「ん……」

龍也は目を開き、上半身を起こして周囲を見渡していく。
周囲を見渡していくと、自分が今居る場所が和室の中である事が分かった。
そして、分かった事に付随するかの様に、

「ああ……」

龍也は白玉楼に泊まった事を思い出す。
同時に、

「んー……」

上半身を伸ばして頭と体を覚醒させていく。
頭と体がある程度覚醒した辺りで龍也は上半身を伸ばすのを止め、布団の中から出て立ち上がる。
立ち上がった後、龍也は和室から出て廊下に立ち、

「……さて、妖夢と幽々子は居間の方に居るかな?」

妖夢と幽々子を探すかの様に居間の方に向けて足を進め、居間へと続く襖の前に辿り着きそうになった時、

「あら、おはよう。龍也」

誰かが龍也に挨拶の言葉を掛けて来た。
掛けられた挨拶の言葉に反応した龍也は足を止め、挨拶の言葉が聞こえて来た方に顔を動かす。
顔を動かした先には幽々子が居たので、

「ああ、おはよう。幽々子」

龍也は挨拶の言葉を返した。
お互いが挨拶の言葉を掛け合った後、

「どう、良く眠れた?」

幽々子は龍也に良く眠れたかと尋ねる。

「ああ、お陰様でな」

尋ねられた事を龍也が肯定すると幽々子は嬉しそうな表情を浮かべ、

「もう少ししたら朝ご飯が出来ると思うから、食べて行きなさい」

もう少ししたら朝ご飯が出来るから食べてい行く様に言う。
朝ご飯の話題を出されたからか、

「あ……」

龍也は突如として空腹感を覚えてしまった。
空腹感を覚えてしまった以上、空腹感を覚えた儘出発と言うのは有り得ないので、

「分かった。ごちそうになるよ」

龍也は白玉楼で朝食を食べて行く事を決め、朝食を食べていく事を幽々子に伝える。
それを聞いた幽々子は、

「それじゃ、ご飯が出来るまで居間で待ってましょうか」

龍也にご飯が出来るまで居間で待つ様に促す。
特に拒否する理由は無いので、龍也は促される形で幽々子と一緒に居間へと入って行く。
居間に入った龍也と幽々子は向かい合う様な形で卓袱台の前に腰を落ち着かせ、雑談を交わし始める。
雑談を交わし始めてから少しすると、

「……ん?」

廊下の方から少し騒がしいと言える様な音が龍也と幽々子の耳に入り始めた。
耳に入って来た音が少し気に掛かったからか、龍也は視線を廊下の方に向ける。
視線を廊下の方に向けた龍也の目には、忙しなく動いている沢山の人魂が映った。
忙しなく動いている人魂を少しの間見続けた後、龍也は視線を幽々子の方に戻し、

「そう言えば、当たり前だけど冥界って幽霊とかが多いな」

冥界には幽霊とかが多いなと言う話題を出す。
出された話題に反応した幽々子は、

「そりゃね。何所も飽和状態だから霊達は冥界に留まるしかないのよ」

何所も飽和状態だから冥界に留まるないのだと言う。
幽々子が言った何所も飽和状態と言う言葉の意味が良く解らなかった為、

「えーと……」

龍也は何かを考える素振りを見せた。
何かを考えている龍也を見て、

「解り易く言うのなら、天国も地獄も定員オーバーなのよ」

幽々子は飽和状態の意味を解り易く教える。
天国も地獄も定員オーバーと言う事を知り、

「……何と言うか……何だな」

何とも言えない表情を龍也は浮かべてしまった。
そんな表情を浮かべてしまっている龍也を余所に、

「で、行き場の無い霊達が溢れ返らない様に冥界を拡張をしたのよ。結構前にね」

幽々子は続ける様に天国にも地獄にも行けない霊達が溢れ返らない様に冥界を拡張したと言う事を伝えた。
少々面倒臭そうな表情を浮かべから。
幽々子の表情から冥界の拡張は中々に面倒な作業であった事を龍也は察し、

