龍也が博麗神社を後にしてから一週間程経った。
だが、龍也は一向に銀色の髪をした少女の足取りを掴めないでいる。
前に戦った場所を含めて幻想郷中を色々と回ったりしたのだが、収穫は全くの零。
一向に銀色の髪をした少女が見付からなかったからか、

「あ、すいません。団子お代わりお願いします」

龍也は気分転換がてらに人里の団子屋で団子を食べていた。
この気分転換が切欠で銀色の髪をした少女の足取りが掴めれば良いなと思いながら龍也が茶を啜っていると、

「はい、おまちど」

店員が団子が乗った皿を持って来る。

「ども」

龍也は礼を言いながら団子が乗った皿を受け取り、団子を食べていく。
そして団子を食べ終えると、

「お勘定、ここに置いておきますよ」

龍也は座っている長椅子に代金を置き、団子屋を後にする。
団子屋を後にした龍也は人里を歩きながら、

「何所に行くべきか……」

何所に行くべきかと呟く。
今までの捜索活動から、闇雲に探しても見付かりはしないと言う事は龍也にも分かっている。
何かに狙いを絞って探す必要があるだろう。
しかし、

「狙いって言ってもな……」

何を狙って探せば良いのかは全く分からない。
あの少女が行きそうな場所の手掛かりでも無いものかと考えていると、

「……ん?」

龍也の耳に里民の話し声が入って来た。
普段であれば気にも留めなかったであろうが、それが変に気になった龍也は声が聞こえて来た方に顔を向ける。
すると、妙に不思議そうな表情を浮かべている里民達の姿が目に映った。
何かあったのかと思った龍也は里民達に近付き、

「どうかしたんですか?」

どうかしたのかと尋ねる。

「ん? ああ、今年は妙に冬が長いなと思ってさ」
「冬が?」

冬が長いと言った里民に龍也が少し不思議そうな表情を浮かべていると、

「そうさ。もう五月だって言うの一向に雪が溶けずに寒いままだ」

別の里民がもう五月であると言う。

「へぇ、五月……五月!?」

五月である事を聞いた龍也は驚きの表情を浮かべる。
もう五月になっているとは流石に思わなかったからだ。

「この雪と寒さのせいで作物が育てられなくてな。まぁ、静葉様と穣子様のお陰で毎年……特に秋は作物が沢山採れるからな。蓄えなら十分過ぎる程に
あるから最悪この一年作物などが育てられなくても全然問題無いんだけどな」
「そうなんですか」

こんな所で静葉と穣子の凄さを確認するとは思わなかったと言う表情を龍也が浮かべていると、

「んだんだ。それと先代の博麗の巫女様が人里全体の食料庫に特殊な結界を張ってくれたお陰で作物が腐らずに済んでいるしな。それのお陰で
本当に余裕があるんだ。寧ろ、余っている位だ」

また別の里民が先代の博麗の巫女が人里全体の食料庫に特殊な結界を張ってくれたお陰で保存している食料は腐らずに済んでいるのだと言う。

「馬鹿言え。その結界を貼って下さったのは先々代の巫女様だったろうに」
「いや、昔死んだ俺の爺さんが言うにはあの結界を貼ったのはもっと前の巫女様らしいぞ。先代様と先々代様は結界をより強固にしてくださった方達の筈だ」
「いやいや……」
「だから……」
「違う……」

何やら揉め始めた里民達を見ながら、龍也は自分の知っている博麗の巫女である霊夢は本当にグータラ巫女何だなと改めて知った気分になった。
その後、

「ま、グータラしてる方が霊夢らしいと言えば霊夢らしいのか」

龍也はそんな事を呟き、揉めている里民を余所にその場から離れて行く。
そして、足を進めながら先程里民の一人が言った発言に付いて考える。
考えている発言と言うのは、今年は妙に冬が長いと言う発言。
龍也はそれに妙な引っ掛かりを覚えているのだ。

「んー……後少しで引っ掛かりが取れそう何だけどな……」

答えを得る為により頭を回転させ始めた瞬間、

「……あ」

思い出す。
何を思い出したのかと言うと、銀色の髪をした少女が言っていた事をだ。
あの少女は確かに言っていた。
春度と言うものを集めていると。

「若しかして……あいつが春度と言うのを集めているから……」

春度。
名前からして思いっ切り春に関係がありそうだ。
故に、龍也は銀色の髪をした少女が春度と言うものを集めているからまだ冬が続いているのではと言う推察を行う。
推察したのと同時に龍也は人里の出口へと向かい、人里の出口に着くと、

