妖夢と一戦交えてから少し経った頃。
龍也は空中から白玉楼を目指していた。
何故、今までの様に地上からでは無く空中から白玉楼を目指しているのか。
答えは簡単。
白玉楼までの道中に犯人は居ないと判断したからである。
まぁ、妖夢と一戦交えるまでに冥界で見て来た者達の中に犯人と思える様な存在が一人も居なかったのだ。
その様な判断を下しても仕方が無いと言えば仕方が無い。
それはそうと、空中から移動しているからか、
「……この分なら、思っていたよりも早くに着きそうだな」
龍也は自身が想定していたよりも早くに白玉楼に着きそうだと言う事を感じ取る。
どうせなら、一気にペースを上げて到着時間を更に縮めるべきかと龍也が思案し始めた時、
「あれ、龍也だ」
突如、龍也の目の前に何者かが現れた。
目の前に何者かが突然現れた事で、
「ちょ!?」
龍也は慌てて急ブレーキを掛ける。
しかし、急ブレーキを掛けたのが僅かに遅かった様で、
「え?」
龍也は自分の目の前に現れた者と激突してしまった。
そして、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
龍也と龍也と激突してしまった者は地面に向けて墜落して行ってしまう。
この儘では地面に激突してしまうので、龍也は強引に体勢を立て直しながら自分と一緒に落ちている者を抱き止め、
「だ!!」
地面に着地した。
上手い事地面に着地出来た龍也はホッと一息吐き、抱き止めている者が誰なのかを確認する。
確認した結果、
「……メルラン?」
龍也は自分が抱き止めている者がメルランである事に気付く。
抱き止めている者が自分の知っている者であったからか、龍也は少し驚いた表情を浮かべてしまう。
が、そんな龍也を無視するかの様に、
「やっほー、龍也」
メルランは暢気な声で挨拶の言葉を龍也に掛けて来た。
掛けられた挨拶の言葉に反応した龍也は、
「あ、ああ。やっほー……」
取り敢えずメルランに挨拶の言葉を返し、メルランを自分の体から離す。
龍也がメルランを自分の体から離し、二人が密着状態から見詰め合う様な状態になったタイミングで、
「何だってお前は俺の目の前に現れたんだ?」
龍也はメルランに自分の目の前に現れた理由を尋ねる。
尋ねられたメルランは、
「龍也の姿が見えたから挨拶し様と思って」
ニコニコとした表情で龍也の目の前に現れた理由を話す。
メルランから自分の目の前に現れた理由を聞き、
「それで態々俺の目の前にねぇ……」
龍也は何処か呆れた様な表情を浮かべた。
まぁ、挨拶をする為だけに移動の真っ最中であった龍也の目の前に現れたのだ。
呆れた顔の一つや二つ浮かべても仕方が無いだろう。
呆れた表情を浮かべている龍也に、ニコニコとした表情を浮かべているメルラン。
ある意味対照的な表情を浮かべている龍也とメルランの二人のどちらかが次なる言葉を紡ごうとした瞬間、
「メルランに……龍也じゃないか。こんにちは、龍也」
「何々、二人して見詰め合っちゃって。若しかしてラブロマンス!?」
ルナサとリリカが龍也とメルランの傍に降り立って来た。
降り立って来たルナサとリリカの二人に、
「ああ、こんにちは。ルナサ。それとリリカ。別にラブロマンスはしてはいない」
龍也は挨拶の言葉とラブロマンスを否定する言葉を口にする。
「まぁ……ラブロマンス等々は置いといて、二人は何をしてたの?」
「ああ、実は……」
龍也の否定の言葉が耳に入ったルナサが何をしていたのかを問うて来たので、龍也は何があったのかを説明していく。
龍也から説明された事を頭に入れたルナサは、
「移動している人の目の前に行き成り現れない」
叱り付ける様にメルランの頭部に拳を軽く叩き込んだ。
ルナサに拳を叩き込まれたメルランは、
「あ痛」
頭部を押さえ、蹲ってしまった。
そんなメルランを余所に、
「なーんだ、ラブロマンスじゃ無かったんだ。残念」
リリカはラブロマンスでは無くてがっかりとした感じで肩を落とす。
メルランとリリカの反応から、二人が思いっ切りマイペースを貫いている様に感じられたからか、
「……苦労してるんだな、お前」
龍也はルナサに思わず同情の言葉を掛けてしまう。
同情の言葉を掛けられたルナサは、
「ああ、うん。まぁ……」
何処か疲れた様な表情を浮かべ、龍也の言葉に同意を示した。
