれ、服に埃が付いちゃったじゃない」

レミリアは服に付いた埃を手で払う様にしながら出て来る。
ダメージは殆どと言っていい程無い。
強いて言うなら、被っていた帽子が無くなった位だ。

「それにしても風か……能力が二つあると言うより大本の能力が二つの力を有していると言ったところか」

レミリアがポツリと呟いた推察を聞いて龍也は内心で少し驚く。
普通ならば能力が二つあると思う筈だが、レミリアは龍也の大本の能力が二つあると言うかなり近いところまで言い当てた。
流石は紅魔館の主と言ったところか。

「纏っている風は拳撃などの威力を上げ、それとは別にスピードも大きく上げる力もある」

龍也の力を確認するかのように呟く。
どうやら、風の力を使っている状態の龍也の力なども見抜かれている様だ。

「なら、私ももう少しスピードを上げる事にしましょう」

そう言って、レミリアはまた正面から突っ込んで来る。
スピードは今までよりも格段に上だ。
だが、風の力を使っている状態の龍也ならその上がったスピードにも付いて行ける。
レミリアが自分の間合いに入った瞬間に龍也は跳躍し、

「はあ!!」

レミリアに向けて突風を放つ。
しかし、それレミリアに容易く避けられてしまう。

「チッ……」

攻撃を外した事に龍也が舌打ちをすると、レミリアはまた大きく旋回しながら高度を上げて再び突撃を仕掛け様とする。
それに気付いた龍也は自身とレミリアの間に竜巻を発生させた。
レミリアが真正面から来れない様にする為だ。
レミリアは竜巻の両サイドを抜けて来るものだと龍也は思い、そこに目を光らせる。
だが、それは無意味な事となった。

「なっ!?」

何故ならば、レミリアが真正面から突っ込んで来たからだ。
竜巻を突き破る様にして。
これには龍也も予想外過ぎて思わず動きを止めてしまう。

「ッ!!」

龍也は直ぐに再起動するが、一瞬動きを止めたのがいけなかった。
龍也が気付いた時にはレミリアはもう目の前までに来ていたのだから。
攻撃を避ける為に龍也は咄嗟に体を捻るも、

「遅い!!」
「ぐっ!!」

レミリアの爪が龍也の胸元を斬り裂く。
龍也は胸元を押さえながら降下し、着地したのと同時に出血量を確認する。
掌には結構な量の血が付いていたが、胸元から滴る血の量はそれ程でもない。
その事に少し安堵した龍也はレミリアの方を見ると、レミリアも龍也と同じ様に着地しており、自身の指に付いている龍也の血を舐め採っていた。
その血を舐め採ると言う動作に一寸した妖艶さを龍也が感じていると、

「中々美味しい血ね」

龍也の血の感想を述べる。
その感想を聞き、

「……そーいや、お前は吸血鬼だったな」

龍也はレミリアが吸血鬼である事を思い出す。
戦っている最中にその事を少し忘れていた様である。
まぁ、吸血鬼なら血を飲むと言った行為にも納得出来ると言うものだ。

「あらあら酷いわ。忘れていたの?」
「忘れてたって訳じゃねーけどよ、戦いに吸血鬼だとか人間だとかあんまり関係ねーだろ?」
「それもそうね」

龍也の言い分にレミリアは少し納得し、自身の翼を羽ばたかせて空中に踊り出て、

「それじゃ、続きといきましょう」

瞬時に龍也へと肉迫する。
そして、自身の爪を使って龍也を刺し貫こうと手を伸ばす。
龍也は一歩後ろに下がる事で爪による刺突を回避し、間髪入れずに蹴りを放つ。
レミリアは床に足を着けるのと同時に身を屈める事で蹴りを避け、跳躍を行うのと同時に回転しながら龍也へと突っ込む。
それも頭から。

