プリズムリバー三姉妹との弾幕ごっこが終わった後、

「で、お前達も異変解決なのか?」

龍也は援護攻撃を行ってくれた魔理沙、咲夜、霊夢の三人に異変解決の為にやって来たのかと尋ねる。
すると、

「おう、そうだぜ。好い加減、春が恋しくなったからな」
「私の方は紅魔館の燃料が切れそうだったからね」
「私は冬が異常に長いと思ってね」

三人からそんな答えが返って来た。
異変解決に来た理由は三者三様みたいではあるが、異変を解決し様と言う意思は皆同じみたいだ。
三人がそれぞれ異変解決に来たと理由を口にした後、

「で、この先に異変の首謀者がいるのかしら」

咲夜が代表するかの様にこの先に異変の首謀者が居るのかと問う。

「ああ、多分居る筈だ。少なくとも、あっち側の方から流れて来る風は暖かく感じるしな」

龍也は異変の元凶がこの先に居るだろうと言い、今居る場所の気温は冬の様には思えないと付け加える。

「成程。それで、この先に行こうとしたらさっきの連中に襲われたって訳?」

龍也が口にした事を聞いた咲夜は納得したと言う表情を浮かべ、先に進もうとしたら襲われたのかと尋ねると、

「ああ。で、弾幕ごっこが終わった後にこの門の開け方をあいつ等に聞こうと思ってたんだ」

龍也は咲夜が言った事を肯定し、弾幕ごっこが終わった後に門の開け方を聞こうと思っていたと言いながらプリズムリバー三姉妹を探す為に顔を動かす。
先程の爆発の影響で墜落したかと言う考えが龍也の一瞬頭を過ぎったが、直ぐにプリズムリバー三姉妹の姿が見付かった。
少しボロボロの状態ではあるが、三姉妹全員普通に元気そうだ。
元気そうであったからか、龍也は気兼ねなくプリズムリバー三姉妹に近付き、

「居た居た、この門はどうやって開けるんだ?」

巨大な門の開け方を尋ねる。
これで門の開け方が分かると思われたが、

「知らないよ。門の開け方何て」

尋ねた事に対してリリカから門の開け方何て知らないと言う答えが返って来た。

「……は?」

リリカの返答を聞いた龍也は思わず目を点にしてしまう。
何せ、弾幕ごっこする前の会話で龍也が勝てば門を開けてくれると言う様な事を口にしていたからだ。
約束が違うと言う文句を龍也が発し様とした時、

「だって、私達は門を開けずに門の上を通って出入りしているものー」

メルランは門を開けずに門の上を通って行ったり来たりをしているのだと言う事を伝える。

「……それって、門の意味あるのか?」
「さぁ? 無いんじゃないかな?」

龍也の呟きに、ルナサは意味は無いのではと言う相槌を打つ。
それでは、一体何の為にこの門は存在しているのかと言う疑問を龍也が抱き始めた瞬間、

「行くなら止めないけど、この先は冥界だから気を付けてね」

リリカが門の先は冥界だから気を付ける様に言う。

「冥界ねぇ……」

冥界と言う言葉を聞き、龍也は驚いた表情を浮かべた。
生きている間に冥界に行く事になるとは思わなかったからだ。
しかし、驚いたと言ってもそれ程大きな動揺は龍也には見られなかった。
それだけ幻想郷に慣れたと言う事であろうか。
冥界に行けると言うのなら、若しかしたら天国や地獄と言った場所にも行けるのかなと考えながら、

「取り敢えず、情報ありがとな」

龍也は情報を教えてくれた事に対して礼を言う。
その後、龍也は早速巨大な門を越える為に高度を上げ様としたが、

「それじゃ、お先に行かせて貰うぜ」

龍也が高度を上げる前に魔理沙が先陣を切る様にして真っ先に高度を上げ行った。
先に行った魔理沙を見て、出鼻を挫かれた感を龍也が受けている間に、

「それじゃ、私も」

魔理沙の後に続く様に咲夜も高度を上げて行く。
魔理沙と咲夜の二人の姿が小さくなり始めたのを見て、

「私達も早く先に行きましょ」

霊夢は龍也に先へ進む様に促す。

「ああ、そうだな」

龍也は同意する言葉を口にしつつ、霊夢と一緒に高度を上げて先に行った魔理沙と咲夜の後を追う。
そして、一同は門の天辺を越えて冥界へと突入する。
冥界に入って直ぐ雰囲気か少し変わったからか、龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人は少し警戒した様子を見せながら先へと進んで行く。
冥界と言っても人魂などがチラホラ見受けられるだけで土や草と言ったものの色が違うと言う様な劇的な変化がある訳ではないのかと龍也が思っていると、

「そーいや、龍也って変わった飛び方してるよな」

魔理沙が龍也の飛行方法が変わっていると口にする。
霊夢、魔理沙、咲夜の三人と違って龍也は空を飛んでいると言うよりは空を駆けていると言った方が正しいであろう。
魔理沙に自分の飛び方を指摘され、龍也は今まで出会って来た者達の事思い出しながら、

「言われてみれば、俺の様な飛び方をしてる奴を見た事は無いな。俺の場合、空中に見えない足場を作ってそこに足を着けて移動してるからな。だから、
お前等の様に飛んでいるとは言い難いな」

自分の様な飛び方をしている者を見た事は無いと言い、自身がどの様な飛び方をしているのかを教えた。
龍也の飛行方法を聞いた霊夢、魔理沙、咲夜の三人は、

「はー……あんた、結構器用な事してるのね」
「空中に見えない足場ねぇ……中々に面白い方法で飛んでるじゃないか」
「確かに、貴方の場合は飛んでいるとは言い難いわね。どちらかと言うと、空を駆けていると言った方が正しいわね。けど、龍也の様な飛び方をしている
者は聞いた事が無いわね。若しかして、空中に見えない足場を作って飛んでいるのって龍也だけ何じゃ無い?」