「何か……大変だったんだな」

同情する様な言葉を掛ける。
掛けられた同情の言葉に、

「まぁ……ね」

幽々子は若干適当さが感じられる返答を返し、

「それはそうと、貴方も死んだ時にそうなるかもしれないわよ」

龍也も死んだ時には天国や地獄には行けず、冥界に留まる可能性が在る事を話す。
自分が死ぬ頃には天国や地獄も拡張されているだろうと考えていた龍也は、

「そうなのか?」

意外そうな表情を浮かべてしまう。
龍也の表情から幽々子は龍也が何を考えていたのかを理解し、

「ええ、そうよ。生きてる者も霊も日に日に増え続けているからね。そうなる可能性は高いわ」

生きている者も霊も日に日に増え続けているので、そうなる可能性は高いと口にする。
つまり、天国や地獄を拡張しても直ぐにそれを上回る程の霊が入って来ると言っているのだ。
何とも世知辛いものである。
余り知りたくは無いあの世の事情を知ってしまい、

「……はぁ」

龍也は溜息を一つ吐いてしまった。
まだ生きているのに死んだ後の心配をしなくてはならなくなり、若干憂鬱な気分になってしまった龍也を見た幽々子は、

「……そうだ。貴方が死んでこっちに来たら白玉楼で雇って上げましょうか?」

死んで冥界に来たら白玉楼で雇って上げ様かと言う提案をする。
死んだ後、冥界に放り出された儘の状態よりも白玉楼に雇われた方が良いかもしれない。
ならば、ここで雇ってくれと言う返事をするのが得策だろう。
しかし、死んだら死んだで冥界を余す事無く探索したいと言う想いが発生する可能性が出て来るので、

「そうだな……死んでここに来た時に返事をさせて貰うよ」

龍也は白玉楼で雇われるかどうかの返答は死んでからにすると言う答えを返す。
その瞬間、

「失礼します」

失礼しますと言う声と共に誰かが居間の中に入って来た。
誰が入って来たか気になった龍也は声が聞こえて来た方に顔を向けると、両手で料理が乗った皿を持っている妖夢の姿が龍也の目に映る。
更に、妖夢の後ろには料理を乗せた皿を頭部と思わしき場所に乗っけている人魂の姿が何体も見られた。
どうやら、朝食が出来た様だ。
龍也がどんな朝食なのかを楽しみにしている間に妖夢と人魂は卓袱台の上に料理が乗った皿を並べていき、

「幽々子様、朝食をお持ちしました」

全ての料理を並び終えたのと同時に、妖夢は幽々子に朝食を持って来た事を伝える。

「ご苦労様、妖夢」
「いえ」

朝食を運んで来た妖夢に幽々子が労いの言葉を掛けると、妖夢は大した手間では無いと言った返事をして龍也の方に顔を向け、

「おはようございます、龍也さん」

龍也に朝の挨拶の言葉を掛けた。
掛けられた挨拶の言葉に、

「ああ、おはよう。妖夢」

龍也は挨拶の言葉を返してテーブルの上に並べられている料理の数々に目を向け、

「……本当、良くこれだけの量を平気で食えるよな。お前」

これだけの量のご飯を良く平気で食べれるなと漏らす。
卓袱台の上に並べられている料理の数は龍也、幽々子、妖夢の三人で食べるには多過ぎる。
食事を取る者の数に人魂を入れれば適量になるであろうが、龍也は白玉楼に居る時に人魂が食事を取っているのを見た事が無い。
故に、人魂も一緒に食事を取ると言う可能性は除外した方が良いだろう。
となれば、卓袱台の上に並べられている料理は龍也、幽々子、妖夢の三人で食べる事になる。
無論、龍也と妖夢の二人は卓袱台の上に並べられている料理を全て平らげる事は不可能だ。
だが、幽々子は別。
何故かと言うと、龍也と妖夢の二人が食べ切れ無い様な料理を幽々子は平気で食べ切れるからだ。
それはさて置き、何処か唖然とした表情を浮かべている龍也に、

「あら、これ位は普通じゃない?」

幽々子はキョトンとした表情でこれ位は普通だろうと口にする。
因みに、幽々子がこれ位は普通だろう言った時に妖夢は苦笑いを浮かべていた。
何処か呆れている龍也に苦笑いを浮かべている妖夢。
幽々子の発言で場の雰囲気が微妙なものに成り始めて来たが、

「さて、ご飯が冷めない内に食べてしまいましょ」

幽々子がマイペースを貫くかの様にご飯を食べる様に言い出した為、場に漂い始めていた雰囲気は払拭されていく。
払拭された雰囲気を感じ、龍也がこう言うところも幽々子の凄いところだと思っている間に、

