何時もの様に幻想郷中を歩いて旅している龍也は、

「もう、完全に夏だな」

感じる気温から、季節が春から夏に変わった事を感じ取る。

「前の異変のせいで春が短かったから、夏が急ぎ足で来たって感じだな」

急ぎ足で夏が来たと言う感想を漏らしつつ、龍也は周囲に見える木々を楽しみながら足を進めて行く。
木々が見えている事から、今現在の龍也は森や林と言った様な場所に居る様だ。
木々は在れど道は整備されていないので少々歩き難いと言った感じではあるが、龍也は何の不自由も無く足を進めていた。
幻想郷をその身一つで旅していると言うだけあって、龍也に取って多少の道の悪さは何の障害にもならない様だ。
そんな感じで足を進めてから幾らか時間が経つと、

「……ん?」

龍也は何かを発見する。
龍也が発見したものと言うのは石段。
それに見覚えがあったからか、龍也は一旦止まって周囲を見渡す。
周囲を見渡した結果、折れた案内板の様な物が見えたので、

「……ああ、そっか。何時の間にか博麗神社の近くにまで来ていたのか」

龍也は博麗神社の近くにまで来ていた事を理解する。

「と言っても、ついこの前に博麗神社で宴会をしたばっかりだからな。余り久し振り……って感じでもないか」

ついこの前に博麗神社で宴会をしたばかりなので、余り久し振りでも無いと言う感想を龍也は呟くも、

「……あ、でも最近は博麗神社に行く時は空からだったからな。ここの景色を見るのは結構久し振りになるか」

直ぐにここ最近、博麗神社に行く時は空中からであった事を思い出す。
だからか、龍也は急にこの石段を上りたくなり、

「……よし、折角だし博麗神社に寄って行くか」

この石段を上って博麗神社に行く事を決め、足を前に出して石段を上り始めた。





















龍也が石段を上り始めて暫らく経った頃。
龍也は博麗神社まで後半分と言った所にまで来ていた。

「んー……後もう一息だな」

周囲の景色を見ながら龍也が後もう一息と口にした時、龍也の行く手を阻む様に何体もの妖怪が現れる。
現れた妖怪の見た目はゴリラに近く、体毛は白で大きさは龍也の倍程。
現れた妖怪達を見て、

「何だか、ここを通ると良くお前等に会うが……ここ等一帯はお前達の住処なのか?」

龍也はここ等一帯がお前等の住処なのかと尋ねる。
が、妖怪達は龍也が尋ねた事に対する答えを言う事は無かった。
それ処か、妖怪達は戦意を示すかの様に雄叫びを上げ始めたではないか。
妖怪達の雄叫びを聞き、

「……やっぱりこうなるのか」

龍也は何となくこの展開は予想出来ていたと言う表情を浮かべ、構えを取る。
その瞬間、妖怪達の一体が龍也に向けて突っ込んで行く。
そして、龍也が自身の間合いに入ったのと同時に妖怪は拳を振るう。
振るわれた拳を、

「……っと」

龍也は屈む事で避け、間髪入れずに妖怪の顎に向けてアッパーカットを放つ。
放たれたアッパーカットは容易く妖怪の顎に命中し、妖怪の体を浮かび上がらせる。
浮かび上がり、一時的に無防備となった妖怪の胴体に、

「はあ!!」

龍也は正拳突きを叩き込み、妖怪を殴り飛ばす。
妖怪が殴り飛ばされた事で先ずは一体片付いたが、一息吐く間も無く龍也の背後から妖怪が襲い掛かって来た。
どうやら、現れた妖怪は龍也の行く手を阻む様に現れた者達だけでは無かった様だ。
妖怪からしたら完全に不意を突いたと思えただろうが、龍也は背後から近付いて来ている妖怪の存在に気付いていた様で、

「だりゃ!!」

焦ったり背後に振り返ると言った事をせずに背後へ蹴りを放つ。
放たれた蹴りは吸い込まれる様に龍也の背後から襲い掛かって来た妖怪に当たり、妖怪は進んでいた方向とは逆の方向に蹴り飛ばされてしまう。
前方後方と立て続けに襲い掛かって来た妖怪を撃退をした事で今度こそ一息吐けると思われたが、