口々にその様な感想を漏らす。
三人の感想を聞き、龍也は自分の様な飛び方はそんなに珍しいのかと言う様な表情を浮かべながら、

「俺としてはお前達の様にそうやって飛んでる方が不思議なんだけど……どうやって飛んでるんだ?」

霊夢、魔理沙、咲夜の様な飛び方の方が不思議だと言い、どの様にして飛んでいるかと尋ねる。
すると、

「私は魔力を使って飛んでるぜ」
「私は……適当かしらね?」
「私は霊力を使って飛んでるわね」

魔理沙、霊夢、咲夜から今一つ要領が得ない答えが返って来た。
龍也としてはもう少し具体的な説明が欲しかったからか、

「もっと、こう……何かないの?」

詳しく言ってくれないかと口にする。

「んー……何かと言っても……あ、そうだ。飛ぶぞーって気持ちを籠めるとか?」

魔理沙は少し考え、心意気の様なものを言うと、

「実際にやってみたら?」

霊夢は実際に飛んでみたらどうだと言う提案を行う。

「……それもそうだな」

霊夢の言う事も最もだと思ったからか、実際に試してみる為に龍也は一旦進行を止める。
それに釣られるかの様に霊夢、魔理沙、咲夜の三人も進行を一旦止めると、龍也は霊力を少し解放した。
体中から青白い光が漏れている事を確認した後、龍也は飛ぶぞと思いながら見えない足場を消した瞬間、

「おわあ!?」

案の定と言うべきか、龍也は空を飛ぶ事が出来ずに地面に向けて落下して行ってしまう。
落下してしまった龍也は手を伸ばして見えない足場を作る要領で何か掴めるものを作り、それを掴む事で地面に叩き付けられる事を防ぐ。

「……ふぅ」

落下せずに済んだ為か、龍也は安堵の息を漏らすと、

「あら、本当に見えない何かが在るわね」

咲夜は龍也が掴んでいる場所の近くを触り、何かが在る事を知る。

「これは……霊力で出来てるわね。言うなれば、霊力で出来た足場ね」

霊夢も咲夜と同じ様に龍也が掴んでいる場所の近くを触り、龍也の言う見えない足場を霊力で出来ていると言う。

「へー、どれどれ……」

霊夢が口にした事に興味を持ったからか、魔理沙も龍也が掴んでいる場所の近くを触り始め、

「おー……確かに、この見えないのからは霊力を感じるな」

見えない足場が霊力で出来ている事を感じ取る。
三人が口にした事を聞き、龍也が見えない足場は霊力で出来ている事を知って少し驚いた表情を浮かべていると、

「これが大気中の霊力を集めて出来てるのか、それとも龍也の霊力で出来てるのかは分からないけど……ね」

霊夢が見えない足場の霊力が大気中のものを集めているのか龍也自身のものかは分からないと呟く。
霊夢の呟きを聞き、

「へー……」

龍也は感心したと言う表情を浮かべた。
まぁ、それも無理は無い。
見えない足場を作る時、龍也は見えない足場が何で出来るのかを考えた事が無かったらだ。

「へー……って、お前な……」

自分自身の使う技能の事なのに大して知っていなかった龍也に魔理沙が少し呆れた表情を向け始めた時、

「俺はこれを突発的な状況で使える様になったからな。その時得た感覚を覚えてこれを使って来たんだ。だから、使えるのなら使えるで良いやって感じで
深く考えた無かったんだよ」

龍也は霊力で出来た見えない足場を覚えた感覚だけで作っているのだと言いながら自身の飛行方法に付いて深く考えた事は無い事を口にし、

「……よっと」

懸垂の要領で飛び上がり、霊力で出来た見えない足場を作ってそこに着地する。
元の場所に戻った龍也は、

「さて、そろそろ行こうぜ」

霊夢、魔理沙、咲夜の三人に先に進む様に言う。
それを合図にしたかの様に、四人は移動を再開する。
移動を再開してから少しした時、

「……お」

四人の進行方向上に妖精が現れ、龍也達の進行を阻むかの様に弾幕を放って来た。
放たれた弾幕を避ける為に龍也達は散開し、弾幕を放って妖精達を撃ち落とそうとする。
現れた妖精の数はそれなりに多かったものの、四人と言う事もあってか龍也達は難なく妖精達を撃ち落していく。
妖精達を撃ち落していく中、

「……しっかし、冥界にも妖精って居るんだな」

龍也が冥界にも妖精が居る事に少し驚いた表情を浮かべていると、

「妖精だからね。妖精何て何所にでも居るんだから冥界に居ても何の不思議は無いでしょ」

霊夢は妖精何て何所にでも居るんだから冥界に居ても何の不思議は無いと返す。

「……それもそうだな」

霊夢から返された言葉を聞いた龍也が納得した表情を浮かべていると、

「にしても、四人だとサクサクと妖精を倒していけるな」
「そうね、妖精は無尽蔵と言える程に出て来るからね。霊夢と魔理沙と合流した時も楽になったけど、龍也と合流したら更に楽になったわね」

魔理沙と咲夜が四人なら楽に進めると言う事を口にする。
二人が話している事が耳に入った龍也は、

「あれ? お前等って最初っから一緒に来たんじゃ無いのか?」

霊夢、魔理沙、咲夜の三人に最初っから一緒に来たのでは無いのかと問う。

「違うわよ。魔理沙と咲夜とは途中から合流したのよ」
「で、目的が同じだっだからこうやって一緒に来てるって訳だ」
「合流した当初は私と言うかお嬢様が犯人じゃないかって疑われたわね。まぁ、前科が在るから仕方が無いと言えば仕方が無いけどね」

