霧の湖の上空を駆けながら龍也は紅魔館を目指す。
異変の時は妖精やら何やらが襲撃を掛けて来たが、今はそんな襲撃はない。
妖精などは襲い掛かって来ない平和な道中だ。
龍也は平和だなと思いながら霧の湖の上空を駆けて行く。
そんな感じで霧の湖上空を駆けて行くと、
「お……」
霧の湖の終わりが見えて来た。
それと同時に龍也は降下し、
「よ……っと」
地に足を着ける。
そして今度は地上から己が足を使って紅魔館を目指す。
霧の湖上空とは違い、地上は沢山の木々が生い茂っている。
龍也はその自然の多さを楽しみながら足を進めて行く。
歩き始めてから暫らくすると、
「お、見えた見えた」
紅魔館が見えて来た。
更に足を進めて行くと、大きな門の近くに紅い色をした長い髪にチャイナ服を着た少女が立って居るのが見えて来る。
この前の異変で龍也と戦った紅美鈴だ。
門の近くに立って居るのが美鈴であるのと認識したのと同時に、龍也は彼女が紅魔館の門番であると言っていた事を思い出す。
彼女に事情を話せば紅魔館の中に入れてくれるのではと思った龍也は美鈴に近付き、
「おーい、美鈴」
声を掛ける。
しかし、
「…………あれ?」
反応が無かった。
不審に思った龍也は、
「美鈴?」
もう一度美鈴の名を呼ぶ。
だが、やはりと言うべきか反応が無い。
若しかして、この前の異変の時に押し通った事を怒っているのではないかと龍也は思って美鈴の顔を覗き込む。
顔を覗き込むと別に美鈴が怒っている訳では無いと言う事が分かった。
同時に、反応が無い理由も理解する。
何故、反応が無かったかと言うと、
「寝てる……」
美鈴が寝ていたからだ。
立ったまま、幸せそうな顔をしながら。
これでは反応が無い事も頷けるが、門番がこれでいいのだろうか。
まぁ、門番が暢気に寝ていられると言う事はそれだけ紅魔館に襲撃が無いと言う事なのかもしれない。
龍也は平和なのは良い事だなと思いつつ、どうするかを考える。
流石に忍び込む様に紅魔館の中に入るの不味いだろうと龍也は思い、
「美鈴」
美鈴を起こす為に声を掛けるが、
「…………………………」
反応は無い。
声量が足りて無かったかと思った龍也は息を目一杯吸い込み、
「美鈴!!!!」
美鈴の名を叫ぶ。
「わひゃあ!?」
龍也の発した声に反応した美鈴は慌てて飛び起き、
「ち、違うんです!! これはですね、瞑想をしていただけであって……」
聞いてもいないのに言い訳を始めた。
そしてある程度言い訳が進んだところで美鈴は自分に声を掛けて来た人物が龍也である事に気付き、
「あ、何だ龍也さんじゃないですか」
安心したと言った表情になる。
そんな美鈴の表情を見ながら、
「何時も寝てるのか?」
龍也は何時も寝ているのかと問う。
「違いますよー、寝てませんよー」
美鈴はあくまで自分は寝ていないと主張する。
どう見ても寝ていた様に見えたが、龍也はまぁ良いかと思う事にしてこの事は頭の隅に追いやる事にした。
その後、龍也は美鈴の顔を見ていると、
「どうかしましたか?」
美鈴は首を傾げながらどうかしたのかと尋ねる。
尋ねられた龍也は、
「いやさ、この前来た時とは雰囲気が全然違うなと思ってさ」
この前来た時とは雰囲気が全然違うと口にした。
紅い霧が発生している時に龍也が紅魔館に来て美鈴と相対した時は凛々しい感じを受けたが今回はこれである。
龍也が疑問を覚えるのも無理はない。
そんな龍也の疑問に、
「あの時は異変時でしたから」
美鈴はそう答え、
「それに私はオンとオフの切り替えがキチンと出切る門番なのです」
自分はオンとオフの切り替えがキチンと出切ると言って自慢気な表情をしながら胸を張る。
だが、そんな美鈴の自慢気な表情も長くは続かなかった。
何故ならば、
「つまり、普段の業務はオフだと。そう言いたい訳ね、美鈴」
美鈴の背後から聞き覚えのある声が聞こえて来たからだ。
その声を聞いた美鈴はビクッとなって背筋を伸ばす。
