「ん……」
頭が思う様に働いていない事を何処か他人事の様に感じつつ、龍也は目を開いて上半身を起こす。
上半身を起こした後、龍也は周囲を見渡していく。
周囲を見渡している間に龍也の頭が少しずつ覚醒していき、
「ああ……」
思い出す。
紅魔館に泊まった事を。
「にしても、ここのベッドは相変わらず豪華だな。お陰で疲れも十分に取れたぜ」
自分が寝ていたベッドの感想を漏らしつつ、龍也は上半身を伸ばして軽いストレッチを行う。
ストレッチを行い、頭と体が良い感じに覚醒した辺りで、
「よ……っと」
龍也はベッドから降りて椅子に掛けてある学ラン手に取り、学ランを着込んで部屋の外に出る。
部屋の外に出た龍也が、
「んー……」
もう一度上半身を伸ばしていると、
「おはよう、龍也」
何時の間にか龍也の傍に来ていた咲夜が朝の挨拶を掛けて来た。
掛けられた挨拶に反応した龍也は上半身を伸ばすのを止めながら咲夜の方に体を向け、
「ああ、おはよう。咲夜」
朝の挨拶を返す。
その後、
「そう言えば、咲夜は異変の犯人を見付ける事は出来たか?」
龍也は咲夜に異変の犯人を見付ける事は出来たかと尋ねる。
尋ねられた事に対する答えとして、
「いえ、残念ながら犯人を見付ける事は出来なかったわ」
咲夜は少し悔しそうな表情を浮かべながら犯人を見付ける事は出来なかったと漏らす。
まぁ、そう易々と犯人が見付かったら宴会が短い頻度で連続して開かれると言った事にはならなかった筈なので仕方が無いと言えば仕方が無い。
今回の異変は犯人に辿り着くまで骨が折れそうだと言う事を龍也は思いつつ、
「それはそうと、勿論今日も行くんだろ?」
咲夜に分かり切った事の確認を取るかの様に今日も異変を起こした犯人を見付けに行くんだろうと問う。
問われた事に、
「当然。と言っても、紅魔館で行わなければならない雑事を片付けてからになるだろうけど」
咲夜は紅魔館で行わなければならない雑事を片付けた後に犯人を見付けに行くと言う旨を口にした。
今日の咲夜の予定は紅魔館での雑事に異変の犯人を見付ける事。
中々にハードスケジュールだなと龍也が感じている間に、
「そうそう、朝ご飯は食べていくかしら?」
咲夜は龍也に朝ご飯を食べていくかと聞く。
朝ご飯の話題を出されたからか、龍也は空腹感を覚え始めた。
なので、
「そうだな、食べてく」
龍也は朝ご飯を食べていく事を決める。
「了解。それなら和食、洋食、中華のどれが良いかしら?」
「洋食」
咲夜から朝ご飯は和食、洋食、中華のどれが良いかと言われたので、龍也は間髪入れずに洋食が食べたいと言う主張を行った。
龍也の主張を聞いた咲夜は、
「洋食ね……分かったわ。それじゃ、食堂まで案内するから付いて来て」
了承の返事をし、食堂まで案内するから自分に付いて来る様に言って歩き出す。
歩き出した咲夜の後を追う様に龍也も歩き出した。
二人が歩き出してから少しすると大きな扉の前まで辿り着き、咲夜は扉を開けて中へと入って行く。
中へと入った咲夜に続く様に龍也も中へと入り、
「相変わらず広いな、ここの食堂は」
相変わらず広いと言う感想を抱きならキョロキョロと周囲を見渡す。
そんな龍也に、
「じゃ、今から作るから何処か適当な場所に座って待っていて」
咲夜は今から朝食を作るから何処か適当な場所に座って待っていろと言う言葉を残し、台所へと向かって行く。
台所へと向かって行った咲夜を見届けた後、龍也が近くの椅子に腰を落ち着かせた瞬間、
「お待たせ」
咲夜が現れた。
おまけに、何も置いていなかったテーブルの上に幾つかの料理が並んでいるではないか。
突如、何の前触れ無く現れた咲夜と料理に龍也は驚きながら、
「え? あれ?」
何処か唖然とした表情を咲夜に向ける。
龍也の表情に気付いた咲夜は、
「あら、私の能力を忘れたのかしら?」
自分の能力を忘れたのかと漏らす。