三人が途中から合流した事を龍也に伝えた後、

「あ、そう言えば龍也と合流する少し前に通ったルートには妖精が全然出なかったな」

魔理沙は思い出したかの様に龍也と合流する少し前に通ったルートには妖精が全然出なかった事を話す。

「多分、そこは俺が通ったルートだったんじゃないか? 俺は現れた妖精を一掃しながら進んで来たし」
「成程、それでさっきは妖精が全然出て来なかったのね」

龍也の妖精を一掃して進んで来たと言う話を聞き、霊夢は納得した表情を浮かべる。
その後、四人は妖精を撃ち落しながら雑談を交わして先へと進んで行く。
それから暫らくすると、

「おい……」
「これは……」
「何と言うか……」
「異様に長い階段だな」

龍也、咲夜、霊夢、魔理沙の目に石で出来た異様に長い階段が映った。
同時に妖精達の襲撃が止んでいる事に気付いた龍也達は弾幕を放つのを止め、一旦進行を止めて石段を観察していく。
観察したと言っても大した事が分かったと言う訳では無い。
分かった事は石段の終わりが見えないと言う事位だ。
博麗神社へと続く階段も長かったが、こちらの階段は博麗神社へと続く階段よりも遥かに長いと言う感想を龍也が抱いていた時、

「……ん?」

龍也は自分の頬に何かが当たった感触を覚える。
何か当たったのかと思った龍也は自身の頬の手を持っていき、離す。
頬から手を離した龍也の掌には、

「これは……桜の花びらか」

桜の花びらが一枚付いているのが見て取れた。
龍也が発した言葉を聞いた霊夢、魔理沙、咲夜が龍也の掌に目を向けている間に、

「……ん?」
「……お?」
「……あら?」

三人の頬にも桜の花びらが当たる。
四人はこの花びらが何所から流れて来ているのかを探す為に顔を動かすと、

「……この階段の先から流れて来ているみたいね」

霊夢が石段の先から桜の花びらが流れて来ている事を指摘する。
霊夢の指摘した事に釣られる様に龍也、魔理沙、咲夜の三人が顔を石段の方に顔を向けると、桜の花びらが幾枚も流れて来ている光景が目に映った。
これから導かれる結論は唯一つ。
それは、

「この先から桜の花びらが流れて来てるって事は……幻想郷中から春度を持って行った奴がこの先に居るって事だな」

石段の先に今回の異変の首謀者が居ると言う事に他ならない。

「十中八九、間違いないわね」

龍也が述べた考えを霊夢が肯定した後、一同は階段の先へと向かって飛んで行く。
が、どれだけ進んでも石段の終わりは見えなかった。
だからか、

「いやはや、空を飛べて本当に良かったぜ」

魔理沙は空を飛べて良かったと言う事を口にする。
魔理沙の発言を聞き、

「本当ね。歩いて行ったら頂上に着くまでどれだけ掛かる事やら……」

霊夢は同意する様な事を言う。
飛んで移動している今の状態でさえ、石段の終わりが全く見えていないのだ。
これで歩きだったら頂上に着くまでどれ程の時間が掛かるのか分かったものではない。

「そうね、流石に日が登ってから日が暮れるまでの時間が掛かると言う事は無いでしょうけど……それでも歩いて行ったら相当な時間が掛かりそうね」

咲夜も霊夢と魔理沙に同意する様な発言を行うと、

「確かに、歩いて行ったら相当時間が掛かりそうだけど……歩いてこの石段を上って行くって言うのもそれはそれで面白そうだけどな」

龍也は石段を歩いて上って行くのも面白そうと言う三人とは反対の様な事を口にした。
それを聞いた魔理沙、霊夢、咲夜の三人は龍也の方に顔を向け、

「流石、幻想郷をその足で旅して回っている奴は言う事が違うな」
「のんびり歩き回るって言うのは私も結構好きだけど……態々階段を歩いて上ろうとは思わないわね」
「この階段を態々歩いて上ると言うのは時間の無駄の様に思えるけど……そう言った時間の使い方も良いかもね」

口々にその様な感想を漏らしていく。

「時間を操れるお前が時間の無駄遣いとか言うと中々意味深に聞こえるな」
「そうかしら?」

龍也の発した発言が耳に入った咲夜が首を傾げると、

「……っと、お喋りはここまで様だな。妖精達の御出座しだぜ」

魔理沙は妖精の襲来を一同に告げる。

「やれやれ、頂上に着くまでのんびり行けるかもって少しは思ったけど……そう上手くはいかないものね」
「ま、人生こんなものだって事だな」
「こんなもんと言うより、思い通りにいかないから人生って言うのかもな。ま、思い通りにいかせるのも人生なんだろうけどな」
「喋ってばかりいないで、ちゃんと手を動かしなさいよ」

会話を交わしている霊夢、魔理沙、龍也の三人に咲夜が手を動かす様に言った後、妖精達は弾幕を放って来た。
冥界に入って初めて現れた妖精の弾幕もそうであったが、今現れた妖精が放つ弾幕もかなり激しい。
しかし、幾ら弾幕が激しいと言っても龍也達がどうこうなると言う訳では無かった。
迫り来る弾幕を龍也達は余裕の表情で避け、弾幕を放って妖精達を撃ち落としていく。
そして妖精達を一掃し終えると、龍也達は弾幕を放つのを止めて再び進行を開始し様とした時、

「何やら騒がしいと思って様子を見に来たらまさか生者……それも人間が冥界にやって来ていたとは……」

一人の少女が現れた。
肩口位の長さの銀色の髪をし、長短二本の刀を装備して傍らに人魂の様なものを携えている少女が。
その少女を見た瞬間、

「ッ!!」

龍也の心臓の鼓動が強くなった。
心臓の鼓動が強くなった理由は簡単。
現れた少女は龍也がリベンジを決め込んだ相手であるからだ。
だからか、龍也は有無を言わずに自身の力を瞬時に変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅に変わると、龍也は口を開こうとしていた霊夢、魔理沙、咲夜の三人を押し退ける形で飛び出し、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

