龍也が香霖堂を後にしてから数時間程の時が流れたが、

「何所だ……ここ?」

龍也は未だに幽香の家から香霖堂へ向うときに歩いて来た森……魔法の森の中を彷徨っていた。
霖之助は人里へは迷わずに行けると言ったが、この様だ。
と言うより、普通に考えれば香霖堂は魔法の森の入り口付近に建っているので龍也が魔法の森の中に入る事は先ず無い筈である。
では、何故龍也は魔法の森の中に入ってしまっているのか。
それは、

「やっぱ、あれが拙かったか……」

香霖堂を出て直ぐに珍しいカブト虫を発見してそのままそのカブト虫を追い掛けてしまったからだ。
そのせいで龍也は魔法の森の中を彷徨う事になってしまった。
本来の目的地である人里を目指す為にはこの魔法の森の中を抜けなければならない。
龍也はどうやってこの魔法の森から抜け様か考え、

「あ、そうだ」

ある方法を思い付く。
思い付いた方法と言うのは自分が歩いて来た場所を辿って戻ると言う方法だ。
普通に考えればそんな方法で戻れる訳がないのだが、この魔法の森では別である。
この魔法に森には珍妙な形や色をした茸や木の実、そして妙に大きい茸と言った物が目立っているが良く見れば生えている草も妙に長いのだ。
そして龍也はその長い草を踏み分けながら歩いて来た。
つまり、草が長ければ踏み分けられた草を目印にして戻る事は容易い。
そんな事を考えながら龍也は周囲を見渡すが、

「……あれ?」

踏み分けられた草は見付からなかった。
おそらく、この短い時間の中で直ってしまったのであろう。
魔法の森と言う場所は何とも生命力が溢れる場所なのであろうと龍也は思いつつ、どうやってこの魔法の森から抜け出すべきか考える。
無論、空を飛んで魔法の森を抜け出せばこの問題は速解決だ。
空と言う何の障害物も無い場所ならば大した苦も無く人里を目指す事が出来、更には先程から感じている空腹感ともおさらば出来る。
だが、龍也は空中から脱出と言う方法と取ろうとしない。
何故か。
龍也曰く、それをすると何処か負けた気分になって嫌との事。
ここまで自分の足で来たのだから最後までそうしたいと言うのが龍也の心情だ。
しかし、この儘では何時になったら魔法の森から出られるのかは分からない。
どうしたものかと考えを廻らせ始めたところで、

「……あ、そうだ。魔理沙に道案内を頼もう」

先程香霖堂で知り合った少女、霧雨魔理沙の姿が龍也の頭に思い浮かぶ。
魔理沙は何でも屋をやっているそうなのだから道案内もしてくれるだろう。
そう思って龍也は魔理沙の所まで行こうと足を進め様としたが、

「……俺、魔理沙が魔法の森の何所に住んでるか知らないじゃん」

魔理沙が魔法の森の何所に住んでいるのか知らないと言う事を思い出し、足を止める。
香霖堂で魔理沙と会話をした時、魔理沙が魔法の森に住んでいる事は聞いたが魔法の森の何所に住んでいるのかまでは聞いていなかったのだ。
仮に龍也がその事を聞いていたとしても、ちゃんと魔理沙の家に辿り着けたかと言われたら首を傾げてしまうが。

「ま、分からないもの仕方が無いか」

龍也は分からないものは仕方が無いと割り切り、取り敢えず目の前の方向に向かって歩き始めた。
魔法の森に入ってからそんなに時間が経っていないので直ぐに出られるだろうと言う楽観的な事を考えながら。




















そして、数十分程時間が経った頃。
龍也は魔法の森から脱出出来た……と言う事は無かった。
つまり、まだ迷っているのである。
おまけに龍也が先程から感じていた空腹感も我慢できないレベルになって来ていた。
まだ空腹による幻覚などは見えて来てはいないが、それも時間の問題かもしれない。
龍也はお腹を摩りながら周りを見渡して見ると、

「……お」

一際大きな茸を発見する。
その茸は大きさだけが異常であり、色は茶と白と割と普通だ。
龍也はこの色合いならば食べれるかもしれないと思い、その茸に近付いて行く。
そして、その茸を毟ろうと思って手を伸ばした時、

