幽香に勧められた香霖堂を目指して龍也が森に入ってから数時間程の時が流れた。
数時間も時間があれば目的地に着いていても可笑しくはないが、

「おっかしーなー……真っ直ぐ来た筈なんだが……」

龍也はまだ森の中を彷徨っていた。
現在地を確認する様に周囲を見渡すが、何所を見ても同じ様な景色が見えるばかり。
一通り周囲の景色を見た後、

「……俺、どっちの方向に歩いていたっけ?」

龍也はそんな事を呟く。
どうやら、周囲の景色を見ている間に自分がどの方向に歩いていたか分からなくなった様だ。
流石にこれは不味いかと龍也は一瞬思ったが、直ぐに急ぐ旅路でもないのだから別に良いかと楽観的な事を考える。
いざとなったら空中に上がって森を脱出すると言う手段があるので楽観的な事を考えていられるのだろう。
因みに、空中を移動出来るのに空から香霖堂を探さない理由は勿論ある。
一つ目は急ぐ旅路ではないから。
二つ目は景色を楽しみたいから。
理由としてはこの二つだ。
早く着く方法があるのにこれでは時間の無駄だと思われるかもしれないが、龍也曰くその無駄が楽しいとの事。

「さて……」

龍也はもう一度周囲を見渡し、

「……よし、あっちの方に行くか」

何となく目に止まった獣道へ行く事を決める。
その獣道を歩き始めてから少しすると、

「しっかし、相変わらずだな。この森も」

龍也はそんな事を口にしながら近くにあった木に目を向ける。
龍也が目を向けた木の根元などには珍妙な色や形をした茸が多数。
枝の方には変った木の実。
そして木の近くにはやけに大きい茸などなど、見ていて飽きないものばかりだ。

「それにしても、こうやって歩いていても妖精は襲って来ないな。この前とは大違いだ。あんな風に襲われるのは異変の時位なのかな?」

龍也がこうやってのんびりと森の中を歩いていられるのは妖精が襲って来ないからである。
異変の時はかなりの頻度で妖精達に襲われた。
先に進めば進む程、妖精の数は増えて妖精が放つ弾幕は激しくなる。
だが、今はその襲撃が無ければ弾幕も無い。
故に龍也はのんびりと周りの景色を楽しみながら歩いていられるのだ。
そんな平和な一時を満喫していた時、

「……ん?」

急に足元の地面が盛り上がって来るのを龍也は感じた。
その瞬間、

「ッ!!」

龍也は反射的に後ろに跳ぶ。
すると、地面が盛り上がった場所から軟体生物の様な生物が数匹地面を突き破る様にして現れた。
先端部分と思わしき場所には口らしき物があり、ギザギザの歯が円状に並んでいるではないか。

「これは……ワームってやつか?」

龍也はその見た目からワームではないかと推察する。
妖精は襲って来ないが、妖怪は普通に襲って来る様だ。
妖精の方がまだ可愛気があるなと龍也は思いつつ目の前に居るワームを観察し、

「うわぁ……」

嫌そうな声を漏らす。
何故ならば、このワームは目で見て分かる程に体中がヌメヌメしているのだ。
とてもじゃないが素手では触れる様な事はしたくない。
そんな想いを抱いてる龍也など知った事かと言わんばかりにワームの一体が襲って来る。
真正面からの突撃。
その突撃を龍也は横に跳んで避けると、ワームは進行を止めて口元から涎を垂らしながら龍也の方に体を向ける。
どうやら龍也を食べたい様だ。
無論、

「生憎、大人しく食われてやる気は無い!!」

龍也は大人しく食べられる積りは毛頭無い。
降り掛かる火の粉は払うまで。
ワームの配置を確認しながら龍也は自身の力を変える。
青龍の力へと。
それと同時に龍也の瞳の色が黒から蒼に変わる。
力の変換が完了するのと同時に先程突撃して来たワームが再び龍也へと突っ込んで行く。
迫って来るワームを見ながら龍也は右手から水の剣を生み出す。
そしてすれ違い様に

