太陽の畑。
辺り一面、向日葵が咲き誇った場所。
その向日葵に水を遣っている者がいる。
水を遣っている者は四季の妖怪ともフラワーマスターとも言われている妖怪、風見幽香だ。

「ふふ……皆、元気に咲いているわね」

幽香はかなり機嫌が良さそうな表情で水を遣っていく。
そして、一通り水を遣り終えたところで

「ふぅ……」

幽香は一息入れる。
その後、龍也が向かった方向……紅魔館がある方向へと目を向け、

「居るんでしょう」

ポツリとそう呟く。
すると幽香の直ぐ近くの空間が割れ、中から一人の妖怪が出て来た。
出て来たのは隙間妖怪こと八雲紫である。

「あら、気付かれちゃったわ」

そんな事を言いながら紫が足を地に着けると、

「よく言うわ、気配丸出しで。あれじゃあ気付いてくださいと言っている様なものよ」

幽香はやれやれと言った感じで紫の方を向き、

「それで、何か用?」

太陽の畑にやって来た理由を尋ねる。
尋ねられた紫は扇子で口元を隠し、

「唯の暇潰しですわ」

そんな事を言ってのける。
暇潰しと口にした紫の表情を見て、

「……嘘ね」

幽香はその言葉を嘘であると断じ、

「龍也の様子でも見に来たんでしょ」

龍也の様子を見に来たと言う予想を口にする。

「龍也を幻想郷に連れて来たのは貴女だものね」
「あらあら、バレてしまいましたわ」

太陽の畑にやって来た理由がバレたと言うのに紫は表情を変えない。
相変わらずやり難い女だなと思いながら、

「……私なりの推論も入るけど、龍也を幻想郷に連れて来た理由……言ってあげましょうか?」

幽香は少し真面目な表情をしながら龍也を幻想郷に理由を口にし様とする。

「……言ってみなさい」

紫も少し真面目な表情をしながらその理由を言う様に促すと、

「幻想郷の存在が外の世界に露見する事を防ぐ為」

幽香は理由を口にする。
そして、

「…………………………」

紫の反応を見ながら幽香は、

「龍也の潜在能力は相当なもの。あれが何かの拍子で解放され、それが原因で幻想入りでもしたら
幻想郷の存在が露見しまう恐れがある。そうなったら情報隠蔽も大変だものね。普通の人間が偶々
幻想入りするのとは訳がまるで違うもの」

更に言葉を紡いでいく。

「……少し外れね」

幽香が口にした事を聞いた紫は少し外れと言う。

「私が龍也の存在に気付いたのは偶然。力がありそうだなって見ていたら隙間に隠れてたのに見付かっちゃったの」
「見付かった? 気配丸出しで?」

幽香は気配を丸出しだったので見付かったのではと問うと、

「ううん。気配を隠して」

紫からは気配を消していたのに見付かったと言う答えが返って来た。
龍也は外の世界に居た頃から力に目覚める片鱗があったのではと幽香は考えていると、

「龍也が望んでいたのもあるけど面白そうだと思って幻想入りさせたの」

紫はそう言ってこの話を締め括る。

「成程……」

まだ紫は何かを隠していそうな気はしたが、幽香は取り敢えずそれで納得した。
これ以上尋ねてもこの胡散臭い妖怪は何も話さないと思ったからだ。
そして一息吐いた後、

「ああ、それと龍也は幻想郷をどうこうし様と言った事は考えてないわ」

幽香は紫を安心させる言葉を口にした。
何故こんな事を言ったのかと言うと、八雲紫と言う妖怪は幻想郷を愛しているからだ。
自分の手で幻想入りさせたとは言え紫自身、そこまで四神龍也という存在を理解してはいない。
そこで龍也の人と為りを探りに自分に会いに来たのではと幽香は考えた。
尤も、どうやって龍也が幽香の所に居る事を突き止めたかはしらないが。

「……それはどうも」

紫は取り敢えず礼を言い、辺りを見渡して、

「それで、龍也は?」

龍也の所在を尋ねる。

「紅魔館」
「…………は?」
「だから、紅魔館よ」

幽香から返って来た言葉で紫は一瞬呆けてしまう。
幽香が龍也を紅魔館に送った理由が全く解らなかったからだ。
何の目的でそんな所へ送り込んだのか紫が考え込んでいると、