咲夜が漏らした言葉で龍也は直ぐに咲夜の能力を思い出し、
「……ああ」
納得した表情を浮かべた。
咲夜の能力は時間を操る程度の能力。
ならば、一瞬で料理を作って机の上に並べる事など造作も無い事だろう。
「相変わらず便利だよな。お前の能力」
咲夜の能力は便利だと龍也は呟き、
「いただきます」
テーブルの上に並べられている料理を食べる始める。
腹が空いていると言う事もあってか、テーブルの上に乗っている料理は勢い良く無くなっていき、
「ごちそうさま」
然程時間を掛けずに龍也は出された料理を食べ切った。
龍也の食べっぷりを見た咲夜は、
「お粗末様。それにしても、冥界のお姫様を思わせる様な食べっぷりだったわね」
少し呆れた表情になりながら今の龍也の食べっぷりを西行寺幽々子の様だと称し、空になった食器を一箇所に集めていく。
食べっぷりが幽々子の様だと称された龍也は、
「いや、流石に幽々子の食べっぷりに勝てる気はしないぞ。俺……あ」
流石に幽々子の食べっぷりには適わないと返したが、龍也の返答を聞く前に咲夜が姿を消してしまった。
テーブルの上に乗っかっていた空になった食器と一緒に。
何の前触れも無く消えた咲夜と空になった食器。
この二つの事象から、咲夜がまた時間を止めたのだなと言う推察をしている間に、
「先程何かを言い掛けていた様だけど……何?」
咲夜が再び現れた。
おそらく、時間を止めて食器を洗っていたのだろう。
本当に咲夜の能力は便利だと龍也は改めて思いつつ、
「いや、何でも無い」
咲夜が聞いて来た事に何でも無いと呟きながら立ち上がって上半身を軽く動かし、
「……うん、食い過ぎで動けないって事は無さそうだ」
動き回るのに問題無いと判断すると龍也は上半身を動かすのを止めた。
そのタイミングで、
「その様子だと、もう紅魔館を出る様ね。ここから出口までの案内は必要かしら?」
咲夜は出口までの案内は必要かと尋ねる。
「いや……大丈夫だ」
「そう。なら、私はこれから館の掃除に向かうわね」
出口への案内が不要である事を知った咲夜は、三度唐突に姿を消す。
今の言葉通り、紅魔館の掃除をしに向かったのだろう。
咲夜が掃除を頑張っている間に自分も異変の犯人探しを頑張るかと龍也は気合を入れ直し、食堂を後にする。
食堂を後にした龍也はその儘紅魔館の外へと続く扉の前まで移動し、扉を開けて外に出て、
「んー……良い天気だ」
良い天気だと言う感想を漏らしながら両腕を大きく伸ばし、今日の予定を立てていく。
闇雲に動き回っても何の手掛かりも得られそうには無いので、パチュリーのアドバイス通り妖怪か妖力を扱っている者に会いに行くのが良いだろう。
「……よし」
本日の予定を決めた龍也は伸ばしていた両腕を降ろし、正面に見える門を目指して足を進め始める。
そして、門までの距離が後半分と行った所にまで来た時、
「お、龍也じゃないか」
上空の方から龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自分の名を呼ぶ声に反応した龍也は足を止め、視線を上空に移す。
視線を移した先には魔理沙の姿が見え、見えた魔理沙はどんどんと高度を落として地に足を着け、
「よっ」
片手を上げて挨拶の言葉を掛けて来た。
掛けられた挨拶の言葉に返す様に、
「よう」
龍也も片手を挨拶の言葉を返すと、
「何やってたんだ、こんな所で?」
魔理沙が何をやっているんだと聞いて来た。
「ああ、昨日は紅魔館に泊まっていたんだ」
「へー……」
龍也から紅魔館にいる理由を教えられた魔理沙が納得した表情を浮かべたのを見て、
「それはそうと、魔理沙は何しに紅魔館に来たんだ?」
今度は龍也が魔理沙に紅魔館にやって来た理由を聞く。
龍也が正直に紅魔館に居た理由を教えてくれたと言う事もあってか、
「私か? 私はここの図書館で調べたい事が在るから来たんだぜ」
魔理沙も正直に紅魔館にやって来た理由を教えたくれた。
