幻想郷の何所か。
人間が寄り付く事がなさそうな場所を歩いている者が一人居る。
四神龍也だ。
迷いの無い表情で歩いている事から、龍也は自分が何所を歩いているか分かっている様に見えるがそんな事は無い。
龍也自身、何所を歩いているのか分かっていないのだ。
殆ど迷子の様なものではあるが、龍也はそれで良いと思っている。
目的の無い旅とはそう言うものであると考えているからだ。
太陽から程好い暖かさを感じながらのんびりと足を進めて行くと近くの茂みの中から妖怪が現れ、龍也へと飛び掛って来た。

「……っとお!!」

妖怪の襲撃に気付いた龍也は体を傾けて飛び掛りを避け、妖怪の方に目を向ける。
すると、四足歩行の獣型の妖怪が目に映った。
その姿を見て、龍也はこいつが襲撃者であると判断するのと同時に幻想郷に来たばかりの時の事を思い出す。
何故ならば、あの時に襲い掛かって来た妖怪は今目の前に居る妖怪と似たタイプであるからだ。
龍也が少し感慨深い気持ちになっている間に一体、また一体と同じタイプの妖怪が現れて龍也を取り囲んでいく。
それに気付いた龍也は周囲を見渡し、

「やれやれ……随分と数が多いな」

思わずそう呟いてしまう。
何時の間にかこの妖怪達の縄張りに入ってしまったのか、それともこの妖怪達が龍也の後を付けて来たのか。
どちらかかは分からないが、考えている時間は無さそうである。
妖怪達が涎を垂らしながら唸り声を上げているからだ。
完全に自分を食べる気であると龍也が判断すると、妖怪達は一斉に襲い掛かって来た。
襲い掛かって来ている妖怪達を見ながら龍也は体を屈め、自身の力を変える。
朱雀の力へと。
瞳の色が黒から紅に変わると、龍也は二本の炎の剣を生み出す。
この時点で妖怪達がかなり近くまで迫って来ている事を龍也は感じていた。
だが、龍也は落ち着いた様子で両腕を広げ、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

炎の剣の出力を上げながら体を独楽のように回転させる。
すると、襲い掛かって来た妖怪達は炎の剣に呑まれてその身を焼かれていく。
まだ龍也に攻撃を仕掛けていなかった妖怪達はその様子を見たからか、慌ててブレーキを掛けて攻撃を中止する。
その数瞬後、炎に焼かれた妖怪が絶命したからか龍也は体の回転を止めて残りの妖怪達を睨み付けた。
睨まれた妖怪達は、悲鳴を上げながら我先に言わんばかりに逃げ出して行く。
周囲から気配を感じなくなると、

「ふぅ……」

龍也は一息吐いて力を消す。
炎の剣が消失し、瞳の色が紅から黒に戻ると慣れてきたものだなと龍也は思った。
最初の頃は急に妖怪に襲われたら慌てたりしたものだが、今では大分落ち着いて対処が出来る様になっている。

「しっかし……一日に最低でも一回は妖怪に襲われてるよな」

龍也は少し愚痴る様にそんな事を呟くが、妖怪から見れば一人で歩いている人間なぞ餌と同義語。
襲われるのも無理は無い。
因みに妖怪はかなり多種多様である事もあってか、襲い掛かり方にも色々ある。
奇襲を掛けるもの、正面から来るもの、待ち伏せをするもの、戦力を小出しにするもの、集団で来るものと様々だ。
個人的には正面から来られる方が楽だなと言う事を龍也が考え始めた頃、