「……暖かい場所を探しながら移動すれば多分見付かるだろ」

少々楽観的な事を口にしながら空中に躍り出て、何となく暖かいと感じる場所へと向かって行った。





















人里を後してから道のりは、暫らくの間は平和なものであった。
しかし現在は、

「……っと」

飛んで来る弾幕を避けて進んで行くと状態になっている。
因みに弾幕を放って来ているのは妖精達だ。

「妖精ってのは本当に何所にでも現れるんだな……」

龍也は妖精が神出鬼没である事を改めて思い知った気分になりながら、

「そういや……大量の妖精に襲われたのってあの時以来か?」

大量の妖精に襲われたのはあの時以来かと呟く。
龍也の言うあの時と言うのはレミリアが起こした異変の時の事だ。
レミリアが異変を起こした時にも大量の妖精に襲い掛かられ、今も大量の妖精に襲い掛かられている。
この事から、

「異変の時には妖精に襲い掛かられ……と言うか凶暴化し、そしてそれが当て嵌まる現在は異変の真っ最中って事か?」

龍也はその様な推察を立てた。
妖精の方は兎も角、現在の春が来ない状態は異変と考えた方がしっくり来る。
そう思いながら龍也は弱めの弾幕を無数の放ち、妖精達を撃ち落していく。
撃ち落されていく妖精を見ながら、龍也はやり難いと言うものを感じていた。
何故ならば弾幕を放って来る妖精達の殆どから、殺気やら敵意と言ったものを全く感じないからだ。
感じるのは無邪気さとかそう言ったものだけ。
故に、龍也は妖精達を倒すのをやり難いと感じてるのだ。
殺意や敵意を剥き出しで襲い掛かって来てくれるのならそんな事を感じなくて済むのになと思い、

「はぁ……」

龍也は溜息を一つ吐き、気を取り直して先へと進んで行く。
それから少しすると、

「りゅーやー!!」

龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。

「ん?」

自分の名を呼ばれた事に気付いた龍也は一旦止まって声が聞こえて来た方に顔を向けると、

「チルノ……」

チルノの姿が目に映った。
どうやら、龍也に声を掛けて来たのはチルノであった様だ。

「どうかしたのか?」

龍也がどうかしたのかと尋ねると、

「散歩の途中で龍也を見付けたから声を掛けた」

その様な答えが返って来た。
そう答えたチルノは元気一杯と言う感じであったからか、

「しかし、元気そうだな」

龍也は元気そうだなと口にする。

「うん!! 寒いとあたいも元気になるの!!」

チルノの返答を聞き、龍也は寒くて元気になるのはチルノが氷の妖精だからかなと考えた。
まぁ、静葉と穣子も秋になったら調子が良くなると言うか元気になるから別に不思議では無いかと言う事を龍也が思っていると、

「ねぇねぇ、龍也も一緒に散歩しよ!!」

チルノが龍也に一緒に散歩をし様と言う提案を行う。

「悪い、俺は一寸用があるんだ。だから、一緒に散歩は出来ない」

龍也は用があるので一緒に散歩は出来ないと言う旨を伝えると、

「えー!!」

チルノは露骨に不満そうな表情を浮かべる。

「また今度……な」

龍也が申し訳なさそうな表情でまた今度と言うと、

「……仕方ないわね。あたいがライバルである龍也の肩を持って上げるわ。感謝する事ね」

渋々ではあるが、チルノは納得した表情を浮かべて何所かへと飛んで行った。
微妙に文法が違う様な気がしたが、龍也は気にせずにチルノが去って行く様子を見届ける。
チルノの姿が完全に見えなくなると、龍也は再び移動を再開したが、

「……ま、こうなるよな」

移動を再開し始めて直ぐに大量の妖精が現れ、弾幕を放って来た。
予想は出来ていた事ではあるが、只の道中でこうも頻繁に現れて邪魔をされれば流石に鬱陶しくなって来る。
龍也は少し苛々とした表情を浮かべながら妖精を弾幕で撃ち落し、先へと進んで行くと、

