紅魔館の中に入った龍也は一面紅とも言える様な廊下を歩いてパチュリーが居る図書館を目指して行く。

「……しっかし、相変わらず紅いな。ここ」

相変わらず紅いなと言う感想を漏らしながら歩いていると、龍也の目に何人もの妖精メイドの姿が映った。
龍也の目に映った妖精メイド達は、窓拭きや壁の埃落としと言った仕事をしている。
以前、咲夜が妖精メイドは使えないと言う愚痴を零していたがそれは改善されたのかと龍也が思った直後、

「……そんな事は無かったな」

妖精メイド達は掃除に飽きたからか、掃除を止めて思い思いに遊び始めた。
どうやら、咲夜の苦労はまだまだ続きそうである。
これからも苦労が続くであろう咲夜に同情しつつ、龍也は歩くスピードを上げていく。
龍也が歩くスピードを上げたからからか、

「……っと、ここだここだ。思っていたよりも早くに着いたな」

龍也は自身が想定していたよりも早くに図書館への入り口に辿り着く事が出来た。

「にしても、迷わなくて良かった良かった。咲夜にああ言った手前、迷ったら恥ずかしいしな」

迷わずにここまで来れた事に安堵しつつ、龍也は扉を開けて中へと入る。
中に入った龍也は何度も感じていたこの図書館の圧倒的な広さと蔵書量をまた感じつつ、

「さて、どうやってパチュリーの居る所まで行くかな」

どうやってパチュリーの居る場所にまで行くかを考え始めた。
早くパチュリーの居る場所にまで行くと言うのなら簡単だ。
空中に躍り出て、空中に霊力で出来た見えない足場を作ってそこを駆ける様にして進んで行けば良いだけ。
ならば悩む必要など無いであろうが、別段大急ぎでパチュリーに会いに行く必要は無い。
何故ならば、パチュリーは基本的に椅子に座って本を読んでいる事が殆どであるからだ。
本を読んでいる事が殆どと言う事は、ある一定の場所から動く事は殆ど無いと言う事。
無論、パチュリーも魔法の実験やら何やらで何時もの場所に居ないと言う可能性も在る。
しかし、それを踏まえても龍也は急ぐと言う気分にはなれなった。
おそらく、紅魔館に来るまでにそれなりに急いで来たから次はゆっくりしたいのかと龍也は今の自分の気分を分析し、

「……よし、のんびり歩いて行くか」

歩いてのんびり行く事を決め、足を進め始める。
周囲を見渡しながら。
龍也の周囲に在る物は本棚と本ばかり。

「ま、当たり前だけどここは本が多いな」

龍也は改めてこの図書館の蔵書量に感心しつつ、

「にしても、パチュリーってよくこれだけ言語が違う本を普通に読めるよな。俺だったら辞書片手でも一冊読み切る自信が全然無いぞ」

パチュリーの凄さを実感していた。
この図書館に収められている数多の本は全て一つの言語で書かれていると言う訳では無いのだ。
書かれている言語は数十や数百、下手をしたら数千を軽く超えているかもしれない。
そんな一冊一冊が全く別の言語で書かれている様な本を、パチュリーは平然と読んでいる。
更に言えば、パチュリーが本を読む時に辞書を側に置いているのを龍也は見た事が無かった。
つまり、パチュリーは数多の言語を読み解くのに辞書を必要としていないと言う事になるだろう。
自分は辞書を必要としないのは一言語だけだなのになと龍也が思った時、

「お……」

龍也の目にパチュリーの姿が見え始める。
やはりと言うべきか、パチュリーは椅子に座って本を読んでいた。
本を読む事に集中していてパチュリーが自分の存在に気付いていない事を感じた龍也は、少し急ぎ足でパチュリーに近付き、

「よ、パチュリー」

声を掛ける。
声を掛けられたパチュリーは読んでいた本から目を外し、声が聞こえた方に視線を移す。
視線を移した先には龍也は居た事で、パチュリーは自分に声を掛けて来た者が龍也だと言う事を知ったからか、

「あら、龍也じゃない。いらっしゃい」

いらっしゃいと言う言葉を口にした。
その後、読んでいた本を机の上に置き、

「それで、また本でも読みに来たのかしら?」

また本を読みに来たのかと尋ねる。
尋ねられた事に、

「本を読みに来たと言うよりは、今日はパチュリーに聞きたい事が在って来たんだ」

龍也は本を読みに来たと言うよりはパチュリーに聞きたい事が在るのだと言う。

「私に?」
「ああ、博麗神社に漂っている妖力。それに付いてパチュリーなら何か知っているかもって思ってさ」

聞きたい事が在ると言われたパチュリーが首を傾げたので、龍也は聞きたい事の内容を話す。

「博麗神社に漂っている妖力……ああ、あれね」

龍也の話を聞き、パチュリーが明らかに何かを知っていると言う表情を浮かべた為、

「知ってるのか?」

龍也は少し身を乗り出しながら期待を籠めた目でパチュリーを見る。

「ええ、知ってるわ。と言っても、私の推測が混じる事になるけど……良い?」

期待を籠めた目で自分を見ている龍也にパチュリーが自分の推測が混じる事になるが、それでも良いなら話すと言うと、

「ああ、頼む。教えてくれ」

龍也から頼むと言う言葉が聞こえて来た。
なので、

「それじゃ、話すわね。あの妖力自体には直接的な害は無いの。唯、無意識の内に皆を集めると言う効力が有るだけ」

パチュリーは博麗神社に在る妖力がどの様な効果が在るのかを説明する。

「無意識の内に?」
「ええ、そうよ。だから、皆が定期的に博麗神社に足を運んで宴会を開く様になった。ま、集まって来るのは宴会が好きなのばかりだから当然と言えば当然だけどね」

パチュリーの説明を聞き、今回の異変はかなり平和だなと言う感想を龍也は抱きつつ、

「成程……で、誰がそんな事をしているかって言うのは分かるか?」

犯人は分かっているのかと聞く。
聞かれた事に、

「残念だけど、そこまではまだ分かっていないわ」

パチュリーはまだ犯人は分かっていないと返す。

「そっか……」

犯人の目星がまだ分かっていないのは残念ではあるが、それでも結構な収穫はあった。
博麗神社に漂っている妖力にどの様な効果が在るのかを知る事が出来たので、パチュリーに会い来た甲斐は在っただろう。
新たな情報を得て、今後どの様に動くのかを考え始めた龍也を見て、

