「……ん?」

龍也は目を覚まし、上半身を起こして周囲の様子を伺う。
その結果、何所を見渡しても真っ暗闇である事が分かった。
何でこんな真っ暗闇の所に自分は居るんだと考えながらボーッとしていると少しずつ頭が覚醒していき、

「……あ」

龍也は思い出す。
文に紹介して貰った洞窟に住み始めたと言う事を。

「そういや、俺も一国一城の主の様な者になったのか」

龍也はそんな事を口にしながら立ち上がり、上半身を伸ばしていく。
上半身を伸ばし始めてからある程度すると、龍也は上半身を伸ばすのを止めて自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って瞳の色が黒から紅に変わると、龍也は掌から炎の生み出す。
炎を生み出した事で辺りが明るくなると、龍也は何かを探す様に顔を動かしていく。
何を探しているのかと言うと、

「……お、ランプ見っけ」

ランプである。
因みに、このランプは昨日香霖堂で買って来た物だ。
ランプを見付けた龍也は生み出している炎を小さくさせながら指先へと移動させ、ランプに近付いて行く。
そして、指先の炎を使ってランプに火を灯す。
ランプに火が点くのと同時に龍也は生み出していた炎を消し、ランプを手に持って振り返ると、

「こうして改めて見てみると、結構家らしくなってるな」

龍也の目には家具や寝具、本棚と言った物が映った。
壁際の方にはアリスに作って貰った防寒具などがハンガーに掛かっている。
無論、こう言った家具の類も昨日の内に香霖堂で買って来た物だ。
本当に香霖堂には色んな物が置いてあるなと龍也は思いながら奥の方に貼り付けてある霊夢が作ってくれたお札に視線を移す。
この結界を張ってくれるお札のお陰で防犯面の心配は完全に無くなった。
龍也はお札を作ってくれた霊夢に感謝の念を送っていると、

「……っと、腹減って来たな」

空腹感を覚え始める。
なので、昨日家具などを買いに行った時に霖之助から新築祝いと言う事で貰った酒とつまみに手を付ける事にした。
朝っぱらから酒とつまみと言うのはどうかと思われるが、龍也は欠片も気にした様子を見せずに酒を飲んでつまみを食べていく。
酒を飲み干し、つまみを食べ終えると空腹感が無くなったので龍也は出発する事を決めてランプに灯っている火を消す。
灯っていた火が消えた事で再び暗くなるが、龍也が掌から再度炎を生み出した事でまた明るくなる。

「忘れ物とかは……無いな」

一度周囲を見渡して忘れ物が無い事を確認すると、龍也は洞窟の外に出て生み出していた炎を消しながら顔を上げると、

「お、良い天気」

青い空が目に映った。
何所までも続く、青い空が。
絶好の旅日和だと思いながら龍也は自身の力を消す。
力を消した事で瞳の色が紅から元の黒に戻る。

「……よし、行くか!!」

龍也は気合を入れ、足を一歩を踏み出した時、

「あれは……」

気付く。
香霖堂で家具などと一緒に買ったポストの中に新聞が入っている事に。
龍也は何の新聞だと思いながらポストに入っている新聞を手に取ると、

「"文々。新聞"……」

手に取った新聞が"文々。新聞"である事が分かった。

「早いな。インタビュー受けたの昨日だって言うのに……」

おそらく、昨日受けたインタビューを直ぐに纏めて新聞にしたのだろう。
文の新聞作成スピードに龍也は驚きつつも、折角なので"文々。新聞"を読んで見る事にする。
読み始めてから少しすると、

「……何か照れ臭いな」

龍也は少々気恥ずかしい気分になった。
自分の事が書かれている新聞を読めばそんな気分にもなるであろうが。
そんな気分の儘"文々。新聞"を読み続け、読み終えると新聞を置いて来る為に龍也は洞窟の中へと戻って行く。
"文々。新聞"を洞窟の中に置き終えて再び外に出ると、

