「ん……」

龍也は目を開き、ボケーッとした表情で天井を見詰める。
それから暫らくすると龍也は上半身を起こして周囲を伺い、

「……ああ、アリスの家に泊まったんだっけか」

アリスの家に泊まっていた事を思い出す。

「しっかし、良く寝てた気がするな……」

龍也はそんな事を呟きながらベッドから降り、頭を覚醒させる為に体を伸ばしていく。
ある程度頭が覚醒して来たところで龍也は椅子に掛けてある学ランを羽織り、部屋から出て居間へと向かう。
居間に着くと、アリスとアリスの人形がテーブルの上に料理を並べている様子が龍也の目に映った。
そんな時、アリスは龍也の存在に気付く。
なので、

「おはよう」

龍也はアリスに朝の挨拶をする。

「ええ、おはよう」

龍也の朝の挨拶にアリスも朝の挨拶で返し、

「丁度良かったわ。朝ご飯が出来たから貴方を起こしに向かおうと思っていたところなの」

朝ご飯が出来た事を言う。

「お、ありがとな」
「別に良いわよ、これ位」

アリスは礼を言われる程の事ではないと言って椅子に座り、

「さ、冷めないうちに食べましょ」

早くご飯を食べる様に勧める。

「ああ、そうだな」

アリスに勧められる形で龍也は椅子に腰を落ち着かせ、

「「いただきます」」

アリスと一緒に食事を取り始めた。
雑談を交えながら。
それから暫らくすると、

「「ご馳走様」」

食事を取り終えた。
すると、

「お粗末様。ふふ、やっぱり男の子ね。私の倍以上は食べるんだもの。何時もより多目に作って置いて正解だったわ」

アリスは笑みを浮かべながら何時もより多目に作って置いて正解だったと口にする。
アリスが龍也の食べっぷりに感心していると、

「あー……流石に食い過ぎたか?」

龍也は食べ過ぎたかとアリスに問う。
その問いに、

「そんな事は無いわ。元々、これ位は食べるだろうと思っていたしね」

アリスは龍也ならこれ位は食べると想定していたから食べ過ぎでは無いと言って指を動かし、人形に食器を片付けさせる。
それを見た龍也はアリスが人形を操っているのか、それとも半自立人形に命令を出しているのか。
この二つのうちのどちらかなのかを龍也が考えていると、

「食後のデザートにと思ってケーキを作ったんだけど……食べる?」

何時の間にか別の人形がテーブルの上にケーキと紅茶が並べていた。
まだまだ腹に食べ物は入るし、折角用意してくれた物なので、

「ああ、食べる」

龍也はケーキを食べる事にする。
そしてケーキを一口食べると、

「あ、甘さは控えめ何だ」

龍也は思わずそんな感想を口にした。
龍也が発した感想を聞いて、

「ええ、男の人は甘さが控えめの方が好みだって聞いたんだけど……甘い方が良かった?」

アリスは若しかして甘い方が良かったかと問うと、

「いや、甘いのも食べれるけど甘さが控えめの方が俺の好みだからな。これで良かったよ」

龍也は甘さが控えめの方が好みだからこれで良かったと返す。

「それなら良かったわ」

龍也の返答を聞いたアリスは何処か安心した表情を浮かべながら、自身もケーキを食べ始める。
二人がケーキを食べ終え、紅茶を飲み干したタイミングでアリスの人形が先程と同じ様にテーブルの上を片付け始めた。
アリスの人形が居間から退出したタイミングで、

「そう言えば、今の天気ってどうなってるんだ?」

龍也は思い出したかの様に今の天気はどうなっているのかを問う。

「天気? そうね……」

アリスは立ち上がって窓の傍まで行き、カーテンを開くと、

「吹雪は止んだみたいね」

吹雪が止んでいる様子がアリスの目に映った。

「そっか」

吹雪が止んだと聞いた瞬間、龍也は立ち上がる。
龍也が立ち上がる気配を感じたアリスは振り返り、

「もう行くの?」

龍也にもう行くのかと問う。

「ああ、これ以上長居しても悪いからな。色々世話になったな。ありがとう、アリス」

龍也は出発する事を肯定し、アリスに礼を言って玄関に向かおうとすると、

「あ、一寸待って」

アリスは龍也を呼び止めた。

「どうした?」

呼び止められた龍也はアリスの方に振り返ると、

「貴方に渡す物があるの」

アリスは龍也に渡す物があると言って何かを取りに向かう。
言うだけ言ってその場から離れたアリスに龍也は少々呆気に取られるも、アリスが戻って来るまで待つ。
そしてアリスが戻って来ると、

