龍也が人里を離れてから数時間程の時が流れた。
その道中で龍也は何度か妖怪に襲われたが旅自体は順調に進んでいる。
まぁ、行き先も目的地も何も決めていない自由気ままな旅路ではあるが。
そんな風に足を進めて行くと、
「あれは……森か……?」
沢山の木々が龍也の目に映る。
魔法の森やあの大きな湖の周辺以外にも森ってあるんだなと龍也は思った。
因みにあの湖は霧の湖と言うらしい。
この事は稗田家に泊まっている時に阿求から教えて貰った事である。
それはそれとして、龍也は森林浴でも楽しもうと思ってその森の中に足を踏み入れていく。
森に足を踏み入れてから少しすると、龍也はこの森に魔法の森とは全然違う雰囲気を感じた。
魔法の森には瘴気があるので当然と言えば当然だ。
魔法の森の瘴気は一般人にとっては害だが龍也の様に力を持った者ならば大した事は無い。
序に言うのであれば、魔法使いにとって魔法の森の瘴気は自身の力を高める効果があるとの事。
この事は魔法の森でアリスと雑談している時に聞いた事だ。
魔法の森とは違ってこの森では襲い掛かって来る茸や木がない様なので龍也がのんびりと森林浴を楽しんでいると、
「ん? 何だあれ?」
少し先の方に何かが落ちているのを発見する。
龍也は何だろうと思いながら落ちているそれに近付いて行くと、
「これは……木の板か?」
落ちていた物は木の板らしき物である事が分かった。
よく見ると、表面に文字らしき物のが書かれている事が分かる。
何が書かれているのか気になった龍也は落ちている木の板を拾って書かれている文字を読み取ってみる事にした。
「えーと……何々…………麗…………神……社……?」
所々擦れていたり欠けていたり孔が空いていたりする部分が多々あったので読み取れた文字はこれだけである。
だが、龍也はこの読み取った文字に聞き覚えならぬ読み覚えがあった。
それを思い出そうと龍也が頭を捻っていくと、
「…………博麗神社か!!」
博麗神社と言う単語が龍也の頭を過ぎる。
そう言えば幽香と阿求が博麗の巫女や博麗神社に付いて話していたな思い出し、
「折角だし、行ってみるか」
博麗神社に向う事を決め、周囲を見渡す。
しかし、幾ら辺りを見渡しても博麗神社へと続く道は見られない。
その事から龍也は若しかしたらこの木の板は看板で、雨風で支えていた物が圧し折れここまで飛ばされて来たのかと推察する。
もしそうであるならば、まずそれを見付けるのが先決かと龍也は考え、
「……よし、行くか」
取り敢えず目に着いた方へ足を進めて行く。
そしてまたまた数時間後、
「お、あれか」
漸く看板だった物が見えた。
地面に刺さった圧し折れた木の棒が。
ここまで時間が掛かったのはかなりの距離を看板が飛んだ為か、龍也が迷ったせいなのかは分からないが。
取り敢えず看板の先に目を向けると、石で出来た階段が龍也の目に映った。
おそらくこの先に神社があるのだと龍也は思い、視線を上げていく無数の木々は見えても神社らしき建物は見られない。
それなりに高い位置に建っているのだろう。
そんな推察を立てた後、龍也は視線を落としていき、
「しっかし荒れすぎじゃないか?」
そんな事を呟く。
石で出来た階段……石段は所々欠けていたり罅割れしていたりしており、その皹の隙間からは雑草が伸びている。
おまけにここまで来る道のりも雑草が伸び放題とまるで手入れがされていない。
この事から、博麗神社にはまるで参拝客が来ていない事が分かる。
それは神社としてどうなんだ龍也は思ったが、同時にそれも仕方がないかとも思った。
何せここまで来るのに龍也は何度か妖怪に襲われのだ。
龍也は普通に撃退出来たが、これが普通の人間であれば一溜まりもないであろう。
ここまで来るのに妖怪に襲われて死んでしまう可能性が非常に高い。
そんな危険な道のりならば自然と足取りも途絶えていくだろう。
