龍也が香霖堂に泊まり、香霖堂を後にしてから結構な日数が過ぎた。
どれだけの日数が過ぎたのか龍也には分からなかったが、木々に咲き誇っていた紅葉が見られなくなった事で龍也は秋から冬になったのだと気付く事になる。
普通なら気温とかでもっと早くに気付きそうなものではあるが、毎日お気楽に幻想郷中を旅して回っている龍也には気付けなかった様だ。
そんな自分の間抜けさに呆れつつも、龍也は今日と今日とでお気楽に幻想郷の何所を歩いている。
と、言う事は無かった。
何故ならば、
「寒ッ!! 何だ、この吹雪は!?」
猛吹雪に襲われているからだ。
「ったく、最初はパラパラと降ってただけだったのに……」
龍也は思わずそんな愚痴を零してしまう。
龍也が零した愚痴の通り、最初は降って来る雪の量は大した事は無かった。
だが、次第に降ってくる雪の量が増えていったのだ。
まるで雪は湯水の如く余っていると言わんばかりに。
そして気付いた時には猛吹雪になっており、歩けば足が雪に埋もれると言う位に積もっていた。
おまけに吹雪のせいで少し先も見えない。
龍也は改めて現状を思い返しながら、
「……くそ、こんな事なら人里か香霖堂で防寒具を買っておけば良かった」
溜息混じりにそんな事を呟く。
今の龍也の格好は学ランにワイシャツと何時もの格好だ。
当然、コートもマフラーも手袋も付けていない。
龍也は寒さにある程度は強い方であるが、猛吹雪の中を防寒具を着ないで平気と言える程では無い。
それなのに今現在も無事であるのは偏に自身の能力のお陰であろう。
龍也は今、朱雀の力を使って自身の両腕に炎を纏わせている。
両腕に纏わせている炎で龍也はこの寒さに耐えているのだ。
能力が無ければ途中で倒れて凍死してしまっていた可能性が高かった。
龍也は自身の能力の汎用性に感謝しつつ、
「どうすっかな……」
どうするかを考える。
猛吹雪の為、一寸先は闇と言うより白と言うのが現状だ。
周囲の状況が全然分からない以上、この猛吹雪を凌げる場所を探すと言う事は出来ない。
空中から何所か休める場所を探すと言う事も考えたが、空中も地上と同じ様な状況だと言う事を龍也は気付いてこの案は却下した。
意気揚々と休める場所を探して何も見付からなかったら無駄に体力を浪費するだけになるからだ。
かと言って、何の案も無いからと言ってこの場に留まり続けても雪に埋もれてしまうと言う結果になるだけ。
まぁ、両腕に炎を纏わせている状態で雪に埋もれるかと言われたら首を傾げてしまうが。
「……歩くしかないか」
このまま突っ立ってても仕方が無いと判断したからか、龍也は適当な方へと足を進めて行く。
歩いた先に休める場所でもあれば良いなと言う想いを少しだけ抱きながら。
どれ位歩いたであろうか。
結構な時間歩き続けたのだが、吹雪は一向に止む気配を見せない処か強くなっていっている。
おまけに休める場所も見付からなかった。
好い加減疲れて来たから何所かで休みたいと龍也が思ったその時、
「ッ!?」
襲撃の脚に鋭い痛みが走る。
龍也はその痛みで攻撃を受けたのだと理解した瞬間、龍也は脚から血が流れ落ちた。
流れ落ちた血が足元の雪を少し赤く染めている中、龍也は脚を動かし、
「……普通に動くから問題は無いな」
問題は無いと言う判断を下し、周囲を見渡す。
この吹雪のせいで姿は確認し難いが、攻撃を仕掛けて来たのは四足歩行の獣タイプの妖怪である事が何とか分かった。
「……体毛は白か」
吹雪と雪の中で体毛が白と言うのは厄介だなと龍也が思っていると、周囲から何かの気配が現れた事を感じ取る。
「他にも居るのか……」
一体だけでは無く複数居る事を頭に入れながら龍也は炎の剣を二本の生み出し、構えを取った瞬間、
「ぐっ!?」
背後から妖怪の一体が龍也の肩に噛み付いて来た。
痛みを感じたのと同時に噛み付かれた箇所から血が溢れ出す。