「はい、これが貴方に渡す物よ」

アリスは手に持っている物を龍也に手渡す。

「これは……」

手渡された物を受け取った龍也は受け取った物に目を向けると、

「防寒具と手袋とマフラーよ」

アリスは手渡した物は防寒具と手袋とマフラーであると口にする。

「良いのか? これ、アリスの物じゃ……」

龍也がこれを貰っても良いのかと言うと、

「それは私のじゃ無いわ。昨日の夜、貴方が寝た後に作ったのよ。流石に女物の服を着て出歩く気は無いでしょ?」

アリスは昨日の夜のうちに作った物であると言い、女物の服を着て出歩く気は無いだろうと言う指摘を行う。
その指摘を聞き、龍也は確かにと思った。
あまり服装に頓着しない龍也でも、着る服は男物にしたいと言うのが本音だ。
ともあれ、防寒具と手袋とマフラーが手に入ったと言うのは正直ありがたい。
なので、

「ありがとな、アリス」

龍也はアリスに礼の言葉を口にした。

「気にしないで、昨日のお礼だから」

昨日の礼であるとアリスが返すと、

「昨日のお礼……もしかしてロボットの話の事か?」

龍也はアリスにロボットの話をした事を思い出す。
あの程度の事でと言う事を龍也が考えていると、

「私にとって、貴方の話はとても有意義なもので色々と参考になったのよ。これ位のお礼は当然よ」

アリスは自分に取って龍也の話はとても為になったのだからこの程度の礼は当然だと返した。

「そうか……ありがとう、アリス」

龍也はもう一度礼を言いながら防寒具を着込んで手袋を着け、マフラーを首に巻く。
サイズがピッタリ合っていたので龍也が少し驚いていると、

「うん、似合っているわよ」

アリスが自画自賛をする様な台詞を口にする。
まぁ、アリスの造形のセンスはかなり良いのでアリスが似合う言うのであれば似合うのであろうと龍也は思いながら、

「ありがとう、大切にするよ」

三度礼を言って玄関へと向かう。
玄関に着くと、

「それじゃ、またな」
「ええ、またね」

アリスと軽い挨拶を交わした後、龍也はアリスの家を後にした。





















「はは、全然寒くないや」

魔法の森を抜け、雪道を歩いている龍也は思わずそんな感想を漏らしてしまう。
何故ならば、殆ど寒さを感じる事が無いからだ。
と言うより、寧ろ暖かい。
相当防寒性と保温性が高い素材を使ったのかなと龍也は考えつつ、この分なら朱雀の力を使って両腕に炎を纏わせなくても良いと言う判断を下す。
両腕に炎を纏わせた状態でなければ周囲に気を掛ける必要性は無い。
随分気が楽になったなと龍也は思いながら、心の中でアリスへの礼の言葉を口にする。
その後、龍也は周囲の景色を楽しみながら足を進めて行く。
龍也の目に映っているのは雪景色。
雪が太陽光を反射してキラキラと光っている事から、白銀の世界とはこう言うものなのかと龍也は思った。
ついついその景色に龍也が目を奪われていると、

「あら、こんな所に人間が居るなんて珍しいわね」

不意に声を掛けられる。
掛けられた声に反応した龍也は声が聞こえて来た方に顔を向けると白い髪に白い帽子、白と青を基調とした服を着た女性が目に映った。
この女性から幽香と美鈴と似た様なものを感じたので龍也は妖怪かなと思いつつ、

