「フランドール、一寸釘を取ってくれ」

龍也がフランドールに釘を取る様に言うと、

「はーい」

フランドールは元気良く返事をしながら龍也に釘を手渡す。

「サンキュ」

龍也は礼を言いながら釘を受け取り、金槌を使って木に釘を打ち込んでいく。
何をしているのかと言うと、龍也は本棚を作っているのだ。
本棚を作る事になった理由は勿論、龍也とフランドールの戦いで破壊された本棚の補充の為。

「やれやれ……何時になったら終わるんだ?」

そんな事を愚痴りながらも、龍也は手を動かす。
あの戦いから一週間は経った現在でも、壊した本棚分の本棚は作成されていない。
龍也が一週間不眠不休で本棚を作り続けているのにだ。
まぁ、それだけ破壊した本棚が多かったと言う事だろう。
因みに、龍也は一週間も不眠不休で本棚を作り続ける程の体力は持っていない。
では何故、一週間も本棚を作り続ける事が可能なのか。
答えはパチュリーにある。
龍也が疲れて始めて来たらパチュリーが魔法で龍也の体力を回復させるのだ。
そのお陰で龍也は眠れないし休めない。
肉体的な疲労は殆ど無いが精神的な疲労はかなり溜まっている。
流石に精神的な疲労までは回復出来なかった様だ。
精神的な疲労を回復させる為にも龍也は眠りたいのだがそれは許されなかった。
何故ならば、パチュリーが監視しているからである。
パチュリーが本棚を作る場所を自分の近くに指定したのは監視し易くする為だったのと、龍也は何架目かの本棚を作った時に思った。
因みにと言うか当たり前と言うか、龍也の監視をしているパチュリーも当然寝てはいない。
おまけに自身の魔法を使った様子も見れなかった。
その事が気になった龍也はパチュリーに平気なのかと尋ねると、パチュリーは魔女だから平気だと言う。
それを聞き、魔女って凄いなと龍也が思っているとパチュリーから大規模な実験や研究を行う時はちゃんと寝た方が
効率などが良いからそう言う時は寝ていると言う事が聞けた。
やはり、睡眠と言うのは大事な様だ。
本棚を作りながら本棚を作る事になった経緯とその時に話した事などを龍也が思い返していると、

「お、完成」

作っていた本棚が完成した。
本棚が完成した事で龍也が一息吐くと、

「おーい、木を持って来たぜー」

魔理沙が箒に木をロープで括り付けながら持って来る。
何故魔理沙がそんな事をしているのかと言うと、龍也がこの図書館に来た魔理沙に仕事の依頼をしたからだ。
自分達だけでは何時になったら終わるのか分からないから手伝ってくれと。
その仕事の依頼を魔理沙は快く引き受けてくれた。
まぁ、仕事の依頼をした事で龍也の懐は少し痛んだが必要経費と言うものだ。
因みに魔理沙がこの図書館に来ていた理由は本を借りる為だ。
借りると言っても殆ど無断の様ではあるが。
本人曰く、死ぬまで借りてるだけとの事。

「おーい、聞いてるかー?」

反応が無かった龍也に魔理沙がそう声を掛けると、

「ああ、悪い悪い」

龍也は軽く謝り、

「持って来た木は俺の近くに置いといてくれ。あ、それと本棚が出来たから持ってってくれ」

魔理沙に持って来た木を自分の近くに置き、完成した本棚を持って行く様に指示を出す。

「了解したぜ」

その指示を聞いた魔理沙は龍也の近くに持って来た木を下ろし、本棚をロープを使って箒に繋ぐ。
繋ぎ終わると浮かび上がって本棚が足りない場所へと運んで行った。
そんな魔理沙の姿を見送った後、

「よし、次作るか」

龍也は再び本棚を作り始める。
因みに役割分担としては龍也は本棚の製作。
魔理沙は木を持って来たり、龍也が作った本棚を運ぶと言った運搬。
フランドールが散らばった本を集めたり、龍也の手伝いと言ったサポート。
何故フランドールが龍也の手伝いを兼ねているのかと言うと、単純にフランドールが龍也に懐いているからだ。
余談ではあるが、フランドールに懐かれたのはあの戦いが原因かと龍也は考えている。
そして、