同時に、場の雰囲気が微妙なものになり始めたので、
「……あ、そうだ。お前等はここで何してたんだ?」
龍也は話を変えるかの様にプリズムリバー三姉妹にここで何をしていたのかを聞く。
龍也から聞かれた事に、
「私達は練習中だよ」
リリカが代表するかの様に練習中であると言う答えを返す。
「練習って言うと……ライブのか?」
「そうそう。ほら、ここ最近ずっと宴会続きじゃない。そろそろ曲もマンネリ気味になって来たかなって思えて来たのよ。だから、そろそろ新曲をと思ってね」
練習と言う単語でライブの練習かと龍也が推察すると、リリカは龍也の推察を肯定しながら練習の内容を話し始めた。
宴会をやっているとプリズムリバー三姉妹が何時の間にか宴会場に現れ、ライブを始めると言うのがそれなりの頻度である。
それは今回の短い頻度で連続して開かれている宴会にも適応されている様なので、曲がマンネリ気味と感じていても仕方が無いと言えば仕方が無い。
ならば宴会に参加する頻度を抑えれば良いと思えるかもしれないが、プリズムリバー三姉妹に宴会に参加するなと言うのは酷であろう。
プリズムリバー三姉妹は騒霊であるが故に、騒がしい宴会に参加するのが好きなのだから。
「新曲ねぇ……楽しみだな」
次の宴会でこの三姉妹の新曲が聴けるのを龍也は楽しみにしつつ、
「あ、そうだ。この短い頻度で連続して開かれている宴会、次で最後になるかもしれないぜ」
プリズムリバー三姉妹に今回の短い頻度で連続して開かれている宴会は次で最後になるかもしれない事を伝える。
「え、そうなの?」
短い頻度で連続して開かれている宴会が次で終わりになるかもしれないと言う事を伝えられて少し驚いた表情を浮かべたメルランに、
「ああ。上手くいけば……今日か明日にでもこの異変は解決する筈だからな」
龍也は上手くいけば今日か明日にでもこの異変が解決する筈だと言う。
「龍也の台詞から察するに、ここ暫らくの連続して開催されていた宴会は異変だったの?」
「ああ、多分。まぁ、今までの異変と比べたら危険度などがかなり低いからな。異変と思えなくても仕方ないさ。俺だって異変だって強く思えないし」
龍也の発言で少々疑問気な表情になったリリカに、龍也が今回の件に付いて簡単に説明すると、
「と言う事は、龍也は異変解決?」
ルナサは龍也に異変解決の最中かと尋ねる。
「そうだ。まぁ、俺以外にも異変解決の為に動いている奴も多いけどな」
尋ねられた事を肯定し、補足する様に龍也が自分以外の面々も異変解決の為に動いている事を話した時、
「龍也の他には誰が動いているんだい?」
ルナサが続ける様にして龍也以外に異変を解決する為に動いている者は誰だと尋ねて来たので、
「俺が確認した限りだと……霊夢に咲夜にパチュリーに魔理沙にアリスに妖夢だな。動いているのは」
龍也は自分以外で異変解決の為に動いている面々の名を口にしていく。
同時に、龍也はある事を思った。
そう言えば、レミリアは特に動く気配を見せてはいないなと。
龍也との会話で今回の短い頻度で連続して開かれている宴会が異変である事は知っている筈なのだが。
咲夜が動いているから全てを咲夜に任せているのか、それとも吸血鬼の活動時間である夜に動いているのか。
龍也がレミリアの動向に付いて少し考えている間に、
「……そうだ。ねぇ、龍也。景気付けに一曲どう?」
リリカは良い事を思い付いたと言った様な表情を浮かべ、龍也に一曲聴いていかないかと言う提案をして来た。
リリカの提案が耳に入った龍也は意識を戻し、
「一曲?」
確認を取るかの様にリリカの方に視線を向ける。
視線を向けられたリリカは、
「そうそう。一人でも観客が居た方が新曲の練習にも気合が入るからね。是非聴いていってよ」
一人でも観客が居れば新曲の良い練習になるから是非聴いていけと言う主張をし、
「私達は練習に気合が入ってハッピー。龍也は私達の演奏が聴けて元気になれてハッピー。お互い良い事尽くめよー」
続ける様にメルランが自分達の演奏を聴けばお互いハッピーになれるのだから聴いていくべきだと言う。
二人の言い分を聞き、
「また勝手に決めて……」
ルナサは呆れた表情を浮かべたが、
「でも、二人の言う通り私達の演奏を龍也が聴いてくれるのは私としても嬉しい。聴いてくれる人が一人でも居れば私達も気合が入るから」