図書館で調べたい事。
それだけで魔理沙が何を調べ様としているのかを察した龍也が、
「調べ事……若しかして、博麗神社に漂っている妖力の事か?」
「お、良く分かったな。その通りだぜ」
確認を取る様に調べたい事と言うのは博麗神社に漂っている妖力の事かと問うと、魔理沙は間髪入れずにその通りだと答える。
やはりと言うべきか、魔理沙も今回の件に付いて調べていた様だ。
ならば、ここで魔理沙と情報交換をし様かと龍也が考えた瞬間、
「……ま、図書館で調べる前に龍也を倒す事になるがな」
魔理沙は図書館で調べる前に龍也を倒す事になると言って後ろに跳び、間合いを取った。
魔理沙の台詞と魔理沙が後ろに跳んで間合いを取った事から、龍也は思い出す。
今回の件で一番犯人として疑われている者は自分であると言う事を。
こんな事ならパチュリーの注意をもっと真剣に受け止めて置くべきだったと思いつつ、
「つまり、お前も俺が怪しいと思っているのか」
何処か諦めた様な表情を浮かべながら魔理沙も自分が怪しいと思っているのかと呟く。
龍也の呟きが耳に入った魔理沙は、
「その通り!! それに龍也が犯人じゃなくても、怪しい奴を倒していけばその内犯人に当たる筈だからな」
元気良くその通りだと宣言し、つい最近聞いた様な台詞を口にする。
何処か得意気な表情を浮かべながら。
そんな魔理沙を余所に、龍也はある決意をしていた。
どんな決意をしたのかと言うと、今回の件の犯人をボコボコにすると言う事だ。
まぁ、無実だと言うのにこう何度も犯人扱いされているのだからその様な決意をしても無理はない。
龍也がそんな決意をしている間に、
「そう言えば……龍也の修行には付き合ってやった事はあったけど、こうやって戦うのは初めてだな。まぁ、戦うと言っても弾幕ごっこでだが」
魔理沙はふと、思い出したかの様に龍也と戦うのは初めてだと漏らす。
魔理沙が漏らした発言が聞こえた龍也は、
「そう言われれば……そうだな」
魔理沙の発言に同意し、
「悪いが、無実の罪でボコられてやる気は無いんでな。勝たせて貰うぜ」
強気な台詞を述べながら構えを取った。
龍也の強気な受けた魔理沙は何処か好戦的な笑みを浮かべ、
「お、強気な台詞だな。けど、勝つのは私だぜ」
勝つのは自分だと宣言して構えを取る。
二人が構えを取ってから少し時間が流れたが、どちらも動かずに膠着状態になっていた。
動かず、待っているだけと言う現状に痺れを切らしたからか、
「……来ないのなら、こっちからいくぜ!!」
魔理沙は開始の合図と言わんばかりに星型の弾幕を幾つも放つ。
放たれた弾幕は小手調べの意味合いがあるからか、密度は薄く量も少ない。
だからか、龍也は回避行動を取ったりと言ったをせずに地を駆けて魔理沙へと近付いて行く。
魔理沙へと近付いて行けば当然の様に魔理沙が放った弾幕に突っ込むと言う事になるが、龍也は弾幕に被弾する事無く魔理沙との距離を詰めて行った。
そして、魔理沙が自分の間合いに入ると、
「はあ!!」
龍也は拳を放つ。
放たれた拳を、
「おっと!!」
魔理沙は後ろに跳んで回避する。
放った拳を避けられてしまったものの、龍也は拳を放った体勢の儘握っていた拳を開き、
「しっ!!」
魔理沙に向けて弾幕を放った。
握っていた拳を開いて弾幕を放って来ると言った事を仕出かした龍也に魔理沙は少し驚くも、
「とと……」
大した苦も無く迫って来た弾幕を避けていく。
が、魔理沙が弾幕を避けている間に龍也は再び地を駆けて魔理沙へと近付き、
「らあ!!」
また拳を振るう。
弾幕を避ける為に動いて魔理沙に龍也の拳を防ぐ術は無いと思われたが、
「甘いぜ!!」
魔理沙は振るわれた拳の射線上に障壁を展開させ、龍也が振るった拳を防いだ。
これで一安心と魔理沙は思ったが、魔理沙の安心を吹き飛ばすかの様に、
