龍也は冥界へと来た道を戻りながら、

「あー……白玉楼に行って妖夢と幽々子に会ってから帰れば良かったな……」

妖夢と幽々子に会ってから帰れば良かったかなと口にする。
藍との手合わせが終わった後、龍也は雰囲気に流される様に帰ってしまった事に少し後悔している様だ。
だが、今から引き返して会いに行くと言うのは流石に格好悪過ぎる。

「……ま、冥界に来る機会はまたあるだろうからその時に会えば良いか」

また冥界に来た時にでも会えば良いかと考えた時、

「あ、お兄さーん」

橙が龍也に声を掛けながら近付いて来た。

「橙」

龍也が橙の存在を認識し、立ち止まったのと同時に近付いて来ていた橙は龍也の目の前で止まり、

「藍様には会えましたか?」

藍には会えたかと尋ねる。

「ああ、藍にも会えたし結界の修復状況も聞けたぜ」

龍也が藍に会えた事と結界の修復状況が聞けた事を話すと、

「そうですか。それは良かったです」

橙は嬉しそうな表情を浮かべる。
が、橙は直ぐに何かを思い出した表情になり、

「あ、あの……お兄さん。その……藍様は……怒ってました……か?」

藍は怒っていたかどうかを聞いて来た。
どうやら、今になって龍也を素通りさせた事が気になり始めた様だ。
心配そうな表情になっている橙を見ながら龍也は藍と会った時の事を思い出し、

「いや、怒ってはいなかったぞ」

怒ってはいなかったと言う。

「そうですか……」

藍が怒っていない事を知ったからか、橙は安心した表情になった。
橙にとっての今後の不安が解消された後、

「あ、そうだ。結界の方はどうなってましたか?」

橙は龍也に結界の様子を問う。
一応は結界の修復に携わっているので、結界の事が気に掛かっている様である。
別段隠す様な事でも無かったので、

「藍が担当している部分はもう終わったって言ってたぞ。後は八雲紫じゃなきゃ手を出せないんだってさ。まぁ、肝心の八雲紫はまだ寝ているらしいから
結界の修復が完了するのは長くても明日の夜になるらしいけどな」

龍也は現在の結界の状況と、結界の修復が何時になるのかを橙に教えた。
それを聞いた橙は、

「紫様……まだ寝てたんですね……」

思いっ切り呆れた表情になる。
まぁ、そんな表情になるのも無理は無いだろう。
その後、龍也は橙と気持ちを切り替えるかの様に雑談交わしていき、

「それじゃ、またな」
「はい!! また会いましょう!!」

雑談が終わると龍也は橙と別れ、移動を再開する。
そして、

「あー……やっと終わりかー……」

異様に長い階段の終わりが見えて来ると、龍也は立ち止まって体を伸ばす。
空中から結構スピードを出していたと言うのに、ここまで来るのに結構時間が掛かってしまった。
しかし、だからこそ自分の足で直接上る楽しみがある。
何時か自分の足でこの異様に長い階段を上り切るのを楽しみにしながら、龍也は巨大な門が在る場所を目指して空中を進んで行く。
進んでいる途中で降下し、地に足を着けて進んで行こうか考えたが、

「そう言えば……行く時は地上から桜を見ながら進んでいたんだよな」

来る時は地上から桜を見ながら進んで来たのを思い出したので、

「……そうだな、帰りは空から桜を見るか」

今度は空中から桜を見る事を決め、降下する事を止める。
空中から見る桜と言うのを龍也が楽しんでいる時、

「あら、龍也じゃない」

進行方向上から龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自分の名を呼ばれた事で龍也は一旦止まり、顔を上げる。
顔を上げた先には、

「霊夢」

霊夢の姿が見えた。
更に、その後ろには魔理沙と咲夜の姿も見える。
この前の異変を解決にしに来たメンバーだなと龍也は思いつつ、

「態々冥界まで何しに来たんだ?」

冥界にやって来た理由を尋ねる。
やって来た理由を尋ねれた霊夢、魔理沙、咲夜の三人は、

「実は神社の方に人魂が湧いて出てね。そんな時に幽々子と妖夢が来て、妖夢が冥界の結界を修復している奴が暴れてるって言って来たのよ。だから、
様子を見に冥界までやって来たって訳」
「私の方は魔法の森に人魂が湧き始めた原因を調べに来たんだ。で、調べる為に魔法の森を出ると霊夢と会ってな。その時、霊夢から妖夢が言っていた事を
聞いたからこうして冥界まで来たって訳だ」
「私は紅魔館に現れ始めた人魂の原因を探る為に出発したら霊夢と魔理沙に会ってね。後は魔理沙と同じかしら」

それぞれ冥界にやって来た理由を話す。
冥界にやって来た理由は三人とも龍也と同じ様だ。

「しっかし……人里と同じ様に博麗神社、魔法の森、紅魔館の方にも人魂が出てたのか……」

人里と同じ様に博麗神社、魔法の森、紅魔館にも人魂が出ている事に龍也が少し驚いていると、

「何だ、人里の方にも人魂が出てるのか?」

魔理沙が確認を取る様に人里も他の場所と同じ様に人魂が出ているのかと聞いて来たので、

「ああ、そうだ」

龍也は聞かれた事に肯定の言葉を返す。

「成程、龍也も私達と同じ理由で冥界に来たって訳ね」

霊夢が龍也も自分達と同じ理由で冥界にやって来たのだと言う結論を出している間に、龍也はある事を考える。
何に付いて考えているのかと言うと、霊夢が口にした結界を修復している者が暴れていると言う事に付いてだ。
少なくとも、結界を修復していた藍が暴れていた様子は見られなかった。
それ処か、ちゃんと自分の担当している部分の修復は終わらせている。
考えた結果、結界を修復していた藍は暴れていなかったと言う結論に達した。
なので、

