「……ふぅ」

妖夢が負けを認めた事で、勝負は決したと判断した龍也は自身の力を消す。
すると、龍也の髪と瞳の色が元の黒色に戻って炎の大剣が消えた。
自分の間近にまで迫って来ていた炎の大剣が消えた事で妖夢が安心したかの様に息を一つ吐くと、

「……さて、俺が勝ったんだから幻想郷中から春度を奪った理由を話して貰おうか」

龍也は妖夢から数歩離れ、幻想郷中から春度を奪った理由を尋ねる。
妖夢にリベンジを果たすと言う目的を遂げた事で感極まって春度の存在を龍也は忘れてしまっていたのではと思われたが、そんな事は無かった様だ。

「別にそんな約束はしてはいなかった筈ですが……まぁ、敗者である私がどうこう言う資格は無いですね。分かりました、お話します」

妖夢はそんな約束はしていなかったと言いつつも敗者である自分にどうこう言う資格は無いと言い、幻想郷中から春度を話し始める。

「私が幻想郷中から春度を集めていたのは私の主、西行寺幽々子様の御命令があったからです」
「西行寺幽々子?」

初めて聞く名であるからか、龍也が思わず首を傾げてしまうと、

「冥界の管理人で亡霊の姫とも呼ばれているお方です」

妖夢は西行寺幽々子の事を簡単な概要を話す。

「へぇー……」

何やら凄そうな人物と言う感想を龍也は抱きながら、

「で、その西行寺幽々子ってのは何の目的でお前に春度を集める様に命令したんだ?」

幽々子が妖夢に春度を集めさせる様に命令した理由は何なのかと問う。

「幽々子様が私に春度を集める様に御命令されたのは、白玉楼に在る西行妖と言う妖怪桜を満開にさせる事です」
「白玉楼? 西行妖?」

知らない単語が出て来た為、また龍也が首を傾げてしまうと、

「白玉楼と言うのは冥界に在る幽々子様のお屋敷の事です。因みに、私も白玉楼に住まわせて貰っています。そして西行妖と言うのは今言った様に白玉楼の
敷地内に在る妖怪桜の事です。現在、西行妖は枯れていると言って良い状態なのです」

妖夢は白玉楼と西行妖に付いての説明をする。
妖夢の説明を聞いて白玉楼がどう言う場所であるか知った龍也は、

「枯れてるのか? その西行妖って桜は」

確認を取る様に西行妖と言う桜は枯れているのかと聞くと、

「はい、何者かを封印しているせいで西行妖が枯れているのだと聞き及んでいます。ですが、大量の春度を西行妖の中に入れれば西行妖は桜の花を咲かせるの
です。事実、今の西行妖は満開とはいかないまでもかなりの桜を咲かせています。おそらく、西行妖が満開になれば封印されている者が復活するでしょう」

妖夢は西行妖が枯れている事を肯定し、枯れている原因と春度を西行妖の中に入れれば西行妖が桜の花を咲かせて封印されている者が復活する事を話す。

「封印されている者ねぇ……何か、復活したら危険な感じがするんだが……」

龍也が封印されている者が復活したら危険な感じがすると呟くと、

「私もそう思っているのですが……幽々子様はその封印されている者にかなり興味を抱いている御様子でして……」

妖夢は自分も危険だとは思っているが、幽々子が封印されている者にかなりの興味を抱いている様子だったので異を唱える様な事はしなかったと口にする。

「成程……」

妖夢が幻想郷中から春度を集めていた理由を知って龍也は納得した表情になりながら、

「けど、西行妖が満開になる事も封印されている者が復活する事も無いだろうぜ」

西行妖が満開になる事も封印されている者が復活する事は無いと断言した。

「何故ですか?」

はっきりと断言した龍也に妖夢が思わず首を傾げると、

「霊夢と魔理沙と咲夜が居るからな」

龍也は霊夢、魔理沙、咲夜の三人が居るからだと言う。

「霊夢……魔理沙……咲夜……その三人は龍也さんと一緒に冥界に来ていた方達の事ですか?」

龍也が口にした三人の名を聞いた妖夢は確認を取る様にその三人とは龍也と一緒に来た三人の事かと問い掛ける。

「ああ、そうだ」

龍也が口にした肯定の返事を聞き、

「……龍也さんと一緒に冥界まで来られたって事はあの三人も相当な力を有しているだろうと言う事は簡単に予想が出来ます。ですが、幽々子様が有して
おられる力はかなり強大です。如何にあの三人が強くても幽々子様に勝つ事は……」

妖夢は霊夢、魔理沙、咲夜の三人が相当な力を有しているであろう事は予想出来ると言いつつも、それでも幽々子には勝てないだろうと返す。
妖夢がそこまで言うのだから、龍也は西行寺幽々子と言うのは本当に強大な力を有しているのだろうと思いつつも、

「それでも、あいつ等が勝つさ」

霊夢、魔理沙、咲夜の三人が勝つと口にした。
まるで断言するかの様に三人が勝つと言った龍也に妖夢が少し驚いた表情を向けていると、

「俺は西行寺幽々子ってのがどれだけ強いのかは分からない。けど、お前もあいつ等がどれだけ強いのかは知らないだろ」

龍也は幽々子の強さを自分は知らないが、妖夢もあの三人の強さを知らないだろうと言う。
咲夜とは直接戦った事から、霊夢と魔理沙は二人が弾幕ごっこをしていた時の動きや弾幕の量、密度と言ったものから龍也は理解している。
あの三人が強いと言う事を。
だから、龍也は如何に幽々子が強くても霊夢、魔理沙、咲夜の三人なら断言する様に勝てると言ったのだ。
龍也の発言を聞き、確かに自分はあの三人の力を知らないと妖夢が思っていると、

「結局のところ、俺の予想とお前の予想のどっちが合ってるかは白玉楼って所に行けば分かるだろ」

龍也は白玉楼に行けばどっちの予想が正しいか分かると言い、

「そう言う訳だから、白玉楼まで案内してくれ」

妖夢に白玉楼へと案内する様に頼む。

「そう言う訳って……どう言う訳ですか……」

妖夢は龍也の物言いに何処か呆れた表情を浮かべつつも、

「まぁ、龍也さんなら案内しても大丈夫でしょう。分かりました、ご案内致します」

直ぐに龍也を白玉楼まで案内する件を了承する。

「自分で言って置いて何だが……案内するって言ってくれるとは思わなかった」

まさか本当に案内してくれるとは思わなかったと言う事を龍也が口にすると、

「龍也さんは悪人の様に思えないので」

妖夢は龍也が悪人の様には思えないからだと返す。
大して同じ時間を共有した訳でもないのにそんな事が分かるのかと言おうとしたところで、龍也は気付く。
自分も妖夢の事を悪人とは思っていない事に。
初めて妖夢に出会って敗北した時に態々怪我の治療を施してくれた事で悪い奴ではないと龍也は感じていたが、その感じ方は今の方がずっと強い。
何故と思った時、龍也の頭にある可能性が過ぎった。
過ぎった可能性と言うのは、自分と妖夢は戦いの中で解り合ったのではないかと言う事だ。
武道家は拳と拳で、剣士は剣と剣で解り合うと言われている。
妖夢は剣士と言っても良いが、龍也は剣士と言う訳ではない。
ならば、自分と妖夢は戦いの中で解り合えたのかと言う事を龍也が考えていると、