ルナサもリリカとメルランと同じ様に自分達の演奏を聴いて欲しいと漏らす。
龍也としてはさっさと白玉楼に行きたいところだが、ここでプリズムリバー三姉妹の演奏を逃すと言うのは惜しいの一言に尽きる。
序に言えば魔理沙、妖夢と戦ってからと言うもの、龍也は休息らしい休息を取ってはいない。
だからか、
「そうだな……一曲頼むよ」
龍也は一曲聴いていく事を決め、地面に腰を落ち着かせる。
龍也が自分達の演奏を聴いていく事を決めたからか、リリカは嬉しそうな表情を浮かべ、
「オッケー!! それでは、プリズムリバー楽団の演奏会が始まるよー!!」
演奏を始める掛け声を出し、自分の楽器を構える。
楽器を構えたリリカに続く様にして、
「さてさて、観客は一人だけど楽しんでいってねー!!」
「新曲は結構な自信作だから、期待してて良いよ」
メルランとルナサの二人も自分の楽器を構えた瞬間、プリズムリバー三姉妹の演奏会が始まった。
プリズムリバー三姉妹の演奏を聴き終えた後、龍也はプリズムリバー三姉妹と別れて再び白玉楼を目指して移動を開始した。
そして、白玉楼の門の前に辿り着くと、
「到着……っと」
龍也は一息吐きながら足を止め、
「にしても、随分と体の調子が良いな……」
自分の体の調子の良さに少し驚きながら、軽く体を動かしていく。
驚いてはいるものの龍也自身、自分の体の調子が良い理由は分かっている。
その理由と言うのは、プリズムリバー三姉妹の演奏会だ。
今まで、プリズムリバー三姉妹の演奏を聴いて気分が良くなったりテンションがハイになったりと言った事が多々あった。
故に、体の調子が良いのはそれの延長線上の事だと龍也は考えたのだが、
「まさか、体に残っていた疲労感が無くなる程とはな……」
体に残っていた疲労感が無くなる程に元気が出るとは思わなかった様である。
若しかしたら、異変解決を行う為に行動をしている龍也にプリズムリバー三姉妹が気を利かせてくれたのかもしれない。
真実がどうであるか分からないが、プリズムリバー三姉妹には感謝しなければならないなと龍也は思いつつ、
「よ……っと」
白玉楼の門を開け、白玉楼の敷地内に足を踏み入れる。
白玉楼の敷地内に足を踏み入れた龍也は軽く周囲を見渡し、相変わらず見事な庭だと言う感想を抱く。
思わず見事と言う感想を抱いてしまう様な庭を、妖夢は一人で整えているのだ。
だからか、
「やっぱ凄いな。妖夢は」
龍也はつい、妖夢を称賛する言葉を漏らしてしまう。
同時に、龍也は自身が漏らした言葉を合図にしたかの様に幽々子を探す為に足を進め始めた。
足を進め始めてから少しすると縁側の方でお茶を飲んでいる幽々子を発見したので、
「よう、幽々子」
龍也は幽々子に声を掛け、幽々子の方に近付いて行く。
龍也の声に反応した幽々子はお茶を飲むのを止めて顔を上げ、
「あら、龍也じゃない。いらっしゃい」
幽々子は笑顔で出迎えの言葉を口にした。
幽々子が出迎えの言葉を口にしたタイミングで龍也は足を止め、
「早速で悪いんだが幽々子、紫が何所に居るか知らないか?」
紫が何所に居るか知らないかと尋ねる。
「紫? 残念だけど、紫が今何所に居るかは知らないわね」
「そうか……」
幽々子から紫が今居る場所は知らないと言う答えが返って来た為、龍也はがっかりとした様に肩を落とす。
龍也が誰の目から見ても落ち込んでいると分かる様な状態であったからか、
「何で紫に会おうとしていたの?」
幽々子は龍也に何で紫に会おうとしていたのかを首を傾げながら問う。
問われた事に反応した龍也は落としていた肩を上げ、
「ほら、博麗神社に妖力が漂っているだろ。あれに付いて紫なら何か知ってるんじゃないかと思ってさ」
紫に会おうとしていた理由を話す。
龍也の話を耳に入れた幽々子は、
「ああ、あれね」
傾げていた首を戻し、納得したと言った表情を浮かべた。
幽々子の反応を見て、龍也は幽々子が何かを知っていると感じ、
「……若しかして、幽々子は今回の件に付いて何か知っていたりするのか?」
幽々子に今回の件に付いて何か知っているのかと聞く。
聞かれた幽々子は、
「そうねぇ……」
少し考える様な素振りを見せた後、
「食後の運動に付き合ってくれたら……貴方の知りたい情報を教えて上げるわ」
