予想以上だ。
風見幽香が紅魔館の庭先に入り、四神龍也とレミリア・スカーレットの戦いを見て抱いた感想はこの一言に尽きる。
幽香の予想では精々レミリアに一矢報いる事が出来るか出来ないか程度で終わると思っていた。
だが、現実はどうだ。
一矢報いる処かあと少しで勝てると言う状態にまで持ち込んでいる。
幽香としては龍也がレミリアに殺されそうになっていたのであれば助けに入る積りであったのだが、それは無用な心配だった様だ。
龍也の成長速度は幽香の予想を遥かに上回っている。
その事実に、

「ふふ……」

幽香は思わず笑みを零してしまう。
少なくとも四神龍也と言う存在は自分の想像以上に強くなると言う確信を幽香は得たからだ。
そんな時、

「あら」

幽香は龍也が倒れた事に気付く。
倒れたまま動く様子が無く、先程まで龍也から感じていたプレッシャーが感じられなくなっていた。
だが、霊力は感じらるので龍也は気絶したのだと幽香は判断する。
一杯一杯だったのだろう。
龍也の体はボロボロだ。
限界以上に力を使い続けた事が気絶の原因かと幽香が考え始めた時、

「……あら」

降っていた雨が止んでいる事に気付く。
差している傘を畳みながら、龍也がレミリアに回収される前に自分が回収し様と思い歩き出す。
そして、ある程度二人に近付いた所で、

「こんばんは。レミリア・スカーレット」

幽香はそう声を掛ける。
声を掛けられたレミリア慌てて声が聞こえて来た方に振り向き、

「風見……幽香……」

驚愕の表情を浮かべる。
何故ならば、レミリアに声を掛けて来た妖怪、風見幽香は幻想郷で最強の妖怪と謳われる存在だからだ。

風見幽香の能力は"花を操る程度の能力"と戦闘向きではない。
だが、幽香の基本能力は極めて高いレベルに収まっている。
その力は鬼を遥かに上回り、スピードは天狗を遥かに凌駕するとも言われている程だ。
そして桁外れに高い妖力。
幽香が本気で妖力を開放すれば天など容易く焼き切るとも言われ、妖力を使った砲撃などは空間を歪ませるとも孔を空けるとも言われている程である。
普段は緩やかな動きを好み、おっとりとした雰囲気があるのでとてもそんな強さがある妖怪とは思えないが、幻想郷で見た目と強さが一致しない事などよくある事。

この風見幽香の情報が嘘か真かはレミリアには分からないが、ここまで言われる位だ。
風見幽香が最強クラスの妖怪である事は間違い無いであろう。
少なくとも今の状態の自分では勝ち目が無いと言う事をレミリアは悟るが、