「……ん?」
そこまで考えたところで龍也の頭に疑問が浮かぶ。
浮かんだ事と言うのは外の世界に帰る事を決めた外来人の事である。
少なくとも普通の外来人はここまで来れはしない。
では、外の世界に帰る事を決めた外来人がどうやって博麗神社に行ったのかを考えると、
「……ああ」
稗田家に泊まったいた時に阿求が博麗神社に向う時には護衛を付けてくれると言っていた事を思い出す。
つまり、護衛さえ付けて貰えれば里民もある程度安全に神社まで行けると言う事である。
だと言うのに博麗神社へと続く道のりがここまで荒れ放題であるという事は、考えられる事は一つ。
「護衛を付けて貰っても、博麗神社に行く必要性は無いって事か」
龍也はそう呟き、少し心配になった。
一応、博麗神社とはこの幻想郷を代表する様な神社であるとの事なのに全く来ない参拝客。
そんな神社の巫女である博麗の巫女とは一体どの様な人物なのであろうかと。
その様な事を考えていたら、
「……お?」
龍也の腹が鳴る。
考えてみれば、人里を出てからずっと歩きっぱなし。
おまけに途中途中で戦闘も挿んだ。
当然、お腹の一つや二つは減るであろう。
博麗神社に行く前に昼飯にするかと龍也は考え、石段に腰を落ち着かせてベルトに括り付けている包みを外して阿求が作ってくれたおにぎりを食べる事にする。
「いただきます」
そしておにぎりを口に運ぶと、
「美味い」
そんな感想が自然と出て来た。
塩の量も龍也好みであり、具も龍也の好きなおかかであった。
自分好みに作ってくれた阿求に龍也は内心感謝しながらおにぎりを食べていく。
そして数分後、
「ふー……食った食った」
おにぎりを食べ終わり立ち上がる。
男である龍也の胃袋の大きさを考えてかおにぎり自体も結構な大きさであったので、龍也の腹は十分に膨れた。
その事に龍也は内心でもう一度、阿求に感謝をして立ち上がる。
そして長い石段を目に入れながら、
「よし、行くか」
龍也は石段を上り始めた。
階段を上り始めてから暫らく時間が経つと、
「……長っ!!」
龍也は思わず長いと言う言葉を口にしてしまう。
何故ならば、非常に長い階段であったからだ。
現時点で石段の数は五百を軽く超えている。
因みに、龍也は五百を超えてからは面倒臭くなったからか石段の数を数えるのを止めた。
「こんな事なら空から目指せば良かったかな?」
龍也は足を進めながらそんな事を呟く。
まぁ、ここまで自分の足だけで来たので途中からやり方を変える気は龍也には全くないが。
後、どれ位あるんだろうと龍也が思っていると、
「ッ!!」
突如、石段の両端にある林の中から何者かが現れて龍也に襲い掛かって来た。
襲撃に反応した龍也は後ろに跳んで回避する。
その瞬間、龍也が居た石段は襲ってきた者の攻撃で粉砕して土煙が舞い上がってしまう。
そして土煙が晴れると、龍也を襲ってきた者の正体が分かる。
大きさは大体龍也の倍程で、体毛は白。
牙を剥き出しにして涎を垂らしたゴリラのような生物が龍也に襲い掛かって者の正体だ。
龍也はこのゴリラの様な生物も妖怪なのかと思いつつ、
「ここ、神社の通り道だよな。何で妖怪が出て来るんだよ」
思わずそんな事を呟いてしまう。
神社は神聖な場所であると言う事を龍也は聞いた事があった。
よくゲームなどではそう言った神聖な場所は魔物の類は基本近寄れないという設定が多くあるが、あれは嘘だったのかもしれない。
まぁ、それはゲームでこれはリアルと言う大きな違いはあるが。
龍也がそんな軽い現実逃避をしていると、妖怪の数が何時の間にか増えていた。
いい加減にこの妖怪達を何とかしないといけないなと龍也が思って構えを取ると、一体の妖怪が襲い掛かって来る。
襲い掛かって来た妖怪の間合いに龍也が入る前に、龍也はその妖怪の懐に入って顎に拳を叩き込む。
顎に拳を叩き込まれた事でふら付いた妖怪に、
