紅魔館を後にしてから暫く経った頃。
空中に霊力で出来た見えない足場を作り、そこに足を着けて進みながら次の目的地を何所にするかを龍也は考えていた。
何故そんな事を考えているのかと言うと、何所を目指せば良いか分からなくなったからだ。
最初はパチュリーのアドバイス通り妖怪や妖力を扱う者に当たって行こうとしたのだが、直ぐにある事に気付いてそれを中止する事になった。
気付いた事と言うのは、妖怪も妖力を扱う者も腐る程居ると言う事だ。
妖怪や妖力を扱う者に片っ端から当たっていくと言うのは、はっきり言って効率が悪過ぎる。
と言うより、そんな方法で犯人を見つけ様としたらどれだけの時間が掛かるか分かったものでは無い。
かと言って、腐る程居る妖怪や妖力を扱う者の中から犯人候補を絞ろうにも、

「誰に絞れば良いか分からねぇ……」

誰を犯人候補に絞れば良いのか分からなかった。
なので、龍也は取り敢えず妖怪や妖力を扱う者の中で一番怪しい者を思い浮かべる事にする。
思い浮かべた結果、八雲紫の姿が龍也の頭の中に浮かんだ。
紫は幻想郷の中で一番胡散臭い存在と言っても過言では無いので、紫が一番怪しいと思っても仕方が無い。
それはそれとしても、紫が犯人で有ろうが無かろうが紫に会う価値は在るだろう。
紫は妖怪の賢者とも言われている程の存在なので、博麗神社に漂っている妖力に付いての何らかの情報を持っている筈であるからだ。
とは言え、龍也は紫が何所に居るのかを知らない。
なので、龍也の考えが次の目的地を何所にするかでは無く紫の居場所を捜すのを目標にすべきかと言う方に移行し始めていく。
そんな時、

「あら、龍也じゃない」

前方の方から龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自分の名を呼ぶ声に反応した龍也は足を止め、視線を正面に向ける。
視線を正面に向けた龍也の目には、

「アリス」

アリスの姿が映った。
どうやら、龍也に声を掛けて来たのはアリスであった様だ。
アリスの存在を認識した龍也は、

「こんな所で会う何て珍しいな。進行方向的に紅魔館に行こうとしてたのか?」

紅魔館に行こうとしてたのかと尋ねる。
尋ねられた事を、

「正解。まぁ、正確に言うと紅魔館じゃなくて紅魔館の図書館に用が有るんだけどね。あそこで調べたい事が在るから」

アリスは肯定し、補足する様に紅魔館の図書館で調べたい事が在ると言う。

「調べたい事……調べたい事って言うのは博麗神社に漂っている妖力に付いてか?」
「正解」

龍也がアリスの調べたい事と言うのは博麗神社に漂っている妖力の事かと問うと、アリスは正解と言う単語を発した。
やはりと言うべきか、アリスも今回の短い頻度で連続して開かれている宴会に付いて調べていた様だ。

「すんなり博麗神社に漂っている妖力に付いての話題が出て来た……って事は、龍也もこの件に付いて調べているの?」
「……ああ」

龍也の問いで龍也も今回に件に付いて調べているのかと言うアリスの推察を、龍也は肯定しながら数歩後ろに下がった。
数歩後ろに下がった龍也を見て、

「? どうかしたの?」

アリスは疑問気な表情を浮かべる。
普通に会話をしていたら、会話相手が行き成り後ろに下がったのだ。
疑問気な表情の一つや二つ浮かべても無理はないだろう。
アリスが抱いている疑問を晴らすかの様に、

「いやさ、今回の件を調べている奴等の殆どに犯人扱いされて戦いを挑まれたからな」

龍也は後ろに下がった理由を話す。
龍也が後ろに下がった理由を聞き、

「ああ、成程」

アリスは納得した表情になり、

「安心しなさい。私は龍也が犯人だとは思っていないから」

龍也を安心させるかの様に自分は龍也の事を犯人だとは思っていないと口にする。

「……本当か?」

今まで三回も犯人扱いされた事で少々疑心暗鬼になっているからか、龍也は確認を取る様に本当かと聞く。
本当かと聞かれたアリスは、

「本当よ。第一、博麗神社に漂っているのは妖力で龍也が扱っているのは霊力。これだけでも龍也を犯人から除外する理由にはなるわ。まぁ、妖力を集める
術式や霊力を妖力に変換する術式が無いって事はないけど……そう言った術式を扱う事は出来る?」

本当だと断言し、龍也を犯人だと思っていない理由を説明しながら妖力を集めたり霊力を妖力に変換する術式を扱う事は出来るのかと尋ねる。
尋ねられた事に対する返事として、龍也は首を横に振って否定の意を示す。
否定の意を示した龍也を見て、

「やっぱりね」

アリスはやっぱりねと呟き、

「確かに、貴方が博麗神社に居座る様になってから短い頻度で宴会が連続して開かれる様になった。これだけ見れば龍也が犯人の様に思えるけど、言い方を
変えれば龍也だけが犯人の様に思えると言う事。明らかに怪し過ぎるでしょう。自分が犯人である事を大々的に宣伝したい……と言うのなら話は別だけどね。
まぁ、それだったらもっと堂々とした態度を取るでしょ。龍也なら。全く、皆単純なんだから」