そして恐る恐る後ろに顔を向けると、
「さ、咲夜さん……」
十六夜咲夜が立っていた。
「ち、違うんです!! 咲夜さん!! こ、これはですね……」
美鈴は慌てて体を咲夜の方に向けて言い訳を始め様とすると、
「何が違うのかじっくりと説明して貰いましょうか、美鈴」
咲夜は何が違うのか説明する様に要求する。
「え、いや、その……あのですね……」
美鈴は何とか説明し様とするも言葉が中々出て来ない。
故に、
「美鈴!!」
「ごめんなさーい!!」
美鈴は咲夜に怒られてしまう。
そんな二人を見ながら、龍也は咲夜が時間を止めて現れたのだなと考えた。
音も気配も無く現れたのだからそう考えたのはある意味当然だ。
やっぱり時間を操れると言うのは便利な能力だなと龍也が思っていると、
「それで……」
咲夜は龍也の方に顔を向ける。
咲夜の視線に気付いた龍也はお説教が終わったのかと考え、改めて二人の方を見ると肩を思いっ切り落とした美鈴の姿が見えた。
龍也は美鈴が咲夜に何を言われたのかを何となく察してしると、
「紅魔館に何か用かしら? また襲撃でも仕掛けに来たのかしら?」
咲夜が龍也に何の用で紅魔館に来たのかを尋ねる。
やはりと言うべきか、この前の一件があったからか若干警戒されている様だ。
「別に襲撃を仕掛けに来た訳じゃねぇよ。ここに図書館があると聞いてさ、そこの本を見せて貰いたくて来たんだ」
龍也が紅魔館にやって来た理由を話すと、
「本を?」
意外だったからか、咲夜は驚いた顔をする。
そんなに意外だったのかと龍也は思いつつ、
「駄目か?」
駄目なのかと問う。
すると、
「そうね……」
咲夜が少し悩む素振りを見せる。
その後、
「一寸待っていなさい」
咲夜はそう言って音も無く消えた。
長距離を移動する時は時間を止めて移動するのであろうかと龍也は思った。
咲夜が何所に行ったのかは知らないが、咲夜が戻って来るまでは暇なので、
「で、咲夜に何を言われたんだ? 美鈴?」
美鈴と話す事にする。
「それがですね……」
美鈴が先程のやり取りであった事を話そうとすると、
「お嬢様の許可が取れたわ」
咲夜が再び音も気配も無く現れた。
「わひゃあ!?」
突然現れた咲夜に美鈴が驚いていると、
「何驚いてるの、美鈴」
咲夜は少し呆れた目を美鈴に向ける。
「いえ、別に」
美鈴は落ち着きを取り戻しながら何でも無いと返す。
そんな二人のやり取りを見て、龍也が心臓に悪い現れ方をするなと思っていると、
「図書館まで案内するから付いて来て」
咲夜は自分に付いて来る様に言う。
「分かった」
龍也がそう言うと咲夜は歩き出したので、龍也は咲夜の後に続く様にして歩き出す。
紅魔館の中に入り、咲夜の後に続く様にして歩き始めてから暫らく。
龍也は相変わらずこの紅魔館は中は紅いなと思った。
中だけではなく紅魔館の外観も紅いが。
紅魔館の殆どが紅いのはこの館の主であるレミリアの趣味なのであろうか。
龍也は少し気になったので、
「紅魔館の殆どが紅いのはレミリアの趣味か?」
咲夜に尋ねてみると、
「ええ、お嬢様の趣味よ」
肯定の返事が返って来た。
まぁ、人間と吸血鬼では感性が違うだろうからレミリアがこれで良いのなら良いのだろうと龍也は考える。
その後、
「そーいや、あれから使えそうな妖精メイドは増えたか?」
龍也は咲夜と戦っていた時に咲夜が愚痴っていた事に付いて尋ねると、
「全然」
増えていないと言う答えが返って来た。
「そうか」
やはりと言うべきか、そう簡単に使える妖精メイドが増えたりはしない様だ。
そのうち増えるだろうと龍也は人事みたいに思いつつ、周囲を見渡して改めて咲夜は凄いと感じた。
何せ、この広い館を殆ど咲夜一人で切り盛りしているのだ。
幾ら時間を操れると言ってもその苦労は並大抵のものではない筈。
よく続くなと龍也が思っていると、
「そうだ。ねぇ、執事をやってみない?」
咲夜は龍也の方に顔を向け、執事をやってみないかと言う提案をする。