「漂っているのは妖力だから妖怪、若しくは妖力を扱う者を当たっていけば良いんじゃないかしら?」

パチュリーは妖怪か妖力を扱う者を当たっていけば良いのではと言うアドバイスを行い、

「それと気を付けた方が良いわよ。貴方が博麗神社に寝泊りする様になってからこの妖力が発生し、博麗神社で宴会が短い頻度で開かれる様になった。
だから、龍也が犯人だと言って襲い掛かってくる者が確実に居るわね。ああ、因みに私は貴方が犯人とは思っていないわよ。まぁ……貴方が何らかの
術式で霊力を妖力に変換したと言う可能性があるけど、今の貴方から感じる霊力に何の違和感も感じないしね」

龍也を犯人だと思って襲って来る者は確実に居るので気を付ける様にと言う注意と、自分は龍也の事を犯人とは思っていない事を伝える。
パチュリーの注意を聞いた龍也は、

「もう、襲われたよ。しかも二人に」

何処か疲れた様な表情を浮かべながら既に二人に襲われた事を漏らす。

「それはご愁傷様」

既に龍也が襲われていた事を知ったパチュリーは慰めるかの様にご愁傷様と言う言葉を口にした。
パチュリーの慰めの言葉を聞いた後、

「あ、そうそう。話は変わるけど、近接戦込みの弾幕ごっこが流行る事になった原因って分かるか?」

龍也はふと思い出したかの様に、近接戦込みの弾幕ごっこが何時から流行る事となった原因は分かるかと尋ねる。
霊夢、咲夜と大して気にせずに近接戦込みの弾幕ごっこで戦ってきた龍也ではあるが、何だかんだで流行る事となった原因は気になっていた様だ。
近接戦込みの弾幕ごっこの話題が出始めたのはここ最近の宴会であり、霊夢と咲夜の二人が近接戦込みの弾幕ごっこに慣れてはいなかった。
この二つの事から本当に最近の間に何か決定的な原因が在ったのだろうと予想している龍也に、

「流行る事になった原因は貴方よ、龍也」

パチュリーは流行る事になった原因は龍也だと指摘する。

「……え、俺?」

パチュリーの指摘を受け、龍也は思わず唖然とした表情を浮かべてしまう。
龍也の反応を見るに、近接戦込みの弾幕ごっこが流行る事となった原因が自分だとは全く想像していなかった様だ。
唖然としている龍也を余所にパチュリーは机の引き出しを開け、

「えっと……確かこの辺に……」

何かを探し始めた。
そして、

「……見付けた」

探している物が見付かると、パチュリーは目的の物を手に取って引き出しを閉め、

「はい」

手に取っている物を龍也に手渡す。
パチュリーが自分に何かを手渡そうとしている事に気付いた龍也は、

「あ、ああ」

少し慌てた動作で表情を戻してパチュリーから手渡された物を受け取り、受け取った物に目を向ける。
パチュリーが手渡し、龍也が受け取った物と言うのは、

「これは……"文々。新聞"か?」

"文々。新聞"であった。
"文々。新聞"に近接戦込みの込みの弾幕ごっこを自分が広めた原因が書かれているのかと判断した龍也は、"文々。新聞"に目を通していく。
目を通した結果、

「……俺の記事?」

パチュリーから渡された"文々。新聞"には自分の事が書かれている事を龍也は知った。
因みに、書かれている内容は以前文が龍也にインタビューをして作成した物とは違う。
龍也にインタビューをして作成された物は文章が主体であったが、今龍也が見ている"文々。新聞"は文章がメインでは無い。
では、何がメインなのかと言うと炎の剣で妖怪を倒している龍也の写真。
両手に龍の手を思わせる様な水を纏わせ、その爪で妖怪を倒している龍也の写真。
土で出来た巨大な拳で妖怪を倒している龍也の写真。
腕と脚に風を纏わせて妖怪を倒している龍也の写真。
パチュリーから渡された"文々。新聞"はこの四種類の写真がメインの様だ。
一通りパチュリーから渡された"文々。新聞"を見た龍也は、

「……てかこれ、殆ど隠し撮りじゃないのか?」

掲載されている自分の写真の殆どが隠し撮りではないのかと呟く。
龍也自身、旅の最中に襲い掛かって来た妖怪と戦っている時に写真を撮られた記憶は無い。
戦っている最中で気が張っている状態の自分に欠片も気取らせる事無く写真を撮った文に龍也が感心と呆れを混ぜた様な感情を抱いていると、

「その号の"文々。新聞"は少し前に発行された物で、内容は外来人特集。と言っても、人里で生活している外来人の紹介はそこそこで見ての通り貴方の事が
メイン何だけどね」

パチュリーは今龍也が手にしている"文々。新聞"がどんな内容であるかを簡潔に伝えた。
パチュリーから伝えられた事が耳に入った龍也は改めて"文々。新聞"に目を通していき、

「……あ、本当だ。人里に住んでいる外来人の事も書かれてる」

人里に住んでいる外来人の事に付いて書かれている部分を見付ける。
書かれていると言っても、龍也の内容と比べたら扱いはかなり小さい。

「にしても、文は何だって俺の事をこんなに大きく取り上げたんだ? 別に全部を平均的に書いても良かっただろうに」
「単純に、インパクトが在るからじゃ無いかしら? 幻想郷に来た外来人が妖怪などに襲われて死亡と言った事を除いた場合、身の振り方は基本的に二つに
別けられるわ。人里で暮らすか、博麗神社に行って外の世界に帰るかのどちらかにね。けど、貴方はそのどちらでも無く幻想郷を歩いて旅をすると言う事を
している。更に言えば、貴方は今まで幻想入りして来た外来人とは比べ物に成らない程に強い。だからじゃないかしら? 貴方の事が大きく取り上げられた
のは」

自分の事を大きく取り上げた文に疑問を持った龍也に、パチュリーはインパクトを考えて文は龍也の事を大きく取り上げたのではと話す。
確かに、外来人の中で一番インパクトが在るの誰だと言われたら龍也になるだろう。
他の外来人と違って人里に住んだり外の世界に帰ったりせず幻想郷中を自分の足で歩いて回り、異変解決に携われる程に力が有るのだから。
改めて自分の様な外来人は特殊なのだと龍也が思っている間に、