「どうかしましたか?」

妖夢がどうかしたかと声を掛けて来た。
どうやら、考え事をしていてボーッとしていた龍也の様子が気に掛かった様だ。
妖夢の声で意識を現実に戻した龍也は、

「いや、何でもない」

何でもないと言って考えていた事を頭の隅へと追いやる。
考えたところで意味は無いと判断したからだ。

「それじゃ、案内してくれ」

気持ちを切り替える様に改めて龍也が案内する様に頼むと、

「分かりました」

妖夢は了承の返事を返し、長刀が突き刺さっている場所まで向かって長刀を引く抜く。
そして引き抜いた長刀を鞘に収めた後、白玉楼に向かう為に空中へと躍り出る。
空中に出た妖夢の後を追う様に龍也も空中に躍り出ると、二人は白玉楼を目指して移動を開始した。






















龍也と妖夢が移動を始めてから幾らかの時間が過ぎると、

「でかい門だな……」

龍也と妖夢は大きな門の前に辿り着いていた。
門の造形は純和風。
洋風な門を構えている紅魔館とは正反対だなと言う感想を龍也が抱いていると、

「この門の先が白玉楼となってます」

妖夢はこの先が白玉楼だと言って門を開き、中へと入って行く。
中に入って行った妖夢の後を追う様に龍也も足を進めて中へと入る。
その瞬間、

「こいつは……」

龍也は驚きの表情を浮かべてしまう。
何故ならば、少し周囲を見渡せば見事なまでの桜の木々が目に映ったからだ。
更に言うのであれば、風が吹いて舞う桜の花びらが白玉楼の造形と相俟って何とも幻想的な雰囲気を醸し出している。
だから、

「凄いな……」

龍也はつい、凄いと言う言葉を漏らしてしまう。
その言葉が聞こえたからか、妖夢は龍也の方に体を向け、

「ありがとうございます」

嬉しそうな表情を浮かべながら礼の言葉を口にした。
礼を言われた理由が分からないと言った表情を龍也が浮かべていると、

「あ、白玉桜の庭の管理などは私がやっているのです」

妖夢は龍也の疑問を氷解させるかの様に自分が白玉楼の庭の管理をしている事を伝える。
それを聞き、龍也は納得した表情になった。
自分が管理している庭が褒められれば誰だって嬉しくもなるだろう。
妖夢が嬉しそうな表情を浮かべている理由を理解した後、龍也は改めて周囲を見渡す。
見渡した結果、白玉楼の庭と言うか敷地はかなり広いと言う事が分かった。
この広い敷地内にある木々などを一人で手入れをしているのは凄いな龍也が思っていると、

「……っと、早く幽々子様と龍也さんと一緒に来た三人を探しましょう」

妖夢が西行寺幽々子と龍也と一緒に来た霊夢、魔理沙、咲夜の三人を探す様に促す。
促された事で龍也が妖夢の方に顔を向けると、妖夢は龍也に背を向けて先に進む為に足を動かす。
妖夢が先に行ってしまったからか、龍也は少し慌て気味に妖夢の後を付いて行く。
龍也と妖夢が白玉楼の敷地内を歩き始めてから少しすると、

「あれは……」

二人の進行方向上に人間らしき四人の姿が見え始めた。
内訳は地に足を着けて立っているのが三人、倒れているのが一人だ。
立っている三人は霊夢、魔理沙、咲夜である。
三人ともボロボロの姿であるが、十分に元気そうだ。
霊夢、魔理沙、咲夜の健在の姿を見て、龍也が何処か安堵した表情を浮かべていると、

「幽々子様!?」

妖夢が倒れている一人に向けて慌てて近付いて行った。
妖夢の慌て様と発言から、龍也は倒れているのが西行寺幽々子なのではと考えて倒れている者の姿を観察する。
倒れている者は少し深い桜色の髪を肩口まで届くか届かない辺りで揃え、水色を基本とした着物を着た女性だ。
幽々子と思わしき女性を一通り観察した後、龍也は霊夢、魔理沙、咲夜の三人に近付き、

「よっ」

声を掛ける。
掛けられた声に反応した霊夢、魔理沙、咲夜の三人が龍也の方に顔を向けると、

「無事に勝てたみたいだな」

龍也は無事に勝てたみたいだなと言う言葉を掛けた。
すると、

「そりゃね。三対一だったし勝てて当然よ」

霊夢は掛けられた言葉に三対一だったから勝てて当たり前だと返す。

「何だ、三対一で戦ったのか」

霊夢が三対一で戦ったと口にしたからか、龍也は少し驚いた表情を浮かべてしまう。
てっきり一対一で戦ったものだと思っていたからだ。
少し驚いた表情を浮かべている龍也を見たから、

「いやな、私等も最初は一対一で戦おうと誰がやるかジャンケンで決め様としたんだぜ。だけどあいつ……幽々子が三対一で構わないからさっさと
掛かって来いって感じで挑発して来てな」

魔理沙は三対一で戦った理由を説明する。
魔理沙の説明を聞き、龍也の表情は納得したものに変わった。
挑発に容易く乗った霊夢、魔理沙、咲夜の姿が簡単に想像出来たからだ。
序に自分がその場に居たら、確実に三人と一緒に挑発に乗っているであろう場面も。
自分にしろ霊夢にしろ魔理沙にしろ咲夜にしろ、挑発に乗り易いタイプなのかなと龍也は推察しながら、

「やっぱ、あいつが西行寺幽々子だったのか……」

魔理沙の台詞から着物の姿の女性が西行寺幽々子であると言う確信を得ていると、

「冥界の管理人と言うだけあって、かなり強かったわ。まぁ、弾幕ごっこで戦ったから服が多少ボロボロになっただけで済んだけど、普通に戦ってたら
服がボロボロになるだけじゃ済まなかったわね」