「……ちっ」

また一息吐く間も無く、龍也の両サイドから妖怪が二体同時に襲い掛かって来た。
新たに襲い掛かって来た二体の妖怪は同時に拳を振り被り、龍也目掛けて拳を振るう。
自身に向けて迫って来る拳を龍也はギリギリまで引き付けて一歩後ろに下がり、振るわれた拳を避ける。
攻撃を空振った事で二体の妖怪は前のめりになる様な形で体勢を崩す。
二体に妖怪が体勢を崩したのを見た龍也は大きく一歩前に出て二体の妖怪の腕を掴み、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあ!!!!」

勢い良く体を回転させた。
すると、龍也に腕を掴まれている二体の妖怪は勢い良く振り回されていく。
龍也が振り回している妖怪の体に他の妖怪達が激突して次々と薙ぎ倒されている事から、龍也は掴んでいる二体の妖怪を武器として扱っている様だ。
回転し始めてから少しすると手応えが感じられなくなったので、龍也は掴んでいる手を離して回転を止める。
手応えが感じられない事から、龍也は攻撃範囲内に妖怪が居ないと判断した様だ。
因みに、手を離した事で龍也が腕を掴んでいた二体の妖怪は木々の中に消える様にして吹っ飛んで行った。
回転を止めた龍也は残りの妖怪達を片付ける為に構えを取り直して周囲を見渡す。
だが、

「……あれ?」

龍也の目に映ったものは戦える妖怪達ではなく地に伏した妖怪達だけであった。
地に伏している妖怪達を見るに、先の回転で全て打ち倒してしまった様だ。

「あー……」

まだ戦う気が満々であった龍也は少々拍子抜けした気分になりながらも構えを解き、

「……ふぅ」

気持ちを切り替えるかの様に一息吐いて再び博麗神社に向けて歩き出す。
歩き出し、妖怪達が倒れ伏している地帯を抜け様としたその時、

「ッ!?」

突如、龍也の足が進まなくなる。
足から伝わる感触で足首辺りを掴まれているなと思い、龍也は足元に視線を落とす。
視線を落とすと足首が掴まれているのが見て取れる。
自分の足首を掴んでいるのが誰なのかを確認する為に龍也が視線を後ろの方に動かすと、自分の足首を掴んでいるのは先程倒した妖怪の一体である事が分かった。

「くそ!! まだ意識が在ったのか!?」

龍也は悪態を吐きながら妖怪の拘束から逃れる為に体を動かすと、妖怪は口を大きく開く。
妖怪が口を開いたのを見た龍也は噛み付いて来るのではと考え、自身の力を玄武の力に変え様とする。
玄武の力に変えてしまえば例え噛み付かれたとしても、大きなダメージを受ける事は受ける事は無い。
しかし、妖怪は龍也の考えは外れと言わんばかりに口内から桜色の光を発せさせた。
桜色の光が発せられたのと同時に妖怪の口内から妖力の強まりを感じ取った龍也は、

「ッ!?」

この妖怪は至近距離でレーザーかビームを放つ気なのだと気付く。
が、気付いたと言っても拘束を抜け出さない限り何か手を打てる訳でも無い。
それは龍也にも解っている様で拘束から抜け出そうとするが、

「く……くそ!!」

思っていた以上に妖怪の力が強かったからか、龍也は拘束から中々抜け出す事が出来ないでいた。
龍也が拘束から抜け出そうとしている間にも、妖怪から感じられる妖力は高まっていく。
感じる妖力からレーザーかビームが放たれるまで然程時間が掛からないと判断した龍也は、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

霊力を解放する。
霊力を解放したお陰か、これまでの手古摺りが嘘の様に龍也は妖怪の拘束から簡単に抜け出す事が出来た。
妖怪の拘束から抜け出す事が出来た龍也が瞬時に体を反転させると、