「さて、改めて……出発するとするか!!」

龍也は今度こそと言う意気込みを籠めながら足を前に出した。






















龍也が旅を再開してから数日程の時が経つと、僅かに残っていた雪も見られなくなっていた。
どうやら、この温かさで完全に溶けてしまった様だ。
龍也はもう完全に春だなと思いながら周囲に見える景色を楽しみながら足を進めて行く。
そんあ時、

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

龍也の耳にかなり切羽詰った叫び声が聞こえて来た。
何事だと思った龍也は叫び声がした方に顔を向けると、

「あれは……人間の子供に妖怪か?」

何人かの人間の子供達が妖怪の群れに追い掛けられている光景が目に映る。
その光景を見た龍也は、妖怪は兎も角何で人間の子供がこんな所に居るのだと言う疑問を覚えた。
龍也が今居る場所の周囲に人里は見られない。
つまり、ここは人里から結構離れた場所であると言う事になる。
そんな場所に子供だけで来ている理由を考え始めた時、

「……あ」

龍也は直ぐに気付いた。
子供は好奇心が強いと言う事に。
好奇心が強い子供が危険な場所や入ってはいけないと言われている場所に入って行く事など普通に考えられる。
それが普通に考えられるのであれば、危険な妖怪が当たり前の様に闊歩している人里の外に出る事も普通に考えられるであろう。
子供達がここに居る理由を龍也がその様に推察していると、

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

子供の一人が妖怪の群れに追い付かれそうになっていた。
このままでは、最低でも子供の一人は確実に妖怪に食い殺されてしまう。
流石に子供が食い殺される未来を黙って見る気は無いからか、龍也は一瞬で移動する移動術を使って子供達と妖怪の群れの間に現れ、

「……え?」

先頭に居た妖怪の顔面に蹴りを叩き込んだ。
蹴りを叩き込まれた妖怪は叫び声を上げながら吹っ飛んで行った。
行き成りの事態に子供達も妖怪達も思わず動きを止めて唖然としていると、

「危ないから少し離れてろ」

龍也は子供達に危ないから離れている様に言って妖怪の群れの方に向き直る。
龍也と妖怪達が睨み合う形となった事で妖怪達は龍也を敵と認識し、大きな唸り声を上げ始めた。

「ひ……」

妖怪の唸り声を聞いて龍也に助けられた子供が怯えたかの様に後ずさると、妖怪の一体が雄叫びを上げながら龍也へと肉迫して行く。
子供達よりも龍也を先に仕留める気の様だ。
狙いが自分なら子供達を護る様に立ち回る必要は無いなと考えながら、

「はあ!!」

龍也は肉迫して来た妖怪に右ストレートを叩き込み、肉迫して来た妖怪を殴り飛ばす。
殴り飛ばされた妖怪を見た残りの妖怪達は一体だけでは不利であると悟ったからか、今度は一斉に襲い掛かって行った。
多数の妖怪に襲い掛かられている一人の人間。
傍から見れば絶体絶命の状況である。
事実、龍也と妖怪達の戦いを見ていた子供達はもう駄目だと言わんばかりに絶望した表情を浮かべてしまっているのだから。
だが、多数の妖怪に襲われ掛かっている龍也は非常に落ち着いていた様子で迫って来ている妖怪達に目を向けていた。
そして、龍也は右手を右腰の辺りに持っていきながら自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色が黒から紅に変わる。
瞳の色が変わったのと同時に龍也は右手から炎を生み出し、生み出した炎を右腕全体に纏わせ、

「りゃあ!!」

右腕を一気に振るった。
すると、龍也の右腕から爆炎が放たれて襲い掛かって来た妖怪は全て爆炎に呑み込まれてしまう。
妖怪達が爆炎に呑み込まれてから少しすると、爆炎が消える。
が、爆炎に呑み込まれた妖怪達の姿は何処にも見られなかった。
どうやら、襲い掛かって来た妖怪は完全に燃え尽きてしまった様だ。
自分達の仲間が容易く倒された事で龍也に襲い掛からなかった妖怪達が怯えた表情を浮かべながら後ずさると、龍也は後ずさった妖怪達に睨みを効かせる。
睨まれた妖怪達はか細い悲鳴を上げ、一目散に逃げって行った。
逃げて行った妖怪達の姿が見えなくなると、龍也は右腕に纏わせている炎を消して力を消す。
瞳の色が紅から黒に戻ると、龍也は子供達の方に体を向け、