「パチュリー、この本は何所に持って行けば良いのかしら?」

アリスがフランドールが集めた本を指定された本棚まで持って行き、並べ替えて本棚に収めると言った整理整頓。
何故アリスまで居るのかと言うと、魔理沙がこのままでは何時になったら終わるのか分からんと言う様な事を言って連れて来たからだ。
半ば無理矢理連れて来られる様な形でここに来たアリスではあるが、ここの図書館に興味があった様で連れてこられた事に大した不満は無い様である。
だからか、アリスは龍也達の手伝いを快く引き受けてくれたのかもしれない。
アリスが手伝ってくれる事で龍也達は非常に助かっている。
何故ならば、アリスは無数の人形を自由自在に操れる人形遣いであるからだ。
操れるだけではなく、人形の中には一度命令を出せば命令通りに動くと言う機能を持つ物も存在しており、しかもある程度は
自分で考えて行動出来るものも居る。
これのお陰で人手が大幅に増えているのだ。
人形がある程度の自己判断が出来ると聞いた時、龍也は戦闘にも使えるのではないかと言う事をアリスに尋ねた。
が、返って来た答えは無理と言う一言。
戦闘時の様な状況で行う複雑な思考をする事は不可能らしい。
故に戦闘時は自分で操っているとの事。

「それは……雑学関連ね。そっちに行って左側の本棚23架目の上から六段目と七段目の所よ」

パチュリーはアリスとアリスの人形が持っている本を見て、ある方向を指さす。
アリスはパチュリーが指をさした方に体を向け、

「分かったわ」

本を持っている人形を連れて足を進めて行く。
その様子を見た後、龍也は本棚の製作を再開し様と金槌に手を伸ばすが、

「……あれ?」

手が金槌に触れた感触が返って来なかった。
不審に思った龍也は探る範囲を大きくしてみたが、それでも手が金槌に触れた感触は無い。
気になった龍也は金槌を置いておいた場所に目を向けると、

「……無い?」

金槌が無かった。
何処にやったかと思い、龍也は周囲を見渡す。
すると、

「……ん?」

少し離れた場所に妖精メイドの姿が目に映る。
見えた妖精メイドは何故か妙にソワソワしていた。
その妖精の挙動を見た龍也は何かに感付き、自身の力を変える。
玄武の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色が黒から茶へと変化する。
瞳の色が変わったのと同時に龍也は掌サイズの土の塊を生み出し、

「そら」

それを妖精メイド目掛けて投げ付けた。
投げられた土の塊は見事妖精メイドの後頭部に命中する。
土の塊が命中したのと同時に妖精メイド手から何かが落ち、妖精メイドは何処かへと慌てる様に逃げて行った。
妖精メイドの姿が見えなくなると、龍也は妖精メイドは居た場所に近付いて落ちたものを拾う。
龍也が拾った物は、

「やっぱり金槌か……」

先程から探していた金槌であった。
金槌を拾った後、龍也はそう言えばと思い出す。
妖精メイド達も最初の方は図書館の修繕を手伝ってくれていたのだが、途中から手伝いに来たのか遊びに来たのか分からない状態に移行した事を。
そこまでは龍也としても問題なかったのだが、次第に金槌を隠したり本を隠したり釘を隠したりと悪戯をし始めたのだ。
最初の頃に怒ってやったら蜘蛛の子を散らした様に逃げて行ったのでこの件は終了したと龍也は考えていたのいたのだが、そうでは無かった様である。
油断も隙もあったものじゃないなと思いながら、龍也は自身の力を消す。
そして瞳の色が茶から黒に戻ると、