「ッ!!」

水の剣を振り下ろす。
すると龍也とすれ違った妖怪は真っ二つになり、崩れ落ちる。
それを見た残りワーム達が驚いている間に龍也は残りのワーム達の方へ振り向く。
龍也に見られた事でワーム達は後ずさるものの、直ぐに戦意を取り戻して口から何か液体の様な物を吐き出す。
当然、吐き出されたそれは龍也に向っていく。
自身に向って迫って来るそれを龍也は跳躍する事で避ける。
射線上に龍也が居なくなった事で液体の様な物は地面と木に当たり、

「なっ!!」

地面と木が音を立てながら溶けていく。
液体の様な物が当たった場所が溶けていく事から、

「……そうか、酸か!!」

龍也はワームの口から吐き出された物が酸であると判断する。
ワームの口から吐き出された酸は木や地面を容易く溶かす強力なもの。
まともに浴びてしまえば龍也だって溶けてしまう可能性が極めて高い。
龍也が溶けた木や地面に目を向けている隙に、残っている全てのワーム達が再び酸を龍也に向けて放つ。

「ッ!!」

再び酸が放たれた事に気付いた龍也は空中に見えない足場にを作り、それを使ってもう一度跳躍する。
ワームが放った酸が自分の真下を通って行った事を確認すると、龍也は右手の水の剣を消す。
そして水を龍の手を思わせる様に両手に纏わせ、妖怪達に向けて引っ掻くように両腕を振り下ろすと、水で覆われた手の爪先から、水で出来た斬撃が十本放たれる。
放たれた水の斬撃は地上に居たワーム達に全て降り注ぐ。
その数瞬後、

「……っと」

龍也が地上に着地する。
そしてワーム達を確認すると、ワーム達の全てが斬り裂かれて絶命している事が分かった。
戦いが終わった事を理解した龍也は一息吐き、力を消す。
すると、龍也の瞳の色が元の黒色に戻る。
その後、自分の掌を握ったり開いたりして、

「やっぱり……紅魔館に向ってた頃よりもずっと強くなってる」

龍也は自分が強くなっている事を理解した。
紅魔館に向かっていた頃と今では強さにかなりの差がある。
ここまでの短時間でこうも強くなった自分に龍也は驚きつつ、幻想郷に来たばかり頃を思い出して、

「……あ」

重大な事を思い出す。
龍也は幻想郷に来たばかりの頃は朱雀の力しか使えなかった。
朱雀の力とは炎。
その炎を使っていたのだ
森の中で。
木々が生い茂る森の中で。
火を、炎をこれでもかと言う位に龍也は使っていた。

「………………………………」

龍也は今更ながら顔を青くし、思う。
よく火事にならなかったなと。
一歩間違えれば山火事ならぬ森火事を龍也が起こしていた。
今の龍也なら火事を起こしても鎮火出来るであろうが、幻想郷に来たばかりの頃では不可能であっただろう。
下手をしたら大災害を起こした人物として幻想郷の歴史に名を残す事になったかもしれない。
これからは木々の生い茂る場所で朱雀の力を使うのは極力控えようと龍也は決める。
そして、

「……よし!!」

龍也は気持ちを入れ替える様にして先に進もうとした処で、

「俺……どの方向に行こうとしてたんだっけ?」

そんな事を言い出す。
どうやら、ワーム達と戦っていたせいで進んでいた方向が分からなくなった様だ。
悩んでいても答えが出そうになかったので龍也は落ちていた木の枝を拾って倒し、木の枝が倒れた方向へ進む事にした。





















そしてワーム達と戦ってから約一時間後。
龍也は若干の空腹感を覚えながらも、まだ森の中を彷徨っていた。
未だに森の中を彷徨っている理由として、運任せに道を決めている事が一番の原因であろう。
それでも龍也はマイペースで進んでいく。
何時かは着くだろうと思いながら。
そんな風にお気楽に歩いて行くと、

「……お」

龍也は開けた場所に出た。
辺りを見渡して見ると、何やら建物らしき物が龍也に目に映る。
あれが目的地かと思い、そこまで小走りで近付く。
そして扉の少し前で着くと止まって顔を上げると、

