龍也が大きな門にノックをしてから少し経ったが、

「……あれ?」

何の反応も無かった。
ならばもう一度と龍也は思い、再びノックをする。
が、やっぱり反応は無い。
若しかして留守なのでは龍也は考えたが、直ぐに別の可能性を思い付く。
思い付いた可能性と言うのはノックの音が届いていないと言う事。
これだけ大きい屋敷なのだ。
ノックの音が伝わっていなくても何の不思議は無い。
だとしたら、どうやってこの屋敷に入ればいいのかと龍也は考え始める。
このまま屋敷の中に入ったら不法侵入になってしまう。
かと言って、このまま門の前で待ち惚けを喰うのもあれだ。
下手をすれば不審者か変質者に間違えられてしまうかもしれない。
どうしたものかと龍也が悩み始めた時、

「当家に何か御用ですか?」

真横から声を掛けられた。
その声に反応した龍也は考え事を止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には少し薄い紫色の髪を肩口付近で揃え、着物を来た女の子が居た。
何所と無く、高貴さを感じさせる雰囲気がある。
龍也がそんな印象を受けていると、

「初めて見る方ですね。妖怪……ではなそうですね。ひょっとして外来人の方ですか?」

女の子は龍也に外来人なのかと尋ねる。

「ああ、そうだよ」

龍也は外来人である事を肯定した。
龍也が外来人である事を知った女の子は、

「そうですか。あ、申し遅れました。私は稗田家当主をしております稗田阿求と申します」

自己紹介を行い、頭を下げる。
自己紹介をされた事で、

「あ、これはご丁寧にどうも。俺は四神龍也って言うんだ」

龍也も頭を下げ、自己紹介を行う。
そして龍也が頭を上げると、

「……ん?」

阿求がジッと龍也の顔を見詰めていた。

「えっと、どうかした?」
「いえ、驚かないんだなと思いまして」
「?」

よく分からないと言った感じで龍也が首を傾げたのを見て、

「私の様な子供が当主だと知ったら外来人の方は皆、驚いていましたので」

阿求は龍也が抱いている疑問に対する答えを口にする。
それを聞いた龍也は、

「ああ……」

成程なと思った。
確かに阿求の様な年頃の子供が当主と言われたら普通ならば驚くだろう。
だが、龍也は驚かなかった。
何故かと言うと、龍也はレミリアに会っていたからだ。
レミリアも見た目は子供だが、紅魔館の主である。
レミリアと言う前例がなければ龍也も驚いていた事であろう。
阿求の言葉でレミリアの事を思い出したから、龍也は阿求もレミリアの様に相当強いのかなと思いながら阿求を見ていると、

「何か?」

その視線に気付いた阿求がどうかしたのかと尋ねて来る。

「あ、いや別に」

流石に面と向って強いのかと尋ねるのはどうかと思った龍也はこの事を頭の片隅に追いやり、

「そう言えば、さっきの言い方だとやっぱり人里には外来人もいるのか?」

先程の阿求の発言で気になった事を問う。

「ええ、そうですね。幻想入りして人里に来られた外来人の方の多くはこの人里で暮らしていますよ」

それを聞き、龍也はやっぱり人間も結構幻想入りしているんだなと龍也は思った。
まぁ、これはアリスと話ていた時に聞いた事ではあるが。
それはそれとして、阿求の発言で気になる一言があったので、

「多くは?」

気になった一言に付いてを尋ねてみる事にした。
すると、

「はい、一部の方は博麗神社に行って外の世界に帰られました。まぁ、その時は幻想郷での記憶を消されている様ですが」

阿求は外の世界に帰った外来人の事を話す。

「へぇー」

龍也はそうなんだと思いつつ、記憶を消されるのは妥当だなと思った。
何せ、この幻想郷の事が大々的に広まってしまったら大騒ぎ処のレベルじゃない騒ぎが起こるであろうからだ。
龍也がそんな事を考えていると、