「うおわあ!!」

手を伸ばした茸に急に口が現れ龍也を食べ様と襲い掛かって来た。
行き成り襲い掛かられた為、龍也は反射的に蹴りを放ってその茸を蹴り上げる。
上空に蹴り上げられた茸は上がっている最中にボロボロと崩れ、風に流されて消えていった。
その様子を見終わった後、

「……なんだありゃ!?」

龍也はつい大きな声を上げてしまう。
人を食う茸と言う見た事も聞いた事がないものを見て、体感してしまったのだから仕方が無いのかもしれない。
龍也自身、幻想郷は普通では考えられない事が起こると言うのは知ってたが肉食性の茸が存在していると言う事までには考えが至らなかった様だ。
色々と頭の中を整理する為に龍也は近くの木に手を付けて落ち着こうとするが、

「……あれ?」

木に手を付いたと言う感触が無かった。
それが気になった龍也は自分の手がある場所に目を向けると、

「なっ!?」

自分の手は木が開いた口の中にある事を知る。
自分の手が何処にあるかに気付いた龍也は直ぐに自身の力を玄武の力に変えた。
龍也の瞳の色が黒から茶に変わったのと同時に開いていた口が閉まってしまう。
口が閉じてしまった事で龍也の手が食い千切られるかと思われたが、それは無かった。
何故ならば、自身の力を玄武の力に変えた事で防御力が大きく上がったからだ。
防御力が上がった事でこの木の歯は龍也の皮膚で止まっており、龍也の手が食い千切られると言う事態は避けられている。
食い千切れていない事に驚いて動きを止めている木に向かって、龍也は渾身の力を籠めた拳を放つ。
拳が当たった事で木は圧し折れて、砕け散りながら吹き飛んで行く。
砕け散った木が見えなくなった後、

「ほんと……油断も隙もあったもんじゃねぇな……」

龍也はそう呟いて周囲を見渡す。
見た感じ何者かが襲い掛かって来る気配は感じられないからか、龍也は力を消す。
そして、瞳の色が茶から黒に戻った瞬間、

「魔理沙って凄いな……」

龍也はそんな事をポツリと呟く。
よくこんな危険な所で普通に生活出来るものだなと龍也は思いつつ、先へと進んで行く。





















そしてあれからまた数十分程時間が経ったが、龍也はやっぱり魔法の森の中で迷っていた。
おまけに空腹感のせいか力があまり入らなくなって来ている。
このままでは倒れてしまうと考えた龍也は何処かに休める場所がないかと周囲を見渡すと、

「……お」

少し大き目の切り株を発見した。
二、三人程度なら余裕で座れる程の大きさがある。
龍也は丁度良いと思いながらその切り株に近付いて行く。
が、

「……………………………………」

龍也は途中でふと歩みを止めて、掌を切り株に向け、

「はあ!!」

威力を抑えた霊力で出来た弾を一発放つ。
龍也の放った弾はその切り株に命中したのと同時に爆発し、爆発音と爆煙が発生する。
爆煙が晴れると、少し焦げ目が付いた切り株が姿を現す。
そのまま少し待つが、切り株に変化は見られない。
変化が見られない事から、

「何だ、普通の切り株か」

この切り株は普通の切り株であると龍也は判断する。
先程の茸や木の事があり、これも切り株に擬態した何かかと疑っていたがそれは杞憂であった様だ。
安心したからか、龍也は切り株に近付いてそのまま腰を落ち着かせ、

「……はぁ」

一息吐いてこれからどうするかを考える。
このまま魔法の森を彷徨っていては何時かは餓死してしまう。
仮に餓死をさける為に下手に茸を食べたらそれは毒茸で毒死と言う結末もあるかもしれない。
そう考えると先程の茸が茸に擬態した妖怪で毒死は免れたと考えられる。
案外、あの茸が妖怪で良かったのかもしれない。
餓死や毒死などの現状での問題点を少し出してみたが、これらの問題を全て解決する方法は勿論ある。
空から脱出すると言う方法だ。
しかし、それをすると龍也としては何だか負けた気分になる。
プライドを取るべきか取らざるべきかを考え始めた時、

「さっき、こっちの方で爆発音が聞こえて来たけど……大丈夫?」

突如そう声を掛けられた。
その声に反応した龍也はふと気付いた様に顔を上げ、声が聞こえ来た方に顔を向ける。
龍也が顔を向けた先には金色の髪を肩口に届くか届かないか位に揃えた少女がいた。
少女の言い分から察するに、先程の爆発音で龍也が怪我をしたりしてないか尋ねている様だ。