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
龍也は魔理沙が展開した障壁に向け、拳を連続して叩き込んでいく。
拳を障壁に向けて連続して叩き込んだものだから、
「ちょ!! 待て!?」
障壁にどんどんと罅が入っていき、
「げ!?」
魔理沙が展開した障壁は砕け散るかの様に破壊されてしまった。
自身が展開した障壁を破壊された事で、魔理沙は踏鞴を踏むかの様に数歩後ろに下がってしまう。
後ろに下がった魔理沙を追う様に龍也は一歩大きく前に踏み込み、
「らあ!!」
力を籠めた右ストレートを放つ。
放たれた右ストレートは勢い良く魔理沙へと向かっていくが、
「ッ!!」
龍也の拳が魔理沙の体に当たる直前、魔理沙は反射的に箒を盾の様に構える。
箒を盾の様に構えたお陰で魔理沙は龍也の右ストレートの直撃を受ける事は無かったが、
「ぐっ!!」
代わりに箒の上から殴り飛ばされてしまった。
殴り飛ばされた魔理沙を見ながら、
「……頑丈な箒だな」
龍也は頑丈な箒だなと言う感想を抱く。
龍也の右ストレートの直撃を受けた魔理沙の箒は、破損処か罅の一つも入っていない。
見た目は普通の箒と大して変わらないが、流石は魔理沙が愛用している箒と言ったところか。
魔理沙に攻撃を行う際には箒にも注意を払うべきだと龍也が考えた時、
「……ん?」
龍也は上から何かが落ちて来ている事に気付く。
何が落ちて来ているのかが気になった龍也は視線を上へと向けた。
視線を上に向けた結果、
「あれは……フラスコか?」
龍也は落ちて来ている物がフラスコである事を知る。
何でこんな所にフラスコがと言う疑問を龍也が持ったのと同時にフラスコは地面に激突し、
「な!?」
爆発した。
突然の爆発に龍也は驚くも、反射的に両腕を交差させて防御の体勢を取る。
防御の体勢を取った龍也に爆発が発生した影響で生まれた爆風などが襲い掛かるが、
「ぐ……くく……」
龍也を多少後ろに下がらせる程度で、龍也にダメージらしいダメージを与える事は出来なかった。
そして、発生していた爆発が消えたタイミングで龍也が防御の体勢を解こうとした瞬間、
「ッ!?」
龍也の両腕に大きな衝撃が走り、龍也は地面を削る様にして後ろへと下がって行ってしまう。
後ろに下がってしまっている龍也は下半身に力を入れてブレーキを掛けつつ、視線を交差している両腕の先に向ける。
視線を向けた龍也の目には、箒に跨って自分に突撃を仕掛けて来ている魔理沙の姿が映った。
もし、防御を解いていたら魔理沙の箒による突撃の直撃を龍也は受けていた事だろう。
そう言った意味では自分は運が良いと思いつつ、
「りゃあ!!」
龍也は勢い良く防御の体勢を解いた。
勢い良く防御の体勢を解いた事で龍也と接触していた魔理沙は弾き飛ばされてしまうが、
「おっと」
弾き飛ばされている間に体を回転させて体勢を立て直し、箒を右手に持って地に足を着ける。
お互い間合いが離れ、仕切り直しと言った感じになったからか、
「さっきのフラスコ、あれはお前の仕業だろ?」
龍也は魔理沙に先のフラスコはお前の仕業だろうと問う。
問うた事を、
「そうだぜ」
魔理沙が肯定したので、
「あのフラスコの中身は何だよ?」
龍也は続けてフラスコの中身を聞く。
すると、
「私特性の魔法薬だぜ。中々威力が有っただろ」
魔理沙は満面の笑顔でフラスコの中身は自分特性の魔法薬だと答えた。
魔理沙特性の魔法薬と言うからには、先程のフラスコ一つと決め付けるのは早計だろう。
少なくとも、後十個は今のフラスコを持っていると考えた方が良い。
何時フラスコが飛んで来るかは分からないと言う事を頭に入れつつ、龍也は一瞬で移動出来る移動術を使って魔理沙の懐に入り込み、
「らあ!!」
拳を放つ。
放たれた拳を、
「危なっ!!」
魔理沙は反射的に体を逸らす事で避ける。
更に、体を逸らした勢いを利用して魔理沙は体を一回転させ、