「それで、当家に何か御用ですか?」

阿求はここにやって来た理由を尋ねる。
その一言で龍也はここにやって来た目的を思い出す。

「ああ、ここには幻想郷の出来事や歴史を纏めている場所だって聞いてさ。出来ればその記録とかを見せて欲しいんだけど……」

ここにやって来た理由を阿求に話すと、

「ああ、そうでしたか。別に構いませんよ」

快く了承が取れた。
あっさりと許可が取れた事で、龍也が少し驚いた表情を浮かべる。
その間に、

「では、私に着いて来てください」

阿求は屋敷の門を開けて中に入って行ったので、龍也は少し慌てた感じで阿求の後に続いて門の中に入って行く。
門の中に入った龍也は

「……でか」

屋敷の広大さに少し圧倒されていた。
広い庭に大きな池、その池に見える大きな鯉。
それらの光景に龍也が少しの間見とれていると、

「どうかしましたか?」

阿求からそんな声を掛けられた。

「あ、何でもないよ」

その言葉で龍也は意識を取り戻し、再び足を進ませ始める。
そして屋敷の中に入って靴を脱いで上がり、阿求の後に付いて廊下を歩いて行く。
屋敷の大きさから考えて、廊下に使われている木は相当高級なもの何だろうなと言う事を龍也が考え始めた時、

「そう言えば龍也さんはこの先、人里に永住するのですか? それとも外の世界に帰られるのですか?」

阿求から人里に住むのか外の世界に帰るのかと問われる。

「いや、幻想郷中を旅して回って見る積りだけど」

幻想郷中を旅して回る積りだと口にすると、阿求は驚いた顔をしながら動きを止めてしまう。
このままでは阿求にぶつかってしまうので龍也は慌てて自分の動きを止め、

「……っと、どうかしたのか?」

どうかしたのかと尋ねる。
すると、

「す、すみません。外来人の方は皆、人里に永住するか外の世界に帰るかのどちらかしか選ばなかったものですからつい……」

阿求はそう言っ頭を下げた。
思いっ切り予想外の返答だったので阿求の思考が少しの間停止していた様だ。
だが、それも仕方がない事であろう。
龍也が言った事は、普通の人間で例えると肉食動物が蔓延る中に進んで入って行く様なものなのだから。

「すると、龍也さんは能力持ちであったり力があったりするのですか?」

幻想郷を旅すると言ったからか、阿求は龍也にそんな事を尋ねる。

「うん、そうだよ」

その事を龍也が肯定すると、阿求はまたまた驚いた顔になった。
驚いた表情をしている阿求を見ながら、

「やっぱり珍しいのか、俺みたいなのって」

自分の様な存在は珍しいのかと尋ねる。

「そうですね。私が把握している限りでは、能力持ちで強い外来人は龍也さんが初めてですね」

阿求の発言を聞き、龍也は改めて自分の様な存在は珍しいのだと理解した。
同時に、

「私が把握している限りって……阿求は人里に居る外来人を全て把握してるんじゃないのか?」

疑問に思った事を尋ねる。
外来人の事に詳しかった事と大きな屋敷の当主である事から、阿求は人里に住んでいる外来人の全てを把握しているのだと思ったからだ。

「いえ、そんな事はありません。私の噂を聞いて会いに来る人もいればそうでない人もいますし。そもそも、人里に住んでいる人々の増減を私が
把握していると言う訳ではないですしね。それに私が人里を歩いていても寺子屋に通っている子供か、散歩か遊んでいる子供の一人位にしか
外来人の方には思われていないでしょうしね。」
「寺子屋……学校の事か」
「外の世界ではそう言うのですか?」