「それで……私に何の用かしら?」

仮に戦う事になっても最後まで戦い続け様と言う心構えで身構える。
すると、

「身構えなくてもいいわ。別に貴女と戦いに来たと言う訳ではないから」

幽香は戦いに来た訳ではないと口にする。

「なら、何の用?」

レミリアは構えを解かずに何の用かと尋ねると、

「龍也を回収しに来ただけ」

龍也を回収にしに来たと言う答えが返って来る。

「龍也を?」

龍也を回収すると言われてレミリアは一瞬嫌な顔をするが、直ぐにある一つの可能性を思い付く。
思い付いた可能性と言うのは、

「龍也をここに差し向けたのは貴女?」

幽香が龍也を紅魔館に行く様に差し向けたと言う事だ。

「違うわ。私はただ紅い霧を出してる犯人を教えて上げただけ。ここに来たのは龍也の意志よ」
「……それ、嗾けたって言うんじゃない?」

幽香の台詞からレミリアは嗾けたと言うのではと指摘すると、

「そうかしら?」

幽香は首を傾げる。
その後、笑顔になりながら、

「それにしても随分ボロボロじゃない」

レミリアの今の状態を口にする。
幽香の言う通り、今のレミリアはボロボロの状態だ。

「貴女には関係ないでしょ」

レミリアは幽香には関係無いと言うが、

「そうね。でも、手加減せずに本気で戦っていればそんなボロボロにはならなかったでしょうに」
「う……」

幽香に痛い所を突かれて言葉を詰まらせてしまう。
幽香の言う通り、手加減せずに本気で戦っていればボロボロになる事はなかったのだから。

「それはそれとして、龍也は回収していくわ。断るって言うんであれば力尽くになるけど……若しかして、龍也の事を気に入ったのかしら?」

先程、自分が龍也を回収すると言った時に見せたレミリアの表情から幽香はそう推察する。
その事をレミリアは

「そうね。気に入ったのは龍也の目ね」

否定せずに気に入った部分を口にする。

「目?」

幽香が聞き返す様に口を開くと、

「そ、目よ。圧倒的なまでの実力差を見せ付けたのに龍也は命乞いも諦めもしなかった。それ処か
龍也の目は私に勝ってやると言う目をしていた。だから面白いと思ったし気に入ったのよ」

レミリアはそう言ってその時の事を思い出す。
龍也に自分のものになれと言った少し前の事を。
長くなりそうだと思ったからか、

「ま、龍也を自分のものにしたければ自分の魅力で何とかしなさい」

幽香が思い出すと言う行為を中断させる声色でそう言う。
その声でレミリアが幽香に意識を戻すと、

「尤も……」

幽香はレミリアのある一部分に目を向ける。
その後、幽香は自分のある一部分に目を移す。
そしてそれらを見比べ、

「……ふっ」

幽香は勝ち誇った笑みを浮かべる。

「……何かしら、その勝ち誇ったかの様な顔は」

レミリアは顔を引き付かせながらそう問うが、

「いや、別に」

幽香は言おうとはしなかった。
そんな幽香に腹を立てたのか、

「言いたい事があるならはっきりと言ったらどうかしら」

レミリアは言う様に強く言葉を発すると、

「それなら言うけど、龍也を落とすには色香が足りないんじゃないかしら? 主に胸が」

幽香は勝ち誇った表情のまま、ストレートにそう言い放つ。
龍也の性癖は知らないが、色香で龍也を落とせそうなのは自分を除くと八雲紫か冥界の管理人である西行寺幽々子位かと幽香は思っている。

「うー……」

何時の間にか自分の胸元を見てそんな声を漏らすレミリアに、

「なに可愛らしく唸ってるのよ。ああ、可愛らしさで攻めると言う手もあるか」

幽香は可愛らしさで攻める手もあるかと考え、

「何はともあれ、龍也は私が回収していくわ。文句は無いわね」

話を戻す様に紅魔館にやって来た当所の目的を改めて口にする。

「……はぁ、好きにしなさい」

何処か諦めた様にレミリアがそう言うと、

「そうさせて貰うわ」

幽香は龍也に近付き、両手を使って龍也を抱き上げてそのまま帰ろうとし、

「あ、そうそう」

幽香は何かを思い出したかの様にレミリアの方を見る。

「まだ何かあるの?」

嫌そうな顔をするレミリアに、

「別に大した事じゃないわ。近いうちに霊夢……博麗の巫女が異変解決に来ると思う。その時はスペルカードルール……弾幕ごっこで相手をして上げて」

幽香はそれだけ言って紅魔館を後にした。
幽香の姿が完全に見えなくなった後、

「……はぁ」

レミリアは全ての疲れを吐き出す様に息を一つ吐き、

「何だか嵐の様な一日だったわね」

そんな事を口にする。
その後、

「スペルカードルール……弾幕ごっこ……か……」

幽香から提示された事を呟き、それも一興かとレミリアは思った。
乗せられた感じで少々癪ではあるが、博麗の巫女とやらが現れた時は弾幕ごっこで戦う事をレミリアは決め、

「咲夜、居る?」

咲夜の名前を口にする。
すると、

「ここに」

咲夜はレミリアの傍に音も無く現れた。

「申し訳ありません、お嬢様。随分と時間を空けてしまった様で……」

時間を空けてしまった事に咲夜が謝罪すると、

「別に構わないわ」

構わないと言う返答をレミリアは返す。
何故、そんな返答を返したのかと言うとレミリア分かっていたからだ。
咲夜が時間を空けてしまったのは龍也との戦いで受けたダメージもあるだろうが、日々の業務で溜まっていた疲労もかなり有ったと言う事を。
咲夜の為にも使えそうな妖精メイドを増やすべきかと検討し始めたのと同時に、