咲夜が幽々子が強かった事と弾幕ごっこでなければ服がボロボロなるだけでは済まなかったと言う。

「弾幕ごっこで戦ったのか。てか、冥界にも弾幕ごっこって広まってたんだな」
「それには私も少し驚いたけど……あんたと戦ってたプリズムリバー三姉妹だっけ? あいつ等も弾幕ごっこを知ってたんだから幽々子の奴が弾幕ごっこを
別に不思議は無いでしょ」

龍也が冥界にも弾幕ごっこが広まっていた事に驚いていると、霊夢はプリズムリバー三姉妹が弾幕ごっこを知っていたのだから幽々子が弾幕ごっこの事を
知っていても不思議では無いと返す。

「あ、成程」

返された返答を聞いて龍也が納得した表情になると、

「それはそうと、私等と同じ様に龍也もちゃんと勝ったみたいだな」

魔理沙は自分達と同じ様に龍也も勝ったんだなと口にする。

「分かるのか? 妖夢と一緒に来たからどっちが勝ったかまでは分からないと思ったんだが……」

龍也が妖夢と一緒に来たからどちらが勝ったかまでは分からないと思っていた事を伝えると、

「貴方の顔を見れば分かるわよ。と言うかあの子、妖夢って名前だったのね」

咲夜に龍也が勝ったかどうか何て顔を見れば分かると言われてしまう。
顔で分かると言われた龍也は顔が緩んでいたかと思い、顔に手を当てて自分の表情を確認していると、

「さ、私達が勝ったんだから春度を返して貰いましょうか」

霊夢は既に立ち上がっていた幽々子に春度を返す様に言い放つ。
春度を返す様に言われた幽々子は、

「はぁー……分かったわよ」

溜息を一つ吐き、龍也達に背を向けて歩き出す。
歩き出した幽々子に続く様に龍也、霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢の五人も歩き出してから少しすると、巨大で沢山の桜の花を咲かせた桜の木が見えて来た。
巨大で見事と言う言葉が似合う桜を前に龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人が暫しの間言葉を失っていると、

「あれが、西行妖です」

妖夢が今龍也達が見ている桜が西行妖であると言う。
殆ど満開と言える様な状態に見えるが、あれでも満開では無いと言うのだから驚きだ。
幻想郷中から春度を奪って西行妖を満開にさせたくなるのも無理はないと龍也が思っていると、

「あの中に春度が在るみたいね」

霊夢は西行妖の中に春度が在る事を感じ取り、西行妖へと近付く。
そして、西行妖に手を付けて中に在る春度を解放させ様とした時、

「……あら?」

霊夢は不可思議な表情を浮かべた。

「どうかしたのか?」

龍也がどうかしたのかと尋ねると、

「春度を解放し様としてるんだけど……出来ないのよ」

霊夢は春度を解放出来ないのだと言う。

「え? どうしてだ?」

解放出来ないと言った霊夢に龍也はどうしてだと問うと、

「春度が一塊に……いや、違うわね。一際強い春度の塊に大量の春度が纏わり付いてる感じね。この一際強い春度の塊を何とかしないと西行妖の中に在る
春度を開放する事は出来ないわね」

霊夢は春度を解放する事が出来ない理由を説明し、どうしたものかと考え始める。
霊夢の発言を聞いていた魔理沙と咲夜も首を傾げて考え始めた。
同じ様に龍也も考え様としたが、その前にある事を思い出す。
思い出した事と言うのは自分の春度の事だ。
おそらく、自分の春度も西行妖の中に在るのだろうと龍也は考え、

「そういや、俺の春度も西行妖の中に在るのか?」

確認を取る様に自分の春度も西行妖の中に在るのかと妖夢に聞く。

「あ、はい。龍也さんの春度も西行妖の中に在りますよ」

妖夢から龍也の春度も西行妖の中に在ると断言されたからか、龍也は何かに気付いた表情を浮かべながら西行妖に近付き、

「よっと……」

西行妖に右手を付ける。
それから少しすると、

「……やっぱり」

龍也は先程気付いた事は正しかったと言う確信を得た。
龍也が気付いた事と言うのは、霊夢が言っていた一際強い春度の塊が自分の春度ではないかと言う事だ。
何故一際強い春度の塊が自分の春度であると気付けたかと言うと、妖夢と初めて戦った時に龍也に大量の春度が在ると言ったからである。
その言葉のお陰で、龍也は一際強い春度の塊が直ぐに自分の春度であると言う考えに至る事が出来たのだ。

「何か分かったの?」

龍也の表情を見て霊夢が何か分かったのかと声を掛けると、

「ああ」

龍也は肯定の返事を返し、意識を集中させていく。
如何に一際強い春度の塊で周囲に大量の春度が在ろうとも、所詮は龍也の中に在ったもの。
自分の中に戻す事位、造作も無い事であろう。

「返して貰うぜ、俺の春度を」

そう言いながら、龍也は西行妖の中に在る自分の春度を自分の中に戻そうとする。
するとどうだろう。
西行妖から少しずつ春度が解放されていくではないか。
同時に、西行妖の桜の花びらが少しずつ枯れていく。
龍也の狙い通り、西行妖の中に在る龍也の春度は少しずつ龍也の中に戻っていっている様だ
春度が解放され、桜の花が枯れていく光景は何処と無く神秘的で哀し気な様子を感じさせる。
龍也以外のメンバーがその光景に少々目を奪われていると、

「……ッ!?」

西行妖の中に在った春度が一気に解放され、西行妖は枯れ木へと急速に姿を変えていった。
どうやら、西行妖の中に在った龍也の春度が全て龍也の中に戻った様だ。
解放された春度が幻想郷へと戻って行き、完全に枯れ木と化したのを見て、

「あーあ、枯れたちゃったわ。残念」

幽々子は残念そうな表情を浮かべると、

「何言ってるのよ、お陰でこっちは良い迷惑したんだから。春が来ないし」

霊夢はこっちは良い迷惑だと文句の言葉を述べる。
態々寒い中を飛び回り、戦って来たのだから文句の一つや二つ出て来ても何の不思議は無い。
そんな風に不機嫌になっている霊夢を宥める様に、

「何はともあれ、これで幻想郷にもやっと春が来るだろ」

魔理沙はこれで幻想郷に春が来るだろと笑顔で言うと、

「まぁ、流石に春が来るまで少し時間が掛かりそうだけどね」

春が来るまで少し時間が掛かりそうだと言う推察を口にする。
霊夢、魔理沙、咲夜の三人がこれから来るであろう春に対する談義に華を咲かせている中、龍也は西行妖から右手を離して右手をジッと見詰めていた。
見詰めている右手を握ったり開いたりしながら、