「…………は?」
あまりにも予想外の事を提案されたからか、龍也が目をパチクリさせていると、
「だから執事よ執事。やってみない?」
咲夜はもう一度執事をやってみないかと言う。
そう言われ、龍也は想像してみる。
自分の執事姿を。
想像してみた結果、似合わないと言う結論に達した。
「パス。似合わないしガラじゃない」
「あら、残念」
咲夜は残念と言うが、あまり残念がっている表情は見られない。
おそらく、駄目もとで頼んだからであろう。
その後、適当に雑談をしながら足を進めて行くと、
「ここよ」
咲夜はそう言って足を止める。
それに反応する形で龍也も足を止め、前方を覗き込む様な形で顔を出すと大きな扉が目に映った。
あれが図書館へと続く扉なのかと龍也が思っていると咲夜が扉を開けて中へと入っていったので、龍也もそれに続く様にして中に入る。
中に入ったの同時に周囲を見渡し、
「広……」
龍也は思わずそんな感想を呟いてしまう。
何故ならば、この図書館は本当に広いからだ。
端が見えない程に。
この図書館の前にはここ以外の図書館は存在すらも霞んでしまうだろう。
龍也がこの図書館のあまりの広さに圧倒されていると、
「逸れない様にね」
咲夜が逸れない様にと言って歩き出す。
「あ、ああ」
その声で再起動した龍也は少し慌て気味に咲夜の後を追い掛ける。
そして、龍也は改めて周囲を見渡す。
龍也の目に映るのは本と本棚と言った物だけ。
見事なまでに本に関係する物ばかりだ。
まぁ、ここは図書館なのだから当然と言えば当然であるが。
本棚に納められている本の背表紙に書かれている文字、そして色や雰囲気からここには本当に沢山の本が収めれて
いるのだと龍也が思っていると、
「あ、そうそう」
咲夜は思い出したかの様に一旦止まる。
咲夜が止まった事で龍也も止まると、咲夜は龍也の方を向き、
「これからこの図書館を利用するのにまず、ここの管理人であるパチュリー様に会いに行く事になるわ。
パチュリー様はお嬢様の御友人。くれぐれも失礼の無い様にね」
これから会いに行くこの図書館の管理人であるパチュリーに失礼の無い様にと言う。
「ああ、分かった」
龍也は頷きながら、パチュリーとは一体どの様な人物なのかと思いながら再び足を進めた咲夜の後を付いて行く。
どれ位、歩いたであろうか。
歩いても歩いても一向に終わりが見えない。
どうやら、この図書館は龍也が想像していたよりも遥かに広かった様だ。
何時になったらパチュリーと言う人物に会えるのだと龍也が考えていると、
「パチュリー様」
咲夜がパチュリーの名を口にした。
やっと着いたのかと龍也は思い、咲夜の後ろから顔を出す様な形で目の前に居るであろう人物を見る。
紫色の長い髪、変った帽子、そしてかなりゆったりとした服を着ている少女が龍也の目に映った。
本を読んでいる事から文学少女な印象を龍也が受けていると、
「何?」
パチュリーは読んでいた本から目を外して咲夜に目を向ける。
その過程でパチュリーは龍也の存在に気付き、
「誰?」
誰なのかと問う。
その問いに、
「お客様です」
咲夜がお客様だと答える。
「客?」
パチュリーが首を傾げると、
「客って言うか、この図書館に用があるんだけどな」
龍也が咲夜の後ろから出て、この図書館に用があるのだと言う。
それを聞いたからか、パチュリーは咲夜の後ろから出て来た龍也の方に顔を向け、
「私はパチュリー・ノーレッジ。貴方は?」
自分の名を名乗る。
名を名乗られたので、
「俺は龍也。四神龍也だ」
龍也も自分の名を名乗ると、
「ああ、貴方がレミィの言ってた……」
パチュリーは何かに気付いた表情になった。
「レミィ?」
パチュリーが口にしたレミィと言う単語に龍也が首を傾げると、咲夜がお嬢様の事ですと龍也に耳打ちをする。
レミィと言うのは愛称かと龍也が思っていると、
「咲夜、もう行っても構わないわ」