「結界を修復している奴……八雲藍って言うんだけど、あいつは別に暴れてはいなかったぞ。ちゃんと結界の修復はしてたし」

龍也は結界の修復を担当している藍は暴れていないと言う事を話す。

「あら、もう結界を修復している輩とは会ったの?」

龍也の台詞から、咲夜がもう結界を修復している者とは会ったのかと聞く。

「ああ、さっきな。暴れていなかったってのは断言してもいいぞ」
「変ね。妖夢はそいつが暴れてるって言ってたんだけど……」

結界を修復している者が暴れていないと言う事を龍也が断言したからか、霊夢は下唇に人差し指を当てて何かを考える素振りを見せる。
同じ様に魔理沙と咲夜も何かを考える素振りを見せた。
おそらく、龍也と妖夢の言っている事の喰い違いに付いて考えているのだろう。
その事を何となく察した龍也は、

「藍は暴れていなかったけど、妖精は現れては弾幕を放って来たからな。その辺がごっちゃになったんじゃないか?」

自分と妖夢の意見が喰い違ったであろう理由の推察を述べる。
龍也の推察を聞き、

「あー……成程。確かに、その可能性はあるわね。妖夢はどっか抜けてるって感じがするし」

霊夢は納得した表情になった。
どうやら、霊夢の中では妖夢は何処か抜けていると言う評価の様だ。
霊夢が納得したところで、魔理沙と咲夜も霊夢と同じ様に納得した表情になっていた。
魔理沙と咲夜の妖夢に対する評価も、霊夢と似た様なものなのだろう。
三人が龍也と妖夢の意見の喰い違いに付いて納得したところで、

「それはそうと、結界の方は藍が担当している部分は終わったってさ。残りの部分は八雲紫って奴じゃなきゃ手を付けられないらしく、結界自体は長くても
明日の夜には直るって話だ」

龍也は結界の修復状況と結界が何時直るのかと言う事を霊夢、魔理沙、咲夜の三人に伝える。

「……若しかして、私達は無駄足を踏んだのかしら?」
「龍也の話を聞く限りじゃあ、私達が態々冥界まで来なくても人魂の件は明日には解決した様だしね」

龍也から伝えられた情報を聞き、霊夢と咲夜が冥界まで来たのは無駄足だったのではと呟く。
確かに龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人が冥界に来なくても今回の件は解決しただろう。

「……結果論にはなるが、俺達が冥界に来る意味は余り無かったって事になるな」

そんな龍也の発言で場の空気が何とも言えないものになったその時、

「……ならさ」

魔理沙は場の空気を払拭するかの様に帽子を取り、帽子の中から酒瓶と小さ目の杯を四つ取り出し、

「降りて、花見でもし様ぜ」

降りて花見をし様と言って来た。

「花見を?」
「おう。花見だぜ」

魔理沙の発言に霊夢は少し驚きながらも確認を取る様に花見かと聞くと、魔理沙は花見である事を肯定する。
そして続ける様に、

「折角真下に見事な桜が咲き誇ってるんだ。これで花見をしないのは損だぜ」

真下に見事な桜が咲き誇っているのに花見をしないのは損だと言う。

「桜が在るから花見と言うのは些か安直だとは思うけど……良いわね」
「そうね、この儘何もせずに帰ったら本当に何をしに冥界まで来たのかって事になるし……偶にはのんびりと飲むのも良いかもしれないわね」

魔理沙の花見をし様と言う提案を霊夢と咲夜が受け入れた後、三人の視線は龍也の方に向く。
無論、龍也はどうするのかと言う視線だ。
三人の視線を受けながら、

「俺も花見に参加するぜ。この後、特にする事も無いしな」

龍也は花見に参加する旨を伝える。
全員の参加が決定した事で、

「おっし、決まりだな」

魔理沙は先陣を切る様に降下して行く。
先陣を切って降下した魔理沙の後を追う様に龍也、霊夢、咲夜の三人も降下して地に足を着けると、

「さて、何所に腰を落ち着かせて酒を飲むかね?」

魔理沙は腰を落ち着かせて酒を飲む場所を探す為に顔を動かす。
見事と言える様な桜が多々在る場所なのだから何所でも良さそうなものだが、出来るのなら一番良い場所で酒を飲みたいのだろう。
だが、一番良い場所で酒を飲みたいと思っているのは魔理沙だけではない様で、

「こうも桜が多いと、少し目移りするわね」
「選ぶとしたら、出来るだけ多くの桜が見える場所……って言うのが良いかもな」
「一番大きな桜の下で飲む……と言うの中々に乙だと思うわよ」

霊夢、龍也、咲夜の三人も一番良い場所を探そうとキョロキョロと顔を動かしていた。
結局、四人とも良い場所で酒を飲みたい様だ。
幾ら四人居るとは言えそう簡単に良い場所は見付からないと思われたが、

「あそこ何てどうかしら?」

思いの外早くに見付かったらしく、霊夢がある方向に向けて指をさす。
霊夢が指をさした方向に龍也、魔理沙、咲夜の三人が目を向けると、大きな桜が目に映った。
しかも、その桜の傍には幾つもの桜が見える。
花見をするには絶好の場所だろう。

「お、良さそうな場所だな。あそこで良いか?」

霊夢が指をさした場所に魔理沙は好意的な反応を示し、龍也と咲夜にあの場所でどうだと聞く。
聞かれた事に、

「異議無し」
「私も異議は無いわ」

龍也と咲夜は霊夢が指をさした場所で構わないと言う答えを返す。
全員の意見が一致した事で、龍也達は霊夢が指をさした桜が在る場所まで足を進めて行く。
足を進めながら、

「あ、そうだ。これを渡して置くぜ」

魔理沙は龍也、霊夢、咲夜の三人に杯を渡す。
全員に杯が行き渡ってから少しすると目指していた桜の下に辿り着いたので、龍也達は腰を落ち着かせる。
その後、魔理沙は全員の杯に酒を注いでいく。
全員の杯が酒で満たされたタイミングで、