「さて、話を戻すけど近接戦込みの弾幕ごっこが流行り始めたのはこの号の"文々。新聞"に掲載されている龍也の写真が原因ね。特に炎の剣何て中々に写真
栄えするしね。で、そんな写真栄えする様な戦い方をしている貴方に感化されたのか皆の意識が近接戦に向く様になった。だから、ここ最近で近接戦込みの
弾幕ごっこが流行り始めた……と言った感じかしら。この号の"文々。新聞"が発行された辺りから近接戦込みの弾幕ごっこの話が聞こえ始めたから、龍也が
近接戦込みの弾幕ごっこを流行る原因を作ったって言うのは間違っていない筈よ」

パチュリーは改めて龍也が近接戦込みの弾幕ごっこを流行らせる原因を作ったのだと言い、

「まぁ、天狗の新聞は信憑性が疑問視されてるから正確に言えば"文々。新聞"を見た誰かが近接戦闘を称賛する様な話をしてそれが広まったと言った
感じかしらね」

正確に言えば"文々。新聞"を読んだ誰かが近接戦闘を褒める様な事を話をし、それが広まったから近接戦込みの弾幕ごっこが広まったと言う発言で締め括った。
パチュリーの発言を聞き、

「まさか俺が原因とはな……」

龍也は少し驚いた表情を浮かべ、手に持っている"文々。新聞"をパチュリーに返す。
返された"文々。新聞"をパチュリーが受け取り、それをパチュリーが元在った場所に仕舞った後、

「……やっぱ近距離用のスペルカードを作った方が良いかな」

龍也は近距離用のスペルカードを作った方が良いかと考える。
今現在の龍也が所持しているスペルカードは通常の弾幕ごっこ用の物。
更に言えば防御の用の玄武の甲羅を除けば残りは全て遠距離用のスペルカード。
無論、遠距離用のスペルカードが近距離では使えないと言う訳では無い。
だが、はっきり言って霊流波以外の遠距離用のスペルカードは近距離では少々使い勝手が悪いのだ。
今後の事を考えたら近距離用のスペルカードは必要だと龍也は判断し、

「……よし、作ろう」

近距離用のスペルカードを作る事を決めてパチュリーの方に向き直り、

「と、言う訳でパチュリー。手伝ってくれ」

両手を合わせて近距離用のスペルカードの作成を手伝ってくれと頼み込んだ。
突然の龍也の頼みを受け、

「……え?」

パチュリーは唖然とした表情を浮かべてしまった。
が、直ぐに表情を戻し、

「手伝ってくれって……手伝う必要って有るの? スペルカードを作るのは難しい事じゃないでしょ」

手伝う必要は有るのかと聞く。
パチュリーの言う通り、スペルカードの作成は難しいと言う訳では無い。
なので、スペルカードの作成を手伝ってくれと言った龍也に疑問を覚えるのはある意味当然だ。
そんなパチュリーの疑問を晴らすかの様に、

「いやさ、実はまだ何処までがルール違反になるか良く解ってなくてさ……」

龍也はスペルカードの作成を手伝う様に頼んだ理由を話す。
龍也が今現在所持しているスペルカードは全て風見幽香の監督の元で作成された物。
故に、龍也は自分一人でスペルカードで作って出来たスペルカードがルール違反になったらと言う不安が在る様だ。

「別に多少適当に作っても大丈夫だと思うんだけど……」

多少適当に作って大丈夫だろうと言いつつ、パチュリーは龍也のスペルカード作成を手伝うかどうかを考える。
スペルカードの作成自体は別に大した手間でも無いので別に良いかと思った時、パチュリーの頭にある事が浮かぶ。
浮かんだ事と言うのは最近手に入れた大量の本。
最近手に入れたと言う事もあり、それ等の本はまだ本棚に収められても整理されてもいない。
普段であれば小悪魔に任せるのだは、当の小悪魔は別の本と本棚の整理をしている。
別に小悪魔が行っている本と本棚の整理が終わるまで待っても良いが、早くに終わらせるに越した事は無い。
なので、

「……後で本の整理などを手伝ってくれるのなら、貴方のスペルカードを作るのを手伝って上げるわ」

パチュリーは本の整理などを手伝ってくれるのならスペルカードの作成を手伝うと言う提案をする。
パチュリーの提案を、

「本の整理だな。任せろ」

龍也が受け入れた事で、

「なら、さっさとスペルカードを作りましょ」

二人は早速スペルカードの作成に取り掛かった。





















龍也のスペルカード作成をパチュリーが手伝い始めてから幾らか時間が経つと、

「あー……終わった。てか、思っていたよりも早くに出来たな」

龍也は首を回したしながら思っていたよりも早くに出来たと呟く。
龍也の呟きが耳に入ったパチュリーは、

「ま、私が手伝ったのだから早く終わったのは当然ね」

自分が手伝ったのだから早く終わったのは当然と返す。
因みに、今回作成した近距離用のスペルカードの数は五枚。
近い内に作ったスペルカードを試そうと龍也が考え始めた時、

「それじゃ、早速約束を果たして貰いましょうか」

パチュリーが約束を果たす様に言って来た。
そう言われた龍也は作ったスペルカードを懐に仕舞ってパチュリーの方に顔を向け、

「ああ、本の整理だろ。任せろ」

本の整理位任せろと口にする。
龍也が直ぐに本の整理に取り掛かってくれそうだったので、パチュリーが早速指示を出そうとしたタイミングで、

「あら、龍也じゃない。いらっしゃい」

レミリアが現れた。

「レミリア……」

行き成り現れたレミリアに少し驚いている龍也とは別に、

「珍しいわね。レミィ、貴女がこんな時間に起きてくれる何て」

パチュリーはこんな時間に起きているレミリアに少し驚いたと言う表情を浮かべる。
現在はまだ天に太陽が出ている時間帯。
普段のレミリアなら太陽が沈み始めた時間帯で起きて来る筈なので、パチュリーは少し驚いた表情を浮かべたのだ。
そんなパチュリーの驚きを解消させる為、

