「……ん」

ふと、目が覚めた龍也は上半身を起き上がらせて周囲を伺う。
周囲を見渡した結果、かなり薄暗いと言う事が分かった。
何で周囲がこんなにも薄暗いのかと言う疑問を龍也は覚え、寝惚けた頭で何があったのかを思い出そうとする。
その結果、

「……ああ」

龍也は思い出す。

「そう言えば、紅魔館に泊まったんだっけか」

紅魔館に泊まった事を。
だが、

「……でも、何でこんなに薄暗いんだ?」

今使わせて貰っている部屋が薄暗い理由までは思い出せなかった。
紅魔館の主であるレミリア・スカーレットは吸血鬼なので、紅魔館は日の光が入らない部屋や廊下が多い。
しかし、吸血鬼であるレミリアと違って龍也は人間だ。
故に、龍也が紅魔館に泊まる際は日の光が入る部屋を宛がわれる事が殆どなのである。
疑問はどうあれ、こう薄暗くては周囲の様子を伺う事が出来ない。
なので、龍也はこの薄暗さを払拭させる為に自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色が黒から紅に変わると、

「よ……っと」

龍也は掌から炎を生み出す。
炎が生み出された事で部屋全体が明るくなったので、龍也は部屋の内装を確認する為に顔を動かしていく。
顔を動かした龍也の目に最初に映ったのは、蝋燭と蝋燭が刺さった燭台であった。
蝋燭と燭台を見て、

「蝋燭に燭台……か。掌の炎、蝋燭に移すべきか?」

龍也は掌の炎を蝋燭に移すべきかと考え始める。
別に掌から炎を生み出した儘の状態で動き回っても問題無いであろうが、万が一飛び火でもしたら厄介だ。
序に言うのなら、折角置いて在る蝋燭を使わないのも何か勿体無い。
と言う事で龍也は蝋燭に火を点ける為にベッドから降り、蝋燭と燭台が置いて在る場所へと近付いて行く。
そして、蝋燭と燭台の前に龍也が辿り着いた時、

「にしても、見るからに高そうな燭台を使ってるな……」

龍也はそんな感想を漏らし、掌の炎を指先に移動させて蝋燭に火を点ける。
蝋燭に火が点くと龍也は生み出していた炎を消し、自身の力も消す。
力を消した事で瞳の色から紅から黒に戻ると、龍也は改めて周囲を見渡していく。
見渡していく中で、

「ん? 何だ、あの分厚いカーテンは?」

龍也は分厚いカーテンを発見した。
発見した分厚いカーテンを見て、

「若しかして……咲夜が気を使ってくれたのか?」

龍也は咲夜が気を使ってくれたのではと考える。
龍也が寝入り始めた時間は、後数時間もしない内に太陽が昇り始めると言う時間帯であった。
つまり、カーテンが薄ければ寝ている間に日の光を浴びてしまうと言う事になる。
そうなったら、十分な睡眠が取れない状態で龍也が目を覚ました可能性が非常に高かったであろう。
龍也は咲夜への感謝の言葉を内心で述べながら分厚いカーテンへと近付き、カーテンを開く。

「……ッ、眩し」

カーテンを開いたのと同時に日の光が入って来たので、龍也は目を瞑りながら顔面を手で覆う。
手で顔面を覆ってから幾らかの時間が経てば目も慣れ始めて来たので、龍也は手を下ろして目を開く。
開いた龍也の目には青い空に白い雲、光り輝く太陽が映った。
外の光景を見て、

「お、今日は快晴だな」

龍也は快晴だと言う言葉を漏らし、

「……ん?」

ある事に気付く。
気付いた事と言うのは、太陽の位置が高いと言う事だ。
太陽の位置が高いと言う事は、既にそれなりの時間になっていると言う事。
龍也は今の時間を確認する為、ポケットから懐中時計を取り出して時刻を確認すると、

「うわ……とっくに昼、過ぎてるな」

昼が完全に過ぎている事が分かった。
と言っても、特に予定も無いので起きるのが遅くなっても何の問題も無いが。
今の時間を確認し終え、取り出していた懐中時計をポケットの中に仕舞った瞬間、

「……あ」

龍也の腹から空腹を訴える音が鳴り響いた。
腹が鳴ったのと同時に空腹感を覚えた龍也は何か食べる物は無いかと思いながら振り返る。
すると、テーブルの上にワインクーラーに冷やされているワイン瓶にグラスが龍也の目に映った。
更に、その横にはサンドイッチとチーズが皿の上に乗っているのが見て取れる。
テーブルの上に置かれている食べ物を見た龍也は自分の為に用意された物であると判断し、急ぎ足でテーブルの前まで向かって行く。
急ぎ足で向かったと言う事もあり、龍也は直ぐにテーブルの前に辿り着いた。
テーブルの前に辿り着いた龍也は椅子に腰を掛けると言った事もせずに、

「いっただっきまーす!!」

サンドイッチを手に取り、口の中へと放り込んだ。
口の中に放り込んだサンドイッチを味わいながら、龍也はテーブルの上に置いて在ったコルクスクリューを手に取る。
手に取ったコルクスクリューも高そうな物だなと思いながら龍也はワイン瓶のコルクを抜き、ワイン瓶を手に取ってワインをグラスの中に注いでいく。
グラスの中がある程度ワインで満たされるとワイン瓶とコルクスクリューをテーブルの上に置き、龍也はサンドイッチを飲み込んでワインを飲み始める。
グラスの中が空になると龍也は再びワイン瓶を手に取ってグラスの中にワインを注ぎ、今度はチーズを口の中に放り込む。
ワインをグラスの中に注ぎ終えるとワイン瓶をテーブルの上に置き、手をワインが注がれたグラスとサンドイッチに伸ばす。
どうやら、龍也はサンドイッチ、ワイン、チーズ、ワイン、サンドイッチと言ったローテーションを組みながら食事を進めている様だ。
それはそうと、龍也は相当腹を空かせていた様で皿の上に乗っていたサンドイッチとチーズはかなりの早さで無くなっていき、

「……ご馳走様。あー……美味かった」

然程時間を掛けずに食事を取り終えた。
空腹が満たされた事で龍也は満足した表情を浮かべ、

「しっかし……ご飯と一緒にワインを飲むのって、何か上流貴族にでもなった気分だな」

上流貴族にでもなった気分と言う感想を呟き、椅子に掛けていた学ランを着て蝋燭の火を消す。
蝋燭の火が完全に消えた事を確認した後、龍也は部屋から出る。
部屋から出た龍也は体を完全に覚醒させる為に軽いストレッチを行う。
龍也がストレッチを行い始めてから少し時間が経った時、

「あら、起きたのね。おはよう」

廊下を歩いていた咲夜が龍也の前で止まり、挨拶の言葉を掛けて来た。
掛けられた挨拶に反応した龍也はストレッチを止め、

「咲夜。ああ、おはよう」

咲夜と同じ様に挨拶の言葉を口にし、

「あ、そうだ。食べる物とワインをくれてありがとな」

食べ物とワインをくれた事に対する礼を言う。
龍也の礼の言葉を聞き、

「別に構わないわ。お客様に食事を出すのもメイドの務めだしね」

咲夜は別に礼を言われる事では無いと返す。
やはりと言うべきか、あの食べ物とワインを用意してくれたのは咲夜であった様だ。
食べ物など用意してくれた咲夜に龍也は改めて感謝の念を抱きつつ、