「らあ!!」
龍也は回し蹴りを放って林の中まで蹴り飛ばす。
それを見た残りの妖怪達は驚くも、雄叫びを上げながら龍也に向って行く。
自分よりも体躯が倍の妖怪が集団で襲い掛かって来ると言うこの状況。
普通ならば恐怖で震え上がってしまう事であろう。
だが、龍也は恐怖で震え上がることは無く落ち着いている。
何故かと言うと、今まで強敵と戦って来たと言う経験があるからだ。
特にレミリア・スカーレットとの戦いが龍也を大きく成長させた。
更に言うのであれば、目の前の妖怪から感じるプレッシャーはレミリアの足元にも及ばない。
これで恐怖で怯えろと言うのは無理と言うもの。
そんな龍也の心理状態を知ってか知らずか、迫って来た妖怪の一体が龍也の真正面から殴り掛かって来る。
力任せの動きが緩慢な拳だったので、龍也は紙一重でその拳を避けて拳を掴み、
「おおおおおりゃ!!」
拳撃の威力を利用するかの様にしてその妖怪を林の方へ投げ飛ばす。
龍也が妖怪を投げ飛ばした瞬間、両サイドから妖怪が二体襲い掛かって来る。
その不意を突いた様な攻撃を龍也は跳躍する事で避け、下半身が妖怪の顔面付近に来た瞬間に、
「はあ!!」
龍也は二体の妖怪の顔面に同時に蹴りを放つ。
龍也の蹴りが顔面に当たり、二体の妖怪が蹴り飛ばされるのと同時に龍也は着地する。
龍也が着地したタイミングで、
「ッ!?」
妖怪の一体が龍也の背後から襲い掛かって来た。
それに反応した龍也は振り返るのと同時に反射的に裏拳を放つ。
龍也が放った裏拳は妖怪の脇腹付近に当たり、龍也に背後から襲撃を仕掛けて来た妖怪は殴り飛ばされていく。
容易く自分達の仲間が撃退されていくと言う光景を見たからか、襲い掛かって来なかった残りの妖怪達は思わず後ろに引き下がってしまう。
引き下がった事で龍也はこれで引いてくれるのかと思ったが、そうはならなかった。
何故ならば、その妖怪達の後ろから二周り程大きい同種の妖怪が現れたからだ。
大きさ以外に違っている所は体毛に茶が混じっている位であろうか。
比率としては茶の方が多い。
この妖怪達のボスか何かかと龍也は思っていると、残っていた妖怪達はそいつ通す為に道を開けた。
その様子を見て龍也はやはりボスなのかと思いつつボス妖怪に目を向けると、龍也とボス妖怪は睨み合う形になる。
ボス妖怪から発せられるプレッシャーを感じた龍也はさっきまでの奴等とは違うなと感じた。
ならば油断はしない方がいいなと考え、龍也は自身の力を白虎の力に変える。
瞳の色が黒から翠に変わり、力の変換が完了した同時に龍也は両腕両脚に風を纏わす。
そのタイミングで、ボス妖怪が動く。
ボス妖怪は自身の体の巨体さを活かして龍也を押し潰そうと飛び掛かり、そのまま龍也が居る地点に激突する。
龍也が押し潰されてしまったと思われたその時、ボス妖怪は慌てて体を起こす。
何故ならば、ボス妖怪には龍也を押し潰した感触がなかったからだ。
そしてボス妖怪が視線を落とすと案の定、龍也の姿は無かった。
ボス妖怪は龍也が何所に行ったか探そうとした瞬間、反射的に背後へと裏拳を放つ。
その放たれた裏拳の真下には屈んだ体勢の龍也が居た。
どうやら、飛び掛られた時に龍也はボス妖怪の背後に回っていた様だ。
しかし、龍也の動きを追えなかったボス妖怪が龍也の居る場所に裏拳を放てたのは野生の勘と言うものであろうか。
龍也がそんな事を考えている間にボス妖怪は龍也の方に体を向け、拳を振り上げる。
第二撃を放つ積もり様だ。
それに気付いた龍也は掌に風の塊を生み出し、ボス妖怪が拳を振り下ろす前に、
「暴風玉!!」
それをボス妖怪に叩き付ける。
叩き付けられた風の塊は直ぐに炸裂し、ボス妖怪を容易く吹き飛ばす。
そして、進路上に在る木々を巻き込みながらボス妖怪は消えていく。
