「これ、何処に置いとけば良いんだ?」
「それは……そっちの机の上にでも置いといてくれ」

そう言いながら魔理沙がある方向へ指をさすと、

「了解」

龍也は魔理沙が指をさした方へと向かう。
現在、龍也は魔理沙の家で片付けを手伝っている。
何故片付けを手伝っているのかと言うと、つい先程魔理沙が行っていた実験が失敗して爆発事故が発生したのだ。
爆発の規模事態は小さかったので魔理沙も龍也も怪我を負う事は無かった。
しかし、爆発の衝撃で様々な物が錯乱してしまったのだ。
なので、魔理沙と龍也は散らかった部屋の片付けを行っているのである。
手に持っていた物を机の上に置き、床に散らばっている本をある程度拾い集めると、

「この本はどうする?」

龍也は集めた本をどうするかを魔理沙に問う。

「あー……そっちの本棚に適当に入れて置いてくれ。並び替えは後で私がやるからさ」

魔理沙から本棚に適当に入れて置いてと言う指示を受け、

「了解」

龍也は本棚に本を入れていく。
そんな中、龍也はある事を思い出す。
思い出した事と言うのは魔理沙の家にある魔導書の類の本の大半はパチュリーの物であると言う事を。
何故パチュリーの魔導書が大量に有るのかと言うと魔理沙曰く、パチュリーから死ぬまで借りてるとの事。
但し無許可で。
その事を知った龍也は魔理沙に突っ込みを入れ様とした時、パチュリーは魔理沙が本を持って行く事をある程度黙認しているのではないかと考えた。
そう考えた理由は、魔理沙からパチュリーが本を取り返しに来たと言う話を聞かなかったからだ。
それに少し考えれば、魔理沙が本を持って行く事を許さないのであればやり様は幾らでもある。
例えば紅魔館への立ち入りを禁止したり、咲夜に本を取り返して来る様に頼むと言った方法が。
特に後者の咲夜なら時間停止の力を使えば本を取り返す事など容易く出来るだろう。
それをしない辺り、パチュリーは魔理沙が本を持って行く事をある程度容認しているのではと言う結論を龍也は出した。
本の事に付いて少し思い返していると、

「……っと、終わったな」

本棚に本を仕舞い終えていた。
次の本を回収する為に体を反転させると、龍也の目に窓が映る。
窓から見える外の景色を見て、

「しっかし、吹雪は一向に止まないな」

龍也は思わずそんな事を呟く。
吹雪が止み始めたと思われた時もあったのだが、直ぐに吹雪は強くなってしまうと言う事が何度もあった。
そのお陰で出発する事が出来ず、龍也は何日も魔理沙の家に泊まる事になってしまっている。
とは言え何もせずに泊まらせて貰うと言うのは流石に気が引けたので、龍也は一寸した雑事をしたり今の様に片付けを行ったりしているのだ。
まぁ、魔理沙の行う実験に関しては邪魔にならない様に関与はしなかったが。
関与していれば爆発事故が起こることは無かったかもしれないが、今更である。
そんな感じでここ最近の事を龍也が思い返していると、

「龍也、一寸来てくれ」

魔理沙が龍也を呼ぶ。

「あいよ」

龍也がそう声を掛けながら魔理沙の方に向かうと、

「この散乱している実験器具を纏めて箱の中に入れてくれないか?」

魔理沙は爆発の影響で破損している実験器具を箱の中に入れてくれと頼む。

「纏めてから捨てるのか?」

龍也は纏めてから捨てるのかと尋ねると、

「いんや。取って置く積りだぜ」

魔理沙は取って置く積りだと返す。

「取って置くって……破損してるのにか?」
「おう。若しかしたらまだ何かに使えるかもしれないからな」
「ふーん……」

龍也にはどう使えるのか分からなかったが、頭を捻らせば何か良い使い道が出て来るのかもしれない。
まぁ、使い道が出なかったら香霖堂に売り付けに行くと言う最終手段が残っているので態々捨てる必要は無いであろう。
物を大切にする精神は必要だなと龍也が思っていると、