「お返しだぜ!!」
箒を龍也の頭部目掛けて振るう。
自分の頭部に向けて箒が迫って来ている事に気付いた龍也は腕を頭部の方へと持っていき、
「ぐう!!」
魔理沙の箒による攻撃を腕で防ぐ。
本来であればここから攻撃を行うところなのだが、
「ぐ……くく……」
龍也は攻撃に移れないでいた。
何故かと言うと、龍也が思っていた以上に魔理沙が振るった箒が重かったからだ。
龍也が攻勢に移れず、吹き飛ばされない様に踏ん張っている間に魔理沙は後ろに下がり、
「そら!!」
龍也に向けて弾幕を放つ。
放たれた弾幕を見て、
「ちっ!!」
龍也は舌打ちをし、後ろに下がりながら弾幕を回避して行く。
何故後ろに下がったのかと言うと、魔理沙が放った弾幕は放射状に広がっていくタイプであるからだ。
放射状に広がっていくタイプの弾幕であるが故に魔理沙に近付けば近付く程に弾幕が濃くなり、弾幕を放ったとしても魔理沙に届く前に撃ち消されてしまうだろう。
ならば、魔理沙に弾幕を放つのを止めさせれば良いだけ。
そう考えた龍也は何かを覚悟した様な表情を浮かべ、魔理沙の方へと突っ込んで行く。
魔理沙の方に突っ込んで行くと言う事は大量の弾幕の中に突っ込んで行くと言ってるのと同じ。
この儘では龍也は魔理沙が放つ弾幕の全てをその身に受ける事になってしまうと思われたが、
「……ぐっ!!」
龍也は自身の被害を弾幕の直撃では無く弾幕を体に掠らせる程度に抑えていた。
上手い事直撃を避けている様だが、それは今だけ。
直ぐに魔理沙の弾幕の直撃を受ける事になるだろう。
その事は龍也も理解しているからか、
「……今だ!!」
龍也は唐突に跳躍を行って弾幕の射線外に逃れた。
「何!?」
何の前触れも無く跳躍を行って自身の弾幕の射線上から逃れた龍也に、魔理沙は驚いて思わず動きを止めてしまう。
だが、魔理沙は直ぐに再起動して弾幕の射線を跳躍した龍也へと移す。
しかし、魔理沙が再起動して弾幕の射線を龍也へと移している間に龍也は右手から霊力で出来た弾を一発だけ生み出し、
「行け!!」
生み出した弾を自分の真下とへと投げ飛ばす。
投げ飛ばされた弾は勢い良く地面へと激突し、爆発と爆煙を発生させる。
発生した爆煙に魔理沙が包まれると、魔理沙から弾幕が放たれなくなった。
弾幕が放たれなくなったのは魔理沙が自分の位置を見失ったのだと判断した龍也は体を回転させ、頭を爆煙の中に居るであろう魔理沙の方に向ける。
そして、足の裏に霊力で出来た見えない足場を作り、
「ッ!!」
作った足場を思いっ切り蹴って魔理沙が居る場所へと突っ込んで行く。
突っ込んだ龍也が後少しで爆煙の中に入と言った所にまで来た瞬間、爆煙の一部が光を発する。
発せられた光を見た龍也が反射的に体を逸らすと、
「なっ!?」
龍也の眼前をレーザーが通過した。
同時にレーザーの余波で残っていた爆煙が吹き飛び、龍也に向けて右手を翳している魔理沙の姿が露になる。
どうやら、爆煙の中から龍也に向けてレーザーを放った様だ。
魔理沙が爆煙に包まれ、弾幕が放たれなくなったからと言って突っ込んだのは早計だったかと龍也が思っている間に、
「……ッ」
魔理沙の掌に光が集まっていき、二発目のレーザーが放たれた。
二発目のレーザーを皮切りに魔理沙が次々とレーザーを放って来る展開を容易に予想する事が出来た為、
「くそ!!」
龍也は悪態を吐きながら弾かれる様にして今居る場所から離れ、地に足を着ける。
龍也が地に足を着けたからか、魔理沙は三発目のレーザーを放つ為に掌に集めていた光を四散させて左手を懐に入れた。
魔理沙が懐に手を入れた事で何をするかを察した龍也が間合いを取る為に後ろへと跳んだのと同時に魔理沙は懐からスペルカードを取り出し、
「魔符『スターダストレヴァリエ』」
スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると魔理沙は箒に跨り、回転しながら龍也に向けて突っ込んで行く。