「ふぁ……」

睡魔がレミリアを襲う。
どうやら、咲夜だけではなくレミリアもかなりの疲れが溜まっていた様だ。
妖精メイドの件は寝て起きてから考え様とレミリアは決め、

「寝室の用意をしておいて。疲れたから私は寝るわ」

咲夜に寝室の用意をする様に言う。

「それは構いませんが、治療は必要ないので?」

レミリアの風貌を見て咲夜は治療は必要無いのかと尋ねる。
尋ねられた事に、

「構わないわ。これ位なら丸一日寝てれば治るから」

レミリアは必要無いと言って紅魔館に戻ろうとしたが、

「あ、そうそう。博麗の巫女が異変解決に来たら皆にスペルカードルール……弾幕ごっこで相手をする様に伝えて置いてね」

戻る前に幽香から言われた事を咲夜に伝えた。

「畏まりました」

了承の返事をしながら咲夜が頭を下げた時、

「それと、寝室の準備が終わったら美鈴を叩き起こして置いて。門番が不在と言うのもあれだしね」

レミリアは序と言わんばかりに美鈴を叩き起こす様に指示を出す。
その指示に反応した咲夜は美鈴の姿を探し、

「美鈴……」

美鈴の姿を確認して呆れた様に溜息を一つ吐く。
咲夜の目には爆睡している美鈴の姿が映ったからだ。
龍也とレミリアの二人は美鈴からそれなりに近い位置で戦っていたのに美鈴が起きなかった訳はそれだけ龍也との戦いで受けたダメージが大きかったのか。それともただ爆睡していたので起きなかったのか。
どちらかなのかは分からないが、咲夜は爆睡してるだけと判断した様だ。
そんな咲夜の様子を見ながら、レミリアは博麗の巫女とやらが来るまではゆっくり休もうと思いながら紅魔館の中に入って行く。




















余談であるが、まさか次の日に博麗の巫女が来る事になるとは流石のレミリアも思わなかった様だ。





























「猫じゃらし!?」

そんな言葉を上げながら、龍也は勢い良く上半身を起こす。
そして周囲を見渡して見ると清潔感のある部屋の中で寝ていた事が分かった。
その後、自分の体を見ると包帯が巻かれている事に気付く。

「……デジャヴ?」

つい最近、同じ様な事があったなと龍也が思い始めた時、

「あら、起きた?」

扉を開けて誰かが部屋の中に入って来た。
入って来た者は、

「幽香」
「正解」

風見幽香であった様だ。
龍也が幽香の存在を認識したのと同時に、

「三日も寝てたけど、体の方は大丈夫?」

幽香は龍也の体調を尋ねる。

「三日!? そんなに寝てたのか、俺!?」

龍也は幽香の発した三日も寝てたと言う事実に驚きの表情を浮かべた。

「ええ、そうよ。で、それで体の方はどうかしら?」

幽香が三日寝ていた事を肯定して再度体の調子を尋ねる事を言う。
その言葉を受け、龍也は体を動かし、

「……何とも無いな。好調だ」

問題無いと言う事を口にする。

「そう。それは良かったわ」

幽香が何処か安堵した様に息を吐くと、

「幽香が俺を?」

龍也は自分の治療したのは幽香なのかと問う。

「ええ。回収と治療をしたの私ね」
「そう……か。迷惑掛けたみたいで悪かったな」

龍也が謝罪の言葉を口にした瞬間、

「別に構わないわ」

幽香は笑顔で構わないと返した。
そんな幽香の表情を見た後、

「一つ、聞いてもいいか?」

龍也は幽香に聞きたい事があると言う。

「いいわよ」

幽香の了承が得られたので、

「俺は勝ったのか? それとも負けたのか?」

龍也はレミリアとの戦いがどうなったのかを尋ねる。
レミリアと戦っていた記憶は勿論龍也にはあるが、時計盤に叩き付けられた後の記憶があやふやなのだ。
戦っていた事は何となく解っているのだがどう戦っていたのかは解らなかった。
それ故に龍也は勝敗が気になっているのだ。