「……っと、別れ道か」

別れ道に辿り着いていた。
どっちの道に進むべきか悩み始めたところで、龍也は何かを思い付いた表情をして周囲を探し始める。
周囲を探し始めてから少し経った時、

「お、枝見っけ」

近くに生えている木の下に落ちている枝を発見した。
龍也は落ちてる枝を拾い、その枝を分かれ道の中央に立て、

「倒れた方へ進もっと」

そんな事を口にしながら枝から手を離す。
龍也が思い付いた事と言うのは枝が倒れた方に進むと言う事だ。
そして、龍也は枝が倒れた方へと足を進めて行く。





















先程の分かれ道を過ぎてから数時間程経った現在。
龍也は相変わらずのんびりと歩いている。
そんな風に歩いている時、

「お、やっと見付けたぜ」

龍也の上空から声が聞こえて来た。
その声に反応した龍也は足を止め、顔を上げると箒に跨った少女が下りて来た。
下りて来た少女と言うのは魔理沙だ。
魔理沙が箒から降りて地に足を着けたタイミングで、

「よう、魔理沙」

龍也は魔理沙に挨拶の言葉を掛ける。
龍也の挨拶に返す様に、

「よっ、龍也」

魔理沙は片手を上げた。
挨拶が済んだからか、

「久しぶり……って程でもないか。何か用か?」

龍也は魔理沙に自分に何か用かと尋ねる。
すると、

「ああ、宴会のお誘いだぜ」

魔理沙は宴会の誘いに来たんだと言う。

「宴会?」

宴会と言う言葉を聞いた龍也が首を傾げてしまった。
そんな龍也を見て、

「ああ、今日は満月だからな。秋に満月を見ながら酒盛りって風流だろ」

魔理沙は宴会をやる理由を説明する。

「成程……」

龍也は宴会をやる理由に納得し、もうそんな時期かと思っている間に、

「いやー、見付かって良かったぜ。龍也の様に幻想郷中回っている奴は中々見付からないからなー」

魔理沙はそんな事を言い、幹事も大変だぜーと続けた。
どうやら、宴会の幹事は魔理沙の様だ。
そう言うのは魔理沙に合っているなと龍也は思いつつ、

「参加者どうなってるんだ?」

参加者はどうなっているのだと問う。
問われた事に対する答えの様に、

「基本、私と霊夢の知り合いだな。龍也の他には紅魔館の連中と、アリスとチルノ達だな」

魔理沙は宴会に参加する主だったメンバーを口にした。
因みに、今口にした者以外は見付からなかったとの事。
魔理沙の発言を聞き、若しかして自分の様に幻想郷中を回っている者が他にも居るのかと龍也は思った。
同時に、龍也は自分が魔理沙の中で宴会の参加が決定している事に気付く。
まぁ、別に断る理由は無いから別に良いかと龍也は考え、

「宴会なら何か持って行った方が良いか?」

宴会に参加するに当たって何か持って行った方が良いかと魔理沙に聞く。

「そうだな……酒が必要だな。飲兵衛ばっかりだしな」

聞いた事に対する答えとして魔理沙から酒を持って来て欲しいと言われた龍也は、

「了解」

了承の返事を返し、序に食べ物とかも持って行った方が良いかと思案した。
人里で酒を買う序に食べ物も買うと言う予定を龍也は立てながら、

「あ、そうだ。宴会場所は何所だ?」

何所で宴会を行うのかも尋ねる。

「博麗神社だぜ」

魔理沙から宴会場所が博麗神社であると聞いた時、龍也は神社に妖怪と言った存在が行っても大丈夫なのかと言う考えが頭に過った。
が、直ぐに大丈夫であろうと判断して過ぎった考えを忘却の彼方へと追いやる。
問題があれば霊夢が許可しない筈であるからだ。
それならば善は急げと言う様に人里でさっさと宴会に必要な物を買う事を決め、

「そうそう、人里ってどっちだ?」

龍也は魔理沙に人里はここからどっちの方向かと言う疑問を投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問を耳に入れた魔理沙は少し考える様な素振りを見せ、