丁度後ろに跳んでいる龍也には魔理沙の突撃を避ける術は無く、
「ぐっ!?」
龍也は魔理沙の突撃の直撃を受けて背中から地面に墜落し、地面を滑る様にして吹っ飛んで行った。
吹き飛びが収まった後、
「ぐ……くそ……」
龍也は受けたダメージを堪えながら何とか立ち上がったが、再び魔理沙が突撃を仕掛けて来ているのが見えた為、
「ちぃ!!」
飛び込み前転を行って今居る場所から離れる。
体を回転させている間に魔理沙が方向転換をしているのを龍也は感じ取っていた。
おそらく、また箒に跨っての突撃を仕掛けて来る気だろう。
だとするならば回避よりも迎撃を優先した方が良いと龍也は判断し、体を魔理沙の方に向けながら立ち上がって懐に手を入れ、
「風拳『零距離突風』」
懐からスペルカードを取り出してスペルカードを発動させる。
スペルカードを発動させた事で龍也の瞳の色が黒から翠に変わった。
それはそうと、龍也がスペルカードを発動させたのを魔理沙は見ていた筈なのだが、
「へへ……」
魔理沙は臆した様子を見せる処か楽しみだと言う表情を浮かべ、突っ込むスピードを上げる。
欠片も臆した様子を見せない魔理沙を見て、龍也は魔理沙らしいと思いながら腰を少し落として右手を引き、
「……せい!!」
魔理沙の箒の柄頭が目の前に来たタイミングで右手の拳を放つ。
放たれた拳は箒の柄頭に激突し、龍也の拳から突風が放たれ、
「おわあ!?」
魔理沙を吹き飛ばす。
だが、箒による突撃の衝撃を無効化出来た訳でも無い様で、
「ぐあ!?」
龍也も吹き飛ばされてしまった。
お互い吹き飛ばされ、間合いが取れた後、
「おー……いてて。まさか、拳の先から突風が放たれる思わなかったぜ」
「……ほんと、頑丈だな。お前の箒。殴った拳に一寸痛みが走ってるぜ」
魔理沙と龍也は軽口を叩き合いながら体勢を立て直し、ジリジリと間合いを詰めて行く。
少しずつ、少しずつ二人の間合いは詰まって行ったが、
「「…………………………………………………………」」
ある程度間合いが詰まった所で、二人は間合いを詰めるの止めた。
が、間合いを詰める代わりと言わんばかり龍也と魔理沙は懐に手を入れ、
「さて、でかいのを一発ぶっ放すが……耐え切れるか?」
「お、気が合うな。私もでかいのをぶっ放そうと思ってんだが……お前こそ耐え切れるか?」
また軽口を叩き合いながら龍也はスペルカードを、魔理沙はスペルカードとミニ八卦炉を取り出す。
龍也と魔理沙の二人は相手が取り出した物に一瞬だけ目を向けた後、
「霊撃『霊流波』」
「恋符『マスタースパーク』」
スペルカードを同時に発動させて龍也はスペルカードを持っていない手を、魔理沙はミニ八卦炉を持っている手をそれぞれ突き出した。
スペルカードが発動した事で龍也の瞳の色が翠から黒に戻った瞬間、龍也の掌から青白い閃光が迸る。
迸った青白い閃光を迎え撃つかの様に、魔理沙の掌から極太レーザーが放たれた。
青白い閃光と極太レーザーは当然の様に激突し、相手を呑み込まんと鬩ぎ合う。
最初は均衡し合っていた青白い閃光と極太レーザーであったが、
「ぐ……」
青白い閃光は少しずつ極太レーザーに押され始めた。
自身の攻撃が押され始めている現状に龍也が苦々しい表情を浮かべると、
「私のマスタースパークに似ていて、私のマスタースパークよりも進行スピードが速くて少し驚いたが……私のマスタースパークの方がパワーは上だった様だな。
へへ、やっぱり弾幕はパワーだぜ」
魔理沙は得意気な表情を浮かべながら自分のマスタースパークの方が威力は上だと呟く。
事実、龍也の青白い閃光は魔理沙の極太レーザーに押されているので魔理沙の呟きは正しいだろう。
龍也と魔理沙の距離がもっと近ければ結果は変わっていただろうが、現状は龍也の圧倒的不利。