「…………………………………………………………………………」

自分の春度を取り戻した時の事を思い返し、考えを廻らせていく。
龍也は確かに西行妖の中に在った春度を自分の中に取り戻した。
言い換えるのなら、春度を自分の中に取り込んだと言っても良い。
これだけなら龍也も態々自分の右手をジッと見詰める事はしなかったであろう。
では、何故そんな事をしているかと言うと感じたからだ。
春度と一緒に西行妖の中に在った何かを取り込んだ感覚を。
しかし、その様な感覚があったと言っても龍也は自身の体に違和感を感じてはいなかった。
ならば、気のせいであったのだろうか。
気のせいか、気のせいでないのかを龍也が考え様としたところで、

「あの、どうかないさましたか?」

妖夢が少し心配気な表情でどうかしたのかと問うて来た。
何も喋らずに俯いた儘の状態の龍也を見て心配になった様だ。
妖夢の声で意識を現実に戻した龍也は、

「いや、何でも無い」

何でも無いと返した。
体に何の問題も無く、違和感を感じない事から先程感じた感覚は只の気のせいだと判断した様だ。
頭を振るって気持ちを切り替え、西行妖に背を向けた時、

「それじゃ、帰りましょうか」
「帰ると言っても……今何時だ?」

龍也の耳に帰ろうと言う霊夢の発言と今何時だと問う魔理沙の声が耳に入って来た。
魔理沙の時間を問う発言で龍也はズボンのポケットから懐中時計を取り出して時間を確認し、

「うわ、もうこんな時間か……」

そう呟きながら少し驚いた表情を浮かべてしまう。

「何だ、もうかなり晩い時間になってるのか?」

龍也の呟きが耳に入った魔理沙はもう晩い時間になってるのかと尋ねると、

「ええ、かなり晩いわ。少なくとも、冥界を出る前に日付が変わる事は確実ね」

龍也と同じ様に懐中時計を取り出して時間を確認していた咲夜が冥界を出る前に日付が変わるだろうと言う推察を述べる。

「うっわ、もうそんなに時間が経ってたか……帰るのが面倒そうね……」
「だな。こっちに来る時は普通に雪が降ってたし、真っ暗闇の中を帰る事になりそうだぜ」

咲夜の推察を聞き、霊夢と魔理沙が帰るのが面倒臭いと言う事を思わず口にすると、

「だったら、白玉楼に泊まっていきなさい」

幽々子が白玉楼に泊まっていく様に勧めて来た。
先程まで敵対していた相手が急に好意的な対応を始めたからか、龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人は幽々子に少々不審気な視線を向ける。
四人の視線の意味に気付いた幽々子は、

「今回の騒動を起こしたお詫びみたいなものよ」

今回の騒動を起こしたお詫びだと言う。
些か怪しい感じではあったが、

「……多分、大丈夫よ。敵意みたいなものは感じないし」

霊夢が多分大丈夫と言った事もあり、一同は直ぐに泊まっていく事を了承する。
霊夢の勘が優れていると言うのもあるが、今から帰るのは面倒と言うのも直ぐに泊まっていく事を了承した理由の一つであろう。
そして幽々子と妖夢を先頭にして龍也達が白玉楼に近付くと外観は純和風である事が分かり、中に入ると内装も純和風である事が分かった。
まぁ、それ等は門の外観で予想出来た事ではあるが。

「てか、かなり広いな」

龍也は白玉楼の広さに驚きつつ、阿求の屋敷よりも広くて豪華何じゃないかと思っていると、

「霊夢の神社もここ位豪華にすれば、参拝客が来たりすんじゃないか?」

魔理沙がからかう様に博麗神社も白玉楼の様に豪華すれば参拝客が来るんじゃないかと言う。
すると、

「嫌よ。神社を大きくしたら掃除が面倒になるじゃない」

霊夢は間髪入れずに掃除が面倒になるか嫌だと返す。

「相変わらずねぇ……貴女」

相変わらずの霊夢に咲夜が呆れた視線を向けると、

「あ、そうだ。貴方達、お腹減ってない?」

幽々子は思い出したかの様にお腹減っていないかとかと尋ねる。

「腹か?」

お腹が減っていないかと尋ねられたからか、龍也が反射的に腹部に手を当てると、

「そう言えば……朝、食べてから何も食べてないのよね」

霊夢が朝ご飯を食べて以来、何も食べていなかった事を思い出す。
それに続く様に、

「家を出てからずっと飛びっ放しだったからな」
「途中で食事休憩の様なものを挟む事もしなかったしね」

魔理沙と咲夜の二人も朝ご飯を食べて以来、何も食べていないと言う様な事を口すると、

「だったら、今からご飯の用意をさせるから食べていきなさい。妖夢、直ぐに出せるわよね」

幽々子は今から食事の用意をさせるから食べていけと言い、確認を取る様に食事を出す事は直ぐに出来るかと聞く。

「はい。下拵えは済んでいる少し御時間を頂ければ……」

下拵えは済んでいるので少し時間を頂ければと妖夢が言うと、

「それじゃ、直ぐにお願いね」

幽々子は直ぐに食事が出せる様にしろと指示を出す。

「畏まりました」

頭を下げながら妖夢は了承の返事を返した後、少し急ぎ足で台所へと向かって行った。
妖夢の姿が見えなくなると、

「それじゃ、居間まで案内するわね」

幽々子が機嫌が良そうな表情を浮かべながら居間まで案内すると言って、進路を変える。

「急にご機嫌になったわね」

急に機嫌が良くなった事を霊夢が指摘すると、

「あら、大人数でご飯を食べた方が美味しいでしょ」

幽々子は大人数でご飯を食べた方が美味しいだろうと返す。

「確かに、宴会をしてると知らず知らずの内に食い物や酒の進みが早くなるよな」

幽々子の大人数で食べた方が美味しいと言う発言に魔理沙が同意を示すと、

「宴会と言えば……また今回も異変解決祝いって感じの宴会を開くのかしら?」

咲夜は今回も異変解決祝いと言った感じの宴会を開くのかと問い掛ける。

「そうね……あんたの所のお嬢様が起こした異変を解決て宴会を開いたからか、異変解決後は宴会って感じになってるのよね……」
「おし、決まりだな」

霊夢が全てを言い切る前に、魔理沙が宴会を開く事を決めてしまった。

「また勝手に決めて……ま、何を言っても私の神社で勝手に始めるんでしょうね……」

何処か諦めた表情を浮かべてる霊夢を余所に、

「と言う訳で、近い内に宴会に開くからちゃんと時間を空けてろよ。龍也に咲夜に幽々子」

魔理沙は近い内に宴会を開くから時間を空けて置く様に龍也と咲夜と幽々子に言う。
時間を空けて置く様に言われた龍也、咲夜、幽々子の三人は、

「あいよ」
「分かったわ」
「宴会と言ったら沢山の料理が出そうね。今から楽しみだわ」

それぞれ了承の返事を口にする。
宴会が博麗神社で開かれるのであれば、宴会が開かれるまで博麗神社にでも泊まらせて貰おうかと龍也が考えていると、

「ここが居間よ」

幽々子は居間に着いたと言って目の前に在る襖を開いて中へと入って行く。
居間もかなり広いなと言う感想を龍也達は抱きつつ、幽々子の後に続いて中へと入る。
そして、それぞれ席に着いて雑談を交わしていくと、