パチュリーが咲夜にもう行っても構わないと言う。
すると、
「畏まりました」
咲夜はそう言って頭を下げた後、音も無く消えた。
若しかして、時間を止めて移動をする決まり事でもあるのかと龍也が考えていると、
「それで、私の図書館に何の用かしら?」
パチュリーが龍也にここにやって来た用件を尋ねる。
「歴史書とかそう言った類の本を見せて欲しいんだ」
龍也がこの図書館にやって来た理由が以外だったからか、パチュリーは少し驚いた表情になり、
「歴史書ねぇ……」
少し考える素振りを見せる。
「……若しかして、無いのか?」
「勿論あるわよ」
パチュリーの様子から若しかしたら無いのでは思われたが、その心配は杞憂であった様だ。
その事に龍也が安堵していると、
「見せてもいいけど……条件があるわ」
パチュリーが条件を提示して来る。
「条件?」
龍也が首を傾げると、
「最近本の数が増えて来てね。その整理を手伝って欲しいのよ」
パチュリーは本が大量に積まれている場所を指さしながら本の整理を手伝って欲しいと言う。
「それ位なら構わないけど……」
少し言い淀む様に龍也がそう言ったからか、
「不満?」
パチュリーは不満なのかと問う。
その問いに、
「不満と言うか、俺一人でこの図書館に繰り出したら確実に迷子になると思うぞ」
龍也は自分一人でこの図書館に繰り出したら確実に迷うと口にする。
こんな広い図書館に一人で繰り出したら確実に遭難するだろうと龍也が思っていると、
「それなら大丈夫よ。貴方は小悪魔の手伝いをすればいいから」
パチュリーは小悪魔の手伝いをすればいいと言う。
「小悪魔?」
龍也が首を傾げると、
「小悪魔、一寸来て」
パチュリーは小悪魔なる人物を呼ぶ。
すると、
「呼びましたか、パチュリー様」
黒を基調とした服、紅い髪に背中から悪魔の様な翼を生やした少女が現れた。
パチュリーは小悪魔の方を見ながら、
「本の整理、この龍也に手伝わせるから好きに使って」
そう言って再び本に視線を戻す。
そんなパチュリーの様子を見た小悪魔は相変わらずだなと思いながら龍也の方に視線を向け、
「えーと……よろしくお願いしますね、龍也さん」
挨拶の言葉を掛ける。
「ああ、此方こそよろしく」
龍也も挨拶の言葉を返し、本の整理へと繰り出して行く。
パチュリーの言う小悪魔の本の整理の手伝いはそれ程難しいものではなかった。
まず、本を大量に運ぶ。
その後、本を指定された場所まで持って行って本をあいうえお順かABCD順で本棚に入れるだけと言った単純な作業である。
そんな作業をしながら、龍也はパチュリーが自分に本の整理を手伝わせた理由を何となく理解した。
こう言った単純な作業なら龍也でも問題なく出切るし、何より男である龍也なら本を大量に運べる。
事実、龍也は小悪魔の倍以上の本を運べたのでパチュリーの采配は間違ってはいなかったであろう。
パチュリーはそこまで考えて自分に小悪魔の手伝いをする様に言ったのかと龍也は思いながら本を本棚に収めていっていると、
「いらっしゃい、龍也」
下の方から龍也の来訪を歓迎する様な声が聞こえて来た。
誰だろうと思い、龍也は作業を一旦中断して下の方に目を向けると、
「レミリア」
レミリアが声を掛けて来たのだと言う事が分かった。
そのタイミングで龍也は降下して床に足を着け、レミリアの方へと体を向けると、
「何をやっていたの?」
レミリアは龍也に何をしていたのかと尋ねる。
「ああ、パチュリーと小悪魔の手伝いだな」
「手伝い?」
龍也の発した手伝いと言う単語を聞いたレミリアが首を傾げると、
「そ。ここにある本を読ませる代わりに自分達の手伝いをしろってさ」
龍也は手伝いをする事になった経緯をレミリアに話す。
それを聞いたレミリアは、
「ふーん……」
あまり興味が無さそうな反応を返し、
「で、龍也」
龍也を見詰める。
「ん? 何だ?」
龍也はどうかしたのかと思い、レミリアの顔を見詰めると、