そんな事を話しながら歩いて行くと、

「あ、着きましたよ」

一際大きい襖の前に龍也と阿求は辿り着いていた。

「ここに資料など、様々な事を纏めた物を保管しています」
「へぇ……」

龍也は中に入って見ようと襖に手を掛けると、

「阿求様」

阿求の名を呼ぶ声が聞こえて来る。
声が発せられた方に顔を向けると、女性が阿求の方に寄って来ていた。

「お帰りになられていたのですか」
「ええ」

二人の会話から、この女性はお手伝いさんか女中の人かなと龍也は思った。
これだけ大きな屋敷なのだからこう言う人が居ても当然だろう。

「こちらの方は?」

そう言って女中が龍也の方を見ると、

「こちらの方は四神龍也さん。お客様よ」

阿求が龍也の事を紹介する。

「左様ですか」

阿求の客である知ったからか、女中は丁寧なお辞儀を龍也にする。
その後、

「お夕飯の時間になったらお呼びしますので、それまでは好きに使ってくれても構いませんよ」

阿求は夕飯の時間までは好きに使っていても構わないと言う。

「いいのか? 夕飯をご馳走になって」
「構いませんよ、あ、私は少しやる事があるので失礼しますね」

そう言って阿求は去っていった。
女中も龍也にもう一度お辞儀をした後、阿求に着いて行った。
二人の姿を見送った後、龍也は襖を開けて中に入ると同時に、

「おお……」

その中にあった膨大な資料に唖然とする。
流石にこれ等全てを読む気はないが、この量では対象の物を探すだけでも一苦労しそうだ。
そう思っていたのだが、

「あ、見付けた」

割とすぐに見付かった。
背表紙に歴史と言う文字が書かれた本が目に入ったからだ。
そして、その中で一と書かれている本を取り出して開いてみると、

「なん……だと……」

龍也は目を大きく開いてしまう。
予測して然るべきであった。
人里の町並みを見て想像は出来た筈である。
そう、本に書かれている文字は古文であったのだ。
龍也に読める訳が無い。
幻想郷が生まれてからどれだけの時が経っているのかは分からないが、この文字からして相当古いものだろうと龍也は思う。
何故ならば、本に書かれている文字が学校の授業で習ったものよりも古いと感じたからだ。
こんな事ならもっと真面目に授業を受けていればと龍也は思ったがもう遅い。
このままやるしかないであろう。

「だ、大丈夫だ。俺、国語の成績四だったし、漢字の読みだけはパーフェクトだったし……」

龍也はそんな事を呟きながら、本を読み始める。






















そして数時間後。

「……全然読めない」

龍也はあれから頑張ったのだが読めたのは僅か十数ページ。
それも何とか読める字を並べて勝手に推測しただけなのだが。

「んー……」

大分疲れて来ていた様で、龍也は体を伸ばしてストレッチを始める。
龍也がストレッチを始めてから少しすると、

「龍也様、いらっしゃいますか?」

襖がノックされる音と共にそんな声を掛けられた。

「あ、はい」

様付けされた事に龍也は疑問を覚えるが、取り敢えずその声に応える。

「失礼します」

そう言って襖が開けられる。

「お夕飯の準備が出来ましたのでお呼びに来ました」
「あ、どうも」

龍也はもうそんな時間かと思いながら立ち上がり、本を元の場所に戻して女中に着いて行く。
廊下を歩いている時に、様付けされた理由は自分が阿求のお客様だからかなと龍也は考える。
それならば納得だ。
当主のお客様なのだから様付けは位はするだろう。
龍也がそんな事を考えている間に、

「こちらになります」

夕食が準備されているであろう部屋の襖の前に辿り着く。

「どうも」

龍也が礼を言ったのと同時に

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

女中は去って行った。
その後、龍也は襖を開けて中に入ると、

「おお!!」

豪華な料理に目を奪われる。
こんな豪華な料理を見たのは龍也としては生まれて初めてだ。
龍也が豪華な料理を見渡していると、

「龍也さん、近くに座ってください」

阿求から声を掛けられる。
その声に反応した龍也は近くに腰を落ち着かせる。
そして周りを見渡すと、居間とかそう言った場所でない事が分かった。
周囲に女の子らしい小物が見えた事から、

