辺り一面に雪しか見えない白銀の世界。
そんな雪しか見えない様な場所を龍也は一人、歩いている。

「んー……絶景かなって言う台詞はこう言う光景を言うのかな」

龍也は周囲の景色を見ながらポツリとそう呟いた後、雪に付けて来た自分の足跡に視線を移す。
最初に付けた足跡など欠片も見えなかったからか、

「この雪景色の中をずーっと歩いて来たんだな、俺」

龍也は何処か感慨深い気分になった。
ずっと同じ様な景色しか映らない場所を歩き続ければ少しは飽きが来そうなものではあるが、龍也の表情から飽きと言う感情は見られない。
目的も目標も無く只歩くと言う行為も、龍也のとっては楽しいものの様だ。

「さて……」

自分に足跡を見るのに満足したからか、龍也は視線を戻して再び足を進めて行く。
足を進めて行く中で、龍也の頭に春まで後どれ位かと言う事が過ぎる。
頭に過ぎった事を少しの間考えた結果、日付が分かる様な生活を送っていないので分かる訳が無いと言う結論に達した。
その後、春が近くなれば雪が溶け始めたり魔理沙辺りが花見の誘いをしてくるだろうと思い始める。
雪が溶け始めると言うのは兎も角、花見の誘いは放浪している龍也を魔理沙が見付けられる事が前提の話ではあるが。
そんな楽観的な事を龍也が思い付いていると、

「あ、龍也ー!!」

背後の方から龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
その声に反応した龍也が背後の方に顔を向けると、チルノの姿が目に映る。
龍也に声を掛けて来たのはチルノであった様だ。

「チルノか、どうしたんだ?」

龍也はチルノに何の用かと尋ねると、

「これから雪合戦するの。だから、あたいのライバルであるあんたも入れて上げる!!」

チルノは雪合戦の誘いに来たのだと言う。

「雪合戦か……」

これだけ雪が積もっていれば雪合戦の一つや二つもするだろうと思いながら、

「分かった、俺も参加するよ」

龍也は特にする事も無かったので雪合戦に参加する事を決める。

「そうこなくっちゃ!!」

チルノは嬉しそうな表情を浮かべながら移動を開始したので、龍也はチルノを見失わない様に少し慌て気味に後を追う。





















予想して然るべき事であったが、雪合戦を行う場所に居たのは妖精だけであった。
つまり、この雪合戦は妖精同士の雪合戦と言う事になる。
そんな雪合戦に人間である自分が参加する事になった龍也は少々場違いな感じを受けていたが、妖精達は龍也が人間である事を気にした様子は見られ無い。
その事に龍也が何処か安心した表情を浮かべたのと同時に雪合戦が始まり、あらゆる所で雪玉が飛び交い始めた。
雪玉を投げたり投げ付けられたりと、皆楽しそうに雪合戦をしている。
とまぁ、こんな感じで最初の方は普通の雪合戦であったのだが、

「……まぁ、こうなるよな」

案の定と言うべきか、途中から普通の雪合戦ではなくなった。
具体的に言うと、雪玉だけではなく弾幕が飛び交い始めたのだ。
そして最終的に、敵味方関係無しのバトルロワイヤルに突入していた。

「……妖精の雪合戦って、こう言うものなのか?」

もう何が何だか分からない状況になった雪合戦を見ながら首を傾げると、

「ッ!?」

龍也は背後に何かを感じ、慌てて体を捻らせると、

「雪玉……?」

龍也の真横を雪玉が通過した。
雪玉を投げられたと言う事を理解した龍也は雪玉が飛んで来た方に顔を向ける。
しかし、

「……居ない?」

龍也が顔を向けた先には誰も居なかった。
確かにこっちの方から雪玉が飛んで来たのにと思っていると、

「……ん?」

龍也の目に雪に付いた足跡が映る。
だが、それは只の足跡ではなかった。
どう言う事かと言うと、誰も居ないのに足跡が増えていっているのだ。
この事から目に見えない何者かが居ると判断した龍也は地面の雪を掬って雪玉を作り、