「あ、そうそう。中に在る食器とかはどうすれば良い?」

部屋の中に在る食器はどすれば良いかを尋ねる。
尋ねられた事に、

「それは後で私が片付けて置くわ」

咲夜は部屋の中の食器は自分が片付けるから放って置いても良いと言う。
ここで妖精メイドにやらせると言わない辺り、紅魔館は相変わらず殆ど咲夜一人で切り盛りしてる様だ。
部屋の中の食器の片付けに付いての話が終わった後、

「あ、話は変わるけど魔理沙から伝言を預かってるわ」

咲夜は思い出したかの様に魔理沙から伝言を預かっている事を龍也に伝える。

「魔理沙から?」

何の伝言かと思いながら龍也が首を傾げると、

「ええ、貴方が寝ている間に魔理沙が来てね。そろそろ桜が散り始めるから、散りきる前に博麗神社で宴会を開くそうよ。因みに、宴会開催時刻は今日の夕方よ」

咲夜は龍也に伝言の内容を話し、

「当然、龍也も宴会に行くのよね?」

龍也も宴会には行くのだろうと聞いて来た。

「ああ、行く行く」
「私達はお嬢様と妹様が起床されてから行くけど、龍也はどうする? 私達と一緒に行く?」

龍也が宴会に参加する事を肯定すると、咲夜は博麗神社まで自分達と一緒に行くかと問う。
一緒に行くかと問われた龍也は、

「一緒にか? んー……」

別に一人で博麗神社に向かっても良いが、誰かと一緒に宴会会場に行くのも楽しそうだと考え、

「……一緒に行くよ」

咲夜達と一緒に行く事を決めた。

「分かったわ。それなら……博麗神社に宴会用の飲食物持って行く時、龍也にも飲食物を運ぶのを手伝って貰おうかしら?」

龍也が紅魔館の面々と一緒に博麗神社に行く事を決めたからか、咲夜は龍也に荷物運びをさせ様かと口にする。
咲夜の口振りから、取り敢えず言ってみただけと言った感じであったのだが、

「ま、世話になってるからな。その程度の事なら引き受けてやるよ」

龍也は世話になってるので荷物運びの手伝い位なら引き受けると言って来た。
龍也がすんなりと荷物運びを手伝う事を了承した事で、咲夜は何でも言うだけ言ってみるものだなと思いつつ、

「……そう。なら、頼りにさせて貰うわね」

頼りにさせて貰うと呟く。
その後、

「それはそれとして、お嬢様と妹様が起床されるまでまだ時間が掛かるのだけど……それまでどうする?」

咲夜は龍也にレミリアとフランドールが起床するまでどうするのかを尋ねる。
尋ねられた事に、

「そうだな……図書館で時間を潰してるよ」

龍也は図書館で時間を潰すと言う考えを示す。

「図書館で……ああ、成程。本を読んで時間を潰す気ね」

龍也が図書館でどう時間を潰すのかを察した咲夜は、

「図書館までの案内は必要?」

図書館までの案内は必要かと聞く。
案内が必要かと聞かれた龍也はここから図書館までのルート思い浮かべ様とした。
が、欠片も思い浮かべられなかったので、

「……案内、お願いします」

龍也は咲夜に頭を下げ、図書館までの案内をしてくれと頼み込む。
頭を下げてまで頼んで来る龍也が面白かったからか、

「ふふ、分かったわ。付いて来て」

咲夜は軽い笑みを浮かべながら了承の返事をし、龍也に背を向けて歩き出す。
咲夜が歩き出した事に気付いた龍也は顔を上げ、足を進めて行く。
そして、二人は雑談を交わしながら図書館へと向かって行った。





















龍也と咲夜が歩き始めて幾らかの時間が経つと、

「はい、図書館の入り口に着いたわよ」

咲夜は足を止め、図書館の入り口に着いた事を口にする。
咲夜が足を止めた事で龍也も足を止め、

「ここまで案内、ありがとな」

ここまで案内してくれた咲夜に礼を言う。

「どういたしまして」

言われた礼に咲夜はどういたしましてと返し、

「それと、パチュリー様の居る場所までの案内は必要?」

パチュリーの居る場所までの案内は必要かと聞く。
案内に付いて聞かれた龍也は、

「案内か? んー……」

少し考え始める。
図書館を利用する為にはパチュリーの許可を得る必要があるので、先ずはパチュリーに会わなければならない。
パチュリーに会うだけなら簡単な様に思えるが、そのパチュリーが居る図書館はかなり広大だ。
はっきり言って、龍也一人で図書館の中を歩き回ったら確実に迷子になるだろう。
しかし、それは普通に床に足を着けて進んで行けばの話だ。
空中から探せばそう時間を掛けずにパチュリーを見付ける事が出来るだろう。
序に言えば、龍也は何度か咲夜にパチュリーの居る場所まで案内された事がある。
だが、案内された時に複雑なルートを通ったと言う記憶は無い。
以上の事から、案内は不要と言う結論に達し、

「いや、大丈夫だ。一人で行ける」

龍也は咲夜に自分一人で行けると言う事を伝える。
案内が不要であると分かったから、

「そう。それじゃ、また後でね」

咲夜はまた後でと言う言葉を残し、姿を消した。
宴会に持って行く料理でも作るのだろうと思いつつ、龍也はドアを開けて図書館の中に入ってドアを閉める。
同時に、

「よ……っと」

龍也は跳躍を行って空中に霊力で出来た見えない足場を作り、そこに足を着ける。
そして、空中を駆ける様に移動しながらパチュリーが何所に居るのかを探す。
パチュリーを見付かるまで時間が掛かると思われたが、

「……お、見っけ」

思いの外、早くにパチュリーを見付ける事が出来た。
見た所、椅子に座って本を読んでいる様だ。
パチュリーを直ぐに見付ける事が出来たのは本を読んでいたからだなと思いつつ、龍也は霊力で出来た見えない足場を消して降下する。
降下し、床に足を着けた龍也は歩いてパチュリーへと近付き、

「よ、パチュリー」

パチュリーに声を掛けた。
龍也の声が耳に入ったからか、パチュリーは視線を本から声の発生源へと移す。
視線を移した先に居たのが龍也であった事から、パチュリーは自分に声を掛けて来た者が龍也であると理解し、

「いらっしゃい、龍也」

いらっしゃいと言う言葉を掛け、

「ここに来たと言う事は、本でも読みに来たのかしら?」

図書館にやって来た理由は本を読む為かと尋ねる。

「ああ、正解」

尋ねられた事を龍也は肯定し、

「実はさ、博麗神社で開かれる宴会にここの皆と一緒に行く事になってな。で、レミリアとフランドールが起きるまで暇だからここの本でも読んで時間を
潰そうと思ったんだ」

宴会の事と図書館に来た理由を話す。

「そう、私達と……」
「その口振りだと、やっぱりパチュリーも参加するんだな。宴会に」
「ええ、一応ね。私としてはここから余り離れたくは無いんだけど……偶には外に出ないとレミィや咲夜が五月蝿いからね。仕方なくよ」