「……さっさと続きしよ」

龍也は今度こそ本棚の製作に再び取り掛かった。





















そして日が暮れ始めた時間帯、

「うん、本棚の数は以前と同じになったし散らばった本も全て本棚に収まった様ね」
「やっと終わったー」

取り敢えず本と本棚関連の物は終わった様だ。
ずっと本棚の製作を行っていた龍也は疲れを吹き飛ばすかの様に体を伸ばしていると、

「で、この穴はどーするんだ?」

魔理沙がクレーターを指差し、これをどうするのかを尋ねる。
魔理沙の言う穴とは龍也がフランドールに暴風玉を当てた時に生み出されたものだ。

「この穴をこのままって言うのは流石に見栄えが悪いわね」

魔理沙の発言を聞いたアリスはがそう呟くと、

「なら埋めるか」

龍也はその様に言って自身の力を玄武の力へと変える。
瞳の色が黒から茶に変わると、龍也は土を生み出して穴を埋めていく。
そして穴が完全に埋まると、

「おー、便利だなー」

魔理沙は少し羨ましそうな表情をしながら便利だなと口にする。
その後、

「さて、後はここに大理石を埋めるだけね」

パチュリーが大理石で埋めると言う発言をすると、咲夜がカートに大理石に乗せて現れた。
龍也は唐突に現れるなと思いつつ、あのカートも幻想入りしたのかと考えていると、

「さ、早く大理石を入れて頂戴」

パチュリーが大理石を入れる様に指示を出す。
その指示を合図にしたかの様に龍也達は手分けをして大理石を埋めていく。
大理石を全て埋め終わった後、

「これで……完全に終わりだよな?」

龍也がパチュリーにこれで自分はお役御免と言う様な事を尋ねると、

「ええ、これで終わりよ」

パチュリーはこれで終わりと言う。
それを聞き、龍也はこの一週間の疲れを吐き出す様に息を吐くと、

「お疲れ様」

アリスが龍也を労いの言葉を掛ける。
その言葉に龍也がありがとうと返すと、

「あー、私も疲れたぜ」

魔理沙が疲れたと呟きながら体を伸ばす。
そんな魔理沙の呟きが聞こえたからか、アリスは魔理沙の方を見て、

「良かったじゃないの、仕事が出来て。龍也が初めてのお客さんだったんじゃないの?」

仕事が出来て良かっただろうと言い、龍也が始めての客ではないかと尋ねる。

「う……」

アリスの言った事が図星であったからか、魔理沙は思わず押し黙ってしまう。
魔理沙が営業している店は霧雨魔法店と言う何でも屋だ。
何でも屋て言うからには客入りがそこそこ良さそうに聞こえるがそんな事はない。
何故ならば、霧雨魔法店が建っている場所は魔法の森の奥地で普通の人間には行く事が出来ない様な場所であるからだ。
人間の客が来ないからと言って妖怪の客が来ると言う事は無い。
霧雨魔法店に足を運べないとなると後は外出している魔理沙を捕まえる事位なのだが、魔理沙は普通の人間が行けない場所に行っている事が多いのだ。
これでは魔理沙に仕事の依頼を申し込むのは殆ど不可能であろう。
殆ど客入りが無い事が少し気になった龍也は少し前にどうやって生活しているのかを尋ねてみると、魔理沙曰く
拾ったガラクタなどを霖之助に売ってお金にしたり、茸などの山菜を取ったりして生活しているとの事。
因みに、同じ魔法使いであるアリスは人里で定期的に人形劇などをしてお金を稼いでいる様だ。
定期的な収入が無い事は自分も同じかと言う事を思いながら、

「さて、終わったし寝るか」

龍也は寝ようと言う事を口にすると、

「その前に風呂に入ったらどうだ?」

それを聞いてた魔理沙に風呂に入ったらどうだと言う指摘をされる。
そんな指摘をされ、

「あー……」

龍也は気付く。
自分が一週間は風呂に入っていない事に。
因みに風呂に入っていないの龍也だけで、魔理沙、アリス、フランドールと言った面々は普通に風呂に入っている。
おまけに睡眠も龍也と違って三人ともきちんと取っている。
龍也と殆ど同罪の様なものであるフランドールが入浴をしたり睡眠を取ったりとしている事に関して、パチュリーは何も言わなかった。
フランドールに何も言わなかった理由は龍也が真面目にやっていたからか、レミリアの妹であるからかは分からないが。
余談ではあるがフランドールが入浴する際に吸血鬼が風呂とかに入って平気なのかと言う事を龍也が尋ねると、吸血鬼が弱点と
するのものは流れる水であって留まった水は弱点には成り得ないと言う答えが返って来た。
それを聞いた時は少し驚いたなと、龍也は風呂と言う単語を聞いて少し前の事を思い返しつつ、