「えーと……人里はあっちだぜ」

そう言って人里の方に指をさすと、

「じゃあ俺は人里で買い込んでから行くけど、魔理沙はどうする?」

龍也は自分の予定を口にして魔理沙はどうするのかと問う。

「私は博麗神社で宴会の準備を手伝うぜ」
「そっか、なら後でな」
「おう、また後でな」

軽い別れの挨拶を交わした後、魔理沙は博麗神社の方へとすっ飛んで行った。
すっ飛んで行った魔理沙を見て元気だなと龍也は思いつつ、跳躍を行う。
そして、

「よ……っと」

龍也は空中に見えない足場を作ってそこに足を着け、

「月が出るまでまだ結構時間はあるけど……出来るだけ早くに行った方が良いか」

そんな事を呟きながら人里の方に体を向ける。
魔理沙の言葉から宴会の開始時間は夜であるが、集まりが早ければ宴会が始まる時間が早くなるかもしれない。
そうなった時、自分が遅れる事で待たせる事になってしまうのは龍也としては少々気が引けてしまう。
なので、龍也は自身の力を変える。
白虎の力へと。
瞳の色が黒から翠に変わり、両腕と両脚に風が纏わさった瞬間、

「はあああああああああああああああああ!!!!」

龍也は霊力を解放する。
自身の力を白虎に変えた事と霊力を解放した理由は移動スピードを上げる為だ。

「そういや……この状態で何所かに向かうって言うのは初めてだな」

龍也は今の状態で何所かに赴くと初めてだなと言う事を口にし、人里へ全速力で向かって行く。





















人里の入り口近くに来ると、

「よ……っと」

龍也は霊力の解放を止め、空中に作った見えない足場を消して地に足を着ける。

「思ってたよりずっと早く付いたな」

龍也はそんな感想を漏らしながら力を消す。
瞳の色が翠から黒に戻り、纏っていた風が消えると龍也は通って来た道に目を向ける。
出発点が全く見えなかった事から、

「あそこと人里ってかなり離れてたんだな……」

龍也はそんな感想を抱く。
少なくとも、普段の様に歩いていたら人里に来るのに何日掛かっていたか分かったものではない。

「……っと、今はそんな事を考えている場合じゃないな」

思考がずれ始めた事に気付いた龍也は考えてた事を忘却の彼方へ吹き飛ばし、人里の中へ入って行く。
人里の中を歩きながら龍也は何を買うべきか考える。
荷物になりそうな酒の類は後回しにした方が無難であろう。
ならば何を買うべきか龍也は少し頭を捻らせ、

「……よし、団子を買おう」

団子を買う事に決める。
月見をしながら酒盛りと言う宴会なので団子は必要な筈だ。
龍也の他にも団子を持って来る者が居るかもしれないが、数が多くても困る事は無いであろう。
多少数が多くても団子程度の大きさなら食べ切る事は十分に可能だ。
龍也はそんな判断を下し、