「で、龍也がそれ纏めている間に私はご飯を作る積り何だが……リクエストはあるか?」

魔理沙はその間にご飯を作るから何かリクエストは無いかと尋ねる。

「んー……」

龍也は少し間考え、

「魔理沙に任せる。魔理沙の作る料理は美味いからな」

魔理沙に任せると言う事にした。

「りょーかいしたぜ」

そう返しながら、魔理沙は台所へと向かう。
それを見送った後、龍也は破損した実験器具を纏め始めた。




















実験器具の纏めが終わった後に出来た魔理沙の作ったご飯を食べ、雑談をし、ボーッとして過ごした後に交代で風呂に入り、魔理沙に傷薬を塗って
貰い、序に包帯を巻いて貰った後、眠くなるまで雑談し、また魔理沙の家に泊まり、魔理沙の作った朝ご飯を食べた後に窓から外の景色を見ると、

「おお……良い天気」

見事に晴れていた。
ここ最近はずっと吹雪であった為か、太陽が一段と眩しく感じられる。

「んー……何か太陽が懐かしく感じるな」

龍也がそんな事を呟くと、

「全くだぜ。そろそろ食料が切れそうだったから今日も吹雪いていたらどうし様かと思ったぜ」

魔理沙はそんな事を言う。
それが耳に入ったからか龍也は魔理沙に方に体を向け、

「じゃあ、これから人里にでも行って食料でも買い込む積りなのか?」

これから人里に行って食料を買うのかと尋ねる。

「ああ、その積りだぜ。昨日やって失敗した実験結果を纏めたノートを見返していたら改善点が見付かったからな。今日こそ成功させる為にも
食料を買い込む程度の事はさっさと済ませてしまいたいからな」

魔理沙は龍也に尋ねられた事を肯定し、昨日失敗した実験を今日こそ成功させると言う意気込みを口にした。
魔理沙の意気込みを聞いた龍也は、昨日は遅くまで魔理沙の部屋の灯りが点いていた事を思い出す。
それだけ実験ノートを集中して見直していたのだろう。
因みに、実験の失敗と言っても爆発事故が起こった訳ではなく予定していた物が完成しなかっただけだ。

「と、そう言えば龍也にこれ渡しておくのを忘れてたぜ」

魔理沙は何かを思い出した表情をしながら自分の机の引き出しを探り始める。
それから少しすると、

「あったあった、そら」

魔理沙は龍也に向けて何かを投げ渡す。

「おっと……こいつは?」

投げ渡された物を受け取った龍也はこれは何だと言う様な事を呟くと、

「ほら、この前の傷薬だ」

魔理沙は投げ渡した物は傷薬であると言う。
その言葉で、

「……ああ」

龍也は思い出す。
自分に使って貰った傷薬の製作を依頼していた事を。

「これ、今日出来たのか?」
「いや……出来たのは一昨日位だったかな? 唯、これが完成した時は龍也は寝てたからな。起きた時に渡そうと思って仕舞ってたんだが……色々あった
せいか今の今まで渡すのを忘れてたんだぜ」

どうやら、既に完成していたが龍也に渡すまで仕舞っていた置いたら今の今まで渡すのを魔理沙はすっかり忘れてしまっていた様だ。
下手したらこれを渡されないままと言う事も有り得たが、ちゃんと渡されたし良いかと龍也は思いながら、