「で、風呂って何処にあるんだ?」

龍也は浴場が何処にあるのかを尋ねる。
すると、

「私が案内するわ」

咲夜から案内すると言う声が聞けた。

「ありがとな」

龍也が礼を言うと、

「お客様の要望に応えるのはメイドとして当然よ」

咲夜はこの程度の事では礼は要らないと言った事を口にし、龍也を浴場まで案内し様とすると、

「なぁ、龍也が風呂に入ってる間は私等はどうしてればいいんだ?」

魔理沙からそんな疑問が投げ掛けられる。
そんな魔理沙の疑問に、

「貴女達もお風呂に入ってなさい。龍也は貴女達に案内した場所とは別の浴場に案内するから」

咲夜が龍也とは別の場所の浴場に行っていろと言う。
どうやら、この紅魔館には幾つかの浴場がある様だ。
まぁ、紅魔館程の大きななら浴場の一つや二つがあっても不思議では無い。

「じゃ、私等も行こうぜ」

咲夜の提案を受け入れたからか、魔理沙は他の女性陣を引き連れて浴場に向かっ行く。
その女性陣の中でパチュリーはまだ図書館に居ると主張したが、フランドールにせがまれたのと魔理沙の強引な説得でしかたなく付いて行く事になった。
魔理沙達の後姿を見送った後、

「それじゃ、案内するわ」

咲夜は改めて浴場まで案内する事を伝える。

「ああ、よろしく頼む」

龍也がそう言うと咲夜が歩き出したので、龍也はその後に続く様にして足を進めて行く。
そして図書館を出て、長い廊下を結構な時間歩くと、

「ここよ」

浴場前の脱衣所に辿り着いた。
脱衣所に着くと、

「それと、貴方の服などは籠の中に入れておいて」

咲夜は籠を指でさし、衣服の類はその中に入れる様に言う。

「ああ、分かった」
「それと、代えの服は後で持ってくるから」
「悪いな、何から何まで世話になって」

龍也はここまで世話になる事になってしまい、少し申し訳ない気分になっていると、

「構わないわ。お嬢様から貴方にはそれ相応の持て成しをしろと仰せつかっているし。まぁ、貴方が不快に思わない範囲でだけどね」

咲夜からその様な話が聞けた。
持て成せと言われているのに咲夜の口調が普段と同じなのはそう言う理由なのであろう。
初めて会った時と今で口調が違えば龍也は何か違和感を感じでしまうので、メイドではなく咲夜個人として接して貰った方が龍也としても気が楽である。
若しかして、自分のそんな性格を見抜いてレミリアは咲夜にその様な命令を出したのかと龍也が考えていると、

「それじゃ、ごゆっくりどうぞ」

咲夜はそんな台詞を残して音も気配も無く消えた。
咲夜が居なくなった後、龍也は服を脱ぎ、脱いだ服を籠の中に入れる。
そして浴場へと続く扉を開けると、

「おお……」

龍也は感嘆の声を漏らす。
何故ならば、紅魔館の浴場は西洋の宮殿にある様な物であったからだ。
少し目を凝らせばライオンの口からお湯が流れている事が分かる。
まさかこんな物を実際に見る事になるとはと言った感じの表情を龍也は浮かべながら、体を洗い始める。
因みに、浴場は一面紅と言う色合いではなく極普通のものであった。

「……よし、早速入ってみるか」

体を洗い終わった後、龍也は湯船に浸かる事にする。
相当広い浴槽だなと龍也は思いながら湯に浸かり、

「ふぅー……」

一息吐き、思う。
良い湯であると。
湯加減は勿論の事、こんな豪華な雰囲気の場所で風呂に入る事など一生無いと思っていたので龍也は何だか得した気分になった。
思っていた以上に良い湯加減であったからか、龍也の瞼は少しずつ重くなっていく。
そして頭が舟を漕ぎ始めたところで、

「ウボハァ!?」

溺れ掛けた。
それを一気に目が覚めた龍也は慌てて浮上し、

「ゲホ、ゲホゲホ!!」

咳き込んだ。
鼻にお湯が入ったから、結構苦しそうである。
咳き込みが落ち着き始めると、龍也は深呼吸をして呼吸を落ち着かせていく。
呼吸が落ち着くと、これ以上湯に浸かっていたらまた同じ事を繰り返しそうだと判断した龍也は風呂から上がって脱衣所に向かう。
再び脱衣所に入ると、