「あ、えーと……」

襲い来た妖怪と言う訳ではないので龍也は先程事を話そうと思った瞬間、

「あ……」

腹の音が鳴った。
無論、音の発生源は龍也の腹だ。
龍也の腹の音を聞いたからか、少女は手に持っているバスケットを龍也に見せ、

「サンドイッチがあるけど……食べる?」

サンドイッチを食べるかと言う事を尋ねる。

「いただきます」

龍也は間髪入れずにそう言うと、少女は龍也の隣に座ってバスケットからサンドイッチを取り出し、

「はい」

それを龍也に手渡す。

「どうも」

龍也は礼を言いながら手渡されたサンドイッチを食べ、

「……美味い」

素直な感想を漏らした。

「ありがと」

美味しいと言われた事が嬉しかったのか、少女は嬉しそうな顔になる。
そして、そのままバクバクとサンドイッチを食べていく龍也を見ながら、

「紅茶飲む?」

紅茶を飲むかと問う。
問われた事に、

「飲む」

龍也はこれまた間髪入れずに飲むと言う答えを出した。
肯定の発言を受けた少女はバスケットからポッドとカップを取り出し、それに紅茶を注いでいく。
そして、カップの中身が紅茶で満たされると、

「はい」

少女は龍也にカップに差し出す。

「ども」

龍也は差し出されたカップを取り、紅茶を飲む。

「……美味い」
「ふふ、ありがとう」

紅茶の美味しいと言われたからか、少女はまた嬉しそうな顔をする。
そして、紅茶を飲み干すと再びサンドイッチを食べ始めていく。
ある程度のサンドイッチを食べ切った時、

「………………………………」

龍也は突如サンドイッチを食べるのを止める。
急に食べるのを止めた龍也を見て、

「どうかした?」

少女が疑問の声を出す。
先程までバクバク食べていたのに急に食べる止めたのであれば疑問の一つや二つを抱いて当然だろう。
少女が抱いた疑問を何となく察した龍也は、

「いやさ、ここまで食べて置いて言うのも何だけど俺がこんなに食べちゃっても良いのかなって思って……」

食べるの止めた理由を口にする。
少なくとも、このサンドイッチは龍也の為に作られた物でない。
少女が食べる為に作った物だ。
だと言うのに、龍也はこれでもかと言う位に食べてしまった。
龍也が食べるの止めた理由を聞いた少女は、

「別に構わないわ。自分でも作りすぎたかなって思っていたから」

少女は別に構わないと言う。
それを聞き、言われて見れば確かにサンドイッチの量が多いなと龍也は思った。
少なくともこの少女が一人で食べる量には到底思えない。
だとしたら、何でこんなに作ったんだろうと龍也は考えた。
龍也の疑問を大体察した少女は、

「人里で布地とかを買う序に食料も買い込んで置こうと思って家の食料庫の中を綺麗にし様と作っていたらこんな量になっていたのよ。
自分でも作り過ぎたと思ったし正直私一人じゃ腐らせてただろうから、貴方がいてくれて助かったわ」

サンドイッチを大量に作った理由を口にする。
それを聞き、なら遠慮する必要は無いと龍也は思って再びサンドイッチを食べ始めていく。





















そして、

「ふー……食った食った。ありがとう、お陰で腹が膨れたよ」
「ふふ、美味しそうに食べてくれて私も嬉しかったわ」

サイドイッチは綺麗に食べ切られた。
因みに食べた量は龍也が九割、少女が一割といったところだ。
ご飯を食べさせて貰って何もしないと言うのはあれなので、食事の龍也は後片付けを手伝う。
後片付けが終わると少女は何かを思い出した様な顔をし、

