雪原の中を我が物顔で歩いてる妖怪の群れの中の一匹が、あるものに気付いて足を止める。
足を止めた一匹に呼応するかの様に残りの妖怪達も足を止めた。
最初に足を止めた妖怪が何に気付いたのかと言うと、人間である。
妖怪の群れから少し離れた場所に人間が居るのだ。
それもたった一人で。
これで襲うなと言うのは無理であろう。
妖怪達の中で誰が襲いに行くかと言う相談が始められ様とした時、妖怪達の中の一匹が我先にと言わんばかりに飛び出した。
おそらく、新鮮な人間を見て我慢が出来なかったのだろう。
人間と妖怪の距離が半分程になった時、

「…………………………………………………………」

人間は妖怪の存在に気付いた。
だが、人間は怯えたり騒いだりと言った事をせずに落ち着いた様子で佇むだけ。
妖怪が襲い掛かって来ていると言うのに。
そんな人間とは対照的に妖怪は涎を垂らし、息を荒げながら人間との距離を詰めて行く。
このままでは人間は妖怪に無惨にも食い殺されしまう。
そう思われたその時、

「……………………しっ」

人間は手に炎を纏わせ、炎を纏わせた手を妖怪に向けて振るったのだ。
すると、人間に襲い掛かって来た妖怪はその炎に薙ぎ払われて容易く燃え尽きてしまった。
自身の仲間が容易く倒された事に妖怪達は驚くも、直ぐに仲間を倒された事に対する怒りを露にして一斉に襲い掛かって行く
大量の妖怪が自分に向けて迫って来るの見た人間は体を屈めながら手に纏わせていた炎を消し、代わりに両手から二本の炎の剣を生み出す。
そして妖怪達が人間の間合いに入ったのと同時に、人間は両手を広げて体を独楽の様に勢い良く回転させる。
炎の剣を突き出した状態で回転した事で炎の渦の様なものが生まれ、人間に襲い掛かって来た妖怪達はその炎の渦の様なものに呑み込まれていく。
回転を始めてから少しすると、人間は唐突に回転を止めた。
何故止めたのかと言うと、感覚で妖怪を全て倒した事が分かったからだ。
周囲に居るのが自分だけだと分かると人間は炎の剣を消して体を直立の状態にさせ、

「……はぁ」

大きな溜息を一つ吐いた。
戦いに勝ったと言うのに人間……四神龍也の表情は今一つ優れない。
勝つには勝ったがそんな事は上の空と言った感じだ。
龍也としても、何故自分がこんな状態になっているのかは理解している。
数日前に銀色の髪をした少女と戦い、敗北を喫した事が原因だ。
あの敗北以来、龍也は何をするにしても調子が出ないし上の空と言った状態なのである。
若しかしたら、焦っているせいでそんな状態になっているのかもしれない。
その答えは龍也には分からないが、分かっている事はある。
分かっている事と言うのは、心と体のバランスが取れていないと言う事。
そんな自分の状態を理解しているからか、

「……はぁ」

龍也はまた溜息を一つ吐いてしまう。
同時にこれ以上ここに居ても仕方が無い思ったからか、龍也は力を消す。
瞳の色が紅から黒に戻ると、龍也はトボトボとした様子で足を進め始める。
その姿からは元気や覇気と言ったものは感じられず、逆に陰鬱と言ったものが感じられた。
陰鬱とした雰囲気を纏わせた状態で足を進め始めてから幾らか時間が経った頃、

「あれは……岩か」

龍也は少し大きな岩を発見する。
少し歩き疲れていたので休むのには丁度良いと思った龍也は岩に近付き、

「よっ……と」

岩の天辺に登って腰を落ち着かせ、

「……はぁ」

本日何度目になるか分からない溜息を吐いた。
溜息を吐いた後、龍也は今の自分の状態に付いて考えていく。
龍也自身、今の自分の状態が駄目である事は理解している。
理解しているが、どうすればこの状態から脱却出来るかが分からないのだ。
悩み、考えても一向に答えが出ない。
思考の海に没してから暫らくすると、