「もう大丈夫だぞ」

大丈夫だと声を掛ける。
掛けられた声で危機が去った事を理解し、緊張の糸が切れたからか、

『う、うわああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!』

子供達は泣きながら龍也に抱き付いて行った。
子供に泣かれているからか、龍也は少々困った表情を浮かべながら、

「あー……よしよし、もう大丈夫だからな」

子供達が泣き止む様に安心させる言葉を紡いでいく。
それから少しすると子供達が泣き止んだ為、龍也は子供達にここに居る理由を一応聞いてみる事にする。
答えてくれるかは分からなかったが、子供達はここに居る理由を何の抵抗も無く話してくれた。
何の抵抗も無く話してくれたのは龍也が命の恩人であるからであろうか。
兎も角、子供達が言うには最初は人里で遊び回っていたのだがもっと広い所で遊びたいと思って人里の外に出たとの事。
最初の内は人里の近くで遊んでいたのだが、気付いたら人里からこんなにも離れていた場所に来てしまっていたらしい。

「よくもまぁ、気付いたらで人里からこんなにも離れた場所に来れたな……」

気付いたら人里からこんなにも離れた場所に来ていた子供達に龍也は何所か感心した表情を浮かべていた。
まぁ、子供の体力は無尽蔵かと思われる事が多々あるので何所に行ったとしても何の不思議も無いが。
この子供達なら自力で人里まで帰れそうだが、帰りの道中で妖怪に襲われないと言う保障は無い。
なので、龍也は子供達を人里まで送る事にした。





















子供達を人里まで送り届けた後、

「飯屋か茶店でも無いかな……っと」

龍也は飲食店を探しながら人里の中を歩いていた。
人里に来た序に何所かで腹ごなしでもして行こうと考えている様だ。
飲食店を探しながら、

「そういや……あいつ等はどうなったかな」

龍也はあいつ等はどうなったのかなと呟く。
龍也が呟いたあいつ等と言うのは、人里まで送り届けた子供達の事だ。
送り届けた子供達は人里に着いたのと同時に龍也に礼を言って今日の事を皆に教えて来ると言って走り去って行ったのである。
子供達の言う皆と言うのは友達、親、先生の事であろう。
友達は兎も角、親や先生に先程の事を報告すれば雷が落ちて説教が始まると言う未来を容易く予想する事が出来る。
怒られて泣いていなければ良いな思っていた時、

「お、茶店発見」

龍也は茶店を発見した。
同時に、龍也は茶店の外に出ている長椅子に腰を落ち着かせ、

「すいませーん、団子五人前とお茶をくださーい」

注文をする。
注文してから少しすると団子が乗った皿と茶が入った湯のみが長椅子に置かれたので、

「いただきます……っと」

龍也は団子を食べ、茶を啜り始めていく。
少々のんびりとしたペースで。
そんな風に食事を取り始めてから幾らかの時間が過ぎると、

「黒を基調とした服に金色のボタンに白いシャツ……若しかして君か?」

龍也の着ている学ランの特徴を言い当てる様な声が聞こえて来た。
自分の事を呼んでいる事に気付いた龍也が顔を上げると、龍也の目に女性の姿が映る。
水色と銀色を足し合わせた様な色をした長い髪に塔を思わせる様な赤い色合いの変わった帽子を被り、青を基調とした服を着た女性が。
初めて会う人物であったからか、

「えー……と……」

龍也は誰か分からないと言う表情を浮かべてしまう。
龍也の表情を見て、

「あ、申し送れた。私は寺子屋で教師をしている上白沢慧音と言う」

女性は自己紹介をして来た。
自己紹介をされた事で、

「あ、俺は四神龍也です」

龍也も自己紹介を行う。
互いの自己紹介が終わった時、龍也を思い出す。
幻想郷に来たばかりの頃に、幽香から慧音の事を教えられていた事を。
確か人里の守護者をやってるんだったっけかと言った事を龍也が考えている間に、