龍也を犯人だと思っていない理由を述べ、龍也を犯人だと断定した他の皆を単純だと称してクスリと笑った。
その後、

「一応参考までに聞いて置くけど、貴方を犯人扱いして勝負を吹っ掛けて来たのって誰?」

アリスは龍也を犯人扱いして勝負を吹っ掛けて来たのは誰だと聞く。
一応、龍也を犯人扱いした者に興味が在る様だ。
別段隠して置く必要も無いので、

「霊夢と咲夜と魔理沙だ」

龍也は自分を犯人扱いした者の名をアリスの教える。
龍也から戦いを吹っ掛けて来た者の名を聞き、

「霊夢と魔理沙は兎も角、あそこのメイド長も龍也を犯人扱いしていたとはね……」

霊夢と魔理沙は兎も角として、咲夜までもが龍也を犯人扱いしたと言う事実にアリスは意外な表情を浮かべた。
アリスの台詞からアリスが霊夢と魔理沙の事をどう思っているのかを龍也は何となくではあるが察しつつ、

「まぁ、咲夜の場合は俺へのリベンジも含まれていたんだけどな」

霊夢と魔理沙とは違い、咲夜の場合は自分へのリベンジも含まれていた事を漏らす。

「リベンジ?」
「ああ、そうだ。アリスは結構前に発生した紅い霧の事を覚えているか?」

リベンジと言う単語で首を傾げてしまったアリスに、龍也は以前発生した紅い霧の事を覚えているかと問う。

「ええ、覚えているわ。紅魔館の主があの異変の犯人だったんでしょう?」
「ああ、そうだ。で、レミリアが起こした異変の時に俺は紅魔館に乗り込んで咲夜と戦ったんだ」

問われた事をアリスが肯定したので、龍也はその異変が起こった時に紅魔館に乗り込んで咲夜と戦った事をアリスに教え、

「その時の戦いは俺が勝って終わったんだ。だから、今回の件で咲夜が俺に戦いを吹っ掛けたのには俺へのリベンジが含まれていたって言った訳だ」

咲夜の場合にのみリベンジと言う単語が含まれていた理由を話す。

「成程ね……」
「そーいや、アリスは図書館で何を調べる積りなんだ?」

龍也の説明を聞いてアリスが納得すると、龍也はふと思い出したかの様にアリスは図書館で何を調べる積りなのかと尋ねた。
尋ねられた事に対する答えを、

「私が調べたいのは博麗神社に漂っている妖力の効果と、妖力を集める術式に付いてね」

アリスは龍也に伝える。

「術式の方は知らないが、妖力の効果の方ならパチュリーから教えて貰ったぞ」
「本当!?」

アリスが図書館で調べ様としている事を知った龍也が妖力の効果なら知っている事を漏らした瞬間、アリスは少し身を乗り出しながら本当かと聞いて来た。
アリスの勢いに若干押されるも、

「あ、ああ。本当だ。博麗神社に漂っている妖力自体に害は無いが、様々の者を無意識の内に集める効果が有るらしいぞ」

龍也は博麗神社に漂っている妖力にどの様な効果が有るのかを説明していく。

「へー……」

龍也の説明を頭に入れながらアリスは考えを纏めていき、

「……ありがとう。お陰で調べる事が減ったわ」

調べる事が減った為、乗り出していた身を引いて龍也に礼を述べる。

「どういたしまして。まぁ、パチュリーにそれを聞いたのは昨日だからな。あれから更に進展があった可能性が有るかもしれないぞ」
「分かったわ。取り敢えず、図書館の方に行ったらパチュリーに話を聞いてみる事にするわ」

龍也との会話で得られた情報から紅魔館の図書館でどう言う行動を取るかを決めた後、

「あ、そうそう。龍也はこれから何所に行こうとしてたの?」

アリスは思い出したかの様に龍也の行き先を問うて来た。
問われた事に、

「色々考えた結果、紫に会おうと考えたんだが……紫が何所に居るかが分からなくてな」

龍也は紫に会おうと考えているのだが、紫の居場所が分からないと言う事を話すと、

「八雲紫の居場所ねぇ……」

アリスは顎に手を当てて少し考える素振りを見せ、

「冥界の方に行ってみたらどうかしら?」

龍也に冥界に行ってみたらどうだと言う提案をする。

「冥界へか?」
「ええ。確かあそこの亡霊姫は八雲紫と親友同士の筈。若しかしたら八雲紫が冥界に居るかもしれないし、居なかったとしても亡霊姫から八雲紫に付いての
何らかの情報が得られる可能性が在る。龍也が八雲紫を捜しているのなら冥界に行ってみる価値は在ると思うわ」

冥界に行けと提案された龍也は首を傾げてしまったが、アリスから冥界へ向かう事への利点を聞かされて納得した表情を浮かべた。
同時に、ある事を思い出す。
思い出した事と言うのは幽々子が紫とは親友同士だと言っていた事と、妖夢は妖力を扱っていると言う事だ。
正確に言えば妖夢自身が妖力を扱っていて妖夢の半霊は霊力を扱っているであるのだが、それは然したる問題では無いだろう。
上手くいけば一挙両得になるからか、

「ありがとな、アリス」

龍也はアリスに礼の言葉を述べた。

「どういたしまして……と言いたいところだけど、私も龍也から色々と情報を貰ったからね。お互い様よ」

礼を述べられたアリスはどういたしましてと返そうとしたが、自分も龍也から情報を貰ったのだからお互い様だと言い、

「それじゃ、頑張ってね」

応援の言葉を掛ける。
掛けられた応援の言葉に、

「ああ、アリスの方も頑張れよ」

龍也も応援の言葉を返す。
アリスと龍也が互いを応援する言葉を掛け合った後、二人はそれぞれが目指す場所へと向かって行った。





















アリスと別れてから暫らく経った頃、龍也は冥界の地に足を着けながら白玉楼を目指していた。
何故龍也は地に足を着けながら白玉楼を目指しているのかと言うと、白玉楼を目指している道中で若しかしたら犯人を見付ける事が出来るかもと考えたからだ。
しかし、やはりと言うべきか犯人らしき存在を見付ける事は出来なかった。
冥界と言うだけあって人魂や亡霊と言った存在は多数見られるが、それだけ。
犯人らしき存在は欠片も見られなかった。
この儘只歩いていても何の情報も得られそうに無いと思ったからか、