「おっと……」

強い風を肌で感じ、意識を取り戻す。
同時に疲労感が感じなくなっているのに気付いた龍也は出発する為に岩から降り様と立ち上がると、

「ん? おわあ!?」

足を滑らせ、岩の上から転げ落ちてしまった。
体の至る所を岩にぶつけながら。
そして、龍也は背中から雪原に激突して雪の中に少し身を沈めてしまう。
冷たさと軽い痛みが後頭部と体中から感じられたが、龍也はそれをどうにかし様とはしなかった。
何故ならば、感じている冷たさと痛さが妙に心地良かったからだ。
龍也はそのまま何かをする訳でもなく、ボケーッとした表情で空を見る。
龍也の目に映るのは青い空に流れる白い雲、そして光輝く太陽。
空に広がる広大で雄大とも言える光景を見た龍也は、

「はは……そうだ、そうだよな」

気付く。
自分はどうすれば良いのかを。

「たく……何をウジウジしていたんだろうな、俺は……」

自身の間抜けさに呆れながら龍也は上半身を起こして立ち上がり、

「どんなに言い繕ったって負けたと言う事実は変らないし、変えられない」

防寒具やズボン、頭に付いた雪を手で払い落としてく。
それが終わると龍也は拳を作り、

「なら、強くなれば良いだけの話だ」

誰に言うのでもなくそう誓う。
強くなれば良いと。

「修行して強くなって、勝てば良い」

勝てば良いと。
若しかしたら、龍也が強くなって勝つと誓った相手は自分自身なのだろうか。
いや、そもそも誓いを立てる相手は自分自身で良いのかもしれない。
成すのは自分自身なのだから。
自分が何をするべきか決まった後、

「しっかし……」

龍也はもう一度空を見上げ、思う。
空を見ていただけで悩んでいた事が解決した事から、自分の悩み何て全然大した事は無かったなと。
まぁ、龍也の悩みが直ぐに解決したのは空の偉大さと広大さ見て自分の悩みなどちっぽけなものだと悟ったからなのかもしれない。
空って凄いなと言う事を龍也は思いながら視線を落とし、上半身を少し乱雑に動かす。
幾ら動かしても上半身に痛みが走らない事を知ると、

「……痛みは無いな。傷跡はどうなってるんだ?」

龍也は防寒具とワイシャツのボタンを外し、シャツを捲って自分の上半身を確認する。

「あ、そう言えば包帯が巻かれてたな」

自身の上半身を見て龍也は包帯を巻かれていた事を思い出しつつ、包帯を少々乱雑に取ると、

「傷跡が……無い……」

傷痕が無い事が分かった。
結構深く斬られた筈なのにだ。
少女の手当ての仕方が良かったのか、それとも塗られていたであろう薬が良かったのか。
薬であるならば魔理沙から買った薬の量は減ってなかったので、あの少女が持っていた薬なのだろうと龍也は考えた。
理由はどうあれ、完全に治っているのであれば都合は良い。
手に持っている包帯をポケットに仕舞って捲っていたシャツを下ろし、外したボタンを締め直すと、

「よし!!」

龍也は気合を入れながら跳躍を行い、足元に見えない足場を作ってそこに足を着ける。
作った足場の感触を何回か確かめた後、龍也はある方向に体を向けて空中を駆けて行った。























「さーて、起きてるかな?」

龍也は空中を駆けながらポツリとそう呟く。
現在、龍也は紅魔館を目指して移動中である。
何故紅魔館を目指しているのかと言うと、美鈴に自分の修行に付き合って貰う為。
刀と拳の違いはあれど、接近戦を得意としている美鈴となら銀色の髪をした少女に勝つ為の良い修行になると龍也は考えたのだ。
美鈴以外にも刀と盾を装備している椛も接近戦が得意だと思われたので修行に付き合って貰う為に頼みに行こうかと考えたが、それは止めた。
椛に頼みに向かうと言う事は、妖怪の山に入る事になるからだ。
妖怪の山は基本的に人間の立ち入りが禁止されている。
龍也が妖怪の山に入ってしまったら、余計な荒波が立つ事になってしまうだろう。
それ故に、龍也は椛に頼みに行くと言う案は却下したのだ。

「そろそろ紅魔館に着くと思うんだけど……」

そんな事を呟きながら視線を少し遠くの方に向けると、龍也の目に紅魔館が映った。
紅魔館が見えて来たからか、龍也は一気にスピードを上げる。
そして紅魔館の門まで直ぐ近くと言う距離まで来ると龍也は見えない足場を消して降下し、