「誰だ……あんた?」

少し警戒をした様子で誰なのかと問う。
尋ねられた女性は、

「そう言う場合、まずは自分から名乗るものじゃない?」

先に自分の名を名乗るべきではないかと返す。

「そう……だな、俺は四神龍也だ」

女性の言い分は最もであると感じたからか、龍也は自分の名を名乗る。
すると、

「私はレティ・ホワイトロックよ」

女性の方も名を名乗ってくれた。
互いに名乗り終えた後、レティは龍也をジッと見詰める。
その視線に気付いた龍也は、

「それで、何か用か?」

龍也は何か用かと問う。
問われた事に、

「あら、妖怪は人間を襲うものよ」

レティは何を言っているんだと言う様な表情をしながら、妖怪は人間を襲うものだと言う。
やはりと言うべきか、レティは妖怪であった様だ。
序に言うのであれば、レティの表情から自分を襲う気が満々である事を龍也は容易く察する事が出来た。
そう言えば道中でレティの様に見た目が人間と変わらない妖怪に襲われるのは初めてだなと言う事を思いながら龍也は不敵な笑みを浮かべ、

「良いぜ、襲っても。だが、簡単にやられる積りは無いけどな!!」

強気な台詞を口にして霊力を解放する。
龍也から発せられる霊力を感じたレティは、

「かなりの霊力……強い男の人に会ったのって初めてかも……」

思わずそんな事を呟いてしまう。
そんなレティの呟きが耳に入ったからか、龍也は今まで出会って来た者達の事を思い出す。
本能のみで生きている妖怪は別として、今まで戦ったり戦っているところを見たのは女性ばかりであった事を。
見た目が殆ど子供のチルノだってかなり強かった。
美鈴、咲夜、レミリア、フランドールの四人も言うに及ばず。
魔理沙と霊夢の二人だって弾幕ごっこの様子を見て、かなりの実力者と言うのは分かる。
まだ戦った事も戦っているところも見たこと無いが、幽香、アリス、パチュリー、椛の四人も強いと言う事を龍也は何となくではあるが察していた。
ここまで思い返し、龍也は自分も強い男に出会った事が無いなと思った。
因みに霖之助は以前泊まった時に本人の口から強くないと言う事を聞かされていたので、強い男には入らないであろう。

「さて……」

考える事は終わったからか、龍也は思考を戻して改めてレティに顔を向ける。
それに反応したかの様にレティも龍也の方に顔を向けた。
レティの表情から一戦交える事を察した龍也が構えを取ろうとしたところで、

「……あ」

龍也は幽香が言っていた事を思い出す。
会話が出来る様な相手は基本的に弾幕ごっこで戦う事が多いらしいと言っていた事を。
なので、

「どう戦う? 弾幕ごっこか? それとも普通にか?」

龍也は霊力の解放を止めてレティに弾幕ごっこで戦うか普通に戦うのかどちらにするかを尋ねる。

「んー……弾幕ごっこで」
「了解」

弾幕ごっこで戦う事が決まると龍也とレティの二人は空中に躍り出て、ある一定の高度に達すると二人は上昇を止めた。
そして、

「それじゃ、行くわよ」
「ああ、来い!!」

弾幕ごっこが始まる。
始まったのと同時に、レティは密度の高い弾幕を龍也に向けて放つ。

「ッ!!」

この距離では避ける事は不可能だと龍也は判断し、距離を取りながら弾幕を避けていく。
避けていく中、隙を見付けた龍也は霊力で出来た弾を数発放つ。
だが、それらはレティに簡単に避けられてしまう。
そんな事を何度か繰り返していると、

「あら、弾幕ごっこは慣れていないの?」

レティは龍也にそんな事を尋ねる。

「悪かったな、まだまだ初心者だよ!!」

龍也は弾幕ごっこに慣れていない事を肯定しながら迫って来ている弾幕を避けていく。
弾幕ごっこの経験の少なさがこんなところで問題になるとはと言う事を龍也は思いながら、