仕方なく宴会に参加すると言っているが、パチュリーの表情は何処か楽しそうだ。
本当は宴会に参加するのが楽しみ何だなと言う事を龍也は察しつつ、

「それで、俺はここで本を読みたいんだけど良いか?」

この図書館で本を読んでも良いかと問う。
ここで本を読んでも良いかと問うて来た龍也に、

「ええ、構わないわ」

パチュリーは本の回覧の許可を出し、

「それで、どんな本を読みたいのかしら?」

どの様な本を読みたいのかを聞く。

「そうだな……短時間で読み切れるのが良いな」
「短期間で読み切れる本……ね。了解。小悪魔、一寸来てー」

龍也のから読みたい本を聞いたパチュリーは小悪魔を呼ぶ。
呼ばれた小悪魔は然程時間を掛けずに、

「呼びましたか? パチュリー様」

龍也とパチュリーの傍までやって来た。
その時、小悪魔は龍也の存在に気付き、

「龍也さん、いらしてたんですね。こんにちは」

龍也に挨拶の言葉を掛ける。

「ああ、邪魔してる」

小悪魔の挨拶の言葉に龍也が邪魔してると言う言葉を返した時、

「龍也は短時間で読み切れる本を探しているから案内して上げて」

パチュリーは小悪魔に短時間で読み切れる本が置いて在る場所まで龍也を案内する様に指示を出す。

「短時間で読める本ですか……分かりました。それでは、私に付いて来てください」

小悪魔は龍也を案内する件に了承の返事をし、龍也に背を向けて歩き始める。
歩き出した小悪魔の後を追う様に龍也も足を進め、小悪魔と雑談を交わしながら目的の場所へと向って行く。
二人が歩き始めてから少し時間が経つと、

「はい、着きましたよ」

龍也が読みたいと思っている本が収められている本棚の前へと辿り着いた。
本棚に収められている本の数を見て、

「やっぱ、ここの本棚に収まっている本の数は凄いな」

龍也は少し驚いた表情を浮かべ、感嘆の声を漏らす。
龍也が漏らした声を聞き、

「量が多い分、整理などが大変なんですけどね。まぁ、本や本棚にはパチュリー様が劣化を防ぐ魔法などを掛けていますので言う程大変って訳でも無いん
ですけどね。量以外は。ほんと、パチュリー様も少しは積極的に手伝ってくれれば良いのに……」

小悪魔は苦笑いを浮かべながら本の整理などが大変だと言う愚痴を零した。
が、

「……あ」

直ぐに自分の失言に気付き、

「パチュリー様には私が今言った事は御内密にお願いしますね」

小悪魔は龍也に今の発言はパチュリーには内緒にして置く様に頼み始める。

「ああ、分かってるって。黙って置くから安心しろ」
「ありがとうございます」

龍也から内密にすると言う言質が取れたから、小悪魔は頭を下げながら礼の言葉を述べ、

「私は本の整理などがあるのでこれで失礼しますが、何かありましたら気軽に呼んで下さいね」

頭を上げながら自分はこれから本の整理があるのでこの場から離れるが、何かあったら気軽に呼んでくれと言い、

「それでは、失礼しますね」

再び頭を下げ、他の本棚が陳列している場所へと向かって行った。
去って行く小悪魔を見送った後、龍也は本棚に視線を移して適当な本を抜き出す。
抜き出した本を見て、

「……これで良いか」

龍也は手に取った本を読む事にし、床に腰を落ち着かせて本を読み始める。





















「あ、ここに居たのね」
「ん?」

自分に向けて掛けられた声に反応した龍也は視線を本から声の発生源に移す。
視線を向けた先には、

「咲夜」

咲夜がいた。
自分に声を掛けて来た存在が咲夜である事を知った龍也は本を一旦閉じ、

「何か用か?」

何の用かと尋ねる。

「お嬢様と妹様が起床され、既に出発の準備が整ったから貴方を呼びに来たのよ」
「ああ、もうそんな時間か」

咲夜からもう博麗神社に向かう準備が整ったと言う事を知らされたからか、龍也は読んでいた本を本棚に戻して立ち上がり、

「んー……ずっと本を読んでいたから少し体が固まってるな」

体を伸ばす。
それから少しすると、ある程度体の固まりが解消されたので、

「それじゃ、行くか」

龍也は咲夜に行くかと言う言葉を掛ける。
その言葉に返す様に、

「ええ、行きましょうか」

咲夜は行きましょうと言って歩き出す。
歩き出した咲夜を追う様に龍也も足を進め、二人は雑談を交わしながら外へと向かって行く。
そして、紅魔館の門の前まで着くと、

「あ、もう皆外に出てたのか」

既に咲夜以外の紅魔館の面々が集まっている事が分かった。
龍也が来るのを結構な時間待っていたからか、

「全く、レディを待たせる何て紳士失格よ。龍也」
「龍也、おそーい」

レミリアとフランドールから文句の言葉を掛けられる。

「ああ、悪い悪い。悪かったって」

レミリアとフランドールから文句の言葉を掛けられ、適当に二人を宥めている龍也に、

「それじゃ、約束通り荷物運びを手伝って貰いましょうか」

咲夜は約束通り荷物運びを手伝って貰うと言い、ある方向に向けて指をさす。
咲夜が指をさした方向に龍也が顔を向けると、大きな木箱が目に映った。

「何だ、あの木箱は?」
「あの木箱の中にはワインとチーズが入ってるの」

目に映った木箱に疑問を覚えた龍也に、咲夜は木箱の中には何が入っているのかを教える。

「つまり、あれを俺が運べば良いんだな」

自分の役目を理解した龍也は木箱に近付き、木箱を持ち上げ様とした瞬間、

「……あれ? 思っていたよりも重いな」

木箱が思っていた以上に重かった事で少し驚いた声を漏らす。
龍也が漏らした声を聞き、

「まぁ、重いのは仕方無いわね。その中にはチーズは兎も角、ワインは相当な量が入ってるし」

咲夜は木箱の中にはチーズは兎も角として、相当量のワインが入っているので重いのは仕方が無いと言う。

「相当な量……って、そんなに持って行く必要ってあるのか?」
「あら、紅魔館から持って来た物が少なかったら主である私の品格が疑われるでしょ」

持って行くワインの量に疑問を覚えた龍也に、レミリアは余裕が感じられる表情でワインの量の多くした理由を話す。
それに続ける形で、

「正確に言うと、レミィが咲夜に作らせたワインの量が相当な数になってね。ワインセラーに余裕を作る事は幾らでも出来るんだけど、死蔵させる様な気が
したから今回の宴会で消費させ様とレミィは考えたのよ」

パチュリーが補足する内容を口にする。

「一寸、パチェ……」

パチュリーが余計な事を口にしたからか、レミリアの表情は何とも言えないものになってしまった。
まぁ、格好を付けた理由を話したのにそれを台無しにされる様な補足をされれば誰だってそんな表情にもなるだろう。
パチュリーの補足のせい場の雰囲気が微妙なものに成り始めた時、

「ねぇねぇ、早く行こうよー」

フランドールが早く出発する様に急かして来た。
フランドールが急かした事で場の雰囲気が払拭され、

「……そうだな。そろそろ行くか」

龍也はフランドールの早く行こうと言う発言に同意する様にワインが入った木箱を持ち上げる。
龍也が木箱を持ち上げたのを合図にしたかの様に一同は空中に躍り出て、博麗神社へと向かって行った。





