「よ……っと」

地に足を着けて美鈴の様子を伺うと、

「やっぱり、寝てた」

やはりと言うべきか、美鈴は眠っていた。
立ったまま、幸せそうな表情を浮かべながら。
冬である今の季節で普段着のままで外で寝ていてよく凍死しないものだ。
妖怪が頑丈であるせいなのだろうか。
気持ち良く寝ているところ悪いと思いながら、

「美鈴!!!!」

龍也は大きな声を出して美鈴を叩き起こそうとする。
その結果、

「わひゃあ!?」

美鈴は飛び起きた。
どうやら、無事に美鈴を叩き起こせた様だ。
叩き起こされた美鈴は慌てて周囲を確認し、

「あ、何だ、龍也さんじゃないですか」

周囲に居たのが龍也だと分かるとホッとした表情を浮かべた。
大方、声を掛けて来たのが咲夜なのではと考えたのだろう。
美鈴の思っている事を龍也が何となく察していると、

「それで、何か御用ですか?」

美鈴が龍也に何の様かと尋ねて来る。
美鈴の言葉で龍也はここに来た理由を思い出し、

「ああ、美鈴に頼みがある」

頼みがあると言う。

「私に頼みですか?」

そう言って美鈴が首を傾げると、

「ああ」

龍也は頼みたい事をある事を肯定して姿勢を正し、

「俺の修行に付き合ってくれ!!」

自分の修行に付き合って欲しいと口して思いっ切り頭を下げる。
修行に付き合って欲しいと言いながら急に頭を下げた龍也に美鈴は驚くも、

「修行……ですか? 私は別に構いませんが、突然またどうして?」

修行に付き合う事は構わないと言い、どうして修行をし様と思ったのかを問う。
まぁ、突然修行に付き合ってくれと言われたらどうしてと言う疑問の一つや二つも湧くだろう。
美鈴の抱いている疑問は尤もだと感じた龍也は顔を上げ、

「端的に言うとだ……」
「端的に言うと?」
「ある相手にボロ負けして悔しいから修行して強くなってリベンジしたい」

龍也は正直にボロ負けして悔しいから強くなって勝ちたいと言う心情を暴露する。
正直に暴露した理由は、正直に言わねばならないと思ったからだ。
龍也の修行に付き合って欲しい理由を聞いた美鈴は目をパチクリさせるも、直ぐに笑顔になり、

「分かりました。そう言う事でしたら幾らでもお手伝いしますよ」

改めて修行に付き合う旨を伝える。

「ありがとな、美鈴」

修行に付き合ってくれる事を了承してくれた美鈴に龍也は感謝の言葉を口にすると、

「いえいえ、お気に為さらず」

美鈴は気にしないでと返し、

「それで、龍也さんを負かした相手はどの様な戦い方をしたのですか?」

龍也を負かした相手はどんな戦い方をしたのかを問う。
それが分からなければ効率的な修行が行えないからだ。
美鈴が問うて来た事を聞いた龍也は銀色の髪をした少女と戦った時の事を思い出しながら、

「長と短の二本の刀を使っていたな」

長と短の二本の刀を使っていたと口にする。

「長短二本の刀ですか……」

そう呟きながら美鈴が何かを考える素振りを見せると、

「あ、それと攻撃は長刀一本で戦ってたな。短刀は防御などをする時に抜いてた」

龍也は付け加えるかの様に長刀と短刀の使い方を言う。
長刀と短刀の使い方を聞いた美鈴は、

「ふむ……」

何かに悩む様な表情を浮かべた。
そんな美鈴の表情を見た龍也は、

「どうだ、頼めそうか?」

少し不安気な表情を浮かべながら、頼めそうかと口にする。
龍也が発した言葉が耳に入った美鈴は顔を上げ、

「そうですね……私は龍也さんが戦った相手と違って剣術の心得はありません。ですが……」

自分には剣術の心得は無いと言いながら門の方に移動し、屈んで何かを探し始めた。
何を探しているんだろうと龍也が思っていると、探しているものが見付かったからか美鈴は立ち上がり、