「すみません」

近くを歩いていた人に声を掛ける。
団子屋が何所にあるかを聞く為だ。
声を掛けられた人を立ち止まり、

「何か用かい?」

龍也の方に顔を向けた。
龍也は声を掛けた人を見ながら、

「団子屋が何所にあるか分かりますか?」

団子屋が何所にあるのかを尋ねる。

「ああ、団子屋ならそこを二つ行った所を左に曲がって真っ直ぐ行けば見えて来るよ」

龍也に声を掛けられた人物は笑顔で団子屋への道のりを教えてくれた。
快く教えてくれたからか、

「そうですか、教えて頂きありがとうございます」

龍也は礼の言葉を口にしながら頭を下げる。

「良いって良いって」

そう言って、龍也に道を教えてくれた人は去って行った。
それを見送った後、龍也は教えられた道へ足を進めて行く。
そして団子屋の前に着くと、

「すみませーん」

龍也は声を掛けながら店の中に入る。
すると、

「はーい」

店員が龍也の前までやって来て、

「御注文はお決まりですか?」

注文は決まっているかと問う。

「えーと……団子五十人前をお持ち帰りと……」

龍也は少し考えて団子を五十人前と言った処で、小腹が空いている事に気付く。
折角だからここで何かを食べていこうと龍也は考え、

「それと三色団子五人前。これはこっちは食べて行きます」

序と言わんばかりに三色団子を注文する。

「畏まりましたー」

店員が龍也が注文した物を持って来る為に店の奥に引っ込むと、龍也は近くの長椅子に座って頼んだ物が来る待つ。
それから少し経った頃、

「お待たせしましたー」

店員が三色団子を皿の上に乗せて龍也の下へと持って来る。

「どうも」

龍也が礼を言うと、店員は皿を龍也の隣に置いて再び店の奥へと引っ込む。
おそらく、龍也が頼んだ五十人前の団子の準備に取り掛かったのだろう。
龍也はそんな事を考えながら三色団子を食べ、団子屋から見える風景を楽しむ事にする
丁度龍也が三色団子を食べ終わったタイミングで店員が団子五十人前が入った袋を持って来た。
良いタイミングだなと龍也は思いつつ、店員にお金を払って団子屋を後にする。
そして、人里の中を歩きながら次に何を買うか考えた結果、

「この団子は酒の摘まみに使うから……主食が必要だな」

主食が必要であると言う答えが出た。
答えが出た後、次に何を買うべきが考える。
最後に酒を買う予定なので、持ち運びが楽な物が良い。
龍也はそんな都合が良い物はあるかなと頭を捻らせたら、

「……おにぎり」

おにぎり存在が頭を過ぎった。
おにぎりならば結構な数を袋に入れても片手で運ぶ事は容易だ。
だからか、

「よし、おにぎりにしよう」

龍也はおにぎりを買う事を決め、誰かにおにぎりが売っている場所を聞こうと周囲を見渡した時、

「お……」

見知った人物を発見した。
なので龍也はその見知った人物に近付き、

「よ、阿求」

声を掛ける。
龍也が見付けた人物とは阿求であった様だ。
声を掛けられた阿求を龍也の方に顔を向け、

「あ、龍也さん」

龍也の存在を認識した。
阿求が自分の存在を認識したのを見て、

「散歩か?」

龍也は散歩をしていたのかと尋ねる。

「はい。龍也さんは何をしていらしたんですか?」

阿求は散歩をしている事を肯定し、龍也は何をしているのかと尋ね返す。

「宴会で食べる物の買出しかな」

龍也はそう言いながら手に持っている荷物を阿求に見せる。

「宴会ですか?」
「ああ、博麗神社でな。あ、そうだ。阿求も来るか?」

龍也は博麗神社で宴会をする事を言い、折角なので阿求も宴会に参加しないかと提案したが、

「すみません。お誘いは嬉しいのですが、今日は夜中から書物を纏める仕事があるので……」

阿求は申し訳無さそうな表情をしながら宴会には参加出来ないと返す。

「そっか……何か悪かったな」
「いえ、お誘いしてくれて嬉しかったです。また今度誘ってください」
「ああ、分かった」

龍也は阿求にまた今度宴会に誘う事を約束し、

「そうだ。おにぎり買おうと思ってるんだけど、どこで買えるか分かるか?」

思い出したかの様におにぎりが何所に売っているのかを尋ねる。
尋ねた理由としては人里に住んでいる阿求なら知っていると思ったからだ。

「おにぎりですか? そうですね……ここからなら茶屋が一番近いですね」
「茶屋?」

龍也が首を傾げると、

「はい。そこを真っ直ぐ行って三つ目の所を右、そこから二つ目の所を左に曲がって真っ直ぐ行けば着きますよ」

阿求は茶屋への行き方を分かり易く教えてくれた。
茶店までの道順を教えてくれた阿求に。

「そうか、ありがとな」

龍也は礼の言葉を述べる。
龍也の礼の言葉を聞いた阿求は、

「いえ」

礼を言われる程の事じゃ無いと言う表情になった。
その後、

「それじゃ、またな」
「はい、またお会いしましょう」

龍也は阿求と軽い挨拶を交わして別れ、教えられた道へと足を進めて行く。
そして、少しの間歩けば、

「お、茶屋発見」

目的の場所である茶屋を発見した。
発見した茶屋の中に龍也は早速入り、

「すみませーん」

声を掛けると、

「はーい」

直ぐに店員がやって来る。
その事に龍也は一寸した既視感を感じながら、

「おにぎりを……三十五個ください」
「具はいかが致しましょうか?」

おにぎりを三十五個注文すると、 具はどうするかと問われてしまった。
そう問われた龍也は思わず頭を抱えてしまう。
おにぎりの具何て全く考えていなかったからだ。
具は何が良いか考えるが、