「香霖堂……」

香霖堂と書かれた看板が見えた。
看板に書かれている店名からここが目的の場所だと龍也は判断する。
その後、龍也は店の周りを見渡し、

「ゴチャゴチャしてるな」

そんな感想を抱く。
何故ならば、店の周りは統一性の無い物ばかりで溢れかえっているからだ。
目立つ物では標識とか信号機とか何所かの薬局とかで見る人形などなど。
あれらも幻想入りして来た物だろうかと龍也は思いながら扉を開けて店の中に入る。
案の定と言うべきか、店の中も統一性の無い物で溢れ返っていた。
溢れ返っていると言っても、外の様に散らかってはいない。
ちゃんと足の踏み場はあるし、商品は棚の中に収まっている。
龍也は店内の様子を見ながら店主は何所かなと探していると、

「いらっしゃい」

そんな声が聞こえて来た。
龍也は声が聞こえて来た店の奥に顔を向けると、カウンターの方に銀色の髪をして眼鏡を掛けた男性がいた。
優しそうな人物と言う印象を龍也は受けつつ、男性に近付き、

「貴方がここの店主ですか?」

ここの店主であるかを尋ねる。

「うん。僕がこの香霖堂の店主、森近霖之助だよ」

男性は店主である事を肯定しつつ自己紹介をしてくれたので、

「初めまして。俺は四神龍也と言います」

龍也も自己紹介を行う。

「龍也君だね。それで、何かご入用かな?」

龍也が自己紹介をした後、霖之助は何が必要なのかを問うた時、

「ご入用と言うか、買い取って欲しい物が在るんですが……」

龍也は買い取って欲しい物が在ると口にする。

「買い取って欲しい物?」
「はい」

龍也は肯定の返事をし、ポケットの中から携帯電話と財布を取り出してカウンターの上の置く。
そして、龍也が財布の中身を取り出してカウンターの上に置いていく中で、

「ほう、これは……」

霖之助は興味深そうな目で携帯電話を手に取って観察し始める。

「これは携帯電話と言う名前で、主に離れた人と話す為に用いられる道具だね」
「知ってたんですか?」

霖之助が携帯電話の名前と用途を言い当てた事に龍也は驚く。
幻想郷で生きている者が携帯電話の事を知っているとは思わなかったからだ。
驚いている龍也に、

「ああ、違うよ。僕の能力は"道具の名前と用途がわかる程度の能力"だからね」

霖之助は自分の能力のお陰で分かったと言う事を教える。

「へぇ……」

それを聞き、龍也は能力には色々あるんだなと思った。

「こう言う道具を持っていると言う事は、龍也君は外来人かい?」

霖之助が龍也に外来人かと尋ねると、

「あ、はい。そうです」

龍也は自分が外来人である事を肯定するかの様に頷く。
その瞬間、龍也の目には霖之助の眼鏡が怪しく光った様に見えた。

「なら龍也君、こう言った道具の使い方は知っているのかな?」

霖之助はそう言ってある方向に指をさす。
それに釣られる様に顔を動かすと、昔の古いテレビや扇風機などが龍也の目に映った。

「電化製品……ですか。使い方は知っていますけど、電気が無いと動きませんよ」
「電気?」

電気と言う単語に聞き覚えが無いからか、霖之助は首を傾げてしまう。
どうやら、幻想郷には電気と言う単語は馴染みが無い様だ。
そんな霖之助に反応を見て、幽香の家に電化製品が無く明かりなどはランプや蝋燭などであったと言う事を龍也は思い出しつつ、