「お……」

籠の中に入っている服が自分の服では無い事に気付く。
咲夜はどんな服を持って来てくれたのかと思いつつ籠の中に手を伸ばし、掴んだ物を引き寄せると、

「良かった、トランクスだ」

掴んだ下着がトランクスであった事に龍也は何処か安心した声を漏らす。
稗田家に泊まった時の様に下着が褌であったら着けるに相当苦労したであろう。
下着のチョイスをトランクスにしてくれた事に龍也は咲夜に内心で感謝しつつ着替えを進めていく。
そして着替えが終わると、

「これ……正装って言うのか?」

龍也は脱衣所にある鏡に映っている自分の姿を見てそう呟く。
今の龍也の服装はタキシードに蝶ネクタイと言ったものである。
初めて着るタイプの服であるからか、龍也は少し動き難そうにしながら脱衣所を出ると、

「あら、意外と似合っているじゃない」

咲夜から似合っていると言う言葉を掛けられた。

「咲夜……」

急に声を掛けられた事に龍也は少し驚くも、

「何でこれなんだ?」

龍也は咲夜に何故自分の格好がこれなのだと尋ねる。
すると、

「仕方が無いじゃない。そう言った類の男物の服が無いんだから」

咲夜からその様な答えが返って来た。
元々文句を言う積りはなかったが、男物の服がこう言った類の物しかないのなら仕方が無いなと龍也が思っていると、

「はい」

咲夜は龍也に何かを手渡す。
何だろうと思った龍也は咲夜の手に視線を移すと、

「俺の財布?」

自分の財布が目に映った。
何故咲夜がと言う疑問が龍也の頭に浮かぶと、

「ズボンのポケットに入ったままだったわよ」

咲夜がズボンのポケットに入れっ放しであったと口にする。
そう言えば、服を脱ぐ時に財布は出さなかったなと龍也は思い出し、

「ありがと」

咲夜に礼を言って財布をしまう。
それを見届けた後、

「それじゃ、食堂に案内するわ」

咲夜は食堂に案内すると言う。

「食堂に?」

龍也が首を傾げると、

「ええ。お腹空いてるでしょ?」

咲夜は龍也にお腹が空いているだろうと尋ねる。
言われてみれば確かに腹が空いているなと龍也は感じた。
空腹感を抱いたまま寝るのはどうかと龍也は思い、

「分かった。ご馳走になるよ」

食堂でご飯を食べる旨を伝える。
その事を伝えられた咲夜は、

「分かったわ。それじゃ、付いて来て」

そう言って歩き出したので、龍也はその後に続く様にして歩いて行く。
暫らく歩くと、二人は大きな扉の前に辿り着いた。
咲夜がその扉を開くと、

「広……」

とても大きな食堂が龍也に目に入り込む。
食堂の中を少々忙しなく動いている妖精メイドを目で追っていると、

「食べ物は好きなものを取って食べて頂戴」

咲夜が龍也にバイキング形式である事を教える。
龍也はバオキング形式である事に少し驚いたが、紅魔館は妖精メイドを含めるとかなりの大所帯なのでバイキング形式が一番効率が良いのかもしれない。
バイキング形式なら色々食べれて良さそうだなと龍也が思っていると、

「それじゃ、私はまだ準備があるからこれで」

咲夜は準備があるからと言って音も無く消えた。
時間を操れると言うのは本当に便利だなと龍也は改めて思いながら大き目の皿を手に取り、料理が乗っているテーブルから食べ物を皿の上に移していく。
主に肉類を中心に。
皿が食べ物で一杯になると龍也は何も置いていないテーブル近付き、椅子に腰を落ち着かせる。
そしてテーブルの上に置いてあったナイフとフォークを使って食事を取り始めていく。
食べながら、やはり紅魔館で出される料理は美味いと龍也が思っていると、