「うーん……」

中々答えがでない。
だが、これ以上考え込んでいて店の迷惑になってしまう。
ならば、自分の好きな具で良いかと龍也は思い、

「おかかでお願いします」

おにぎりの具をおかかに決めた。

「畏まりましたー」

店員が店の奥に引っ込むと、龍也はおにぎりが出来るまでボケーッとして過ごす。
それから少しすれば、

「おまたせいたしましたー」

店員がおにぎりを入れた袋を持って来た。

「どうも」

龍也は礼を言いながらおにぎりが入った袋を受け取り、代金を払って茶店を後にする。
次は酒を買う積りなのだが、龍也は酒屋が何所にあるのかを知らない。
なので、

「すみません」

龍也は近くを歩いていた人に聞く事にした。

「なんでしょうか?」

龍也に声を掛けられた人は足を止め、龍也の方に顔を向けた瞬間、

「酒屋にはどう行けばいいでしょうか?」

龍也は酒屋が何所にあるのかを尋ねる。

「それでしたら、この道を真っ直ぐ行けば良いですよ」
「あ、そうなんですか。お教え頂き、ありがとうございます」

龍也は頭を下げて礼の言葉を口にしたが、

「いえ」

龍也に酒屋の道を教えてくれた人はそれだけ言って、去って行った。
去って行くスピードを見るに、何やら急いでいる感じだ。
何か急ぎの用事でもあったのかなと思いつつ、龍也も龍也で酒屋の方に向けて足を進めて行く。
歩き始めてから少しすれば、

「お、あれだな」

龍也は酒屋を発見した。
思っていた以上に近くにあったなと思いながら龍也が酒屋の中に入った時、

「いらっしゃい!!」

元気の良い声で出迎えられる。
やる気が溢れている店員だなと龍也は思いながらどの酒を買うべきか考えていく。
魔理沙曰く飲兵衛ばかりとの事なので酒の一つや二つでは足りないであろう。
かと言って、沢山買っても持ち運びに苦労してしまいそうだ。
如何し様か思い悩んでいたところで、

「あれは……」

龍也は酒樽を発見した。
酒樽なら量もあるであろうし、運ぶ時はロープか何かで縛って纏めて貰えれば運ぶのにそんな手間は掛からない。
そう考えた龍也は酒樽を買う事を決め、

「すみせーん」

店員に声を掛ける。

「買う物は決まったかい?」
「はい。そこの酒樽を……三つください」
「構わねえが、兄ちゃんはそれ持てるのかい?」
「はい、持てると思います」

霊力で身体能力を強化すれば大丈夫だろうと龍也が思っていると、店員は酒樽を床に降ろして縄で縛っていく。
それが済むと、龍也は会計を済ませて酒樽を纏めている縄の部分を持って外に出る。

「よし、ちゃんと持てる」

ちゃんと酒樽を持てる確認し、人里の出口へと向かう。
暫らく歩くと人里の出口に辿り着き、龍也は周囲を見渡すと、

「博麗神社は……あっちか」

少し遠くの方に博麗神社らしき建物を発見する。
神社は博麗神社しかないのであれが正解だろう。
博麗神社を目指して足を進め様としたところで、

「……っと、今は荷物を持ってるから妖怪に襲われると面倒だな」

龍也はこのまま博麗神社に行っても妖怪に襲われて荷物が滅茶苦茶になってしまうのではと考えて足を止める。
荷物を無事に運ぶ為にはどうするべきかと考えた瞬間、

「……あ」

霊夢が言っていた事を思い出す。
空路は安全と言う発言を。
その事を思い出したからか龍也は跳躍して空中に見えない足場を作り、そこに足を着ける。
そして足場の感触を確かめた後、龍也は博麗神社を目指して駆けて行った。





