「単純に早くに目が覚めたのよ」

単純に早くに目が覚めた事を伝える。
レミリアから伝えられた事を聞いたパチュリーは、

「成程……」

納得した表情になり、

「それにしても、今日の咲夜は大変ね。異変解決の為の情報収集に、早くに起きて来た御主人様の相手をしなきゃならない何てね」

咲夜に同情する様な発言を漏らす。
パチュリーの発言を聞き、

「あら、咲夜は出掛けてるの? と言うか異変解決?」

レミリアは疑問気な表情を浮かべながら首を傾げてしまった。
どうやら、異変が起こっている事を知らない様だ。
なので、

「ほら、ここ最近短い頻度で連続して宴会が開かれてるだろ。あれが異変だ。まぁ、今までの異変と比べたら危険度が格段に落ちるから異変と言って
良いのかは微妙だけどな」

龍也はレミリアに何が異変なのかを教える。

「へぇー……あれ異変だったの」

短い頻度で連続して開かれている宴会が異変である事を知ったレミリアは意外そうな表情になり、

「龍也が紅魔館に来たのは異変を解決する為の情報を集める為かしら?」

紅魔館に来たのは異変を解決する為の情報を集める為かと龍也に問う。
問われた事を、

「ああ、そうだ。序にパチュリーに手伝って貰いながら近距離用のスペルカードを作ったけどな」

龍也は肯定し、序にパチュリーに手伝って貰いながら近距離用のスペルカードを作った事を話す。

「成程。最近流行ってるものね、近接戦込みの弾幕ごっこ」

既に近接戦込みの弾幕ごっこが流行っている事を知っているからか、レミリアは然程驚いた様子を見せず、

「今作ったって事は、まだテストはしてないんでしょう? だったら、私がテスト相手をして上げましょうか?」

作ったスペルカードのテスト相手を自分がし様かと聞く。

「良いのか? 俺としては願ったり叶ったりだけど……」
「ええ、構わないわ。私も起きたばっかりだから軽い運動をしたかったし」

本当にテスト相手をして貰っても良いのかと確認を取って来た龍也に、レミリアは起きたばかりだから軽い運動をしたいのだと返す。
つまり、レミリアに取っても龍也が作成したスペルカードのテスト相手になる事は願ったり叶ったりなのだ。
思っていたよりも早くに作成したスペルカードのテスト相手が見付かった事で、龍也はパチュリーの方に視線を移す。
本の整理を後回しにしても良いかと言う想いを目に籠めながら。
龍也の目から龍也が何を言いたいのかを察したパチュリーは、

「別に良いわよ。但し。それが終わったら約束通り手伝ってね」

本の整理を後回しに良いと言う発言をした。
パチュリーから本の整理を後回しにしても良いと言う許可が得られた事で、龍也は体をレミリアの方に向ける。
そして、龍也が作成したスペルカードのテストをする為の戦いが始まろうとした時、

「戦うのなら別の場所でやりなさい。ここで戦ったら……怒るわよ」

パチュリーは戦うのなら別の場所でやれと言う。
今居る場所で龍也とレミリアが戦えば、確実にパチュリーへと被害がいく。
しかし、それだけだったらパチュリーも別の場所で戦えとは言わなかっただろう。
戦いの余波、それも弾幕ごっこ程度の余波から自分の身を守る程度はパチュリーに取っては朝飯前であるからだ。
では、何故別の場所でやれと言ったのか。
答えは簡単。
周囲に置いて在る物に被害が出そうだからだ。
具体的に言うと本棚、本棚に収まっている本、パチュリーの机の上に置いて在る本に書類に実験器具、その他諸々。
これ等全てを完璧に護るとなると、流石のパチュリーでも骨が折れる。
故に、パチュリーは戦うのなら別の場所でやる様に言って来たのだ。

「パチェは怒ると怖いからね。確か、あっちの方に開けた場所が在るからそこに行きましょ」

パチュリーは怒ったら怖いと言う事で別の場所に移動し様と促して来たレミリアに、

「……ああ、そうだな」

一度パチュリーが怒ったところを見た事が在る龍也は賛成の意を示す。
龍也が別の場所で戦う事に賛成したので、レミリアは目的の場所を目指して歩き出した。
歩き出したレミリアの後を追う様に龍也も歩き出す。
二人が歩き出してから少しすると、龍也とレミリアは少し開けた場所に出た。

「ふむ……ここなら多少激しく暴れてもパチェも怒ったりはしないでしょ」

ここなら多少激しく暴れてもパチュリーも怒ったりはしないだろうとレミリアは判断し、体を龍也の方に向けて後ろに跳ぶ。
後ろに跳んだレミリアを見た龍也は足を止め、構えを取る。
龍也が構えを取ったのと同時に、レミリアは床に足を着け、

「それじゃ……行くわよ」

有無を言わせずに龍也へと一気に肉迫し、己が爪を振るう。
レミリアが振るった爪が自分の体に当たる前に龍也は一歩前に出て手を伸ばし、

「何……」

爪を振るったレミリアの腕を掴んで爪の進行を止める。
自身が振るった爪を止めた龍也に対してレミリアが少し驚いた感情を抱いている間に、

「らあ!!」

龍也はレミリアの腹部に膝蹴りを叩き込み、掴んでいた腕を離す。
膝蹴りを叩き込まれ、掴まれていた腕を離された事でレミリアは吹き飛ばされてしまったが、

「お……っと」

レミリアは直ぐに体勢を立て直して翼を大きく広げながら急ブレーキを掛けて止まり、優雅な動作で床に足を着ける。
レミリアの一連の動作から今の膝蹴りは大したダメージには成っていないと判断し、龍也が構えを取り直した瞬間、