「よっ」

声を掛けられた。
それに反応した龍也は一旦食事を止めて声が聞こえて来た方に顔を向けると、

「魔理沙か」

魔理沙の姿が龍也の目に映る。
龍也に声を掛けて来た者は魔理沙であった様だ。
龍也が魔理沙の存在を認識したのと同時に、魔理沙は龍也の対面の位置に座り、

「にしても、紅魔館の連中は毎日こんな豪華な物を食べてるのか。羨ましいぜ」

紅魔館に住んでる者を羨む発言をする。

「毎日かは知らんが羨ましいのは確かだな」

その発言に同意する様な事を龍也が口にすると、魔理沙は何かに気付いた様な顔をしながら龍也の方を見て、

「何だ、随分と畏まった格好をしてるじゃないか」

龍也の服装が何時もと違う事に気付く。

「仕方ないだろ、男物の服がこう言ったタイプのものしかここには無いって言うんだからさ」
「そうなのか」
「そうなの。そう言えば、お前は何時もと同じ服装だな」

龍也が自分の服装に付いての話題を終わらせ、魔理沙の服装に付いて問うと、

「私は家から代えの服を持って来てたからな。因みにアリスもそうだぜ」

自分の家から服を持って来たからだと言う答えが返って来た。

「へー……」

アリスを連れて来る為に一旦紅魔館を離れた時に持って来たのかと龍也は考えつつ、魔理沙と雑談を交わしていくと、

「貴女はもう少し上品に食事を取れないのかしら?」

そんな声が聞こえて来た。
声が聞こえて来た方に龍也と魔理沙が顔を向けると、

「「アリス」」

アリスの姿が二人の目に映る。

「アリスもここで食べていたのか」
「ええ、折角だしね」

そう言ってアリスは龍也の隣に座り、

「あら、似合ってるじゃない」

龍也の服装を褒める様な事を言う。

「そうか?」

咲夜とアリスの二人に似合っていると言われたからか、龍也は改めて自分の格好を見る。
その間にアリスは魔理沙の方に顔を向け、

「で、貴女はもう少し上品に食事を取れないのかしら?」

再度魔理沙にもう少し上品に食べれないのかと問う。
そんな事を問われた魔理沙は、

「おいおい、十分上品だろ」

自分の食べ方は上品だろうと返す。
すると、

「口元に食べかすを付けてるのに?」

アリスが口元に食べかすが付いている事を指摘する。

「おっと」

口元に食べかすが付いていると言われたからか、魔理沙は少し慌て気味に口周りを手の甲で拭う。

「……貴女ねぇ、手の甲で拭うのは女としてどうなのよ? ナプキンがあるんだからそれを使いなさいよ」
「龍也だって手の甲で拭ってたりするぞ」
「男である龍也に女らしさを求めてどうするのよ」

二人の会話が聞こえたからか、

「ん? 呼んだか?」

何時の間にか自分の服を見るのを止めて再び食事を始めていた龍也は顔を上げる。

「呼んではいないけど……って、龍也。ナイフとフォークの使い方が間違ってるわよ」
「え?」

アリスにそう言われたからか、龍也は手に持っているナイフとフォークに視線を移す。
フランドールと戦う前に図書館でステーキを食べた時にもナイフとフォークを使ったのだが、パチュリーには何も突っ込まれなかった。
パチュリーが突っ込まなかったのはそう言うのを気にしていなかったからかと龍也が考えていると、