自分達のボスを容易に倒されたからか、残りの妖怪達は悲鳴を上げながら我先にと言わんばかりに逃げ出していった。
周囲に気配が感じられなくなると、龍也は力を消す。
すると龍也の瞳の色が翠から黒に戻り、両腕両脚に纏わせられている風が四散する。
その後、龍也は一息吐き、
「こりゃ、基本的に誰もここに来ない筈だ」
そんな事を呟く。
人里から石段までの道のりなら兎も角、博麗神社へと続く石段を歩いていても凶暴な妖怪が出て来るのだ。
これでは誰も博麗神社に行こうとは思わなくなるであろう。
「ま、ここであれこれ考えても仕方が無いか」
龍也はこれ以上考えていても仕方が無いと判断し、気持ちを切り替えて再び博麗神社を目指して足を進めて行く。
妖怪を撃退し終えてから暫らく時間が経つと、
「やっと階段も終わりか」
長い石段も終わり、龍也は漸く平らな場所に出た。
思っていた以上に時間が掛かってしまった様で、気付けばもう日が暮れ始める時間帯になっている。
まぁ、何度か何かを見付けては林の中に入って迷うと言う事をしなければ日が暮れる時間帯になる前には着いたであろうが。
しかし、時間が掛かったお陰で綺麗な夕日が見れた。
なので、龍也は良しと思う事にして顔を上げると、
「鳥居か……」
紅い色をした鳥居が目に入る。
そして視線を落とすと、博麗神社と思わしき神社が龍也の目に映った。
その神社を見ながら、
「意外と普通だな」
龍也は少し驚いた顔をしながらそんな感想を漏らす。
ここまでの道のりは結構荒れていたので、てっきり神社も荒れ放題かと思っていたからだ。
龍也は荒れていないのなら何よりだと思いながら足を進めて行き、賽銭箱の前で足を止める。
ご利益があるかは分からないが神社に来たからには賽銭を入れるのが礼儀だと龍也は思い、財布を取り出す。
そして財布から小銭を一握り取って賽銭箱の中に入れ、目を瞑って手を叩いて祈る。
祈りが終わり、目を開けると、
「……ん?」
龍也は何か視線を感じた。
それが気になった龍也は視線を感じる方に顔を動かす。
顔を動かした先には巫女服を着た少女が居た。
少女が着ている巫女服は腋が大きく露出しているデザインだが、それが博麗神社の巫女服の伝統なのだろうか。
龍也はそんな事を考えながら声を掛け様とすると、
「博麗神社にお越しいただき、ありがとうございます」
先に巫女服を着た少女に挨拶をされる。
やけに丁寧な対応で。
その対応に龍也が少し呆気に取られていると、
「私は当神社の巫女をしております、博麗霊夢と申します」
巫女服の少女が頭を下げながら自己紹介を行う。
それに返す形で、
「あ、ご丁寧にどうも。俺は四神龍也と言います」
龍也も頭をさげて自己紹介をする。
すると霊夢は顔を上げ、
「お疲れでしょう。お茶を淹れますのでどうぞこちらへ」
お茶を淹れるので自分に着いて来て欲しいと言う。
「あ、どうも」
龍也は顔を上げて霊夢に後に続く様にして歩いて行くと、神社の縁側に辿り着く。
霊夢に促される形で龍也は縁側に腰を落ち着かせる。
それから少しの間、縁側から見える景色を楽しんでいると霊夢がお茶と煎餅が入った小皿をお盆に乗せて戻って来た。
そして霊夢は龍也の隣に正座で座り、
「どうぞ」
龍也にお茶を差し出す。
「どうも」
龍也は礼を言いながらお茶が入っている湯飲みを手に取り、お茶を飲み、
「美味い」
素直な感想を漏らす。
「ありがとうございます」
美味いと言われたからか、霊夢は嬉しそうな顔をしながら頭を下げる。
その後、龍也は霊夢が淹れてくれたお茶を飲みながら風景を楽しんでいる途中で違和感を感じた。
違和感を感じたのは景色ではなく霊夢にだ。
何所となく、無理をしている様に感じられた。
龍也はそんな事を考えながら霊夢の方を見ると、
「何か?」
霊夢がどうかしたのかと尋ねて来る。
なので、
「いやさ、別に喋りづらいんであればそんな丁寧な喋り方をしなくてもいいぞ」