「んー……のんびり歩いているのも良いけど、ここはペースを上げてさっさと白玉楼に向かう事にするべきか?」

龍也はペースを上げてさっさと白玉楼に行くべきかと考える。
ペースを上げるか否か。
どちらにするべきか龍也が考え始めてから少しすると、

「あれ、龍也さん」

前方の方から龍也の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自身の名が呼ばれた事で龍也は考え事を止めながら足を止め、視線を正面に向ける。
視線を正面に向けた龍也の目には、

「妖夢」

妖夢の姿が映った。
ならば、今声を掛けて来たのは妖夢なのだろうと龍也は判断し、

「どうしたんだ、こんな所で?」

こんな所でどうしたんだと問う。
問われた妖夢は、

「それはどちらかと言うと私の台詞なんですが……」

何処か呆れた様な表情を浮かべながらどうしたんだは自分の台詞だと口にする。
冥界に住んでいる妖夢とは違い、龍也は冥界に住んでいると言う訳では無い。
更に言えば、龍也は生者だ。
生きている存在が易々と冥界に来ていたら、どうしたんだと言いたくもなるだろう。
そんな妖夢の心情を何となくではあるが察した龍也は、

「あ、あはははは……」

思わず苦笑いを浮かべてしまう。
苦笑いを浮かべている龍也を見て、

「……はぁ。まぁ、良いですけど」

妖夢は何処か諦めた様な表情を浮かべながら楼観剣を鞘から抜き、

「ここ最近の宴会続きの犯人が龍也さんかどうか、斬って確かめさせて貰います!!」

楼観剣の切っ先を龍也に突き付け、そう言い放った。
妖夢の宣戦布告とも言える宣言を聞き、

「やっぱそうなるか……」

龍也はこの展開は予想出来ていた言った感じで構えを取り、

「てか、斬って確かめるって何だよ? 斬って確かめるって事は、妖夢の中じゃ殆ど犯人は俺で確定してるんじゃないのか?」

妖夢の発言から妖夢の中では自分が犯人であると殆ど確定しているのではないかと呟く。
龍也の呟きが耳に入った妖夢は、

「龍也さんが一番怪しいと言うだけで、確定しはいません。唯、私の師匠が言っていました。斬れば分かると」

別に龍也が一番怪しいと言うだけで犯人だと確定している訳ではなく、その真偽を明らかにする為に斬るのだと龍也に伝えた。

「いや、斬れば分かるってそう言う意味じゃ無いと思うぞ。多分」

妖夢が発した斬れば分かると言う部分に龍也が思わず突っ込みを入れた瞬間、妖夢は地を一気に駆けて龍也を自分の間合いに入れ、

「はあ!!」

楼観剣を振るう。
振るわれた楼観剣を、

「とお!!」

龍也は後ろに跳んで回避する。

「流石……」

今の斬撃を避けた龍也に妖夢は流石と言う言葉を投げ掛け、後ろに跳んだ龍也を追う様に妖夢は再び地を駆けて行く。
自分を追って来ている妖夢を見て、龍也は用心した様子を見せながら地に足を着ける。
同時に、

「しっ!!」

妖夢は再び桜観剣を振るって来た。
妖夢が振るった楼観剣の剣筋が斜め下から斜め上へだったので、龍也は剣筋から逃れる様に体を傾け、

「らあ!!」

妖夢の顎目掛けて掌打を放つ。
放たれた掌打を避ける為に妖夢は顎を引き、

「ぐっ!?」

龍也の胴体に蹴りを放ち、蹴った反動で後ろに下がった。
上手い事後ろに下がる事が出来た妖夢とは別に、がら空きとなった胴体に蹴りを叩き込まれた龍也は後方へと蹴り飛ばされてしまった。
だが、龍也としても只で蹴り飛ばされる気は無い。
まだ地に足を着けていない妖夢に向け、龍也はお返しと言わんばかりに蹴り飛ばされている儘の状態で弾幕を放つ。
自身に向けて迫って来る弾幕に対処する為、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

妖夢は白楼剣を鞘から抜き、迫り来る弾幕を白楼剣で斬り落していく。
しかし、

「ぐ……」

全ての弾幕を斬り払う事は出来なかった様で、妖夢は何発かの弾幕をその身に受けてしまった。
まぁ、不安定な体勢で弾幕の迎撃を取ったのだから全ての弾幕を斬り払えなかったとしても仕方が無い。
妖夢に何発かの弾幕が当たったのを見た龍也は弾幕を放つのを止め、体勢を立て直しながら地に足を着けて、