「龍也君、君が里の外で妖怪に襲われていた子供達を助けてくれた者で……合ってるかな?」

慧音は龍也が人里の外で妖怪に襲われていた子供達を助けた者かと尋ねる。

「あ、はい。そうですけど……」

尋ねられた事に龍也が肯定の返事を返すと、慧音は帽子を取って姿勢を正し、

「ありがとう」

頭を下げて礼の言葉を述べた。

「え、ええと……」

急に礼を言われた事で龍也が少し驚いた表情を浮かべていると、

「君が助けてくれた子供達は私の教え子でもあるんだ。だから、君には直接お礼が言いたかったんだ」

慧音は龍也に礼の言葉を述べた理由を話す。
それを聞き、龍也は慧音の事を良い先生だなと感じた。
自分の教え子の事を大切に想っているのだから。
外の世界に居た時に通っていた学校の教員に慧音の様な人は居なかったなと言う事を龍也が思い始めた時、

「出来れば、子供達の親に会ってくれないか? 子供達の親が是非とも君に会ってお礼をしたいと言っているんだ」

慧音は龍也に子供達の親が龍也に礼をしたいから会ってくれないかと口にする。
別に礼欲しさに子供達を助けた訳では無いので断ろうとしたが、慧音の目が是非とも会って行って欲しいと言っている事に龍也は気付く。
その事に気付いてしまった以上、断るのは気が引けたからか、

「まぁ、そう言う事でしたら……」

龍也は子供達の親に会って行く事を決め、

「あ、でしたらこの団子をさっさと食べちゃいますね」

残っている団子を急いで食べ様とする。

「あ、別にそんなに急が無くても良いよ。ゆっくりと食べてくれ」

急ぐ必要は無いと慧音に言われたからか、龍也は普通のペースで団子を食べていく。
そして、団子を食べ終えて茶を飲み干すと龍也は長椅子に代金を置いて立ち上がり、

「それじゃ、行きましょうか」

慧音に準備が整った旨を伝えると、

「分かった。それでは、私の後に付いて来てくれ」

慧音は自分の後に付いて来る様に言って歩き出したので、龍也も歩き始める。





















龍也が助けた子供達の家を回り終えた後、

「しっかし、色々と貰っちゃったな……」

龍也は子供達の親から貰った物を思い浮かべる。
貰った物と言ってもお金、おにぎりの様に簡単に食べられる物位であるが。
最初は別に何も要らないと言って断ったのだが、子供達の親がどうしても言うので貰う事になったのだ。

「金も結構貰っちゃったし、流石にこんなに貰うのも悪い気がするんですが……」
「それだけ皆君に感謝しているんだ。貰った事に対する引け目を感じる必要は無いよ」
「そうですかね……」

慧音に論される形で龍也が納得した表情を浮かべていると、

「話は変わるが、龍也君の様に強い外来人は初めて見たよ」

慧音は龍也の様に強い外来人は初めて見たと口にする。

「やっぱり、珍しいんですかね? 俺みたいな奴って」
「んー……人里には結構な数の外来人が住んでは居るが、龍也君程の強さを有している者は居ないな」

龍也が尋ねた事に慧音は龍也の様に強い外来人は見た事が無いと言い、

「それ以前に、龍也君の様に妖怪の群れと一人で戦っても全然平気と言った人間は殆ど居ないんじゃないかな?」

外来人以前に龍也の様に一人で妖怪の群れと戦える人間は殆ど居ないのではと話す。
慧音の話を聞き、龍也は霊夢、魔理沙、咲夜の三人の姿を思い浮かべた。
龍也が思い浮かべた三人は人間であるが、三人とも龍也と同じ様に一人で妖怪の群れと戦っても全然平気であろう。
だからか、外来人は兎も角人間で自分の様な強さを持っている者は殆ど居ないと言われても龍也には今一つピンと来なかった。
なので、龍也はこの事を頭の隅に追いやり、