両手を合わせて炎の大剣を生み出しながら少女に向かって突っ込んで行く。
少女が自身の間合いに入ると、

「らあああああああああ!!」

龍也は炎の大剣を振るう。

「ッ!!」

自分の向けて迫って来る炎の大剣に気付いた少女は反射的に長刀を抜き放ち、長刀を炎の大剣に激突させる。
炎の大剣と長刀が激突し、鍔迫り合いの様な形になると二人の目が合い、

「よぉ、久しぶりだな。俺の事……覚えているか?」

龍也は少女に自分の事を覚えているかと問う。
覚えているかと問われた少女は、

「貴方は!?」

驚きの表情に包まれていた。
少女に取って龍也は春度を大量に持っていた少年と言うだけの存在。
春度を奪ったのだからもう会う事も無いだろう思っていた少年が今、自分の目の前に居る。
だから、少女は驚きの表情を浮かべているのだ。

「そうか……覚えていてくれたんだな」

少女が自分の事を覚えていてくれたからか、龍也は好戦的な笑みを浮かべ、

「覚えていてくれたて様で嬉しい……ぜ!!」

両腕の力に籠め、炎の大剣を押し込みなが横に振るって少女を真横に弾き飛ばす。

「くっ!?」

弾き飛ばされた少女は体勢を立て直しながらブレーキを掛けて減速し、停止した後に構えを取り直すと、

「こいつの相手は俺がやる!! お前等は先に行け!!」

龍也は少女の相手は自分がするから先に行けと霊夢、魔理沙、咲夜の三人に言い、再び少女の方へと突っ込んで行く。

「え、ちょ!?」
「おい!!」
「一寸、龍也!?」


霊夢、魔理沙、咲夜の三人は何かを言い掛けたが、龍也はそれを無視するかの様に炎の大剣を振るう。
振るわれた炎の大剣を先程と同じ様に少女が長刀で受け止めた時、龍也は霊力を解放した。
その瞬間、

「ッ!?」

龍也の力は激増し、少女は龍也に連れられる形で強制的に移動をさせられてしまう。























石段からかなりの距離が離れた所で、

「たあ!!」

銀色の髪をした少女は力任せに長刀を振るって龍也の炎の大剣を弾いて間合いを取り、平地に着地する。
少女が地に足を着けたのを見た龍也は霊力の解放を止めながら降下し、少女と同じ様に地に足を着け、

「さて、早速あの時のリベンジをさせて貰おうか」

リベンジをさせて貰うと言いながら炎の大剣を二本の炎の剣に分けて構えを取った。

「……やはり、それが目的ですか」

少女は龍也の目的を何となくではあるが察していた様で、然程驚いた様子を見せずに構えを取る。

「これでも、あの時より一寸は強くなったんだぜ。前と同じと思っていると……只じゃ済まないかもな」
「そんな事、貴方の斬撃を受け止めた時に理解しましたよ。あの時よりもずっと強くなっていると。この短時間でここまで実力を上げた事……素直に
称賛します。凄いです」

龍也の強くなったと言う発言に、少女は素直に凄いと返す。
同時に、龍也を無視して先に進んだであろう霊夢、魔理沙、咲夜の三人を追う事は不可能である事を少女は理解した。
今の龍也を無視してあの三人を追える程、龍也の実力は低くないからである。
少女にそう思わせる程、龍也は強くなったのだ。
上昇した実力を警戒して後手に回るよりも先手を取って斬り込んだ方が良いかと少女が考えていると、

「そういや、まだ名前を名乗っていなかったな」

龍也は思い出したかの様に自分の名を名乗っていなかったと口にする。
そして、少女に右手に持っている炎の剣の切っ先を向け、

「俺の名前は、四神龍也。お前を倒す男の名だ、よろしく!!」

龍也は名乗りを上げた。
龍也の名乗りを受けた少女はポカーンとした表情を浮かべたものの、直ぐに表情を戻して長刀を片手で持ちながらその切っ先を龍也へと向け、

「私の名前は魂魄妖夢。貴方を倒す女の名です、よろしくお願いします!!」

同じ様に少女も名乗りを上げる。
お互い名乗りを上げて少しの間睨み合い行った後、二人は相手に向けていた得物を下ろして同時に駆け、

「「はあ!!」」

相手が自分の間合いに入ったのと同時に龍也は二本の炎の剣を、妖夢は長刀を振るう。

「ぐっ!!」
「くっ!!」

得物を激突させた事で体に走った衝撃に二人は耐えながら、龍也と妖夢は得物を持つ手に力を籠めて自分の得物を相手に押し込もうとする。
が、それは叶わなかった。
二人の力が近いからか、鍔迫り合いの状態を維持するに留まっている様だ。
少しの間その状態が続くと、

「「ッ!!」」

埒が開かないと判断したからか、龍也と妖夢は弾かれる様にして大きく間合いを取る。
間合いを取った事で仕切り直しになると思われたが、そうはならなかった。
何故ならば、二人は間合いが離れると間髪入れずに地を駆けて再び互いの得物を激突させたからだ。
二本の炎の剣と長刀が激突した後、龍也と妖夢は突っ込んだ勢いをそのまま使って立ち位置を交換する様に動く。
立ち位置が入れ替わると、龍也と妖夢は先程の様に大きく間合いを取ったりせずに数歩後ろに下がった。
その次の瞬間、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

妖夢は大きく一歩前に踏み出し、長刀を振るう。
炎の剣よりも長刀の方が刀身は長いと言う利点を活かし、龍也の間合いの外から。

「くっ!!」

自身の間合いの外から振るわれた長刀を龍也は左手の炎の剣で受け止め、龍也は長刀を受け止めた状態のまま間合いを詰め、

「はあ!!」

右手の炎の剣を妖夢に向けて突き出す。
迫り来る炎の剣を、

「ッ!!」

妖夢は後ろに跳ぶ事で回避する。
後ろに跳んだ妖夢を追いかける為に龍也は地を駆けて妖夢との距離を詰め、妖夢が地に足を着けると、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