「ああ……えっと……雷の様な性質を持ったエネルギーと認識してくれればいいです」

電気に付いて簡単に説明する。

「と言う事は、雷を直接当てれば電化製品とやらは動くのかい?」
「いえ、そんな事をすれば修復不能なまでに壊れますよ。確実に」

雷を直接当てたら電化製品が修復不能なまでに壊れてしまうと龍也に言われ、

「そうか……」

霖之助は肩を落とす。
電化製品が動いているのを見たかったのだろう。
そんな霖之助の気持ちを察したからか、

「ああ、落ち込まないでください。えっと……発電機の様な物があれば電化製品は動きますから」

龍也は発電機があれば電化製品が動くと言う事を口にする。

「発電機?」

発電機と言う単語を初めて聞いたからか、霖之助はまた首を傾げてしまう。
そんな霖之助は見ながら、

「電気を生み出す道具ですよ」

龍也は発電機に付いてこれまた簡単に説明し、

「えーと……自転車にケーブル……線がくっ付いていて、それで……こう四角い箱があって……」

指を動かして発電機がどんな形であるかを伝えていく。
かなり昔に通販番組で売り出されていた発電機を思い出しながら。
記憶は少々あやふやではあったが、

「ふむ……」

霖之助の表情から察するにどの様な形であるかは伝わった様だ。

「つまり、その発電機とやらがあれば電化製品は動くと言う訳かい?」
「そうですね。ありますか?」

龍也に発電機はあるかと問われた霖之助は何かを思い出す様な仕草を取り、

「残念ながら無いね」

無いと言う結論に達して肩を落としてしまう。
一目見ただけで気落ちしていると分かった龍也は

「あ、でも何時かはそう言った物も幻想入りしますって」

霖之助を慰める発言をする。
その発言を受けたからか、

「そう……だね。その時を楽しみにするとしよう」

霖之助は何とか持ち直した様だ。
電化製品の話が一段落着いた後、

「それでこっちの方は……」

霖之助は龍也が財布の中から取り出した物に目を向ける。

「あ、そっちは外の世界のお金とカードですよ。こっちでは希少価値があると思いますが……」

龍也が財布の中から取り出した物を説明すると、

「ふーむ……確かに、あまり見ない金属だね」

霖之助は小銭を手に取って調べて始める。
その様子を見て、

「あ、時間掛かりますか?」

龍也が時間が掛かるかと問うと、

「そうだね……少し掛かるかな。あ、その間は店の中を見ているといいよ」

霖之助は時間が掛かる事を肯定し、店の中を見る様に勧める。

「分かりました」

そう言い、龍也は店の中を見て回る事にした。
少し歩いて見て回っても人形、本、どこかの民芸品、服、靴、子供の玩具などなど、統一性など無いと言わんばかりの品々が目に映る。
本当に色々な物があるなと思いながら龍也は奥の方へと足を進めると、

「お」

幾つかの武器を発見する。
龍也はその中でも刀に目が向う。
男の子だからか、刀と言った刀剣の類の物に興味がある様だ。

「霖之助さん、この刀抜いて見てもいいですか?」
「構わないよ」

霖之助から許可を得られた為、龍也は刀を一本手に取って鞘から抜き放つ。
鞘から抜かれた刀の刀身を見た龍也は綺麗だなと思ったのと同時に吸い込まれそうな美しさを感じていた。
一通りその刀を眺めた後、刀を鞘に納めて元々あった場所に戻す。
そして他の刀に手を伸ばそうとしたところで、香霖堂の扉が勢い良く開かれ、

「香霖、居るかー?」

そんな声が聞こえて来る。
客かなと龍也は思い、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
龍也の目に金色の長い髪をした少女が大荷物を持ってカウンターに近付いて行く様子が見て取れた。
服装は黒と白の色合いで構成されたエプロンドレスに魔法使いが被るような帽子。
魔法使いか魔女見たいな格好だなと龍也は思っていると、少女は持って来た荷物をカウンターの上に置き、