「棒術の心得はあるんですよ、私」

棒術の心得はあると言いながら龍也の方に近付いて行く。
自身の手に持っている長と短の棒を見せながら。
ある程度龍也との距離が縮まると、

「剣術と棒術の違いはありますが、少なくとも長と短の得物を扱う相手との戦いの参考にはなるかと思いますよ」

美鈴は少なくとも参考程度にはなると言いながら構えを取った。
修行開始かと言う雰囲気を悟った龍也は自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴い瞳の色が黒から紅に変わると、

「あ、そうい言えば俺は炎の剣を使うけど……それは大丈夫なのか?」

龍也は思い出したかの様に自分は炎の剣を使う事を口にしながら美鈴が手にしている棒に指をさしながら大丈夫なのかと言う。
自分の炎で燃えてしまわないかと言う意味合いを籠めて。
龍也の言いたい事を察したからか、

「大丈夫ですよ。これ、少し特殊な素材で出来てますから易々と燃えたりはしませよ」

美鈴は大丈夫だと返す。

「分かった」

何の問題も無い事を理解した龍也は両手から二本の炎の剣を生み出し、

「いくぞ!!」

地を駆けて美鈴へと迫る。
そして美鈴が自身の間合いに入ったの同時に龍也は右手の炎の剣を振るう。
が、

「おっと」

龍也が振るった炎の剣は美鈴が持っている長い方の棒に容易く受け止められてしまう。
防がれた事に気にした様子を龍也は見せず、

「らあ!!」

左手の炎の剣で刺突を放つ。
しかし、龍也が放った刺突も美鈴が体を捻らせた事で回避された。
だが、回避されただけでは終わらなかった。
美鈴は体を捻らせた勢いを利用して回転し、

「はあ!!」

長い方の棒を龍也に向けて放つ。
放たれた攻撃を龍也は二本の炎の剣で防ぐが、

「ぐっ……」

想像以上に攻撃が重かったせいで少し後ろに下がってしまった。
これ以上下げられない為に龍也は下半身に力を籠めて、少しずつ減速させていく。
何とか後ろに下がるのが止まると、

「はあ!!」

龍也は二本の炎の剣を払う様に振るって防いでいた棒を弾く。

「ッ!!」

棒を弾かれた事で美鈴は体勢を崩してしまう。
体勢を崩した事で生まれた隙を突く様に、龍也は再度を炎の剣による刺突を放つ。
今度こそ当たると思われたが、美鈴が少々強引に後ろに跳んだ事でまた避けられてしまう。

「ちっ……」

また攻撃を避けられた事で龍也は舌打ちをするも、追撃を放つ為に美鈴の後を追って行く。
そして龍也が美鈴を自身の間合いに入れた時、美鈴は既に地に足を着けて体勢を立て直していた。
龍也としては体勢を立て直す前に攻撃に入りたかったが仕方が無い。
龍也は駆けている勢いをそのまま利用し、

「はああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

連撃を行う。
次々と振るわれる炎の剣を、美鈴は長い方の棒一本で全て捌いていく。
攻める龍也に防ぐ美鈴。
現時点での構図はこうなっている。
何時、この構図が崩れるのだろうと思われたその時、

「はあっ!!」

龍也は今までよりも重い一撃を放つ。
今までの感覚でこの攻撃を捌けば確実に体勢を崩す。
が、そんな龍也の予想とは裏腹に、

「なっ!?」

美鈴は短い方の棒で炎の剣を受け止めたのだ。
この事に龍也は思わず驚きの表情を浮かべてしまう。
どうやら、美鈴が短い方の棒を全然使わなかったのでその存在をすっかり忘れていた様だ。
予想外の事態になってしまった龍也とは違い、美鈴は予想通りと言わんばかりの表情を浮かべながら短い方の棒を回転させて炎の剣を弾き、

「ふっ!!」

短い方の棒を龍也の腹部へと叩き込む。

「がっ!?」

腹部に攻撃を叩き込まれた事で炎の剣が消失したのと同時に龍也は吹っ飛んで行き、雪原に激突して転がって行ってしまう。
ある程度転がった所で龍也は地面に手を着けてブレーキを掛けて強引に止まって立ち上がる。
立ち上がりながら腹部への衝撃で消失してしまった炎の剣を再び生み出すと、