「到着っと」

博麗神社の敷地に辿り着いた龍也は見えない足場を消して地に足を着け、

「本当に空路は安全だったな……」

そんな事を呟いた。
龍也は本当に安全だったなと思いながら足を進めて行くと、

「あら、いらっしゃい」

霊夢から声を掛けられる。

「よっ」

掛けられた声に返す様に龍也が挨拶の言葉を口にした時、

「龍也も宴会に参加するの?」

霊夢が宴会に参加するのかと尋ねて来た。

「ああ、魔理沙にお呼ばれしてな」

龍也はその事を肯定しながら持って来た荷物を下ろす。

「持って来たのは酒樽とおにぎりと団子だ」

龍也は自分が持って来た物の事を伝えた瞬間、

「あら、ありがとう」

霊夢が礼の言葉を述べ、何かを期待した様な目で龍也を見る。
その目を見た龍也は、

「そんな目で見なくても賽銭位、入れるって」

少し呆れた口調でそう言って賽銭箱の前に向かう。
そして財布の中から小銭を一握り取って賽銭箱の中に入れ、手を叩いていて祈る。
それが終わり、龍也が霊夢の方に戻ったタイミングで、

「何時もありがとね」

霊夢は笑顔でそんな事を言う。
それを聞いた龍也がやれやれと言った表情を浮かべている間に、

「お、もう来てたのか龍也」

魔理沙が神社の中から出て来た。

「ああ、俺が一番か?」
「そうみたいだな」

これならもう少しのんびりしても良かったかなと思いつつ、

「準備は終わったのか?」

宴会の準備は終わったのかと問う。

「ああ、準備は終わったぜ。後は皆が来るのを待つだけだな」

後は他の皆が来るまで待つだけとの事だったので龍也、霊夢、魔理沙の三人は適当に雑談をして過ごす事にする。
雑談を始めてから少しすると、

「あら、お揃いで」

龍也達の近くからそんな声が聞こえて来た。
その声に反応した三人が声が聞こえた方に顔を向ける。
顔を向けた三人の目には、

「「「アリス……」」」

アリスの姿が映った。
どうやら、やって来たのはアリスであった様だ。
やって来たアリスは龍也達の方に近付き、

「持って来たワインとお摘みはここに置いておくわよ」

持って来た物を地面に降ろす。

「あら、ワインを持って来たの?」
「ええ、宴会をやる時ってお酒が多いでしょ。だから偶には良いかと思ってね」
「俺は酒樽を持って来たけど……不味かったか?」
「別に良いんじゃないか? 私は飲めればどっちでも構わないぜ」

四人で酒、ワイン談義に華を咲かせ様とした時、

「あれは……紅魔館の連中か?」

魔理沙が紅魔館の面々が来た事を察知し、そちらへと顔を向ける。
同時に龍也、霊夢、アリスの三人も魔理沙が顔を向けた方に顔を向けると、紅魔館の面々が地に足を着けた。
妖精メイドも何人か来ているなと龍也が思っていると、

「りゅーやー!!」

フランドールが勢い良く龍也に飛び込んで来る。

「うお!?」

龍也は自身に目掛けて飛び込んで来たフランドールに驚くも、龍也は避けずにフランドールを受け止めた。
が、

「ッ!?」

フランドールの力が思っていた以上にあった為か、龍也は地面を削る様にして後ろに下がって行ってしまう。
このままでは神社に激突してしまうと思った龍也は下半身に力を入れ、ブレーキを掛けていく。
下半身に力を籠めてブレーキを掛けたお陰で後退のスピードは下がり、完全に止まった。