「私のものにならない?」
レミリアはこの前の異変で戦った時の様に自分のものになれと言う。
その誘いを、
「前にも言ったろ、断るって」
龍也はこの前の時と同じ様に断ると返す。
「あら、それは残念」
この答えをある程度予想していたからか、レミリアはクスクスと笑いながら残念と口にした。
だが、その目は何時か必ず龍也を自分のものにしてやると語っていたが。
その目を見た龍也は自分がレミリアにものになるまで、レミリアの自分のものになれ発言は文字通り一生言われるのかなと思っていると、
「ああ、そうそう。龍也、紅魔館は好きに使ってくれて構わないわ」
レミリアから紅魔館を好きに使っても構わないと言われる。
「良いのか?」
「ええ、構わないわ。食堂や浴場と言った場所が分からなかったら咲夜かその辺の妖精メイドに聞けばいいから」
「……咲夜は兎も角妖精メイドに案内が出来るのか?」
咲夜から妖精メイドの仕事ぶりを聞いている龍也はそんな不安を口にすると、
「………………………………………………」
レミリアも流石に妖精メイドに案内させるのはかなり無理があるかもと思った。
そしてレミリアは案内が出来そうな者を頭に思い浮かべ、
「パチェは……基本ここに引き篭もりだし……定期的にここに来る咲夜か小悪魔辺りに聞きなさい」
改めて案内は咲夜か小悪魔に頼む様に言う。
「分かった」
龍也が了承の返事をした後、龍也とレミリアは適当に雑談をしていく。
雑談が終わるとレミリアは図書館から去っていたので、それを見送った後に龍也は再び作業を再開する。
「今日はもうこの辺でいいわ」
次の本を持って行こうとすると、パチュリーに今日はもういいと言われた。
「いいのか?」
「ええ。それと咲夜が持って来た夕食があるけど……食べる?」
パチュリーがそう言って夕食が置かれている机を指さすと、
「食べる」
龍也は食べると言って指がさされた机に向かう。
机の上に置かれていた料理はステーキにご飯にワインとかなり豪華なものだ。
置かれている料理を見ながら龍也は椅子に座り、まずはワインを飲む事にした。
幻想郷には飲酒に関する法律処か法律そのものが無いので龍也は普通にワインを飲む。
仮に有ったとして、飲まなかったかと言われたら首を傾げてしまうが。
「……美味いな」
ワインを飲んだ後、龍也は思わずそんな感想を呟いてしまう。
かなり高価なワイン何だろうなと龍也は思いながら、慣れない手付きでナイフとフォークを使ってステーキを食べていく。
ステーキを食べながら、龍也は高級レストランなどで出される肉とかはこう言った感じなのかなと考える。
まぁ、龍也は高級レストランと言った類の店に入った事は無いので本当にそうなのかは分からないが。
そして食事が終わると龍也はパチュリーの方に向かい、
「食べ終わった食器って何処に置いておけばいいんだ?」
食べ終わった食器は何処に置けばいいのかと尋ねる。
「そのままにして置いていいわ。咲夜が回収するから」
パチュリーにそう言われたのと同時に龍也は食事を取っていた机に顔を向けると、
「あ、無い」
机に置いておいた食器が跡形も無く消えていた。
仕事が早いなと龍也が思っていると、
「それはそうと歴史書だったわね。小悪魔に案内させるから」
パチュリーは龍也の目的の本が有る場所を小悪魔に案内させると言う。
すると小悪魔が現れ、
「ご案内します。こちらへ」
歩き出す。
「ありがと」
龍也は礼を言い、悪魔の後を付いて行く。
歩き始めてから暫らくすると、
「こちらになります」
目的の場所へと辿り着く。
本の整理を手伝っていたので分かっていた事ではあるが、龍也は改めて本の量に圧倒された。
少なくとも、今居る位置から見えるだけでも本の量は万を軽く超えている。
目的の本を探すだけでもかなり苦労しそうだ。
「それでは、何かありましたら呼んでくださいね」
「ああ、ありがとう」
そんなやり取りをした後、小悪魔はその場を離れて行く。