「あら、龍也じゃない」

レティが現れた。

「レティ」

レティが現れた事で龍也は弾幕を放つのを止めて立ち止まり、

「元気そうだな」

元気そうだなと声を掛ける。

「ええ。冬の季節だと元気になるわよ。私は冬の妖怪だしね」

レティが笑顔で自分は冬の妖怪だから冬の季節では元気になるのだと言う。
それを聞き、冬の妖怪が居るのなら春、夏、秋の妖怪も居るのかなと龍也が思っていると、

「それにしても、今年の冬は長いわね……」

レティは今年の冬は長いと言う事を口にする。
冬が長い事と言ったレティに、

「そうそう、この長い冬は多分異変だぜ」

龍也は思い出したかの様にこの長い冬はおそらく異変であるとレティに伝えた。

「あら、そうなの?」

この長い冬は異変である事を聞いたレティは驚いた表情を浮かべる。
どうやら、冬が長いと言うだけ異変であるとは思わなかった様だ。

「ああ、春度って言うものを集めてる奴が居るから春が来なくて冬の儘って事だと思うぞ」
「成程ねぇ……」

レティが納得した表情を浮かべていると、

「で、だ。俺は暖かい方に向かって移動してるんだが……方角はこっちで合ってるか?」

龍也はレティに暖かい方向は今進んでいる方で合っているかと問う。

「そうね……」

レティは少し考える素振りを見せながら龍也の視線の先に目を向け、

「合ってるわ」

合っていると口にした。

「そりゃ良かった」

進行方向が間違っていなかったので龍也がホッとした表情を浮かべると、

「それを聞くって事は龍也は異変解決に向かっているの?」

レティは龍也に異変解決に向かっているのかと尋ねる。

「あー……そうなるのかな?」

龍也は曖昧ながらも異変解決に向かっている事を肯定する。
龍也の本来の目的は銀色の髪をした少女にリベンジをする事なのだが、春度を集めているのもその銀色の髪をした少女。
となれば、強ち異変解決に向かっていると言うのも間違ってはいない。

「じゃあ、この長い冬も終わっちゃうのかしら」

龍也が異変解決に向かっている事を知ったレティは残念そうな表情を浮かべる。
まだ、この冬を満喫したかった様だ。

「そう言うなって。今回の冬が長くなり過ぎると、次の冬が短くなるかもしれないぞ」
「それは困るわね」

龍也にこれ以上冬が長くなったら次の冬が短くなるかもしれないと言われたレティは仕方が無いと言う表情を浮かべ、

「それじゃ、そろそろ春になった時の為に休めそうな場所を探しに行こうかしら」

そんな事を呟く。

「そうしとけ」

休めそうな場所を探すと言ったレティを肯定する発言を龍也が行うと、

「それじゃ、異変解決頑張ってね」

レティは龍也に応援の言葉を掛ける。

「ああ、頑張るさ」

レティの応援を受けながら、龍也は再び先へと進んで行った。





















レティと別れてから暫らくすると、

「ん、何だ……」

急に周囲の景色が変わった。
龍也はその事にも驚いたがもう一つ、更に驚くべき事があったのだ。
それは、

「暖かい……」

暖かさ。
そう、ここ等一帯は暖かいのである。
つい先程までは寒さが支配していたと言うのにこの急激な気温の変化。
まるで行き成り冬から春になった様に感じたからか、

「ここに……あいつが居るのか?」

龍也は銀色の髪をした少女がここに居るのではと考え、周囲を見渡す。
周囲に見える景色には雪は一欠けらも無く、木々には葉を付けている。
やはり、この場所は冬とは無縁の場所の様だ。
その事を理解した後、龍也は周囲を見渡すのを止めて何かを期待した様な表情を浮かべながら先へと進んで行く。
何に期待しているのかと言うと勿論、ここに銀色の髪をした少女が居るのではと言う事だ。
だからか、龍也の足取りは次第に速くなっていく。

「……っと」

自分の足取りが速くなっている事に気付いた龍也は自身の気持ちが逸っている事を自覚する。
逸る気持ちを抑える様にペースを落とした時、龍也の進行方向上に無数の妖精が現れて弾幕を放って来た。

「本当に妖精って言うのは何所にでも居るな」

龍也はそんな愚痴を口にしながら弾幕を放ち、妖精達を撃ち落しながら進んで行くと、

「あれは……鳥居か」

紅い色をした鳥居を発見する。
鳥居が見えた事からこの近辺に神社でもあるのかと思った龍也は一旦立ち止まり、弾幕を放つのを止めて周囲を見渡すが、

「……無いな」

神社の存在は何所にも無かった。
少しがっかりした表情を浮かべながら鳥居に視線を戻すと、龍也は博麗神社の鳥居よりも立派だなと言う感想を抱く。
こんな感想を抱いた事を霊夢に知れたら、霊夢は怒るだろうなと言う事を考えていると、進行方向上に何体かの妖精が現れて弾幕を放って来た。