「お待たせしました!!」

妖夢が料理を手に持って居間へとやって来た。
その後ろに、料理を自分の体に乗せて運んで来ている何体もの人魂を引き連れながら。
手も足も無く、丸っこい体だけでよく運べるなと龍也が思っている間に大きなテーブルの上に料理が次々と並べられていく。
とても六人では食べ切れない程の量が。
こんなに作っては無駄に余らせるだけではと龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人は思ったが、思った事は直ぐに払拭される事となる。
何故ならば、幽々子がかなりスピードで並べられた料理を次々と平らげ始めたからだ。
幸せそうな表情で料理を食べている幽々子の様子を見た後、龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人は妖夢の方に顔を向けると、

「ふむ……自画自賛な気もしますが、美味しくできてますね」

妖夢は少しの動揺を見せずに自分で作った料理の感想を口にした。
この事から幽々子の食欲はこれが普通なのだと四人は理解し、料理を食べ始める。
幽々子に全ての料理を食べられてしまわない様に。





















そして、幻想郷から春度が奪われて春が来なくなると異変が起こってから数日後。
少々遅いペースではあるが、幻想郷は確実に暖かくなっていっている。
この分ならもう少しで本格的な春になる事であろう。
幻想郷がそんな様子になっている中、博麗神社では、

「飲むぞー!!」
「歌うぞー!!」
「騒ぐぞー!!」

宴会が開かれていた。
無論、この宴会は白玉楼で魔理沙が言っていた宴会だ。
異変を起こした者、解決しに行った者、今回の異変に関与していない者関係無しに集まっては騒いでいる。
宴会は盛り上がるのが当たり前だなと龍也は思いつつ、適当に食べ歩いていると、

「幽々子様、流石にそれは食べ物の取り過ぎでは?」

幽々子を嗜めている妖夢の声が聞こえて来た。
何に対して嗜めているのか気になったのか、龍也が妖夢と幽々子の方に顔を向けると、

「おおう……」

幽々子が持っている皿に山の様に乗せられた食べ物が龍也の目に映る。

「お前、それは流石に乗せ過ぎじゃないのか?」

龍也が幽々子に思わず乗せ過ぎではと言う突っ込みを入れると、

「あら、まだ宴会が始まったばかりだから遠慮して少なくしたのに」

幽々子は不満気な表情を浮かべながらこれでも少なくしたのにと言う。
これでも少なくしたと言った幽々子に龍也は呆気に取られた表情を浮かべながら妖夢の方に顔を向けると、

「幽々子様は……その……御健啖であらせられるので……」

妖夢は何とも言えない表情で幽々子は健啖だからと言う。
流石に自分の主の大食感振りを指摘されては妖夢もそれ位の事しか言えなかった様だ。
今、幽々子が皿に乗せている食べ物の量と白玉楼で幽々子が食べた料理の量を思い出し、

「……ああ、御健啖ね」

幽々子の大食感は健啖と言う事で龍也は納得する事にした。

「あら、何か言いたそうね」

龍也と妖夢の表情を見て、幽々子が何か言いたいのか聞くと、

「いや、何でも」
「な、何でもありません!! 幽々子様!!」

龍也と妖夢は何でもないと返す。
その後、龍也は妖夢と幽々子と雑談を交わしていく。
雑談に一段落着くと、龍也は二人と別れて宴会場内を歩いて回る。
宴会場内を歩いている中で、酒に手を付けて無い事を思い出した龍也は酒を探す為に周囲を見渡すと、

「お……」

美鈴の姿を発見した。
美鈴には確りとボロ負けして悔しいから強くなってリベンジしたいと言って修行に付き合って貰ったのだから勝敗の結果は伝えた方が良いと龍也は考え、

「美鈴」

美鈴に声を掛けながら近付く。

「あ、龍也さん」

龍也が近付いて来た事に気付いた美鈴が龍也の方に顔を向けると、

「美鈴、俺の修行に付き合ってくれてありがとな。お陰で勝てたよ」

龍也は無事にリベンジを果たせた事を伝える。

「それは良かったです。おめでとうございます」

美鈴が笑顔でおめでとうと言う言葉を返した時、龍也は美鈴が手に持っているコップの中身が空になっている事に気付く。
修行に付き合って貰ったと言う礼を籠めて、

「中身、空になってるぞ。注いでやるよ」

龍也は近くに置いてあった酒瓶を手に取って空になっている美鈴のコップに酒を注ぐ。

「あ、ありがとうございます」

美鈴は礼の言葉を述べ、コップの中身が酒で一杯になると酒を飲み、

「少し刺激が足りない気がしますが……美味しいお酒ですね」

酒の感想を口にする。

「そうなのか?」

龍也は首を傾げ、美鈴のコップに注いだ酒瓶にまだ入っている酒を飲み、

「俺は別にそうは思わないけどな」

別に刺激が足りないと思わないと言う感想を漏らすと、

「まぁ、その辺は人間と妖怪の味覚の違いですかね?」

その辺りは人間と妖怪の味覚の差ではないかと返す。
種族が違うのだから味覚の違いがあって当然かと龍也は考え、酒を肴にしながら美鈴と雑談を交わしていく。
そして雑談が一段落着くと、龍也は美鈴と別れてまた宴会場内を歩いて回る。
すると直ぐに、

「あれは……フランドールか」

フランドールの姿を発見した。
折角なのでフランドールと話そうと龍也は思い、フランドールに近付こうとした時に気付く。
フランドールが橙とチルノとルーミアの三人と楽しそうに話している事に。
フランドールはフランドールで色々と頑張っている様だ。
ならば、邪魔をするのは野暮だなと龍也が判断していると、