「そうですね」

妖夢は幽々子の発言に同意し、卓袱台の前に腰を落ち着かせた。
妖夢が腰を落ち着かせたのに気付いた龍也は意識を戻し、

「そうだな。そろそろ食べるか」

好い加減食事を取ろうと言う二人の意見に賛成の意を示す。
全員が全員、食事を取る事に了承した為、

「「「いただきます」」」

龍也、幽々子、妖夢の一斉に食事を取り始めた。
食事を取り始めて直ぐに、

「美味いな」

龍也は美味いと言う感想を呟く。
龍也が呟いた感想が耳に入った妖夢は、

「ありがとうございます、龍也さん」

嬉しそうな表情を浮かべ、感謝の言葉を述べた。
やはりと言うべきか、自分が作った料理を美味しいと言われるのは嬉しい様だ。
まったりとした雰囲気の中で雑談を交わし、龍也達が箸を進めてから少しすると、

「妖夢、お代わり」

幽々子が茶碗を突き出し、ご飯のお代わりを求めて来た。
ご飯のお代わりを要求して来た幽々子に対し、龍也の妖夢の茶碗の中身のご飯は半分以上残っている。
序に言えば、幽々子の茶碗は龍也と妖夢の茶碗に比べて結構大きい。
かなり速いペースでご飯を平らげた幽々子に、

「は、はい。只今」

妖夢は若干顔を顔を引く付かせ、幽々子から茶碗を受け取ってご飯をよそい始めた。
ご飯を装っている妖夢を見ながら、

「……ほんと、速いペースで食うよな。お前」

食べるペースが速いと言う言葉を龍也は幽々子に投げ掛ける。
食べるペースに付いての話題を出された幽々子は、

「そう? 龍也は男の子何だから私位のペースで食べる事は朝飯前でしょ?」

男の子である龍也なら自分の様なペースで食べるのは朝飯前だろうと返す。
確かに、幽々子の様なペースで食事を取る事は龍也にも可能と言えば可能だ。
しかし、

「やろうと思えば出来るとは思うが……お前みたいな食べ方をしたら確実に喉が詰るな」

龍也が幽々子の様なペースで食べ物を食べたら確実に喉を詰まらせる事になるであろう。
二人の会話を聞き、やろうと思えば龍也も幽々子の様なペースで食事を取れる事を知った妖夢は、

「こんなに速く食べる事が出来るのは幽々子様御一人だけで十分ですよ……」

勘弁してくれと言った表情を浮かべながら山盛りに盛られた茶碗を幽々子に差し出す。
差し出された茶碗を幽々子は受け取り、

「あら、それはどういう意味かしら? 妖夢?」

不機嫌ですと言いた気な表情を浮かべてどう言う意味かと尋ねる。
尋ねられた妖夢は今のは失言だったと言う事を察し、

「あ、い、いえ!! 別に深い意味は在りません!! はい!!」

慌てて弁明を開始した。
それだけ、妖夢に取って幽々子の怒りは買いたく無い事の様だ。
まぁ、従者に取って主の怒りを買いたくなる様な状況は来ないであろうが。
そんなこんなで多少のハプニングがあったものの、

「「「ご馳走様」」」

龍也達は無事に食事を取り終えた。
食事を取り終えた後、妖夢と龍也達が食事を取り終えるまで待機していた人魂達が食器の片付けを始める。
片付けをしている妖夢と人魂達を見て龍也も片付けの手伝おうとしたが、妖夢から龍也さんはお客様なのですから手伝わなくても良いですよと言われてしまった。
なので、龍也は妖夢と人魂達が食器の片付けをしていく様子を黙って見ている事にした。
そして、妖夢と人魂達が食器を持って居間から姿を消した後、

「それで、もう行く積り?」

幽々子はもう行く積りなのかと問う。
問われた事を、

「ああ、妖夢に挨拶してから行く積りだ」

龍也は肯定し、補足する様に妖夢に挨拶してから白玉楼を出発する旨を伝える。
龍也のこれからの考えを知った幽々子は、

「そう……油断しない様にね」

少々真面目な表情を浮かべ、油断しない様にと言う忠告の言葉を発した。
幽々子が急に忠告する様な発言をして来た事で龍也は少し驚きつつも、

「解ってるさ。それは前に……初めて妖夢と戦って負けた時に嫌と言う程に思い知ったさ。あの時の敗因は俺と妖夢の実力差が大きかった。けど、
それと同等かそれ以上に油断と慢心が俺に在った。それ故にあの時、俺は妖夢に完膚無きまでに負けた。だから、同じ轍は二度と踏まないさ」