この儘霊流波を放ち続けても魔理沙のマスタースパークに完全に押され、呑み込まれると感じた龍也はスペルカードの発動を止め、
「だっ!!」
跳躍を行い、極太レーザーの射線上から逃れる。
龍也がスペルカードの発動を止めた事で極太レーザーは一気に進行し、龍也が居た場所を通過したが、
「逃がすか!!」
魔理沙は跳躍した龍也を追う様にして極太レーザーの射線を変えていく。
魔理沙の極太レーザーが自分を追って来ている気付いた龍也は足の裏に霊力で出来た見えない足場を作り、作った足場を蹴って上昇スピードを上げる。
しかし、上昇スピードを上げても魔理沙の極太レーザーは変わらず龍也を追い掛けていく。
更に言えば、龍也が高度を上げるスピードよりも龍也は追っている極太レーザーのスピードの方が速い。
これでは遠くない未来に龍也は極太レーザーに呑み込まれてしまうだろう。
そうなったら、この近接戦込みの弾幕ごっこは勝者は魔理沙で決まる。
自分の勝利が後少しで確定するからか、魔理沙の表情が若干緩んだ。
その瞬間、
「なっ!?」
龍也の姿が消えた。
姿を消した龍也に魔理沙は驚くも、直ぐに消えた龍也を探す為に顔を動かす。
顔を動かした結果、
「空には居ないか……」
空中に龍也が居ない事が分かったので、魔理沙は視線を地上に向ける。
視線を地上に向けると地を駆けながら自分に近付いて来ている龍也の姿が映ったので、魔理沙はマスタースパークの射線を地上の方へと動かしていくが、
「間に合いそうにないな……」
マスタースパークを龍也に当てる前に自分が龍也の攻撃を受ける事になると判断した魔理沙はスペルカードの発動を止めた。
スペルカードの発動を止めた事で極太レーザーが消えた後、魔理沙はミニ八卦炉を懐に仕舞って空中に躍り出様とする。
魔理沙が空中に躍り出様としているのを見た龍也は地を駆けている儘の状態で懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、
「炎爆『爆発する剣の軌跡』」
スペルカードが発動させた。
スペルカードを発動させた事で龍也の瞳の色が黒から紅へと変わり、龍也の右手から炎の大剣が生み出される。
生み出された炎の大剣を龍也は両手で掴み、
「りゃあ!!」
横一直線に振るう。
振るわれた炎の大剣は吸い込まれる様に魔理沙の体に向かって行ったが、
「……セーフ」
炎の大剣は魔理沙の体に当たらず、空を切るだけに終わった。
どうやら、龍也の斬撃を避ける為に空中に逃れると言う魔理沙の回避方法は成功した様だ。
ギリギリではあるが。
兎も角、龍也の炎の大剣による斬撃を避けた魔理沙は高度を更に上げ様とした時、
「おわあ!?」
高度を更に上げる前に魔理沙の真下で爆発が起き、魔理沙は舞い上げられる様にして強制的に高度を上げてしまう。
自分の意思ではなく強制的に高度を上げさせられたのだから魔理沙の体勢は崩れてしまったが、
「ぐ……くそ……」
魔理沙は体勢を立て直そうと体を動かしていく。
しかし、魔理沙が体勢を立て直す前に、
「らあ!!」
龍也は魔理沙よりも更に上の高度に移動し、魔理沙の背中に向けて踵落しを叩き込んだ。
踵落しを叩き込まれた魔理沙は、
「うわあ!?」
上昇から一変、地に向けて一気に叩き落され、
「あぐ!!」
地面に激突してワンバウンドし、うつ伏せの状態で倒れてしまう。
結構勢い良く地に叩き付けられた魔理沙ではあったが、
「ぐ……くく……」
多少のダメージはあれど、それを無視するかの様に立ち上がろうとする。
だが、魔理沙が立ち上がる前に龍也は魔理沙の目の前に降り立ち、
「さ、どうする? 続けるか」
炎の大剣を突き付けて続けるか問う。
問われた魔理沙は、
「あー……」
今現状の状況を考察し、
「降参。私の負けだぜ」
どうにもならないと判断したからか、自分の負けを宣言した。
魔理沙の敗北宣言を聞いた龍也はスペルカードの発動を止める。