「……ふぅ」

完全に止まったからか龍也は一息吐き、

「……ったく、元気一杯だな」

愚痴る様にそんな事を呟く。

「えへへへへ……」

何やら嬉しそうな表情を浮かべているフランドールに、

「もう一寸力加減覚えような」

龍也は力加減を覚える様に言いながらフランドールを降ろす。
その後、

「あ、そうだレミリア」

龍也は思い出したかの様にレミリアに近付きながらポケットに仕舞ってある懐中時計を取り出し、

「これ、ありがとな」

懐中時計をくれた事に対する礼を言う。

「構わないわ。ま、気に入って貰えた様で何よりよ」

レミリアがそう言った後、紅魔館のメンバーも交えて雑談をしているとチルノと大妖精と言った面々も来た。
そして満月が出始めた頃に魔理沙が音頭を取り、宴会が始まる。





















宴会も中盤を過ぎた頃合になると、龍也を除いた全員が良い感じ暴走して来ていた。
龍也も結構酒を飲んでいたのだが、そんなに酔わなかった様だ。
酒に強かったっけと龍也は思いながら周囲を見渡すと、魔理沙とアリスとパチュリーの三人が飲み比べをしている様子が見て取れた。
龍也の記憶が正しければ最初の方は結構楽しげに飲んでいた筈であるが、何時の間に飲み比べをする様になったのであろうか。
そんな事を考えながら視線を移すと、霊夢が美鈴と咲夜が倒れているのを余所に酒を飲み続けているのが見て取れる。
あっちもあっちで飲み比べでもしていたのだろうか。
龍也がそんな事を思っていると、

「ぎゃおー!! 食ーべちゃーうぞー!!」

そんな声が聞こえて来たので顔をそちらに向ける。
目を向けた先には、レミリアが妖精達を追っかけ回しいる姿が映った。
何をやってるんだと言う様な視線をレミリアに向けている時、

「お姉様……」

龍也はフランドールが何とも言えない視線をレミリアに向けている事に気付く。
どうやら、姉に対して抱いていた何かが崩れ去った様だ。
そっとして置いた方が良いと感じた龍也はその場を離れて他を見て回る事にした。
それから少し経った頃、

「ん……?」

龍也は見慣れない人物を発見する。
発見した人物と言うのは肩口付近で揃えられた金色の髪に赤いリボン、黒を基調とした服を着た女の子だ。
初めて見る顔で龍也はその女の子に近付き、

「どちらさん?」

誰なのかを尋ねる。
すると、女の子は龍也の方に顔を向け、

「私? 私はルーミアだよ」

自分の名を名乗ってくれた。
相手が名乗ってくれたのだから自分の名も名乗るのが礼儀だと思い、

「俺は四神龍也だ」

龍也も名乗る。
すると、

「へー……龍也って言うのかー」

ルーミアは龍也をジロジロと見始めた。
自分の存在が物珍しいのか思いながら、

「ああ。そういや、ルーミアは最初はいなかったよな」

宴会の最初の方には居なかった事を尋ねると、

「うん。美味しそうな匂いがしたからこっちに来たのー」

ルーミアは後から来た事を肯定する。

「そうなのか」
「そうなのだー。それでさ……」
「ん?」

何かを聞こうとしているレーミアに龍也が首を傾げた瞬間、

「龍也は食べてもいい人類?」

ルーミアはそんな事を言ってのけた。

「おい……」

龍也は何かを言いたげな表情を浮かべ、ルーミアを見る。
龍也の浮かべている表情を見て、

「冗談だよ。ここで龍也を襲ったら巫女に怒られるもん」

ルーミアは冗談だと口にした。
しかし、言い方を変えればここじゃなかったら襲って来ると言っているも同じだ。
だからか、龍也は釘を刺す意味も籠めて、

「その辺を俺が歩いてる時に襲って来てもいいが、その時は全力で薙ぎ払わせて貰うぞ」

そう言って全身から霊力を少し漏らす。
龍也の全身から漏れている霊力を感じたルーミアは、

「うー……怖いお兄さんなのだー」

少し怯えた目を龍也に向ける。
そんなルーミアの目を見たからか、

「ま、襲い掛かって来なければそんな事はしないがな」

龍也はルーミアを安心させる事を言い、ルーミアと軽い雑談をする事にした。
それが終わると、龍也は宴会場を回りながら酒を飲んだり料理を食べたりと飲み歩き食べ歩きを行う。
そんな事を始めてから暫らくすると、

