冥界の結界は修復され、人里、博麗神社、魔法の森、紅魔館など言った場所に見られていた人魂などの姿は殆ど見られなくなった。
霊夢、魔理沙、咲夜の三人にボコボコにされた腹いせに紫が結界を完全に修復しないのではと言う心配が少しはあったが、それは杞憂であった様だ。
無事に冥界の結界が修復されてから幾日か経った頃、

「冥界には今日を除いて三度来けど……何か今回は平和な感じがするなー」

龍也は再び冥界にやって来ていた。
目的は勿論、冥界の散策だ。

「まぁ……今の所、襲撃が無いからだろうな。平和だって感じるのは」

平和であると感じているのは襲撃がないからではと考えつつ、龍也は周囲を見渡していく。
見渡して見えるのは草木と言ったものを除けば幽霊、人魂と言った存在だけ。
生者と呼ばれる存在は少しも見られない。
まぁ、ここは冥界なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。

「ま、平和なのは良い事だな」

龍也は結構お気楽な表情をしながら足を進めているが、それでも最低限の警戒はしている。
普段の様に幻想郷を旅して回っている時ならば警戒など殆どしていないと言うのに。
何故今回に限って警戒をしているのかと言うと、何時幽霊に襲い掛かられても直ぐに対応出来る様にする為である。
この前分かった事であるのだが、幽霊には通常の攻撃が効かないのだ。
それ故に無警戒だとどうしても初動が遅れてしまうので、龍也はこうして警戒をしているのである。
一応、霊力を用いた攻撃ならば幽霊も倒せるのではと龍也は考えているが実証されてはいない。
通常の攻撃が効かない以外にも幽霊は行き成り取り憑き、取り憑いた対象を殺しに掛かると言う攻撃方法を持っている。
尤も、取り憑かれたら霊力を解放して叩き出すと言う対処法があるので脅威と言える程のものでもないが。
そんな風に周囲を警戒している龍也の耳に、

「……ん、何だ? 音楽?」

ふと、楽器を奏でる音が聞こえて来た。
冥界は基本的に静かな場所であるからか、楽器を奏でる音は妙に目立つ。
それが気に掛かった龍也は楽器を奏でる音が聞こえて来る方に目を向け、

「にしても、どっかで聴いた事ある気がするんだよな……この音楽」

聴き覚えがあると呟きながら首を傾げ、音楽が聞こえて来る方に足を進めて行く。
少し進むと、龍也は音楽の発生源を発見する。
その音楽の発生源には、

「ルナサにメルランにリリカ……」

ルナサ、メルラン、リリカのプリズムリバー三姉妹の姿があった。
楽器を奏でている者はプリズムリバー三姉妹であった様だ。
龍也が漏らした声が聞こえたからか、ルナサ、メルラン、リリカの三人は楽器を奏でるのを止め、

「あれ、龍也?」
「やっほー、元気?」
「ありゃ? こんな所で珍しい」

龍也の方に目を向けた。
お互いがお互いの存在を認識した後、

「お前達、こんな所で何やってるんだ?」

龍也はプリズムリバー三姉妹に冥界で何をしているのかを問う。
問われた事に、

「見ての通り、練習中よ」

ルナサが練習中であると答えてくれた。

「練習中?」

練習中の単語に龍也が疑問を覚えていると、

「そう、練習中なの。近々白玉桜で演奏会があるからね」
「プリズムリバー楽団って有名なのよー」

リリカとメルランが何の為に練習しているのかを話す。
二人の話を聞き、龍也は幽々子が起こした異変解決祝いの様な宴会でレティがプリズムリバー三姉妹のコンサートに付いて話していた事を思い出した。
宴会の時にも見事な演奏をしていたのでコンサートを開けるのも納得だと龍也は思いつつ、