龍也は思った事をそのまま言うと、
「そう? ならそうさせて貰うわ」
霊夢は行き成り口調を崩し、楽な体勢を取り始めた。
何の抵抗も無く行き成り口調と体勢を崩した事に龍也は少し驚くも、今の霊夢が何時もの状態なのだと理解する。
同時に最初に対応が妙に丁寧だったのは、滅多に参拝客など来ない博麗神社にやって来てお賽銭を入れたせいだなと龍也は思った。
まぁ、変に畏まった態度を取られるよりもこっちの方が楽だなと龍也は思いながら気になった事を聞いてみる事にする。
「そういや霊夢って今まで何人くらいの外来人を外の世界に帰したんだ?」
「そうね……えーと……大体十人前後……位かしら?」
霊夢が人差し指を下唇に当てながら大体十人前後位だと言う。
「へぇ、そんなもん何だ」
意外と少ないんだなと龍也は思った。
「あんたも外の世界に帰して欲しいって言う口?」
そう言いながら霊夢は龍也の方に顔を向けると、
「いんや。ここに来たのは物見遊山目的かな」
龍也は霊夢が口にした事を否定する。
「そ。結界に穴を開けて戻すのは面倒だから良かったわ」
その一言で、龍也は霊夢の性格が何となく解った気がした。
序に、
「そういや、霊夢はよく俺が外来人だって解ったな」
龍也は霊夢が自分の事をよく外来人だと解ったと言う事を口にすると、
「まぁ幻想郷では見ない服装だし、後は雰囲気かしら」
霊夢からはそんな答えが返って来る。
服装は兎も角雰囲気と言うのは外の世界の者と幻想郷の者とでは違うのだろうか。
まぁ、外の世界と幻想郷とでは違う部分が多々あるのでそれぞれの場所に住んでいる者の雰囲気が違うの当然の事なのかもしれない。
龍也がそんな事を考えていると、
「はぁ……流石私。相変わらずお茶が美味しいわね」
霊夢がお茶を啜りながら自画自賛をする様な事を言う。
何時の間に自分の分を用意したのだろうかと思いつつ、
「そういや、ここに来る石段の途中で妖怪に襲われたんだがよくある事なのか?」
龍也は博麗神社に来る途中で妖怪に襲われた事を口にする。
それを聞いた霊夢は、
「そうね、よくある事よ」
よくある事と返す。
霊夢の発言に、
「結界とかそう言うのを張って入ってこれない様にしないのか?」
龍也は最もらしい事を言うが、
「いやよ面倒くさい。空路で来れば襲われる事も無いし、ああ言った連中はここまでは入って来ないから別にいいのよ」
面倒臭いし空路から来れば問題ないから結界等などは張らないと霊夢は言う。
「……そうか」
霊夢の話を聞いた龍也はこの神社の客足が途絶えた理由をよく理解した。
「妖怪に襲われて無事だったって事は、龍也は力が有ったり能力持ちだったりするの?」
龍也の話を聞き、霊夢は思った事を尋ねると、
「ああ、力が有って能力持ちだ」
龍也はその事を肯定する。
「へー、珍しい」
霊夢が少し驚いた表情になった為、
「やっぱり、俺みたいなのは珍しいのか?」
龍也はやはり自分の様な存在は珍しいのかと問うと、
「珍しいわね」
珍しいと言う答えが返って来た。
やはり自分の様な存在は珍しい存在であると言う事を龍也は改めて認識していると、
「そろそろ夕飯の準備をするけど……食べていく?」
霊夢が夕飯を食べていくかと提案する。
「いいのか?」
「いいわよ」
霊夢は食べていっても構わないと言ったので、
「それじゃ、食べてくよ」
龍也はご馳走になる事にした。
龍也から夕飯を食べていくと言う返答を受けた霊夢は、
「分かったわ」
そう言って霊夢は台所へと向う。
それ見送った後、龍也は煎餅を齧りながら夕食が出来るまで神社から見える景色を楽しむ事にした。
「ご馳走様」
「お粗末様でした」
阿求の屋敷で食べた料理の様に豪華さの様なものはなかったが、とても美味しかったと龍也は思った。
古き良き日本の味と言うのはこういう物なのかと龍也が考えていると、
「暗くなって来たけど……泊まってく?」