「そうね……私が見た感じでは殆ど引き分けに近かったわね」
「そう……か」

勝てはしなかったが、負けもしなかった。
その事実に龍也は若干顔を歪めた時、

「あ……」

龍也のお腹から盛大な音がした。
まるで空腹を訴えるかの様に。

「ふふ、三日も寝てたからお腹もペコペコなのね」

そう言って幽香は部屋の出口に向かい、

「ご飯出来てるから食べていきなさい」

龍也にご飯を食べていく様に言う。

「いいのか?」
「構わないわ。あ、それと貴方の着ていた服の破れた部分はちゃんと修繕してそこに置いてあるから」

龍也の服が置いてある場所を指さした後、幽香は部屋から出て行った。
幽香が出て行って少しすると、

「……着替えるか」

龍也はベッドから出て着替え始める。





















「ご馳走様」
「よく食べたわね……」

龍也の食いっぷりに幽香が少し驚いていると、

「ま、美味かったしな」

龍也は美味しかったからだと言う。

「あら、ありがと」

美味しいと言う感想を聞けて幽香が嬉しそうな表情をした瞬間、

「あ、そうだ。さっき聞き忘れた事があったんだ」

龍也は聞き忘れた事があると言う。

「何かしら?」

幽香が首を傾げた時、

「あの紅い霧……どうなったんだ?」

龍也は紅い霧に付いて尋ねる。
一応、紅魔館に向った理由に紅い霧を晴らすと言う目的も含まれていたので龍也はその事が気になっている様だ。

「ああ、紅い霧なら霊夢……博麗の巫女が解決したわ」
「へぇ……」

既に解決された事を聞き、龍也は少々悔しい気持ちになったが直ぐに紅い霧が晴れて良かったと言う気持ちが上回った。
同時に、

「それならもう……人里って所に行けたりするのか?」

人里の事を思い出し、もう人里に行けるのかと聞く。
聞かれた事に、

「そうね、もう行けるんじゃないかしら?」

幽香はもう行けると言う答えを返す。
それを聞き龍也の気分は若干高揚した。
人里に行けばここ、幻想郷の事が色々と知る事が出来ると思ったからだ。
ワクワクした表情になっている龍也を見て、

「そう言えば、龍也って何か目的とかあるの?」

幽香は龍也の目的に付いて尋ねる。

「そうだな……幻想郷中を周る……要するに旅だな。旅をしてみ様と思う」

龍也はそう言った瞬間、外の世界の事……自分の両親のことを思い出す。
が、一瞬でどうでもよくなった。

龍也の父親は趣味の人。
今やってる仕事が楽しくて他の事には何の興味が無いし気に掻け様ともしない。
それが自分の妻や子供であっても。
龍也の母親は専業主婦と言う名の遊び人。
龍也の父親の金を使って遊びまくっている女だ。

龍也には家族揃ってご飯を食べた記憶処か誕生日を祝われた記憶も両親と手を繋いだ記憶も無い。
更に言うのなら父親にしろ母親にしろ、龍也はあの二人と最後に顔を合わせたのは何時だったのかも思い出せない有様。
あの二人が結婚したのは父親は世間体のことを考えて、母親は楽して暮らしたいからであろうと言うのが龍也の考えだ。
そう考えているから龍也は自分が生まれたのは、結婚した男女に子供が居ないのは不自然であるからだと考えている。
故に、龍也の父親と母親の間に愛と言うものは存在してはいない。
だから、龍也は只の一度もあの二人から愛情を受けた事は無いのだ。
まぁ、それでも養育費などは貰えたし虐待とかも受けなかったのでその辺は恵まれてるなと言う事を龍也は感じている。