「慧音先生。少し聞きたい事が在るんですが……良いですか?」

慧音に聞きたい事が在ると伝える。

「うん、何だい? 何でも聞いてくれて構わないよ」

慧音が何でも聞いてくれて構わないと言ってくれたので、

「人里に入った時から気に掛かっていたのですが、人里ではあんな風に結構な数の人魂がやって来ると言う事があるんですか?」

龍也は聞きたい事を話し、人差し指を空に向けた。
龍也が指を向けた先にはそれなりの数の人魂が見られる。
慧音は龍也が指をさした空に顔を向け、

「いや、初めてだよ。因みに、こんな風に人魂が漂い始めたつい最近の事だ」

こんな事が起きたのは初めてで、人魂が漂い始めたつい最近の事である事を言う。

「つい最近……」
「うん、つい最近事なんだ。それと、今の所は漂っているだけで特に害も無いから私も里民達も取り敢えず放置しているのが現状かな」

慧音の話を聞きながら、龍也は考える。
つい最近人魂が漂い始めたと言う事は、つい最近冥界で何かあったのではないかと。
冥界に行って状況を確かめるべきかと言う予定を龍也が立てていると、

「龍也君、どうかしたのかい?」

慧音が少し心配気な表情をしながらどうかしたのか尋ねて来た。
どうやら、考え事に集中していて黙り込んでしまっていた龍也を心配した様だ。
慧音の声で意識を現実に戻した龍也は、

「いえ、何でもありません」

何でもないと返し、慧音との雑談に興じていく。
互いの事を簡単に話したり、人里の店の事を話したりなどなど。
雑談が一段落着くと、龍也は慧音と別れて人里の外に出て空中へと躍り出る。
空中に躍り出ると龍也は空中に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに足を着け、駆けて行く。
向かっている場所は当然、冥界だ。





















龍也は空を駆けながら周囲を見渡し、

「確か……この辺だったよな」

この辺だったかと呟く。
現在、龍也が駆けている空はこの前の異変を解決する際に通った空だ。
幻想郷に春が来ないと言う異変を解決してからそんなに時は経っていないのだが、龍也は今通っている場所を変に懐かしく感じていた。
まだ幻想郷に春が来ない異変を解決した際の余韻でも残っているのかと考えていると、

「あれは……妖精か……」

龍也は近くに妖精が居る事に気付く。
弾幕を放って来るのでは思って龍也は一瞬身構えたが、妖精達は弾幕処か攻撃する素振りも見せなかった。
妖精が襲って来ないのは龍也に気付いていないだけか、それとも今は異変が起こっていないからか。
どちらが正解なのか、それとも別の答えがあるのかは龍也には分からない。
だと言うのに、龍也は深く考えずに攻撃が来ないのなら別に良いかと言うお気楽な結論を直ぐに出してそのまま進んで行ってしまった。
そして、龍也がそんなお気楽な結論を出してから少しすると、

「あった、あれだ」

巨大な門の前に辿り着く。
この先にある冥界に行く為、龍也は異変解決に来た時と同じ様に門の上を通って冥界へと向かう。
冥界に着くと龍也は降下して地に足を着け、歩いて進んで行く。
どうやら、冥界の景色を楽しみながら進んで行く気の様だ。

「この前は空から見下ろす形で進んでたから分からなかったけど……道は結構確りとしてるんだな」

龍也はそんな感想を漏らしながら足を動かし続けると、

「お……」

人魂の姿がチラホラと見え始めた。
人里の方で人魂が見られている理由を人魂に聞いたら原因が分かるのではと思い、

「すみません」

龍也は近くに居た人魂に声を掛ける。
が、人魂から返事は返って来なかった。
無視されたのかと龍也は考えたが、声を掛けられた人魂が細かく動いていたので直ぐにそれは違うと考え直す。
では何故と思った瞬間、龍也の頭にある可能性が過ぎる。
喋れないのではと言う可能性が。

「そういや妖夢の傍らに佇んでいた人魂……確か半霊って名前だったな。あれも喋れなかったな」

人魂が喋れない可能性が頭に過ぎったからか、龍也は妖夢の事を思い出し、

「そういや、白玉楼に居た人魂も喋ってはいなかったな」

続けて白玉楼に居た人魂の事も思い出した。
白玉楼に居た人魂も喋っていなかった事から人魂は喋れないのだと龍也は判断し、声を掛けた人魂に何でもないですと言ってその場を後にする。
人魂以外の存在なら話を聞けるかなと考えながら足を進めて行くと、