「……おっと」

迫り来る弾幕を龍也は体を傾ける事で避け、お返しと言わんばかりに弾幕を放って妖精を撃ち落す。
妖精を一掃し終えると、龍也は弾幕を放つのを止めて移動を再開する。
移動を再開してから少しすると、

「あれは……民家か?」

民家らしき建物が龍也の目に映った。
住民が居るかどうかを探る為に龍也は民家らしき建物に近付き、屋根の上に足を着ける。
幻想郷の人里で見られる一般的な民家の様だなと思いながら、龍也は中に誰か居ないかと気配を探ってみると、

「……誰も居ないな」

誰も居ないと言う事が分かった。
完全な空き家かと龍也は判断し、周囲を見渡すと同じ様な民家が幾つも目に映る。
幾つもの民家が見られるが、ここは何かの集落なのであろうか。
しかし、

「……この近辺には気配とかは感じないな」

この近辺には気配と言うものが感じられなかった。
何でこんな所に無人の集落があるのかと言う疑問を龍也は覚えたが、直ぐに考えても仕方が無いと悟ったのか空中に躍り出て移動を再開する。
移動している最中に龍也は眼下を見下ろして見たが、やはりと言うべきか誰の姿も映りはしない。
ここは完全に無人の集落の様だ。
外の世界の何所かに在った無人の集落が幻想入りでもしたのかと言う推察を立てていると、

「じゃじゃーん!!」

龍也の目の前に何者かが現れた。
行き成り現れた事に龍也は少し驚くも、直ぐに足を止めて現れた者の姿を確認する。
龍也の目に映ったのは肩口位の長さに揃えられた茶色い髪に猫耳を生やした女の子。
その風貌から妖怪かと龍也は思いながら、

「え……と、誰だ?」

龍也は何者なのかと問う。

「私? 私は橙だよ」

現れた女の子はすんなりと自分の名を名乗ってくれた。
橙の反応から意外と好意的な妖怪なのかと龍也が思っていると、

「お兄さんの名前は?」

橙が龍也の名を尋ねて来る。

「俺は龍也。四神龍也って言うんだ」
「お兄さんは龍也って言うんだ」
「ああ」

互いの自己紹介が終わると、

「処で、お兄さんはどうしてこんな所にやって来たの?」

橙は龍也にここにやって来た理由を問う。

「暖かい場所を探して……って、若しかして橙も春度を集めてたりするのか?」

龍也は問われた事に答え様とした時、思い出したかの様に橙に春度を集めているのかと尋ねると、

「ううん、私はそんなの集めて無いよ」

橙は首を振って春度は集めていないと返す。

「そっか……」

橙が銀色の髪をした少女の部下か何かと言う可能性が少しはあったが、橙の発言からその可能性は完全に無くなった。
序に銀色の髪をした少女がここに居ると言う可能性も。
龍也は少しがっかりとした表情を浮かべながら、

「そーいや、ここってどう言う場所何だ?」

橙にここがどう言う場所なのかを問う。

「どう言った場所って……ここはマヨヒガだよ」
「マヨヒガ?」

初めて聞く単語であったからか龍也が首を傾げると、

「迷い家とも言うかな。迷った人が偶に迷い込む場所。本当に偶にね。それがマヨヒガ」

橙がマヨヒガがどう言った場所であるかを簡単に説明する。

「へー……」

龍也が感心した表情を浮かべていると、

「今言った様にここには簡単に来る事は出来ないんだけど……ここに来れたって事はお兄さん、運が良いね」

橙が龍也は運が良いと言う。
それを聞き、龍也はここ等一帯が冬ではなく春である理由を理解した。
単純に銀色の髪をした少女はここに来る事が出来ず、マヨヒガの春度を奪う事が出来なかったからだ。
橙曰くマヨヒガは簡単に来る事は出来ないと言う事なので、銀色の髪をした少女がここに来る事が出来なかったのも頷ける。
ここに銀色の髪をした少女が居ないのであれば長居は無用。
さっさと先へと進む為に、