「ッ!!」

妖夢に向けて一気に接近して行く。
龍也の接近に気付いた妖夢は白楼剣を振るうを止めて体勢を立て直し、地に足を着ける。
そのタイミングで、

「だあ!!」

妖夢の間近にまで迫って来ていた龍也が拳を振るう。
振るわれた拳を、

「くっ!!」

妖夢は体を捻らせる事で避ける。
が、直ぐに龍也が第二撃を放って来た。
体を捻っている今の状態では再び回避行動を取る事は出来ないので、

「ぐっ!!」

妖夢は龍也の第二撃の攻撃を、白楼剣の腹で受け止める。
第一撃、第二撃と自分の攻撃を立て続けてに対処された龍也は、

「…………………………………………」

少し悔しそうな表情を浮かべながら数歩後ろに下がり、

「らあ!!」

加速を付け、一撃の重さを重視した攻撃を繰り出す。
龍也の第三撃と言える攻撃を妖夢は再び白楼剣の腹で防いだが、

「くうっ!!」

堪え切る事が出来ず、白楼剣の上から吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされ、体勢を崩してしまった妖夢ではあるが、

「ッ!!」

強引に体勢を立て直しながら地に足を着け、地面を滑る様にして減速して行く。
減速している中で龍也が突っ込んで来ているのが見えたので、妖夢は白楼剣を鞘に収めて懐に手を入れ、

「人符『現世斬』」

懐からスペルカードを取り出し、スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動したのと同時に妖夢の姿が消えた。
妖夢の姿が消えるのを見て何かを感じ取った龍也は、

「ッ!?」

反射的に体を逸らす。
すると、剣の軌跡が龍也の腹部の少し先に現れ、

「ぐあ!?」

龍也は剣の軌跡に弾かれる様にして吹き飛んで行ってしまう。
吹き飛ばされた龍也は地面に激突し、地面を転がる様にして妖夢との距離を離して行くが、

「……ッ!!」

ある程度転がると龍也は地面を片手で弾いて体を浮かび上がらせ、体勢を立て直しながら地に足を着ける。
地に足を着けた龍也は腹部を手で押さえ、思う。
これがスペルカードで発動した技で無かったら、確実に斬られていたと。
今回の戦いは戦闘方法を提示し合ってから始められたものでは無い。
妖夢が近接戦込みの弾幕ごっこを行う積りで戦いを仕掛けて来なかったら、龍也は今の攻撃で結構なダメージを負っていた事だろう。
そう言った意味では自分は運が良いと龍也は感じつつ、視線を妖夢の方に移す。
視線を移した先に居る妖夢は、体を屈める様な体勢を取っていった。
妖夢の体勢から再び今の一撃を放って来る事を予想した龍也は跳躍を行う。
龍也が跳躍を行った瞬間に妖夢の姿が消え、龍也の体が在った場所に剣の軌跡が現れた。
自分の予想通りに剣の軌跡が現れたからか、

「予想通り……」

龍也は予想通り呟く。
そして、攻撃を行った妖夢の位置を確認しながら降下して地に足を着ける。
本来であれば妖夢が今の技を発動する前に攻撃をして技の発動を中断させたいのだが、それは無理だと龍也は判断する。
何故かと言うと、龍也と妖夢の距離が結構離れているからだ。
仮に今から龍也が妖夢の技の発動を中断させる為に攻撃を仕掛けたとしたら、龍也の攻撃が妖夢に当たる前に妖夢の攻撃が龍也に命中するだろう。
ならば、

「なら……真っ向から潰すだけだ」

真っ向から潰すだけ。
龍也が決意を決めた様な表情を浮かべながら懐に手を入れてスペルカードを取り出した時、妖夢の姿が消えたので、

「炎爆『爆発する剣の軌跡』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動した事で龍也の瞳の色が黒から紅に変わり、右手から炎の大剣が生み出される。
生み出された炎の大剣を龍也は両手で掴み、振るう。
振るわれた炎の大剣は振り切る前に何かに当たって進行を止め、

「ぐっ!?」
「くっ!?」

進行が止まるまでに振るわれた炎の大剣の軌跡が爆発し、龍也と妖夢を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた龍也と妖夢は下半身に力を籠めながら両足を地面に着け、地面を削る様にしながら減速して行く。
ある程度龍也と妖夢の距離が取れた辺りで二人の吹き飛びが止まり、龍也と妖夢は構えを取り直す。
構えを取り直した二人は互いの様子を伺うだけで、再び攻撃を行おうと言う素振りは見られなかった。
何故、再び攻撃を行おうと言う素振りが見られないのか。
答えは簡単。
今発動している相手のスペルカードに警戒しているからだ。
龍也からすれば攻撃のタイミングを間違えれば手痛い一撃を貰う事になるし、妖夢からすれば下手なタイミングで攻撃すれば爆発の直撃を受ける事になる。
だから、二人とも攻撃を行う事が出来ないのだ。
互い互いの様子を伺い始めてから幾らか時間が過ぎると、龍也の瞳の色が紅から黒に戻って炎の大剣が消えた。
どうやら、龍也のスペルカードの発動時間が過ぎた様だ。
自分のスペルカードの発動時間が過ぎたと言う事は妖夢のスペルカードの発動も過ぎた筈だと龍也は考え、一息吐きながら構えを取り直す。
構えを取り直した龍也を見て、

「先程から気になっていたのですが……何故、前に私と戦った時の様に炎の剣を使わないのですか?」

妖夢は何で炎の剣を使わないのだと言う疑問を龍也に投げ掛けた。

「いや、俺の炎の剣って俺の能力で生み出してるんだ。だから、スペルカード以外で能力を使うって言うのは弾幕ごっこのルール違反になるんじゃないかと
思って炎の剣を使ってなかったんだ」