「お……」

今度は人間の様な後姿をした者を発見した。
ここは冥界なのだからおそらく幽霊であろう。
若しかしたら幽々子の様な亡霊かなと思いながら発見した者に近付き、

「すみません」

声を掛ける。
声を掛けられた者は、

「ああん!?」

物凄く機嫌が悪そうな表情をしながら龍也の方に顔を向けた。
行き成り敵意に近いものをぶつけられたものの、龍也は表情を変えずに、

「少し聞きたい事があるんですが……」

聞きたい事があるのだと言う。
そう言ったものの、今の態度から答えてくれる可能性はかなり低いと考えて龍也が何処か諦めた様な表情を浮かべていると、

「……あれ?」

声を掛けられた幽霊は俯いてしまっていた。

「あの……どうかしましたか?」

龍也が思わず心配気な表情を浮かべながらどうかしたのかと尋ねた瞬間、

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い…………」

幽霊は憎いと言う言葉を連呼しながら勢い良く顔を上げる。
雲行きが怪しくなって来た事を感じた龍也が後ずさった時、

「憎いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

幽霊は雄叫びを上げながら龍也へ突っ込んで行った。

「おわあ!?」

龍也は驚きの声を上げながらも真横に体を傾ける事で幽霊の突撃を避け、自身の力を変える。
青龍の力へと。
力の変換に伴って瞳の色が黒から蒼に変わると、龍也は水の剣を生み出す。
そして、再度突っ込んで来た幽霊が自分の間合いに入った瞬間、

「はあ!!」

水の剣を振るう。
振るった水の剣は見事幽霊に当たり、幽霊を真っ二つに叩き斬った。
これで終わったと思いながら真っ二つなった幽霊の方に顔を向けると、

「な!?」

龍也は驚きの表情を浮かべてしまう。
何故ならば、真っ二つにした筈の幽霊の体が元通りくっ付いていたからだ。
真っ二つに斬られても何の意味も成さない幽霊を見て龍也が思わず動きを止めてしまった時、

「しまっ!?」

幽霊は龍也に取り憑いて来た。
取り憑かれたのと同時に龍也は体が冷えていくのを感じ、体中から力が抜けていく感覚を覚えながら膝を着いてしまう。

「が……あ……ぐ……」

体を無理矢理動かして幽霊を叩き出そうとするが、龍也の体から幽霊は出て行かない。
それ処か、龍也の体の動きが段々と鈍くなっていってしまう。
体を動かしても幽霊を叩き出せないと分かったからか、

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

龍也は体中から霊力を解放する。
殆ど破れかぶれの様なものであったが、龍也の体は直ぐに軽くなった。
どうやら、霊力を解放すると言う方法は正解であった様だ。
体が軽くなった後、龍也は立ち上がり、

「ふぅ……」

霊力の解放を止め、周囲を見渡す。
龍也の霊力で吹き飛んだのか、それとも消滅したのかは分からないが周囲には龍也に取り憑いていた幽霊の姿は見られなかった。
周囲の安全を確認出来たからか、龍也は力を消す。
瞳の色が蒼から元の黒に戻ると、

「一寸迂闊だったかな……」

龍也は不用意に声を掛けてしまった事に反省する。
少し考えれば分かった事だ。
幽霊が襲い掛かって来る可能性が在った事位。
これからは少し用心する事を龍也は決め、幽霊戦う事になった際の戦闘方法に付いて考えていく。
直接的な攻撃は効かなかったが、

「でも、霊力を解放したら体から幽霊を叩き出せたよな……」

霊力は効果が有りそうである。
また幽霊と戦う事になったら霊流波や弾幕で戦う事にした方が良さそうだ。
幽霊との戦い方が決まった後、

「また今見たいに話が聞けなかったらあれだし、妖夢と幽々子の所に話を聞きに行くか」

龍也は白玉楼の方に進路を向けた。























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