食後の運動に付き合ってくれたら龍也の知りたい情報を教えると言い、立ち上がった。
要するに、幽々子は自分と一戦交えろと言っているのだ。
幽々子が自分と戦おうとしている理由は分からないが、幽々子と一戦交えれば情報が手に入るので、
「分かった。戦おうぜ」
龍也は一戦交える事を決め、構えを取る。
龍也が戦う意思を見せたからか、
「そうそう。男の子はそうでなくっちゃ」
幽々子は嬉しそうな雰囲気を見せながら跳躍を行い、龍也の反対側に降り立つ。
自身の反対側に降り立った幽々子を追う様に龍也は体を動かすと、龍也の目には特に構えを取らずに自然体で立っている幽々子の姿が映る。
そう、構えを取らずに自然体で立っている幽々子の姿が。
だと言うのに、
「……………………………………」
幽々子には隙が全く見られなかった。
まるで自然体が構えだと言わんばかりに。
とは言え、幾ら隙が無いと言っても攻め込まなければ何も始まらないし時間が無駄に過ぎていくだけなので、
「……ッ!!」
龍也は何かを決意した表情を浮かべて幽々子へと肉迫し、拳を振るう。
振るわれた拳を幽々子は紙一重で避けながら龍也の腕を掴み、
「えい」
龍也を上空へと放り投げた。
「なっ!?」
幽々子に容易く投げ飛ばされた龍也は驚きの表情を浮かべるも、直ぐに表情を戻して体を回転させて体勢を立て直す。
その後、追撃を仕掛けて来ているであろう幽々子に顔を向けたが、
「何……」
幽々子は龍也に追撃を掛けず、只笑顔を浮かべて龍也の様子を伺っているだけであった。
「………………………………………………………………」
追撃を仕掛けて来なかった幽々子を龍也は不審に思いながら地に足を着け、
「ッ!!」
再び幽々子へと肉迫し、拳を振るう。
振るわれた拳は吸い込まれる様にして幽々子の体に向かって行ったが、龍也の拳は幽々子の体に当たる直前で止まり、
「しっ!!」
拳の代わりと言わんばかりに龍也は蹴りを放った。
フェイントを繰り出してからの一撃。
今度こそ龍也の攻撃が幽々子に当たると思われたが、
「なっ!?」
龍也の蹴りは幽々子が何時の間にか取り出した扇子に受け止められてしまった。
結構な力を籠めて放った蹴りを何の苦も無く受け止めた幽々子に龍也が驚いている間に、幽々子は手首を軽く動かして扇子で龍也の脚を掬い上げる。
蹴りを放った儘の体勢で脚を掬い上げられたものだから、
「うおわ!?」
龍也の体勢は当然の様に崩れてしまう。
体勢が崩れ、隙だらけとなった龍也の腹部に、
「隙だらけよ」
幽々子は軽く掌を当てる。
すると、
「がっ!?」
龍也は勢い良く吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされた龍也は背中から地面に激突したが、直ぐに立ち上がって腹部を手で押さえながら考える。
今、何をされたのかと。
腹部に軽く手を当てられた後、物凄い衝撃が走った。
分かったのはこれだけ。
技術で吹き飛ばされたのか霊力などを使った技で吹き飛ばされたのかが分かれば作戦も一つでも思い浮かんだかもしれないが、分からないのならば仕方が無い。
龍也は気持ちを切り替える様に腹部から手を離して跳躍を行い、頭を幽々子の方に向けて足元に霊力で出来た見えない足場を作り、
「ッ!!」
作った足場を思いっ切り蹴って幽々子へと突っ込んで行く。
そして、龍也と幽々子の距離が半分位になった辺りで龍也は頭と足の位置を入れ替える様に体を回転させ、
「だりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
幽々子に向けて飛び蹴りを放つ。
放たれた飛び蹴りを、
「うふふ、外れー」
幽々子は後ろに一歩下がる事で回避する。
幽々子が龍也の飛び蹴りを回避した事で龍也の足は地面に当たってしまったが、
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
龍也は攻撃を避けられた事を無視するかの様に幽々子を追い、連続して拳を振るう。
迫り来る龍也の拳を、
「うふふ……」
幽々子は舞いを思わせる様な動きで全て回避していく。
幽々子の舞いを思わせる動きに龍也は魅せられそうになったが、
「……らあ!!」
魅せられそうなるのを振り切るかの様に重い一撃を放つ。