投げ掛けられた疑問に対する答えを龍也が述べると、

「ならないと思いますよ」

スペルカード以外で能力を使ってもルール違反にはならないと妖夢は返す。

「……え?」

ルール違反にならないと返されて何処か唖然とした表情を浮かべた龍也に、

「例えば私の能力は"剣術を扱う程度の能力"です。分かっているとは思いますが、この近接戦込みの弾幕ごっこで私は普通に能力を使って戦っていました。
他に例を上げるとしたら……魔理沙が良いかな。魔理沙の能力は"魔法を扱う程度の能力"です。魔理沙も通常の弾幕ごっこでも普通に能力を使っています。
ですから、普通に能力を使ったとしても通常近接を問わずに弾幕ごっこのルール違反にはならない筈です」

妖夢は自分や魔理沙を例に出してルール違反にはならない理由を説明する。
妖夢の説明を聞き、言われてみれば確かにそうだなと龍也は思った。
但し、大技などは普通にスペルカードで発動されている場合が殆どなので能力を使用してでの攻撃はある程度の匙加減が必要だろう。
尤も、その辺りの匙加減は個人個人によって変わって来るだろうが。
兎も角、ルール違反の心配が無くなった事で龍也は自身の力を変える。
朱雀の力へと。
自身の力を変えた事で龍也の瞳の色が黒から紅に変わった。
力の変換が完了したのを認識した龍也は両手から二本の炎の剣を生み出し、生み出した炎の剣の出力を大きく下げる。
炎の剣を出力を下げた理由は、弾幕ごっこのルールに違反しない様にする為だ。
弾幕ごっこのルールでは過失を除いた殺傷行為などは禁止されているのだから。
出力を大きく下げた状態なら、仮に炎の剣が妖夢の体に直撃しても大事にはならないだろう。
それはそうと、準備は整ったと言う事で、

「それじゃ……第二ラウンドを始めるとするか」

仕切り直しと言った様な事を口にして妖夢に炎の剣の一本を突き付け、構えを取り直す。
改めて宣戦布告をされた妖夢は、

「ふふ……そうですね」

何処か毒気を抜かれた様な表情を浮かべ、楼観剣を両手で強く握り直した。
お互いの準備が整ったからか、龍也と妖夢は示し合わせた訳でも無いのに同じタイミングで地を駆け、

「「ッ!!」」

二人の中間地点で互いの得物をぶつけ合い、激突する。
龍也と妖夢は力を籠めて相手の得物を押し切ろうとしたが、

「……やるな、妖夢」
「……龍也さんこそ、やりますね」

押し切る事が出来なかったので、二人は互いを称賛する様な事を述べてこれまた同じタイミングで後ろに跳んで距離を取った。
ある程度が距離が取れると、二人は再び地を駆けて激突する。
が、それも一瞬。
龍也と妖夢は一瞬だけ自分の得物を相手の得物にぶつけた後、交差するかの様に駆け抜け、

「「ッ!!」」

背中合わせになった瞬間に二人は振り返りながら自分の得物を振るい、炎の剣と楼観剣を激突させた。
二人が自分の得物を激突させた事でまた相手の得物を押し切る様な形になると思われたが、二人は激突させた得物を直ぐに離し、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

超速で自分の得物を連続で振るい、剣戟の応酬を始める。
剣戟の応酬は得物が二つ在る龍也の方が有利だと思われたが、そうはならなかった。
互角。
二人の剣戟の応酬を言い表すのならこの言葉が正しいだろう。
何故、二本の得物を振るっている龍也と一本の得物を振るっている妖夢の剣戟の応酬が互角なのか。
確かに、手数で言えば二本の炎の剣を振るっている龍也に分が有るだろう。
だが、妖夢は足りない手数を楼観剣を振るうスピードで補っているのだ。
故に、剣戟の応酬は龍也の有利では無く互角と言う状態に収まっているのである。
現状、互いの得物をぶつけ合っているだけで何の進展も無いので攻め方を変え様かと龍也が考えた時、

「……今だ!!」

龍也の攻撃と攻撃の間に生まれた隙を突くかの様に妖夢は楼観剣を振るうのを止め、肩からの体当たりを繰り出した。
上手く隙を突いた攻撃であった為、

「があ!?」

妖夢の体当たりは見事龍也の体に直撃した。
体当たりの直撃を受けた龍也は踏鞴を踏むかの様に数歩後ろに下がってしまう。
龍也が踏鞴を踏むかの様に後ろに下がった事で攻撃が完全に途切れたので、妖夢はスピードでは無く動作を重視した動きで体を回転させ、

「せい!!」

回し蹴りを放つ。
放たれた回し蹴りは龍也に直撃し、

「ぐあ!!」

龍也を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた龍也は体を回転させながら吹き飛んで行き、地面に激突して転がって行く。
ある程度転がって行くと転がりが止まったので、

「ぐ……くく……」

両腕と両膝を使って立ち上がろうとする。
立ち上がろうとしている中で、龍也はある事に気付く。
気付いた事と言うのは、生み出していた炎の剣が消失していると言う事だ。
おそらく、妖夢に回し蹴りを叩き込まれた時の衝撃で炎の剣が消失したのだろう。
先に立ち上がるべきか、それとも先に炎の剣を生み直すべきか。
どちらにするべきか龍也が少し悩み始めた時、龍也の体に影が掛かった。
自分の体に影が掛かっている事を認識した龍也は反射的に地面を両掌で弾き、自身の体を横へと投げ飛ばす。
龍也が自身の体を投げ飛ばしてから数瞬後、龍也の体が在った場所に楼観剣が叩き込まれた。
どうやら、妖夢は龍也を蹴り飛ばした後に跳躍を行って上空から斬撃を叩き込もうとした様だ。
体を投げ出さなければ、今叩き込まれた楼観剣は確実に龍也の体に当たっていた事だろう。
一歩間違えれば今叩き込まれた楼観剣が自分に体に直撃していたであろうからか、