「若しかして、ここって阿求の部屋か?」

龍也はここが阿求の部屋なのかと問う。

「正解です」

阿求から正解と言う答えは聞けたからか、

「何だって俺をここに呼んだんだ?」

龍也は阿求に自分の部屋に呼んだ理由を尋ねる。

「すみません、龍也さんとお話してみたかったんです」
「俺と?」

龍也が首を傾げると、

「外の世界の事を聞きたいなと思いまして。外来人の方とこうやって話すのって龍也さんが初めてですから」

阿求は龍也に外の世界の事を聞きたいのだと言う。
それを聞き、

「ああ、別に構わないよ」

龍也は外の世界の事を話す旨を伝える。

「ありがとうございます!!」

阿求が嬉しそうな表情で礼を言うと、龍也は食事を取りながら外の世界の事を話し始めた。





















「と、もうこんな時間か」

龍也は自分の腕時計を見て少し驚いた表情を浮かべる。
料理を食べ終わってからもずっと話し込んでいたからか、時間がかなり過ぎた事に気付かなかった様だ。
因みに、幻想郷と外の世界との時差は殆ど無い様なので龍也の腕時計はそのまま使えている。

龍也が阿求に外の世界の事を教えたのと同時に阿求も龍也に自分の事を教えてくれた。
その中で"一度見たものを忘れない程度の能力"があると阿求が言った時、龍也はテストの時などは便利だなと思い、
その事をそのまま伝えたらそんな事を言ったのは貴方が初めてですと阿求に苦笑混じりに言われた。
他にも幻想郷の出来事などを阿求が纏めていたり、ある程度の記憶を持ったまま何度も転生しており、その為に
死後には閻魔様の所でお仕事を手伝っているなど色々と龍也にとって色々と驚ける様な事も聞けた。
閻魔様と言われて龍也は大きくて、舌を抜く道具を持っていて、鬼の様な形相したのを想像する。
その想像した事を龍也はそのまま阿求に話したら、笑いながら全然違いますよと言われてしまう。
自分が想像したのと全然違う風貌なら会って見たいなと言う事を龍也が口にすると、阿求に説教癖があるので注意する様に言われた。
と、龍也が阿求と話した内容を思い返していると

「すみません、こんな遅くにまで付き合わせてしまって」

阿求がこんな遅くにまで話しに付き合わてすまないと謝罪を行う。

「別にいいよこれ位」

龍也はそう言い、楽しかったし夜更かしは慣れてるしなと続けると、

「でしたら、お風呂に入ってからご就寝されますか?」

阿求が風呂に入ったらどうだと言う提案をする。

「それでもいいんだけど……」

龍也はそう言いながら阿求の方に顔を向け、思う。
客人の立場である自分が一番風呂を貰っていいのかと。
そんな龍也の考えを察したのか、

「私の事でしたら気にしないでください。もう既に入浴は済ませてますから」

阿求は既に入浴を済ませている事を伝える。

「そうか」

なら遠慮する必要は無いなと龍也は思って立ち上がり、

「なら、そうさせて貰おうかな」

風呂場を使わせて貰う事にした。

「分かりました……居ますか?」

阿求がそう言うと、

「失礼します」

女中が部屋の中に入って来る。
どうやら、近くに控えていた様だ。

「何か御用ですか?」
「龍也さんが入浴される様だから浴室まで案内して上げて」
「畏まりました」

女中は阿求に一礼すると、龍也の方を向き、

「浴室まで御案内致します」

浴室まで案内する旨を伝える。

「どうも」

龍也は礼を言い、女中の後に付いて行く。
そして少し歩くと、

「こちらになります」

浴室へと続く扉の前に辿り付く。
扉の大きさから浴室は相当な大きさであると推察する。
まぁ、これだけ大きな屋敷なら浴室が大きいのはある意味当然であろうが。

「それで、龍也様のお召し物はいかがいたしましょうか?」
「あー……」

そう言われ、龍也はどうし様かと考える。
ワイシャツや下着なら兎も角、学ランとか言った類の物はそう頻繁に洗う物ではない。
おまけに学ランは結構洗うのが難しい。
世話になっている身で余計な手間を掛けさせるのもあれだなと思った龍也は、