「そら」

次の足跡が付くであろう場所に投げる。
すると、

「きゃあ!!」

そんな悲鳴と共に雪玉が弾け、三人の妖精が現れた。
金色の髪に赤を基調とした服を着た妖精。
同じく金色の髪に白を基調とした服を着た妖精。
最後の一人は長くて黒い髪をし、白と青を基調とした服を着た妖精。
現れた妖精達を見た龍也はこの三人が雪玉を投げたのかと思い、どうやって姿を消していたのだろうと考え始める。
考えた結果、本人達に直接聞けば良いと言う結論に達した。
なので、龍也は話を聞こうと三人の妖精達に方に足を進めて行く。





















話を聞いたところ、三人はサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアと言う名前の三人一組で行動している妖精と言う事が分かった。
そして姿を消していた方法だが、この三妖精はそれぞれ"光を屈折させる程度の能力"、"音を消す程度の能力"、"動く物の気配を探る程度の能力"
と言う能力を持っており、この三つの能力を組み合わせる事で結構完璧なステルス能力を発動する事が出来る様なのだ。
そのステルス能力を使ってこの雪合戦に参戦していたらしい。
尤も、移動する時に付いた足跡で龍也には見破られてしまったが。
因みに空を飛んで足跡が付くのを防ぐと言った事をしなかった理由は、雪玉や弾幕が飛び交う中に突っ込みたくはなかったからだそうだ。
龍也と三妖精がそんな会話をしている間に、飛び交っていた雪玉や弾幕が見えなくなる。
どうやら、何時の間にか雪合戦らしきものは終わっていた様だ。
勝者が誰なのかは分からないが。
この雪合戦らしきものも終わり、このまま解散になると思われたがそうはならなかった。
何故ならば、妖精達は人間である龍也に興味を持った様で龍也の方に集まって来たからだ。
集まって来た妖精達に龍也は少し驚きつつも、龍也は適当に相手にする事にした。
遊び相手になったり話をしたりなど。
それから暫らくすると、妖精達は飽きたのか解散するかの様に方々へと散って行った。
妖精達の姿が見えなくなると、

「さて、そろそろ行くか」

龍也は旅を再開させる様に足を進めて行く。





















妖精達との雪合戦らしきものに参戦してから幾日か過ぎた頃。
龍也は今日も今日とで一面雪だらけの白銀の世界を歩いていた。

「んー……風が気持ちを良いな……」

吹いて来た風を感じながら龍也はそんな感想を漏らし、両腕を伸ばすと、

「春ですよー!!」

上空の方から春だと言う声が響く。
その声に反応した龍也が顔を上げると自身に向けて迫って来る大量の弾幕が目に映り、

「うおわあ!?」

龍也は慌てて回避行動を取る。
龍也が回避行動を取ってから数瞬後に弾幕は地面に激突し、軽い爆発を起こす。

「危ねぇな……」

弾幕が命中した場所を確認し、龍也は再び顔を上げるが、

「……居ない?」

誰の姿も目には映らなかった。
いや、良く見れば何者かの姿が見える。
少し遠くの方に何所かへと飛び去って行っている何者かの姿が。
あの飛び去って行っている者が弾幕を放って来た者かと考える傍ら、龍也の頭にある疑問が浮かぶ。
浮かんだ疑問と言うのは、

「春ですよーって言ってたけど……これの何処が春なんだ?」

弾幕を放って来た者が口した春ですよと言う言葉だ。
周囲を見渡して見えるものは雪景色のみ。
どう見ても春の要素何てものは欠片も見られない。
何故、冬の要素しか感じられないこの状態で春ですよと言う言葉を口にしたのか龍也が考えていると、

「そこの、貴方」

突如、声を掛けられた。
掛けられた声に反応した龍也は声が聞こえて来た方に顔を向けると肩口位までの長さの銀色の髪に黒いリボン、長刀と短刀を装備した少女の姿が目に映る。
おまけにその傍らには人魂っぽいものが漂っていた。
変わった風貌だな龍也は思いながら、