「「「「乾杯!!」」」」

四人は杯を合わせて酒を飲め始め、花見を始めていった。






















龍也が冥界で藍と出会い、手合わせをしてから丸一日が過ぎた日の夜。
龍也は再び冥界に突入し、白玉桜を目指していた。
何故龍也が再び冥界に来ているのかと言うと、

「全く変わっていないんだもんな……」

状況が全く変わっていなかったからである。
昨日、藍は遅くても明日の夜になれば結界が直ると言っていた。
だと言うのに、今の人里などでは当たり前の様に人魂やら何やらが闊歩しているのだ。
寧ろ、昨日よりも酷くなっていると言っても良いかもしれない。
なので、龍也は二日連続で冥界にやって来たのだ。
結界が修復されていない理由を知り、可能であれば自身の手でこの件を解決する為に。

「……お、見えて来た」

白玉楼へと続く異様に長い階段が見えて来ると、龍也は一旦足を止めて顔を上げる。
やはりと言うべきか、ここからでは白玉楼が見えない。
普通にこの階段を上って行ったら白玉楼に着くのが何時になるのかは分からないので、今回は最初から空中を駆ける様にして龍也は白玉楼を目指して行く。
出だしは好調と言った感じであったのだが、

「……ま、こうなるよな」

直ぐに好調は崩れ去ってしまう。
何故ならば、大量の妖精が現れて龍也に向けて弾幕を放って来たからだ。
しかも、昨日と同じ様に弾幕の量、密度、弾速が普段出て来る様な妖精が放つものよりも上である。
放たれた弾幕を見て、龍也は考えを廻らせていく。
この前の異変の影響がまだ残っているのか、それとももう異変になってしまっているのか。
妖精の弾幕と異変の関連性に付いて考えている間に弾幕が直ぐ近くにまで迫って来ていたので、

「考えている暇は無さそうだな……」

龍也は考えている事を頭の隅に捨て去り、弾幕の対処をする為に頭を切り替える。
まぁ、考えたところで答えは出なかったであろうが。
兎も角、龍也は迫り来る弾幕を避け、

「そこ!!」

お返しと言わんばかりに弾幕を放って妖精達を撃ち落していく。
妖精達を全て撃ち落した後、今度は回転する謎の飛行物体が現れた。
現れた回転する謎の飛行物体を見て、

「……昨日の焼き回しみたいだな」

龍也は昨日の焼き回しみたいだなと呟き、弾幕が放たれる前に弾幕を放って回転する謎の飛行物体を撃ち落す。
回転する謎の飛行物体を全て撃ち落すと、弾幕を放つのを止めて先へと進んで行く。
それから少し時間が経った頃、

「おや、今日も冥界に来たのかい?」

藍が龍也の進行方向上に現れた。
藍の登場に龍也は少し驚いた表情を浮かべたものの、

「藍……」

直ぐに表情を戻して動きを止める。
龍也が動きを止めたのを見て、

「それで、何をしに来たのかな? 花見かい?」

藍は龍也に冥界に再びやって来た理由を聞く。
冥界にやって来た理由を聞いて来た藍に、

「知らないのか? 人里などでは人魂が普通に漂っている儘何だが……と言うか、酷くなってる感じがあるぞ」

龍也は状況が全然変わっていない事を伝える。

「ええ!?」

龍也から伝えられた情報を聞いた藍は、驚きの表情を浮かべた。

「若しかして……知らなかったのか?」
「ああ、全くな。もう既に紫様は起床され、結界の修復に当たっておられるので私はもう結界の方には関与していないんだ」

龍也の問いを藍は肯定し、既に紫が結界の修復に回っているので自分は今の結界がどうなっているのかは分からないのだと言う。

「と言う事は、結界の修復自体は進んではいるのか……」

結界の修復は進んでいるのに事態が悪化している事に龍也は疑問を覚えつつ、

「今結界の修復をしているのが八雲紫って奴なら、藍は何をしてるんだ?」

藍は何をしているのかを尋ねると、

「私は紫様の結界修復の作業が邪魔されない様にここで警備をしているんだ。まぁ、相手は妖精ばかりだけどね」

紫の所に邪魔が入らない様に警備していると言う答えが返って来た。

「つまり昨日の橙の役目が藍に、藍の役目が八雲紫って奴に移ったって事か?」
「まぁ……端的に言えばそう言う事だね」

龍也が口にした事を藍は何処か疲れた表情をしながら肯定する。

「どうした? 何か疲れている様に見えるけど」
「ああ、実は結界の修復からこの警備まで休み無しでね。疲れが結構残ってるんだよ」
「あー……それはご愁傷様」

丸一日以上休み無しであった藍に龍也は少し同情しながら、

「それはそうと、俺は先に行きたいんだけど……良いか?」

先に進んで良いかと聞く。

「この先にかい? うーん……」

龍也が先に行きたいと言ったからか、藍は悩み始めてしまった。
この先に誰かを通さない為に警備していると言うのに、先に進みたいから通して欲しいと言われたら悩むのも当然であろう。
藍が悩み始めてから少し時間が経った頃、

「いや……まさか……だから……そうだとしたら……」

藍は急に何かに気付いたと言う表情を浮かべ、

「……この先に進んでも構わないよ」

龍也が先へ進む事への許可を出した。

「え、そんな簡単に許可を出しても良いのか? いや、通してくれと言ってる身でこう言うのもあれだけど」
「うん、良いんだよ。おそらく、君を通す事が正解だろうからね」
「正解?」
「ああいや、何でも無い。気にしないでくれ」

藍は何でも無いと言って会話を切り上げ、

「龍也なら大丈夫だとは思うが……一応、気を付けてな」

先へ行く龍也に気を付ける様に言う。

「ああ、分かった。気を付けるよ」

藍が口にした言葉を龍也は受け止め、

「ありがとな、藍」

礼の言葉を口にし、再び先へと進んで行く。
藍と別れてから少しすると、

「……ほんと、昨日の焼き回しだな」

妖精達が現れ、弾幕を放って来た。
龍也は昨日冥界に来た時の事を思い出しながら弾幕を放って妖精達を撃ち落していき、

「確かこの後は……」

射線をある方向へと向ける。
射線を変えた先には回転する謎の飛行物体が現れ、現れた回転する謎の飛行物体は弾幕を放つ事も出来ずに撃ち落されてしまった。
襲い掛かって来た敵を全て一掃し終えた後、