放たれた拳に合わせるかの様に幽々子は体を屈め、
「ふふ、焦りすぎよ」
龍也の腹部に扇子の先端を叩き込んだ。
カウンター気味に扇子を叩き込まれた為、
「がっ!?」
龍也は勢い良く吹き飛ばされてしまった。
勢い良く吹き飛ばされて行く龍也を見ながら、
「あらあら、この程度なの?」
幽々子は軽い挑発を行う。
幽々子の挑発が耳に入った龍也は下半身に力を籠めながら地に足を着け、ブレーキを掛けるのと同時に自身の力を変える。
白虎の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から翠へと変わり、両腕両脚に風が纏わさられる。
力の変換が完了したの同時に龍也は一瞬で移動出来る移動術を使って幽々子の背後に回り込み、
「しっ!!」
拳を放つ。
完全に不意を突けたと龍也は思ったのだが、
「あら、随分と速くなったのね」
幽々子は背後から攻撃が来ているのを分かっていたかの様に体を逸らして龍也の拳を回避した。
「何!?」
完全に不意を突いた様な攻撃を容易く避けられた事に龍也が驚いている間に幽々子は龍也の拳と手首を掴み、
「えい」
龍也の力を利用する様な形で龍也を地面に叩き付ける。
「ぐあ!?」
地面に叩き付けられた龍也は呻き声を漏らすも、直ぐに側転を行って幽々子から距離を取り、
「ッ!!」
両手で地面を弾く様にして立ち上がった。
今回も龍也は思いっ切り隙だらけだったのだが、幽々子はまたしても龍也に追撃を掛けずに笑顔を浮かべて立っているだけ。
何か作戦が在るのか、それとも舐めているのか。
どちらかのかは分からないが、
「………………………………………………………………」
何も考えずに攻撃をしたら手痛いカウンターを受けると言う事だけは分かっていた。
ならば、やる事は一つ。
カウンターを行う事が出来無い様な攻撃をすれば良いだけ。
そう判断した龍也は右手を幽々子の方に向け、弾幕を放つ。
放たれた弾幕を幽々子はこれまた舞いを思わせる様な動きで避けていき、お返しと言わんばかりに蝶の姿を模した弾幕を放ち始めた。
幽々子の弾幕を見た龍也は幻想的な雰囲気を持つ弾幕だと言う感想を抱きつつ、
「ッ!!」
自分と幽々子の弾幕が激突し合ったタイミングで弾幕を放つのを止め、地を駆けて幽々子へと一気に近付いて行った。
幽々子の弾薬や龍也と幽々子の弾幕が激突した事で発生した爆発や爆煙を物ともせずに。
多少の被弾などどうでも良いと言った感じで突っ込んで来ている龍也を見て、
「ふふ……」
幽々子は何処か楽しそうな笑みを浮かべ始めた。
幽々子が笑みを浮かべている間に龍也は幽々子の懐に入り込み、
「らあ!!」
放たれている弾幕を弾き飛ばす様な勢いで拳を振るう。
まだ弾幕を放っている今の状態ならカウンターを行う事は出来ない筈だと龍也は思ったのだが、そんな龍也の思いを裏切るかの様に、
「はい、残念」
幽々子は唐突に弾幕を放つのを止め、瞬時に龍也の拳を掴んで足払いを掛けた。
足払いを掛けられた龍也は、
「うわあ!?」
成す術も無く尻餅を付いてしまう。
尻餅を付いた龍也に幽々子は視線を移しながら、
「私のカウンターを防ぐ為に弾幕を放っている間に攻撃を仕掛けて来るって言う着眼点は良かったんだけどね」
着眼点は良かったと言う言葉を掛ける。
ある種の褒め言葉を掛けられた龍也は膝を地面に着ける様に体を動かして両手を地面に着け、地面に向けて突風を放った。
地面に向けて突風を放った事で砂煙が舞い上がり、舞い上がった砂煙の影響で龍也と幽々子の姿が見えなくなる。
砂煙が舞い上がっている間に龍也は幽々子の背後に回り込んで拳を振るう。
今度こそ龍也の攻撃が幽々子に当たるかと思われたが、
「そうは問屋が何とやら……ってね」
幽々子は体を回転させながら龍也が振るった拳を避け、体を回転させた勢いで振るった扇子を龍也の背中に叩き込んだ。
無防備な背中に攻撃を叩き込まれたものだから、
「ぐあ!!」
龍也は吹き飛びながら地面に倒れ込んでしまった。
倒れ込んでいる龍也に、
「目晦ましをして背後から攻撃をすると言うのは良かったけど……亡霊の私からすれば生きている貴方の気配は読み易いのよ」
幽々子が自分には並大抵の不意打ちでは意味が無いと言う事を教えると、龍也は起き上がって幽々子の方に体を向ける。