油断する気も慢心する気も欠片も無い事を断言する。
龍也の様子から心配する必要が無い事を幽々子は感じ取り、

「なら良いわ」

なら良いわと言う言葉を零して表情を戻す。
その後、龍也と幽々子は他愛無い雑談を繰り広げていく。
日常の事だったり、弾幕ごっこの事だったり、龍也の旅の事だったりと言った他愛無い雑談を。
龍也と幽々子が平和で平凡と言える様な時間を過ごし始めてから少し経った頃、

「幽々子様。食器洗い、終わりました」

食器洗いが終わったと言う発言と共に妖夢が居間に戻って来た。
妖夢が戻って来た事に気付いた幽々子は妖夢の方に顔を向け、

「あら、良いタイミングで戻って来たわね。妖夢」

良いタイミングで戻って来たと言う言葉を掛ける。

「え、何がですか?」

突然良いタイミングで戻って来たと言われた妖夢は、思わず疑問気な表情を浮かべてしまう。
妖夢からしてみたら、龍也と幽々子が雑談をしている間にやって来たのに良いタイミングだと言われてしまったのだ。
疑問気な表情の一つや二つ、浮かべるのも無理はない。
そんな妖夢の疑問を晴らすかの様に、

「実は、そろそろ出発し様と思ってたんだ。で、ここを出る前に妖夢に挨拶をして置こうと思ってな」

龍也はそろそろ白玉楼を出発し様と考えていた事を伝える。
態々自分に挨拶をする為に龍也が待っていた事を知った妖夢は、

「あ、そんな気を使われなくても……若しかして、あの宴会続きの件ですか?」

恐縮ですと言う様な態度を示したが、直ぐに短い頻度で連続して開かれている宴会の事を調べる為に出るのかと聞く。

「ああ、そうだ」

聞いた龍也から肯定の返事が返って来たので、

「あ、それでしたら私も……」
「あら、駄目よ。まだ庭掃除と屋敷の掃除が残ってるでしょ」

妖夢は自分も同行すると言う様な事を言おうとしたが、幽々子からまだ掃除が残っているだろうと言われ、

「あう……そうでした」

掃除の事を思い出した妖夢は落ち込んだかの様に肩を落としてしまった。
が、直ぐに落としていた肩を上げ、

「あ、龍也さん。気を付けてくださいね」

龍也に気を付けて言う言葉を掛ける。
自分の身を案じる言葉を妖夢から掛けられた龍也は、

「ああ、気を付けるさ」

気を付けると言う言葉を返し、白玉楼を後にした。





















博麗神社を目指し、突き進んでいる道中。
そこで、

「あ、龍也だ」

龍也は誰かに声を掛けられた。
掛けられた声に反応した龍也は一旦止まり、声の発生源を探す。
すると、

「こっちだよー」

龍也の右隣に何者かが現れる。
現れた者が居る方に顔を向けた龍也の目には、

「リリカ」

リリカの姿が映った。
どうやら、龍也に声を掛けて来たのはリリカであった様だ。
リリカの存在を認識した龍也は、

「まだ冥界で練習してたのか?」

体をリリカの方に向け、まだ冥界で練習していたのかと問う。
問われた事を、

「んーん。私達はこれから家に帰るところだよ」

リリカは否定し、これから家に帰るところだと言う事を龍也に教える。

「私……達?」

リリカしか居ないのに私達と言った事に龍也が疑問を覚えた瞬間、

「あ、龍也だ。やっほー!!」
「やあ、龍也。昨日振りだね」

メルランとルナサがリリカの背後の方からやって来た。
どうやら、リリカだけ先行していた様だ。
やって来たメルランとルナサを見た龍也は、

「よっ」

片手を上げて挨拶の言葉を述べ、

「昨日からずっと練習していたのか?」

昨日からずっと練習してたのかと尋ねる。
尋ねられた事を、

「ええ、そうよ」

三姉妹を代表するかの様にルナサが肯定した。
と言う事は、プリズムリバー三姉妹は丸一日以上練習していた事になる。
何とも練習熱心なものだ。
ルナサ、メルラン、リリカの音楽に対する熱意と言うものに龍也が感心している間に、