「前に私と戦った時よりも随分と腕を上げたわね。桁違いな程に」

レミリアは以前戦った時よりも龍也は桁違いに強くなっている事を感じつつ、懐に手を入れた。

「……ッ」

懐に手を入れたと言う時点でレミリアが何をし様としているのかを龍也は理解し、警戒を強めた様子を見せ始める。
龍也が警戒し始めた事にレミリアは直ぐに気付いたが、

「それじゃ……先ずは私からいくわよ」

警戒など知った事では無い言わんばかりに先ずは自分からいくと呟きながら懐からスペルカードを取り出し、

「必殺『ハートブレイク』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動するとレミリアの手から真紅の槍が生み出され、レミリアは上半身を後ろへと反らす。
生み出された真紅の槍に上半身を後ろに反らしたレミリア。
これだけでレミリアが何をし様としているのかを龍也は理解し、反射的に体を屈める。
そのタイミングで、龍也の背中の僅か上を真紅の槍が物凄いスピードで通過した。
体を屈めるのが後少しでも遅かったら、龍也は真紅の槍の直撃を受けていた事だろう。
在り得たかもしれない未来を想像しつつ、龍也は屈んだ体勢の儘の状態で駆け出しながら懐に手を入れた。
そして、レミリアが自分の間合いに入ると懐からスペルカードを取り出し、

「炎爆『爆発する剣の軌跡』」

龍也はスペルカードを発動させる。
スペルカードを発動した事で龍也の瞳の色が黒から紅に変わり、手から炎の大剣が生み出された。
生み出された炎の大剣を龍也は両手で持ち、駆け抜ける様に炎の大剣を振るう。
振るわれた炎の大剣に反応したレミリアは跳躍する事で回避行動を取ったが、

「ッ!?」

突如真下の方で爆発が起き、爆発に乗せられる様な形でレミリアは自身の想定以上に高度を上げて行く。
が、直ぐに急ブレーキを掛けて強制的な上昇から脱出した。
強制的な上昇から脱出した後、レミリアは体勢を立て直しながら視線を下方に向け、

「成程、炎の大剣による一閃と剣の軌跡からの爆発による二段構えか。中々良いスペルカードね」

今の現象がどう言ったものであるかを見抜き、龍也の方に視線を向ける。
レミリアから視線を向けられた龍也は炎の大剣を両手で持ち、レミリアの方に目を向けていた。
まだスペルカードの発動時間は過ぎてはいないので、龍也が炎の大剣を振るえば振るった軌跡からは爆発が起きる事であろう。
故に今接近戦を仕掛けるのは悪手だとレミリアは判断し、龍也に向けて弾幕を放つ。
放たれた弾幕が自分の間合いに入ったタイミングで、

「はあ!!」

龍也は炎の大剣を振るい、振るった軌跡から発生した爆発でレミリアの弾幕を打ち消す。
弾幕を打ち消した後、龍也はレミリアに攻撃を仕掛ける為に空中へと躍り出様としたが、

「があ!?」

空中に躍り出る前に龍也の背中に大きな衝撃が走り、龍也は吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされた龍也は背後から攻撃されたのかと考えつつ体を後ろに向けて炎の大剣から左手を離し、離した左手を床に着けて減速していく。
減速し、ある程度スピードが緩むと龍也は左手で床を弾く。
床を弾いた事で龍也の体は浮かび上がり、浮かび上がっている間に龍也は体勢を立て直して床に足を着ける。
龍也が完全に体勢を立て直したのを見て、

「ふふ、駄目よ。幾ら爆発が在っても私の姿を見失ったら」

レミリアは爆発が在っても自分の姿を見失ったら駄目だと漏らす。
レミリアが漏らした発言で龍也は気付く。
レミリアは発生した爆発を隠れ蓑にして自身の背後に回ったのだと言う事に。
おまけに、今現在の龍也とレミリアの距離はそれなりに離れている。
これではまた炎の大剣を振るって爆発を起こさせても、今の二の舞になりそうだ。
ならば、別の手を使うだけだと龍也は思いながら左手を懐に入れる。
龍也が懐に手を入れた事で何をするかを察したレミリアは、

「……良いわ、真っ向から受けて上げる」

何処か好戦的な笑みを浮かべながら龍也に向けて駆けて行く。
自分に近付いて来ているレミリアを視界に入れながら龍也は懐からスペルカードを取り出し、

「風拳『零距離突風』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動したのと同時に龍也が右手に持っていた炎の大剣が消え、龍也の瞳の色が紅から翠に変わる。
炎の大剣が無いのであれば広範囲の攻撃は出来ないだろうとレミリアは判断し、駆けるスピードを上げて一気に龍也へと近付き、

「しっ!!」

拳を放つ。
放たれた拳を龍也はギリギリの所で避け、

「らあ!!」

レミリアの腹部に向けて拳を放つ。
カウンター気味に放たれた言う事もあってか、龍也の拳は勢い良くレミリアの腹部に激突した。
だが、これだけでは終わらず、

「ぐっ!?」

龍也の拳から強烈な突風が発生し、レミリアは吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされたレミリアは両足を強引に床に着け、無理矢理減速させながら中々に厄介なスペルカードだと言う感想を抱く。
龍也が放った拳に耐え切れても、拳から発生した突風で吹き飛ばされてしまう。
かと言って放たれた拳を紙一重で避けたとしても、これまた突風で吹き飛ばされてしまうだけ。

「となると、打てる手は……ん?」

今のスペルカードへの対策が幾つか頭に思い浮かんだ時、レミリアの目には追撃を仕掛ける為に自分に近付いて来ている龍也の姿が映った。
再び突風で吹き飛ばそうとしているのかと推察したレミリアは懐に手を入れ、龍也の様子を観察していく。
懐に手を入れた時点でレミリアが何をするかは分かりそうなものだが、龍也は変わらずにレミリアとの距離を詰めに掛かっている。
レミリアがどの様な攻撃を仕掛けて来ても真っ向から打ち砕く心積もりなのであろうか。
龍也の真意はどうであれ、龍也が少しも臆した様子を見せていない事で、

「ふふ……」

レミリアは機嫌が良さそうな表情を浮かべながら懐からスペルカード取り出し、龍也との距離が後少しと言った所まで縮まった時、

「紅符『不夜城レッド』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、レミリアから高密度の紅いエネルギーで構成された巨大な十字架が出現したではないか。
レミリアに突っ込む様に進んでいた龍也には行き成り出現した紅い十字架を回避する事は出来ず、

「ぐあ!!」

面白い様に紅い十字架に激突して弾き飛ばされてしまった。
弾き飛ばされた龍也を見たレミリアは紅い十字架を消し、弾き飛ばされた龍也を目で追っていく。
弾き飛ばされた龍也は空中に追い上げられていたので、レミリアは追撃を掛ける為に翼を羽ばたかせて空中へと躍り出る。