「と、今の様に使っていなかった方を急に攻撃に使うと言う方法を取って来るかも知れないので気を付けて下さいね」

美鈴が使っていなかった方を急に使って来るかもしれないので気を着ける様に言う。

「ああ、今のでよっく理解したよ。身に沁みてな」

龍也は身に沁みて理解したと言いながら構えを取り直し、短い方の棒に注意を向けながら美鈴へと肉迫して行った。




















「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

龍也は息を切らせながらも美鈴の隙を探そうとしていると、

「日も暮れてきましたし、今日はここまでにしましょう」

美鈴が今日はここまでと言って構えを解いた。
そんな美鈴を見て龍也はまだやれると言おうとしたが、止める。
修行に付き合って貰っているのは自分なので美鈴の都合に合わせるの道理であると考えたからだ。
そう考えた後、龍也は炎の剣しながら構えを解いて力を消す。
瞳の色が紅から黒に戻ると、龍也は姿勢を正し、

「ありがとうございました!!」

頭を思いっ切り下げる。

「いえいえ、私も良い鍛錬になりましたから」

龍也の礼に美鈴が自分も良い鍛錬になったと返すと龍也は頭を上げ、

「明日も修行に付き合って貰っても良いか?」

明日も修行に付き合って貰って良いかと問う。
すると、

「はい、構いませんよ」

美鈴が笑顔で構わないと言ってくれた。
その事に龍也が何処かホッとした表情を浮かべていると、

「お疲れ様。サンドイッチと飲み物用意したけどいる?」

咲夜が音も無く現れ、サンドイッチと飲み物が入った容器を差し出す。
差し出されたサンドイッチと飲み物を見て、空腹感を感じた龍也は、

「いる」

差し出されたサンドイッチと飲み物を受け取る。
それに続く様に、

「私も頂きます」

美鈴も差し出されたサンドイッチと飲み物を受け取った。
そして、龍也と美鈴は軽い食事を取っていく。
サンドイッチを食べ終え、飲み物を飲み干すと、

「ごちそうさま、美味かったよ」
「ごちそうさまでした、美味しかったですよ」

龍也と美鈴は美味しかったと言う感想を漏らす。

「お粗末様」

咲夜がお粗末様と返しながら空になった容器を受け取ると、

「ありがとな、態々サンドイッチを作ってくれて」

龍也は咲夜にサンドイッチを作ってくれた事に対する礼を言う。

「別にサンドイッチを作る位、大した手間では無いわ。それに紅魔館の中でやらなければならない殆ど終わってたからお嬢様起床されるまで
少し暇をしてたのよね。だから、サンドイッチを作るのは良い暇潰しになったわ」

咲夜はレミリアが起きるまでは暇だったからサンドイッチを作るのが良い暇潰しになっと言いながら、

「そうそう、浴場の準備は出来ているけど入ったら? 結構汗を掻いている様だし」

龍也に風呂に入る様に勧める。
汗を掻いてる事を指摘され、自身が汗を掻いている事を自覚した龍也は、

「そうだな……入らせて貰うよ」

風呂に入る事を決めた。

「分かったわ。美鈴はどうする?」

咲夜は美鈴はどうするかと尋ねると、

「私は交代の時間になったら入らせて貰います」

美鈴は交代の時間になったら入ると返す。

「あら、以外と仕事熱心なのね。よく寝てる姿が見られるけど」

美鈴の返答を聞き、咲夜がそんな事を言うと、

「あ、あははは……」

美鈴は苦笑いを浮かべながら顔を咲夜から逸らした。
そんな美鈴に咲夜は呆れた視線を向けつつも気持ちを切り替え、

「じゃ、付いて来て龍也」

龍也に付いて来る様に言って紅魔館へと足を進めて行く。

「ああ、分かった」

龍也も咲夜の後を追う様に足を進め、紅魔館の中へと入る。
紅魔館の中に入り、そのまま長い廊下を歩いている中、

「あ、そうだ。出来れば暫く泊めて欲しいんだけど……」

龍也は暫らく紅魔館に泊めて欲しいと言う。
すると、

「構わないわ。お嬢様は貴方が紅魔館に来る事も泊まる事も全て許可をしているから。それと、お嬢様は貴方が望むのなら
紅魔館で一生暮らしても良いと仰っていたしね。だから、好きにして良いわよ」