「俺に何か用か?」

何の用かと問う。
すると、

「突然ですみませんが、貴方の持っているその大量の春度を……渡して貰います!!」

少女はそれだけ言って長刀を鞘から抜き、その切っ先を龍也へと突き付ける。
龍也には春度と言うものが何のかは分からないが、少女がその春度と言うものを欲していると言う事は分かった。
後、場のピリピリとした雰囲気も。
そんなピリピリとした雰囲気の中でも、龍也は落ち着いていた。
何故ならば、突然戦いを挑まれる事は幻想郷では日常茶飯事であるからだ。
幻想郷に来たばかりの頃なら普通に驚いていたなと思いながら、

「いいぜ」

龍也は自身の力を変える。
朱雀の力へと。
そして瞳の色が黒から紅に変わると、

「ただし……」

龍也は両手から二本の炎の剣を生み出し、

「俺に勝てたらな」

そのうちの一本を少女に突き付けながら自分に勝てたらくれてやると言い放つ。
龍也の言葉から、欲しいものがあるなら力尽くで奪い取れと言うものを感じた少女は、

「分かりました。なら、貴方を倒してその大量の春度を頂いていきます!!」

返す様にそう言い放って龍也へと肉迫し、

「はあ!!」

龍也が自身の間合いに入ると長刀を勢い良く振るう。
振るわれた斬撃を迎え撃つ様に龍也は右手の炎の剣を振るい、炎の剣を長刀に激突させる。
自分の得物同士を激突させた事で鍔迫り合いの様な形になっている中、龍也は左手の炎の剣で突きを放つ。

「ッ!!」

迫って来ている炎の剣に気付いた少女は少々強引に後ろに跳ぶ事で龍也の刺突による攻撃を避ける。

「ちっ……」

龍也は攻撃を避けられた事に対する舌打ちしながら体勢を立て直し、離れた少女との距離を詰める様に地を駆けて行く。
そして少女が自身の間合いに入ったタイミングで、

「はあ!!」

龍也は炎の剣を振るう。
しかも、そのタイミングは少女が地に足を着けたばかりの時。
これでは長刀での防御も間に合わないと龍也は思った。
が、

「甘い!!」

龍也の予想に反して少女は鞘に納めていた短刀を抜き放ち、短刀で炎の剣を受け止めたのだ。

「なっ……」

攻撃を受け止められた事で驚きの表情を浮かべている龍也の隙を突くかの様に少女は短刀を握っている手に力を籠め、炎の剣を弾く。

「しまっ!!」

炎の剣を弾かれた事で龍也の体勢を崩すのと同時に胴体をがら空きにしてしまう。
龍也が体勢を立て直す前に少女は短刀を鞘に納めながら、

「たあ!!」

長刀の柄頭を龍也の鳩尾に叩き込む。

「がっ!?」

鳩尾に攻撃を叩き込まれた龍也は空気を吐き出しながら吹き飛ばされ、

「ぐっ!!」

背中から地面に激突し、滑る様に地面を移動して行く。

「が……くぅ……っ!!」

龍也は腹部の痛みを堪えながら両足を地面に突き立てながら力を籠めて強引にブレーキを掛け、無理矢理減速させる。
そのお陰か、激突した場所からそれ程離れていない場所で止まる事が出来た。
止まったのと同時に立ち上がると、

「ッ!!」

少女が長刀を両手で構えながら間近まで迫って来ている事に龍也は気付く。
同時に長刀が振るわれたので、龍也は慌てて二本の炎の剣を交差させて長刀を受け止める。
少女が押し切る為に力を籠めると予想した龍也は両腕と下半身に力を籠めるが、

「何……」

龍也の予想に反して少女は長刀を炎の剣から離す。
だが次の瞬間、

「はあ!!」

少女は再び長刀による攻撃を放って来た。

「ぐう!!」

少女の攻撃を再び二本の炎の剣で受け止めた龍也は悟る。
連続して斬撃を放って自分の防御を崩す積りなのだと。
少女の狙いに気付いた龍也は長刀が離れたのと同時に一歩後ろに下がり、再び振るわれた長刀を一本の炎の剣を受け止める。
龍也はこのまま下がって少女の間合いから離れ様としたが、それは出来なかった。
出来ない理由は少女の間合いを詰める速度と剣速にある。
間合いを詰める速度が速すぎて直ぐに距離を詰められて攻撃に移られてしまうし、剣速が速過ぎて防御に集中していないと容易く斬られてしまうからだ。
因みに、少女の剣速は龍也が二本の炎の剣をフルに使って何とか防ぐ事が出来ると言う程の速さだ。
長刀を使っているのにこの速さで斬撃を繰り出す事が出来る少女に龍也は驚きながらも一歩、また一歩と後ろに下がって行く。
下がって行く龍也を追う様に少女も一歩、また一歩と足を前に進める。