「ッ!!」

自分の方に向けてレミリアが勢い良く近付いて来ているのを感じた龍也は強引に体をレミリアの方に向けながら懐に手を入れ、

「拳脚『巨人の拳に巨人の脚』」

懐からスペルカードを取り出したのと同時にスペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が翠から茶に変わり、龍也の右手から土が生み出され始める。
生み出された土が巨大な拳を型作ると、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃ!!」

龍也は土で出来た巨大な拳をレミリアに向けて振り下ろす。
振り下ろされ、自分の方に向かって来ている巨大な土で出来た拳をレミリアは体を逸らす事で避けたが、

「ッ!!」

直ぐに何か気付いたかの様に高度を急激に上げた。
何故かと言うと、真下の方から土で出来た巨大な脚が迫って来ていたからだ。

「巨大な手足が連続して襲い掛かって来るとは中々に厄介……ッ!!」

土で出来た巨大な手足による攻撃への愚痴を零した瞬間、レミリアは気付く。
側面から土で出来た巨大な拳が迫って来ている事に。
自分と土で出来た拳の距離から回避は不可能だと言う事を悟ったレミリアは、

「……チッ」

舌打ちをしながら防御の体勢を取り、土で出来た拳を受け止める。
受け止めた拳は大きさに違わずにそれ相応の重さであったので、

「ぐ……くく」

レミリアは歯を喰い縛って耐えていく。
その後、レミリアは土で出来た拳を掴んで龍也を投げ飛ばそうとするが、

「な……」

レミリアが土の拳を掴む前に、土で出来た拳はレミリアから離れて行った。
土で出来た拳が離れた事で虚を突かれた様な表情を浮かべている間に、

「がっ!?」

レミリアの背中に大きな衝撃が走り、レミリアは吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされたレミリアは何が自分の背中に当たったのかを確認する為に体を回転させて自分の体が在った場所に目を向ける。
目を向けた先には土で出来た巨大な脚が見えたので、レミリアはあれで攻撃されたのだと思いなながら龍也の方に視線を移す。
今現在の龍也の風貌は両腕両足に土で出来た巨大な手足を付けていると言ったもの。
巨大で在るが故に威力が高く、範囲が広い。
だが、巨大で在るが故に懐に飛び込めれば自慢の威力と範囲は意味を成さなくなる。
吹き飛ばされながらその事を見抜いたレミリアは翼を大きく広げて急ブレーキを掛けて停止し、龍也へと突っ込む様な体勢を取り、

「ッ!!」

レミリアは弾かれる様にして龍也の方へと突っ込んで行った。
自分の方に突っ込んで来ているレミリアを見た龍也は、

「くっ!!」

レミリアの進行を止める為にレミリアの進行方向上に土で出来た巨大な両手を持って行く。
これでレミリアの進行を止めたり進行方向を変えたり出来るのでは思われたが、

「何!?」

レミリアは進行を止めたり進行方向を変えたりと言った事はせずに突撃で土で出来た手を破壊して来たではないか。
真正面からぶち抜いて来たレミリアに龍也は驚くも、直ぐに表情を戻して土で出来た両腕両脚を崩壊させて回避行動を取ろうとしたが、

「がっ!!」

回避行動を取る前にレミリアの体当たりが激突してしまい、龍也は踏鞴を踏む様に後ずさってしまう。
後ずさった事で生まれた隙を突く様にレミリアは龍也の背後に回り、

「はあ!!」

龍也の背中に蹴りを叩き込んだ。
蹴りを叩き込まれた龍也は斜め下に向けて吹っ飛んで行くが、

「……ぐっ!!」

床に叩き付けられる前に体を回転させながら体勢を立て直して足元に霊力で出来た見えない足場を作り、そこに足を着けて滑る様に減速していき、

「らあ!!」

レミリアに向けて弾幕を放つ。
迫り来る弾幕をレミリアは余裕の表情で避けていき、龍也との距離を詰めに掛かる。
レミリアの様子から弾幕を放っても余り意味を成さない事を龍也は感じ、弾幕を放つのを止めて構えを取った。
そして、龍也がレミリアの間合いに入った瞬間、

「そら!!」

レミリアは龍也に向けて己が爪を振るう。
振るわれた爪を龍也は体を逸らす事で避け、

「らあ!!」

反撃と言わんばかりに拳を放った。
放たれた拳を、

「温い!!」

レミリアは爪を振るっていない方の腕で払い、龍也の腹部に向けて蹴りを放つ。
自分の腹部に向けて迫り来る足を龍也は拳を放っていない方の腕で受け止め、レミリアの首に向けて蹴りを放った。
放たれた蹴りは勢い良くレミリアの首に向かって行ったが、

「何……」

レミリアの翼が龍也の蹴りが首に当たるのを防いだ。
翼で蹴りを防がれた事に龍也が驚いている間に、

「あら、ボーッとしていても良いのかしら?」

レミリアはもう片方の翼を龍也の顎に向けて伸ばす。
レミリアの攻撃で龍也は表情を戻し、回避行動を取ろうとするが、

「があ!?」

回避行動を取る前にレミリアの翼が龍也の顎に直撃してしまう。
翼が顎に直撃し、体が若干浮かび上がって無防備になった龍也の胴体に、

「はあ!!」

レミリアは回し蹴りを叩き込んだ。
回し蹴りを叩き込まれた龍也は、

「がは!!」

勢い良く床に向けて落下して行き、

「あぐ!!」

床に激突し、一回バウンドしてからうつ伏せの状態で倒れ込んでしまう。
勢い良く床に叩き付けられたのだから立ち上がるまでに時間が掛かると思われたが、

「ぐ……ぐぐ……」

龍也は然程時間を掛けずに立ち上がった。
立ち上がった龍也は意識を確りさせるかの様に頭を振り、

「つつ……さっきのスペルカードを使って置いて正解だったな」

先程のスペルカードを使って置いて正解だったと呟く。
龍也が先程発動させたスペルカードは玄武の力を用いるものなので、そのスペルカードを使えば龍也の力は玄武の力に変わるのだ。
更に言えば玄武の力は何も龍也に地の力を扱える様にするだけでは無く、防御力を大きく上げる効果も存在している。
故に、龍也は勢い良く床に叩き付けられても早くに起き上がる事が出来たのだ。
余談ではあるが、スペルカードの発動を止めたり同系統以外の他のスペルカードを使うと龍也の力は消えたり変わったりする。
それはそうと、立ち上がった龍也は顔を上げてレミリアの方に顔を動かす。
顔を向けた龍也の目には、猛スピードで自分の方に向けて突っ込んで来ているレミリアの姿が映った。
自分に向けて迫って来ているレミリアを見て、再び体当たりを仕掛けて来る気かと思った龍也は左手を懐に入れながら右手をレミリアの方に向け、