「でも、何で冥界で練習をしてるんだ? 練習するにしても、もっと他に場所が在ったんじゃないか?」

冥界以外にも良い場所が在ったのではと尋ねる。
尋ねられた事に対し、

「理由は二つあるよ」

リリカが三姉妹を代表するかの様に冥界で練習している理由は二つあると言う。

「二つ?」

二つ理由があると聞いて首を傾げた龍也に、

「うん、二つ。一つは冥界が凄く静かな場所だからね。練習するにはとても良い場所なの」

リリカは理由の一つは冥界は凄く静かな場所であるからだと話す。

「……ああ、成程」

確かに、冥界の様な静かな場所なら練習にも集中出来るだろう。
龍也が冥界で練習する事に対する有用性に納得した時、

「もう一つの理由は……姉さん達二人にあるのよね」

もう一つの理由はルナサとメルランの二人にあるとリリカは口にした。

「ルナサとメルランに?」
「うん。私達には"手を使わずに楽器を演奏する程度の能力"って言うのがあるんだけどね」

リリカは自分達の能力を説明し、実際に自分の楽器を宙に浮かせて軽く演奏を始める。
しかも、手などを使わずに。

「おお」
「まぁ、これじゃ見てる側も演奏を聴いているって気分には中々なれないから楽器を少し浮かせて演奏する程度に留めているんだけどね」

そう言ってリリカは浮かせた楽器を自分の手元に戻し、

「で、話を戻すけど……私達にはもう一つの能力と言うか特性があるだけど……それが一寸問題なのよね」

自分達にはもう一つの能力と言えるものがあり、それが一寸した問題なのだと言った時、

「私の演奏には鬱の要素が」
「私の演奏には躁の要素が含まれているのー」

ルナサとメルランが自分達のもう一つの能力と言えるものを龍也に伝える。

「鬱と躁?」

龍也がよく分からないと言った表情を浮かべながら首を傾げると、

「私の単独演奏を聴くと、自殺する気力も湧かない程に陰鬱とした気分になり」
「私の単独演奏を聴くと、とんでもない程にハイテンションになるのー」

ルナサとメルランが自分達の単独演奏を聴いたらどうなるかを教えてくれた。
その後、

「だから、私達はこうやって練習をする時は静かで人気の無い冥界の様な場所でする様にしているの。私達の演奏の内、姉さん達の演奏のどっちかだけが
耳に入ったらとんでもない事になっちゃうしね。まぁ、冥界だと幽霊とかの耳に入りそうだけど……幽霊は元々移ろい易い存在だからね。だから、人間や
妖怪と言った存在と比べたら受ける影響は大した事はないのよね」

リリカが補足する様に静か以外の理由で冥界の様な場所で練習する訳を説明する。
リリカの説明を聞き、龍也は納得した表情を浮かべた。
ルナサかメルランのどちらかの演奏を聴き、テンションが変に上下して騒ぎを起こしでもしたら一大事であるからだ。
ルナサかメルランのどっちかの演奏を聴いて狂った何者かが暴れている光景を頭に浮かべつつ、

「ルナサの演奏には鬱、メルランは演奏には躁が宿っているのなら、リリカの演奏にも何か宿っているのか?」

龍也は当然とも言える様な疑問をリリカにぶつける。
ぶつけられた疑問に、

「私の演奏には幻想が宿っているよ」

リリカは快く答えてくれた。

「幻想……?」
「まぁ、私単独の演奏を聞いても何か影響が在る訳じゃ無いんだよね」

リリカの演奏に宿っているのが幻想と言う事を聞いて疑問気な表情を浮かべた龍也に、リリカは自分の演奏に宿っている幻想に付いて説明する。
要するに普通の演奏かと龍也が考えた時、

「ああー!! 私だけ没個性だとか思ったな!?」

リリカは不機嫌だと言いた気な表情をしながら龍也に詰め寄って来た。

「い、いや、別にそんな事は……」

龍也はリリカの気迫に押されるかの様に、後ろに下がってしまう。
そんな龍也を見て、
 
「まぁ……私の鬱、メルランの躁、リリカの幻想の三つは良い感じに組み合わさるのよ」
「私達は三人で一つって感じー」

ルナサとメルランはリリカをフォローする様な事を口にする。
鬱と躁が合わさってプラスマイナスが零になった所に幻想が入って言い感じになると言う事であろうか。
二人のフォローを聞いたからか、リリカから感じていた気迫がある程度弱まった。
それを感じ取った龍也は、