「代金は……もう渡していたよな」

傷薬の代金に付いての確認を取る。

「ああ、貰ってるぜ」

魔理沙が代金を貰っている事を肯定すると、龍也は受け取った傷薬を学ランの内ポケットに入れ、

「色々と世話になったな、ありがとう。俺はもう行くけど、魔理沙はどうする?」

龍也は世話になった事に対する礼を言いつつもう出発する事を伝え、魔理沙はどうするのかと問う。

「さっき言った様に人里に行って食料を買い込む積りだぜ」

魔理沙ももう出発する積りだった様なので、龍也は魔理沙と一緒に外に出る。
外に出ると、

「私は飛んで行くけど、龍也はどうするんだ?」

魔理沙は龍也にどう言う移動方法を取るのかを問う。

「俺か? ここ暫らくは篭りっ放しだったから歩いて行く。これだけ良い天気なら暫らく吹雪く事は無いだろうしな」

龍也は歩いて行く事を伝え、暫らく吹雪かないだろうと言うと、

「それもそうだな」

魔理沙はその発言に同意する事を言い、箒に跨って浮かび上がる。
そして、

「それじゃ、またな龍也」
「ああ、またな魔理沙」

軽い挨拶を交わした後、魔理沙は人里の方へと飛んで行った。
それを見送った後、

「さて、俺も行くか」

龍也は足を進め始める。





















そして、魔理沙の家を後にしてから数時間程時間が経つと、

「まただよ……」

猛吹雪になっていた。
つい先程まで晴れていたと言うのに、これだ。
森の中に居るので多少は吹雪の強さは抑えられていると言っても風は吹いてくるし雪も飛んで来る。

「山の天気は変り易いと言うけど……森の天気が変り易いって言うのは聞いた事無いぞ」

そんな事を呟いてみても、この吹雪が止む気配は少しも見られない。

「……はぁ」

龍也は溜息を一つ吐いた後、再び足を進めて行く。
因みに体に雪が付着し始めた時点で龍也は自身の力を朱雀の力に変え、両腕に炎を纏わせる事で寒さに耐えている。
周囲の木々に炎が燃え移らない様に出力を抑えているせいで暖かいとは言えないが、これは我慢するしかない。
下手な事をして火事を起こす訳にはいかないのだから。

「木々の多い場所を炎を纏ったまま歩くってのは神経使うよなぁ……」

そんな愚痴を口にした時、

「……ん?」

龍也は風が強くなっているのを感じた。
何故風が強くなったのかを確認する為に周囲を見渡すと、

「……成程」

開けた場所に出ている事に気付く。
これなら風が強くなるのも当然の事だろう。
こんな所に居たら益々体が冷えてしまうので進路を変え様としたところで、

「でかい木だな……」

大きくて太い木が龍也の目に入った。
その時、

「……そうだ」

龍也はある事を思い付く。
思い付いた事と言うのは、あの木を背にして休憩すると言う事だ。
あれだけの太くて大きい木なら吹いて来る風や雪など完全に防げるだろう。
そんな確信があるからか、龍也は両手に纏わせている炎を消して大木に近付き、

「ふぅ……」

背中を預けて一息吐く。

「こんな所を見付けられる何てラッキー……」

龍也は自分の運の良さに少し感心しつつ、体力が回復するまでここに居ようと考えながら周囲を見渡していると、

「……ん?」

少し大きな切り株が目に映った。
それだけなら良かったのだが、

「……あれ、何か近付いて来てないか?」

切り株が自分に近付いて来ている様に見える。
目の錯覚かと思った龍也は目を擦りながらもう一度切り株に目を向けると、

「うおう!?」

手と足と目と口が生えた切り株が猛スピードで突っ込んで来ているのが見て取れた。
突然の切り株の変貌に驚いてしまったものの、この切り株が自分に攻撃を仕掛けて来ている事に気付いた龍也は、

「とお!!」

射線上から離れる様にして真横に飛び込む。
同時に、切り株は龍也が背中を預けていた大木に激突する。
その瞬間、

「げ……」

龍也が背中を預けていた大木が圧し折れてしまった。
自分の休憩場所を破壊された怒りと一緒に油断出来ない突進力であると言う警戒心を抱きながら、龍也は改めて切り株に目を向ける。
その風貌から切り株型の妖怪であると龍也が認識していると、切り株型の妖怪は龍也の方に体を向けた。
切り株型の妖怪から感じる雰囲気から戦闘は避けられないと感じた龍也は炎を剣を生み出そうとしたところで、

「あ……」

何かに気付いた表情になり、炎を剣を生み出すの止める。
気付いた事と言うのは、炎の剣を使って戦闘を行ってしまったら山火事ならぬ森火事を起こしてしまうのではと言う事だ。
そんな事を起こしてしまったら目も当てられない。
龍也が炎の剣を生み出すのを止めた隙を突くかの様にして、

「げっ!!」

切り株型の妖怪が再び突撃を仕掛け来た。
このまま立っていたら突撃をまとに受ける為、それを避ける為に龍也は横に跳ぶ。
横に跳んだ事で突撃は避けられたものの、龍也の背後にあった木が切り株型の妖怪の突撃で圧し折れてしまった。
突撃で木を圧し折ったと言うのに切り株型の妖怪はケロッとした表情を浮かべている。
その表情から切り株型の妖怪はそれなりに耐久性があるのだと推察し、龍也は早めに決着を着けなければならないと判断した。
そう判断を下した理由はこの切り株型の妖怪が下手に暴れでもしたら魔法の森の木々が多数圧し折れて滅茶苦茶になってしまうと考えたからだ。
だからと言って、朱雀の力で戦うのは却下である。
何故ならば、この切り株型の妖怪はこの前戦った茸型の妖怪と違って燃え尽きるまで時間が掛かりそうであるからだ。
茸型の妖怪の様に拘束して燃やしている最中に何かの拍子で拘束から逃れられたら本当に森火事が起こってしまう。
朱雀の力を使わずに早めに決着を着ける事を頭に入れながら、