「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はアリス。アリス・マーガトロイドよ」

自己紹介をする。
自己紹介をされたからか、

「俺は龍也。四神龍也だ」

龍也も自己紹介を行い、

「えーと……アリスさん、お陰で助かった。ありがとう」

頭を下げた。

「別に構わないわ。それと、畏まった態度を取らなくても良いわよ。私の事はアリスで良いわ」
「そうか。兎に角アリス、ありがとう」

龍也は顔を上げてもう一度礼を言う。
そのタイミングで、

「それで、龍也はどうしてこんな所に居たの?」

アリスは龍也に魔法の森に居た理由を尋ねる。
尋ねられた事に、

「あー、単純に迷ったと言うか何と言うか……」

龍也は正直に答えた。
迷った等々は流石に少し言いづらかったが。

「迷ったねぇ……」

迷ったと言う理由を聞いたアリスは若干呆れ顔になる。
そんなアリスの表情を見たからか、龍也は少し恥ずかしい気分になった。

「それで、何所に行こうとしてたの?」
「人里」

龍也が目的地は人里と言うと、

「なら、私が連れて行ってあげるわ」

アリスは自分が人里まで連れて行くと言う。

「本当か!?」
「ええ。私もこれから人里に行く積りだから丁度良いわ」

そう言ってアリスは立ち上がり、

「私から逸れたらだめよ」

自分から逸れない様に口にした。

「ああ、分かった」

龍也がそう言ったの同時にアリスは歩き始める。
それを追う様にして龍也も歩き出した。




















龍也とアリスは雑談をしながら魔法の森の中を歩いていた。
聞くところによると、アリスも魔法の森に住んでいるとの事。
同じく魔法の森に住んでいる魔理沙との関係を聞くと、同じ魔法使いで一応は友人との事らしい。
因みに同じ魔法使いとは言ってアリスは人形を操る事が得意で魔理沙は光と熱の魔法が得意だとか。
それを聞き、龍也は香霖堂で魔理沙と会った時に自分の得意な魔法の事を少し言っていた事を思い出した。
そんな事を思い出しつつ、

「だから魔法の森の中を歩いていても全然妖怪に遭遇しないのか」

龍也は今更ながらこれだけ魔法の森の中を歩いていても妖怪に遭遇しない理由を理解する。

「そりゃね。これでも魔法の森に住んで長いからね。どのルートが危険でどのルートが危険じゃないかはそれなりに知っている積りよ。
勿論、突如妖怪の徘徊ルートが変わると言う様な事もあるけどね」

アリスは魔法の森に住んでいるのだからそれ位は当然と言えば当然だ。

「そう言えば、貴方って外来人なのよね?」

ふと、思い出したかの様にアリスは龍也が外来人である事を尋ねる。

「そうだけど」

外来人である事を龍也が肯定したからか、

「なら外の世界には完全な自立人形とかそれに類する物ってある?」

アリスはそんな事を問うて来た。
雑談をしている時に聞いた事であるが、アリスの目標は完全な自立人形を生み出す事らしい。
それ故に外の世界にそう言った物があるかどうかが知りたい様だ。

「うーん……そう言った物が出来たって話は聞いた事は無いな。今、外の世界にあるのは決められた動作を決められた条件化で行うって言うのが精々だしな。
アリスの言う完全自立タイプのロボット……人形は物語とかそう言ったものの中にしか登場してないな」

龍也が外の世界には完全自立タイプの人形が無いと言う事を口にする。
外の世界に自分の目標としている物が存在していない事を知り、

「そう……」

アリスは少し残念そうな顔になってしまった。
が、直ぐに表情を戻してアリスは龍也に外の世界の事に付いて聞いていく。
龍也が外の世界の事を話し、それをアリスが聞くと言った感じで進み始めてから暫く経つと、

「お……」

魔法の森を抜けた事に龍也は気付く。
目の前に広がっている草原に目を向けていると龍也を見て、

「ここまで来れば人里までもう少しね」

アリスが人里までもう少しだと言い、

「もう一度言うけど、逸れない様にね」

龍也の方を見て少し強い声色で逸れない様に言う。
そう言われた龍也は、

「はははは……」

苦笑いを浮かべながらアリスから顔を背け、魔法の森の中でアリスと逸れそうになった事を思い出す。
まぁ、逸れそうになった理由は龍也が珍しい形をしたクワガタに目を奪われ、そのクワガタが飛んで行った方に付いて行こうとしたからなのだが。
龍也がそ時の事を思い出していると、アリスが足を進め始めたので龍也は慌ててその後を追う。
それから少し経った時、