「龍也」

後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
龍也は誰が自分の名を呼んだのかを確認する為に振り返ると、

「レミリア」

レミリアの姿が目に映る。
声を掛けたのはレミリアであると龍也が認識していると、

「無事にリベンジを果たせたみたいね。おめでとう」

レミリアは龍也が無事にリベンジを果たせた事に付いておめでとうと言う言葉を口にした。

「あれ、美鈴にでも聞いたのか?」

美鈴から自分がリベンジを無事に果たせた事を聞いたのかと龍也が問うと、

「別に聞いてないわ。それ位の事、貴方の顔を見れば分かるわ」

レミリアは美鈴から聞いてないと言い、その程度の事は顔を見れば分かると返す。
顔を見れば分かると言われた龍也が、そんなに顔に出てるかと言いたげな表情を浮かべていると、

「それはそうと……フランも大分変わったわね」

レミリアはフランドールの方に顔を向け、フランドールも大分変わったと呟く。
フランドールがああやって誰かと楽しそうに話しているのは、レミリアに取って大分変わったと称すべき事の様だ。

「俺は俺と会う前のフランドールの事は知らないけど……良い事なんじゃないか? あんなに楽しそうにしてるし」

龍也は自分と会う前のフランドールの事は知らないけど楽しそうにしているから良い事なのでは言うと、

「そうね」

レミリアは同意する言葉を漏らし、龍也の方に顔を戻して思う。
また強くなったと。
強くなった言っても単純に力を上げたと言う訳では無い。
例えるなら、壁を一つ越えた。
この表現が一番似合っているだろうとレミリアは思いつつ、

「ふふ……」

思わず笑みを零してしまう。
龍也が何所まで強くなるか全く予想が出来ないからだ。

「ん? どうかしたか?」

急に笑みを零したレミリアを不審に思ったから、龍也がどうかしたのかと尋ねると、

「いえ、何でもないわ」

レミリア何でもないと返し、

「それよりも龍也、私のものにならない?」

龍也に自分のものにならないかと問う。

「断る」
「ふふ、それは残念」

断られてレミリアは残念と言っているものの、諦めた様子を少しも見られない。
このやり取りもお約束になって来たなと龍也が感じていると、

「あ、そうそう。この焼き鳥、咲夜が焼いて味付けをしたものなの。美味しいわよ」

レミリアが咲夜が焼いて味付けをしたと言う焼き鳥を差し出して来た。
レミリアから黙って食えと言う意思を感じたからか、龍也は黙って差し出された焼き鳥を受け取って食べ始める。
すると、

「……美味い」

自然に美味いと言う感想と龍也の口から出て来た。
その後、

「てか、咲夜って凄いよな。戦闘も料理も何でも出来るんだから」

龍也は咲夜は何でも出来て凄いと呟く。
少なくとも、龍也では咲夜の様に何でも出来る多芸とはいかない。
龍也の咲夜を称賛する様な呟きが聞こえたからか、

「当然でしょう。私の従者何だから」

レミリアは自慢気な表情を浮かべながら胸を張る。
自分が褒められた訳でも無いのに自慢気な表情を浮かべているレミリアを見て、龍也は相変わらずだなと思いながらレミリアと雑談を交わしていく。
それが一段落着くと、龍也はレミリアと別れてまたまた宴会場内を歩き回る。
特に目的も無くブラブラと歩いていると、

「龍也さん」

背後から声を掛けられる。
声を掛けられた龍也は一旦立ち止まって振り返ると、

「阿求」

自身に声を掛けて来たのが阿求である事が分かった。
龍也が阿求の存在を認識している間に、

「本日はお誘い頂き、ありがとうございます」

阿求はそう言って頭を下げる。
阿求の言葉通り、阿求を今回の宴会に誘ったのは龍也なのだ。、
宴会を開くのに必要になるであろう食料や酒を手に入れる為に龍也が人里に行って買い物をしている時に、龍也は阿求の姿を見付けた。
阿求の姿を見付けた龍也は折角なので宴会に参加しないかと提案したところ、特に予定は無かったので参加すると言う旨を阿求は龍也に伝える。
と言う事があり、余り人里から出る事が無い阿求もこうしてこの宴会に参加しているのだ。

「別に良いって、そんな畏まらなくても」

龍也は顔を上げる様な事を言ったからか、阿求は顔を上げ、

「そう言えば、龍也さんも今回の異変を解決した一人何ですよね?」

龍也も異変を解決した一人なのだろうと問う。

「ああ、一応……そうなるのかな」
「でしたら、今度インタビューさせて貰えませんか?」

龍也が肯定の返事をすると、阿求はインタビューをさせてくれないかと頼み始めた。

「インタビュー?」

インタビューと言う言葉を聞いて龍也が思わず首を傾げると、

「あれ、言ってませんでしたっけ? 私、幻想郷縁起と言う書物を書いているんですよ」

阿求は幻想郷縁起と言う書物を書いている事を口にする。

「……ああ」

幻想郷縁起の事を言われた事で、龍也は思い出す。
以前、阿求がその様な書物を書いていると言っていた事を。
因みに、幻想郷縁起と言うのは俗に言う人物図鑑と言う物らしい。

「と、言う事は……」

阿求のインタビューと幻想郷縁起と言う言葉で龍也が何か思い付いたと言う表情をしていると、

「はい。幻想郷縁起に龍也さんの項目を付け加えたいと思っているんです」

阿求は幻想郷縁起の龍也の項目を付け加えたいのだと言う。

「良いのか、俺なんかで?」
「はい。異変解決に携われる程の力をお持ちなのですから、是非とも龍也さん事を幻想郷縁起に載せたいのです。それに、龍也さんは能力持ちですしね」

阿求から是非とも幻想郷縁起に載せたいと言われたからか、

「じゃ、今度……俺と阿求の都合の良い日にでもインタビューに応じさせて貰うな」

龍也はお互いの都合の良い日にでもインタビューに応じると言う旨を伝える。

「分かりました。約束ですからね」
「ああ、約束だ」

嬉しそうな表情を浮かべている阿求に龍也は約束だと返し、雑談を交わしていく。
雑談が一段落着くと阿求は他の方達と話してみたいと言って他の場所に向かったので、龍也も再び宴会場内を見て回る事にした。
それから直ぐに龍也は見知った顔を発見したので、