「くっ!?」

何時の間にか目の前まで迫って来ていた弾幕を避ける為に上半身を思いっ切り後ろに倒す。
弾幕が腹の上辺りを通過すると、龍也は上半身を起こして弾を何発か放つ。
だが、放ったそれはレティに容易く避けられてしまう。

「ちっ……」

また攻撃が外れた事に龍也が思わず舌打ちをすると、

「駄目よ、そんな風に単発で撃ったら。もっと数を増やさなきゃ」

レティは弾幕を放つのを止めてそんなアドバイスを行う。
何故レティが自分にアドバイスを行うのかは分からなかったが、龍也は取り敢えずアドバイス通りに放つ弾の量を増やす。
迫り来る無数の弾をレティは避けながら、

「そうそう、そんな感じよ。後はもっと範囲を広くしてみて。勿論、密度はそのままで」

更にアドバイスを行う。

「………………………………」

龍也は少し訝しげな表情をしながらも、アドバイス通り弾を放つ範囲を広くする。
量を増やし、範囲を広くした事で龍也が放つ弾は弾幕と呼べるものとなっていた。
その弾幕を避けながら、

「そうそう、そんな感じよ。飲み込みが早いわね。弾幕ごっこの時の通常弾幕はそうやって範囲を広くするのがコツよ」

レティは弾幕ごっこでの通常弾幕はその様に放つものであると言う。
それを聞いた直後、

「どう言う積りだ?」

龍也は弾幕を放つのを止めてどう言う積りだと尋ねる。

「何がかしら?」

レティが首を傾げると、

「態々、俺にアドバイスを送る事がだよ。言わなければ楽に戦えた筈だぜ」

龍也はアドバイスに付いてだと口にする。
これが龍也には分からなかったのだ。
何故、レティは態々敵に塩を送る様な事をしたのかが。
龍也が疑問気な表情を浮かべていると、

「そんなの簡単よ。弾幕ごっこは楽しまなきゃ損だからよ」

レティは満面の笑顔で楽しまなければ損だからだと返す。
要するに、弾幕ごっこを楽しみたいから態々アドバイスを行ったのだ。
アドバイスをした理由に納得かいったから、

「そうかい……なら!!」

龍也は表情を戻し、

「遠慮する必要はないな」

そう言い放って弾幕を放つ。

「ええ、遠慮する必要はないわ」

レティ遠慮する必要は無いと言い、龍也の弾幕に応戦する様に自身も弾幕を放った。
二人が放った弾幕は相殺し合い、相殺されなかったものは二人へと向かっていく。
当然、龍也とレティの二人は迫って来る弾幕を避ける。
そんな中、

「……ッ!!」

レティの体に龍也の弾幕が掠った。
完全に避ける事が出来なかった事にレティは驚きの表情を浮かべながら、

「やるわね……貴方、本当に初心者?」

龍也は本当に弾幕ごっこは初心者なのかと問う。

「ああ、初心者だよ」

レティの弾幕を避けながら龍也は初心者である事を肯定し、弾幕の量を増やす。
龍也の放つ弾幕は基本的に直線的である。
これだけなら避ける事は容易い。
だが、龍也の弾幕には速度、数、密度の三つが揃っているのだ。
避ける方向を間違えれば立て続けに弾幕を喰らってしまうであろう。
短時間でここまで自身の放つ弾を変化させた龍也を見て、中々にセンスがあるとレティは思いつつ、

「少し、本気を出すわ」

少し警戒した様子を見せながら龍也から距離を取る。
本気を出すとレティは口にしたが、レティの雰囲気が変わった様子はない。

「何も変っていない様だが?」

そんな疑問を龍也が口にすると、

「直ぐに分かるわ」

レティは直ぐに分かると返す。
そのまま弾幕の応酬を繰り広げてから暫らくすると、

「ッ!?」

レティの放った弾幕が龍也の頬を掠る。
それを皮切りにしたかの様に、龍也の体に掠る弾幕の量が増え始めた。
レティの弾幕の弾幕の量が増えたり密度が濃くなったり弾速が速くなったと言う訳では無い。
だと言うのに龍也は弾幕を避け切れなくなっている。
つまり、