「なぁ、マヨヒガから出る為にはどう行けば良いんだ?」

龍也は橙にマヨヒガから出る方法を聞く。

「マヨヒガから出たいの? 適当に進んで行けばそのうち出れると思うよ」

橙からマヨヒガからの脱出方法を聞いた龍也は進行方向はこのままで良いなと言う事を考えていると、

「ねぇねぇ、お兄さん」
「ん?」
「只でここから出られるとは思ってないよね」

橙がそんな事を口にする。
どうやら、先に進む為には橙を倒さなければならない様だ。
流石に素通りさせてくれると言う都合の良い展開にはならないかと龍也は思いながら、

「……弾幕ごっこでか?」

弾幕ごっこで戦うのかと問う。

「うん!!」

橙が元気良く弾幕ごっこであると言う返事をすると、龍也は後ろに跳んで間合いを取る。
龍也と橙の距離が十分離れると、

「弾幕ごっこで私に勝てたらここから出て行っても良いよ」

橙は自分に勝つ事が出来たらマヨヒガから出て行っても良いと言う。

「なら、勝ってここを出て行かせて貰うぜ」

龍也が勝って出て行くと言った瞬間、橙は弾幕を放って来た。
橙が放つ弾幕を見て、やはり妖精達が放つ弾幕とは文字通り格が違うと言う感想を抱きながら、

「……っとお!!」

迫って来ている弾幕を避けていく。
そして、橙の弾幕を掻い潜る様な軌道で龍也も弾幕を放つ。
龍也が放った弾幕は橙に向かって行くが、

「おっと、当たらないよ!!」

弾幕は橙に容易く避けられてしまう。
体が小さい分、小回りが利くのかなと思っていると、

「っと」

目の前に弾幕が迫って来ている事に気付き、龍也は回避行動を取る。
中々弾幕が当たらないからか、

「やるね、お兄さん。でも、これならどうかな?」

橙は龍也は称賛する台詞を口にし、放つ弾幕を変えて来た。
速い弾幕。
遅い弾幕。
ある程度のホーミング性能がある弾幕。
これ等の三つの弾幕を織り交ぜて放って来たのだ。

「ッ!?」

迫って来る三種類の弾幕を見た龍也は驚きの表情を浮かべる。
何故ならば、こんな器用なマネが出来るとは思っていなかったからだ。
弾幕を避ける為に龍也は体を動かしていくが、

「くっ!!」

橙の放つ弾幕が非常に避け難いからか、体に弾幕を掠らせていってしまう。
三種類の弾幕を織り交ぜる事で容易く弾幕を避けれない様にする。
上手い手であると龍也は思った。
並大抵の者なら直ぐに被弾するであろう弾幕に龍也が被弾せずに済んでいるのは、対弾幕戦の修行を行ったお陰であろう。
元々は銀色の髪をした少女対策で行った修行ではあるが、通常の弾幕ごっこ対策にもなった様だ。
自分の修行に付き合ってくれた魔理沙とアリスに龍也は改めて感謝の念を抱きながら、橙の弾幕を冷静に観察していく。
アリス曰く戦いなどに必要なのはブレインとの事なので、橙の弾幕を探っていけば何処かに突破口があると踏んだからだ。
そもそも、これは弾幕ごっこなので突破口や隙などはあって当然なのだが。
橙の弾幕に当たらない様に気を付けながら突破口を探し始めてから少しすると、

「ん……」

龍也はある事に気付く。
何に気付いたのかと言うと、それぞれの種類の弾幕を放つ時の合間合間に僅かながらに隙がある事だ。
龍也はその隙を突く為にタイミングを計り、

「……そこ!!」

何発かの弾を放つ。
放たれた弾は橙の弾幕を掻い潜り、

「にゃ!?」

橙に当たっていく。
攻撃を当てられたからか、橙は弾幕を放つのを止めて龍也から距離を取る。
多少ふら付いてはいるが、まだまだ健在である事は橙の様子から分かった。
そう簡単に決着は着かないかと龍也が思っていると、橙は懐に手を入れる。
そして懐からスペルカードを取り出し、

「仙符『屍解永遠』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードを発動させると橙は回転しながら小刻みに動き、赤と青の弾幕を放ち始める。
迫って来る弾幕を避けていき、龍也も弾幕を放とうとするが、

「ッ!!」

放てなかった。
橙の放つ弾幕の密度が中々に濃いからである。
これでは弾幕を放っても、橙に届く前に橙の弾幕と相殺し合って消えてしまう事であろう。
かと言って正確に狙いを定める為に動きを止めてしまったら、橙の弾幕に呑み込まれてしまう未来が容易く想像出来る。