「……よし」

龍也は自身の力を変える。
朱雀の力から青龍の力へと。
すると、龍也の瞳の色が紅から蒼へと変わる。
瞳の色が変わったのと同時に龍也は両手を合わせて水の大剣を生み出し、構えを取った。
そのタイミングで切り株型の妖怪が再び龍也に向けて突撃して来る。

「………………………………………………………………」

切り株型の妖怪が突撃して来るのに対し、龍也はその場で切り株型の妖怪が自分の間合いに入って来るのを待つ。
そして切り株型の妖怪が自分の間合いに入った瞬間、

「……しっ!!」

龍也は腕を振り下ろす。
振り下ろされた水の大剣は切り株型の妖怪を容易く真っ二つに斬り裂き、絶命させた。
勝負が決した事を認識した後、

「……ふう」

龍也は一息吐きながら水の大剣に視線を移す。
視線の先にある水の大剣に何の変化も見られない事から、

「良かった、氷ってない」

何処か安心した声を漏らす。
この寒さの中で水の剣を振るったのであれば水の剣が氷ってしまうのではと言う懸念があったのだが、それは杞憂の様であった様である。
若しかしたら水の剣を維持しているのが自分だから氷らなかったのではと言う事を龍也が考えていると、強い風が吹いて来た。

「……寒ッ!!」

体が凍える様な寒さを感じたからか龍也は水の大剣を消して自身の力を変える。
青龍の力から朱雀の力へと。
それに伴い、龍也の瞳の色が蒼から紅に変わる。
同時に、龍也は両腕に炎を纏わせ、

「……あーあー、行くか」

折れた大木の事を未練がましく想いながらも、龍也は足を進める事にした。





















そして切り株型の妖怪を倒してから数時間程経ったが、

「……止まねぇな」

吹雪が止む気配は一向に見られない。
上空から魔理沙の家か人里を探そうと言う事も考えたが、上空の視界の悪さは魔法の森の中とは比較にならなかったのでその案は却下した。
どの位悪いかと言うの、白以外の色が見えないと言う程である。
それ故に龍也は上空には出ずに魔法の森を歩き続けているのだ。

「疲れたな……好い加減休める場所が見付かっても良いと思うんだけどな……」

先程の場所で休めなかったからか、そんな愚痴が龍也の口から自然と漏れた。
表情から疲労の色が見られる辺り、疲れていると言う言葉に嘘は無い様だ。
疲れがあると言っても龍也は足を止める事は無かった。
まぁ、休憩出来る場所が見付からなかったと言うのも足を止めなかった理由の一つであろうが。
そんな感じでずっと歩き続けた事が幸を成したからか、

「お……」

龍也は再び開けた場所に出ていた。
しかも、何時ぞやの時と同じ様に建物らしき物が見える。
龍也は魔理沙の家かと思い、両腕に纏わせている炎の消して近付くと、

「……違うな」

魔理沙の家では無いと言う事が分かった。
魔理沙の家では無いにしろ、誰か居るかと思いながらドアをノックする。
ノックをしてから少しするとドアが開かれ、

「あら、誰かと思ったら龍也じゃない」
「アリス」

中からアリスが顔を出した。

「ここ、アリスの家だったのか?」

龍也は少し驚いた表情をしながらこの家がアリスの家だったのかと尋ねると、

「ええ、そうよ」

アリスは肯定の返事を返す。
その後、アリスは龍也の格好を見て、

「……上がって行きなさい」

上がって行く様に勧める。

「うん、上がって行く」

龍也は間髪入れずに上がる旨を伝えて力を消す。
瞳の色が紅から黒に戻ると、龍也はアリスの家の中へと入って行く。
そしてドアを閉めると、

「あ、雪は玄関で落としてね」

アリスは龍也に雪は玄関で落とす様に言い、居間へと向かう。

「ああ、分かった」

アリスに言われた通り、龍也は玄関で体に付着している雪を払い落とす。
それが終わると、龍也は居間へと向かう。
居間に入るとアリスの人形がトレイを持って来ている様子が龍也の目に映る。
トレイの上にはカップが二つ。
カップの中に入っている液体の色合いと香りから紅茶であると龍也が判断すると、