「……よし」

龍也は弾幕を放つを止め、一旦止まって周囲を見渡す。
周囲を見渡した結果、妖精も回転する謎の飛行物体も見られなかったので、

「……ふぅ」

龍也は一息吐き、考える。
今までが昨日の焼き回しであるのならば、ここから先も昨日の焼き回しであるだろうと。
ならば、この先に待っているのは魔法陣による包囲網。
昨日はこの魔法陣の包囲網に手古摺らされたが、

「……攻略法ならもう分かってる」

攻略法は分かっていると龍也は呟き、自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅へと変わった瞬間、

「ッ!!」

龍也は放たれた弾丸の様に空中を駆けて行く。

「……そろそろ、魔法陣が現れた場所に来るな」

昨日の事を思い出し、龍也がそろそろだと口にした時、

「来た」

魔法陣が現れた。
現れた魔法陣を目に入れながら、

「はあ!!」

龍也は両手から二本の炎の剣を生み出し、炎の剣で進行方向上にある魔法陣を斬り裂く。
斬り裂かれ、消えていく魔法陣を無視する様に龍也は先へと進む。
少し進めば、

「……やっぱりな」

龍也を取り囲む様に魔法陣が現れた。
昨日はここで上へ回避した事で上下前後左右の全てを魔法陣に取り囲まれると言う事態になったが、

「態々……昨日と同じやり方で行く気はねえ!!」

龍也は回避行動を取らずに進行方向上にある魔法陣を斬り裂き、魔法陣による包囲網を強引に突破する。
魔法陣による包囲を突破してから少しすると後ろの方で爆発音が聞こえて来た。
魔法陣から放たれた弾幕同士がぶつかり合って消滅したのだろう。
だが、全ての弾幕が消滅したと言う訳でも無く、

「ま、こうなるよな……」

消滅しなかった幾つかの弾幕が龍也の方に向かって行った。
この儘では背後から迫り来る弾幕に当たってしまうので、龍也は炎の剣の切っ先に爆炎を迸らせながら振り返り、

「らあ!!」

炎の剣を振るい、炎の剣から爆炎を放つ。
放たれた爆炎は迫って来ていた弾幕を呑み込む。
そして、放たれた爆炎が消えると、

「……よし」

迫って来ていた弾幕も消えていた。
安全が確保出来たからか、龍也は一旦止まり、

「ふう……」

二本の炎の剣を消しながら一息吐き、息を整え様としたが、

「……息が全然切れてない」

龍也は息が全然切れていない事に気付く。
急いで来たから少しは息が切れてるのではないかと龍也は思ったのだが、そうではなかった様だ。

「強くなった……って事か?」

息が切れていなかったのは強くなったからではと龍也は考え、移動を再開する。
移動を再開し、昨日藍と出会った場所まで来た時、

「あら、お久しぶりね」

突然、久し振りと言う声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した龍也は、

「ッ!!」

動きを止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
が、

「……誰も……居ない?」

顔を向けた先には誰も居なかった。
しかし、声が聞こえて来たのは事実。
なので、

「…………………………………………」

龍也は注意深く周囲の様子を伺っていく。
それから少し時間が経つと、

「ッ!?」

何の前触れも無く空間が裂け、一人の女性が裂けた空間の中から出て来た。
出て来た女性は長い金色の髪をし、紫色をしたドレス様な服を着ている。
現れた女性を見た龍也は、

「あんたは……」

思い出す。
外の世界から幻想郷にやって来た瞬間を。
思い出す。
目の前の存在が自分を幻想郷に送ったのだと言う事を。
だからか、

「八雲……紫……」

龍也は目の前の女性の名前を自然と口にしていた。

「あら、私の名前を覚えてくれていたのね。嬉しいわ」

龍也が自分の名を覚えてくれていた事を嬉しいと言いながら紫は扇子で自身の口元を隠し、

「それで、態々冥界にやって来た理由は何かしら?」

冥界にやって来た理由を尋ねる。
同時に、裂けていた空間が閉じた。
紫が現れた事で龍也は驚いた表情をしていたものの、冥界までやって来た理由を尋ねられた事で表情を戻し、