「ん?」

龍也とアリスは四足歩行で歩く爬虫類の様な生物に行く手を阻まれてしまう。

「あれも妖怪か?」
「ええ、あれも妖怪よ」

龍也のあれは妖怪かと言う問いにアリスは目の前に居る生物が妖怪である事を肯定し、面倒臭そうな表情を浮かべる。

「妖怪って結構頻繁に襲って来たりするものなのか?」

妖怪は頻繁に襲い掛かって来るのかと言う龍也の疑問に、

「そうね……陸路だと結構な頻度で襲われたりするわね。妖怪然り妖精然りね。まぁ、妖精が襲って来るのは異変の時を除けば殆どないけど……」

アリスはそう答えながら無数の人形を展開させた。
その数は二十と少し。
それを見て龍也は驚いた表情になる。
魔法の森で雑談をしている時にアリスから人形を操るのが得意と聞いた時に龍也は実演してくれる様に頼んだ。
そんな龍也の頼みをアリスは快く引き受け、アリスは数体の人形をまるで生きているかの様に操って見せた。
数体に人形を生きている様に操ったのを見せたのにも驚いたと言うのに今回は二十と少し。
よくあれだけの数の人形を涼しい気な顔で操れるなと龍也は驚きよりも称賛が心の中を支配していた。
自分なら十の指を使っても人形の一体もまともに動かせないだろうなと思っている龍也を余所に、

「ああ言った頭の無い連中は所構わずに襲って来るからね。向こうからしたら二つの餌が歩いてやって来たと言う認識なのかも知れないけど……」

アリスはそう言って溜息を一つ吐く。
表情から察するに、今までにもこう言う事があった様だ。

「ま、こう言う輩はさっさと撃退するのに限るわね」

そう言って、アリスは一歩前に出ようとするが、

「これ位で返せるとは思ってないけど、飯を食わせて貰ったのと道案内をしてくれた礼だ。こいつ等の相手は俺がするよ」

その前に龍也が一歩前に出て自身の力を朱雀の力に変え、瞳の色が黒から紅に変わるのと同時に両手から二本の炎の剣を生み出す。
瞳の色が変わり、炎の剣を生み出した龍也を見てアリスは少し驚いた顔をするも直ぐに表情を戻し、

「それなら、貴方のお手並みを拝見させて貰おうかしら」

この場を龍也に任せる事にした。
その言葉を合図にしたかの様に龍也は一番近くに居る妖怪目掛けて駆け、妖怪が自分の間合いに入った瞬間、

「はあ!!」

龍也は炎の剣を振り下ろして妖怪を一体仕留める。
瞬く間に自分に仲間を仕留められた事に妖怪達は驚くも、直ぐに口から妖力で出来た弾を龍也に向けて放つ。
迫って来る弾を龍也は跳躍する事で回避する。
跳躍して上空から妖怪の配置を見ると、

「あ」

一部の妖怪達がアリスの所に向って行くのが見て取れた。
動かないアリスを見て好都合と思ったのだろう。
龍也は両手の炎の剣を消して炎の弾幕をアリスに向って移動している妖怪に向けて放つ。
無論、アリスに被害がいかないように威力を押さえながら。
その弾幕が命中すると、残りの妖怪達は龍也が降下するであろう場所の周囲に集まって来る。
どうやら、今の弾幕を見て動かないアリスよりも先に龍也を仕留め様と考えた様だ。
そして龍也が地に足を着けたのと同時に、龍也の近くに集まっていた妖怪達は一斉に飛び掛って来た。
妖怪達が飛び掛って来たのと同時に龍也は両手から炎の剣を生み出し、両手を広げて体を独楽の様に回転させる。
すると、襲い掛かって来た妖怪達は炎の剣に焼き斬られながら薙ぎ払われていく。
全て薙ぎ払い終えた事を感覚で理解すると、龍也は回転を止めて周囲に目を向ける。
周囲には飛び掛りをしなかった為に生き残った僅かな妖怪達が目に入った。
その妖怪に龍也が睨みを効かせると、僅かに生き残った妖怪経ちは悲鳴を上げて逃げていく。
妖怪達が見えなくなると、龍也は炎の剣を消して力を消す。
龍也の瞳の色が紅から黒に戻ったタイミングで、