「体冷えてると思ったから淹れたんだけど……迷惑だった?」

アリスが龍也の為に淹れた紅茶だと良い、迷惑だったかと問う。

「迷惑処か助かるよ。ありがとう、アリス」

龍也は迷惑では無いと言った後、礼の言葉を口にした。

「それなら良かったわ。少し熱いから気を付けてね」
「分かった」

アリスの注意を聞きながら龍也はカップを手に取って紅茶を飲み、

「……美味い」

美味いと言う感想を漏らす。
その感想が嬉しかったのか、

「ありがとう」

アリスは笑顔でそう返し、自身もカップを手に取って紅茶を飲む。
そして口に含んだ紅茶を飲み込んだ後、

「それで、何でこんな吹雪の中で外を出歩いていたの?」

アリスは龍也に吹雪の中を出歩いていた理由を尋ねる。
アリスからそんな質問を受けた龍也は、

「あ、何か軽いデジャヴが」

思わずそう呟く。

「デジャヴ?」

アリスが首を傾げると、

「いや、何でもない」

龍也は何でも無いと返し、吹雪の中を出歩いていた理由を話す。

「成程ね……」

理由を聞いてアリスが納得した表情を浮かべていると、

「そう言えば、幻想郷って頻繁に天候が変わる……てか頻繁に吹雪が起こったりするのか?」

龍也は幻想郷では頻繁に吹雪が起こったりするのかと尋ねる。

「そんな事ないわよ。ここ最近の吹雪は偶々だと思うわ」

アリスは龍也が尋ねた事を否定し、ここ最近の吹雪を偶々であると返す。

「……嫌な偶々もあったものだな」
「全くね」

龍也の発言に同意した後、アリスは空になったカップをトレイの上に置く。
それを見て、龍也も空になったカップをトレイの上に置くと、

「お……」

アリスの人形がトレイを持って台所の方へと向って行った。
その様子を見て便利だなと龍也が思っていると、

「あら。貴方の着ている服、所々破けてるじゃない」

アリスは龍也の着ている服が所々破けている事を指摘する。
その指摘で、

「……ああ」

龍也は今の学ランなどの状態を思い出す。
何故その様な状態であるのかと言うと、魔理沙の家で学ランなどの洗濯はしたが服の修繕と言った事はしていなかったのだ。
修繕をしなかった理由は多少服が破けていても龍也も魔理沙も気にしなかったからであろう。
それはそうと、洗濯は龍也が風呂に入っていた時に魔理沙にして貰った。
因みに濡れた服は魔理沙がミニ八卦炉を使って直ぐ乾かしてくれたので、今着ている服以外に服は無い龍也は長風呂をせずに済んだ。
それと魔理沙曰く、ミニ八卦炉はとろ火から山を焼き払う火力まで出せる優れ物でこれが無い生活は考えられないとの事。
まぁ、服の乾かしと言った事にも使えるミニ八卦炉が無い生活は考えられないと言う魔理沙の弁も納得がいくものだ。
そんな事を思い出しながら龍也は服が破けた経緯と破けたままの理由を説明をすると、

「成程、吹雪の中で妖怪に襲われたから破けてたのね。だからと言ってそのままとは……まぁ、あの子もその辺りの事は結構無頓着だったりするわね」

アリスは服が破けたまま気にしなかった龍也に少し呆れつつも、魔理沙も似た様なものだと口にする。
その後、アリスは何かを考える素振りを見せ、

「貴方がお風呂に入っている間に貴方の服を私が修繕して置いて上げましょうか?」

龍也が風呂に入っている間に服を修繕し様かと言う提案を行う。

「その申し出はありがたいんだが……良いのか? と言うか風呂まで世話になって……」

アリスの提案を聞いた龍也はそこまで世話になって良いのかと口にすると、

「別に構わないわ。破れた部分を修繕する位の事、大した手間でも無いしね。それに体を冷やしたままだと風邪引くわよ」

アリスは服の修繕をする事も風呂の世話をする事も構わないと返す。
ここまで言われたからか、

「分かった、色々と世話になるよ」

龍也は世話になる事を決めて頭を下げると、

「別に頭を下げられる程の事じゃないんだけど……まぁ、良いわ。取り敢えず、そろそろお風呂が沸く頃だと思うから入って来なさい。お風呂場までの
案内は上海にさせるから。それと服を脱いだらそれを上海に渡して。修繕が終わったらまた上海に戻しに行かせるから」