「危ねぇ……」

龍也は危ねぇと呟きながら立ち上がり、消失した二本の炎の剣を生み直して構えを取り直す。
龍也の体勢が立ち直ったのと同時に妖夢は叩き込んだ楼観剣を引き上げて構えを取り直し、一気に地を駆ける。
そして、一気に地を駆けた妖夢が龍也を自分の間合いに入れた瞬間、

「しっ!!」

龍也は先手を取るかの様に炎の剣を真横に振るう。
しかし、龍也が振るった炎の剣は、

「何……」

楼観剣にも妖夢にも当たらず、空を斬るだけの結果に終わった。
攻撃を外した龍也は何かに導かれる様な動作で視線を落とすと、体ををギリギリまで屈めて楼観剣を振るっている妖夢の姿が龍也の目に映る。
振るっている楼観剣が龍也の脚に当たる直前、

「ッ!?」

龍也は反射的にバク転を行った。
龍也がバク転を行った事で妖夢の楼観剣は龍也の脚ではなく空を斬るだけに終わる。
その様子を目に入れながら龍也は地に足を着け、片方の炎の剣の切っ先に爆炎を迸らせ、

「らあ!!」

爆炎を迸らせている方の炎の剣を振るう。
振るった炎の剣からは爆炎が放たれ、放たれた爆炎は勢い良く妖夢の方へと向かって行く。
自身の方へと向かって来ている爆炎を見ながら妖夢は体勢を戻して楼観剣を構え、

「せい!!」

楼観剣を勢い良く振るって迫って来ていた爆炎を斬り裂いた。
自身が放った爆炎を容易く斬り裂かられたからか、

「……たく、随分簡単に斬り裂いてくれたな」

龍也は軽い愚痴の様なものを零す。
龍也が零した愚痴が耳に入った妖夢は、

「簡単に斬り裂いたと言っても、龍也さんが放った爆炎の威力が弾幕ごっこレベルにまで抑えられていたからですよ。そうでなかったら……もし、通常戦闘
レベルで爆炎を放たれていたらこうも簡単に斬り裂く事など出来ませんよ」

爆炎の威力が弾幕ごっこレベルにまで抑えられていたから簡単に斬り裂く事が出来たのだと返した。
妖夢の台詞から例え通常戦闘の威力だとして斬り裂いてやると言っているのが感じられたからか、龍也は不敵な笑みを浮かべて一歩前に出る。
不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た龍也に合わせるかの様に、妖夢も不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。
一歩前に出た二人は更に足を進めて行き、ある程度互いの距離が狭まると進む二人は進むスピードを一気に上げ、

「しっ!!」
「はあ!!」

龍也と妖夢は自分の得物を振るい、自分の得物を相手の得物に激突させる。
自分の得物同士を激突させ、少しの間鍔迫り合いの様な形を維持した後、

「「ッ!!」」

二人は弾かれる様にして後ろに下がった。
後ろに下がっている中で妖夢は楼観剣を振るい、振るった楼観剣の軌跡から弾幕を生み出して龍也へと放つ。
妖夢から放たれた弾幕を迎え撃つかの様に龍也は再び炎の剣の切っ先に爆炎を迸らせ、爆炎を迸らせている炎の剣を振るって爆炎を放つ。
放たれた爆炎は妖夢の弾幕を呑み込み、妖夢へと向って行く。
迫り来る爆炎を迎え撃つかの様に妖夢は地に足を着け、

「そう何度も同じ手を……」

先程と同じ様に楼観剣で爆炎を斬り裂いた。
余裕が感じられる表情で。
が、その次の瞬間には、

「なっ!?」

浮かべていた余裕の表情が驚愕の表情に変わってしまった。
何故かと言うと、龍也の姿が消えていたからだ。
消えた龍也を探す為に顔を動かそうとした時、

「ッ!?」

妖夢は背後に何かを感じ、顔を背後の方に向ける。
顔を向けた先には、炎の大剣を振り被っている龍也の姿が在った。
今の爆炎を隠れ蓑にして自分の背後に回ったのかと妖夢は判断しつつ、振り返りながら反射的に白楼剣を引き抜く。
引き抜いた白楼剣に炎の大剣が当たった事で直撃は避けられたが、

「くう!?」

妖夢は上空の方へと勢い良く吹き飛ばされてしまった。
やはりと言うべきか、両手で振るわれた攻撃を片手で完全に受け切ると言うのは少々無理が有った様である。
それはそうと、吹き飛ばされた妖夢に追撃を掛ける為に龍也は下半身を少し屈め、

「だ!!」

地面を蹴って吹き飛ばされた妖夢へと突っ込んで行く。
突っ込んで行った龍也が妖夢との距離を半分程までに詰めた辺りで、

「ッ!!」

妖夢は体を回転させながら体勢を立て直し、白楼剣を鞘に収め、

「行け!!」

自分の半霊を龍也に向けて飛ばした。
迫り来る妖夢の半霊を見て、

「ッ!?」

龍也は反射的に体を逸らす。
体を逸らしたお陰で妖夢の半霊の突撃を避ける事が出来たが、龍也は妖夢の姿を少しの間視界から外してしまう。
龍也が妖夢の姿を視界から外している間に、妖夢は懐に手を入れて懐からスペルカードを取り出し、