「……ん?」

拍手の音が聞こえて来る。
その音が聞こえて来た方に顔を向けた龍也の目には、

「お見事」

アリスとアリスの人形達が拍手をしている様子が目に映った。
拍手をしながら人形を操る。
本当に器用だなと龍也が改めて思っている間に、

「それにしても、外来人で能力持ちで強いって本当に珍しいわね」

龍也の戦い振りを見てか、アリスはそんな事を言う。

「やっぱ珍しいのか? 俺みたいな外来人って」

アリスの発言を聞いた龍也が疑問気な表情を浮かべながら首を傾げたからか、

「そうね……私も外来人を見たのって貴方が初めてだけど、聞いた限りでは貴方みたいに強くて能力持ちって言うのはかなり珍しいみたいね」

アリスは自分が知る外来人の知識を口にする。
それを聞いた時、龍也は幽香の家で幽香から聞いた事を思い出す。
外の世界の人間が何かの拍子や偶然で幻想入りしたりする事があると言う事を。
そんな風に幻想入りする人間の殆どは普通の人間だ。
場所にもよるが普通に妖怪に食べられて終わりであろう。
若しかしたら、外の世界で誰かが行方不明になったと言うニュースの幾つかは幻想入りしたものなのかもしれないと龍也が思っていると、

「まぁ、幻想入りしてそのまま人里に永住を決め込んだ外来人も居るみたいだけどね……」

アリスは人里で生活している外来人が居る事を口にする。
しかし、誰が外来人なのかはアリスにも分からないとの事。
幻想郷の人間も外の世界の人間も同じ人間なので着ている服が同じならどっちがどっちなのかは分かりはしないであろう。

「あ、外来人と言えば人里にあるカフェ。あそこを経営しているのは外来人の子孫と言う噂があるわね」

アリスは外来人で思い出したからか、人里にあるカフェに付いて話す。

「カフェ?」
「そ、カフェ」

カフェと言ったらカフェなのだろうと龍也は思い、近い内にでも行って見ようと考えた時、

「それじゃ、そろそろ行きましょう」

アリスに先へ進む様に促される。

「それもそうだな」

そして、二人は再び人里を目指して足を進め始めた。




















「おお……」

人里に着いた龍也は感嘆の声を漏らす。
まるでタイムスリップした様な感覚が襲ったからだ。
龍也が物珍しそうな目で人里の町並みを見ていたからか、

「やっぱり珍しい?」

アリスは珍しいのかと尋ねる。

「ああ、珍しい」

龍也はその事を肯定し、一旦人里の景色を見るのを止めた。
すると、

「そう言えば、龍也は何の目的で人里に来たの?」

アリスは思い出したかの様に龍也に人里に来た目的を聞く。

「幻想郷の事とかそう言うのを調べ様と思ってるんだ」
「そうね……それなら稗田家かしらね」
「稗田家?」

アリスの口から発せられた家名を聞いた龍也が首を傾げたのを見て、

「幻想郷の歴史や出来事を纏めてる所よ」

アリスは稗田家に付いて簡単に説明する。

「へぇー」

博物館みたいな所かなと龍也が思っていると、

「良いわ、序だから案内して上げる」

アリスが稗田家に案内してくれると言う。

「いいのか?」
「貴方をそのまま行かせたら迷子になってそうだしね」
「はははは……」

その事を否定できる言葉は龍也には見つからず、思わず苦笑いを漏らす。

「じゃ、着いて来て」

そんな龍也にアリスは若干呆れながらも稗田家に向けて足を進める。
その後に続く様に龍也も足を進めて行く。
稗田家に着くまで龍也は周りを見ながら歩いているが、龍也は改めて自分がタイムスリップをした様な感覚に陥る。
時代劇などよりもリアルに感じてしまう。
やはり本物だからであろうか。
そんな風に龍也が人里の景色を楽しんでいると、

「着いたわよ」

アリスから目的地到着の声が掛かった。

「え?」

どうやら、何時の間にか稗田家に着いていた様だ。

「ここが稗田家よ」
「ここが……」

アリスの言われて顔を上げると、大きな屋敷が目に入る。
おまけにかなり大きな門。
かなりの金持ちが住んでいるのかなと言う事を龍也が思っている間に、

「それじゃ、私はそろそろ行くわね」

アリスは自分の買い物に向う事を伝える。
それを聞き、

「あ、色々とありがとな」

龍也が改めてアリスに礼を言う。
龍也の礼に、

「どういたしまして」

アリスは笑顔でどういたしましてと返してくれた。

「それじゃ、またなアリス」
「ええ、またね龍也」

そう言って、アリスは去って行く。
アリスの姿を見送った後、龍也はどうやてこの屋敷に入るか考える。
そして、取り敢えずはノックだろうと思ってノックをする事にした。














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