「よ、レティ」

近付いて声を掛ける事にした。
龍也が発見した見知った顔と言うのはレティであった様だ。

「あら、龍也」

龍也の存在に気付いたレティが龍也の方に顔を向けると、

「そう言えばこんな所でどうしたんだ? 春になるから休む場所を探しに行くとか言ってなかったか?」

龍也はレティに春になるから休める場所に探すと言っていなかったかと問う。

「それなんだけどね、中々良い場所が見付からなくてね」

レティは溜息を吐きながら休むのに良い場所が中々見付からないと愚痴り、

「で、探している最中に楽しそうな声が聞こえたからね。気分転換も兼ねて参加させて貰っているの」

この宴会に参加している理由を説明する。

「休める場所を探すってのも大変なんだな」

大変なんだなと言いながら些か同情する様な視線を龍也がレティに向けていると、

「まぁね」

レティはそれを肯定する発言を口にし、

「でもま、探すのに手間取ったお陰でこう言う賑やかな所に来れたのだから結果オーライかしらね。美味しい物も沢山食べれるし」

探すのに手間取ったお陰で賑やかな宴会に参加出来たら結果オーライだと言う。
何だか楽観的だなと龍也が思っていると、

「……ん?」
「……あら?」

音楽が二人の耳に入ってる来た。
音楽の発生源を探す為に顔を動かすと、プリズムリバー三姉妹が演奏を行っている様子が龍也のレティの目に映る。
龍也は音楽の知識に明るいと言う訳では無いが、

「何て言うか……凄いな。凄い演奏って言葉位しか思い付かない」

プリズムリバー三姉妹の演奏を聴いて凄いと言う単語が自然と口から出て来た。

「そうね……あの姉妹の演奏は相変わらず素晴らしいものね」
「あれ? レティはあいつ等の演奏の事を知っているのか?」

レティの発言から龍也はプリズムリバー三姉妹の演奏を聞いた事があるのかと問うと、

「ええ、何度もね。あの姉妹……プリズムリバー楽団はコンサートをそれなりの頻度で開いているからね。私も冬の間に開かれているコンサートには
行っているしね」

レティはプリズムリバー三姉妹がコンサートを開いている事を教える。

「へぇー……」

この三姉妹が開いているコンサートなら行ってみたいなと龍也が思っていると、

「こんばんは」

龍也とレティの背後からこんばんはと言う声が聞こえて来た。
誰だと思った龍也とレティが背後を向くと、

「アリス」

龍也は挨拶の言葉を掛けて来たのがアリスである事を知る。

「お前も来てたんだな」
「ええ、魔理沙に誘われてね」

溜め息混じりにアリスがそう言った為、龍也は半ば強引に連れて来られたんだなと言う推察をしていると、

「あら、龍也の知り合い?」

アリスを見るのが初めてだからか、レティは龍也の知り合いなのかと問う。

「貴女とは初対面ね。私はアリス・マーガトロイド。魔法使いよ」

レティと初対面である事に気付いたアリスが自己紹介をすると、

「これはご丁寧にどうも。私はレティ・ホワイトロック。冬の妖怪よ」

それに返す様にレティも自己紹介をする。

「冬の妖怪……ね。やっぱり、冬がもっと長くても良かったって思ってたのかしら?」

レティが冬の妖怪である事を知ったアリスは、冬がもっと長い方が良かったかと聞くと、

「そう思わなかった事も無くは無いけど……今は無事に春が来る様になって良かったって思ってるわ」

レティは無事に春が来る様になって良かったと返す。

「一寸意外ね。てっきり春になって残念に感じているものだと思ってたんだけど……」
「最初はこの長い冬を終わらせに行く龍也の邪魔でもし様かと少しは考えたんだけど、龍也に今回の冬が長かったから次の冬が短くなるかもしれないって
言われたからね」

意外そうな表情を浮かべているアリスに、レティが龍也に言われた事を話すと、

「成程。確かに今回の冬が長かったら次の冬が短くなる可能性はあるわね」

アリスは納得した表情を浮かべる。
その後、アリスは龍也の方に顔を向け、

「それはそうと、異変解決お疲れ様」

異変解決をした龍也に労いの言葉を掛けた。
ストレートに労われた龍也が、

「まぁ、俺一人で解決した訳じゃ無いけどな」

少し照れ臭そうな表情になっていると、

「そうそう、ワインを持って来ているのだけど……飲む」

アリスはワインを飲むかと言いながら龍也とレティにワイン瓶を見せる。

「飲む」
「そうね……ワイン何て久しく飲んで事だし、頂かせて貰うわ」

龍也とレティが飲むと言った為、アリスはグラスを取り出してワインを注いでいく。
そして龍也、レティ、アリスの三人はプリズムリバー三姉妹の演奏を聞きながらワインを飲み、雑談を交わしていった。





















プリズムリバー三姉妹の演奏が終わるのと同時に雑談も一段落着いたので、龍也はレティとアリスの二人と別れて再び宴会場内を歩き回る。
先程はワインばかり飲んでいたので今度は酒が飲みたいなと龍也が思っていると、

「あ、居た居た。おーい、龍也ー!!」

何所からか龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
声が聞こえて来た場所を探す為に顔を動かしていると、

「あれは……魔理沙か」

手を大きく手を振っている魔理沙の姿が目に映る。
その動作で魔理沙が自分を呼んでいる事に気付いた龍也は魔理沙の方に近付き、

「何か用か?」

何か用かと問うと、

「龍也を探してたんだぜ」

魔理沙は龍也を探していたのだと言いながら龍也の手を掴み、早足で何処かへと向って行く。

「お、おい」

龍也が声を掛けても魔理沙は止まらず、龍也は何処かへと連れて行かれてしまう。
そして魔理沙に連れて行かれた場所には、

「霊夢に咲夜」

霊夢と咲夜が居た。
こんな所に集まって何してるんだと言う表情を龍也が浮かべていると、

「魔理沙が異変解決した四人で飲もうって言って来たのよ」

霊夢がこの場所に集まっている理由を説明する。
霊夢の表情から察するに、半ば強制的に連れて来られた様だ。
魔理沙はそんな表情を浮かべている霊夢を気にした様子を見せず、

「良いじゃないか。酒は皆で飲んだ方が美味いぜ」

酒は皆で飲んだ方が美味いと言って龍也から手を離して腰を落ち着かせた。

「相変わらずね、あんたは……」

霊夢が溜息混じりに何処か諦めた表情を浮かべていると、

「ま、偶には良いんじゃないかしら。私達が開く様な宴会の場で人間だけで固まって飲むって言う機会はそう多く無いんだし」

咲夜は自分達が開く様な宴会で人間同士が固まって飲む機会はそう多くは無いのだから偶には良いんじゃないかと口にする。
咲夜の言う様に今回の宴会に参加している者が宴会を開いた場合、参加する人間と言ったら龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人位であろう。
序に言えば龍也、霊夢、魔理沙の三人は宴会場内を動き回ることが多いし、咲夜はレミリアの傍に控えている事が多い。
確かに、こうやって人間同士で固まると言う機会は多くは無いだろう。