「ついさっき良い感じに仕上がって来たからそろそろ帰ろうって話になったんだ。で、家に帰ろうと帰路に着いてたら龍也を見付けたって訳」

リリカがついさっきまで練習していた事と、帰路に着いていた時に龍也を見付けたと言う事を話し、

「龍也は何所に行こうとしてたのー?」

続ける様にメルランが何所に行こうとしてたのかを聞く。
聞かれた事は隠す様な内容でも無いので、

「勿論、異変を解決しにだ」

異変を解決しに行くと言う事を正直に答えた。
龍也が述べた答えから、

「今の台詞から察するに、龍也は犯人が居る場所の目星は付いているのかい?」

ルナサは既に犯人の居場所に目星が付いているのかと言う推察をする。
ルナサの推察が耳に入った龍也は、

「ああ、そうだ。だから、これから犯人を倒しに行くと言った方が正しいな」

推察が正しい事と自分が発した答えの補足を口にした。
龍也が口にした答えから、

「なら今日で宴会は最後かー……」

リリカは残念と言った表情を浮かべ、肩を落とす。
騒がしいのが好きな騒霊であるリリカに取って、騒げる場である宴会が開かれる頻度が下がればそれだけで落ち込む要素にはなる。
因みに、同じ騒霊であるルナサとメルランの二人もリリカと同じ様に落ち込んでいた。
と言っても、ルナサはメルランとリリカの二人とは違って落ち込んでいる様子をこれでもかと言った様なアピールをしてはいないが。
それはそれとして、落ち込んでいるプリズムリバー三姉妹を見て罪悪感が湧いて来たからか、

「あー……そんな落ち込むなって。確かに、短時間に連続して開かれる宴会はもう終わりだけどさ。けど、もう宴会が開かれなくなるって訳じゃ無い。
只、宴会が開かれるペースが何時ものに戻るだけだ」

龍也はプリズムリバー三姉妹を慰める言葉を掛ける。
龍也の慰めの言葉を聞いたルナサ、メルラン、リリカの三人は、

「……ま、宴会のペースが何時ものに戻るだけだものね。なら、落ち込む必要も無いか」
「宴会が開かれる頻度は残念だけどねー」
「まぁ、宴会の度に開く演奏会の曲がマンネリ化して来たからね。丁度良いと言えば丁度良かったけど」

落ち込んでいた雰囲気を四散させた。
その後、

「それじゃ、異変解決後に開かれる宴会に備えて家に帰って休もうか」
「そうねー、疲れで演奏失敗……何て事態は避けたいしね」
「じゃ、異変解決頑張ってねー」

ルナサ、メルラン、リリカの三人は思い思いの言葉を口にして自分達の家へと帰って行く。
まるで、龍也が異変を無事に解決するのを欠片も疑っていないかの様に。
こうなってしまった以上、もう無事に異変解決するしかないだろう。
プリズムリバー三姉妹の期待を裏切らない為にも、自分自身の言葉を嘘にしない為にも。

「……よし」

龍也は決意を新たにし、再び博麗神社へと向かって行った。





















博麗神社が眼下に見え始めた辺りで、

「よ……っと」

龍也は降下して博麗神社の敷地内に足を着ける。
そして、

「霊夢、居るかー?」

少し大きな声を上げながら縁側の方に近付いて行く。
しかし、

「……反応が無いな」

神社から霊夢の声は返って来なかった。
反応が返って来なかった事から、

「留守か……」

霊夢は留守にしていると龍也は考える。
博麗神社を調べるのなら霊夢に一声掛けるべきであるのだが、居ないのであれば仕方が無い。
勝手に調べた事が霊夢にバレて怒られる事態にならない事を祈りつつ、龍也は博麗神社の内外を探し始める。
暫らくの間、龍也は博麗神社の内外を探していたのだが、

「……見付からねぇ」

犯人と思われる者処か、手掛かりと成る物一つすら見付ける事が出来なかった。

「んー……妖力が感じる事から博麗神社近辺に犯人が居る事は間違い無いと思うんだけどな……」

妖力を感じる事からこの近辺に犯人は居る筈だと思いながら龍也は周囲を見渡す。
が、やはりと言うべきか手掛かりと成りそうな物を見付ける事は出来なかった。
何も見付からないのは、幽々子の言う通り犯人の存在が非常に薄くなっているせいであろう。
犯人が居る場所に来ていると言うのに、犯人を見付ける事が出来ない。
この状況をどうやって打破するべきか龍也が思案し始めた時、