「そ、そうだ!! お前達って何所に住んでるんだ? やっぱり冥界か?」

話を逸らす様にプリズムリバー三姉妹に何所に住んでいるのかを問う。

「私達かい? 私達は霧の湖の方にある廃洋館に住んでいるよ」

問われた事にルナサが答え、

「でも、見付けるのは結構大変かもよ。結構分かり難い場所にあるし」

リリカが補足するかの様に自分達が住んでいる場所は見付け難い場所にあると口にする。
霧の湖周辺にある森は結構深いので、探すとなれば骨が折れる事だろうと龍也は思いつつ、

「そう言えば……演奏会をやるって言ってたけど、俺も演奏会に行っても良いのか?」

自分も演奏会に言っても良いのかと聞く。

「別に構わないけど……チケットは持っているの?」

ルナサから別に構わないがチケットは持っているのかと聞き返されたので、

「チケット? いや持って無いな」

龍也はチケットを持っていない事を伝える。
すると、

「チケットが無いなら……門前払いを喰らう可能性あるね」

ルナサからチケットが無ければ門前払いを喰らう可能性がある事を教えられた。
門前払いを喰らうと言われても、以前の宴会でプリズムリバー三姉妹の演奏を思い出してまた聴いてみたいと龍也は思っていたので、

「なら、チケットはどうすれば手に入るんだ? お前達から買えば良いのか?」

ルナサにどうすればチケットを手に入れる事が出来るのかを尋ねる。

「チケットは私達が管理しているって訳じゃないの。演奏会が開かれる場所の管理人がチケットを管理しているのが殆どだよ。今回の場合は……白玉楼の
お姫様がチケットの管理をしているわね」

チケットを管理しているのは自分達ではなく演奏会が開かれる場所の管理人が管理している事をリリカが話す。
今回の場合は幽々子と言う事であろう。
ならば、幽々子に頼めば良いと考えるがそう簡単にはいかない事に龍也は直ぐに気付く。
何故簡単にいかないかと言うと、妖夢とは一度戦った事もあって結構打ち解けてはいるが幽々子とはそこまで打ち解けてはいないからだ。
龍也が幽々子にチケットが欲しいと言っても渡してくれる確立はそう高くはないであろう。
妖夢に仲介を頼んでみるかと龍也が考えている時、

「冥界のお姫様で思い出したけど……この前の異変の時、よくあのお姫様に勝てたわね」

リリカが思い出したかの様にこの前の異変の事を話して来た。
その話を聞き、

「いや、幽々子と戦ったのは俺じゃなくて霊夢、魔理沙、咲夜の三人だ。俺が戦ったのは妖夢だ」

龍也は自分が戦ったのは幽々子ではなく妖夢だと返す。
龍也の自分は幽々子と戦ってはいないと言う発言を聞き、

「ああ、そう言えばそうだったっけ。この前の異変を解決しに行ったのが四人だったから少しごっちゃになったみたい」

ルナサは龍也と他の三人の活躍が混ざってしまった事を言い、

「でも、魂魄妖夢に勝ったってのも十分に凄い事だと思うわよー」

メルランが妖夢に勝った事も十分に凄いと口にした。
そんな二人の話を聞き、

「龍也なら、姉さん達の単独演奏を聴いても平気そうだね」

リリカは龍也ならルナサやメルランの単独演奏を聴いても平気なのではと呟く。

「確かに、龍也程の力を持っている存在なら私かメルランの単独演奏を聴いて大丈夫そうね」

リリカの呟きを聞いたルナサが同意する様な発言をすると、

「そうなのか?」

龍也は思わず聞き返す様にルナサの方に顔を向けた。
自分の方に顔を向けた龍也を見て、

「平気……とまではいかなくても、確実に抵抗する事は出来るだろうね。龍也の他には異変解決に来た三人も確実に抵抗する事は出来るわね」

ルナサは最低でも抵抗する事は出来ると言い、霊夢、魔理沙、咲夜の三人も同じ様に抵抗する事は可能だろうと断言する。
それならば、ルナサやメルランの単独演奏を聞かせて貰うのも良いかもしれないと龍也が考え始めた時、