スペルカードの発動を止めた事で炎の大剣が消え、龍也の瞳の色が紅から黒に戻ると、
「ほら」
龍也は倒れている魔理沙に手を差し出す。
差し出された手を魔理沙は掴んで立ち上がり、
「あーあ……くっそー、負けたー」
悔しそうな表情を浮かべながら自分の手を龍也の手から離し、自分の服や帽子に付いている土汚れを払っていく。
土汚れを払っている魔理沙を見ながら、
「ま、無実の罪でボコられるのは勘弁したいからな。負けてはやれねぇよ」
龍也は無実の罪で負けてやる訳にはいかないと漏らし、
「それよか、魔理沙は今回の件の犯人の目星とかは付いてるのか?」
魔理沙に今回の件の犯人の目星は付いてるのかと聞く。
「うんにゃ、全然。私の中では龍也が犯人の第一候補だったんだからな。第一、今回の件で犯人になりそうな奴は腐る程居るからな。誰が犯人かは皆目検討も
付かないぜ」
「そっか……」
取り敢えず、魔理沙から得られた情報と今まで得た情報を龍也が纏め様としたタイミングで、
「しっかし、近接戦込みの弾幕ごっこって今までの弾幕ごっこかなり勝手が違うな」
土汚れを払い終えた魔理沙は近接戦込みの弾幕ごっこの話題を出す。
「まぁ、近接戦込みの弾幕ごっこは最近流行り始めたからな。仕方が無いんじゃないか?」
「その割には、龍也は結構慣れてたって感じだったよな。近接戦込みの弾幕ごっこ」
「そりゃな。俺は元々接近戦が得意だし」
「あー……成程な。元々接近戦が得意な奴等は近接戦込みの弾幕ごっこへの順応が高いのか。私は余り接近戦が得意じゃ無いからな」
「その辺は強力な近距離用のスペルカードで対応するって感じで良いんじゃないか?」
「強力な近距離用のスペルカード……ねぇ。スターダストレヴァリエよりももっとパワーが有るのを考えたり作ったりした方が良さそうだな」
龍也と魔理沙が近接戦込みの弾幕ごっこ談義に華を咲かせていく。
そして、近接戦込みの弾幕ごっこ談義が一段落着いたからか、
「……さて、私はそろそろ図書館の方に行かせて貰うぜ」
魔理沙は話を切り上げ、紅魔館の方へと向かおうとする。
紅魔館の方へと向かおうとする魔理沙を見て、
「ああ、そう言えば魔理沙は図書館で調べたい事が在るんだったな。で、何時もの様に図書館から本を盗んで行く……と言う訳か」
龍也は軽口を叩く。
叩かれた軽口に、
「おいおい、盗むとは人聞きが悪いな。私は借りてるだけだぜ」
魔理沙も軽口を返した。
その後、
「死ぬまでか?」
「おう。死ぬまでだぜ」
二人は軽く笑い合い、
「それじゃ、調べ物を頑張れよ」
「龍也はこれから異変解決の情報集めって感じか? ま、頑張れよ」
挨拶を交わして龍也と魔理沙はそれぞれが進むべき方へと足を動かして行く。
龍也が紅魔館の敷地外に出ると門の直ぐ近くで軽く焦げた美鈴がうつ伏せの状態で倒れているのが見えたので、
「……大丈夫か?」
龍也は大丈夫かと声を掛ける。
声を掛けられた美鈴は、
「うー……何とか」
顔を龍也の方に向け、何と返す。
「てか、何だってそんな状態で倒れてたんだ?」
「いえ、気付いたらこんな状態でして……」
美鈴から倒れている理由を聞いた龍也は、美鈴が軽く焦げて倒れていた理由を大体察した。
おそらく、何時もの様に居眠りしていたところを魔理沙がマスタースパークを叩き込んだのだ。
マスタースパークを叩き込まれた美鈴が割りとピンピンしているのは、魔理沙がスペルカードでマスタースパークを放ったからだろう。
結果だけ見れば門番が居眠りをしているところに侵入者が攻撃をして門番を倒し、紅魔館へと進入したと言った感じだ。
美鈴がこうして少し焦げているのは半ば自業自得の様な気もするが、流石にこの儘放って寝覚めが悪い。
なので、龍也は美鈴の介抱をしてから出発する事にした。
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