「学ラン……上着とズボンはそのままでいいんで、ワイシャツと下着だけお願い出来ますか?」

ワイシャツの下着の洗濯のみを頼む。

「畏まりました」

そう言って女中は籠を持って来る。

「洗う物はこちらに入れてください。着替えは後ほどお持ちいたします」
「どうも」

龍也が礼を言うと、

「いえ、ではごゆっくりどうぞ」

女中は去って行った。
それを見送った後、龍也は扉を開けて中に入る。
龍也の予想通り、脱衣所も相当の大きさであった。
龍也は服を脱ぎ、ワイシャツと下着を先程渡された籠に入れて浴場に向うと、

「おおー、檜風呂ってやつか」

立派な檜風呂が目に入る。
檜風呂に入ると言うのは初めてなので龍也は一寸した感動を覚えた。
早速檜風呂に浸かろうとしたが、

「……と、まずは体を洗ってからだな」

体を洗ってから入るのがマナーである事を思い出し、龍也は先ず体を洗う事にする。

「んー……石鹸で体を洗うって言うのは何気に初めてだな」

龍也はそんな事を呟きながら体を洗っていく。
外の世界に居た時はシャンプーなどで洗っていたから石鹸で洗うのは中々に新鮮だ。
体を洗い終えると、

「……よし、早速入るか」

龍也は檜風呂に入る。

「んー……一寸熱いかな」

風呂の温度は適温かもしれないが、龍也にとっては少し熱かった様だ。
なので、龍也は温度を下げる為に自身の力を変える。
青龍の力へと。
瞳の色が黒から蒼に変わると、龍也は水を生み出してお湯の温度を下げる。
そして温くなり過ぎたら今度は自身の力を青龍から朱雀に変え、炎を生み出して風呂の温度を上げていく。
熱くなったら水を生み出して温度を下げ、温くなったら炎で温度を上げる。
能力の有効活用と言うか何と言うか。
こんな風に温度の調整をを繰り返していくと、龍也はある事を閃く。
閃いた事と言うのは一人旅している時に風呂に入る方法だ。
どんな方法かと言うと、玄武の力を使って土で出来た五右衛門風呂のような物を作り、青龍の力を使って
水を張り、朱雀の力を使って水を温め、白虎の力を使って体を乾かすと言うもの。
土が水で溶けそうな気がするが、土をより強固なものにするなり焼き入れをするなりすれば良いだろう。
ここまで考えた龍也は我ながら完璧ではないかと思った。
同時に、

「……っと」

睡魔が龍也を襲う。
このままでの風呂場で寝てしまいそうなので龍也は風呂から上がる事にした。
そして脱衣所に戻り、用意された着替えに着替え様とすると、

「なん……だと……」

驚愕の表情を浮かべる。
何故ならば用意された下着が、

「褌……」

褌であったからだ。
まぁ、少し考えれば分かった事であろう。
人里の町並みを見れば、どう言った衣服や下着は使われている事など。
褌の存在に驚いたものの、

「郷に入っては郷に従えて言うしな……」

直ぐに現状を受け入れ、褌を着け様とするが、

「あ……」

一つの問題が出て来た。
その問題と言うのは、

「俺……褌の着け方……知らないじゃん」

褌の着け方を知らないと言う事だ。
そもそも、龍也にとって褌を実際に見るのは今この時が初めてである。
おまけに龍也はトランクス派の人間だ。
これで褌の着け方を知っていろと言うのは無理と言うもの。
しかし、分からないからと言って褌の着け方を阿求や女中に聞く訳にもいかない。
かと言って、このまま脱衣所に留まる訳にもいかない。
どうするべきか。
数分間悩んだ末、龍也は自分の勘を信じて着ける事に決める。
因みに服は和服であった。





