「そう言う事。ほら、龍也も座れよ」

魔理沙に促される形で龍也も腰を落ち着かせると、

「……ま、さっさとお酒でも飲みましょうか」

霊夢は予め置かれていたコップに酒を注いでいく。

「何だ、結構乗り気じゃないか」

進んで酒を注いだ霊夢を見て、魔理沙がからかう様に意外に乗り気じゃないかと指摘する。
指摘された事に対して、

「べ、別にそんな事は無いわよ」

霊夢は少し頬を赤く染めて、魔理沙から顔を逸らす。
図星でも突かれたかと霊夢以外の三人が思っていると、四っつのコップ全てに酒が満たされる。
コップに酒が満たされてた事で四人はコップを手に持ち、

「「「「乾杯」」」」

それぞれのコップを合わせて酒を飲む。
コップに注がれた酒を全て飲み干すと、

「あら、結構美味しいわね。このお酒」

咲夜が酒の感想を漏らす。

「ああ、その酒は結構高いのだからな」

龍也が今飲んでる酒は結構高い物だと言うと、

「何だ、この酒は龍也が買って来たのか?」

魔理沙が今飲んでるは龍也が買って来た物なのかと問う。

「ああ、俺に買った酒だ」

龍也は自分が買って来た酒である事を肯定し、

「序に言うのなら、博麗神社で用意した酒と食料は全部俺が買って来た物だ」

博麗神社で用意していた酒と食料は全て自分が用意した物だと言う事も口にした。

「何で貴方が霊夢の分まで用意してるのよ」
「いや、宴会が開かれるまで俺はここに泊まってたんだ。で、泊まっている間に雑務などを色々と引き受けてたんだが……」

咲夜の何で霊夢の分まで用意してるのかと言う疑問に龍也が宴会が開かれるまでに博麗神社に泊まっていた事と雑務などを色々と引き受けていた事を話すと、

「それで宴会用の買出しも押し付けられたって訳か」

魔理沙が宴会用の買出しも押し付けられたのかと言う推察をする。

「正解」

魔理沙の推察が合っている事を龍也が教えると、

「龍也が泊まってくれると、掃除や買出しなど色々とやってくれるから楽なのよね」

霊夢は龍也が泊まってくれると楽が出来て良いと呟く。

「よく霊夢に使われる気になるわね」
「ま、俺は世話になってる身だからな。この程度は引き受けるさ」
「律儀な奴だぜ」
「何言ってるのよ。毎日朝昼晩と美味しいご飯を食べさせて上げてるじゃない」

空になったコップに酒を注ぎ直し、咲夜、龍也、魔理沙、霊夢の四人は宴会が終わるまで雑談を交わしていった。






















宴会が終わると、宴会に参加していた者達はそれぞれ勝手に解散していく。
そんな中、龍也は阿求を探して歩き回っていた。
阿求は空を飛ぶ事が出来ないので龍也が人里まで送っていく必要があるからだ。
そもそも、博麗神社に来る時も龍也が阿求を背負って来たのだから。
キョロキョロと周りを見渡していると、

「阿求」

龍也は阿求を発見する。
同時に、

「龍也さん」

阿求の方も龍也の事を見付けた様で、阿求は龍也の方に近付いて行く。

「もう皆帰り始めてるみたいだし、俺達も帰るか?」
「はい、帰りましょう」

阿求から帰る意思を確認した後、龍也は阿求を背負って空中へと躍り出る。
そして空中に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに降り立ち、空を駆けて行く。
阿求に負担が掛からない様にスピードをかなり落としながら。
緩やかな空中散歩の様な状態になってから少しすると、

「わあー……」

阿求は目を輝かせながら周囲を見渡し始めた。
背中の方で阿求が顔を動かしているのに気付いた龍也は、

「ん、どうかしたか?」

どうかしたのかと問い掛ける。

「あ、その……こんな所から星空を見たのは始めてでして」

問い掛けられた事に、阿求は少し照れた表情をしながらこんな所から星空を見のは初めてだと言う。
空を飛べない者では上空から星空を見る事は出来ないなと龍也は考えながら顔を上げると、満天の星空が目に映る。
綺麗な星空だと龍也が感じていると、

「龍也さん、その……もっとスピードを出してくれませんか」

阿求がもっとスピードを出して欲しいと頼んで来た。

「別にスピードを出す事は構わないけど……風とか結構来ると思うぞ」

スピードをもっと出す事は構わないが、それだと阿求に負担が掛かると言う様な事を龍也が言うと、

「大丈夫です。一応少しは厚着をして来ましたから」

阿求は厚着をしているから大丈夫だと返す。
阿求の方に顔を向けると、阿求が何やら期待を籠めた目をしている事に龍也は気付く。
だからか、龍也は空を駆けるスピードを大きく上げる。
すると、

「あは!! 星が光の線になっている様で凄く綺麗です!!」

阿求は凄くご機嫌な様子で周囲の様子を伺っていた。
これだけ喜んでるのならまぁ良いかと龍也は思いながら今のスピードを維持した状態で空を駆けて行く。
それから少しすると眼下に人里が見えて来たので龍也は一旦止まり、

「阿求、阿求の家ってどこら辺だっけ?」

阿求の屋敷がどの辺りにあるかと問う。

「あ、はい。えーと……あっちの方です」

問われた阿求は龍也の背中から少し乗り出しながらある場所を指さす。

「了解」

龍也は了解の返事をし、指がさされた方へと向って行く。
そして、阿求の屋敷が眼下に見えて来ると龍也は降下して地に足を着けて阿求を降ろす。
地に足を着けた阿求は、

「本日はありがとうございました」

阿求は頭を下げて礼の言葉を述べた。

「礼なんて別に良いって。誘ったのは俺なんだしさ」

礼を言われる事じゃないと龍也が言うと、

「あ、もう遅いですし泊まっていきますか?」

阿求は頭を上げて泊まっていかないかと言う提案を行う。

「んー……」

泊まっていかないかと言われた龍也は少し考え、

「……そうだな、お世話になるよ」

阿求の提案を受け入れる事にした。
直ぐにどうするか決められた要因として、もう眠いので博麗神社戻るのや寝床を探しに行くのは面倒と言う事があったからだろう。
こうして、龍也は阿求の屋敷に泊まる事になった。























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