博麗神社の境内に足を着けたのと同時に、

「あー……重かった」

龍也は大きな息を一つ吐き、チーズとワインが入った木箱を地面に下ろす。

「お疲れ様です」

多少疲れている龍也に美鈴が労いの言葉を掛けると、

「ふむ……集まりを見るに、私達が最後だったみたいね」

レミリアは集まりを見て、自分達が最後であった様だと推察する。
その推察が合っていたからか、

「レミリア達も来た事だし、宴会を始めるぞー!!」

魔理沙が宴会開始の音頭を取った。
魔理沙の宴会開始の音頭を聞き、

「それじゃ、適当に動き回って見ましょうか。咲夜、美鈴。貴女達も好きに動き回っても良いわよ」

レミリアは適当に見て回ると言いながら咲夜と美鈴に自由に動き回っても良いと言う許可を出し、宴会会場の中心部の方へと向って行く。
レミリアから自由行動の許可を与えられた咲夜と美鈴は、

「私は……そうね、私が作っていない料理の味でも見て回ろうかしら」
「私は適当に食べ歩きでもしますね」

それぞれ目的を口にし、宴会場内に繰り出して行った。
レミリア、咲夜、美鈴の三人が宴会場内へと消えて行った事により、ポツンと取り残された龍也、パチュリー、小悪魔、フランドールの四人であったが、

「それじゃ……私はお酒でも飲みながらのんびりと過ごす事にするわ」
「あ、でしたら私もお供しますね。パチュリー様」
「私も色々と回って見るね!!」

パチュリー、小悪魔、フランドールの三人も直ぐに宴会場内の中に消えて行ってしまった為、龍也は一人だけ取り残されてしまった。
一人取り残された龍也は、改めて周囲を見渡していく。
今回の宴会は桜が散り切る前に桜を楽しもうと言う名目であった筈だが宴会に参加している者は全員花見そっちのけで飲み、騒いでいる。
まぁ、この状況は十分に予想出来た事ではあるが。
皆自由にしている様なので、自分も自由に動き回るかと龍也が思い始めた時、

「よ、龍也!!」
「おう!?」

龍也の名を呼ぶ声と同時に龍也の背中に衝撃が走った。
走った衝撃から背中を叩かれたのだと龍也は考え、後ろに体を向ける。
体を向けた先には、

「魔理沙」

魔理沙の姿が目に映った。
どうやら、龍也に声を掛けて背中を叩いて来たのは魔理沙であった様だ。

「お前な、もう一寸優しく声を掛けろよ」
「ははは、悪い悪い」

声を掛けるのならもう少し優しくしろ言った龍也に、魔理沙は少しも悪びれた様子も無く悪い悪い返し、

「それにしても、タイミングが良かったぜ。今日、お前が紅魔館に泊まっててさ」

今日、龍也が紅魔館に泊まっていて良かったと口にする。
そして続ける様に、

「龍也の様に居場所が分からない奴は見付け難いからな。宴会を開いたのに誘えない事が何度もあったし」

龍也の様な存在は見付け難いと言う愚痴を零し始めた。
宴会が開かれる事を知らせるのは魔理沙が大半であるので、魔理沙がそんな愚痴を零したりするのも無理はない。
宴会開催を知らせる魔理沙の苦労を察する事は容易であったからか、

「分かった分かった。持って来たワインを注いでやるから機嫌を直せって」

龍也は魔理沙を労う様にワインを注ぐと言い、自分が持って来た木箱に目を向ける。
が、

「……あれ?」

龍也が目を向けた先には木箱は無く、代わりに白くて丸いテーブルがあった。
更にそのテーブルの上にはワイン瓶、コルクスクリュー、グラス、皿の上に乗せられたチーズに野菜スティックと言う物が見られる。

「何時の間に……」
「それをやったのは、多分咲夜よ」

何時の間にか現れていたテーブルに龍也が疑問を覚えていると、霊夢が唐突に現れてテーブルを配置をしてくれた者が誰かを教えてくれた。

「霊夢」

唐突に現れた霊夢に少し驚いている龍也を余所に、霊夢はコルクスクリューを使ってワイン瓶のコルクを取ってグラスの中にワインを注いでいく。
ワインを注ぎながら、

「宴会の前準備で咲夜がテーブルやら何やらを色々と持って来たからね。宴会が始まったから、時間を止めて色々と配置したんじゃない?」

霊夢は咲夜がテーブルなどを配置したと思われる理由を述べ、

「それにしても、ワインを飲むのも久しぶりね。レミリア達が持って来るか、紅魔館の宴会に参加する位しかワインを飲む機会が無いし」

ワインを飲むのも久しぶりだと呟き、ワイン瓶をテーブルの上に置く。
どうやら、話している間にワインをグラスに注ぎ終えた様だ。

「そう言われれば……そうだな。私も紅魔館かアリスの家位でしかワインを飲む機会が無いな」

魔理沙が霊夢の呟いた事に同意する様な事を言った時、

「貴女の場合、私にワインを飲ませる様に強請って来るだけでしょうに」

魔理沙の場合はワインを飲ませる様に強請って来るだけだと言う発言が聞こえて来た。
聞こえて来た発言に反応した龍也、霊夢、魔理沙の三人が声が聞こえて来た方に顔を向けると、アリスの姿が三人の目に映る。
今の発言をしたのはアリスであると理解したからか、

「こんばんは、アリス」

龍也はアリスに挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉に、

「ええ。こんばんは、龍也」

アリスは同じ様に挨拶の言葉を発し、

「今言った様に、貴女の場合は私の家に来てワインをくれって強請って来るだけでしょうに。序にご飯も」

改めてワイン、序にご飯もくれと強請って来るだけだろうと言う発言を行う。

「お前、パチュリーの図書館から本を持ってくだけじゃ無くてそんな事もしてるのか」
「いやー……家で研究してる時って偶にご飯を作るのが面倒臭くなる事があってさ。そう言う時は一番近いアリスの家を利用させて貰ってるんだ」

龍也の突っ込みに魔理沙がご飯を作るのが面倒な時に利用させて貰っているのだと返す。
すると、

「利用させて貰ってるって……殆ど無許可ででしょうに……」

アリスは無許可でだろうにと言いながら溜息を一つ吐く。
溜息を吐いたアリスを見て、

「何だよ、その溜息は。偶に食用の茸をお前に上げてるだろ」

魔理沙は偶に食用の茸を上げているだろうと口にする。

「……まぁ、貴女がくれる茸は美味しいからね。色んな料理のアクセントにもメインにも使えるから確かに私にとって損だけ……って事でも無いのよね」

魔理沙から貰っている食用の茸は美味しいから自分にとって損だけと言う訳では無いのを理解しているからか、アリスはこの話を打ち切り、

「それはそうと、霊夢のグラスに注がれているワインは紅魔館の物よね?」

話を変えるかの様に霊夢のグラスに注がれているワインは紅魔館の物かと問う。

「ああ、そうだ」
「やっぱり。あそこのワイン、美味しいのよね。それに、あのメイド長の能力で紅魔館には年代物のワインも沢山存在しているし」

龍也がワインは紅魔館の物である事を肯定すると、アリスは少し嬉しそうな表情を浮かべながら霊夢がコルクを取ったワイン瓶を手に取る。
ワイン瓶の重さから、

「……うん、まだまだ残ってるわね」

ワインが十分に残っている事をアリスは感じ取り、アリスは適当なグラスにワインを注ぎ始めた。
少し嬉しそうな表情でワインを注いでいるアリスを見て、

「アリスはワインが好きなのか?」

龍也はワインが好きなのかと聞く。
聞かれた事に、

「そうね……お酒も好きだけど、ワインの方が私の好みね」

アリスは酒と比べたらワインの方が好きだと答え、グラスの中がワインで満たされたタイミングでワイン瓶をテーブルの上に置いた。
霊夢とアリスのグラスがワインで満たされているからか、