「仕方ないわね……ナイフとフォークの使い方を教えて上げるわ」

アリスは龍也の手を取ってナイフとフォーク使い方を教えていく。
損になる知識では無いので龍也はアリスの説明を真面目に聞いていくと、

「アリスってこう言う礼儀作法を知ってたんだな」

魔理沙が少し驚いた顔をしながらそう口にする。
それが聞こえたからか、

「貴女……私を何だと思ってたのよ?」

アリスは少し怒った様な顔をしながら魔理沙の方を見る。
すると、

「いやさ、アリスって殆ど家に篭って人形を作ってるって感じだからそう言うのを知ってるとは思わなくてさ」

魔理沙は思った事をそのまま口にした。
魔理沙の物言いに少し腹を立てたのかアリスは口元を少し引く付かせ、

「そりゃ、貴女と比べたら家から出る頻度多くないけど……私は都会派魔法使いよ。これ位の事を知っていて当然でしょ」

自分は都会派魔法使いであるからこれ位の事は知っていて当然だと言う。
そして、

「それに……これを含めた多少の礼儀作法はレディとして知って置いて当然じゃないかしら?」

魔理沙を挑発する様な事を口にした。

「ほほう、つまりあれか? 私はレディじゃないと言いたい訳か?」
「別にそんな事を言った積りは無いのだけど……そう言うって事は心当たりでもあるのかしら?」

何やら口論になりそうな雰囲気であったので、

「まぁまぁ、さっさとご飯を食べようぜ」

龍也は仲裁するかの様にご飯を食べる様に勧める。
その言葉を受けて魔理沙とアリスは最もだと思ったからか二人は雰囲気を戻して食事を取っていき、それを見た龍也も食事を取っていく。
そして適当に雑談をしながら食事を進めていくと、

「と、無くなったか」

龍也は自分の皿に乗っけていた料理が無くなった事に気付く。
なので、

「俺は追加の料理の取って来るから」

龍也は追加の料理を取って来る伝えて席を立つ。
すると、

「あ、そうだ。序だから私の分のデザートを持って来てくれるか?」
「それなら私の分もお願い出来るかしら?」

魔理沙とアリスから自分達の分のデザートを持って来て欲しいと頼まれる。
別に断る理由はないので、

「ああ、分かった」

龍也は了承の返事を返して料理が乗せてあるデーブルへと向かう。
そして料理を適当に選んでは皿に乗せでいく。
皿の上が料理で一杯になると、龍也は二人に頼まれているデザートを探し始める。
その過程で、

「ん?」

誰かの楽しそうな声が聞こえて来た。
聞き覚えがある声だったので龍也は声が聞こえて来た方に顔を向けると、レミリアとフランドールを姿が目に映る。
どうやら、フランドールは龍也に言われた事を実践している様だ。
頑張っているのなら邪魔したら悪いなと龍也は思い、龍也は二人に気付かれない様にしてその場を後にした。





















「ふー……食った食った」

龍也が腹一杯で満足と言った表情をしていると、

「うー……食べ過ぎたぜ」

魔理沙が少し苦しそうな表情をしながら机に突っ伏していた。
そんな魔理沙を見て、

「貴女は少し食い意地が張り過ぎてるわよ」

アリスは食い意地が張り過ぎていると指摘する。

「いやさ、こんな豪華な物を食べれる機会なんて滅多にないだろ? だから……」

魔理沙は何か言い訳の様な事を言おうとしたが、

「それで食べれるだけ食べたと? だからと言って動けなくなるまで食べる、普通?」

アリスに少し呆れた表情でそう指摘され、魔理沙は押し黙ってしまう。
流石にアリスの発言に返す言葉が見付からなかった様だ。
その後、三人で適当に雑談をしていく。
それから暫らくすると、

「ふぁ……」

龍也は本格的な眠気を覚え始めた。
なので、

「俺はそろそろ寝るけど、お前等はどうする?」

龍也は寝る事を伝え、魔理沙とアリスの二人にどうするのかを尋ねる。

「私はここで休んで腹を空かせる事にするぜ」
「私は……魔理沙が馬鹿な事にしない様に見張っているわ」
「おいおい、それはどう言う意味だよ?」
「貴女の事だからお腹がある程度空いたらまた食べてって……感じで同じ事を繰り返しそうじゃない」
「そこまで私は意地汚くはないぜ」
「どうだが」