「結界の事だ」

結界の事だと言う言葉を述べる。

「結界? ……ああ、冥界の結界の事ね」

結界と言う言葉から紫は直ぐに冥界の結界である事に気付き、

「勿論、結界の修復位なら簡単に修復出来るわよ。他にも、結界の生成から……博麗神社の方とかに在る結界を弄ったりと言う事までね」

結界の修復は勿論、結界の生成から既存の結界を弄る事まで可能であると話す。
紫の話を聞き、

「じゃあ、何で未だに人里などの場所に人魂とかが大量に闊歩しているんだ?」

龍也はそれだけの技能があると言うのに何で未だに人里などの場所に人魂とかが闊歩しているのかと言う疑問をぶつける。
ぶつけられた疑問に、

「さぁ、何でかしら?」

紫は答えず、逆に何でかと問うて来た。
龍也に取って紫と会うのはこれで二度目だが、掴み所がない相手だと言う事を感じつつ、

「……答える気は無いって事か」

答える気は無いのかと返す。
すると、

「ふふ……」

紫は笑みを浮かべ、

「知りたかったら、私から聞き出してみなさい。力尽くで」

答えが知りたかったら力尽くで聞き出してみろと言う。

「力尽くで……だと?」

返って来た答えが予想外であったからか、龍也は思わず虚を付かれた様な表情を浮かべてしまった。
そんな龍也の表情を見ながら、

「そうよ。力尽くは……嫌いじゃないでしょ?」

紫が力尽くは嫌いでは無いだろうと聞く。
そう言われた龍也は両手から二本の炎の剣を生み出し、

「いいぜ。なら、お望み通り力尽くで洗いざらい色々と聞き出してやる」

力尽くで聞き出すと言いながら右手の炎の剣を紫に突き付ける。
龍也から戦う意志を感じ取った紫は何処か楽しそうな笑みを浮かべ、

「そうそう。男の子はそうでなくっちゃ」

扇子を口元から外す。
その瞬間、龍也は空中を掛ける様にして紫に迫り、

「はあ!!」

炎の剣を振るう。
振るわれた炎の剣は吸い込まれる様に紫に向かって行ったが、

「あら危ない」

紫の背後にある空間が突然裂け、倒れるかの様に裂けた空間に紫が身を沈めてしまったので龍也が振るった炎の剣は空を斬るだけに終わる。

「ちっ」

攻撃を避けられた事で龍也は舌打ちをしながら、直ぐに第二撃を放とうとするが、

「何っ!?」

龍也が第二撃を放つ前に裂けていた空間が閉じてしまった。
これでは紫に攻撃を当てる事は出来ない。
龍也は放とうとしていた攻撃を中止して構えを取り直し、慌てて周囲を探っていく。
空間を裂いて自由自在に移動出来る紫ならば、どんな場所からでも攻撃をする事が可能だからだ。

「……出て来ないな」

一向に出て来ない紫に龍也が痺れを切らし始めた頃、

「ッ!?」

龍也の真後ろにある空間が裂け、裂けた空間から傘の先端が飛び出して来た。
背後から迫り来る攻撃に龍也は何とか反応する事は出来たが、

「痛ッ!!」

攻撃を避け切る事は出来ず、突き出された傘の先端を肩に掠らせてしまう。
が、龍也は肩から感じる痛みを無視する様に振り返り、

「らあ!!」

振り返った勢いを利用して炎の剣を振るうが、

「くそ!!」

また炎の剣は空を斬るだけに終わってしまった。
炎の剣を振り切った後、

「何所だ!?」

龍也は紫の居る場所を探す為に顔を動かす。
そう易々と居場所は見付からないと思われたが、見付けるまでに多くの時間が掛かる事はなかった。
何故ならば、

「ここよ。ここ」

紫が声を出して自分の居場所を教えて来たからだ。
態々自分の居場所を教えて来た紫に疑問を覚えるも、龍也は直ぐに声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、空間が大きく裂けている光景が見えるではないか。
今までよりも大きく裂けている空間に龍也が警戒していると、

「弾幕!?」

裂けた空間の中から大量の弾幕が放たれて来た。
放たれている弾幕の量が量だけに下手に避けるのは危険と言う判断を龍也は下し、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

二本の炎の剣を使って迫り来る弾幕を斬り払っていく。
これで弾幕が当たる事はないが、状況が改善されたと言う訳でも無い。
いや、寧ろ悪化の一途を辿っていると言っても良いだろう。
二本の炎の剣を斬り払いに使っているので攻めに転じる事が出来ないし、疲労で弾幕を斬り払い損なえば大量の弾幕をこの身で全て受ける事になるからだ。
ならば、状況を改善させる為にも強引にでも攻めに転じる必要がある。
その様に感じた龍也は、

「……ッ!!」

何かを決意した表情になって左手の炎の剣を後ろに下げた。
今まで二本の炎の剣で斬り払っていたものを急に一本に変えたのだから、

「ぐう!?」

当然、大量の弾幕に押されてしまう。
だが、それでも龍也は弾幕の直撃を受けてはいなかった。
何故かと言うと、左手の炎の剣を後ろに下げた時点で弾幕への対処を炎の剣による斬り払いから炎の剣で受け止めると言う方法に変えたからだ。
と言っても、長い間受け止め続けられると言う訳でも無い。
直ぐに限界が来るだろう。
しかし、龍也に焦りの表情は見られなかった。
何故ならば、

「…………よし!!」

攻めに転じる準備が出来たからだ。
龍也は弾幕を右手の炎の剣で防ぎながら、

「ぅぅぅぅううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

後ろに下げていた左手の炎の剣を一気に振り下ろした。
刀身全てに爆炎を迸らせている炎の剣を。
そう、左手の炎の剣の刀身全てに爆炎を迸らせると言う行為が攻めに転じる準備であったのだ。
振り下ろした炎の剣から人一人を呑み込んでも余りある程の爆炎が放たれ、放たれた爆炎は弾幕を呑み込みながら裂けている空間へと向って行く。
そして、放たれた爆炎は裂けている空間に当たり、

「何……」

爆炎は裂けた空間の中へと消えていってしまった。
避けた空間の中には八雲紫が居るであろうと考えている龍也は態々自分の放った爆炎を中に入れた事に対する疑問を抱く。
抱いた疑問に付いて龍也が考え様とした瞬間、裂けていた空間が閉じてしまう。
空間が閉じられるのを見た龍也は、

「今度は何所から……」

体を回転させながら周囲を警戒していく。
それが幸を成したからか、

「見付けた!!」

今度は空間が裂かれる様子を見る事が出来た。
傘による攻撃、弾幕、八雲紫が直接出て来ての攻撃。
どの様な攻撃が来ても対応出来る様に身構えていたが、

「なん……だと……」

裂けた空間の中から出て来たものは完全に予想外のものであった為、龍也は思わず驚愕の表情を浮かべてしまう。
何せ、出て来たものは、

「俺の……爆炎……」

先程龍也が放った爆炎であったからだ。

「そうか……だからか」

自身に向けて迫って来る爆炎を身ながら、龍也は理解する。
自分の放った爆炎を裂けた空間の中に入れたのは、そのまま返す為であったのだと言う事を。
空間が裂けている間は不用意に遠距離攻撃をするべきでは無いなと思いながら龍也は炎の剣を振り被り、爆炎が目の前まで来たタイミングで、

「はあ!!」

炎の剣を振り下ろす。
振り下ろされた炎の剣は迫って来ていた爆炎に当たり、爆炎を吸収していく。
爆炎と言っても炎である事に変わりはないからか、炎の剣に吸収させる事は容易であった様だ。
まぁ、元々は自分の爆炎なのだから吸収出来て当たり前の様なものではあるが。
返された爆炎を全て吸収し終えると、