「ッ!!」

妖力のレーザーかビームが既に放たれそうになっている事が分かった。
もはや一刻の猶予も無いからか、

「らあ!!」

龍也は己が足を勢い良く妖怪の口へと叩き込む。
同時に、妖怪の口から妖力が放たれる。
龍也の足と放たれた妖力が相手を押し切ると言わんばかり均衡し合い、

「ッ!!」

突如、妖力が爆発を起こした。
妖力が爆発を起きた事で爆発音が周囲に響き辺り、爆風が吹き荒れる。
吹き荒れる爆風を龍也は腕で遮りながら、周囲の様子を探る為に目を動かす。
目を動かしていくと地に伏している妖怪達の中に一体だけ、頭部の無い妖怪が居るのを発見した。
おそらく、この妖怪が龍也を拘束して妖力による攻撃を放とうとした妖怪だろう。
頭部が無い事から、今度は気絶ではなく死んでいる事が分かる。

「ふぅ……油断大敵だな」

龍也は一息吐きながら油断大敵と漏らしながら霊力の解放を止め、もう一度周囲を見渡す。
先の妖怪の事を考えるに、地に伏している妖怪の大多数が生きていると予想出来る。
後顧の憂えを断つ為にも、確りと止め刺すべきだろう。
そう考え、龍也は一番近くに倒れ伏している妖怪に近付こうとしたが、

「……止めた」

唐突に止めたと言って体の向きを博麗神社に向けた。
龍也が急に止めを刺す事を中止した理由は勿論在る。
理由と言うのは単純に、戦えなくなった相手に攻撃を加えると言う行為に抵抗を覚えているからだ。
甘いと言われそうな事ではあるが、それでも龍也は望まない事を進んで行う気にはなれなかった。
だからか、

「……ま、甘くても良いさ」

甘くても良いと口にしつつ、龍也は再び博麗神社へ向けて足を進めて行く。





















博麗神社の鳥居が見え始めると、

「到着……っと」

龍也は到着と口にしながら歩くスピードを上げて鳥居を潜り、賽銭箱が置いて在る場所へと向って行く。
そして、賽銭箱の前に着くと龍也はポケットの中から財布を取り出す。
取り出した財布の中に在る小銭を幾らか摘まみ、摘まんだ小銭を賽銭箱の中へと放り込む。
その数瞬後、

「いらっしゃい、龍也」

霊夢が満面の笑顔で龍也に出迎えの言葉を掛けた。
どうやら、龍也が賽銭箱に小銭を入れたのを見ていた様だ。

「それはそうと、この前の宴会振りね」

この前の宴会振りと言って来た霊夢に、

「ああ、そうだな」

龍也はそうだなと返しながら霊夢に近付いて行く。
龍也と霊夢の距離がある程度近付いた辺りで、

「あ、そうそう。近々宴会を開く予定だから、暫らくは見付け易い場所に居てね」

霊夢は思い出したかの様に近々宴会を開く予定だから暫らくは見付け易い場所に居る様に言う。

「ついこの前、宴会を開いたって言うのにまた宴会を開くのか?」
「ええ、そうよ。何か、また宴会を開きたい気分になったのよ」
「ふーん……」

こう立て続けに宴会を開くと言うのは珍しいが、龍也は別に宴会に参加する事に不満は無いので、

「分かった。ここ暫らくは見付け易い場所に居るよ」

龍也はここ暫らくは見付け易い場所に居る事を決める。

「お願いね」

念を押す様に見付け安い場所に居る様に口にし、

「折角お賽銭を入れてくれた事だし、お茶を淹れて来て上げるわ」

お茶を淹れると言いながら霊夢は神社の方に体を向けた。

「その言い方だと、賽銭を入れなかったら茶が出なかったって聞こえるな」
「失礼ね。白湯位なら出して上げたかもしれないわよ」
「白湯って……只のお湯じゃねーか」
「冷水じゃないんだから、私の優しさが溢れ出てるじゃない」
「あー……はいはい、そうですね」

そんな会話を交わしながら、龍也と霊夢は神社の方へと足を進めて玄関から神社の中へと入った瞬間、

「あ、今から御茶っ葉を取って来るか先に居間で待ってて」

霊夢は御茶っ葉を取って来るから先に居間で待っていてと言う言葉を龍也に言い残し、何処かへと向かって行った。
何処かへと向かって行った霊夢を見送った後、龍也は霊夢に言われた通りに居間へと向かう。
居間に着くと、龍也は卓袱台の前に腰を落ち着かせてボケーッとした表情でお茶が出来るのを待つ。
それから少しすると、