アリスは頭を下げられる程の事じゃない言って龍也に風呂に入る様に勧め、指を動かす。
すると、近くに置いてあった人形のうちの一体が動き出した。
あの動いているのが上海なのかと龍也が思っていると、その人形がドアの前まで移動する。
自分を案内し様と言う行動からこの人形が上海であると龍也は判断し、上海の後に付いて行く。
そして脱衣所に着くと、

「ありがとな」

龍也は上海に礼を言って服を脱ぎ始める。
服を脱ぐ時、

「あ、ポケットの中に入ってる物は縫う時に邪魔になるか」

龍也は先にポケットの中に入っている物を取り出す事にした。
ポケットから全ての物を取り出し終わると龍也は服を脱ぎ、学ランとワイシャツとシャツとズボンを上海に預ける。
服を受け取った上海は脱衣所を後にした。
脱いだ服をアリスに届けに行ったんだなと龍也は思いながら体に巻かれている包帯を取り、トランクスを脱いで浴場へと向かう。
アリスの家の外観や内装から想像出来た事だが、浴槽は西洋タイプの様である。
そう言えば、魔理沙の家の風呂も西洋タイプだったなと言う事を思い出しながら体を洗おうとしたところで、

「あ、治ってる……」

自分の体に出来ていた傷が綺麗に治っている事に気付く。
こうも早くに治ったのは魔理沙の傷薬のお陰であろう
良い買い物をしたなと思いながら、

「ありがとな、魔理沙」

龍也は魔理沙へと礼の言葉を口にし、体を洗い始める。
体を洗い終えると龍也は浴槽に浸かり、

「ふうー……」

一息吐く。

「あー……風呂に入ると疲れが抜けてくなー……」

龍也はそんな事を呟きながらボケーッとして過ごす。

「あー……温まるー……」

かなりリラックスした様子で寛いでから暫らくすると、

「ん?」

脱衣所の方で物音がするのが聞こえて来た。
その音から自分の服の修繕が終わった終わったんだと思った龍也は、

「……上がるか」

風呂から上がり、脱衣所に戻ると籠の中に先程預けた服が籠の中に入っている様子が目に映る。
体を拭き終わった後、籠の中にある学ランを手に取ると、

「おー、綺麗に直ってる」

龍也は驚いた表情をしながらそんな感想を漏らす。
何故ならば、縫った後が少しも見られないからだ。
人形を軽く自作出来る位なのだからアリスにとってはこの程度の事は朝飯前の事なのだろうと龍也は思いながら、

「ありがとな、アリス」

礼の言葉を口にして着替えを始める。
着替えが終わるとポケットから取り出した物を仕舞い直し、居間に戻ると椅子に座って本を読んでいるアリスの姿を見付けた。
見付けたのと同時に龍也はアリスに近付き、

「綺麗に直してくれてありがとな」

服を修繕してくれた事に対する礼を言う。

「どういたしまして」

アリスは龍也に顔を向けてそう返し、

「そうそう、もう少したらご飯が出来ると思うけど……食べれない物って無いわよね?」

食べれない物は無いかと尋ねる。

「ああ、別に無い。けど、良いのか? ご飯まで貰って……」

龍也は別に無いと言い、ご飯まで貰って良いのかと問うと、

「別に構わないわ。そもそも、私だけ食べて貴方に食べさせないって言うのはどうかと思うしね」

アリスは別に構わないと返し、

「取り敢えず、椅子に座って待ってなさい」

椅子に座って待っている様に促す。

「ああ、そうする」

アリスに促される形で龍也が椅子に腰を落ち着かせると、

「あ、そうだ。その……龍也にお願いと言うか頼みがあるんだけど……」

アリスはお願いがあると言って龍也を上目遣いで見る。
すると、

「何だ? ここまで世話になったんだ。俺に出来ることなら何でもするぞ」

龍也はここまで世話になったのだから自分に出来る事なら何でもすると返す。
何の抵抗も無く自分の頼みを聞いてくれると言った龍也にアリスは少し驚いた表情をなるも直ぐに表情を戻し、