「ッ!!」

龍也は反射的に横に跳び、レミリアの突撃を避ける。
レミリアは突撃を避けられた事を気にせずに空中まで躍り出て反転し、紅い蝙蝠の姿を模した弾幕を龍也目掛けて放っていく。
紅い蝙蝠状の弾幕を目に入れながら龍也は迎え撃つ様に手刀を作りながら腕を振って風の刃を放つ。
紅い蝙蝠状の弾幕と風の刃は激突し、爆発と爆煙が発生する。
その爆煙を突っ切る様にしてレミリアが龍也へと肉迫し、己が腕を引く。
先程と同じ様に己が爪で龍也を刺し貫こうとしている様だ。
それに対して龍也は腕に纏わせている風の出力を上げて拳を放つ。
纏っている風をレミリアの爪に触れさせて弾き飛ばすのが龍也の狙いの様だ。
しかし、

「ぐぅ!?」

龍也の狙い通りには成らず、纏っていた風ごと龍也の腕はレミリアの爪に斬り裂かれた。
斬り裂かれた龍也の腕から血がポタポタと流れ落ちる。
だが、腕や手は動く様なので龍也が一安心しながらレミリアの方を向くと、

「残念ね。私にとってはその程度の風、あって無いようなものよ」

レミリアは己が爪に付いてる龍也の血を舐め採りながらそう口にする。
レミリアに力を持ってすれば龍也の纏う風などあって無い様なものであった様だ。

「……くそ」

龍也は自分の風など大したものではないと言われ、悔しそうな表情を浮かべながら考える。
どうやってレミリアにダメージを与えるかを。
生半可な威力の攻撃ではレミリアに大したダメージを与えられはしない。
かと言ってスピードを度外視した攻撃では容易く避けられてしまう。
ならば、狙うは必殺の一撃によるカウンター。
そこまで考えた龍也は右手の掌をレミリアに見えない様に動かし、掌から風の塊を生み出す。
準備は完了した。
後はレミリアが近付いて来るのを待つだけ。
これは辛抱強く待つしかないと龍也は思っていたが、龍也の狙いを知ってか知らずかレミリアは一直線に龍也へと向かって来た。
思った矢先にこれかと龍也は思いつつも、タイミングを合わせて右手を突き出す。
必ず当ると思われた龍也の必殺の一撃は、

「な……」
「へー……掌に風の塊を生み出してる。超小型で超高密度の台風とも言えるわね。中々器用な事が出来るじゃない」

レミリアに手首を掴まれて止められてしまった。
レミリアは龍也の掌にある風の塊を少し興味深そう眺めた後、龍也を投げ飛ばす。

「ぐっ!!」

地面に墜落し、倒れ込んだ瞬間に龍也の掌にあった風の塊は四散してしまう。
立ち上がって体勢を立て直し、レミリアの方を見るとゆっくりと龍也の方へ歩いて近づいて来る。
余裕の表れであろう。
ならその余裕を無くしてやると思いつつ、自身の力を変える。
風の力から地の力へと。
力の変換に伴って龍也の両腕両脚に纏わされている風が四散し、龍也の瞳の色が翠から茶に変わる。
龍也の力の変化を感じ取ったからか、レミリアは歩みを止めてしまう。
龍也はその隙を見逃さず、右手から土を生み出してレミリアの足元に飛ばして固める。

「これは土? 土を生み出した……」

レミリアが驚いている間に龍也は跳躍し、右手から土を生み出して土で出来た巨大な拳を作っていく。

「へぇ……」

レミリアは龍也が生み出した巨大な土の拳を面白そうな目で見る。
レミリアが龍也をそんな目で見ている間に、龍也は土で出来た巨大な拳をレミリアに向けて振り下ろす。
迫って来る拳をレミリアは左手で受け止める。
その拳を受け止めた瞬間、

「ッ!?」

レミリアは驚きの表情を浮かべる。
予想よりも重い一撃であったからだ。
足も土で変な風に固められたので踏ん張りも上手く効かないのも重いと感じた原因の一つだろう。
このままでは耐え切れないと思ったレミリアは破壊すると言った方法を取る。
右手を土の拳に叩き付けて土の拳に穴を空け、その中に右腕を固定させたのと同時に龍也を引き摺り下ろす様に右腕を動かし、左手の爪を土の拳に突き立てる。
すると、土の拳がレミリアの爪によって削られていきながら龍也とレミリアの距離が近付いていく。
そしてレミリアと交差する直前、龍也は土の拳をただの土に戻してレミリアとの間合いを取る。
龍也との距離が離れたのと同時にレミリアは土から足を引っこ抜き土を一瞥する。