「お待たせ」

お盆を持った霊夢が龍也に声を掛けて来た。
声を掛けられた龍也が霊夢の方に顔を向けると、お盆を持っている霊夢の姿が龍也の目に映る。
お盆の上に乗せられている湯飲みが二つ在る事から、霊夢は龍也の分だけでは無く自分の分の茶も用意して来た様だ。
龍也に声を掛けた霊夢はその儘卓袱台の前まで移動して腰を落ち着かせ、卓袱台の上に持っていたお盆を置き、

「はい」

湯飲みの一つを龍也へと渡す。

「ありがと」

龍也は礼の言葉を口にしながら渡された湯飲みを受け取り、茶を啜る。

「……相変わらず美味いな。霊夢が淹れる茶は」
「そ。ありがと」

龍也が茶に対する感想を述べると、霊夢は少々素っ気無い礼を返しながら龍也と同じ様に茶を啜り始めた。

「……うん。今日も美味しく淹れられたわね」

自分が淹れた茶の味に満足したと言った感想を漏らした時、

「あ、そうだ。近々宴会を開くって話だけど、もうその事は他の皆に伝えたのか?」

龍也は霊夢に思い出したかの様に宴会の開催は他の皆に伝えたのかと問う。
問われた事に対する答えの様に、

「それは大丈夫。龍也が来る少し前に魔理沙が来たからね」

霊夢は龍也が来る少し前に魔理沙が博麗神社にやって来たと言う話題を出す。
自分が来る少し前に魔理沙が博麗神社にやって来ていた事を知り、

「成程。それなら大丈夫だな」

龍也は何の心配も要らないと悟った。
何故ならば、魔理沙が現在進行形で宴会開催の情報を至る所で知らせている姿を容易に想像する事が出来たからだ。
そんな魔理沙の姿を想像したからか、

「……そうだ。俺が会えたら俺から言うけど、会えなかったら霊夢から魔理沙に俺は宴会に参加するって事を伝えといてくれ」

龍也は霊夢に自分が会えなかったら魔理沙に自分が宴会に参加する旨を伝えてくれと頼む。

「別に良いけど……何だったら、宴会が始まるまで泊まってく?」

龍也の頼みを霊夢は受け入れつつ、どうせなら宴会が始まるまで博麗神社に泊まっていくかと言う提案をする。

「良いのか?」
「ええ、構わないわ。その代わり、泊まっている間は色々と雑用をして貰うけど」
「……お前、それが目的で俺に泊まる様に言って来ただろ」
「最近、暑くなって来たからね。掃き掃除とか雑巾掛けとか、どうにもやる気が出なくてね」

龍也の指摘に霊夢は暑いので掃除などをする気になれない自分の心情を伝え、再び茶を啜り始めた。

「……ほんと、相変わらずだな。お前は」

相変わらずの霊夢に龍也は感心と呆れを入れ混ぜた様な表情を向けながら湯飲みに残っていた茶を飲み干し、

「ごちそうさん」

ごちそうさんと言う発言と共に龍也は立ち上がる。
立ち上がった龍也を見て、

「あら、何所かに行くの?」

霊夢は何所かに行くのかと聞く。
聞かれた事を、

「ああ、そうだ」

龍也は肯定し、

「まだ博麗神社近辺の森の中を散策してはいなかったからな。そこを散策し様と思ってる」

博麗神社近辺の森を散策し様と思っている事を霊夢に伝える。

「ここ近辺の森……か。神社の敷地内には入って来ないけど、あそこにも妖怪が出るわよ」
「へー……やっぱ妖怪は出るんだ」
「そりゃね。妖怪や妖精は何所にでも居るわよ」