「う……」

龍也はトイレに行きたくなった。
少々飲みすぎたのかもしれない。
なので、用を足す為に龍也はその場から離れる事にした。





















「くそ……迷ったせいで少し時間が掛かったな……」

月が空を支配している時間帯であった為か、辺りが暗くてトイレに行って戻って来るまでに少々時間が掛かってしまった様だ。
おまけに少々酔っ払ってたせいもあってか森の方に入ってしまい、妖怪に襲われると言う事態が起きてしまった。
まぁ、少々酔っ払っていると言っても龍也がそこ等の妖怪にやられる訳も無い。
普通に撃退して神社に戻って用を足し、龍也は宴会場に戻って来た。
そして宴会場の様子を見て、

「……どうしてこうなった」

思わずそう呟いてしまう。
何故ならば、宴会場は全員が酔い潰れた死屍累々の状態であったからだ。
酒瓶を抱えて寝ている者、肩をくっ付けて寝ている者、背中合わせで寝てる者と寝方は様々である。
もう少し周囲を伺うと、フランドールが龍也の持って来た酒樽を背にして寝ているのが見て取れた。
レミリアのあんな姿を見て自棄酒でもしただろうかと思いながら、龍也は酒樽の中身を確認すると、

「あれを全部飲んだのか!?」

酒樽の中身が空になっている事が分かる。
龍也が最後に酒樽の中身を見た時には結構な量の酒が残っていた。
それが空になったと言う事は、フランドールは案外酒豪なのかもしれない。
他の酒樽の中身はどうなったかと思いながら改めて周囲を見渡し、

「どうすっかな……この状況」

この状況をどうするかを考える。
龍也としてはこのまま放置して置きたかったが、

「はぁ……」

流石にそれはどうかと思ったからか、溜息を一つ吐いてしまう。
そして、取り敢えず酔い潰れている全員を神社の中に運んで行く。
人数が多かったせいか結構な回数往復する事になったが、酔い潰れていた全員を神社の一番広い部屋に運び終えた。
全員を運び終わった後、このまま雑魚寝にして置くのもあれだと思ったからか龍也は神社の中を歩き回って布団を探して行く。
部屋の中には月の光が入って明るい部屋もあれば月の光が入らない暗い部屋の二種類がある。
そう言う暗い部屋の中を探す時は朱雀の力に変え、掌から炎を生み出して探すと言う方法を龍也は取って行く。
無論、生み出した炎が神社に飛び火しない様に気を付けながら。
そんな行為を何度も繰り返して布団を一定量確保した後、龍也は布団を寝ている者達に掛けていく。
全員に布団を掛け終わった後、龍也は外に出てゴミを一箇所に纏める作業に入る。
今それをやっているのは、明日になってもやる気が出ないであろうからだ。
一人で寂しく後片付けを始めてから幾らかの時間が過ぎれば、

「ふぅ……こんなものかな」

後片付けが終わった。

「……てか、何で俺一人でこんな事をしてるだ?」

龍也はそんな疑問を口にしながら懐中時計を取り出して時間を確認すると、

「げ、もうとっくに日付変ってるじゃん」

日付が変わっている事に気付く。
後片付けも済み、日付も変わり、皆も寝てしまっている事から龍也は寝てしまおうと考えたが、

「……まだ眠く無いな」

今一つ眠気を感じられなかった。
なのでもう少し飲む事にし様と考え、まだ残ってた酒瓶と団子を持って神社の屋根に上る。
神社の屋根の上からだと満月が良く見えるなと思い、

「ま、一人で満月を見ながら飲む酒って言うのも中々乙なものだな」

そんな独り言を口にしながら龍也は酒を飲む。
同時に、

「そーだねー、わいわい騒ぐのも良いけどこう言うのも乙だよねー」

そんな声が聞こえて来た。

「ッ!?」

その声が聞こえたからか、龍也は慌てて周囲を確認する。
が、

「……居ない?」

誰も居なかった。
少し集中して周囲を探るも何の気配も感じない。
只の気のせいであったのか酔いが回ったのか龍也は少し考えたが、

「ま、いっか」

直ぐにこの事を頭の隅に追いやって再び満月を見ながら酒を飲み、団子を食べていく。















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