龍也はその痛みに耐えながら体を動かして噛み付いている妖怪を振り落とすが、
「ッ!!」
そのタイミングで別の妖怪が攻撃を仕掛けて来た。
妖怪の攻撃に何とか反応した龍也は炎の剣を振るう。
だが、
「外した!?」
龍也は振るった炎の剣は妖怪ではなく空を斬る結果となった。
攻撃を外した事に龍也が驚愕している間に、
「づあっ!!」
背中に鋭い痛みが走る。
別の妖怪に背中を斬り裂かれたと龍也が思っている間に、背中からも血が流れていく。
背中から流れ落ちた血が雪を赤く染めた時、龍也は気付いた。
波状攻撃を仕掛けられている事に。
妖怪達はヒット&アウェイで龍也の体力をジワジワと奪い、龍也の体力が尽きたところで食べ様と考えているのであろう。
龍也としては食べられたくは無いので何か打開策を考えなければならない。
なので、打開策を考える為に取り敢えず現状を纏める事にした。
まず一つ、敵は複数居る。
二つ、敵はこの吹雪の中でも普通に戦う事が可能。
三つ、敵は自分からある程度距離を取った場所に居る。
四つ、敵の基本的な戦法はヒット&アウェイ。
大まかに纏めるとこんな感じだ。
そして何か攻略法は無いかと考え、
「……あ」
龍也はある作戦を思い付く。
思い立ったら何とやら。
龍也は作戦を実行に移すために炎の剣の出力を上げ、両手を広げて高速回転を行う。
これで少なくとも妖怪達は龍也に攻撃を仕掛ける事は出来ない筈だ。
そう、龍也が思い付いた作戦と言うのは自身を炎を纏った独楽の様にして妖怪に襲い掛かってこれ無い様にする事だったのである。
事実、龍也が回転している間は妖怪達が襲って来る気配が無い。
これで妖怪達が撤退してくれれば良かったのだが、
「……そう上手くはいかないか」
妖怪達が撤退する事は無い事を知る事となった。
何故そんな事を知れたかと言うと、少し離れた場所で妖怪達が待っている姿が目に映ったからだ。
おそらく、回転が止まったら先程の様に再び襲い掛かって来る気なのであろう。
ならば、それまでに何か対処法を考えなければなるまい。
回転を止めて普通に戦うと言うのは却下だ。
妖怪達はこの吹雪の中で正確に龍也の居る位置が分かる事に対し、龍也は妖怪達がどの辺りに居るのか分からないからである。
龍也が出来る事と言ったら襲い掛かって来た妖怪を迎撃する事位であるが、迎撃の精度は高くは無い。
だからと言って適当に攻撃を放ったとしても容易く避けられてしまう事だろう。
全然良い手が浮かばない中、
「ちっ……せめて視界が良ければ……ん?」
視界が良ければ何とかなったのにと愚痴ろうとしたところで龍也はある疑問を覚える。
何故視界が悪いのに妖怪達の姿を目に映す事が出来たのかと。
少し考えた結果、
「……そうか」
直ぐに答えが出た。
答えと言うのは龍也が生み出している炎の剣。
この炎の剣が龍也の周囲の雪を蒸発させているのだ。
雪が無い吹雪など風が強いだけ。
相手の姿を確認するのも容易な事。
その間にこちらから攻撃を仕掛ければ良い。
だが、
「炎の剣じゃあ不十分だな」
炎の剣では範囲が不十分だ。
炎の剣の範囲では回転を止めてしまえば直ぐに雪が視界を覆う事になってしまう。
それでは意味が無い。
ならば、直ぐに雪で視界が塞がれない様に範囲を広げれば良い。
そう判断した龍也は二本の炎の剣を消し、
「だあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
代わりに両手から火炎放射を放つ。
炎の剣から火炎放射に代えたお陰か今までよりも多くの範囲が見易くなり、積もっていた雪も溶け始めた。
これならば雪に足を取られる心配も無い。
おまけに、
「……ラッキー」
妖怪達は火炎放射を避ける為か思いっ切り地面に伏せた体勢にあるのが龍也の目に映った。