霊夢は龍也に博麗神社近辺の森にも妖怪が出る事を教え、

「話を戻すけど、妖怪が出ると言って大して強くも無い奴ばかりだから龍也の強さなら何の問題も無いわ」

龍也の強さなら森の中に入って行っても何の問題無いと言う言葉で締め括った。

「……要は何時も通り妖怪が何時襲って来るか分からないって事だな」

霊夢から教えられた情報から龍也はそう結論付け、居間から出る為に足を動かす。
それを見た霊夢は、

「で、結局泊まっていくの?」

改めて結局泊まっていくのかどうかを尋ねる。

「あー……それは後で決める」
「そ。一応言って置くけど、泊まる事を決めて夕飯後に来ても龍也の分の夕飯は無いからね」
「了解了解、日が暮れるまでには決めるよ。流石に腹が減ってここに来たら何も食う物がありませんでしたって言うのは勘弁したいしな」

日が暮れるまでには博麗神社に泊まるかどうかを決めると言う言葉を龍也は残し、博麗神社を後にして森の中へと入って行った。





















「やっぱりと言うべきか、霊夢の言った通り妖怪が出て来たな」

森の中に入ってから暫らく経った頃、龍也は霊夢の言った通り妖怪が出て来たと呟きながら歩いて来た道を振り返る。
振り返った先には、倒れ伏している何体もの妖怪が見て取れた。
妖怪達が倒れ伏している理由は勿論、龍也に倒されたからだ。
倒れ伏している妖怪から立ち上がって再び襲い掛かって来ると言う気配が感じられなかったからか、

「……よし」

龍也は反転して再び足を動かし始める。
移動を再開した龍也は周囲の景色を見渡しながら森林浴を楽しみ、

「しっかし、魔法の森とは雰囲気が全然違うな」

そんな感想を漏らした。
今龍也が歩いている森には瘴気も無く、全体的に日の光が差し込んでいる。
おまけに珍妙な形や色をした茸も存在しない、極々普通の森だ。
この森と魔法の森を比較している中で、

「……あ、でも霧の湖近辺の森もここと似た感じだな」

龍也はこの森と霧の湖周辺の森が似ていると感じた。
異なっている点と言ったら、霧が出ているか出ていないかと言った程度の事であろう。
これ等の事から、魔法の森の様な場所が珍しいと言う結論を下して視線を正面に向けた時、

「おおう……」

龍也は何とも言えない表情を浮かべながら足を止めた。
何故ならば、

「藁人形が一杯とか……」

大量の藁人形が打ち込まれている沢山の木々を見付けてしまったからだ。
おまけに、藁人形の中心にはご丁寧に呪と書かれた紙が貼り付けられている。
どうやら、魔法の森の様な場所が珍しい言う龍也の結論は間違っていた様だ。
何処か遠い目で木に打ち付けられた藁人形を見た後、

「この藁人形、どうするべきか……」

龍也はこの沢山の藁人形をどうするべきか考え始める。
見てしまった以上、流石に放置と言う真似は出来ない。
となれば、処分するべきなのだが一つ問題があった。
問題と言うのは、

「……これ、どう処分したら良いんだ?」

藁人形をどう処分すべきかと言うものだ。
生憎、龍也は呪術と言った類のものには詳しくは無い。
下手な処分をして何か怨念の様なものが飛び散ったら一大事であろう。
ここは巫女である霊夢に相談するべきかと考え始めた瞬間、

「……あ、俺の炎のなら何とかなるのか?」

龍也の頭に自分の炎のなら何とかなるのではと言う考えが過ぎる。
龍也が扱っている炎は只の炎では無い。
朱雀の炎なのだ。
更に言うのであれば風は白虎。
地は玄武。
水は青龍と言った感じで、龍也が扱う炎、風、地、水の全てが全てが通常のものとは違う。
全て四神の力から源となっているのだ。
ならば、呪いや怨念が在ったとしても自身の炎で浄化出来る筈だと判断した龍也は、

「……よし」

決意を固めた様な表情を浮かべながら自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って瞳の色が黒から紅に変わると、龍也は木に打ち込まれている藁人形を一体引っこ抜き、