咲夜はレミリアが許可を出しているし一生紅魔館で暮らして良いと言っていたから構わないと返す。

「一生ねぇ……」

一生暮らしても良いと言われた龍也は少し考える。
今は色々と放浪している生活が好きだし楽しいが、何時かはそれが変わる時が来るのだろうかと。
龍也が少し自分の事に付いて考えていると、

「着いたわよ」

何時の間にか脱衣所の前に着いてた。

「……あ、そうか」

咲夜の言葉で龍也が意識を戻すと、

「脱いだ物とかは籠の中に入れて置いてね。後で洗濯して置くから」

咲夜は脱いだ物は籠の中に入れる様に指示を出す。

「分かった」
「後、着替えは籠の横に置いておいたから」

既に着替えを準備して置いたと咲夜が言うと、

「色々とありがとな」

龍也は感謝の言葉を返す。

「別に構わないわ」

構わないと返した後、咲夜は音も無く消えた。
音も無く消えた事から時間を止めて移動した様だ。
ああ言う風に移動を出来るのは便利だなと思いながら龍也は脱衣所に入り、ポケットの中に入れている物を取り出してから服を脱ぐ。
服を全て脱ぎ終わると浴場の中に入り、体を洗っていく。
体を洗い終えると、龍也は湯船に浸かり、

「あー……」

気の抜けた表情を浮かべる。
体中から疲れが抜けていく様な感覚を覚えたからだ。
疲れが抜け切るまでこのままのんびりして様かと思いながら顔を真上に向けると、

「おお……」

豪華そうな天井が目に映った。
こう言った所も凝ってるなと思いながら、天井の材質は大理石かなと龍也は考える。
天井の材質を考えながらのんびりと過ごしていると、

「んー……そろそろ上がるか」

疲れが取れたからか龍也は湯船から出て、着替える為に脱衣所に向かう。
そして着替えが終わると、

「やっぱこの格好か……」

龍也は着替え終わった自分の格好を見て少し不満気な表情を浮かべる。
現在の龍也の格好はタキシードに蝶ネクタイと言ったものだ。
こう言った畏まった服装は龍也としてはあまり好みではないが、世話になっている身なので文句を言う積りは無い。

「そのうちこう言った服装に慣れたりするのかな?」

龍也はそんな事を呟きながら取り出した物をポケットに入れて脱衣所を出ると、

「咲夜」

咲夜がの姿が目に映った。
どうして脱衣所の前で待っていたのかと思っていると、

「この後どうする? 食堂の用意もできるし、もう休むのなら部屋に案内するけど?」

咲夜は龍也にこの後どうするかを尋ねる。
どうやら、風呂から上がった後にそれを聞く為に待っていたくれた様だ。
態々待っていてくれた咲夜に龍也は心の中で礼を言いつつ、今の自分の状態を確認していく。
先程食べたサンドイッチのお陰で空腹感はあまりないし、眠気も殆ど感じられない。
その事を咲夜に伝え様としたところで、

「あ、そうだ。出来れば図書館に案内して欲しいんだけど、良いか?」

龍也は思い出したかの様に図書館に案内して欲しいと言う。

「図書館に? 分かったわ、付いて来て」

咲夜は了承の返事を返し、龍也の背を向けて歩き出す。
この広い紅魔館で一人になったら確実に迷ってしまので、龍也は咲夜を見失わない様に少し慌て気味に後を追う。
暫らくの間歩き続けると図書館へと続くドアの前に辿り着き、咲夜はドアを開けて図書館の中に入って行く。
それに続く様に龍也も図書館の中に入り、更に足を進めて行くと本を読んでいるパチュリーの姿が目に入った。
二人はそのままパチュリーに近付き、