「結構便利ね、その炎の剣」

紫は裂けた空間から上半身を出し、龍也の炎の剣に対する感想を漏らす。

「そいつはどうも」

紫が漏らした感想に龍也はどうもと返し、

「そう言うあんたこそ、随分便利な能力を持ってるじゃないか」

紫こそ便利な能力を持っているなと言いながら、紫の方に顔を向ける。
龍也が自分の能力の事を知らないと思ったからか、

「そう言えば、貴方に私の能力を話した事は無かったわね。私の能力は"境界を操る程度の能力"。解り難かったら色々出来ると思って頂いて結構よ。
因みに、この隙間も色々出来る内の一つよ」

紫は自分の能力を説明し、裂けている空間を指でさしながらこれも自分が出来る事の一つだと言う。
紫の説明を聞き、龍也は思い出す。
幻想入りしたばかりの頃、幽香の家で幽香が紫の能力に付いて話していた事に。
話していたと言っても、簡単な事しか聞いていなかったが。
こんな事なら幽香から詳しく紫の能力に付いて聞いて置けば良かったと龍也は思ったが、もう後の祭りだ。
兎も角、紫は移動、攻撃、反射と言った行動に隙間を使っている。
隙間を使った戦い方を主体にしている紫に攻撃を当てるには、紫が隙間から姿を出した瞬間を狙うのが良いだろう。
唯、紫もその事は当然承知している筈だ。
龍也が攻撃を仕掛け様とすれば、紫は隙間の奥に引っ込んで隙間を閉じる事だろう。
が、龍也の頭にはこれ以外の攻撃方法は思い付かなかった。
ならば、この方法で攻撃を何とか当てるしかないと言う結論に龍也が達したのと同時に、

「悩んでいたみたいだけど……何か良い案でも出たのかしら?」

紫は何か良い案でも出たのかと問う。
問われた事に、

「どうだろうな……」

龍也は曖昧な返事を返しながら自身の力を変える。
朱雀の力から白虎の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が紅から翠に変わると、両手の二本の炎の剣が消えていく。
そして、消えた炎の剣の代わりと言わんばかりに龍也の両腕両脚に風が纏わさられた。
白虎の力を使った状態ならスピードが上がり、紫に攻撃を当てられる可能性が在ると龍也が考えている間に、

「へぇ……」

龍也の変化を見た紫は興味深そうな表情を浮かべ、隙間の中に身を潜めて隙間を閉じる。
紫が再び姿を消した事に龍也は気にした様子を見せずに、

「……………………………………………………」

全神経を集中させながら周囲を探っていく。
周囲を探り始めて幾らかの時間が経った時、

「ッ!!」

龍也は何かを感じ取り、感じ取った場所へ一直線に向かい、

「はあ!!」

拳を放つ。
龍也が放った拳は、

「成程……只風を使える様になった訳では無く、スピードが大きく上がると言う効果があるみたいね」

紫の扇子に当たっていた。
捉えたチャンスは逃さないと言わんばかりに、

「このまま押し切らせて貰うぞ!!」

龍也は拳に力を籠めて押し切ろうとする。
龍也が力を籠めた事で紫の扇子は少しずつ押されていったが、

「ぐうっ!!」

突如扇子から衝撃波が放たれ、龍也は弾き飛ばされてしまう。

「……くそ!!」

弾き飛ばされた龍也が悪態を吐きながら体勢を立て直し時には、もう紫の姿は見えなくなっていた。
おそらく、また隙間の中に身を潜めたのだろうと龍也は考えながら、

「……………………………………………………」

再び全神経を集中させて周囲の様子を探っていく。
先程と同じ様に何かを感じ取るまで辛抱強く待っていると、

「ッ!!」

龍也は再び何かを感じ取った。
隙間が開いたのだと判断した龍也は何かを感じ取った場所へと一直線に向かって行き、

「はあ!!」

拳を放つ。
しかし、

「何っ!?」

拳を放った先に紫の姿は無かった。
紫の姿が無かった事で龍也が唖然とした表情を浮かべた瞬間、

「があっ!?」

龍也の背中に何かが当たり、龍也は石段に向けて落下して行ってしまう。
この儘では石段に叩き付けられてしまうので龍也は両手足を動かし、

「ぐうっ!!」

四つん這いになる様な体勢で石段の上に何とか着地する。
着地した龍也は直ぐに立ち上がろうと体を動かす。
その時、

「……ん?」

龍也は背中に重さを感じた。
背中から感じる重さが気に掛かった龍也は立ち上がるのを一時中断し、自身の背中に目を向ける。
目を向けた先には、

「墓石!?」

墓石があった、
先程自分の背中に当たったのはこれかと思いながら、

「俺に墓石を当てたのはあんたか……八雲紫」

自分に墓石を当てた者の名を口にする。
すると、

「正解」

正解と言う言葉と共に龍也の目の前に隙間が開かれ、隙間の中から紫が姿を現した。

「墓石が出て来る位だ。隙間の中には色々と入ってるんだろ?」
「ええ、その通りよ。まぁ、貴方が私が仕掛けた罠に掛かってくれなかったら態々墓石を落とす……って言う事もしなかったんだけどね」

やはりと言うべきか、龍也が二度目に感じたものは紫が仕掛けた罠であった様だ。
紫が仕掛けた罠に面白い位に引っ掛かってしまった自分の抜けさに龍也は呆れつつ、

「どうせなら、隙間の中に何が入っているのかを教えて欲しいんだが?」

隙間の中に有るものに付いて探ろうとする。
だが、

「あら、女の子の秘密を聞き出そうだ何て無粋よ」

案の定と言うべきか、紫は隙間の中に有るものに付いて語る事はなかった。
これは予想出来た事であったからか、龍也は落胆の表情を見せず、

「そいつは……悪かったな!!」

悪かったなと言いながら霊力を解放して墓石を吹き飛ばし、石段を両手で弾いて空中へと躍り出る。
空中に躍り出た龍也は霊力の解放を止めて体勢を立て直し、足元に霊力で出来た足場を作ってそこに足を着け、