「……と、そう言えば私にワインを注いでくれる約束だったな。早く淹れてくれよ」

魔理沙はグラスを手に持ちながら龍也にワインを入れる様に急かす。

「ああ、今淹れてやるから待ってろ」

魔理沙に急かされる儘、龍也は霊夢とアリスがワインを注いだワイン瓶を手に取って魔理沙のグラスにワインを注いでいく。
魔理沙のグラスがワインで満たされると、龍也は近くにあったグラスにワインを注ぎ始めた。
龍也がワインを注いだグラスがワインで満たされると、龍也はワイン瓶をテーブルの置いてワインが満たされたグラスを手に取る。
そして、

「「「「乾杯」」」」

龍也、霊夢、魔理沙、アリスの四人はグラスを合わせてワインを飲み、

「お、美味いな」
「確かに美味しいわね。でも、私はお酒の方が好みね」
「だな。美味いけど私もワインよりも酒の方が好きだな」
「私はさっきも言った様にお酒よりもワイン方が好みだけどね。それにしても、やっぱりこのワインは結構な年代物だった様ね」

口々にワインに対する感想を言い合う。
と言っても、霊夢、魔理沙、アリスの三人は酒とワインのどっちが自分の好みかと言う主張が強かったが。
兎も角、龍也達は飲み食いをしながら雑談を繰り広げていく。
アルコールが入り、宴会と言う場である事もあってか他愛無い話題であっても大いに盛り上がっていった。
それから幾らか時間が経つと、テーブルの上に乗っていた飲食物が無くなってしまう。
話の肴になる物が無くなったからか、龍也、霊夢、魔理沙、アリスの四人は別れてそれぞれ気の向く儘に宴会場内を回って行く事にした。
霊夢、魔理沙、アリスの三人と別れた龍也が適当に食べ歩きでもし様かと考えた時、

「……ん?」

龍也の耳に音楽が入り始める。
音楽の音に反応した龍也は足を止め、音楽が聞こえて来ている方向に顔を動かす。
顔を動かした先には、プリズムリバー三姉妹が演奏をしている光景が目に映った。

「あいつ等も来てたのか……」

プリズムリバー三姉妹が来ている事に龍也は少し驚きつつも、プリズムリバー三姉妹の演奏に耳を傾けていく。
龍也が食べ歩きの事を暫し忘れ、プリズムリバー三姉妹の演奏に聴き惚れていると、

「はぁい、楽しんでる?」

龍也の目の前に八雲紫が振って来た。
正確に言うと、隙間から上半身を出しているだけだが。
とは言え、何の前触れも無く行き成り現れたので、

「うわあ!?」

龍也は驚きの表情を浮かべ、踏鞴を踏む様に後ろに下がってしまう。
龍也の反応を見て、

「酷いわ、そんなに驚いて。全く、私の様な絶世の美女相手に失礼しちゃうわ」

紫は不満だと言う雰囲気を見せながら隙間から全身を出し、体を回転させて優雅な動作で地に足を着けた。
自分で自分の事を美女と評した紫に龍也は呆れつつ、

「驚いて欲しく無かったら普通に現れろよ」

驚いて欲しく無かったら普通に現れろよと言う突っ込みを入れる。
しかし、

「一寸したお茶目じゃない。女のお茶目を優しく受け止めるのも良い男に求められる条件の一つよ」

紫は龍也の突っ込みを華麗に受け流し、可愛らしくそんな事を言い出した。
紫の表情を見て、何を言っても無駄だと悟り、

「……はぁ」

龍也は溜息を一つ吐く。
龍也が溜息を吐いたからか、

「あら、私の様な良い女を前にしているのに溜息を吐く何て失礼な男ね」

紫は不満気な表情を浮かべる。
が、直ぐに真剣な表情になり、

「……実はね、貴方に言わなければならない事があるの」

龍也に言わなければならない事があると口にした。
紫が急に真剣な表情になった事で龍也も釣られて真剣な表情になり、

「何だよ、言わなければならない事って?」

言わなければならない事とは何だと尋ねる。
尋ねられた事に対する答えと言わんばかりに、

「あれを見なさい」

紫はある場所に扇子を差す。
紫が扇子を差した場所には皆が宴会を楽しんでいる様子が見られるが、別に何か異常が見られると言う訳では無い。
だからか、龍也は良く分からないと言う表情を浮かべてしまう。
龍也が何の反応も示さなかったからか、

「気付かないの? ここに居るのは貴方を除けば皆女。つまり、これって貴方のハーレムじゃない」

今現在の状況は龍也のハーレム状態であると言う指摘を行った。
紫の指摘を聞き、

「……おい」

龍也は思いっ切り呆れた表情に成りながら気の抜けた声を漏らす。
真面目に話を聞こうとしたらこれなのだから、呆れた表情になるのも無理はないだろう。
龍也が呆れて物を言わないでいるのを良い事に、

「皆綺麗所だものねぇー。ここはお酒の力を使って一夏の過ちならぬ、一春の過ちを狙ってみるのも良いんじゃない?」

紫は龍也をからかう様な事を言い始める。
それを少々真に受けてしまったからか、

「んな……」

龍也は顔を少し赤く染めてしまう。
龍也の反応を見て、

「あらあら、意識したら恥ずかしくなっちゃったかしら? それとも、何かいけない事でも考えちゃったのかしら?」

紫はからかい甲斐のある玩具を見付けた言わんばかりの表情で龍也をからかい始める。
この儘変に狼狽えてしまえば余計にからかう口実を紫に与えてしまう為、

「……あんた、何時ぞやの時に霊夢、魔理沙、咲夜の三人を嗾けてボロボロにした事まだ恨んでるのか?」

龍也は極めて冷静と言う雰囲気を装って以前、霊夢、魔理沙、咲夜の三人を嗾けてボロボロにした事を根に持っているのかと言う事を紫に聞く。
聞かれた紫は、

「さて、どうかしら……ね」

扇子で口元を隠しながら自分の足元に隙間を開き、

「何にせよ、周りが可愛い女の子ばかりと言うこの状況をもっと楽しみなさいな。アルコールが入っている今なら、多少の事は笑って済ませられるわよ」

余計な発言を残して隙間の中に消え、隙間を閉じた。
紫が去り、再びプリズムリバー三姉妹の演奏が耳に入り始めると、

「はぁ……何か疲れた」

龍也は疲れを吐き出すかの様に息を一つ吐く。
何で宴会で疲れなければならないんだと言う想いを抱きつつ、龍也は再び宴会場内を見て回る為に足を進め始めた。
歩いて行く中で、龍也は木製の串に刺さった団子を見付ける。