「俺の動きが鈍くなったのか……」

龍也の動きが鈍くなっている事に他ならない。
だが何故と動きが鈍くなったのかと言う疑問を抱いた瞬間、龍也は気付く。

「何だ、この寒さは……」

気温が大きく下がっている事に。
何故、気温が急に下がったのかを龍也が考えていると、

「気付いたみたいね」

レティが口を開く。
そして、

「寒くなった理由は簡単よ。私が能力を使ったからよ」

寒くなった原因は自分にあると言う。

「能力?」

龍也が首を傾げると、

「そう、私の能力は"寒気を操る程度の能力"」

レティは自身の能力名を龍也に教える。

「成程……それで気温を下げて俺の動きを鈍くしたって訳か」
「正解。でも、中々効かないからてっきり寒さを感じないのかと思ったわ。貴方の着てるそれ、相当防寒性能が高いみたいね」

レティは龍也の推察を肯定し、龍也が着ている防寒具の性能の良さを褒めて感心した表情を浮かべた。
龍也は思わず褒められた防寒具に目を向け、こんな性能の良い物を作ってくれたアリスに感謝の念を送る。
その後、レティに対してどう対抗したものかと言う考えを廻らせるが寒さのせいで中々考えが纏まらない。
龍也が思考の海に没している間に、

「それじゃ……一気にいかせて貰おうかしら」

レティはスペルカードを取り出す。
そして、

「冬符『フラワーウィザラウェイ』」

スペルカードを発動させれた。
すると花を模した弾幕が形成され、花が朽ちる様にして弾幕が散っていく。
それを見た龍也は寒さで散っていく花が頭の中に過ぎった。
中々に幻想的な光景であるが、見とれている場合ではない。
このままでは弾幕に飲み込まれてしまうので、龍也は慌てて回避行動に移る。
だが、

「……ちぃ!!」

寒さで体が思っていた以上に動かなかった為か、龍也は無数の弾幕を体に掠らせてしまう。

「……くそ!!」

龍也は仕切り直す意味合いで間合いを取ろうとしたが、更に気温が下がってしまった。
そのお陰で、

「ぐっ!!」

龍也は一発被弾してしまう。
被弾した事で体勢を崩れた事で迫って来る弾幕を避け切れないと言う事を龍也は悟る。
なので、龍也は両腕を交差させて防御の体勢を取ると、

「ぐ……!!」

弾幕が立て続けに命中していく。
暫らくの間歯を喰い縛って耐えていると、

「……ん?」

両腕に掛かる衝撃が止んでいる事に気付く。
攻撃が止んだと思った龍也は防御の体勢を解き、体の調子を確かめる。
ダメージはあるが戦えない程ではないと言う判断を下した後、龍也はレティの方を顔を向けると、

「……またか」

先程と同じ様な弾幕が形成されている様子が目に映った。
寒さで体が上手く動かないこの状態では今度は全弾直撃してしまうであろう。
全弾直撃何てしてしまえば負けてしまうと考えた龍也は寒さで上手く回らない頭を回らせていると、

「……そう、言え……ば」

レティが自身の能力を"寒気を操る程度の能力"と言っていた事を思い出す。
思い出したのと同時に龍也はある事を思い付く。
思い付いた事を言うのは、寒さの逆なら弱点になり得るのではないかと言う事だ。
この考えが正しければ、形勢を一気に逆転する事が出来る。
半ば賭けの様なものではあるが、もう弾幕が放たれそうに今となっては他の手段を考えている暇など無い。
なので、龍也は賭けに出る様な形でスペルカードを取り出し、

「炎鳥『朱雀の羽ばたき』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードを発動させると龍也の瞳の色が黒から紅に変化し、目の前に炎の鳥が現れた。
現れた炎の鳥は一声鳴き、レティに向かって突撃して行く。
同時にレティから再び弾幕が放たれたが、炎の鳥はレティが放った弾幕を打ち消しながら突き進む。
炎の鳥が通った場所から炎の弾幕が生まれ、それが左右に分かれて飛んで行く。
その様子は宛ら道を無理やり抉じ開けている様に見えた。
自身の弾幕を打ち消しながら突き進んで来る炎の鳥を見たレティは驚きの表情を浮かべ、慌てて回避行動を取る。
そして炎の鳥と炎の弾幕を避け切った後、レティは龍也の方に目を向け、