「……ふぅ」

息を一つ吐いて構えを取り直す。
龍也が体勢を立て直した様子を見届けた紫は隙間の中に身を潜めて隙間を閉じ、龍也の目の前に隙間を開いた。

「ッ!!」

目の前に隙間が開かれた事で龍也は反射的に後ろへ跳んで距離を取る。
龍也が開かれた隙間からある程度距離を取ったタイミングで、隙間から大量のレーザーが放たれた。
迫り来る大量のレーザーを目にした龍也は両手を合わせながら前方へと突き出し、

「大嵐旋風!!」

両腕に纏う風を合わせ、竜巻にして放つ。
放たれた竜巻はレーザーを蹴散らしながら突き進んで行くが、

「くっ!!」

レーザーの物量に押される様な形で全てのレーザーを蹴散らす前に竜巻は破壊されてしまった。
紫のレーザーに破壊された竜巻を見た龍也は下手な迎撃は危険だと判断し、回避行動に専念し始める。
回避行動に専念し始めた最初の頃は普通にレーザーを避ける事は出来ていたのだが、

「ぐうっ!!」

直ぐにレーザーを避ける事が出来なくなり、幾つものレーザーをその身に掠らせていってしまう。
この儘ではレーザーの直撃を受けるのも時間の問題であると感じた龍也は迫って来ているレーザーの一つに掌を向け、

「だあ!!」

突風を放つ。
放たれた突風がレーザーが激突する直前、

「何っ!?」

突風とレーザーの間に隙間が開かれ、隙間の中に龍也の突風が入って行ってしまった。
隙間の中に入って行ってしまった突風を見て、爆炎の時と同じ様に返されると考えた龍也は、

「ッ!!」

一瞬で移動する移動術を使って今居る場所から離れる。
距離を取った事で龍也の表情は少し余裕が見られるものになったが、直ぐにその表情は険しいものに変わった。
何故ならば、龍也の直ぐ近くに隙間が開かれて突風が放たれたからだ。
自分の回避先を容易く呼んだ紫を龍也は苦々しく思いながらも、反射的に右腕を突き出して突風を受け止める。
受け止めた突風を龍也は再び自分の支配下に置き、圧縮して只の風に戻す。
同時に、再びレーザーが迫って来ている事に気付いたので、

「……くそ」

龍也は悪態を吐きながら再び回避行動を取り始める。
迫り来るレーザーを避けながら、龍也はどうやって紫に攻撃を当て様か頭を回転させていく。
少なくとも、隙間が開いた後に攻撃するのでは攻撃を返されてしまうので駄目だ。
狙うのならば、隙間が開いたのと同時に攻撃を加えるのがベストだ。
しかし、その方法には問題が一つある。
問題と言うのは、どうやって隙間が開いたのと同時に攻撃を加えるかと言う事だ。
隙間が開いてから近距離、遠距離攻撃を行ってはとてもじゃないが間に合わない。
一瞬で移動する移動術を使えば隙間が開いてからでも攻撃は間に合うかもしれないが、

「このレーザーがどうしても邪魔になるよな……」

攻撃を仕掛ける前に大量のレーザーをその身に受ける可能性が極めて高いだろう。

「今居る場所からある程度離れた場所に瞬時に攻撃が出来る技でもあれば良いんだけど……」

愚痴る様に今欲しい技を漏らした時、

「…………あ」

龍也の頭に幽香と初めて出会った時の事が頭に過ぎる。
あの時、幽香は言っていた。
火柱の上がった原因を探りに行ったら龍也を見付けたと。
幽香の言葉通りなら火柱を上げたのは龍也と言う事になるが、あの時の龍也に意識何て殆ど無かった。
つまり、龍也は無意識に近い状態で火柱を生み出したのだ。
そんな状態で出したものを今出せと言われても、出せるものでは無いだろう。
だが、出さなくてはならない。
今はそれ以外に、勝機を見出せていないのだから。

「……よし」

龍也は何かを決意した表情を浮かべ、自身の力を変える。
白虎の力から朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が翠から紅に変わり、両腕両脚の纏わされている風が四散する様にして消える。
自身の力を白虎の力から別の力に変えた事で龍也のスピードは迫り来るレーザーを避け続ける事が出来ない程に落ちてしまう。
が、龍也は落ちたスピードの代わりと言わんばかりに両手から二本の炎の剣を生み出し、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

二本の炎の剣を使って迫り来るレーザーを次々と斬り払っていく。
無論、これだけでは只の時間稼ぎにしかならない事は百も承知。
なので、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

龍也は霊力を解放し、力を解放を行う。
力の解放を行った事で龍也の紅い瞳は輝きを発し、黒い髪が紅へと染まる。
龍也の変化を隙間の中から見ていた紫は驚きの表情を浮かべた。
紫の記憶の中には、龍也があの様な変化をすると言う情報は無かったからだ。
自分が冬眠している間に新たな力を身に付けたのかと紫は考えながらレーザーを放つのを止めて隙間を閉じ、様子を伺い始める。
何故ならば、今の龍也からは先程までの龍也とは別人と思える程の強さを感じ取ったからだ。
レーザーが止んだ事で龍也は炎の剣を動かす事と霊力の解放を止め、

「………………………………………………」

目を閉じ、全神経を集中させながら周囲を探っていく。
出来ないと思うな、出来ると信じろと言う言葉を心の中で反復しながら。
そして、長い様で短い時間が経った時、

「ッ!!」

龍也は何かを感じ取る。
その瞬間、龍也から巨大な火柱が上がった。
通常の炎のより紅い、紅蓮の火柱が。
どうやら、龍也は無事に火柱を生み出す事に成功した様だ。
火柱が生み出されてから暫らくすると、龍也は確かな手応えを感じ取ったので火柱を消し、