これは絶好のチャンスだ。
伏せている状態なら直ぐに反撃する事は出来ないであろう。
雪が再び視界を塞ぐまでが勝負だと判断した龍也は気合を入れ直し、火炎放射を放つのと回転を止め、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
両手から炎の剣を生み出しながら霊力を解放し、一番近くに居た妖怪に斬り掛かった。
「……よし!!」
一体仕留めたのを確認すと、龍也は今居る場所から一番近くに居る妖怪に肉迫して斬り掛かる。
妖怪を仕留め、その妖怪から一番近くに居る妖怪に肉迫して斬り掛かると言う動作を龍也は雪で視界が再び覆われるまで繰り返す。
雪で再び視界が塞がれ始めると龍也は霊力の解放を止め、炎の剣を消して先程まで回転していた場所に戻り、
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
両手から火炎放射を放ちながら再び体を独楽の様に回転させる。
回転しながら龍也は残りの妖怪達の姿を確認し様としたが、龍也の目には妖怪の姿は映らなかった。
まだ生き残っている妖怪が居る筈なのに妖怪の姿が見られない。
その事から、
「……逃げた……みたいだな」
龍也は生き残った妖怪は逃げたのだと判断し、火炎放射を放つのを止めながら回転を止める。
そしてもう一度周囲を見渡し、
「……今回は一寸危なかったな」
息を一つ吐きながら今回は危なかったと言う事を呟く。
この猛吹雪の中の襲撃にヒット&アウェイを重視した攻撃。
上手く機転が回らなければかなり危なかった事であろう。
「自然の脅威……か」
龍也は改めて自然の驚異を思い知り、常に野生や自然と共に生きている存在にはこの様な吹雪などマイナス要素にはならない事を理解した。
「……よし!!」
自分の両頬を叩いて気合を入れ直し、両腕に炎を纏わせて龍也は再び足を進めて行く。
襲い掛かって来た妖怪を撃退してから暫らく経った頃、龍也は周囲が木々で囲まれている場所に辿り着いていた。
冬だと言うのに周囲の木々にはそれなりの葉を着けている事が分かる。
そして瘴気が存在している事を感じた。
この事から、
「ここは……魔法の森の中か」
龍也は現在地が魔法の森の中と言う判断をする。
周囲が木々に囲まれているお陰か入って来る雪の量は少なく、風も弱い。
「……暫らくの間、ここで休むか」
休むのに丁度良いと判断したからか龍也はここで休む事を決め、周りの木々に燃え移らない様に出力を落としていた炎を消す。
そして近の木に背中を預け、龍也は吹雪が収まるまでこのまま大人しくしてい様と考えていると、
「……ん?」
近くで雪を踏み締める様な音が聞こえて来た。
誰か居るのであろうか。
そう思った龍也は背中を木から離し、音が聞こえて来た方に体を向けると、
「な……」
真っ白な茸が目に映った。
そこまでは別に問題は無い。
普通の茸より何十倍も大きいと言うのもまぁ、問題は無い。
問題はその茸には手と足があり、おまけに目と口まであると言う点だ。
間違い無く、龍也の目に映っているのは茸型の妖怪であろう。
ある意味衝撃的な出会いであったから龍也が思わず唖然としていると、茸型の妖怪は龍也に襲い掛かって来た。
「ッ!!」
茸型の妖怪が襲い掛かって来た事に気付いた龍也は後ろに跳んで攻撃を避ける。
だが、
「あだ!?」
後ろにあった木に背中から激突してしまう。
キチンと周囲の状況を確認しなかった事が仇となった様だ。
木に激突した事で怯んだ龍也を見て好機と思ったのか、茸の妖怪は追撃を仕掛けて来た。
龍也を頭から丸齧りする様に口を大きく開けながら。
食われて堪るかと思いながら龍也は両手を茸型の妖怪の口に入れて口が閉じない様にする。
だが、
「ぐ……うう……うううぅぅぅ……」