連続して二本の炎の剣を振るう。

「くっ!!」

次々と振るわれていく炎の剣を妖夢は長刀で受けながら後ろに下がって間合いを取ろうとする。
しかし、それは許さないと言わんばかりに龍也は離れた距離を瞬時に詰めて行く。
一向に距離が取れず、しかも反撃に移れない現状を打破する為に妖夢は龍也が距離を詰める時に生まれる僅かな隙を利用して短刀を抜き放ち、

「しっ!!」

短刀で炎の剣を受け止める。
攻撃を短刀で受け止められた事でカウンターが放たれると直感的に感じた龍也は、短刀と接触している炎の剣の一部分を爆発させる。

「なっ!?」

突然発生した爆発の影響で妖夢は驚きの表情を浮かべながら体勢を崩してしまい、

「しまっ!!」

更に短刀が妖夢の手から離れて宙を舞ってしまう。
このままでは一気に攻め込まれてしまうと妖夢は思ったが、龍也は攻め込む事はせずに爆発の勢いを利用して後へと跳んだ。
攻めて来なかった龍也を妖夢は不審に思ったが、

「……用心して攻めずに下がったのか?」

用心して一旦下がったのだろうと考え、落ちて来た短刀を掴んで後ろに跳んで妖夢も龍也との距離を取る。
そして地に足が着くと妖夢は短刀を鞘に収め、長刀を両手で持って構えを取り直すと、

「……やはり、既に体勢を立て直していたか。まぁ、私よりも余裕が在ったのだから当然と言えば当然ね」

既に体勢を立て直して二本の炎の剣を構えている龍也の様子が目に映った。
二人とも後ろに跳んだ事もあってか、龍也と妖夢の距離は結構離れている。
この分なら龍也が力の変換を行っても、力の変換が完了する前に妖夢に攻撃される事も無いだろう。
力を変えれば戦い方も変わるので、朱雀の力を使った龍也との戦闘経験しかない妖夢の不意を突く事も間違い無く可能だ。
何れ力を変えた状態の龍也にも慣れるだろうが、それまでの間にダメージを与えればその後の戦いを優位に進める事が出来るだろう。
今、力の変換を行えば龍也に取って色々とプラスとなる。
だと言うのに、龍也は力の変換を行わなかった。
何故か。
答えは簡単。
只の意地だ。
以前、龍也が妖夢と戦った時は朱雀の力だけを使って負けた。
ならば、朱雀の力だけを使って勝たなければ意味が無い。
そう思っているからこそ、龍也は力の変換を行わないのだ。

「「…………………………………………………………………………」」

お互い隙が見付からないからか、龍也と妖夢はジリジリと慎重に間合いを詰めて行く。
そんな時、少し強い風が吹いた。
その瞬間、

「「ッ!!」」

拭いた風を合図にしたかの様に、龍也と妖夢はつい今し方の慎重さが嘘の様に間合いを一気に詰め、

「だあ!!」
「はあ!!」

自分達の得物を振るって相手の得物に激突させる。
均衡は一瞬。
自分達の得物が激突した後、二人は直ぐに離れて行くが、

「いけ!!」

妖夢は離れながら龍也に向けて傍らに佇んでいた人魂の様なものを物凄いスピードで飛ばす。
龍也と妖夢の距離と人魂の様なもの飛んで行くスピード。
これならば回避と迎撃は不可能だと妖夢が判断し、龍也の体に人魂の様なものが激突すると思われたその時、

「ッ!?」

龍也の姿が消えた。
妖夢は驚きの表情を浮かべながら、

「何処に……」

龍也を探す為に顔を動かすと、

「ここだ」

龍也はここだと言いながら妖夢の真横に現れる。
龍也の声に反応した妖夢が慌て龍也の方に顔を向けると、

「ッ!?」

自身に向けて炎の剣が迫って来る光景が妖夢の目に映り、妖夢は反射的に短刀を抜き放つ。
抜き放たれた短刀は見事炎の剣に当たり、妖夢は炎の剣の直撃を受ける事は避けられた。
しかし、龍也は今の一撃を防がれた事を気にせずに炎の剣を振り切った為、

「ぐうっ!!」

妖夢は弾かれる様にして吹き飛んで行ってしまう。
吹き飛んで行った妖夢に追撃を掛け様としたが、先程避けた人魂の様な弾幕を放って来たので、

「ちぃ!!」

追撃の中断を余儀無くされた。
幸いと言って良いのかはあれだが、人魂の様なものが放って来た弾幕は大して数が多くなかったので龍也は二本の炎の剣で弾幕を全て斬り払う。
龍也が弾幕を全て斬り払ったタイミングで、人魂の様なものは妖夢の傍にまで戻っていた。
それを見た龍也が仕切り直しかと思っていると、

「驚きました。まさか……単純な力量を上げただけに留まらず、あの様な移動術を見に付けて来るとは……」

妖夢は龍也が見せた移動術に驚いたと言う事を口にする。
妖夢が口にした移動術はついさっき、プリズムリバー三姉妹との弾幕ごっこの中で突如使える様になったのは言わぬが華だなと龍也は感じたからか、

「言っただろ。あの時より一寸は強くなったんだぜって」

その事は言わず、改めて一寸は強くなったんだと言う。

「一寸……ですか。あの時の貴方と今の貴方とでは強さが格段に違う。別人になったと言っても良い程に。それを一寸強くなったと言い現すのなら……
私の知らない間に一寸と言う単語の意味が大きく変わった事になりますね」

妖夢は一寸と言う言葉で収まらない程に強くなったと返し、

「……ふぅ」

精神を落ち着かせて構えを取り直す。
すると、

「なん……だと……」

人魂の様なものは妖夢そっくりの姿に変化した。
突然の事態に龍也は驚くも、分身の術の様なものかと推察する。
だとしたら、ここから先は一対二で戦うと言う心積もりでいた方が良いと龍也が考えていると、