「……………………………………」

炎を生み出し、たった今引っこ抜いた藁人形を燃やす。
燃やされた藁人形は直ぐに燃え尽きたが、

「……何も起こらないな」

何も起こらなかった。
藁人形を処分したら呪いや怨念が飛び散ると言うのは龍也の的外れな考えだったのか、それとも本当に龍也の炎で浄化出来たのか。
どちらかなのかは分からないが、何の心配もいらなくなった事で、

「……よし、次々といくか」

龍也は木々に打ち付けられている藁人形を次々と引き抜き、燃やしていく。
藁人形自体の大きさは大した事は無かったからか、然程時間を掛ける事も無く藁人形全てを燃やし尽くす事が出来た。

「……ふぅ」

藁人形を全て燃やし尽くしたからか、龍也は自身の力を消す。
力を消し、龍也の瞳の色が紅から黒に戻ったタイミングで、

「あやややや、これは龍也さん」

龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
それに反応した龍也が顔を動かすと、

「どうもー!! 清く正しい射命丸文でーす!!」

上空の方から元気で明るい声と共に文が空中から現れ、地に足を着ける。
地に足を着けた文を見て、

「よう、文」

龍也は軽い挨拶の言葉を掛け、

「どうしたんだ、こんな所に?」

こんな所に何の用なのかと問う。
問われた事に、

「私ですか? もう一度現場を見て置こうと思い、ここに来たんですよ」

文はもう一度現場を見て置く為だと答える。

「現場?」

文の答えを聞いて龍也が首を傾げると、

「この辺りの木々に藁人形が打ち付けられていませんでしたか?」

文はこの辺りの木々に藁人形が打ち付けられていなかったかと尋ねて来た。

「ああ、それなら俺が全部燃やした」
「燃やしたんですか? 全部?」

龍也の返答を聞いて文が驚いた表情を浮かべながら、本当に全部燃やしてしまったのかと聞き返す。

「ああ。あの儘放置しても良い物かどうか迷ったんで、取り敢えず全部燃やして置いた」
「はぁー……そうでしたか」

龍也から藁人形を全て燃やしたのは確定情報である事を得られたからか、文は何処か落胆した表情を浮かべてしまう。
そんな文の表情を見て、

「若しかして……不味かったか?」
「いえ、もう写真には収めていたので別に良いんですけどね」

龍也は恐る恐ると言った感じで藁人形を全部燃やしたのは不味かったのかと聞くと、文は表情を戻しながら既に写真は撮ってあるから別に構わないと言う。

「写真?」
「ええ、写真です、因みに、打ち付けている人物の写真も在りますが見ますか?」

文が木に藁人形を打ち付けている者の写真を持っている事を知り、興味が湧いたからか、

「ああ、見せてくれ」

龍也は文に写真を見せてくれと頼む。
頼まれた文は、

「これです」

懐から写真を取り出して龍也に差し出す。
差し出された写真を受け取り、龍也は写真を目を向けた瞬間、

「おおう……」

思わず動きを止めてしまった。
何故かと言うと、写真には思いっ切り見知った顔が映っていたからだ。
写真に映っていた者はアリスとアリスの人形。
おまけに、写真に写っているアリスとアリスの人形は中々に凶悪そうな表情を浮かべていた。
更に言えば、アリスもアリスの人形も頭に蝋燭まで付けている。
だからか、

「アリス……何やってんだよ……」

龍也は自然とそう呟いてしまう。
龍也の呟きが耳に入った文は、

「あや? 若しかして、龍也さんはアリスさんとお知り合いなのですか?」

興味を持ったと言う表情を浮かべながらアリスと知り合いなのかを問う。
問われた事を、

「ああ、そうだ」

龍也は肯定する。

「成程……」

龍也とアリスが知り合いである事を知った文は何かを思い付いた表情になり、

「私はこれからアリスさんの所に行って再インタビューしに行くのですが、一緒に行きませんか?」

自分はこれからアリスの所に再インタビューをしに行くので龍也も一緒に行かないかと誘う。
誘われた龍也は、

「そうだな……」

少し考え、

「うん、一緒に行くよ」

色々と気になる事があるので、文と一緒にアリスを決める。
同時に、

「了解しました!! 善は急げと言いますし、早速行きましょう!!」

善は急げと言う言葉と共に文が空中へと躍り出たので、

「おい、待てって」

龍也も少し慌てる様に空中へと躍り出た。
そして、龍也と文はアリスの家へと向かって行く。





















「……っと、ここですね。アリスさんのお宅は」

アリスの家が眼下に見えたのと同時に、

「さ、降りますよ」

文は龍也に一声掛け、勢い良く降下し始めた。

「了解」

了承の返事をしつつ、龍也も文に続く様に降下する。
降下した二人は地に足を着け、アリスの家の前まで歩いて近付いて行く。
そして、アリスの家の前まで着くと龍也はドアをノックし様とするが、