「……ふぅ」

一息吐いて周囲の様子を伺い始める。
すると、龍也の近くに隙間が開かれ、

「……驚いた。中々思い切った事をするじゃない」

隙間の中から紫が現れた。
現れた紫は所々焦げている。
この事から、火柱はそれなりに効果があった様だ。
紫が負ったダメージを確認した後、龍也は構えを取り、

「もうコツは掴んだ。次はもっとダメージがいくぜ」

余裕そうな表情を浮かべながら次はもっとタメージを与えられると言う。

「あら、それは怖いわね」

次はもっとダメージがいくと言った龍也に、紫は何処か挑発する様な笑みを見せる。
紫の笑みを見ても龍也は余裕そうな表情を崩さなかったが実の所、浮かべている表情の様な余裕は龍也には一切無かった。
何故かと言うと、力を解放した状態には時間制限があるからだ。
制限時間を過ぎてしまえば、龍也は一気に疲労困憊とも言える様な状態になってしまう。
相手が雑魚であるならばその状態になったとしても何とかなるであろうが、生憎紫は雑魚では無い。
そんな状態になったら、簡単に倒されてしまう事だろう。
ならば、力を解放した状態を解除すれば良いと思うだろうがそうもいかない。
そうもいかない理由は一つ。
力を解放した状態且つ本気で放った火柱は紫を多少焦がす程度のダメージしか与えられなかったからである。
幾ら範囲を広めた技とは言え、力を解放した状態且つ本気で放った技でこれなのだ。
力を解放していない状態では多少焦がす程度のダメージも与えられないだろう。

「………………………………………………………………」

炎柱で紫に与えられたダメージと自身の状態から、龍也は一つの答えを出す。
分の悪い賭けになるが、力を一点に集中させて自爆覚悟で突っ込むしか勝利を掴む方法は無いと。
幸い、今の紫は龍也の近くに姿を現している。
狙うなら今しかないと龍也は判断し、覚悟を決めて攻撃を仕掛け様とした瞬間、

「あ、やっぱり龍也も来ていたのね」
「まぁ、昨日の今日だしな」
「考える事は皆一緒って事ね」

後ろから声が聞こえて来た。
掛けられた声で龍也は出鼻を挫かれた感になったものの、誰が声を掛けて来たのかを確認する為に顔を後ろに向ける。
顔を向けた先には、

「咲夜に魔理沙に霊夢」

咲夜、魔理沙、霊夢の三人の姿が映った。

「お前等もここに来たって事は、やっぱり人魂関連か?」

龍也が確認を取る様に三人に冥界に来た理由は人魂関連かと言う推察を述べると、

「ええ、ちっとも幽霊の数が減らないから様子を見に来たのよ」
「「同じく」」

霊夢、魔理沙、咲夜の三人はやって来た理由は人魂関連で合っていると言う。
やはりと言うべき、冥界にやって来た理由は三人とも龍也と同じであった様だ。
四人全員の目的が同じだと分かった後、

「処で龍也、髪染めたの?」

霊夢が話を変えるかの様に龍也の髪の色に付いて聞いて来た。
それを聞き、

「いや、そう言う訳じゃないんだが……」

龍也は霊夢、魔理沙、咲夜の三人に力を解放した状態を見せた事も聞かせた事も無かったなと思い出す。
ここで力の解放に付いて説明をすべきかと龍也が考えている間に、

「それはそうと、あいつは誰だ?」

魔理沙は紫を指さし、誰なのかと問う。

「ああ、そいつが結界の修復をしているって言う八雲紫だ」

魔理沙が指をさしている者が八雲紫である事を教えると、霊夢、魔理沙、咲夜の顔付きが変わり、

「結界の修復をやってるそうだけど、何で状況が変わってないのかしら?」

三人を代表するかの様に霊夢が結界を修復しているのに何で状況が変わっていないのかと尋ねる。
龍也は自分の時と同じ様に力尽くで聞き出してみろと言うんだろうなと考えたが、

「やっぱり、半分寝ながらやってたせいかしらね。状況がちっとも変わっていないのは」

そんな龍也の考えとは裏腹に、紫はすんなりと理由を話した。
だからか、

「……は?」

龍也は虚を突かれた様な表情を浮かべてしまう。
龍也が思わず漏らした言葉に反応したからか、

「ほら、起きたばっかりの時って中々眠気が抜けないじゃない。だから、一寸眠気覚ましをし様と思ってね」

紫は龍也と戦った訳を話す。
自分が紫と戦う事となったそもそもの原因に真面目な理由などが何一つ無い事を知ってしまったからか、

「……………………………………………………」

龍也の中から戦いの中で生まれていた緊張感と言えるものが一気に消失した。
序に、先程決めた覚悟や戦意と言えるものも。
完全に戦う気が失せてしまったからか、

「……なぁ、霊夢」
「何?」
「何かあいつ、博麗神社にあるって言う結界弄ったらしいぞ」

龍也はこの戦いを丸投げする事に決めた。

「へぇ……」

紫が博麗神社の結界を弄った事を知ったからか、霊夢の顔付きが変わる。

「他にも色々としてるらしいぞ」

この言葉を皮切りにしたかの様に、

「つまり、使える妖精メイドが居ないのもあいつのせいだと?」
「最近、私の魔法の実験が上手くいっていないんだが……それもあいつのせいだと?」

咲夜と魔理沙が上手くいかない事があるのだが、それは全て紫のせいかと聞いて来たので、

「多分そう」

龍也は肯定の返事を返す。

「……え?」

思わぬ所で濡れ衣とも言える様な事を被せられた紫が思わず目を点の様にした時、

「つまり、あいつをボコボコにすれば結界の件は全て片がつくと言う事かしら?」
「つまり、あいつをボコボコにすれば使える妖精メイドが現れると言う事かしら?」
「つまり、あいつをボコボコにすれば私の実験も上手くいくと言う事か?」

霊夢、咲夜、魔理沙の三人が流れ作業の様に紫をボコボコにすれば全て解決するのかと龍也に問うて来た。
問われた事に、

「多分そう」

龍也は多分そうだと言う答えを口にする。
その瞬間、霊夢、咲夜、魔理沙の三人は紫の方へと一斉に向かって行った。





















結論から言えば八雲紫は霊夢、魔理沙、咲夜の三連合にボコボコにされた。
その後、紫は真面目に結界の修復を行ったので冥界の結界は無事修復される事となる。
唯、博麗神社の結界の件、妖精メイドの件、魔法の実験の件がどうなったかは分からないが。























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