「パチュリー様」

咲夜はパチュリーに声を掛ける。
声を掛けられたパチュリーは本から目を離して顔を上げると、

「あら、咲夜に龍也じゃない」

咲夜と龍也の存在に気付く。
同時に本を机の上に置き、

「何か用?」

用件を問うと、

「龍也が図書館を使いたいとの事です」

咲夜が図書館にやって来た用件を口にする。

「そう」

図書館にやって来た理由を聞いて納得した表情を浮かべたパチュリーは龍也の方に顔を向け、

「で、何の本を探しに来たの?」

どんな本を探しに来たのかを聞く。

「ああ、武術書の類の本があれば見せて欲しいんだけど……有るか?」
「有るわよ。今、小悪魔に案内させるわ」

パチュリーは武術書の類の本が有る事を肯定し、小悪魔を呼ぶ。

「お呼びですか、パチュリー様」

小悪魔がパチュリーの元にやって来ると、

「龍也を武術書関連の本を置いてある場所に案内して上げて」

パチュリーは小悪魔に龍也を武術書関連の本がある場所まで案内する様に指示を出す。

「畏まりました」

パチュリーに頭を下げた後、

「それじゃ、龍也さん。付いて来てください」

小悪魔は龍也に付いて来る様に言って歩き出す。
小悪魔の後に続く様に龍也も歩き出そうとすると、

「あ、それともう私の図書館を壊さないでね」

パチュリーは自分の図書館を壊さない様に言う。

「分かってるって。あ、咲夜。案内してくれてありがとな」

パチュリーに分かっていると返した後、龍也は咲夜に礼を言って小悪魔を見失わない様に今度こそ足を進めて行く。
歩き始めてから幾らか時間が過ぎると、

「こちらになります」

目的の場所に辿り着いた。

「ああ、ありがとう」

礼を言った後、龍也は視線を本棚に移しながら改めて思う。
ここの蔵書量は半端じゃないなと。
龍也がそんな事を思っていると、

「では、何かありました呼んでくださいね」

小悪魔はそれだけ言ってこの場を後した。
小悪魔が去った後、

「さて、探すか」

龍也は跳躍を行って一番上の段から目的の本を探していく。






















「……………………………………」

現在、龍也は本棚を背に本を読んでいる。
呼んでいる本に書かれている内容は二刀流に付いての事。
何故この本を読んでいるかと言うと、当然銀色の髪をした少女対策だ。
まぁ、あの少女の二刀流は結構特殊なのでこの本に書かれている事が役に立つかは分からないが。
それでも何かの参考程度にはなるだろう。

「……成程なぁ、二刀流と言っても結構流派とか色々あるんだな」

本を読み切った後、龍也はそんな感想を漏らしながら本を閉じて両腕を伸ばす。
ある程度すると龍也は両腕を下ろして読んでいた本を横に置き、次の本を読もうと本棚から抜いて積んで置いた本に視線を向けると、

「りゅーやー!!」

上の方から龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
誰だと思いながら龍也が視線を上に移すと、

「フランドール!?」

フランドールの姿が目に映り、

「どうわ!?」

フランドールは龍也に激突する。
その影響で龍也は仰向けになる様に倒れてしまう。

「いててててて……」

仰向けになる時にぶつけた後頭部を擦りながら龍也が上半身を起こそうとすると、

「龍也!!」

フランドールが龍也のお腹辺りに乗っかって声を掛けて来た。
なので、龍也は上半身ではなく首を少し上げながら

「フランドール、どうしたんだ?」

どうかしたのかと尋ねる。
すると、

「ね、ね、龍也!! 遊ぼ!!」

フランドールは満面の笑顔で遊ぼうと言う。

「遊びねぇ……」

遊ぼうと言われ、龍也は少し考える。
ずっと本を読んでいた事だし、体を動かして少しリフレッシュする必要があるかもしれないと。
それにフランドールの表情から自分が来て嬉しいと言う感情を何となく察したので断ると言うのも龍也としては気が引けた。
なので、

「そうだな、遊ぼっか」

龍也は遊ぶ事を承諾する。

「やった!!」

フランドールは嬉しそうな表情をしながら龍也の手を取って立ち上がらせた後、龍也と手を繋いだまま少し開けた場所に移動して行く。
遊びと言っても、戦いではなくボードゲームやなぞなぞと言った類のものであった。
聞いた所、ここの図書館の本に置いてある本を読んで色々と覚えたとの事。
それを聞いた時、龍也はフランドールもフランドールで色々と頑張っているんだなと改めて感じた。
因みにこの日、龍也はフランドールとの遊びに集中し過ぎて再び本を読む事なく一日を終わらせる事となる。
























前話へ                                         戻る                                       次話へ