「お困りの様ね。手を貸して上げましょうか?」

龍也の背後からそんな声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した龍也が振り返った瞬間、

「ッ!?」

龍也の目の前が光に包まれ、龍也は反射的に目を瞑ってしまう。
目を瞑ってからそう時間が経たない内に光が消えたのを感じ取ったので、

「………………………………………………………………」

龍也は目を開く。
開いた龍也の目には、

「なん……だと……」

とんでも無い光景が映った。
どの様な光景が映ったのかと言うと、昼と夜が混在した光景が映ったのだ。
正確に言えば博麗神社の賽銭箱が置いている場所を境にしたかの様に龍也から見て左側が昼、右側が夜と言った感じである。
普通ならば絶対に見る事が出来ない様な光景に龍也が目を奪われていると、

「どう? 気に入ってくれたかしら?」

気に入ってくれたかと言う声が龍也の右側から聞こえて来た。
発せられた声に反応した龍也は、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「紫……」

隙間の中から顔を出している八雲紫の姿が在った。
龍也が紫の存在を認識したのと同時に、

「はぁい」

紫は龍也に向けて軽く手を振る。
軽く手を振って来ている紫の姿を目に入れながら、

「……これやったのは……お前か?」

これをやったのはお前かと龍也は問う。
龍也の言うこれと言うのは勿論、昼と夜が混在した光景の事だ。
そんな龍也の問いを、

「ええ、そうよ。昼と夜の境界を弄ってね。どう、中々に神秘的な光景でしょう」

紫は肯定し、中々に神秘的な光景だろうと口にして龍也に同意を求め様とする。
確かに、紫の言う通り神秘的な光景である事は否定し様が無いので、

「まぁ……な」

同意を求めて来た紫を龍也は否定しなかった。
龍也から否定の返事が返って来なかったからか、紫の表情が若干機嫌が良いものに変わる。
紫の表情を見ながら龍也は少し警戒したかの様に構えを取り、

「……このタイミングで出て来たって事は、俺に犯人の居場所を教えてくれると思って良いのか?」

自分に犯人の居場所を教えてくれる気なのかと聞く。
聞かれた事に対し、

「さぁ、どうかしら」

紫は曖昧な返事を返しながら隙間から抜け出して地に足を着け、

「聞きたい事が在るのなら力尽くで聞き出しなさい。好きでしょ、そう言うの?」

挑発的な笑みを浮かべながら聞きたい事が在るのなら力尽くで聞き出せと言う。
紫の突然の物言いに龍也は既視感を感じるも、別段驚いてはいなかった。
何故かと言うと、今までの経験から八雲紫が只で情報をくれる筈が無いと思っていたからだ。
それはそれとして、龍也自身力尽くと言うのは嫌いでは無いので、

「……良いぜ、後悔するなよ!!」

好戦的な笑みを浮かべながら紫へと肉迫して行く。
そして、紫が自身の間合いに入ったタイミングで、

「らあ!!」

龍也は拳を振るう。
振るわれた拳が紫の体に当たる直前、

「はい、残念」

紫は自身の背後に隙間を開き、開いた隙に体を入れる事で龍也の拳を避ける。
同時に、開いていた隙間が閉じてしまったので、

「ち……」

龍也は舌打ちをし、構えを取り直して警戒するかの様に周囲を探っていく。
隙間の中に潜んだ紫が再び隙間から出て来るのを見逃さない為に。
周囲の様子を探り始めてから少しすると龍也は何かを感じ取ったかの様に反射的に振り返りながら右手を伸ばし、

「そこ!!」

右手から霊力で出来た弾を一発だけ放つ。
放たれた弾は丁度隙間の中から出て来た紫へと向かって行き、着弾して爆発と爆煙を発生させる。
取り敢えず命中した様ではあるが、