だが、そう感じはいても自分が居なくなった事であの二人に迷惑が掛かっているだろうと思っても龍也には罪悪感の欠片も沸いて来てはいなかった。
龍也にとって、あの二人はその程度の存在なのだろう。
その事を知った龍也はすっきりしたと言う表情を浮かべつつ、今頃あの二人が何をしているのかを考える。
おそらく、自分が居なくなった事を行方不明扱いか死亡扱いにして一人息子を失った悲劇の親でも演じているのだろう。
他にも可能性があるが、これが一番高い可能性だと龍也が思った時、

「なら、教えて置いた方が良いかしらね」

幽香は何かを教えた方が良いと口にした。

「ん? 何をだ?」

その声に反応して龍也が顔を上げた時、

「スペルカードルール……弾幕ごっこについて」

幽香の口からスペルカードルールと弾幕ごっこと言う単語が発せられる。

「スペルカードルール? 弾幕ごっこ?」

聞いた事も無い単語に龍也が首を傾げると、

「いいわ、説明してあげる」

幽香はその二つの単語に付いての説明を始めた。





















「つまり、命のやり取りを抜きにした戦いごっこって言う認識で良いのか?」
「ええ。一応はルールがあり、遠距離戦が多いけどね」

幽香の説明で龍也は弾幕ごっこの大体を理解した。
かなり要約すると、相手を殺さない様に手加減して戦えとの事だ。

「こうやって話せて、力持った者の大体はこれで挑んで来るでしょうしね。勿論例外も居るだろうけど」

幽香曰く、博麗の巫女が弾幕ごっこで異変を解決した事で大々的に広まり始めているとの事。

「で、龍也。さっき言った通り遠距離戦が多くなると言ったど……弾幕とか撃てる?」
「ああ、撃てる」

幽香の弾幕とか撃てるかと言う問いを龍也は肯定する。
霊力にしろ炎にしろ風にしろ地にしろ水にしろ、それらの扱い方は紅魔館での戦いで覚えた。
実際に弾幕も何度か放ったので弾幕メインで戦う事も可能であろう。

「なら、スペルカードを作ってしまいましょう」
「スペルカードって必殺技みたいな物を封じ込めた物だったか?」
「その認識でいいわ。一応言って置くけど、スペルカードは作った本人にしか使えず、スペルカードを通して放った技の威力はかなり
殺がれているから威力自体は全然無いからね。それとスペルカードには発動していられる制限時間があるわ」
「ああ、解った」

そして、幽香の助言を受けながら龍也はスペルカード作っていく。




















そして、龍也は幽香のアドバイスを受けながら五枚のスペルカードを作った。

一枚目は、霊撃『霊流波』

これは、霊力を掌に集中し圧縮して撃ち出すと言った技。
範囲がそれなりに広く、射程が長く火力が高いと言うのが利点だ。
霊流波は幽香の助言を一番受けて作ったスペルカードであり必殺技でもある。
何故必殺技でもあるかと言うと霊流波と言う技の性質上、通常戦闘でも十分に使えるからだ。
因みに霊力の集中や圧縮のコツは幽香に教えて貰った。
何故妖怪である幽香が霊力の扱い方を教えられたかと言うと、集中や圧縮等と言った技術は
霊力も妖力も魔力も神力も大差ないかららしい。
幽香曰く、これと同じ原理の技を使うのが龍也を除けば後一人居るとの事。

二枚目は、炎鳥『朱雀の羽ばたき』

これは、炎の鳥を生み出し相手に突撃させると言う技。
外れても旋回して戻って来て再度突撃と言うのをスペルカードの制限時間一杯まで繰り返す。
この炎の鳥が通った所には炎の弾幕が生まれ、生まれた弾幕は左右に向けて飛んで行くと言う効果もある。

三枚目は、咆哮『白虎の雄叫び』

これは、無数の超小型の竜巻を生み出して周囲を取り囲む様に放ち、龍也が弾幕を放つと言う技。
この竜巻は風圧で相手の動きを制限する効果とぶつかった弾幕を跳ね返すと言う力もある。
跳ね返す弾幕は龍也の弾幕は勿論、相手が放った弾幕もだ。
因みに跳ね返った弾幕は何所に飛んで行くか龍也にも分からない。