霊夢は泊まっていくかと言う提案する。
龍也としてはこんな時間帯に下山をしては寝床を探すのが幾ら何でも面倒臭過ぎるので霊夢の申し出はありがたかった。
とは言っても、一人暮らしをしている霊夢の神社に泊まっていいのだろうか。
なので、
「いいのか?」
本当にいいのかと言う事を尋ねると、
「いいわよ。あ、部屋はあっちを使ってね」
霊夢がそう言って部屋がある方向に指を差す。
「分かった」
「それとお風呂だけど……」
「さすがに家主より先に入ろうとは思わないって」
龍也が霊夢よりも先に入る気はないと言う事を伝えると、
「そ、覗かないでね」
霊夢は覗かないでねと言う。
「覗かねーよ」
龍也は何て事が無い様に返すが、全く興味が無いと言えば嘘になる。
だが、流石に覗きをすると言ったマネをする気は龍也には無い。
「俺は縁側に居るから上がったら教えてくれ」
龍也がそう伝えると、
「分かったわ」
霊夢は了解と言う返事をしてから風呂場に向う。
それを見送った後、龍也は縁側に向かい、
「しっかし、よく見えるな」
龍也は夜空を見上げながらそんな事を呟き、腰を落ち着かせる。
この博麗神社で見られる夜空は外の世界では中々見られないものだ。
「そういや、こうやって夜空を眺めるのは初めてだな」
紅魔館ではレミリアと戦っていたし、幽香の家ではスペルカードを作っていたし、阿求の家では資料室に
篭りっ切りであったので、こうやって幻想郷で夜空を見上げるのは龍也としては今回が初めてである。
良い機会なので龍也はじっくりと夜空を眺めていく。
それから暫らくすると、
「上がったわよ」
風呂から上がったと言う声が掛けられる。
声を掛けられた方に振り向くと、そこには湯上り姿の霊夢が居た。
風呂上りであるからか肌は少々赤みを帯びており、中々に色っぽい。
そんな霊夢の姿に龍也が少し見惚れていると、
「どうかした?」
ボケッとしている龍也に霊夢がそう尋ねる。
「いや、何でもない」
龍也はそう言って立ち上がると、
「湯殿はあっちだから」
霊夢は湯殿がある場所を指さす。
「ああ、分かった」
龍也は霊夢が指さした向う。
そして脱衣所で服を脱いだ後、浴場へと入り、
「お、ここも檜風呂なのか」
そんな感想を呟く。
稗田家もそうであったが、この博麗神社も檜風呂だったので幻想郷ではこれが普通なのかと龍也は考える。
が、
「考えても仕方が無いか」
龍也は直ぐに考えても仕方が無いと悟り、この事を頭の隅に追いやる事にした。
その後、体を洗ってかた湯船に浸かる。
自身の能力を使ってお湯の温度を調節をしながらまったりと過ごしていくと、
「ん……」
眠気が龍也を襲い始める。
このままでは風呂に入ったまま寝てしまうかもしれないので、龍也は風呂から上がる事にした。
風呂から上がり、脱衣所で着替えを済ませた龍也は霊夢を探す為に神社の中を歩き回っていると、
「……お」
縁側で涼んでいる霊夢を発見する。
龍也は霊夢に近付き、
「上がったぜ」
風呂から上がった事を言う。
「そう」
霊夢がそう返すと、龍也は霊夢の隣に座って一緒に涼む事にした。
そして二人並んで涼んでいると、
「飲む?」
霊夢は龍也にお茶を差し出す。
「飲む」
龍也は飲むと言う事を伝えて差し出されたお茶を飲む。
本当に美味しいお茶であると龍也は改めて思った。
そしてそのまままったりと過ごしていると、本格的に眠くなって来たのを龍也は感じたので、
「眠くなって来たからそろそろ寝かせて貰うよ」
龍也は霊夢に寝る事を伝える。
「そ、お休み」
「お休み」
そう挨拶を交わした後、龍也は言われた部屋に行って布団を敷いて横になって天井に目を移す。
稗田家の様に広い訳ではないが、落ち着きがあって言いと龍也は思いながら目を瞑る。
そして、明日はどうし様かと考えながら眠りに付いていった。
前話へ 戻る 次話へ