「……………………………………………………………………」

龍也は続ける様に弾幕を放たずに、様子を見る事に徹した。
龍也が様子を見ている間に、発生していた爆煙が晴れ、

「……中々に鋭いじゃない」

開かれた傘を盾の様に構えている紫が姿を現す。
どうやら、龍也の放った弾を傘で防いだ様だ。
紫が健在である事を知った龍也は、

「やっぱ、この程度でどうにかなる様な奴じゃないか」

予想通りだと言う表情を浮かべ、構えを取り直す。
構えを取り直した龍也を見て、紫は開いていた傘を閉じ、

「次は……こっちから行くわよ」

傘を振るって振るった傘の軌跡から数本のレーザーを生み出し、生み出したレーザーを龍也に向けて放つ。
放たれたレーザーは全て龍也の方に向かって行ったので、龍也は跳躍を行う。
跳躍を行った龍也は真下を通過しているであろうレーザーを確認する為に顔を下に向けたが、

「なっ!?」

龍也の目には通過して行くレーザーでは無く、自分の方に向かって来ているレーザーが映った。
紫が放ったのはレーザーが自身に向かって来る事から、このレーザーは追尾性能を有していると判断し、

「しっ!!」

真下から迫って来ているレーザーに向けて霊力で出来た弾を幾つか放つ。
放たれた弾はレーザーとぶつかり合い、爆発と爆煙を発生させた。
発生した爆煙からレーザーが突き抜けて来ないのを見るに、龍也が放った弾はレーザーを上手い事相殺出来た様だ。

「ふぅ……」

レーザーを相殺出来た事で龍也が安心した瞬間、

「油断大敵よ」

何時の間にか龍也の目の前にまで迫って来ていた紫が油断大敵と言う言葉を掛けて来た。

「ッ!?」

紫の接近に気付いた龍也は何か行動を起こそうとしたが、龍也が何か行動を起こす前に、

「がっ!!」

紫の傘の先端が龍也の腹部に叩き込まれ、龍也を突き飛ばしてしまう。
突き飛ばされた龍也は背中から地面に向けて落下して行き、

「ぐう!!」

地面に激突し、仰向けに倒れ込んでしまう。
が、倒れた龍也は直ぐに立ち上がり、

「……ダメージが少ないな」

腹部を手で押さえながら思っていた以上にダメージが少ない事を呟く。
紫の力ならもっと大きなダメージを与えられる筈だと言う疑問を抱いた時、

「……ああ」

龍也は紫が弾幕ごっこの要領で攻撃を仕掛けて来ているのでは考える。
だとしたら、ダメージの低さにも説明が付く。
紫が弾幕ごっこの要領で攻撃を仕掛けて来るのなら、多少の被弾は無視する様な戦い方をすべきかと言う予定を龍也が立てていると、

「私の様な絶世の美女を前にしているのにボーッとする何て酷い男ね」

再び龍也の目の前にまで紫が迫り、傘による刺突を再度放って来た。
紫の接近に気付いた龍也は意識を戻しながら体を逸らし、

「あら」

紫の傘を掴み、紫を引き寄せる様に傘を掴んでいる手を引く。
龍也が傘を掴んでいる手を引いた事で、傘を持っている紫は当然の様に龍也の方に引っ張られてしまう。
引っ張られている紫と龍也の距離が大分詰まったところで、

「しっ!!」

龍也は紫の腹部に向けて蹴りを放つ。
この儘では龍也の蹴りの直撃を受けてしまうので、紫は傘から手を離して後ろに跳ぶ。
紫が傘から手を離して後ろに跳んだ事で龍也の蹴りは外れてしまったが、

「良し、頂き」

代わりに紫の得物である傘を龍也は手に入れる事が出来た。
今の自分と紫の距離を確認した後、龍也は傘を回転させる様にして上に投げて落ちて来た傘の柄を掴んで調子を確かめる様に真横に振るい、

「……ッ!!」

地を駆けて紫へと肉迫して傘を連続して振るう。
連続して振るわれる傘を紫は後ろに下がりながら避けつつ、

「……全く、人の傘を我が物顔で使っちゃって。何処かの白黒の様ね」

我が物顔で自分の傘を使っている龍也に文句の言葉をぶつける。
紫の文句の言葉が耳に入った龍也は、

「何だ、お前もパチュリーみたいに魔理沙から何か物を盗られたりしてるのか?」

紫もパチュリーの様に魔理沙から何か物を盗られたりしているのかと問う。
問われた紫は、

「まさか。私はあの魔女の様に自分の所持品を盗まれる様なへまはしなくてよ」

自分はパチュリーの様に物を盗まれる様なへまはしないと言い切った。
まぁ、紫は大切な物などは隙間の中に仕舞っていそうなので易々と紫の所持品を盗む事は出来ないだろう。
とは言え、現在紫の傘は龍也の手の中に在るので、