この寒さで体の動きが鈍くなっているのか力が入り切らないからなのか、茸型の妖怪の口は少しずつ閉じていってしまう。
歯を喰い縛り必死に堪えている龍也の目に、勝ち誇った表情をしている茸型の妖怪が映った。
その表情を見て腹が立ったからか、
「調子に乗ってるんじゃ……ねえ!!」
龍也はそう言い放って両手から炎を生み出す。
龍也の両手が在る場所は茸型の妖怪の口の中。
当然、そんな場所から炎を出された茸型の妖怪は断末魔の悲鳴を上げながら燃えていく。
悲鳴を上げながらも茸型の妖怪は何とか逃げ様ともがくが、
「逃がすか!!」
龍也は茸型の妖怪を逃さない様に押さえ込む。
そして、最終的に茸型の妖怪は燃え尽きて燃えカスとなった。
それを確認し後、生み出していた炎を消して一息吐くと、
「うぼふ!?」
頭上から降って来た雪の塊が直撃し、龍也は雪の中に埋もれてしまう。
雪の塊が落ちて来たのは龍也が先程木に激突したせいであろうか。
龍也が雪に埋もれてから少しすると、雪の中から腕が飛び出て来た。
そして、
「ぶはあ!!」
龍也が雪の中から飛び出て来る。
雪の中から脱出した後、龍也は体に付着している雪を払い落とす。
それが終わった後、龍也は周囲を見渡しながら、
「本当、油断出来ないな。この森は」
そんな事を呟き、両腕に炎を纏わせる。
無論、炎が燃え移らない様に出力を抑えながら。
「寒いが……まぁ、仕方ないか」
そう呟いた後、このままここに留まっていたらまた妖怪に襲われると判断しからから龍也は周囲の状況を確認してこの場を後にした。
今度こそ安全に休める場所があります様にと願いながら。
そして茸型の妖怪を倒してから数時間後。
龍也は、
「どっかに洞窟か何かないかな……」
未だに安全に休める場所を見付けられないまま魔法の森を彷徨っていた。
おまけに感じる風がから吹雪の勢いが強くなっている事も分かる。
状況が良くなる処か悪化している事から、
「はぁ……」
龍也は思わず溜息を一つ吐く。
好い加減体力も無くなって来たので何所かで休みたいと言う想いを抱きながらも歩き続けると、
「……お」
少し開けた場所に出た。
周りに雪を遮る物が無いので視界が悪いが、先の方に建物らしき物が見える。
若しかしたら休ませてくれるかもと思った龍也は、見えた建物へと足を進めて行く。
そして家の中に続くであろうドアの前に辿り着くと龍也は両腕に纏わせていた炎を消し、ノックを行う。
ノックを行ってから少しするとドアが開かれ、
「こんな吹雪の日に誰かと思ったら龍也か」
魔理沙が顔を出す。
「魔理沙」
魔理沙が出てきた事に龍也は少し驚きつつも、
「ここって魔理沙の家だったのか?」
ここが魔理沙の家なのかと尋ねる。
「そうだぜ」
魔理沙がここ自分の家である事を肯定すると、龍也は魔理沙が魔法の森に住んでいる事を思い出した。
龍也がそんな事を思い出している間に、
「取り敢えず、中に入れよ」
魔理沙が家の中に入る様に促す。
疲労も堪っているし体も冷えて来ているので、
「ああ、そうする」
龍也は魔理沙の家の中に入る事にした。
力を消し、瞳の色が紅から黒に戻るのと同時に龍也は魔理沙の家の中に入って行く。
そして龍也が玄関に足を踏み入れると、
「あ、雪は玄関で落として置いてくれよな」
魔理沙に雪は玄関で落とす様に言う。
「ああ、分かった」
魔理沙に言われた通り玄関で雪を落とした後、魔理沙の後に続いて足を進めて行く。
そして居間と思わしき部屋に着くと、
「散らかってるなー……」
龍也は思わずそんな感想を口にしてしまう。
何故ならば、足の踏み場が無いと言う程では無いが床に物などが結構散乱していたりしたからだ。
「これはこれでキチンと整理されているんだぜ」
魔理沙はそう返しながら台所へと向かう。
何をしに行ったんだろうと龍也が思っていると魔理沙はカップを持って戻り、