「くそ……!!」

完全に主導権を握られた事を感じた龍也は何とかしてこの状況から抜け出す方法はないか考えていく。
考えた結果、

「ぐうっ!!」

龍也は下半身の力を弱めた状態で斬撃を受け、吹き飛ばされる事で強引に距離を取ると言う方法を取った。

「なっ!?」

こんな方法で距離を取って来るとは思わなかったからか、少女は驚きの表情を浮かべてしまう。
その間に龍也は一旦両手から生み出している炎の剣を消し、両手を合わせる。
そして、少女に向けて火炎放射を放つ。

「くっ……」

目の前から迫って来る火炎放射を見た少女は吹っ飛んで行った龍也を追って攻撃を行う事を止め、火炎放射を避ける為に跳躍を行う。
少女が跳躍を行っている隙に龍也は体勢を立て直し、少女が地に足を着けた瞬間、

「らああああああああああああああ!!!!」

大量の炎の弾幕を放つ。
これだけ放てば先程の様に短刀で防ぐ事は出来ないだろうと思いながら。
迫り来る大量の炎の弾幕を前に少女は短刀を抜き放ち、体を回転させながら短刀を振るう。
すると、少女の目の前に水色をしたエネルギー状の丸い盾が現れた。
短刀で防ぐのではなく盾を出現させた事に龍也は驚くも、この大量の炎の弾幕ならばあの盾も容易く破壊出来るだろうと考える。
だが、龍也の考え通りにはならなかった。
何故ならば、

「何っ!?」

盾に当たった炎の弾幕はそのまま龍也の方に跳ね返って来たからだ。
少女が生み出した盾は防御ではなく反射の為のものであった事を龍也は理解し、慌てて回避行動を取る。
回避行動を取った事で跳ね返って来た炎の弾幕は龍也に当たらずに龍也が居た場所に激突し、地表の雪を蒸発させた。
雪が蒸発した事で周囲が水蒸気で覆われるが、

「それ程濃くは……無いな」

水蒸気は然程濃くは無い事を知った龍也は視界が不明瞭になる事が無いと分かったからか、何処か安心した表情を浮かべる。
その後、少女の方に顔を向けると、

「ッ!?」

少女は龍也の直ぐ近くにまで迫って来ていた。
龍也が慌てて二本の炎の剣を生み出し防御の体勢を取ったの同時に、少女は長刀を振り下ろす。

「ぐっ……!!」

龍也は長刀を二本の炎の剣で受け止めながら防御を崩されない様に体中に力を籠めて踏ん張っていると、少女は二本の炎の剣から長刀を離す。
それを合図にしたかの様に龍也と少女の斬り合いが始まった。
尤も、斬り合いと言っても龍也は少女の斬撃を防ぐだけで精一杯で攻撃に移る事は出来ないでいるのだが。
そんな中、龍也は理解する。
少女が放つ斬撃の重さ、鋭さ、速さの全てが自分を上回っている事に。
しかし、これだけの差がある事を理解していても龍也は必死さ感じさせる表情の何処かに余裕と言うものが見受けられた。
それはさて置き、直撃を避ける為に必死に少女が放つ斬撃を目で追っている時、

「……ん?」

龍也は気付く。
ある程度は少女の斬撃を目で追うこと出来ている事に。
何度も何度も見続けた結果、目が慣れたのだろうか。
ともあれ、このチャンスを逃す龍也ではない。
攻撃と攻撃と間に生まれた隙を突くかの様に、