それを見送った後、
「さて、頑張るか」
龍也は跳躍を行う。
そして本棚の一番上の段に来ると足元に見えない足場作ってそこに着地し、本棚の一番端の方から目的の本を探していく。
一冊一冊、背表紙を確認しながら探していくと龍也はある本を見付ける。
龍也が見付けた物とは、
「これ……学校で使う教科書か?」
学校で使う教科書だ。
少し気になった龍也は本棚から取り出して確認して見ると、教科書の表紙は見た事が無いものである事が分かった。
その事から龍也は自分の住んでいた地方の物とは別の物なのか、それとも昔の物なのかと考える。
どっちなのかは分からなかったが、その教科書は見て龍也は少し懐かしい気分になった。
だからか、龍也はついついページを捲ってその教科書を読んでいく。
それから少しすると、
「……って、これを読みに来たんじゃないよな」
龍也は本来の目的を思い出して本を元有った場所に戻し、再び目的の本を探し始める。
探し始めてから幾らかの時間が経つと、
「……ん?」
龍也は見覚えの有る本を発見した。
その本を手に取って確認すると、
「これは……阿求の所にあった本か」
稗田家で見た本である事が分かる。
全然読めなかった本であるが、
「そーだ、ここ図書館なら辞書とかあるよな」
龍也は辞書を使えば読み解けるのではと思った。
これだけ大きな図書館ならば辞書の一つや二つは必ずある筈である。
思い立ったら何とやら。
龍也はその本を持って見えない足場を消して床に着地し、周囲を見渡す。
すると、
「お、見っけ」
机と椅子を発見した。
龍也は見付けた机と椅子に近付き、机の上に本を置く。
そして辞書が有る場所を聞く為に小悪魔を呼ぼうとした時、
「……ん?」
龍也は学ランの裾を引っ張られる感覚を覚えた。
引っ張られた方に顔を向けると金色の髪に紅い瞳、そして背中から木の枝に宝石を吊るした様な翼を生やした女の子が居た。
「えっと……誰?」
龍也が名前を尋ねると、
「私はフランドール・スカーレット」
女の子が自己紹介をする。
「……ん? スカーレット?」
フランドールが発したスカーレットと言う名字に龍也が首を傾げると、
「私はお姉様の……レミリア・スカーレットの妹だよ」
フランドールが自分はレミリアの妹だと言う。
それを聞き、改めてフランドールの顔立ちなどを見ればレミリアに似ている事が分かる。
フランドールがレミリアの妹である事に龍也が納得していると、
「それで、お兄ちゃんは誰?」
フランドールは龍也が誰なのかと問う。
「俺は龍也。四神龍也だ」
龍也が自分の名を名乗ると、
「四神龍也……お兄ちゃんがお姉様の言っていた面白い人間?」
フランドールがそんな事を尋ねる。
それを聞き、龍也は今までのレミリアの自分に対する言動を思い出し、
「……多分、そうだと思うぜ」
そうであると肯定する。
すると、
「……そっか」
フランドールは何処か嬉しそうな表情をし、
「ねぇ、龍也」
「ん?」
「私と遊ぼ」
龍也に自分と遊ぼうと、龍也を上目遣いで見ながらそう言う。
遊ぼうと言われた龍也は別にいいかと思い、
「ああ、いいぞ」
遊ぶ事は構わないとフランドールに伝える。
「本当!? やった!!」
自分と遊んでも構わないと言われたからか、フランドールは目で見ても分かる位に嬉しそうな表情になった。
その表情を見て龍也はそんなに嬉しかったのかと思っていると、
「お姉様が言っていた人間なら、簡単に壊れたりしないよね」
フランドールが右腕を上げると、右手に持っていた悪魔の尻尾の様な物から炎の大剣が現れる。
「な!?」
その事に龍也は思わず驚きの声を上げてしまう。
同時に、遊ぶとはそう言う意味かと気付く。
龍也が驚いている間に、
「簡単に壊れちゃ……ヤだよ」
フランドールの腕が振り下ろされた。
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