「ッ!!」

二人の妖夢が長刀を振り被りながら肉迫して来た。
肉迫して来た二人の妖夢を見て、龍也は瞬時に頭を切り替えながら二本の炎の剣を構え、

「らあ!!」

切っ先に爆炎を迸らせながら二本の炎の剣を振るう。
振るわれた炎の剣から爆炎が放たれ、放たれた爆炎は勢い良く二人の妖夢に迫っていくが、

「……外したか」

龍也の目には二手に分かれて爆炎を回避した様子が映った。
そして、一人の妖夢が爆炎に沿う様にして一気に龍也へと近付き、

「はあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

長刀を振るう。
振るわれた長刀を龍也が右手の炎の剣で防ぐと、

「何……」

妖夢は連撃を叩き込んだり押し込んだりせずに龍也の横を通り抜けた。
二の手三の手を仕掛けて来なかった妖夢を不審に思った瞬間、

「ッ!!」

龍也は背後に鋭い気配を感じ、慌てて振り返る。
振り返った先にはもう一人の妖夢が刺突を放っていた。
龍也は反射的に左手の炎の剣を動かしてもう一人の妖夢の刺突を防ぐが、

「ぐっ!!」

体勢が万全ではなかったからか、龍也は突き飛ばされてしまう。
突き飛ばされた龍也は体勢を立て直して地に足を着けようとしたが、

「そう易々と……体勢を立て直させはしません!!」

その前に妖夢が突っ込み、長刀を振るって来た。
今の状態で攻撃を受け止めたら更に飛ばされてしまうと直感的に感じたからか、

「りゃあ!!」

強引に体を動かして炎の剣を振るう。

「何っ!?」

龍也が攻めて来る事は完全に想定外であったからか、妖夢は驚きの表情を浮かべて動きを一瞬だけ緩めてしまった。
動きを一瞬だけ緩めてしまった事で長刀が完全に振り切られてしまう前に炎の剣が長刀に当たり、

「ぐう!?」

逆に妖夢は弾き飛ばされてしまう。
妖夢が吹き飛んで行く様子を見ながら龍也が地に足を着けると、

「ッ!!」

近くに居たもう一人の妖夢が長刀を振るって来た。
どうやら、龍也が着地した瞬間を狙って来た様だ。
着地したばかりの今の龍也の状態では成す術も無いと思われたその時、

「だあ!!」

龍也は地面に炎の剣を突き刺し、振るわれた長刀が自分の体に当たる事を防ぐ。
自身の攻撃が防がれたと見るや否や、もう一人の妖夢は直ぐに後ろに跳んで龍也との距離を取ると、

「貰った!!」

つい先程弾き飛ばした妖夢が龍也の居る場所までやって来て長刀を振るって来た。

「ッ!!」

妖夢の立ち直りの早さに龍也は驚きの表情を浮かべ、このままでは斬られてしまうと直感的に感じたからか、

「くっ!!」

龍也は地面に突き刺している炎の剣から手を離して地面を転がり、振るわれた長刀を避ける。
しかし、代わりに突き刺したままの炎の剣に長刀が当たって炎の剣を真っ二つに斬り裂いてしまう。
真っ二つに斬り裂かれ、四散しながら消えていく炎の剣を目に入れながら龍也は転がるのを止めて立ち上がると、

「がっ!?」

龍也の背中に何かが当たり、爆発が発生した。
何事だと思った龍也は慌てて振り返ると、もう一人の妖夢が長刀を連続で振るっている光景が目に映る。
無論、もう一人の妖夢は只長刀を振るっている訳では無い。
長刀を振るった軌跡から弾幕を放っているのだ。
龍也は自分の背中に何が当たったのかを理解し、迫り来る大量の弾幕を対処する為に炎の剣の切っ先に爆炎を迸らせながら、

「燃えろ!!」

炎の剣を振り下ろす。
振り下ろされた炎の剣から爆炎が放たれ、弾幕を呑み込みながらもう一人の妖夢へと向って行く。
もう一人の妖夢が爆炎をどう対処するかを見届け様とした時、

「後ろ、がら空きですよ」

転がる要因を作った妖夢が龍也の背後から攻撃を仕掛けて来た。

「ッ!!」

それに気付いた龍也は反射的に失った炎の剣を生み出し、生み出した炎の剣を振るいながら振り返ると、

「……ッ」

龍也が振るった炎の剣は妖夢が振るった長刀に激突し、妖夢の攻撃を防いだ。
攻撃を防がれた事に妖夢は少し驚いた表情を浮かべたが、直ぐに表情を戻して後ろに跳ぶ。

「また一撃離脱……そうか!!」

何回も一撃離脱を行う妖夢を見て、龍也は何かに気付いた表情を浮かべながら背後へ振り返る。
振り返った先には、もう一人の妖夢が長刀を振り被りながら近付いて来ているのが見て取れた。
二人の妖夢の基本的な戦術は一撃離脱を行った後、死角からの攻撃と言う比較的単純なもの。
単純なもの故に、取れる手段は一つ。
どちらか片方の妖夢を素早く倒してこの戦術を打開させる事。
幸いと言って良いのかはあれだが、現在もう一人の妖夢は龍也に攻撃を仕掛け様としているので防戦一方と言う現状から抜けるには今がチャンスであろう。

「……やってやるさ」

龍也は強い意志を瞳に宿しながら今まで様に長刀を炎の剣で防ぐ事をせず、屈む事で振るわれた長刀を避ける。
そして、振るった長刀を避けられたもう一人の妖夢が距離を取った瞬間、