「らあ!!」

龍也は肩から少女に突っ込む。

「くっ!?」

完全に隙を突いた結果となったからか、少女は龍也の肩からの突撃をまともに受けて体勢を崩してしまう。
龍也は少女が体勢を立て直す前に、

「貰った!!」

炎の剣による刺突を放った。
このまま炎の剣は少女の体に突き刺さるかと思われたが、

「させません!!」

少女は咄嗟に短刀を抜き、短刀の腹で刺突を受け止める。

「ちっ……」

攻撃を防がれた事で龍也が舌打ちをすると、少女は後ろへと跳ぶ。
距離を取られて再び主導権を握られては厄介だと判断した龍也は少女の後を追うが、

「がっ!?」

腹部に何かが当たり、龍也は少女が跳んだ方とは反対方向に吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされている最中に龍也は地面に激突し、地面を転がって更に距離を開けてしまう。
転がりが止まったのと同時に龍也は立ち上がって少女の方に顔を向けると、

「あれは……人魂……?」

人魂の様なものが少女の方に向かっていき、少女の傍らで佇んでいる様子が見て取れた。
おそらく、あれを龍也に突撃させたのだろう。
あの人魂らしきものはアクセサリーではなかったのかと龍也が思っている時、少女は既に構えを取り直していた。
それに対抗するかの様に龍也も構えを取る。
二人が構えを取り、睨み合い始めてから暫らく時間が経ったが、

「「………………………………………………………………………………」」

龍也と少女は動かなかった。
正確に言うと、少女は分からないが龍也は動けないでいる。
何故ならば、少女に隙が欠片も見られないからだ。
これでは攻撃を行う事は勿論、考えていた少女の虚を突く方法も取れない。
龍也が考えていた少女の虚を突く方法とは、力の変換だ。
力の変換を行って戦闘スタイルを変え、少女が行き成り変わった戦闘スタイルに対応する前に大きなダメージを与える。
と言うのが龍也が考えていた少女の虚を突く方法だ。
この方法を取れない理由は力の変換を行い、力の変換が完了するまでの隙を少女は必ず突いて来るだろうと言う確信があるからだ。
故に龍也は動けない。

「「………………………………………………………………………………」」

二人の睨み合いは何時まで続くのかと思われたその時、

「ッ!!」

少女が動いた。
少女は突然、その場で長刀を振るったのだ。
自分に近付きもせずに長刀を振るった少女の行動に龍也は疑問を覚えるも、覚えた疑問は直ぐに氷解する事となる。
斬撃の軌跡から弾幕が生まれ、生まれた弾幕が龍也に向けて飛んで行ったからだ。
接近しての斬撃が来ると思っていた龍也にとって虚を突かれた形になったが、

「くっ!!」

直ぐに頭を切り替え、地を駆けて弾幕を避けて行く。
少女から放たれた弾幕を避け切って安心するも束の間、少女は何度も長刀を振るって第二第三の弾幕を放って来た。

「くそ!!」

息を吐く暇も無いなと思いながら龍也は地を駆けて弾幕を避けて行くが、

「ッ!!」

目の前を弾幕が通過していたので思わず足を止めてしまう。
これで弾幕の中に突っ込むと言う事態は避けられたが、

「しまっ!!」

自分に向けて迫って来る弾幕との距離が大きく縮まってしまった。
これでは避けるのは不可能だと判断した龍也は、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

二本の炎の剣を振るって弾幕を斬り払っていく。
何発か自身の体に掠らせてしまったものの、迫って来た弾幕を後少しで全て斬り払い終えると言ったところで、

「ッ!!」

長刀から緑色の光を発せさせながら少女は龍也に向けて突っ込んで来た。
しかも、長刀から発せられている緑色の光は刀身を少し長くしている。
少女が必殺の一撃を放とうとしている事を感じた龍也は弾幕を斬り払う事を止め、二本の炎の剣を合わせて一本の炎の大剣に変えた。
その時、