そして、龍也が阿求の屋敷に訪れてから五日が過ぎた。
因みにこの五日間、

「色々と世話になったな、阿求」
「いえ、私の方も外の世界のお話が聞けて楽しかったです」

龍也は稗田家に泊まっていたのだ。
泊まった理由は単純に、幻想郷の事が書かれていた本が全然読めなかったからである。
この五日間、龍也は稗田家の資料室で缶詰状態になりながら本を読み解こうとしたが、殆ど読み解けはしなかった。
流石にかなり古い文字を辞書など無しに読み解くのはかなり無理があった様だ。
まぁ、それでも分かる事はあったので龍也はよしと思う事にした。
殆ど本を読み解けていないのに龍也が稗田家を後にする事にしたのは、旅をしたいと言う気持ちが押さえ切れなくなって来たからだ。

「でもよろしかったのですか? 朝食を食べていかれなくて」

龍也の見送りに来ていた阿求がそう尋ねると、

「ああ。適当に人里を見て回る序に何所かで食べていこうと思ってるからさ」

龍也はそう返す。

「そうですか。あ、おにぎりを作りましたんでよろしかったらお昼にどうぞ」
「お、ありがとな」

龍也が礼を言うと、阿求はおにぎりを包んだ物をベルトの部分に括り付けてくれた。
それが終わると、

「それじゃ、またな阿求」
「ええ、またいらして下さいね龍也さん」

そう挨拶を交わし、龍也は稗田家を後にする。





















「へぇ……まだ早い時間だって言うのに結構人が行き来してるな」

まだ朝も早い時間だと言うのに人里では人の行き来がそれなりにある。
皆、朝早くから活動をしているのかなと龍也が思っていると、

「おはよう」

近くを通った人に挨拶をされた。
なので、

「おはようございます」

龍也は挨拶を返す。
こうやって道行く人に挨拶されるのは外の世界では滅多に見ない光景なので龍也は新鮮感を覚えた。
その後、龍也は人里を色々とウロウロしていたら、

「そろそろ飯にするか」

良い感じにお腹が減って来たので朝食を取る事に決める。
朝食はアリスが言っていたカフェで取ろうと決め、周囲を見渡すが、

「……無いな」

それらしき建物は見付からなかった。
この近くには無いのかもと龍也が思っていると、近くに人が通り掛かるのが見えたので、

「すみません」

カフェの場所を聞いてみる事にする。

「おう、どうしたい兄ちゃん?」
「カフェまで道のりわかりますか?」
「ああ、それならそこの通りを二つ行った先を左だ。直ぐに見えると思うぜ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いいってことよ」

そう言って去って行った男を見送り、龍也は気前のいい人だなと思いながら教えられた道を歩いて行く。
すると、

「お、あれか」

直ぐにカフェが見付かる。
龍也はとても分かり易いなと思いながら、空いてる席に座ってそしてメニュー表を見ていく。
思っていた以上にメニューが充実しているなと龍也が思っていると、

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

ウェイトレスが水を持ってやって来て、注文が決まったかを尋ねる。

「えーと……オムライスのミルクをお願いします」

龍也は取り敢えず適用に目に止まったものを注文する事にした。

「オムライスとミルクでよろしいですか?」
「はい」
「畏まりました。少々お待ちください」

注文を聞き入れたウェイトレスが去って行くと、龍也は水を飲みながら周りの景色を見る。
カフェからはそれなりの数の人々が行き来している様子が見えた。
活気があるなと龍也は思いながらその様子を観察していくと、

「お待たせいました、オムライスとミルクをお持ちしました」

注文した物が届けられる。
予想以上に早く届けられた事から龍也は内心驚く。
若しかしたら自分が注文をする前から作り始めていたのではないかと思いながら食事を進める。
食べて終わると、龍也は会計をすましてまた人里をブラブラしていく。
ブラブラとして行く中で様々な店を見たからか、龍也は幻想郷でのお金の価値を大体理解する。
外の世界の一万円が幻想郷での一円位だ。
お金の価値が解った事で、龍也は人里の出入り口を探す。
本来の目的である幻想郷中を回る為に。
今日は天気も良かったので絶好の旅路日和だと思っていると、

「……お」

人里の出入り口を発見する。
その先は見えない位に広い。
広大な景色を見た龍也はワクワクした気分になりながら一歩、また一歩と龍也は人里から離れて行った。











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