「どうもー!! 清く正しい射命丸文でーす!!」

その前に文がドアを開いてアリスの家の中に入って行ってしまう。

「お前な……」

家主の許可を得ずに家の中に入って行った文に龍也は呆れた感情を抱いた時、

「貴女ね、家主の許可も得ずにドカドカと入って来るって言うのはどうなのよ」

家の中から呆れた声色で文句を言うアリスの声が龍也の耳に入って来た。
耳に入って来た声でアリスが在宅している事を知った龍也は、

「おーい、アリス。俺も入って良いか?」

アリスに自分も家の中に入って良いかと言う言葉を掛ける。
すると、

「あら、龍也も来てたの? 入って来ても良いわよ」

直ぐに家のに上がっても良いと言う許可をアリスが出してくれた。
なので、

「お邪魔しますよっと」

龍也もアリスの家の中に上がって行く。
家の中に上がった龍也が居間の方に向かうと、文がアリスに例の写真を見せている場面が見られたので、

「お前、何で藁人形を打ち付けたんだ? 呪いたい相手でも居たのか?」

龍也はアリスに呪いたい相手でも居るのかと尋ねてみた。

「あら、龍也もこの新聞記者の写真を見たの?」
「ええ、先程博麗神社近辺の森で龍也さんの会いましたのでその時に」

アリスの疑問に文が答えたタイミングで、

「で、だ。結局、呪いたい相手でも居たのか?」

龍也は改めてアリスに呪いたい相手でも居るのかと尋ねる。
尋ねられたアリスは、

「違うわよ。別に呪いたい相手が居たから藁人形を打ち付けたんじゃ無くて、完全自立人形の完成に一歩でも近付ける為よ」

藁人形を打ち付けた理由は別に呪いたい相手が居る訳では無く、完全自立人形の完成に一歩でも近付かせる為だと返す。

「ん? どう言う事だ?」

呪いの藁人形と完全自立人形がどう結び付くか解らないと言った表情をしている龍也に、

「解り易く説明するわね。呪いの藁人形と呪いたい相手ってシンクロしてるでしょ。例えば呪いの藁人形の右腕に釘を打ち込んだら呪いたい相手の右腕にも
ダメージがいくって言う感じで。この呪いの藁人形と呪いたい相手を繋げると言うプロセス。これを完全に理解する事が出来れば完全自立人形の完成に一歩、
確実に近付けると私は思ったのよ」

アリスは簡単な説明を行う。
アリスの説明を聞き、

「成程……ん?」

龍也は納得したが、直ぐにある疑問が龍也の頭の中に過ぎった。
過ぎった疑問と言うのは、そのプロセスを理解する為には本当に誰かを呪う必要が在るのでは言う事だ。
浮かんだ疑問に付いて考え始め、龍也が思案気な表情を浮かべたからか、

「今の説明で解り難いところが在ったかしら?」

アリスは今の説明で解り難いところが在ったかと聞く。
アリスの言葉で意識を現実に戻した龍也は、

「……あ、いや。何でも無い。良く解ったよ」

何でも無いと返す。
下手に突っ込みを入れたら危険と判断したからか、それともアリスの言葉を信じる事にしたのかは分からないが。
龍也とアリスの話しが終わったのを見計らったかの様に、