ここまでの龍也は幽々子に良い様に遊ばれているだけの様な状態であったが、幽々子の方に体を向けた龍也の目に宿る強さは少しも衰えていなかった。
それ処か、勝ってやると言う意志も見られるではないか。
戦意が衰える処かより強くなった龍也に幽々子は感心した感情を抱きつつ、
「幾ら貴方の攻撃が速くても駄目よ。ちゃんと相手の動きを見なきゃ……ね」
龍也にアドバイスをする。
突然の幽々子からによるアドバイスを受けた龍也は思わず唖然とした表情を浮かべるも、直ぐに表情を戻し、
「……ッ!!」
再び地を駆けて幽々子へと近付いて行く。
正面から近付いて来ている龍也を見据え、龍也が拳を振るった時、
「……そこ」
幽々子は振るわれた拳を掴む為に自身の手を伸ばす。
その瞬間、
「ッ!?」
龍也は振るっていた拳を開いて幽々子の手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。
引き寄せられ、自分の方へと近付いて来ている幽々子の顔面に、
「しっ!!」
龍也は幽々子の手首を掴んでいない方の手で拳を放つ。
放たれた拳は勢い良く幽々子の顔面へと向かって行ったが、
「……………………………………………………………………………………」
龍也の拳は幽々子の顔面には当たらず、幽々子の眼前で止まった。
目の前に存在している龍也の拳を視界に入れながら、
「お見事。私のアドバイスを受けて直ぐに実行に移せたのは……流石はその身一つで幻想郷中を旅をしている旅人と言ったところかしら」
お見事と言う言葉を漏らし、戦意を消失させる。
幽々子が戦意を消失させたのを感じ取った龍也は放っていた拳を降ろし、自身の力を消す。
力を消した事で龍也の瞳の色が翠から黒に戻り、両腕両脚に纏わさられていた風が四散する。
龍也が完全に戦闘体勢を解除した後、幽々子は龍也の目を見ながら、
「それはそうと最後の寸止め。あれを優しさと取るべきか甘さと取るべきか……」
先の寸止めを龍也の優しさと取るべきか甘さと取るべきを考え始めた。
幽々子が考えている事が自分の事であったからか、
「倒さなきゃならない奴なら……俺も容赦はしないさ」
龍也は倒さなければならない相手なら自分も容赦する気は無いと言う。
倒すべき敵なら容赦はしないと言い切った龍也の目に少しの揺らぎも見られなかった為、
「……そう。なら良いわ」
幽々子はこの話はこれでお終いと言った雰囲気を見せ始めた後、
「……なぁ、聞きたい事があるんだが聞いて良いか?」
龍也は話の流れを変えるかの様に聞きたい事があるので聞いても良いかと問うた。
「ええ、構わないわ」
「なら聞くが、何で俺に稽古を付ける様な真似をしたんだ?」
問うても構わないと幽々子が返してくれたので、龍也は何で自分に稽古を付ける様な真似をしたのかを聞く。
今の龍也と幽々子の一戦。
龍也には幽々子が自分に稽古を付けている様に感じていた。
いや、教えてくれたと言った方が正しいであろうか。
カウンターを重視した戦法を取る相手との戦い方と相手を良く見ろと言う事を。
序に言えば、カウンターのやり方を龍也の体に直接叩き込んだと言う事もして来ただろう。
一応、今回の戦いは幽々子の食後の運動と言う名目で始まったもの。
故に、龍也は自分を鍛える様な事をした幽々子に疑問を覚えているのだ。
「成程ねぇ……」
龍也が抱いている疑問を聞いた幽々子は、
「答えは簡単。頑張っている男の子は応援したくなるからよ」
頑張っている男の子は応援したくなると言う言葉を残し、自身の口元を扇子で隠す。
幽々子が残した言葉では龍也の疑問は晴れなかったが、これ以上何かを言っても幽々子が何かを言う気が無い事を察した龍也は、
「……はぁ」
溜息を一つ吐き、
「それはそうと、博麗神社に漂っている妖力の事に付いて教えてくれないか?」
気分を変えるかの様に本題である博麗神社に妖力に付いて尋ねる事にする。
「ええ、勿論良いわよ。妖力にどんな効果が有るのかは知ってそうだから……教える情報は犯人の居場所が良いかしら」
「……良く分かったな。俺が妖力の効果に付いては知ってるって事」
まだ喋ってもいないのに自分が知り得ている情報を言い当てた幽々子に龍也が驚いていると、
「女の勘ってやつよ」
幽々子から女の勘と言う答えが返って来た。