「龍也の本能は強くなる事と戦う事を望んでいるからよ。本人はその事を理解しているかは知らないけどね」

幽香が紫の考えている事を察する様に、龍也を紅魔館に送った理由を口にする。
それを聞き、

「だからと言って紅魔館ねぇ……」

紫は少し渋い顔になる。
そんな紫に、

「それなら問題ないわ。あそこの門番、紅美鈴は妖怪の中でもかなり温和なほう。龍也が殺されると言う事はまずない。かなりの加減をしながら戦ってくれるわ」

幽香は龍也を紅魔館に送っても問題ない根拠を口にする。

「成程ね」

紫が一応の納得を見せると、

「それに龍也は万の訓練より一の実戦、億の訓練より一の死闘と言う言葉が当て嵌まる。あの門番と戦うだけでも強くなれる」

幽香はそんな事を言い、

「追い込まれたのなら、おそらく龍也の潜在能力の一部も開放される筈」

更に言葉を続ける。
これは、龍也が下級妖怪に襲われて殺され掛けた時に見せたものから得た推論だ。
この推論は合っていると幽香は思っている。

「あの門番を倒せたのなら、レミリア・スカーレットの所までは行けるでしょう」

そのままレミリア・スカーレットの所まで行ければそれでよし。
道中で紅魔館のメイド長である十六夜咲夜にでも会ったのなら更に強くなって先に進むだろう。
だから龍也を強くすると言う意味合いでも紅魔館に行かせるのは都合がいいのよと幽香は続ける。
それを聞き、

「…………………………」

紫は何かを考える仕草をする。
紫の表情を見て、

「大丈夫よ。龍也はまだレミリア・スカーレットには勝てないだろうから」

幽香は紫が心配する様な事は起きないと言った様な声色でそう言う。

「……何がかしら?」

「霊夢が提唱したスペルカードルール……通称弾幕ごっこ。これを大々的に広めるにはこの異変は
絶好の機会だものね。この異変をスペルカードルールで解決すれば……ね」

スペルカードルール、通称弾幕ごっこ。
要は戦いにルールを持たせようというものある。
もっと解り易く言えば気軽に出来る戦いごっこ。
これが広まれば皆が皆、気軽に戦える様になると言うもの。
そうなれば、全体的に活気が落ちていた妖怪達にも活気が戻る事になるであろう。

「貴女の懸念は龍也が普通に戦ってこの異変を解決してしまわないかという事でしょ? 私は龍也に弾幕ごっこの事は教えてないしね」
「……一つ、聞いてもいいかしら?」
「何かしら?」

幽香が首を傾げると、

「何で私の考えている事が分かったのかしら?」

紫は何故自分の考えが解ったのかと言う事を問う。
その問いに、

「私が言い、貴女が悩んだものが全て幻想郷に関係する事だからよ。貴女は幻想郷を愛しているからね。
幻想郷に関する事の顔色の変化なら付き合いが長い者なら分かるわよ」

幽香そう答える。

「それで話を戻すけど、今の龍也じゃレミリア・スカーレットを倒す事は出来ないから貴女の心配は無用のものよ」
「……お気遣いどうも」
「どういたしまして」

紫との会話で殆ど優位に立てた今日はやはり良い日だなと思いながら幽香は水を遣る為に使っていた
如雨露を地面に置き、愛用の傘を持って紅魔館へ向けて歩き出す。

「出掛けるの?」
「ええ、紅魔館に龍也を回収しに」
「貴女が態々?」
「そ。今から行けば良いタイミングで着くでしょうし」

そう言った後、幽香は足を止めて振り返り、

「それと、龍也をここに連れて来たのは貴女なのだろうけど……龍也に最初に目を付けたのは私だから。
あ、そうだ。そこに置いてある如雨露は私の家に運んで置いて」

それだけ言って再び紅魔館を目指して歩き出す。
要するに余計な手出しはするなと幽香は言ったのだ。
幽香の後姿を見ながら、

「……龍也が強くなり切った時、貴女は龍也と戦う積りなのね。幽香」

紫はポツリとそう呟いた。
幽香の姿が見えなくなると、紫は空を見上げる。
紫の目には紅い霧が一つも見えない綺麗な夕焼けが映った。
太陽の畑周辺にあった紅い霧は幽香が全て吹っ飛ばしたのだろうと紫は思う。

「相変わらず凄い力ね……」

溜息を一つ吐き、流れて来た風をその身に感じながら、

「はてさて、博麗の巫女は何時になったら動くのやら……」

紫はそう呟いた。












前話へ                                        戻る                                        次話へ