「それでは!! 次は私のインタビューに答えて貰えますね!?」

文はアリスに詰め寄りながら自分のインタビューに答えてくれるかと言って来た。
詰め寄られたアリスは、

「……分かった、答えて上げるわよ」

熱意に負けたと言った感じで、インタビューを受ける意思を示す。

「ありがとうございます!! では早速……」

文がアリスにインタビューを始めた事で暇になった龍也はソファーに腰を落ち着かせる。
この儘文のインタビューが終わるまで待とうと龍也が考え始めた時、

「お……」

アリスの人形が紅茶とクッキーを運んで来た。
どうやら、暇をしている龍也にアリスが気を利かせてくれた様だ。
アリスの人形が運んで来た紅茶とクッキーがテーブルの上に置かれると、龍也は内心で礼を言葉を述べつつクッキーを手に取って口の中に放り込む。

「……美味い」

食べたクッキーの味が龍也の口から自然と漏れたのと同時に、龍也は次から次へとクッキーを食べていく。
そして、龍也がクッキーを全て食べ尽くしたタイミングで、

「ありがとうございました!!」

大きな声で文が礼の言葉を言っているのが耳に入る。
文の礼の言葉からインタビューが終わったと判断した龍也が顔を上げると、満面の笑顔を浮かべている文が目に映った。
ご機嫌と言う言葉が似合う文に、

「インタビューは終わったみたいだけど、これからどうするんだ?」

龍也はこれからどうするのか問う。
問われた文は、

「勿論!! これから帰って新聞の作成に取り掛かります!! それでは!!」

元気な声で新聞作成に取り掛かると言いながら物凄いスピードでアリスの家から出て行った。
素っ飛ぶ様にアリスの家から出て行った文を見て、

「……台風みたいだな。あいつ」

龍也が台風みたいだと言う感想を呟きつつ、紅茶を啜り始めた瞬間、

「……あ」

龍也の腹から空腹を訴える音が鳴り響く。
腹の音が鳴り響いた事で、龍也は思い出す。
博麗神社で茶を啜った事と、ここでクッキーを食べて紅茶を啜った以外で胃袋に何かを入れてはいないと言う事を。
それ等の事を思い出し事で龍也が急激な空腹感に襲われ始めると、

「ふふ、やっぱりクッキーだけじゃ龍也のお腹は膨れなかったみたいね。これからご飯を作るから食べていきなさい」

アリスは軽い笑みを浮かべ、今からご飯の作るの食べていけと言う提案をして来た。

「え、良いのか?」
「ええ、勿論。その代わり、またロボットの話を聞かせてね」

アリスがご飯をご馳走してくれると言う事で喜ぶ龍也に、アリスはご飯をご馳走する代わりにロボットの話を聞かせてくれと頼む。

「ああ、それ位の事なら喜んで」
「楽しみにしてるわね」

龍也がロボットの話をする件を了承したからか、アリスは嬉しそうな表情を浮かべながら人形を連れて台所に向かって言った。





















夕方。
日が暮れた時間帯に、

「霊夢ー。やっぱり泊まる事にしたぜー」

龍也は博麗神社に泊まる事にしたと言いながら居間へと続く襖を開く。
すると、

「あ、やっぱり泊まりに来たのね」

卓袱台の上に料理を並べている霊夢がやっぱり泊まりに来たと言って来た。
卓袱台の上には二人分の料理が並べている事から、

「何だ、俺が泊まりに来る事が分かってたのか?」

龍也は霊夢に自分が泊まりに来る事が分かっていたのかと尋ねる。
尋ねられた事に、

「分かっていたと言うか勘ね。何となく、あんたが泊まりに来る気がしたのよ」

霊夢は勘だと返す。

「成程。勘ね」

霊夢の勘が優れている思い出しながら卓袱台の前まで移動し、腰を落ち着かせた時、

「あ、それ食べたら掃き掃除と廊下の雑巾掛けをよろしくね」

霊夢が食事を終えたら掃除をする様に言う。

「……これを食ったら?」
「ええ、そう。掃除は龍也にさせる積りだったから大してしてなかったのよね。因みに、掃除を引き受けてくれなかったらご飯は抜きね」
「分かった、これ食ったら掃除してやるよ」

龍也が食事を終えたら掃除をすると約束したからか、霊夢は満足気な表情を浮かべる。
そして、龍也と霊夢はご飯を食べ始めた。























前話へ                                          戻る                                              次話へ