「……さよけ」
幽々子の女の勘と言う返答に思わず呆れた表情を浮かべてしまった龍也を見て、
「あら、酷い反応」
幽々子は不機嫌に表情になるも、
「それはさて置き、今回の件の犯人は博麗神社に居るわ」
直ぐに表情を戻して今回の件の犯人が居る場所を教える。
「博麗神社に……」
「ええ、博麗神社よ。灯台下暗しと言ったところね」
「けど、妙だな。博麗神社に犯人が居るなら俺や霊夢が気付かない筈は無いんだが……」
幽々子から犯人の居場所を教えられた龍也は、自分や霊夢が犯人の存在に気付か無かった事に疑問を覚えた時、
「気付かなくても仕方が無いわ。博麗神社に居る犯人は存在が非常に薄くなっているから」
幽々子は博麗神社に居る犯人は非常に薄くなっているから気付かなくても仕方が無いと口にし、
「解り難かったら犯人は自分の存在を隠していると思って貰えれば良いわ」
補足するかの様に存在が非常に薄くなっていると言う発言の意味を龍也に伝えた。
「ふむ……」
幽々子から教えられた情報と伝えられた事を頭に入れ、龍也はどの様に犯人を見付けるかを思案していく。
博麗神社で生活している霊夢もここ暫らく博麗神社に居候をしている龍也も犯人の存在には気付けなかった。
ならば、普通のやり方では見付ける事は出来ないだろう。
最低でも全ての畳を引っ繰り返す勢いで探索する必要が在ると龍也は判断し、
「ありがとな、幽々子」
色々と教えてくれた幽々子に礼を述べ、幽々子に背を向けて博麗神社に向かうとする。
そして、博麗神社に向かう為に龍也が空中に躍り出様とした瞬間、
「待ちなさい」
幽々子は龍也に待つ様に呼び止めた。
急に呼び止められた事で空中に躍り出様としていた龍也は転びそうになるが、
「とっ!! とと……」
龍也は何とか踏み止まり、何の用だと言う表情を浮かべながら幽々子の方に体を向ける。
自分の方に体を向けて来た龍也を見ながら、
「今から出発したら博麗神社に着く頃には夜になっちゃうわよ。行くのなら明日にしなさい」
幽々子は今から出発したら博麗神社に着く頃には夜になるだろうから、行くのなら明日にしろと言う。
博麗神社に着く頃には夜になると言われた龍也はポケットに手を入れ、懐中時計を取り出して今の時間を確認する。
確認した結果、
「あー……確かに、結構な時間だな。今」
現在の時刻が結構遅いと言う事が分かった。
幽々子の言う通り、今から出発したら博麗神社に着くのは夜になるだろう。
龍也として別に夜になってから調べると言うのでも良かったのだが、夜になってから調べるとなると一つの問題が出て来る。
問題と言うのは、霊夢の存在だ。
普通にやって見付けられない様な犯人を見付け様とすれば、文字通り徹底的に探す必要があるだろう。
となると、博麗神社は内外問わず騒がしくなる。
幾ら異変解決の為と言っても宴会でも無いのに夜中に騒がしくしたら、霊夢の雷が落ちるのは確実だ。
そうなったら最後、確実に怒っている霊夢と一戦交える事となる。
「流石にそれは勘弁したいな……」
怒っている霊夢と戦う事は勘弁したいと龍也は呟きながら取り出していた懐中時計を仕舞い、思う。
幸い、まだ時間は在ると。
宴会が始まる時間は明日の夜。
一応、まだ一日の猶予がある。
なので、ここは幽々子の言う通り博麗神社に向かうのは明日にする事を龍也は決め、
「うん、分かった。博麗神社に行くのは明日にするよ」
その旨を幽々子に伝えると、
「だったら、今日は白玉楼に泊まっていきなさい。流石にそこ等辺で野宿しろと言うのは酷だろうし」
幽々子は白玉楼に泊まっていく事を提案した。
正直なところ、幽々子の提案は龍也としてもありがたかったので、
「分かった。今日は世話にならせて貰うよ」
龍也は白玉楼に泊まっていく事を決める。
「ええ、お世話になっていきなさい」
自分の家の様に寛いでいけと言う雰囲気を幽々子が見せた後、
「これからご飯にし様と思ったけど……妖夢が帰って来るまでまだ時間が掛かるわね。それまでの間、私の話し相手にでもなって貰おうかしら」
妖夢が帰って来るまで自分の話し相手になって貰おうと考え始めた。
「ま、世話になる身だからな。それ位は付き合うさ」
「あら、その言い方だと世話になる身じゃ無かったら私とは話したくも無いって言っている様に聞こえるけど?」