「……そうだな、あれを食うか」

龍也は気分転換の意味合いも籠めて団子を食べる事を決め、見付けた団子が在る方へと向かって行く。
そして、団子に手を伸ばした時、

「やぁ、龍也」

龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自分の名を呼ぶ声に反応した龍也は手を伸ばすの止めて声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「藍……」

藍が居た。
どうやら、龍也に声を掛けて来た者は藍であった様だ。
声を掛けた藍は龍也が妙に疲れた表情を見て、

「妙に疲れた顔をしているが、どうしたんだい?」

どうかしたのかと問う。
問われた龍也は、

「ああ、あんたの主に一寸な……」

疲れる原因となった者が誰かを藍に教える。
龍也の台詞で全てを理解した藍は、

「紫様が迷惑を掛けた様で、真に申し訳無い」

謝罪の言葉と共に頭を下げた。

「いや、別に良いって。酒の席何だし、気にしてないからさ」
「そう言って貰えると、助かるよ」

龍也の声色から本当に気にしていない事を感じ取ったからか、藍はホッとした表情を浮かべながら顔を上げ、

「お詫び……と言う訳ではないが、迷惑でなければ私が酒を注ごうか?」

迷惑でなければ自分が酒を注ごうかと言って龍也に酒瓶と杯を見せる。
先程までワインばかりを飲んでいたからか、それとも酒が恋しくなっていたからか、

「あ、じゃあ頼むよ」

龍也は藍の提案をすんなりと受け入れた。
なので、

「ああ、任された」

藍は龍也に杯を手渡し、龍也の杯に酒を注いでいく。
杯が酒で満たされた辺りで藍は酒を注ぐのを止め、龍也は注がれた酒を一口飲み、

「……美味いな」

美味いと言う感想を漏らす。
龍也から美味いと言う感想が聞けたからか、

「それは良かった」

藍は良かったと口にし、ある方向に視線を向ける。
藍が視線を向けた先には橙、ルーミア、チルノ、大妖精、フランドールの五人が楽しそうに会話している様子が見られた。
その様子を見て、

「橙にも友達が出来た様で良かったよ」

藍は橙にも友達が出来た様で良かったと口にする。

「何だ、あいつって友達が居なかったのか?」
「んー……橙がマヨヒガに居る猫達を式神にし様と奮闘している様子は多々見る事はあるが、誰かと一緒に遊んでいる所は見た事が無いな。まぁ、橙が
友達と遊んでいる所を私が見た事が無いだけかもしれないが」

龍也から尋ねられた事に藍はそう返し、

「それはそうと、噂と言うものは当てにはならないものだな」

フランドールの事を見ながら、噂と言うものは当てにならないなと呟く。
噂と言うのは、フランドールが不安定であったと言う事であろうか。
それ以外に噂と言うのが思い浮かばなかったので、

「噂って言うのは、フランドールの事か?」

龍也は確認を取る様にフランドールの事かと聞く。
聞かれた事を、

「ああ、噂では相当な危険人物と聞いていたのだが……」

藍は肯定し、噂の内容を龍也に教え、

「楽しそうに話している様子を見るに、所詮噂は只の噂だったと思えるよ」

噂は所詮只の噂でしかなかったと言う言葉で締め括った。
同時に、

「ん? あれは……」

藍は何かを見付けた表情を浮かべ、橙達が居る場所とは別の方向に顔を向ける。
藍が何を見付けたのか気になった龍也は、藍が見ている方向に視線を移す。
視線を移した先には、紫が先程の龍也の時の様に霊夢をからかっている様子が見て取れた。
紫が霊夢をからかっている様子を見て、

「……今は酒の席で多少の事は笑って済ませられるとは言え、限度と言うものが在る。紫様もその事は承知している筈……だが……しかし……」

藍は思案気な表情を浮かべながらブツブツと何かを呟き始める。
そして、

「……私は紫様の所に行くので、これで失礼するよ」

藍は龍也に一声掛け、紫の元へと向かって行った。
紫の元へ向って行く藍を見て、

「……苦労してるんだな、あいつ」

龍也は苦労してるんだなと漏らし、再び酒を飲んでいく。
杯の中に満たされていた酒が無くなると、

「……あ、そう言えば余り桜を見てはいないな」

龍也は今まで食う、飲む、騒ぐと言った事ばかりで桜を余り見ていない事を思い出す。
序に、今回の宴会のメインは花見があった事も。
若干今更感が在るが、桜をじっくり見ないのも損だと龍也は考え、

「……よし、暫らくは桜を見ながらのんびりするか」

桜を見ながらのんびりする事を決める。
とは言え、何も持たずに花見と洒落込むと言うのも少々無粋だ。
なので、龍也は近くに在った串団子が乗った皿を手に持っている杯を交換する形で手に取る。
串団子が乗った皿を手に取った後、近くに在る桜の方へと向かう。
桜の前に着くと龍也は桜に背中を預ける様にしながら腰を落ち着かせ、団子を食べながら今居る場所から見える桜を鑑賞していく。
龍也が馬鹿騒ぎよりも桜の鑑賞に比重を置き始めてから幾らか時間が経った時、

「楽しんでる? 龍也」
「こんばんは、龍也さん」

幽々子と妖夢の二人が龍也の近くにやって来た。
二人の接近に気付いた龍也は桜から幽々子と妖夢の方に視線を移し、

「よぉ、二人共」

挨拶の言葉を掛ける。
その瞬間、

「あ、龍也さん。今食べてるお団子、美味しいですか?」

妖夢が何かに気付いた表情を浮かべ、団子の味を問うて来た。

「ん? この団子か? 普通に美味いぞ」
「それは良かったです。そのお団子、私が作ったんですよ」

団子の味は美味しいと言う感想を龍也が言うと、妖夢は嬉しそうな表情を浮かべながら龍也が食べている団子は自分が作った物だと口にする。
自分が食べている団子は妖夢が作った物である事を知り、龍也は理解した。
何故、妖夢が自分に団子の味を問うて来たのかを。
自分が作った食べ物を自分の知人が食べているのだ。
味の感想の一つや二つ、聞きたくもなるだろう。

「えへへ……」

龍也から団子の味を褒められて嬉しそうな表情をしている妖夢を見て、幽々子は何かを思い付いた表情を浮かべ、

「ああん、少し酔っちゃった」

少々演技掛かった動作で龍也に倒れる様な形で抱き付いた。
急に龍也に抱き付いた幽々子を見て、

「ゆ、幽々子様!?」

妖夢は顔を真っ赤に染め、慌て始める。
が、そんな妖夢とは対照的に、

「で、何をやってるんだ?」

龍也は冷静な表情で何の用かと尋ねた。

「あら、冷たい反応。妖夢位の反応がないとつまらないじゃないの」

龍也の反応が自分の考えていたものと違ったからか、幽々子は少し不満気な態度を見せる。
どうやら、幽々子は慌てふためく龍也と妖夢をからかう積りであった様だ。
幽々子の不満気な視線を感じながら、