「ほら、温まるぜ」
手に持っているカップを龍也に差し出す。
カップの中身と魔理沙の台詞から、差し出された物がホットコーヒーである事を龍也が察していると、
「あ、そうだ。砂糖とミルクはいるか?」
魔理沙は砂糖とミルクは必要かと尋ねる。
「いや、ブラックのままで良い」
龍也はブラックのままで良いと答え、魔理沙からカップを受け取ってコーヒを飲む。
龍也が口に含んだコーヒーを喉に通したタイミングで、
「にしても、何だってこんな猛吹雪の中を出歩いていたんだ?」
魔理沙はこの様な猛吹雪の中を出歩いていた理由を問う。
「ああ、実はな……」
龍也は近くにあった椅子に腰を落ち着かせて、猛吹雪の中を出歩く事となった理由を説明する。
「成程ねぇ……」
龍也の説明を聞いた魔理沙は納得した表情になりながら自分の分のコーヒーを飲み、
「降り始めた時点で人里なりどっか行けば良かったんじゃないか?」
思った事をそのまま口にした。
「俺もそう思った」
龍也が溜息混じりに魔理沙の発言に同意すると、
「まぁ、普通はここまで吹雪くとは思わないからな……」
魔理沙は龍也をフォローする様な発言をし、窓の外に目を向ける。
外は相変わらずの猛吹雪の様だ。
魔理沙はそれを確認し、視線を戻すと、
「……って、よく見たら怪我してるじゃないか」
龍也が怪我を負っている事に気付く。
魔理沙の指摘で龍也は自分が怪我をしている事を思い出し、
「ああ、何度か妖怪に襲われたからな。この吹雪のせいで戦い難かったぜ。妖怪の方は視界の悪さ何て無いって感じだったからな」
怪我をした経緯を説明し、戦っていた時に事を思い出していると、
「……痛ッ」
体の至る所から痛みが走るのを感じた。
どうやら、怪我をしている事を思い出したせいで痛みが鮮明になった様だ。
体中から感じる痛みに龍也が顔を顰めていると、
「やれやれ、仕方無いな。一寸待ってろ」
魔理沙はそう言って席を立つ。
そして近くにある棚の中から救急箱を取り出して戻って来ると、
「ほら、薬塗ってやるから服を脱げ」
魔理沙は薬を塗るから服を脱げと口にする。
龍也は態々手当てをしてくれると言ってくれた魔理沙の言葉に甘える事にし、
「ああ、分かった」
学ラン、ワイシャツ、シャツを脱いでいく。
龍也が上半身裸になると、
「思ってたより傷口は深くないな……」
魔理沙はそんな事を呟きながら傷口に薬を塗っていく。
傷口に魔理沙の指が触れる度に走る痛みを龍也は我慢しつつ、
「それって傷薬か?」
今塗っている物は傷薬であるかと尋ねる。
「ああ、私が適当に調合して作った傷薬だ」
「……一寸待て」
今の魔理沙の発言は聞き逃せないものであったからか、龍也は魔理沙に待つ様に言い、
「今、適当にって言ったか?」
魔理沙が口にした台詞が正しいかを問う。
「そうは言ったが、ちゃんと効果はあるぜ」
魔理沙は龍也の問いを肯定し、効果はちゃんとあると答える。
「本当か?」
龍也が少し疑いの目を魔理沙に向けると、
「本当だぜ。まぁ、本来は別のを作る予定だったんだが何故か傷薬が出来てな。で、折角何で効果を調べたら中々効果が高い傷薬だって言うのが
分かったんだ。だからそのまま取って置いたんだ。どうだ、役に立っただろ?」
魔理沙は自信満々の表情で傷薬が出来る事となった経緯と効果を口にし、残して置いて良かっただろうと満面の笑顔で口にした。
傷薬が無ければ満足な治療を受ける事が出来なかったかもしれないのだから、残して置いてくれて良かったと言える。
だからか、
「ああ、ありがとな」
龍也はお礼の言葉を口にした。
「どういたしまして」
魔理沙がそう返すと、
「本来は何を作ろうとしたんだ?」
龍也は本来何を作ろうとしていたのかを尋ねる。
「ああ、魔法を使う際の触媒を作ろうとしてたんだ」
魔理沙は本来は魔法を使う際の触媒を作ろうとしていたと言い、