「霊撃『霊散波』」

懐からスペルカードを取り出し、スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が茶から黒に戻り、右手から青白い閃光が広範囲に迸った。
霊散波と言う技は霊流波のバージョン違いの技みたいなものだ。
霊流波は高威力で長射程だが、霊散波は広範囲で短射程。
短射程ではあるが広範囲である為、

「ッ!!」

目の前で青白い閃光が迸っているのを見たレミリアは慌てて急ブレーキを掛けた。
急ブレーキを掛けた事で何とか青白い閃光に突っ込むと言う事態は避けれたレミリアに対し、

「……ちっ」

霊散波を放っている龍也は自分の攻撃が当たらなかった事に舌打ちを零す。
まぁ、霊散波が当たったとしても大きなダメージになったとは思えないが。
兎も角、霊散波が外れいる事で龍也はスペルカードの発動を止めて後ろへと跳ぶ。
目の前で迸っていた青白い閃光が消えると、レミリアは床に足を着け、

「しっ!!」

後ろに跳んだ龍也を追いながら己が爪を振るう。
振るわれた爪を龍也は更に後ろに下がる事で避け、

「はあ!!」

蹴りを放つ。
放たれた蹴りをレミリアは片腕で受け止め、

「そら!!」

龍也の胴体に向けて蹴りを放った。
放たれた蹴りに反応した龍也は両腕を交差させて防御の体勢を取ったが、

「ぐあ!!」

防御の上から蹴り飛ばされてしまう。
蹴り飛ばされた龍也は強引に体勢を立て直しながら懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、

「龍爪『龍の爪』」

スペルカードが発動させた。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が黒から蒼に変わり、龍也の両手に水が纏わされていく。
そして、纏わされた水が龍の手を思わせる様な形に変わっていくと、

「ッ!! 水!?」

龍也へと追撃を掛け様としていたレミリアは慌てた表情を浮かべながら急ブレーキを掛ける。
だが、レミリアが急ブレーキを時には既に龍也の間合いに入ってしまっており、

「はあ!!」

龍也は急ブレーキを掛けた事で生まれたレミリアの隙を突く様に攻撃を行った。
先ず右手を左斜め上に向けて振るい、次に左手を右斜め上に向けて振るう。

「ぐう!!」

龍也の水の爪による斬撃の直撃を受けたレミリアは、成す術も無く体を浮かび上がらせてしまった。
体を浮かび上がらせ、隙だらけとなったレミリアを、

「はあ!!」

龍也は引き裂き、叩き落すかの様な勢いで両手を振り下ろす。
龍也が振り下ろした水を纏わせた両手をその身に受けたレミリアは、

「あう!!」

床に叩き落されてしまった。
床に叩き落されたレミリアを見た後、龍也は残っている斬撃の後に目を向ける。
そう、このスペルカードは何も水の爪による斬撃を三回放つだけでは無い。
放った斬撃の軌跡がある程度残ると言う効果が在るのだ。
レミリアが何も考えずに立ち上がってくれれば残っている斬撃に当たって追加ダメージがいくであろうが、斬撃が残っている事はレミリアも気付いているだろう。
ならば、追加ダメージは期待せずに斬撃が消えた後のレミリアに警戒すべきだ。
その事を龍也が頭に入れている間に残っていた斬撃が消えたので、龍也は起き上がって来るであろうレミリアに警戒を向ける。
が、

「……あれ?」

レミリアは起き上がって来なかった。
今程度のダメージならさっさと起き上がって可笑しく無いのに、起き上がって来ないレミリアに龍也は不信感を抱いたが、

「……あ」

直ぐにある事を思い出す。
思い出した事と言うのは、吸血鬼は流水を弱点としていると言う事だ。
両手に水を纏わせているだけなら只の水だが、それを振るったとなれば流水となるだろう。
思いっ切り吸血鬼の弱点を突く事になったからか、

「お、おい。大丈夫か?」

龍也はレミリア大丈夫かと尋ねる。
尋ねられたレミリアは、

「うー……まさか流水系の技を使ってくるとは……」

流水系の攻撃をしてくる思っていなかったと呟く。
レミリアの声色から深刻なダメージを負っている訳では無い事を察した龍也はスペルカードの発動を止める。
スペルカードの発動を止めた事で龍也の瞳の色が蒼から黒に戻り、龍也の手に纏わされていた水が崩壊して零れ落ちた後、

「立てるか?」

龍也は倒れているレミリアに手を差し出した。
差し出された手をレミリアは掴んで立ち上がり、

「ええ、大丈夫よ」

大丈夫だと口にしながら龍也の手から自分の手を離し、

「……と、そう言えば貴方が今回作ったスペルカードは後何枚在るのかしら?」

龍也が今回作ったスペルカードは後何枚在るのかと問う。
問われた事に対する答えとして、

「いや、今ので最後だ」

龍也は今ので最後である事を伝える。
龍也が作ったスペルカードのテストが終わった事で、

「あら、今ので最後だったの。と言うか、最後の最後で流水系のスペルカードを使って来るとはね……」

レミリアは体の力を抜き、最後の最後ので流水系のスペルカードを使ってくるとは思わなかったと言う様な事を漏らす。

「今更だけど、吸血鬼の弱点である流水系の攻撃を受けても全然平気そうだな」
「確かに流水は吸血鬼である私に取っては弱点だけど、スペルカードで放たれた技だからね。直撃を受けてもそこまで大きなダメージにはならないわ」