四枚目は、鉄壁『玄武の甲羅』

これは、玄武の甲羅を生み出し盾にすると言う技。
それだけである。
だが、この甲羅は極めて硬い。
兎に角硬い。
真正面から来る弾幕やスペルカードには完璧と言っていい程の無敵さを誇る。
これを使えば相手のスペルカードを一枚ほぼ確実に無効化する事が可能だ。
反面、この甲羅を出している時は攻撃が出来ないと言うか弾幕を撃てないと言う欠点はあるが。
一種のカウンタースペルカードとも言えるスペルカードだ。

五枚目は、龍腕『青龍の鉤爪』

これは、上空に水で出来た龍の腕を生み出し何度も引っ掻かせると言う技。
この腕は何気に大きいので中々に範囲が広い。
更に引っ掻いた場所には水の弾幕が生まれて、全方位に飛び散っていくと言う効果がある。











「で、出来たぁ……」

スペルカードが完成したのと同時に龍也は疲れを吐き出す様にそんな言葉を漏らす。

「お疲れ様」

龍也は幽香の労いの言葉を受けつつ窓の外に目を向けた瞬間、

「もう夜!?」

夜になっている事に気付く。
どうやら、かなり集中して時間がどれだけ過ぎているのかが分からなかった様だ。

「今から晩ご飯作るから、それ食べて泊まっていきなさい」
「え、いいのか?」

龍也はこのままもう一日世話になってもいいのかと問うと、

「いいわよ別に。それと部屋はさっきの部屋を使ってね」

幽香は構わないと返す。

「ああ、ありがとう」

龍也は礼を言い、ただ世話になると言うのもあれなので晩ご飯の準備を手伝う事にした。




















翌日。
龍也と幽香の二人は外に出ていた。

「色々と世話になったな、ありがとう」
「どういたしまして」

天気は晴れ。
絶好の旅たち日和である。
早速旅立とうとした龍也を、

「あ、一寸待って」

幽香は呼び止める。

「どうした?」
「忘れていた事があってね」

そう言って幽香は家の中へと戻る。
そして一分位すると、

「これ、返すの忘れてたわ」

家の中から出て来て、幽香は持って来た物を龍也に差し出す。

「これは……俺の携帯に財布に腕時計」
「最初に貴方の治療や服の修繕をする時に邪魔だから取ったり出したりしていたのを忘れていたの。ごめんなさいね」
「いや、そのままだったら戦いで壊したり無くしたりしてたかもしれないからな。寧ろ、助かったよ」

そんな事を言いながら龍也は携帯電話と財布をズボンのポケットに仕舞い、腕時計を腕に着けると、

「あ、それと人里に行く前に香霖堂に寄って行きなさい」

幽香が香霖堂に行けと言う事を口にする。

「香霖堂?」

また聞いた事の無い単語に龍也が首を傾げると、

「香霖堂って言うのは変った店主がやってる店よ。香霖堂には色んな物が置いてあるの。で、そこの店主は
外の世界の物に非常に興味を持っているのよ。外の世界の物なら結構な高値で買い取ってくれると思うわ」

幽香が香霖堂に付いて説明してくれる。

「成程……」

携帯電話は圏外で使い物にならないし、お金にしたって外の世界のお金が幻想郷で使えるとは思えない。
ならば買い取って貰うのが一番だなと龍也は思う。

「そっか、色々とありがとな」
「いいのよ別に。あ、それと香霖堂はあっちの方向にあるから」

そう言って幽香は遠くに見える森を指さす。
あの森の先に香霖堂があるのだろう。

「分かった。それじゃ、出発するか」

そう言って龍也は幽香が指をさした森に目を向けた後、幽香に視線を戻す。
そして、

「またな、幽香」
「ええ。またね、龍也」

挨拶を交わし、龍也は森に向けて足を進めて行った。















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