「驚いた。凄いのを持っているわね」

称賛の言葉を言う。
レティの称賛の言葉を聞きながら龍也はレティの後ろの方に人差し指をさし、

「後ろ、危ないぞ」

龍也はそんな警告の言葉を口にする。

「え?」

レティが何を言っているんだと言う様な表情をしながら首を傾げると、

「ッ!!」

レティの背中に炎の鳥が激突した。
その瞬間、レティは糸が切れた人形の様に地面に向けて真っ逆さまに落ちていく。
スペルカードで放った技と言えど、レティにはそれなりのダメージとなった様だ。
やはり、炎系の技が弱点になっているのかと龍也が考えていると、

「……ん?」

龍也はレティが復帰してこない事に気付く。
このままではレティが地面に激突してしまうと思った龍也は慌ててレティに近付き、

「お……っと」

レティの手を掴んで落下を防ぐ。
そしてレティの顔を覗き込むと、気絶している事が分かった。
同時に、

「あ、暖かくなって来た……」

周囲の気温が上がり始める。
レティが気絶した事でレティの能力が解除されたのだろうと龍也は判断し、地面に向けて降下して行った。





















「ん……ううん……」

レティが目を覚ますと、

「あ、起きたか」

龍也がそう声を掛ける。
その声に反応したレティは龍也の方に顔を向けた後に周囲を見渡す。
それが済むと再び龍也の方に顔を向け、

「態々、起きるまで待っていてくれたの?」

起きるまで待っていたのかと問う。

「ああ。あのまま放置って言うのは気が引けるからな」

龍也が待っていた事を肯定すると、

「驚いた、態々待ってる何て。普通だったらそのまま放置するのに」

レティは驚いた表情を浮かべた。

「そうなのか?」

龍也は思わず首を傾げると、

「そうよ。ふふ、貴方って不思議な人間ね」

レティは笑みを浮かべて龍也を不思議な人間と称する。
笑みを浮かべているレティを見た龍也はもう戦おうと言う雰囲気ではない事を悟った。
同じ様な事をレティも悟った様で、

「ねぇ、私と少しお話をしない?」

レティは自分と話をしないかと言う提案をする。

「そうだな……そうするか」

龍也はレティの受け入れ、腰を落ち着かせて適当に雑談を交わしていく。
その中で、レティは冬の妖怪であると言う事を聞けた。
冬の妖怪であるからか、レティは冬以外の季節は基本的に寝て過ごしているか何所かに隠れているとか。
そして冬になるとテンションが上がり、色んな所へと足を運んでいるらしい。
それを聞いた龍也は秋の神様である秋静葉と秋穣子の二柱の神様の事を思い出した。
レティと秋姉妹は冬と秋と言う違いはあれど、特定の季節ではテンションが上がると言う共通点がある。
今の季節ではあの二人のテンションは下がっているだろうなと言う事を龍也は考えつつも、レティと言葉を交わしていく。
雑談を始めてから暫らくすると、

「あー……こんなに喋ったのは久しぶりだわ」

レティは満足そうな表情を浮かべる。

「そうなのか?」
「まぁ、冬以外は引っ込んでいるしね」
「だったら、他の季節の時も動き回ってみたらどうだ?」
「流石に冬以外の季節はねぇ……」

会話の内容から察するに、龍也とレティはある程度仲良くなった様だ。
まぁ、長い間会話を重ねていれば仲良くはなれるであろうが。
雑談が一段落付くと、龍也は立ち上がる。
それを見たレティは、

「あら、もう行くの?」

もう出発するのかと問う。

「ああ」

それを龍也が肯定すると、

「それじゃ、また今回の冬か……次回の冬にでも会いましょう」

レティはまた冬に会おうと口にした。

「ああ、またな」

龍也もまた会おうと返してレティと別れ、足を進め始める。


















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