「さっきから聞こうと思っていたのだけど、龍也は何しに冥界にまで来たの?」

メルランが何を冥界にやって来たのかと龍也に問うて来た。

「まぁ……只の散策だな。冥界をじっくり見てみたいと思っていたからな」
「生きている人間が冥界散策ね……」

龍也から冥界にやって来た理由を聞き、ルナサは呆れた表情を浮かべる。

「何だ、不味いのか?」

ルナサの反応を見て、龍也は何か不味いのかと聞く。
すると、

「不味くは無いけど……普通は考えないわよ」
「そうねー……生きている人間が冥界に来ようだ何て普通は考えないわよねー」
「と言うか、普通の人間は冥界に来れないけどね。まぁ、来れたとしても冥界に来ようとは考えないだろうけど」

不味くは無いけど普通は冥界に来ようと思わないと言う返答がルナサ、メルラン、リリカの三人から返って来た。
三人の返答を聞き、確かにそうかもなと龍也が思い始めた時、

「そうだ!! 折角だから、一曲聴いていかない?」

リリカが龍也に一曲聴いていかないかと言う提案を行う。

「え、良いのか?」
「うん。一人とは言え、観客が居た方が私達に取っても良い練習になると思うしね」

龍也としてもプリズムリバー三姉妹の演奏はまた聴きたいと思っていたので、

「それじゃ、聴かせて貰おうかな」

龍也は聴かせて貰うと言いながら腰を落ち着かせる。
龍也が腰を落ち着かせたのを見て、

「オッケー、それじゃあ……いっくよー!!」
「やっぱり、聴いてくれる人が居るとやる気が出るわー」
「また勝手に決めて。ま、聴いてくれる人が居ればやる気が出るって言うのは同意するけどね」

リリカ、メルラン、ルナサの三人はそれぞれそう言い、演奏を始めた。
プリズムリバー三姉妹の演奏を聴きながら、龍也は思う。
凄いと。
これ以外の感想が浮かんで来ない自分に龍也は呆れつつも、プリズムリバー三姉妹の演奏に聴き惚れていく。
それから暫らくすると、

「これにて終了」

リリカが演奏終了の言葉を掛ける。
その瞬間、龍也は拍手をし、

「あ、うん。凄かった。言葉では上手く言い表せないけど凄かった。悪いな、こんな感想しか出せなくて」

陳腐な感想を漏らす。
龍也としてはもっとちゃんとした感想を言いたかったのだが、残念な事に凄いと言う感想以外出て来なかった。
これ位の感想しか出せない自分に龍也は再び呆れてしまう。
しかし、

「龍也の顔を見れば満足してくれたって分かるわよ」
「そうそう、それだけで十分よー」
「無数の称賛の言葉を並べるより、そう言ったストレートな感想の方が嬉しい場合もあるしね」

リリカ、メルラン、ルナサの三人からは好意的な反応が返って来た。
自分の拙い感想で喜んで貰えて良かったと思いながら、龍也はプリズムリバー三姉妹と雑談を交わしていく。





















プリズムリバー三姉妹との雑談が一段落着いた後、龍也は白玉桜を目指していた。
無論、白玉楼で開かれるプリズムリバー三姉妹の演奏会に参加したいからだ。
どの様な交渉を幽々子に持ち掛け様かと言う事を龍也が考え始めてから暫らく経った時、

「お……」

白玉楼へと続く異様に長い階段が見えて来た。
今回は別段急いで白玉楼に行く理由は無いので、龍也は直接自分の足で上る事を決めて足を階段に乗せて登って行く。
序に、階段を上りながら見える景色を楽しもうと思いながら。





















そして、時が流れて夕方と夜の間位の時間帯になった頃、

「……長かった」

龍也は異様に長い階段を上り切り、白玉桜の門の前に辿り着いていた。
龍也の表情からは疲れたと言うものが感じられる。
その表情から察するに、ここまで時間が掛かるとは思わなかった様だ。
階段を上り始めてからの道中を思い出し、