「香霖、こいつを引き取ってくれ!!」

荷物の中身を霖之助に見せた。

「相変わらずよく見つけて来るね、君は。けど、今は鑑定中だから後にしてくれ」
「鑑定中?」

少女が首を傾げると、霖之助は顔を動かして龍也の方を見る。
それに釣られる様にして少女が顔を動かすと、

「お、見ない顔だな」

少女は龍也の存在に気付く。
少女が物珍しそうに龍也を見ていると、

「彼はここに物を売りに来た外来人だよ」

霖之助は龍也が外来人である事を口にする。

「へぇー、外来人か……」

外来人である事を聞いた少女は興味深そうな視線を龍也に向けた。

「ん? どうかしたか?」

少女の視線に気付いた龍也はどうかしたのかと尋ねた瞬間、

「あ、悪い悪い。外来人なんて初めて見たからさ」

少女はそう謝りながら龍也に近付く。
そして手を差し出し、

「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ。よろしくな」

自己紹介をする。
それを受けて、

「俺は四神龍也だ。こっちこそよろしくな」

龍也も自己紹介をして、魔理沙と握手をする。
同時に、人懐っこそうだなと言う印象を龍也は魔理沙から感じていると、

「そうだ、外の世界ってどんな所なんだ?」

魔理沙は龍也に外に世界に付いて尋ねて来た。
折角なので、

「そうだな……」

龍也は鑑定が終わるまで外の世界の事やお互いの事を話し、時間を潰す事にする。





















「二人とも、鑑定が終わったよ」

話が盛り上がって来た所で、霖之助から鑑定が終わったと言う声が掛かる。
その声に反応した龍也と魔理沙は雑談を切り上げてカウンター方に向う。
二人がカウンターに前に来たタイミングで、

「まず、龍也君の方だけど……これ位で買い取らせて貰うよ」

霖之助はカウンターの上にお金を置く。
どの位の価値があるのだろうと龍也が思っていると、

「お、かなりの大金じゃないか」

魔理沙は少し驚いた顔をしながら大金であると口にする。

「そうなのか?」

確かに札束とかが結構あるなと龍也が思い始めた時、

「そうだぜ」

魔理沙が大金である事を肯定する言葉を発する。
幻想郷に住んでいる魔理沙が大金と言うのであれば大金なのだろう。
大体のお金の価値は人里の店に売ってる商品を見て決めようと龍也は考え、カウンターの上に置かれているお金を仕舞う為に財布を取り出す。

「へぇー、変った財布だな」

龍也が取り出した財布を見て、魔理沙はそんな感想を呟く。

「そうか?」

龍也が首を傾げると、

「そうだね、幻想郷では見ないタイプの財布だね」

霖之助も幻想郷では見ないタイプの財布だと言う。
まぁ、外の世界の財布だしなと龍也は思いながらお金を仕舞った瞬間、

「で、魔理沙の方は……」
「何時も通りツケといてくれ」

魔理沙と霖之助の間でそんな会話が行われる。

「そう言うと思ったよ」

霖之助はやれやれと言った感じで肩を竦めると、

「それじゃ、私はそろそろ行くぜ」

魔理沙は香霖堂を後にし様と扉の前まで行く。
そして、扉を開け様としたところで魔理沙は何かを思い出したかの様に振り返り、

「あ、そうだ龍也。私は魔法の森で何でも屋をやってるから何かあったら言ってくれ。安くしとくぜ」

自分の店を宣伝する様な事を龍也に言う。

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

その時が来たら利用させて貰うと言った旨を龍也から聞けたからか、

「おう!!」

魔理沙は嬉しそうな顔をしながら香霖堂から出て行った。
魔理沙が出て言った後、

「龍也君龍也君」

霖之助は龍也の名を呼ぶ。

「はい、何ですか?」

その声に反応する様に龍也が霖之助に顔を向けると、

「これからも魔理沙と仲良くしてやってくれるかな?」

霖之助は魔理沙と仲良くする様に頼む。
その頼みに、

「え? その積りですけど」

龍也は仲良くする積りだと返す。
魔理沙は龍也にとって好感が持てるタイプなので、冷たい態度を取る気は無い。
龍也が魔理沙と仲良くしてくれると分かったからか、

「そうか。それは良かった」

霖之助は嬉しそうな表情になる。
その霖之助の表情は、弟や妹の身を案じる兄の様に見えた。

「それで、龍也君はこれから何所かに向かう予定はあるのかい?」

霖之助は思い出したかの様に龍也の予定を尋ねた時、

「そうですね、まず人里に向かう予定です」

龍也は人里に向う事を口にする。

「そうか。人里は魔法の森の抜けた先にあるからね。幸いここは魔法の森の入り口の近くに建っているからね。迷わずに行けると思うよ」
「そうですか。態々ありがとうございます」

龍也は頭を下げてお礼の言葉を口にし、店の外に出ようとした瞬間、

「またのご来店を」

霖之助からある種の営業文句を受ける。
それに、

「ええ、また」

龍也はそう返して外に出た。















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