どうやら、満腹で動けない魔理沙の面倒はアリスが見てくれる様だ。

「分かった、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「ええ、おやすみ」


挨拶を交わした後、龍也はその場から離れて咲夜を探す。
何所で寝れば良いのか聞く為だ。
咲夜を探し始めてから少しすると、

「あら、龍也」

レミリアから声が掛かけられた。

「レミリア」

声を掛けられた龍也は立ち止まってレミリアの方に体を向ける。
すると、

「へぇ……そう言う格好も似合っているじゃない」

レミリアは今、龍也が着ている服装が似合っていると言う。

「そうか?」

龍也が少し疑問気に首を傾げると、

「ええ、これなら執事服も十分に似合いそうね」

レミリアはそんな事を口にする。
そして、

「どう、私のものにならない?」

自分のものにならないかと誘う。
その誘いを、

「悪いが断る」

龍也は断った。

「あら、それは残念」

レミリアはクスクスと笑いながら残念と言い、

「それはそうと、食事は美味しかった?」

食事は美味しかったかと尋ねる。
尋ねられた事に、

「ああ、凄く美味かったよ」

龍也は素直な感想を返すと、

「それは良かったわ。まぁ、咲夜が作ったのだから当然だけどね」

レミリアは咲夜が作ったのだから当然と言う。
予想通りと言うべきか、この食堂に並んでいる料理は全て咲夜が作った物の様だ。
よく一人でこれだけの料理で一人で作れるなと龍也は感心しながら、

「あ、そうだ。俺はそろそろ寝たいんだけど、この館の部屋を使っても良いのか?」

寝る時はこの館の部屋を使っても良いのかと尋ねる。

「ええ、前にも言ったけど紅魔館は好きに使って貰って構わないわ。部屋には後で咲夜に案内させるわ」
「ありがと」

部屋を使ってくれても構わないと言ってくれたレミリアに龍也が礼を言うと、

「どういたしまして。それと」

レミリアはどういたしましてと返し、

「ん?」
「フランの事……ありがとう」

フランドールの事に付いての礼を言う。
レミリアの礼の言葉を聞き、龍也はそう言えばと思い出す。
フランドールを地下に幽閉していたのはレミリアだと言う事を。
これだけ聞くと酷い様に聞こえるが、幽閉していた理由は勿論ある。
それはフランドールは情緒不安定で一度火が付くと際限無く暴れまわるところがあるからだ。
もし、フランドールが紅魔館の外で暴れでもしたら周りへの被害とフランドールがどう思われるかは火を見るより明らかである。
下手をすればフランドールが討伐対象になってしまうかもしれない。
それ故にレミリアはフランドールを幽閉していた。
妹を護る為に。
だが、幽閉していたと言う負い目もあってかレミリアはフランドールの接し方に随分と悩んでいた様だ。
龍也はそこまで思い出し、

「気にすんな」

そう返した。

「そう……それで、明日はどうするの?」
「ああ、紅魔館を出て幻想郷中を周ってみるつもりだけど」

そろそろ出ないとズルズルと先延ばしになってしまいそうなので龍也は明日には紅魔館を出る事を出る事を伝えると、

「えー、行っちゃうの龍也!?」

フランドールが近くの柱の影から飛び出して来た。
どうやら、近くで龍也とレミリアの会話を聞いていた様だ。
龍也が紅魔館を出て行く事が不満だと言う表情をしているフランドールに、

「そう言うなよ、元々その積りだったんだしさ」

龍也は何とか言って聞かせ様とする。

「うー……」

それでもまだ不満そうな顔をしているフランドールに、

「また、そのうち来るから……な」

龍也はまた来るからと言う。
すると、

「……分かった、約束だからね」

フランドールは渋々ではあるが納得した表情になった。

「ああ、約束だ」

龍也がフランドールにまた来ると言う約束をする。
一段落着いたからか、

「さて、咲夜いる?」

レミリアが咲夜を呼ぶ。
その瞬間、

「ここに」

咲夜は音も気配も無くレミリアの傍に現れる。
咲夜が傍に現れた確認すると、

「龍也を部屋に案内して」

レミリアは咲夜に龍也を部屋に案内する様に言う。

「畏まりました」

咲夜はレミリアに一礼し、

「それじゃ、付いて来て」

龍也を部屋に案内する為に歩き出す。
それに続く様に龍也も足を進める。
そのまま暫らくの間歩いていると、

「ここよ」

そう言って咲夜はある一室へと続くドアを開く。
部屋の中は廊下などと違い一面紅という訳では無かった。
龍也がこう言った部屋もあるんだなと思っている間に、咲夜は部屋の中にあるものを簡単に説明する。
そして咲夜が時間を止めて消えた後、着ていた上着を椅子に掛けて蝶ネクタイを外し、ワイシャツのボタンを外してベットに倒れ込む。
フカフカのベッドであるから、龍也は今夜はよく眠れそうだと思いながら瞼を閉じて眠りに付いていった。

















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