「……ま、平和だったな」

平和だったと言う結論を出す。
と言うのも、異変を解決しに来た時と違って襲撃者が現れなかったからである。

「……ふぅ」

龍也は疲れを吐き出す様に息を一つ吐き、門を開けて白玉桜の庭園へと入って行く。
入って早々に、

「やっぱ凄いな。ここの庭は」

龍也は凄いと言う感想を漏らした。
この広い白玉楼の庭の手入れは全て妖夢一人で行っているのだ。
本当に大したものである。

「しっかし、庭の手入れに食事の支度に掃除に剣の修行って感じで妖夢も大変だな。いや、庭の手入れは毎日する必要ないのか?」

そんな事を考えながら白玉楼の庭を見渡し、足を進めて行くと、

「ッ!!」

突如、龍也は殺気を感じ取る。
殺気を感じるのは上空だ。
殺気の発生源を特定した瞬間、龍也は反射的に後ろへと跳ぶ。
龍也が後ろに跳んだのと同時に龍也が居た場所に何者かが降り立ち、

「曲者め!! 白玉桜に何の用だ!!」

長刀を龍也に突き付けた。
自分に長刀を突き付けている者を見て、

「妖夢……」

龍也は思わず長刀を突き付けている者の名を口にする。
どうやら、龍也に長刀を突き付けている者は妖夢であった様だ。
同時に、

「あれ、龍也さん?」

妖夢は自分の得物を突き付けている人物が龍也だと言う事に気付き、長刀を下げる。
長刀が下げられた事で、

「よっ」

龍也が片手を上げて挨拶の言葉を妖夢に掛けた。

「あ、失礼しました」

長刀を突き付けていた事に対する謝罪を妖夢は行い、刀を鞘に納める。
妖夢が長刀を鞘に収めたのを見た龍也は、

「にしても、行き成り斬り掛かられるとは思わなかったな。少し、驚いたぜ」

行き成り斬り掛かられて驚いたと言う。

「すみません。龍也さんだとは思わなかったもので……」

申し訳無さそうな表情をしながら妖夢は頭を下げ、

「それで、白玉桜に何か御用ですか?」

頭を上げながら白玉楼にやって来た理由を尋ねる。

「ああ、近々ここでプリズムリバー三姉妹の演奏会が開かれるって聞いてな。出来れば俺にも演奏会に参加させれ欲しいんだが……」

龍也が白玉楼にやって来た理由を話すと、

「演奏会……はい、聞き及んでいます。それで、龍也さんはチケットをお持ちですか?」

妖夢は龍也にチケットは持っているかと聞く。

「いや、持ってない。だから、チケットを譲って欲しいだけど……」
「チケットの譲渡ですか……流石に、それは私の一存では決められないですね。と言うか、チケットの管理は幽々子様が行っていますので。なので、
幽々子様から許しを得なければ……」

龍也がチケットを持っていないので出来れば譲って欲しいと言うと、妖夢は幽々子の許しを得なければチケットは手に入らないだろうと返す。
なので、

「なら、幽々子に会わせて貰えるか?」

龍也は幽々子に会わせてくれと妖夢に頼み始めた。
龍也の頼みを聞き、

「分かりました。幽々子様所まで御案内します」

妖夢は幽々子の場所まで案内すると言って龍也に背を向け、歩き出す。
歩き出した妖夢に続く様にして龍也も足を進めて行く。
それから少しすると大きな屋敷が見えて来た。
無論、白玉楼だ。
相変わらず大きな屋敷だなと言う感想を龍也が抱いている間に白玉楼の玄関が開かれる。
玄関が開かれた音で龍也は意識を現実に戻し、白玉楼の中に入って靴を脱いで廊下に上がった。
そして、妖夢と一緒に廊下を歩き始めてから少しすると大きな襖の前に辿り着き、