龍也の言い方で気分を少々害したと言った表情を幽々子が浮かべてしまったからか、
「いやいや、そんな事無いって!! 俺、幽々子と話せて嬉しいって!!」
龍也は慌てる様に弁明の言葉を述べていく。
龍也の弁明の言葉を耳に入れながら、
「ふふ。なら、それが本当かどうかを確かめさせて貰おうかしら」
幽々子は龍也に背を向け、何処か楽しそうな雰囲気を見せながら屋敷の方へと向かって行った。
幽々子が見せた雰囲気から何か嫌なものを感じつつも、
「あ、おい。待てよ」
龍也は少し慌てた動作で幽々子の後を追って行く。
異変の調査に出掛けていた妖夢が戻り、龍也、幽々子、妖夢の三人が夕食を食べてから暫らく経った頃、
「………………………………………………………………」
幽々子は縁側で涼んでいた。
因みに、時間帯で言えば深夜。
龍也も妖夢も既に寝ているので、二人がここに来る事は無いと判断した幽々子は、
「紫、出て来ても良いわよ」
紫に出て来る様に言う。
すると、幽々子の傍に隙間が出現し、
「こんばんは、幽々子」
隙間の中から紫が現れた。
現れた紫は飛び上がる様にして隙間から抜け出し、幽々子の隣に腰を落ち着かせた瞬間、
「ええ。こんばんは、紫」
幽々子も挨拶の言葉を返し、
「今回の異変、一枚噛んでる?」
紫に今回の異変に一枚噛んでいるのかと問う。
問われた事を、
「いいえ、私は噛んではいないわ。でも、今回の異変の犯人が誰なのかは知っているわ」
紫は否定したが、代わりに犯人が誰かは知っていると話す。
「あら、そうなの。犯人は誰なのかしら?」
「犯人は私の友人よ」
「友人?」
犯人は自分の友人であると断言した紫に幽々子が疑問気な表情を浮かべると、
「昔、話した事が無かったかしら? 私の友人の話」
紫は幽々子に昔、自分の友人に付いての話をしなかったかと聞く。
紫そう聞かれた幽々子は思案気な表情になりながら自身の記憶を遡らせていった結果、
「……犯人は鬼?」
鬼と言う答えが出て来た。
「正解」
「……若しかして、龍也を少し鍛えてくれと言ったのもその鬼が少し関係しているのかしら?」
紫から返って来た正解と言う返答を聞き、幽々子は紫に龍也を少し鍛える様に言って来たのはそれが関係しているのかと推察する。
「ええ、そう。貴女に龍也を少し鍛える様に頼んだのはその鬼が原因よ。ま、貴女が快く私の頼みを引き受けてくれて助かったけど」
「あら、私は友人の頼みを無碍にする様な女じゃなくてよ。それに、龍也の事は気に入っているしね」
幽々子の推察を紫は肯定しながら自分の頼みを引き受けてくれて助かったと漏らすと、幽々子は紫の頼みを引き受けた理由を話し、
「少し気に掛かったのだけど、龍也を鍛えるのと鬼と何が関係しているの?」
少し気に掛かった事を呟く。
幽々子が呟いた事に対する答えを、
「簡単に言えば、友人の願いを少し叶えて上げ様と思ってね。霊夢、魔理沙、咲夜の三人でも良かったんだけど……性格を考えたら龍也を当てるのが一番だと
思ったのよ」
紫は直ぐに述べ、
「それはそうと、龍也の成長スピードはどうだった?」
話題を変えるかの様に龍也の成長スピードに付いて尋ねる。
「かなり速いわね。少し私見になるけど龍也は会う度に強くなってるし、戦っている最中も強くなっている」
「そう……」
幽々子から龍也の成長スピードを聞いた紫は何処か満足した様な表情を浮かべた。
紫がそんな表情を浮かべている間に、
「紫は龍也の成長スピードの速さに付いて、何か知ってる?」
幽々子は紫に龍也の成長スピードに付いて何か知っているのかと問う。
問われた事を、
「いえ。唯、幽香曰く龍也の本能は戦う事と強くなる事を望んでいるから……らしいわ」
紫は否定し、幽香が述べていた事を幽々子に伝える。
紫から伝えられた情報を頭に入れた幽々子は龍也との戦いを思い出し、
「成程ね……」
納得した表情になった。
龍也の戦いに対する姿勢から、鬼の相手は霊夢、魔理沙、咲夜の三人よりも龍也の方が適していると感じたからだ。
幽々子の疑問が消失した後、
「……さて、眠くなるまでのんびりしましょうか」
「そうね」
幽々子と紫は夜空を眺めながら、のんびりとした時間を過ごし始めた。
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