「外の世界の人形……貴方の言うロボットの事を話して貰えないかしら?」

頼みたい事を口にする。

「ロボットの話って……前に言わなかったか?」

龍也は前にロボットの話をしなかったかと言って首を傾げると、

「ああ、言葉が悪かったわね。私が聞きたいのはお話の中のロボットの事よ」

アリスはお話しの中のロボットの事が聞きたいのだと言う。

「別に構わないけど……それで良いのか?」
「ええ。その中に何かヒントとなるものがあるかもしれないし、そこから閃くものがあるかもしれないしね」

どうやら、アリスは龍也の話の中に得るものがあると考えている様だ。
アリスの表情から、自分がロボットの話をする事を凄く期待してる事を察した龍也は、

「分かった。先ずは……」

ロボットの話を話し始めた。





















「と、まだほんの一部だけど先ずはこんなものかな」

全部纏めて話すと膨大過ぎる時間が掛かってしまうので、龍也は極一部の初めの部分を話して一旦切り上げたが、

「沢山あるのね。ロボットの中に入って操縦するタイプ。体が金属で構成された生命体。骨組みとなる基本体に幾つかのパーツを付け、そのパーツを
組み合わせるロボット。ロボットの肉体構成などが限りなく人間に近くなったもの……」

アリスにとってはかなり興味が引かれる内容であった様だ。
龍也から聞いた内容を頭の中で纏めているアリスに、

「まぁ、操縦するタイプはアリスの言う完全自立人形とは違うけどな」

一部の内容はアリスの目指しているものとは違うのでは言う。
が、

「でも、色々と参考になったわ」

アリスは笑顔で参考になったと返す。
そのタイミング、台所の方からアリスの人形が料理を運んで来た。
そして料理がテーブルに並べられると、

「それじゃ、食べましょ」
「ああ、そうだな」

二人は料理を食べ始める。
料理を食べ始めてから少しすると、

「あ、そうそう。今日は泊まっていきなさい」

アリスは泊まっていく様に言う。

「え、良いのか?」
「ええ、もう日が暮れ始めているしね」

アリスは別に構わないと言う様な事を口にし、

「その代わり、食事が終わったらさっきの続きを話してね」

泊める代わりに食事が終わったら先程の話してと言う要望をする。

「ああ、分かったよ」

龍也が食事が終わった後に続きを話す事を約束した後、二人は雑談を交わしながら食事を進めていく。
それから暫らくすると、

「「ごちそうさま」」

食事を取り終える。
食事を終えると料理を運んで来た人形が空になった食器を回収して台所へと向かう。
その様子を見てやっぱり便利だなと龍也が思っていると、別の人形がワインと二つのグラスをテーブルの上に置いていく。
それが済むと、

「それじゃ、続きを聞かせて」

アリスは続きを話す様に促す。

「了解」

そして、龍也はワインを飲みながら続きを話し始めた。





















「あら、もうこんな時間」

アリスが壁に掛けている時計を見て少し驚いた表情になる。
どうやら、ここまで時間が経っているとは思わなかった様だ。

「ごめんなさいね、こんな遅くまで付き合わせて」

アリスは龍也に遅くまで付き合わせた事に対する謝罪を行うと、

「別に良いって。俺は世話になってる立場何だしさ」

龍也は別に気にしていないと返す。

「ありがとう。あ、貴方の寝る場所は上海に案内させるわ」

気にしていないと言った龍也にアリスは礼を言い、寝床の案内を上海にさせる事を伝えると、

「分かった。眠くなったからもう休ませて貰うな」

龍也はもう寝る事を伝え、立ち上がる。
それを見たから、上海は龍也を案内する様に移動を始めた。
上海を見失わない様に龍也も移動を始めたところで、

「おやすみ」
「ええ、おやすみ」

アリスと軽い挨拶を交わす。
その後、龍也は上海の後に付いて行く。
少し間歩くと部屋へと続くドアの前に着き、上海がドアを開けて中に入る。
上海に続く様に龍也も部屋の中に入ると、

「結構広いな……」

思っていた以上に部屋が広い事が分かった。
おまけに掃除が行き届いているのかかなり綺麗だ。
アリスかアリスの人形が掃除をしてくれたのかと考えた龍也は心の中で礼を言い、

「案内、ありがとな」

上海の頭を撫でる。
頭を撫でられた上海は心做か喜んでいるように見えた。
そして上海が出て行った後、学ランを脱いで近くにあった椅子に掛けてランプの灯りを消してベットに入る。
ベットに入ったのと同時に龍也は目を閉じて眠り始めた。

















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