「因みにこれの調合方法は実験ノートに書いてあるから、何時でも作れるぜ。材料も揃っているしな。何なら、有料で作ってやろうか?」
有料でこの傷薬を作ろうかと言う提案して来た。
その言葉で、
「……そう言えば、何でも屋をやってるんだったな」
魔理沙が何でも屋をいる事を龍也が思い出していると、
「おう。この店の名前は霧雨魔法店だぜ」
魔理沙は胸を張りながら自身の店の名前を口にする。
「……でも、基本的に閑古鳥が鳴いてる状態じゃなかったっけか? お前の店って」
「それは言わない約束だぜ」
そんな軽いやり取りをした後、
「ま、薬の件は考えて置く」
龍也は魔理沙に薬を作って貰うかどうかは考えて置くと伝えた。
「そうしてくれ」
上手くいけば良い収入になると踏んだからか、魔理沙が龍也に薬の件をちゃんと考えて置く様に言うと、
「にしても、お前ってちゃんと実験ノートとか取ってるんだな」
龍也は少し驚いた顔をしながらそんな事を言う。
部屋の惨状からそう言った事をするとは思えなかったからだ。
「失礼な奴だな。私は今までの実験で使った物の名称、種類、性質、量、品質から実験手順、そして実験で生まれた物の色や形状から性質に至るまで全部
ノートに纏めているぜ。そしたらまた作る時に困る事は無いし、見返した時にそこから何か閃く事とかあるからな」
魔理沙が少し頬を膨らませながらそう言うと、
「悪かったって」
龍也は謝罪の言葉を述べる。
「ま、良いけどな」
龍也の謝罪の言葉を受けて幾分か気持ちを持ち直した後、
「後、実験に必要なのは柔軟な思考と発想だぜ」
魔理沙は実験に必要なのは柔軟な思考と発想だと言う。
同時に、
「よし、終わり。後は包帯を巻くだけだな」
傷口に薬を塗り終え、魔理沙は龍也の上半身に包帯を巻きに掛かる。
包帯を巻き終えると、
「へぇ、上手いもんだな」
自分の体に巻かれた包帯を見て龍也はそう感想を漏らす。
「へへへ……」
それを聞いた魔理沙は嬉しそうな顔をなった。
上手いと褒められたのが嬉しかった様だ。
その後、
「他に怪我をしている場所はあるか?」
魔理沙は他に怪我をしている場所はあるかと尋ねる。
「ああ、後は脚だな」
龍也はそう言って魔理沙に怪我をしている部分が見える様に脚を見せると、
「よし、脚だな」
魔理沙は先程と同じ様に脚の傷口に薬を塗っていく。
その間に龍也は上半身の治療の時に脱いでいた服を着る。
丁度服を全部着終えたタイミングで、
「よし、終わり」
龍也の脚に包帯を巻き終えた魔理沙が立ち上がった。
上半身と違って脚の方が受けた傷は少なかったので早く終わった様だ。
自分の怪我の手当てをしてくれた魔理沙に、
「ありがとな」
龍也は礼を言う。
「おう、どういたしましてだぜ」
魔理沙がそう返した後、龍也は外の景色に目を向けるがまだ吹雪いている事が分かる。
流石にこんな吹雪いている中で出発し様と言う気は龍也には無い。
もう暫らく魔理沙の家に厄介になるかと言う事を龍也が考えていると、
「あ、そうだ。私はそろそろご飯を食べ様と思ってるんだが、龍也も食べるか?」
魔理沙はご飯を食べるかと尋ねて来た。
「良いのか?」
龍也は確認を取る意味も兼ねて良いのかと言うと、
「ああ、別に構わないぜ。一人分作るのも二人分作るのも大して変わらないからな」
魔理沙は構わないと返す。
腹も空いていたし、魔理沙も構わないと言ったので、
「じゃ、よろしく頼む」
龍也はご馳走になる事にした。
「よろしくされたぜ」
そう言って魔理沙は台所に向かって料理を作り始める。
料理が出来るまで暇になった龍也は、特にする事も無かったのでボケーッとして過ごす事にした。
「ご馳走様」
「お粗末様だぜ」
食事を取り終え、魔理沙が食器を纏めて台所に持って行こうとした時、
「あ、俺が持ってくよ」