「炎、風ときて土……地か。色々と使えて便利そうじゃないか」

そう言って龍也の方を見て、

「おまけに防御力……耐久力もかなり高まってる。交差する直前に貴方の手の甲に私の爪が当ったと言うのに……まさか薄皮一枚しか持っていけないとはね」

龍也の防御力を感心する感想を漏らす。
対して龍也の方はあまり心中穏やかではない。
何故ならば今の攻撃を外してしまい、防御を貫かれてしまったからだ。

今の状態の龍也は地の力を扱える事を除けば防御力がかなり高まっているだけで、パワーもスピードも
炎と風の力を扱っている時程では無い。
だから攻撃を避けれない様にして重量を増やしてでの攻撃をしたのだ。
だが、それも外れてしまった。
既に警戒されてしまった為、同じ手は通用しないであろう。

そして防御を抜かれてしまった事。
先の台詞から察するに、龍也の手の甲を薄皮を持っていったレミリアの一撃は本気ではない。
つまり、本気で来られたら被害は薄皮一枚では済まないだろう。
次は必ずその防御を抜く攻撃をレミリアは放って来る。

「……………………」

レミリアの姿を目に入れながら龍也はどうすべき考える。
もう一度土でレミリアの動きを封じるかと考えたが、そう易々と同じ手に掛かってくれはしないであろう。
かと言って、カウンター気味に土の拳を叩き込んだとしても土の拳を容易く破壊される可能性が高い。
ならば、炎か風かのどちらかを使うべきだと龍也は考える。
どちらの力を使うかの思考は一瞬。
自身の力を地の力から炎の力に変える。
炎のの力に変えた理由は単純に純粋な攻撃力、破壊力はこちらが上と判断したからだ。
瞳の色が茶から紅に変わったのと同時に龍也は右手の掌に小型の火炎球を生み出す。
小さいだけかと思われるが、そんな事はない。
その火炎球発する熱量は高く光り輝いているのだ。

「ふーん……力を凝縮して威力を底上げか。悪くない手ね」

レミリアにはバレバレではあるが別に問題は無い。
元々隠せる様な物ではないのだから。
問題はどうやって当てるかと言う事。
やはり、カウンターで当てるしかないかと龍也が考えていると、

「いいわ、撃って来なさい」

レミリアからそんな声が掛けられる。

「……何?」

龍也は疑問の声を発する。
それも当然だろう。
自分に攻撃を当てて来いと言うのだから。

「どう言う積りだ?」
「別に。ただのサービスよ」

つまり、当たったところで自分にとっては殆ど意味が無いとレミリアは言っているのである。
龍也はその物いいに少し腹を立てるが、相手が油断しているなら都合が良い。
当ててやる。
そう思い、龍也は火炎球をレミリアへと投げ付ける。
投げられた火炎球は一直線にレミリアへと向かい、激突して大爆発を起こす。
爆発の影響で爆煙が生まれ、レミリアは爆煙に包まれる。
龍也がその場所を見詰めて少しすると、

「今のは少し驚いたわ」

爆煙を翼で吹き飛ばしながら、無傷のレミリアが現れる。

「無傷……だと……!?」
「無傷じゃないわよ」

そう言って、レミリアは自身の翼の裏を龍也に見せる。

「ほら、ここ。少し火傷してるじゃない」

ほんの僅かな火傷。
どうやら、火炎球が当たる直前に羽で防御をした様だ。
だが、龍也が渾身の力を籠めて放たれた一撃で与えられたダメージは僅かな火傷。
これだけである。

「さて」

レミリアは翼を元の位置に戻して龍也の方を見詰め、

「続きといきましょう」

そう言い、笑みを作る。

「夜はまだまだ、これから何だから」












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