「幽々子様、宜しいでしょうか?」

妖夢は足を止めて中に居るであろう幽々子に声を掛ける。
足を止めた妖夢に釣られる様にして龍也も足を止めた時、

「妖夢? 良いわよ」

中から入室を許可する声が聞こえて来たので、

「失礼します」

妖夢は一声掛けて襖を開き、部屋の中へと入って行く。
続けて龍也も部屋の中に入ると、

「あら、龍也じゃない。いらっしゃい」

幽々子は龍也の存在に気付き、いらっしゃいと言う言葉を掛ける。

「ああ、上がらせて貰ってる」
「それで、龍也さんが幽々子様に頼みがあるとの事でして……」

いらっしゃいと言う言葉に龍也が返事を返した時、妖夢は龍也が幽々子に頼みがある事を言う。

「あらそうなの? じゃあ、妖夢。お茶とお茶菓子を持って来てくれるかしら。私と龍也の二人分ね」
「畏まりました」

幽々子が妖夢に自分と龍也のお茶とお茶菓子を持って来る様に指示を出すと、妖夢は了承の返事をして部屋から出て行く。
おそらく、台所辺りにでも向かったのだろう。
妖夢が居なくなったのを見て、

「ほら、そんな所に立ってないでこっちに来なさい」

幽々子は龍也に自分の近くに来る様に促す。
促された龍也は幽々子の近くにまで移動し、腰を落ち着かせて胡坐を掻く。

「そう言えば……こうやって貴方と一対一で話をするのは初めてね」
「そう言われてみれば……そうだな」

幽々子の一対一で会話するのは初めてと言う発言に、龍也は記憶を掘り返しながらそうだなと返す。

「でもね、貴方の事だけなら紫からある程度は聞いてるのよ」
「そうなのか?」
「ええ。私と紫は親友同士だしね。色々と交友があるのよ」
「へー……」

意外な交友関係を知り、龍也は少し驚いた表情を浮かべる。
そんな表情を浮かべている龍也を余所に、

「それで、私に何の用かしら?」

幽々子は用件を尋ねて来た。
用件を尋ねられた事で龍也は表情を戻し、

「ああ、ここでプリズムリバー三姉妹が演奏会をやるって聞いてさ。で、俺も聴きたいからチケットを譲ってくれないかと言う事を頼みに来たんだ」

幽々子に頼みたい事を伝える。

「成程ね……」

龍也が自分に何を求めているのかを知った幽々子は納得した表情を浮かべ、自分の胸元に手を突っ込んだ。

「んな!?」

突然の幽々子の行動を見て、龍也は思わず頬を赤く染めてしまう。
頬を赤くしている龍也の事を知ってか知らずか、幽々子はその儘胸元を探っていき、

「……あったあった」

あったあったと言いながら胸元から突っ込んでいた手を抜き出す。
抜き出された手の人差し指と中指の間にチケットが挟まれており、

「はい、貴方に上げるわ」

幽々子は挟んでいるチケットを龍也に手渡した。

「あ、ああ。ありがとう」

頬を赤く染めた儘の状態で龍也が手渡されたチケットを受け取ったからか、

「あらあら、赤くなっちゃって。年頃の男の子には刺激が強かったかしら?」

からかう様な言葉を幽々子は龍也に掛ける。

「……何でもねえよ」

龍也は強がる様な声色で何でも無いと返すと、

「そう言われると……一寸ショックかも」

ショックを受けたと言いながら幽々子は着物の袖の部分を垂らし、へたり込む様な体勢になってしまう。

「俺にどうしろと……」
「冗談よ。一寸からかっただけだから」

どうしたら良いのか分からずに困った表情を浮かべてた龍也に、幽々子は一寸からかっただけと言いながら体勢を戻し、

「この前ね、紫に年頃の男の子は色気でからかうと面白い位に反応するって言われたのよ。だから……ね」

紫から聞いた事を実践してみたと話す。
それを聞き、

「何を言ってるんだ……あいつは」

龍也は紫に対して呆れた感情を抱いたのと同時に、ある事を考える。
この間、霊夢、魔理沙、咲夜の三人を嗾けてボロボロにした事を根に持っているのかと。
龍也が少し考え事に集中して黙っている間に、