龍也の疑問にレミリアはスペルカードで放たれた技なら流水系の直撃を受けても大きなダメージにはならないと言い、

「それにしても、本当に強くなったわね。私と初めて戦った時とは比べ物にならない程に」

龍也の強さを称賛した後、

「やっぱり、貴方が欲しいわ。ねぇ、龍也。私のものにならない?」

色っぽさを感じさせる声色で自分のものにならないかと聞く。

「前にも言ったろ、断るって」
「あら、それは残念」

龍也とレミリアが二人の間である種のお約束となっている様なやり取りを終えると、

「終わった様ね」

パチュリーが龍也とレミリアの傍までやって来た。

「あら、パチェじゃない。どうしたの?」
「どうしたって、貴方達の戦闘音が激しくなってたから不安になって様子を見に来たのよ」

レミリアの疑問にパチュリーはそう答え、

「ま、私の図書館が無事な様で良かったけど」

図書館が無事である事を知って安心した表情を浮かべる。
その後、パチュリーは表情を戻し、

「さて、約束通り本の整理をして貰いましょうか」

龍也に本の整理をする様に言う。

「ああ、任せて置け」

本の整理はちゃんとやるとパチュリーに言った後、龍也はレミリアの方に顔を向け、

「俺はこれから本の整理をするけど、レミリアはどうする?」

自分はこれから本の整理をするが、レミリアはどうするかと尋ねる。

「そうね……今は咲夜が居ない事だし、偶には自分で紅茶でも淹れ様かしら」
「あら、自分で紅茶を淹れ様だ何てこれまた珍しい事をやろうと思ったわね。幾ら咲夜が出掛けていると言っても、出掛けている咲夜を呼び寄せる術は
在るでしょうに」

尋ねられた事に自分で紅茶でも淹れ様かと答えたレミリアに、パチュリーは少し驚いた表情を浮かべた。
そんなパチュリーの疑問を晴らすかの様に、

「異変を解決する為の情報を頑張って集めている従者を態々呼び寄せるのもあれだしね」

異変を解決する為の情報を集めている従者を態々呼び寄せるのもあれだと言う。

「あら、意外と従者想いなのね、レミィ」
「失礼ね。私は何時だって従者想いよ、パチェ」

パチュリーとレミリアが少しふざけ合った様な会話を交わした後、

「それじゃ、私は館の方に戻るわ。パチェの手伝い、頑張ってね」

レミリアは龍也にパチュリーの手伝いを頑張れと言った言葉を残し、去って行く。
去って行ったレミリアの姿が見えなくなくなったタイミングで、

「さて、貴方に整理して欲しい本が置いて在る場所まで案内するわ。付いて来て」

パチュリーは龍也に整理して欲しい本が置いて在る場所まで案内するから付いて来る様に口にし、龍也に背を向けて足を進め始めた。
歩き出したパチュリーの後を追う為、龍也も足を進め始める。





















「……やれやれ、やっと半分ってとこか?」

手に持っていた本を本棚に収めた後、龍也はやっと半分かと呟きながら近くに在る机に目を向ける。
目を向けた先に在る机には、まだ山の様な本が乗っかっていた。
レミリアに自分が作ったスペルカードのテストに付き合って貰った後、龍也は約束通り本の整理を行っていた。
龍也が本の整理を行ってから結構な時間が経ったのだが、それでもまだ半分しか終わっていない。
龍也は安請け合いし過ぎたかと思ったが、約束は約束。
残り半分頑張るかと言う様に龍也が気合を入れ直すと、

「りゅーやー!!」

何処からか龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自分の名を呼ぶ声に反応した龍也は声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には、

「フランドール!?」

勢い良く自分の方に向けて突っ込んで来ているフランドールの姿が映った。
この儘ボーッと突っ立ていては確実にフランドールの体当たりを喰らってしまうで、龍也は両腕を広げて突っ込んで来たフランドールを受け止める。
が、

「……ッ!! と!! お、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

突っ込んで来たフランドールの力が強過ぎたせいか、龍也は床を滑る様にして後退ってしまう。
フランドールを受け止め、後ずさっている龍也が既視感を感じ始めた時、

「あだ!!」

龍也は背後に在った本棚に激突し、後退りが止まる。
本棚に激突してしまったが、本棚が倒れる事は無かった。
本棚が倒れなかった事に安堵しつつ、

「……たく、危ねぇな」

龍也は受け止めていたフランドールを降ろし、

「お前な、もう少し力を加減を覚えろよ」

力加減を覚えろと言う。
そう言われたフランドールは、

「えへへ、ごめんなさーい」

満面の笑顔でごめんなさいと言う言葉を返した。
フランドールの表情から欠片も反省していないなと感じた龍也は溜息を一つ吐き、

「……で、図書館に来たって事は本でも読みに来たのか?」

フランドールに本でも読みに来たのかと尋ねる。
尋ねられた事に、

「最初はそうだったんだけど、龍也を見付けたから龍也と遊ぼうと思ったんだ!!」

最初はそうだったが、龍也を見付けたから本を読む事よりも龍也と遊ぼうと思ったと言う答えをフランドールは返す。

「遊ぼうって言われてもな……俺、今本の整理をしてるんだけど……」
「えー!!」

龍也が本の整理をしている最中だと言う事を漏らすと、フランドールは誰が見ても分かる位の不満気な表情を浮かべた。
それだけ、龍也と遊ぶのを楽しみであった様だ。
そんなフランドールの心情を察したからか、

「あー……」

龍也は何かを考える素振りを見せ、

「まいっか。一緒に遊ぶか」

フランドールと一緒に遊ぶ事を決めた。
龍也が自分と遊ぶ事を承諾してくれたからか、

「え、良いの!?」

フランドールは思いっ切り嬉しそうな表情を浮かべる。

「ああ、良いぜ。一緒に遊ぼうか」
「やった!! それじゃ、あっちに行こ!!」

龍也がもう一度一緒に遊ぼうと言うと、フランドールは龍也の手を取って何処かへと移動し始めた。
遊ぶのに適した広い場所にでも行くのだろうと龍也は考え、特に抵抗をしたりはせずに足を進めて行く。




















余談ではあるが、フランドールと一緒に遊んだお陰で龍也が本の整理を終わらせるのに想像以上の時間が掛かった。
具体的に言うと、月が天を支配する時間帯に終わったのだ。
そんな時間帯にまた外に出るのもあれだったので、龍也は紅魔館に泊まる事にした。























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