「断命剣『冥想斬』」

スペルカードを発動させた。
妖夢がスペルカードを発動させた事に気付いた龍也は慌てて妖夢の方に視線を向ける。
妖夢の方に視線を向けた龍也の目には楼観剣が緑色の光を発し、発せられている緑色の光が刀身の伸ばしている様子が映った。
発せられている緑色の光を見て、龍也は思い出す。
初めて妖夢と戦った時、妖夢の冥想斬と言う技で炎の大剣諸共叩っ斬られて敗北した事を。
だからか、

「……………………………………………………」

龍也は自然と警戒した様子になりながら炎の大剣を握る両手に力を籠める。
そして、龍也に突撃を仕掛けた半霊が妖夢の傍に戻った瞬間、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

妖夢は楼観剣を振り被り、気合を溢れ出させながら龍也へと突っ込んで行った。
突っ込んで来ている妖夢を見据えながら龍也は炎の大剣を構え、妖夢が楼観剣を振り下ろしたタイミングで、

「はあ!!」

炎の大剣を振り上げる。
振り下ろされた楼観剣と振り上げられた炎の大剣は当然の様に激突し、

「なあ!?」

鍔迫り合いをする様な形にながら龍也と妖夢は勢い良く高度を落として行く。
何故、二人は高度を落として行っているのか。
答えは簡単。
龍也の斬撃の重さよりも妖夢の斬撃の重さの方が勝っているからだ。

「ぐ……くう……」

予想以上に重たい妖夢の斬撃に龍也は歯を喰い縛って耐えつつ、両腕に力を籠めて高度を落とすの止め様とする。
しかし、

「く……う……うう……」

幾ら力を籠めても高度が落ちて行くと言う事象を止める事は出来ず、

「ぐが!!」

龍也は強制的に両足を地面に叩き付けてしまう。
しかも、それだけでは終わらず、

「ッ!?」

龍也の両足が地面に減り込んでしまった。
両足を地面に減り込ませた龍也を見て、龍也は自由に動けないと妖夢は判断する。
その様に判断した妖夢は炎の大剣から楼観剣を離して地に足を着け、

「たあ!!」

再度楼観剣を振るう。
振るわれた楼観剣は再び炎の大剣に当たり、

「ぐう!!」

龍也は両足を更に地面に減り込ませてしまった。
再び振るわれた楼観剣の衝撃に耐えつつ、龍也は思う。
これではジリ貧だと。
龍也としては何とかして攻めに転じたいのだが、妖夢の斬撃が重過ぎて攻めに転じる事が出来ないでいた。
幸い、妖夢の斬撃で炎の大剣が斬り裂かれると言った兆候は見られないが、

「くぅ……」

妖夢の斬撃の重さに耐えかねてか、龍也は少しずつではあるが体を前のめりにするかの様に倒していってしまう。
ここで倒れてしまえば自分の敗北が決まったも同然であるので、

「ぅぅぅぅうううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

龍也は根性を見せるかの様な雄叫びを上げ、前のめりになっていくのを止める。

「……ッ!!」

楼観剣を叩き付けている炎の大剣から力を感じた妖夢は咄嗟に楼観剣を上げ、

「はあ!!」

三度楼観剣を炎の大剣に叩き付けた。
三度目ともなる強い衝撃を炎の大剣に受けた龍也は、

「ぐう!!」

苦しそうな声を漏らしながら膝を折り掛けてしまう。
この儘では膝処か全身を地面に叩き付けらるのも時間の問題だからか、龍也は打開策を見付ける為に視線を様々な方向に動かしていく。
視線を動かした結果、龍也はある事に気付く。
気付いた事と言うのは、自分は一歩大きく踏み込めば妖夢と密着出来る距離に居ると言う事だ。
自分と妖夢の距離に気付いた龍也は、ある作戦を思い付いた。
と言っても、思い付いたのは作戦と言うよりは賭けと言った方が正しい。
だが、それでもやらなければ状況を打開する事は出来ないだろう。
だからか、

「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

龍也は力を振り絞るかの様に全身に力を籠め、炎の大剣に叩き付けらている楼観剣を押し返そうとする。

「……ッ」

まだ力を残している龍也に妖夢は驚きつつも次で決める事を決意し、楼観剣を握る力を強くしながら楼観剣を振り被った。
炎の大剣から楼観剣が離れたのを感じ取った瞬間、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

龍也は炎の大剣を消し、全ての力を出し切るかの様に地面に減り込んだ足を引っこ抜いて大きく一歩前へと踏み出す。
龍也が大きく一歩前へと踏み出し、龍也と妖夢の顔がくっ付きそうになった時、

「この距離だったら……楼観剣を振るえないだろ」

龍也は妖夢にこの距離ならば楼観剣は振るえないだろと言う。
龍也に楼観剣を振るえないだろうと言われた妖夢は、今の自分と龍也の距離を確認し、

「しまっ!!」

何かに気付いた表情を浮かべ、振るおうとしていた楼観剣を慌てて止める。
何故振るおうとしていた楼観剣を止めたのかと言うと、龍也と妖夢の距離が近過ぎて楼観剣を振るっても斬撃が当たらないからだ。
そう、龍也が思い付いた作戦とは妖夢が楼観剣を振るえない距離にまで迫ると言う事にあったのである。
とは言え、妖夢に接近するのが僅かでも遅れていたら確実に妖夢が振るった楼観剣が龍也に直撃した事だろう。
故に、龍也が思い付いたものは作戦よりも賭けの方が正しかったのだ。
それはそうと、この儘では攻撃する事が出来ないので妖夢は後ろに下がろうとしたが、

「逃がすか!!」

後ろに下がられる前に龍也は左手を伸ばして楼観剣の柄を掴み、妖夢が後ろに下がろうとするのを防ぎながら右手を懐に入れた。
龍也が懐に手を入れた時点で龍也が何をし様としているのかを察した妖夢は、