「でも、思っていたより反応しなかったわね。若しかして……ムッツリ助平ってやつ?」

幽々子は龍也の事をムッツリ助平なのかと言う推察を行う。

「ちげーよ」

幽々子の推察を龍也が間髪入れずに否定するが、

「本当かしら? 男は狼って言うし。若しかして、二人っ切りなったのも私の体が目当てで……」

幽々子は龍也に疑惑の視線を向ける。

「お前、からかうのは止めるんじゃなかったのか? とゆーか、二人っ切りになる様に仕向けたのは幽々子だろ」
「そう言えばそうだったわね」

龍也の言い分に納得しつつ、幽々子は扇子で口元を隠す。

「……どうもペースが乱されるな」

龍也は愚痴る様にペースが乱されると呟き、思う。
幽々子も紫と同じで掴み所が無く、愉快犯であると。

「それはそうと、演奏会は明後日よ」

突如、幽々子は話を変える様に演奏会の日付を口にする。

「明後日なのか……」

演奏会が始まるまで、どうやって時間を潰そうか龍也が考えていると、

「だったら、演奏会が開催されるまで白玉楼に泊まっていきなさい」

幽々子は扇子を仕舞いながら演奏会が開かれるまで白玉楼に泊まっていく様に言って来た。

「良いのか?」
「ええ。まぁ……チケットを只で上げて、その上只で泊めると言うのもあれね。泊まっている間は雑用などをしてくれないかしら?」

良いのかと問うた龍也に、幽々子は泊める条件として泊まっている間に雑用をする様に言う。

「分かった。その程度の事位なら任せてくれ」

龍也が幽々子が提示する条件を受け入れ、白玉楼に泊まる事を決めた時、

「失礼します」

襖が開かれ、妖夢が部屋の中へと入って来た。
妖夢の両手の上にはお盆があり、お盆の上にはお茶が入った湯飲みが二つにお茶菓子が入った大き目の皿が乗っている。
先程、幽々子が持って来る様に指示を出した物を持って来た様だ。
妖夢が持って来た物を見て、幽々子は一瞬目を輝かせたが、

「あらあら、来るのが早いわ妖夢。私達が情事の真っ最中だったらどうするの?」

直ぐに妖夢をからかう様な事を口にする。
情事と言う言葉を聞き、

「みょん!? 情事!?」

妖夢は顔を面白い位に真っ赤に染めた。
どうやら、妖夢はこう言った話に免疫は無い様だ。
顔を真っ赤に染めている妖夢を見た後、

「おい……」

龍也は何か言いたそうな視線を幽々子に向ける。
すると、

「ふふ、可愛い反応でしょ」

幽々子はそんな事を言ってのけた。
少しも悪びれた様子を見せない幽々子に龍也は呆れつつ、

「妖夢、戻ってこーい」

妖夢を正気に戻させる様に言葉を掛ける。
妖夢が正気に戻った後、龍也達は三人で雑談を交わしていった。






















龍也が白玉楼に泊まってから一日が経つと、龍也は約束通り白玉楼内で雑用をやり始めた。
雑用と言っても廊下の雑巾掛けや掃除、埃落としと言った程度のものだが。
雑用の他には、妖夢と軽い手合わせなども行った。
手合わせをする事になった経緯としては、特にする事が無くなって暇をしていた龍也に同じく暇をしていた妖夢が手合わせを持ち掛けたからだ。
これに関しては龍也も妖夢も良い勉強になったと思っているが。
それからまた次の日。
白玉楼の庭内でプリズムリバー三姉妹の演奏会が始まった。
観客は龍也、妖夢、幽々子を除くと人魂や亡霊達ばかりであるが。
演奏を聴き、龍也は演奏会に参加して良かったと思った。
言葉で言い表せない感動があったからだ。
演奏会が終わった後、当然の流れの様に白玉桜で軽い宴会が開かれた。
開かれた宴会は、生きてる者も死んだ者も関係なく賑やかなものであったと言う。























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