「……やるだけやってみるか」

何もせずに避けるままでは埒が開かないと判断したからか、龍也は回避行動を取りながら弾幕を放つが、

「チッ……」

やはりと言うべきか龍也は放った弾幕は橙の弾幕の一部と相殺し合うだけで、橙に弾幕を当てる事は出来ていない。
しかも、弾幕量では橙の方が圧倒的に上なので弾幕で相殺させても僅かな時間弾幕を来るのを遅らせるだけ。
弾幕を放っても殆ど意味を成さない。
攻勢に出る為にはどうすればどうすれば良いか頭を捻らせた時、

「……あ」

龍也は思い出す。
この状況を打開するスペルカードを持っている事を。
ならば、使うしかあるまい。
龍也は懐に手を入れ、スペルカードを取り出し、

「咆哮『白虎の雄叫び』」

スペルカードを発動させる。
その瞬間、龍也の瞳の色が黒から翠に変わって無数の小型の竜巻と弾幕が放たれていく。
弾幕は兎も角、放たれた竜巻が至る所に配置されたせいか、

「ッ!?」

橙は動く範囲を大幅に狭めてしまう。
下手に動けば竜巻に突っ込んでしまう事になるので橙の判断は正しい。
しかし、今回はその正しさが間違いであった。
何故かと言うと、

「にゃ!?」

龍也と橙の弾幕が竜巻に当たり、竜巻に当たった弾幕が予想も付かぬ方向へ跳ね返っていったからだ。
これでは回避先を狭めていると同じ事。
龍也は自身が発動したスペルカードだから、当然どういった事が起こるか予想出来ていた。
故に、竜巻に当たって跳ね返って来た弾幕を龍也は弾幕を放ったまま己が反射神経と動体視力のみで避けていく。
だが、このスペルカードの特性を知らない橙はそうはいかない。
全く規則性が無く、あらゆる方向から飛んで来る弾幕に曝された橙は、

「わ!? たったったった!!」

弾幕を次々と体に掠らせていき、

「きゃう!!」

最後には弾幕を次々とその身に受け、橙は爆発と爆煙に包まれていってしまう。
橙が爆発と爆煙に包まれたのと同時に、龍也は弾幕を放つを止めて様子を見始める。
それから少しすると、

「お……」

爆煙の中から何かを突っ切る様に何かが真っ逆さまに落ちて行った。
落ちていっているのは橙である。
浮上したり体勢を立て直したりしない事から、橙は完全に気絶してしまっている様だ。
このままでは地面に激突してしまうと思った龍也は落下して行っている橙に近付き、

「よ……っと」

橙を抱き寄せて落下を防ぐ。
このまま橙の外に出したままと言うのもあれだったので、龍也は橙を連れて近くの民家の中に入る事にした。





















民家に入ってから暫らくすると、

「うー……ん」

橙が目を覚まし始めた。

「お、起きたか」

目を覚ました橙に龍也が顔を向けると、

「ここは……」

橙はここが何所か確認する様に顔を動かす。
そんな橙に、

「近くにあった家の中だ」

龍也は今居る場所がどう言った場所であるかを説明する。
ここが民家の中である事を知った橙は改めて周囲を見渡し、

「あ……」

自分が布団の中で寝ていた事に気付く。
龍也が布団を引いてくれたのか思いながら橙は龍也に視線を向け、

「若しかして、私が起きるまで待っててくれたの?」

自分が起きるまで待っていてくれたのかと問う。

「ああ、流石にここに運んでそのままって言うのも寝覚めが悪いからな」

龍也がその事を肯定すると、

「へぇー……お兄さん優しいね」

橙はそんな感想を抱きながら柔らかい表情を浮かべる。
橙が目を覚ましたので出発しても良かったが、折角なので龍也は橙と雑談を交わす事にした。
その中で、龍也は橙が妖怪ではなく妖獣である事を知る。
序に式神でもあると言う事も。
龍也は妖怪と妖獣の違い、そして式神と言うのはよく分からなかったがそう言うもの何だと思う事にした。
雑談が一段落着くと、

「それじゃ、俺はそろそろ行くな」

龍也は出発する旨を橙に伝える。

「うん。またね、お兄さん」
「ああ、またな」

軽い挨拶を交わした後、龍也は民家から出て空中に上がって移動を開始した。
マヨヒガから出て、銀色の髪をした少女を探す為に。

























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