「ッ!! させません!!」

龍也に膝蹴りを何度も叩き込み、龍也がやろうとしている事を中断させ様とする。
が、妖夢が幾ら膝蹴りを叩き込んでも龍也は楼観剣から手を離す事も懐から手を離す事も無かった。
龍也がビクともしない事で妖夢が焦り始めた間に龍也は懐からスペルカードを取り出し、

「龍爪『龍の爪』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動した事で龍也の瞳の色が紅から蒼に変わり、龍也の両手に水が纏わさられていく。
纏わさられた水が龍の手を型作ったのと同時に龍也は楼観剣から左手を離し、右手と左手をそれぞれ斜め上へと斬り上げる。
至近距離で出された攻撃と言う事もあり、

「ぐう!?」

妖夢は龍也の攻撃の直撃を受け、体を浮かび上がらせてしまう。
体を浮かび上がらせ、隙だらけとなった妖夢に、

「だりゃ!!」

龍也は両手を元の位置に戻すかの様に振るった。
振るわれた龍也の両手は見事妖夢に命中し、妖夢は地面に叩き付けられ、

「あう!!」

呻き声を上げて地面に倒れ伏してしまう。
が、

「ッ!!」

妖夢は直ぐに地面を両手で弾いて体を浮かび上がらせる。
近過ぎた間合いを離す為に取った行動だろう。
しかし、

「みょん!?」

体を浮かび上がらせた妖夢の背中に何かが当たり、妖夢は再び地面に叩き落されてしまった。

「な、何が……」

背中に何が当たったのかが気に掛かった妖夢は顔を動かし、自分が浮かび上がった地点に目を向ける。
目を向けた先には、

「斬撃が……残っている……」

斬撃が残っている事が分かった。
おそらく、自分は残っていた斬撃に当たったのだろうと考えながら妖夢は思う。
急ぎ過ぎたと。
一度状況を確認していれば、上手い事離脱する事が出来た事だろう。
妖夢が自分の失態を後悔している間に、龍也は水で出来た爪を妖夢の首に突き付け、

「……どうする、続けるか?」

続けるかと尋ねる。
尋ねられた妖夢は自分が何か行動を起こす前に龍也が攻撃する方が速いと判断し、

「……私の負けです」

自分の負けを宣言してスペルカードの発動を止めた。
妖夢がスペルカードの発動を止めた事で楼観剣から発せられていた緑色の光が消失したので、龍也もスペルカードの発動を止める。
同時に龍也の瞳の色が蒼から黒に戻り、両手に纏わさられていた水が崩壊するかの様に崩れ落ちていく。
龍也の両手に纏わされていた水が完全に無くなると、

「ほら」

龍也は倒れている妖夢に手を差し伸べる。
差し出された手を掴みながら妖夢は立ち上がり、

「流石ですね、龍也さん。油断した積りは無かったのですが……」

龍也を称賛する言葉を述べ、油断した積りは無かったと呟きながら龍也の手から自分の手を離して楼観剣を鞘に収めた。
妖夢の称賛の言葉が耳に入った龍也は、

「流石は俺の台詞だ。地面から足を引っこ抜くのが一瞬でも遅れていたら、確実に負けてたぞ。俺」

流石は自分の台詞だと返し、地面から足を引っこ抜くのが一瞬でも遅れていたら負けていたのは自分だと返す。

「ご謙遜を。仮に冥想斬が直撃して龍也さんが地に倒れ伏し、倒れ伏した龍也さんに私が楼観剣を突き付ける前に龍也さんなら反撃の一つや二つを
して来るでしょう」
「いや、流石にあれを喰らって瞬時に反撃は出来ないと思うぞ」

妖夢の中で自分の評価がかなり高い事を龍也が感じている間に、

「それはそうと、龍也さんは何しに冥界にやって来たのですか?」

妖夢は何かを思い出した様な表情を浮かべ、龍也に冥界へやって来た理由を問う。
妖夢に冥界にやって来た理由を問われた事で、龍也は冥界にやって来た理由を思い出し、

「ああ、幽々子に会いに来たんだ」

幽々子に会いに来た事を伝える。

「幽々子様にですか?」
「そうだ。幽々子なら紫の居場所か何かを知ってるんじゃないかと思ってさ。紫なら今回の件の情報に付いて何らかの情報を持っていると考えてな」

首を傾げながら疑問気な表情を浮かべた妖夢に、龍也は幽々子に会おうとしている理由を話す。
龍也が話した理由を聞き、

「成程……確かに、紫様なら何らかの情報を持ってはいそうですね」

妖夢は納得した表情になった。
妖夢の疑問が解消されたと言うのを見て、

「妖夢はこの後どうするんだ?」

龍也は妖夢にこの後どうするんだと聞く。
聞かれた妖夢は、

「私ですか? そうですね……取り敢えず、怪しい輩を片っ端から当たっていきます」

少し考える素振りを見せた後、これからどう言う行動を取る積りなのかを龍也に伝える。
今回の件に関して言えば怪しい輩は自分の含めて腐る程居るからか、

「……そうか、頑張れよ」

龍也は妖夢に頑張れと言う言葉を掛けた。
応援の言葉を掛けられた妖夢は、

「はい!! 頑張ります!!」

元気良く頑張ると言う返事を返す。
その後、

「それじゃ、またな。妖夢」
「ええ、また会いましょう。龍也さん」

龍也と妖夢は軽く別れの挨拶を掛け合い、それぞれが進むべき方向へと足を進めて行った。























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