「ぐっ!!」

残っていた弾幕が命中して体中に痛みが走るが、龍也は走る痛みを振り払うかの様に霊力を解放して炎の大剣の出力を最大限まで上げる。
同時に、

「冥想斬!!!!」

少女が長刀を振るった。
それを迎え撃つ様に、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

龍也は炎の大剣を振るう。
二人が自分の得物を振るった事で長刀と炎の大剣が激突すると思われたが、そうはならなかった。
少女が振るった長刀が容易く龍也の炎の大剣を斬り裂いたからである。
しかもそれだけでは終わらず、少女が振るった長刀は龍也の左肩から右腰までを斬り裂いたのだ。

「な……に……!?」

斬り裂かれた部分から血を噴出させながら、龍也の意識は闇へと沈んでいった。









































「ッ!?」

突如、龍也は目を開いて飛び起きるかの様に上半身を起こして周囲を伺おうとすると、

「痛ッ!?」

胴体に鋭い痛みが走り、思わず上半身を屈めてしまう。
同時に、

「……ん?」

龍也は下半身に何かが当たる感触を覚えた。
それが気になった龍也は痛みを堪えながら下半身に視線を向けると、

「防寒具に……学ラン……」

アリスに貰った防寒具と学ランが目に映る。
何故これが自分の下半身にと思いながら視線を移していくと、自分が上半身裸で上半身に包帯を巻かれている事が分かった。
何で包帯が巻かれているのかと言う事を龍也が考えていると、

「緑の……壁?」

周囲が淡い緑色の壁に囲まれている事に気付く。
その壁をジッと見ると、壁の向こうは雪景色である事が分かる。
だと言うのに、上半身裸である龍也は寒さを殆ど感じていない。
この事から、

「ここは……結界の中か……?」

龍也は結界の中に居るのではと考え、立ち上がってどうして自分はこんな所に居るのかと思い出そうする。
そして直ぐに、

「あ……」

思い出す。
銀色の髪をした少女と戦い、

「俺は……負けたのか……」

炎の大剣を容易く斬り裂かれ、完膚無きまでに負けた事を。
少女に胴体を斬り裂かれた後の記憶は龍也にはないが、巻かれた包帯を見るにあの少女が治療をしてくれたのだろう。
しかも、気絶している龍也が野良妖怪に襲われない様に結界まで張ってくれた。
おまけに斬られた防寒具、学ラン、ワイシャツ、シャツの修繕までしてくれている。
現状を理解した瞬間、龍也は思った。

「ちくしょう……」

自分は慢心していたのではないかと。
外の世界に居た頃は妙な因縁を付けられて多人数に襲われた事が結構あったが、そんな状況でも龍也は負ける事はなかった。
どれだけ血を流し、ボロボロになってもだ。
だから、心の何処かで自分が負ける訳が無いと龍也は思っていたのかもしれない。

「ちくしょう……」

龍也は体を震わせながら思う。
自分は天狗になっていたのではないかと。
妖怪の群れに襲われた時も負ける事は一度も無かった事。
そして相当な力を持った吸血鬼姉妹であるレミリアと引き分け、フランドールに勝った事で変な自信が付いたのかもしれない。
レミリアと引き分け、フランドールに勝てたのは彼女達吸血鬼が大きな弱点としている流水が扱えたからだと言うのに。
だが、それでも勝てた事から龍也は絶対勝てると言う楽観的な想いを抱いてしまったのだろう。

「ちくしょう……」

自然と龍也の瞳から涙が零れ落ちた。
いや、零れ落ちたと言うより流れ落ちたと言う表現が正しいであろう。
龍也が流している涙は何に対しての涙か。
悔しさであろうか。
それとも、自身の無力さに対してか。
涙を流している理由は龍也にも解らないのかもしれない。

「ちくしょう……」

龍也は拳を強く握り締める。
強く握り締め過ぎたからか、拳から血が流れ落ちていく。
零れ落ちた涙と血が混ざり合っていく中、

「ちくしょう……」

龍也は気付いた。
負けた一番の原因に。
それは力量の差以前に自分は絶対に負けるはずが無いと言う油断と過信と慢心にあると言う事に。
こんな想いを抱いていて戦っていては、勝てる訳も無い。

「ちくしょう……」

そして理解する。
自分に残ったものは負けたと言う事実だけだと。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」




















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