「豪炎旋風!!」

龍也は立ち上がりながら両腕を広げ、炎の剣の出力を上げながら高速回転を行って炎の竜巻を発生させた。

「ッ!?」

後ろに下がったもう一人の妖夢と攻撃を仕掛ける為に近付いていた妖夢は炎の竜巻の範囲内に見事に入っており、炎の竜巻に呑み込まれてしまう。
どちらか一人の妖夢を巻き込めれば良かったのだが、二人の妖夢を巻き込めたのはラッキーである。
二人の妖夢が炎の竜巻に呑み込まれてから少しすると、

「……ん?」

炎の竜巻の中に二人の妖夢が居なくなった事を龍也は感じ、回転を止めて炎の剣の出力を戻す。
回転を止めた事で炎の竜巻が消え、周囲の状況が確認出来る様になると妖夢の様子が龍也の目に映る。
多少焼け焦げて煙を上げてはいるが、妖夢はまだまだ健在の様だ。
思っていたよりもダメージが少ないなと龍也が思っていると、人魂の様なものが妖夢の傍まで飛んで行った。
どうやら、もう一人の妖夢はある程度のダメージを受けて元の人魂の様なものに戻った様だ。
少なくとも、これで妖夢が一歩的に攻めると言う展開は避けられたであろう。
仕切り直しと言う意味を籠めて深呼吸をして気持ちを落ち着かせた時、龍也は気付く。
妖夢が踏み込んで来る事を躊躇している事に。
龍也が発生させた炎の竜巻を警戒しているのだろうか。

「……なら」

向こうが攻めて来ないのならこっちからと言わんばかりに龍也は一瞬で移動する移動術で妖夢の後ろに回り込んで炎の剣を振るう。
完全に不意を突いた様な一撃に見えたが、

「見えた!!」

妖夢は確りと龍也の動きに反応しており、後ろに振り向くのと同時に長刀を振るって炎の剣が当たる事を防ぐ。

「……………………………………」

防がれた事に龍也は少し驚くも、直ぐに表情を戻して再び一瞬で移動する移動術を使って攻撃を仕掛ける。
今度は後ろからではなく側面から。
しかし、

「言った筈です。見えた……と」

この攻撃にも妖夢は確りと反応して防いだ。
一瞬で移動する移動術を使っての攻撃を妖夢は二度も完全に反応して防ぎ切った事で、龍也は自分の勘違いに気付く。
妖夢は炎の竜巻を警戒して攻めるのを躊躇していたのではなく、極限まで集中力を高めていたのだ。
だがら、妖夢は攻める事を躊躇していた様に見えたのである。
これでは一瞬で移動する移動術を使いながらの攻撃は当たらないと龍也は判断し、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

その場で二本の炎の剣を連続で振るって妖夢に連撃を叩き込む。
急に攻め方を変えた事で少しは動揺するかと思われたが、

「……く、流石に手数が多い」

妖夢は少し苦しそうな表情を浮かべているだけ、長刀一本で的確に龍也が振るう炎の剣を防いでいく。
一見余裕そうに見えるが、妖夢としては余裕がある訳ではない。
龍也の放つ連撃の前に妖夢は攻めに転じられず、カウンターを狙う為の短刀を鞘から抜く事が出来ないのだ。
攻めの方は言わずもがな。
カウンターの方は短刀を鞘から抜く為に両手で持っている長刀から片手を離したら炎の剣を受け切る事が出来なくなるからだ。
後は妖夢の集中力が切れて長刀で龍也の炎の剣を防ぎ切れなくなれば龍也の勝利が確定する。
そう思われたその時、

「なっ!?」

妖夢は長刀で炎の剣を防ぐのではなく長刀を下げ、上半身をギリギリまで後ろに倒す事で炎の剣を避けた。
炎の剣をを受け止めるのではなく避けられた事で龍也がバランスを崩してしまった時、

「たあ!!」

妖夢は龍也の腹部に両足を叩き込んだ。

「ぐっ!!」

叩き込まれた両足が鳩尾に入ったからか、龍也は踏鞴を踏む様にして数歩を後ろに下がってしまう。
その間に妖夢は龍也に両足を叩き込んだ時の反動を利用して体を後ろに回転させる事で体勢を立て直そうとしていた。
体勢を立て直したら直ぐに龍也に向けて攻撃を放って来る気であろう。
踏鞴を踏んでいる今の状態で攻撃を放たれては防御も回避も出来ないと判断したからか、龍也は下半身に力を籠めて強引に後ろに大きく跳ぶ。
後ろに跳んだ事で攻撃を受ける事は無くなり一安心と思う暇も無く、

「ッ!!」

妖夢は地を駆けながら龍也の後を追い掛けて来た。
着地の瞬間に攻撃を仕掛けて来ると龍也は直感的に感じ取り、炎の剣の刀身全体に爆炎を迸らせながら眼下に向けて炎の剣を振るう。
すると、妖夢の進行方向上に爆炎の塊が発生した。
これで妖夢は足を止める筈だと思った龍也はそのまま降下して地に足を着け、爆炎の中へと突っ込んで行く。
爆炎の中から飛び出して妖夢の不意を突く作戦の様だ。
だが、龍也の作戦は失敗に終わってしまう。
何故ならば、

「「なっ!?」」

爆炎の中に妖夢が居たからだ。
龍也が爆炎の中から飛び出して不意を突こう考えていた様に、妖夢も爆炎の中から飛び出して不意を突こうと考えていた様である。
しかし、相手が自分と同じ事を考えていたと思わなかった龍也と妖夢は驚きの表情を浮かべながら動きを止めてしまうものの、

「「ッ!!」」

直ぐに再起動して自分の得物を振るう。
振るった得物が激突すると、龍也と妖夢は互いの位置を入れ替える動く。
お互いの完全に入れ替わると龍也と妖夢は後ろに跳んで爆炎の中から脱出し、地に足を着ける。
そして爆炎が消えると、