「そう何度も同じ手を喰うか」

この程度の事では動じないと言う態度を龍也は示す。
今の龍也の反応から少し抱き付いた程度でが意味が無い事を悟った幽々子は、

「あら、それは残念」

残念と言いながら龍也から少し離れ、着ている着物を着崩し始めた。
着物が着崩され、幽々子の色々な部分の肌が露になり始めた辺りで、

「おまっ!? 何やってるんだ!?」

龍也は顔を赤くしながら驚きの声を上げる。
まぁ、龍也も男であるのでこの反応はある意味当然だろう。

「ふむふむ、何の前振りもなく肌を見せる様な事をすれば狼狽える……と」
「……はっ」

今の自分の反応で幽々子に余計な情報を与えてしまった事に気付いた龍也は何か弁明の様な発言を行おうとしたが、

「真っ赤な顔しながら狼狽えていても、見る所は確りと見ていわね。男の子だけあって、助平ねぇ」

見る所は確りと見ていたと助平と言われ、押し黙ってしまった。
正確に言うと見たのでは無く見せられたのだが、視線を外すと言った事を龍也はしなかったので助平と言う発言に反論する事は出来なかった。
しかし、それでも何とか反論し様と龍也は頭を回転させていく。
だが、

「えい」

幽々子が再び龍也に抱き付き、体を密着させて来たので、

「ちょ!? おま!?」

龍也は面白い位に動揺し、頭の回転が思いっ切り鈍くなってしまう。
同時に自身の胸元に柔らかい感触が在る事を感じ取った事で、龍也の頭の回転は更に鈍くなってしまった。

「あら? 何を焦っているのかしら?」

龍也の反応を面白がってか、幽々子は更に体を密着させて来る。

「だ、おま!! あ、当たってる!! 当たってる!!」

更に体を密着された事で龍也は焦りながら当たっていると伝えたが、

「ふふ、確かこう言う時は……当ててるのよって言うのよね?」

それは意味を成さなかった。
これだけのやり取りで自分一人ではどうにもならないと判断した龍也は、助けを求めるかの様に妖夢の方に顔を動かす。
顔を動かした先に居る妖夢は、

「は、はわわわわ……」

顔を真っ赤にしながら、両目を両手で覆っていた。
但し、覆っている指と指の間は思いっ切り開いているが。
顔を赤くし、動揺していても龍也と幽々子の様子が気になっている様だ。
妖夢の様子がどうであれ、今この場で助けてくれそうな者は妖夢しか存在しない。
なので、龍也は妖夢を正気に戻す為に何か言葉を掛け様としたが、

「ねぇ……龍也」

その前に幽々子が潤んだ瞳で龍也を見上げて来た為、龍也は何かを言う事が出来なくなってしまった。

「お、おま……」

酒を飲んでいたからか、幽々子の頬は少々紅く染まっており中々に色っぽい。
ここまで来たらもう冷静さを保ってはいられなくなり、

「ちょ、な、おま、あの……」

龍也も顔を真っ赤にしながらパクパクと何かを口にする事しか出来なくなってしまう。
龍也が殆ど冷静な対応が出来なくなったのを良い事に幽々子は龍也の頬に右手を当て、自身の顔を龍也の顔に近づけていく。
顔と顔が近付いていく龍也と幽々子の二人を、

「はわ、はわ、はわわわわ……」

妖夢は顔を真っ赤にしながら見続ける事しか出来なかった。
そして、龍也の唇と幽々子の唇が触れ合おうとした時、

「もーらい」

幽々子は左手で龍也が右手に持っている串団子を取り、龍也から少し距離を取る。

「え? あ? う……あれ?」

顔を真っ赤にした儘何が起こったのか分からないと言った表情を龍也が浮かべ始めると、

「ふふ……気を付けなさい、龍也。貴方は幻想郷中を自分自身の足で歩き、旅をしている。貴方の実力なら旅の道中で襲い掛かって来る有象無象の妖怪程度
なら楽に撃退する事が出来るでしょう。けど、中には今の様に色仕掛け……つまりは女の武器を全面に出して襲い掛かって来る者も居る事でしょう。もし、
私が貴方を殺す気だったら……貴方はもう死んでいたわよ」

幽々子は忠告とも言える言葉を残し、龍也から完全に離れて着崩れた着物を直す。
幽々子が着崩れていた着物を完全に直しても、

「え? あれ? うん?」

龍也は未だ何が起きたのか分からないと言った表情を浮かべていた。
だからか、

「あら、若しかして……期待していたのかしら?」

幽々子は先程の時と同じ様にからかいの言葉を掛ける。
幽々子の言葉が耳に入り、理解した事で、

「……な!? だ、誰が!?」

龍也は我を取り戻したかの様に声を荒げた。
どうやら、今の言葉である程度の冷静さを取り戻した様だ。
それを見届けた幽々子は、

「ふふ、今の経験を活かして次からは気を付けなさい」

次からは色仕掛けに気を付ける様に言って立ち上がり、顔が真っ赤な儘の妖夢を連れて宴会場の中心部へと向かって行った。
去って行く幽々子と妖夢の後姿が見えなくなった辺りで、

「俺の事を……心配……してくれたのか……?」

龍也はポツリと自分の事を心配してくれたのかと呟いたが、

「……いや、取り敢えず最後に真面目な事を言ってからかいの部分を有耶無耶にしたって言う可能性があるな」

直ぐに別の可能性が浮上し始める。
ともあれ、幽々子の忠告は真面目に受け取って置くべきであろう。
事実、今さっきの龍也は幽々子の色香に惑わされて何も出来なかったのだから。
先の事を思い返したのと同時に、

「ッ!!」

龍也は自分の心臓の鼓動が激しい事に気付き、誰かに見られている訳でも無いのに誤魔化すかの様に残っている串団子を急いで食べていく。
串団子を食べていると龍也の心臓の鼓動は落ち着き始め、全ての串団子を食べ切る頃には龍也の心臓の鼓動は平時と変わらないものとなっていた。
完全に落ち着きを取り戻した龍也は、

「……俺もあっちの方に戻るかな」

賑わっている場所に戻ろうと考え、立ち上がる。
その瞬間、

「久しぶりね、龍也」

龍也の真正面に傘を差した風見幽香が現れた。

「幽香……」

突然現れた幽香を見て龍也は何処か間の抜けた表情を浮かべつつも幻想郷で旅を始めて以来、幽香と会っていない事を思い出し、

「……確かに、久しぶりだな」

確かに久し振りだなと返す。

「どうしたの? 鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして」
「あ、ああ。そうだな」

幽香に間の抜けた顔をしている事を指摘された龍也は表情を戻し、

「幽香も宴会に参加しに来たのか?」

幽香も宴会に参加しに来たのかと尋ねる。

「私は博麗神社の桜が散り切る前に桜を見に来たのだけど……まぁ、この状況だからね。宴会に参加しに来た言われても否定する気は無いわ」

尋ねられた事に幽香は一応の肯定をしながら桜に視線を向け、

「見事なものよね。ここの桜は」

見事な桜であると言う感想を漏らす。

「ああ、そうだな」

幽香の感想に龍也は同意を示し、龍也は幽香と一緒に桜の鑑賞をしていく。
龍也と幽香が一緒に桜の鑑賞を始めてから幾らの時間が経つと、幽香は視線を桜から龍也に変える。
幽香の視線が自分の方に向いている事に気付いた龍也は、