龍也は自分が持って行くと口にする。
ここまで世話になって置いて何もしないと言うのは流石に気が引けるからだ。
「それじゃ、よろしく頼むぜ」
魔理沙から食器を受け取った後、龍也は食器を台所に運んで行くと、
「あ、食器は水に浸けて置くだけで良いぜ」
魔理沙から食器は水に浸けて置くだけで良いと言われた。
「了解」
魔理沙に言われた通り、龍也は食器を水に浸けていく。
それが終わると、食事を取っていた場所まで戻って椅子に腰を落ち着かせ、
「そう言えば、お前って本当に茸がが好きだよな」
龍也は思った事を口にした。
「まぁな。食っても美味いし、実験には使えるし、魔法薬の材料にもなるし、魔法の触媒と言った感じで色々と使えるからな」
「色々と使ってるんだな……」
魔理沙の言う茸の使用用途を聞いて龍也が感心した表情になっていると、
「茸以外にも意外な物が魔法薬の材料になったり魔法の触媒になったりするんだぜ」
魔理沙は様々な物が魔法薬の材料や魔法の触媒になるのだと言う。
「ふーん……」
若しかしたら、先程片付けた食器もそう言った物に使えるのかもしれない。
自分にはそんな事は考え付かないと言う事を龍也は考えながら、魔法と言うのは奥が深いんだなと思った。
その後二人で適当に雑談しながら過ごす。
魔理沙が何処からか取り出した酒を飲みながら。
雑談を始めてから暫らくすると、
「ふわ……眠くなって来たな……」
魔理沙は眠気を訴え始める。
「そう言われれば……そうだな」
その訴えに同意する事を龍也が言うと、
「龍也の寝る場所……どうすっかな……」
魔理沙は龍也を何処に寝かすかを考え始める。
「俺の寝る場所って……泊まってっても良いのか?」
何時の間にか自分が泊まる事になっているが良いのかと言う事を龍也が問うと、
「別に構わないぜ。とう言うか、幾ら何でもこんな時間のこんな天候の時に外に出ろと言う気は無いぜ」
魔理沙はそう言いながら窓の外に視線を移す。
それに釣られる様にして龍也も視線を動かすと、
「おおう……」
外は完全に闇が支配し、猛吹雪が吹雪いている有様であった。
流石にこんな状態で外に出て寝床を探すと言うのは流石に勘弁したかったから、
「大人しく泊まらせて貰います」
龍也は大人しく泊まっていく事を決める。
「おう、泊まってけ泊まってけ。で、お前が寝る場所何だが……」
魔理沙が改めて龍也が寝る場所を考え様とすると、
「なら、俺はそこにあるソファーで寝るよ」
龍也は近くにあるソファーで寝ると言う。
「良いのか?」
「ああ。流石に泊めて貰う身分でベッドを貸せとは言わないって」
「まぁ、私の家にはベッドは一つしか無いから貸せと言われたら困るけどな」
魔理沙はベッドは一つしか無いか貸せと言われたら困ると口にし、
「あ、何も掛けないで寝ろって言うのはあれだから毛布を持って来てやるよ」
毛布を持って来ると言って自分の部屋へと向かって言った。
魔理沙が部屋に戻ってから少しすると、
「これで良いか?」
魔理沙は部屋から出て来て、手に持っている毛布を龍也に見せる。
見た感じ暖かそうな毛布であったからか、
「ああ、それで良いよ」
龍也はその毛布で良いと言うと、魔理沙は龍也に近付いて毛布を手渡す。
「ありがと」
龍也は礼を言いながら毛布を受け取り、ソファーヘと移動する。
龍也がソファーの上で横になりながら毛布を被った事を確認すると、魔理沙は部屋の灯りを消しいく。
そして、魔理沙の部屋から漏れる灯り以外消え、
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そう言い合った後、魔理沙は自分の部屋へと戻って行った。
それを見送った後、龍也は目を閉じて眠り始める。
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