「「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」

二人は同時に地を駆け、再び自分達の得物を激突させた。
炎の剣と長刀で鍔迫り合いの形を少しの間維持した後、妖夢は唐突に両腕を引く。

「ッ!!」

妖夢が両腕を引いた事で龍也が前のめりになる様な形で体勢を崩すと、妖夢は背後から攻撃を入れる為に龍也の真横を通り抜け様とするが、

「なっ!?」

妖夢も前のめりになる様な形で体勢を崩してしまった。
一体何故と言う様な表情を妖夢は浮かべながら周囲を見渡すと、妖夢の目にあるものが映る。
映ったものと言うのは横に伸びた龍也の脚。
龍也の脚を見た時、妖夢は理解する。
自分は龍也の脚に躓いて体勢を崩したのだと。
理解したのと同時にある疑問が浮かぶ。
浮かんだ疑問と言うのは、何故龍也の脚が伸びていたのかと言う疑問が。
疑問に対する答えとして、

「偶然か、それとも私の狙いに気付いて……」

妖夢が偶然か必然かのどちらかなのかを考え様とした時、

「……だ……とお!!」

龍也は体勢を立て直していた。
躓いた事に対する驚きと思案した事で龍也に体勢を立て直す時間を与えてしまったかと思いながら妖夢は反転し、後ろへと跳ぶ。
後ろに飛んだ妖夢が地に足を着けた時、龍也は妖夢の方に向き直って構えを取った。
それを見た妖夢も同じ様に構えを取ったのを見て、龍也は何かを決意した表情を浮かべながら二本の炎の剣を合わせて一本の炎の大剣にし、

「ぅぅぅぅううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

霊力を解放して炎の大剣の出力を最大限にまで上げる。
霊力を解放した事で龍也の体中のから青白い光が溢れ出て、霊力を解放した余波で周囲にあるものを揺らす。
解放された龍也の霊力を感じ、妖夢は龍也が勝負を決めに来たのだと悟る。
ならば、自分もそれに答えるのが礼儀だと思った妖夢は構えを取り直し、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

妖力を解放した。
妖夢の体中から妖力が溢れ出ると同時に、長刀に青白い光が纏わさった。
いや、青白い光が長刀の纏わさった言うよりも青白い光が刀身を伸ばしていると言った方が正しい。
刀身を伸ばすと言う事と長刀から感じる力から、龍也は以前戦った時に自分の炎の剣を斬り裂いた冥想斬と言う技の強化版か発展系ではないかと考える。
奇しくもあの時の状況の再現と言った感じになった現状を見て、龍也は今度こそ勝つと言う決意を新たにしながら更に力を高めていく。
妖夢も同じ様に力を高めていき、二人の力が極限まで高められた時、

「「ッ!!」」

龍也と妖夢は同じタイミングで地を駆けながら自分の得物を振り被り、相手を自分の間合いに入れた瞬間、

「だあ!!!!」
「迷津慈航斬!!!!」

炎の大剣と長刀を振り下ろして激突させた。
二人の得物が激突し合った事で大きな激突音が響き渡るのと同時に衝撃波が発生し、龍也と妖夢の体に衝撃が走る。

「ぐううううぅぅぅぅ……」
「くううううぅぅぅぅ……」

龍也と妖夢は体に走る衝撃を無視して力を籠めて押し切ろうとするが、押し切る事は出来ずに鍔迫り合いの形に落ち着く。
暫くの間そんな均衡状態が続いていたが、

「ッ!?」

突如、龍也の炎の大剣が押され始めてしまう。
龍也は何とか堪え様とするも、均衡状態には戻せなかった。
それ処か、妖夢の長刀が龍也の炎の大剣に喰い込み始めたのだ。
このままでは炎の大剣ごと龍也は斬られてしまうであろう。
あの時の様に。

「ぐ……く……くう……うう」

長刀がより深く炎の大剣に喰い込んでいく様子を見て、また負けてしまうのかも知れない。
そんな想いが龍也の心を支配し始めていく。

「う……う……うぅぅ……」

この儘では炎の大剣が斬り裂かれる前に龍也の心が折れてしまう。
そう思われたが、

「……違う」

龍也は違うと呟いて自身の心を支配し始めた想いを否定し、自分の心に問い掛ける。
何の為にここに来たのかと。

「……そうだ、俺は負ける為にここに来たんじゃねえ」

龍也が負ける為に来た訳では無いと口にした瞬間、

「ッ!?」

妖夢は驚きの表情を浮かべた。
今まで押していたのに、急に押せなくなったからだ。

「勝ちに来たんだ」

龍也が言葉を紡ぐ度に解放される霊力の量が増え、龍也の力を上げていく。

「ぐう!?」

龍也の力が上がった為、今度は逆に妖夢が押され始めた。

「勝つ為にここに来た」

単純に押され始めただけではなく、炎の大剣に喰い込んでいた長刀が押し返されたのだ。

「だから……」

長刀が喰い込んでいた場所が完全に修復されるのと同時に、

「俺は……お前に……」

龍也の姿が、

「負ける訳には……いかねえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

変わった。
紅い瞳は輝きを発し、黒い髪が紅く染まっていく。
外見的な変化に呼応するかの様に炎の大剣の出力が大きく上がり、より紅くなる。
そして、解放された霊力の一部が朱雀の姿を型作ると、

「なっ!?」

妖夢は一気に押され始めた。

「くううぅぅ……」

押されていると言う現状に抗う為に妖夢は長刀を握る手に力を籠め、長刀に体重を掛け始めた時、

「ッ!?」

妖夢の手から長刀が弾かれる様に離れて宙を舞う。
思わず舞った長刀に妖夢が目を向けた時、

「俺の……勝ちだな」

龍也は炎の大剣で妖夢の右肩から左腰までを斬り裂く様な体勢を取りながら、自身の勝利を口にする。
龍也の口にした言葉を聞いた妖夢は直ぐに現状を確認し、打てる手が何も無いと判断し、

「ええ、貴方の……勝ちです」

宙を舞っていた長刀が地面に刺さったタイミングで、妖夢は龍也の勝ちだと言った。























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