「……ん? どうかしたのか?」

幽香の方に方に顔を向け、どうかしたのかと聞く。
どうかしたのかと聞かれた幽香は、

「暫らく会わない間に随分と強くなったと思ってね」

暫らく会わない間に随分と強くなっと言いながら差している傘を畳み、畳んだ傘を龍也へと振るう。

「ッ!!」

傘が振るわれた事に反応した龍也は、振るわれた傘の軌道上に腕を持っていって傘を受け止める。
激突音と共に腕から伝わって来る強い衝撃を感じながら、

「……何するんだよ」

龍也は行き成り攻撃を仕掛けて来た幽香に文句を言葉を口にした。
龍也の文句を幽香は笑顔で聞き流しながら振るった傘を退け、

「ふふ、一寸貴方にあれからどれだけ強くなったかを自覚させ様と思ってね」

行き成り攻撃を仕掛けたのは龍也に自分と最後に会ってからどれだけ強くなったかを自覚させる為だと言い、

「私と最後に会った時の貴方なら、今の一撃に反応する事も出来なかったでしょう。仮に受けられたとしても、腕の骨は確実に折れていたでしょうね。
けど、今の貴方はその一撃を苦も無く受け止めた。これが、あの時の貴方と今の貴方の差よ。十分に理解出来たでしょ」

自分と最後に会った時の龍也と今の龍也の強さの違いを話す。

「……確かに、今と昔の自分の強さの違い何てこうやって指摘されなきゃ分からなかったけどさ。行き成り攻撃するのはやっぱり無いんじゃないのか?」
「あら、それはごめんなさい」

理由を聞いてもまだ何処か納得しないと言った感じの龍也に幽香は軽い謝罪を行い、思う。
龍也は自分の予想を上回るスピードで強くなっていると。
予想を上回るスピードで龍也が強くなった要因に、幽香は今回の異常に長かった冬が関係していると考えている。
以上に長かった冬。
幽香はそれが異変であり、異変解決に龍也が一役担っていると考えている。
冬が長かった事で冬の花を長く見られた反面、春の花を長く見る事は出来ない。
今回の異変は幽香に取ってかなり複雑なものであったが、異変が起きたお陰で龍也はより強くなった。
自分の予想を上回る速度で。
なので、今回のこの冬が異様に長いと言う異変に対する蟠りなどは幽香に残る事は無かった。
だが、蟠りが残らなかった代わりにまだまだ足りないと言う想いを幽香は抱いてしまう。
確かに、龍也は強くなった。
だが、強くなったと言っても幽香と対等以上に戦える強さは持ってはいない。
今の龍也が幽香と戦った場合、龍也は幽香に本気を出させる事も出来ずに圧倒的な敗北を迎えるだろう。
しかし、それは今の龍也が戦った場合だ。
龍也は何れ自分と対等以上の強さを身に付けると言う確信を、幽香は得ている。
龍也が自分と対等以上の強さを手にした時。
その時こそ自分と龍也が戦う時であると幽香は思っている。
尤も、龍也がそれだけの強さ身に付けるにはまだまだ時間が掛かりそうではあるが。
それでも、幽香の予想よりも早くに龍也は幽香と対等以上の強さを身に付ける事だろう。
だからか、

「ふふ……」

幽香は柔らかい笑みを浮かべた。

「ん? どうかしたか?」
「ううん、何でも無いわ」

どうかしたのかと問うて来た龍也に幽香は何でも無いと返し、

「さっきのお詫び代わりに、お酒を注いで上げるわ」

攻撃を仕掛けたお詫びに酒を注ぐと言いながら酒瓶と二つの杯を取り出し、取り出した杯の一つを龍也に渡す。
そして龍也と自分の杯に酒を注ぎ終えた後、幽香は自分の杯を少し前方に突き出した。
突き出された杯を見て、幽香が何をしたいのか察した龍也は持っている杯を突き出し、

「「乾杯」」

杯を合わせ、酒を飲む。

「……美味いな」
「それはそうでしょう。良いお酒何だから」

酒を飲んだ龍也が美味いと言う感想を漏らすと、幽香は良い酒なのだから美味しくて当然だと言いながら酒に口を付け、

「ふふ、夜桜を見ながら酒を飲むのも良いものね」

夜桜を見ながら酒を飲むのも良いものだと呟く。

「そうだな」

幽香の呟きに龍也は同意し、再び酒を飲む。
幽香と一緒に酒を飲みながら夜桜を見始めてから幾らか時間が経つと、龍也の中で先程の行き成り攻撃された事などどうでも良い事になっていた。
まぁ、何時までも根に持っていたら宴会の場が白けてしまうだろう。
と言う事もあるからか、龍也は先程の一件は完全に忘れて幽香と一緒に酒を飲みながら夜桜の鑑賞を楽しむ事にする。
それからまた幾らかの時間が経つと、

「おーい!! 龍也ー!!」

誰かが龍也の名を呼んで来た。
自分の名が呼ばれた事に反応した龍也は声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「魔理沙」

龍也に近付いて来ている魔理沙の姿があった。
他に誰の姿も見られない事から、龍也に声に掛けて来たのは魔理沙で間違い無いだろう。
近付いて来ている魔理沙が龍也の前まで来た時、

「これから酒飲み大会が始まるだが、龍也も参加しないか?」

魔理沙はこれから始まる酒飲み大会に参加しないかと尋ねて来た。
酒飲み大会の事を聞き、

「あら、なら私も参加し様かしら」

幽香は酒飲み大会に参加する意思を示す。
幽香の参加表明を聞き、

「何だ、幽香も来てたのか」

魔理沙は少し驚いた表情を浮かべる。

「ええ、ここの桜が散り切る前に見て置こうと思ってね。来たのはついさっきね」
「成程、タイミングが良かったんだな」

幽香が何時この宴会場に来たのかを知った魔理沙はタイミングは良かったと口にし、

「お前も龍也と一緒で幻想郷中を回っているから中々捕まらないからな。宴会を開いても誘えない事が多いし。まぁ、夏の間は太陽の畑に居る事が非常に
多いから龍也よりはマシだがな」

幽香も龍也と同じで中々見付からない事に付いての愚痴を零す。
だが、こんな愚痴は宴会の場には相応しく無いと直ぐに気付いて表情を戻し、

「幽香は参加な。龍也はどうする?」

龍也に酒飲み大会に参加するかどうかを改めて尋ねる。

「ああ、俺も参加する」
「りょーかい」

龍也の酒飲み大会への参加表明を聞いた魔理沙はある方向に指を差し、

「あそこで酒飲み大会をやるから先に行って待っててくれ。私は他の連中にも声を掛けて来るからさ」

指を差した先で酒飲み大会をやる事と他の参加者を集めて来ると言い残し、別の場所へと向かう。
別の場所へと向かって行った魔理沙を見送った後、

「それじゃ、行きましょうか」
「そうだな」

幽香と龍也は酒飲み大会が始まる場所へと足を進めて行った。





















翌日。
案の定と言うべきか、酒飲み大会に参加した者は全員二日酔いに悩まされる事となった。
宴会が終わった後にそれぞれ家に帰った者はまだ良かったが、博麗神社に泊まった龍也は痛む頭に耐えながら宴会の後片付けをする事となったのだ。
何時もならそれが終われば直ぐに旅を再開する龍也であったが、流石に痛む頭で旅を再開する気にはなれなかった。
なので、二日酔いが治るまで博麗神社に泊まる期間を延長する事となる。
そして、二日酔いが治ると、

「それじゃ、またな」
「ええ、またね」

龍也は霊夢と軽い挨拶を交わし、旅を再開した。























前話へ                                           戻る                                             次話へ