「けど、お前の傘は俺の手の中に在るけどな」

龍也は紫の所持品は自分の手の中に在ると言う挑発の言葉を口にする。
しかし、

「そうね、確かにその通りだわ」

紫は龍也の挑発には乗らず、

「だから、さっさと私の傘を返して貰う事にするわ」

龍也が振るっている傘の通り道に隙間を開いた。

「ッ!?」

この儘では傘と一緒に龍也の手も隙間の中に入ってしまうので、龍也は咄嗟に傘から手を離して後ろに跳んだ。
龍也が後ろに跳んでいる間に振るった傘は隙間の中に入って行き、

「はい、返して貰ったわ」

また新たな隙間が紫の手の上に開き、新たに開かれた隙間から出て来た傘を手で掴み、

「やっぱりこの傘は私の手に在るのが一番ね」

紫は自画自賛の様な台詞を呟き、開いていた二つの隙間を閉じる。
仕切り直しと言った感じになってしまったからか、

「………………………………………………………………」

龍也は気持ちを入れ替えるかの様に構えを取り直す。
構えを取り直した龍也を見て、

「ふむ……」

紫は何かを考える素振りを見せながら自分の目の前に隙間を一つ、龍也を取り囲む様に無数の隙間をそれぞれ開いた。
自身を取り囲む様に隙間が開かれた事に気付いた龍也が警戒する様に周囲を見渡し始めた刹那、

「さて、これを避ける事が出来るかしら?」

自分の目の前に開かれている隙間に向けて紫は傘による刺突を放つ。
放たれた刺突は当たり前の様に隙間の中に入って行き、龍也を包囲している隙間の一つから紫の傘の先端が飛び出して来た。

「ッ!?」

飛び出して来た傘に何とか反応出来た龍也は、咄嗟に体を捻らせて飛び出して来た傘を避ける。

「あら、良く避けれたわね」

不意打ちとも言える様な攻撃を避けた龍也に紫は感心しながら傘を引き、

「今度はもっと速くいくわよ」

超速の突きを連続で放ち始めた。
紫から放たれる突きは龍也を取り囲んでいる無数の隙間から次々と飛び出して来た為、

「くっ!!」

龍也は必死な表情を浮かべながら回避行動を取り始める。
放たれる刺突は全方位から絶え間無く迫り来ると言っても良い程のもの。
並大抵の者ならば直ぐに刺突の直撃を連続して受ける事になるであろうが、龍也は全ての刺突を避けていた。
龍也の動きを見るに、避けるだけで精一杯と言った感じではあるが。
とは言え、一発の直撃を受けてはいないから、

「へぇ……」

少し驚いたと言った感じの表情を紫は浮かべた。
どうやら、龍也が一発の直撃を受けなかったのは紫に取って予想外の事であった様だ。
それはさて置き、必死になって回避行動に徹している龍也を見ながら紫は思う。
もう一押しすれば、龍也は確実に崩れると。
現状、龍也は傘による刺突を避けるだけで精一杯。
紫が思った通り、何か一押しすれば龍也が崩れるのは確実だ。
だが、

「………………………………………………」

紫はそのもう一押しをする気は無かった。
何故かと言うと、龍也はこの状況をどう切り抜けるかに興味が在るからだ。

「……幽香の事、私も強く言えないわね」

そんな事を紫が呟いた瞬間、

「ッ!?」

紫の真下の地面が突如として盛り上がり、紫の両足が盛り上がった土に拘束されてしまう。
これだけで終われば良かったのだが、盛り上がった土は紫の両足を拘束しただけでは終わらず、

「なっ!?」

傘によるを突きを放っている腕まで伸びて来た。
この儘では足処か腕まで拘束されてしまうと判断した紫は、

「しっ!!」

突きを放つのを止めて自分の腕へと伸びて来ている土に向けて傘を振るう。
振るわれた傘は伸びて来ている土に激突し、伸びて来ている土を崩壊させる。
そして、続ける様に自身の足を拘束している土を破壊し様とタイミングで、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

龍也は隙間による包囲網を抜け出し、紫に近付きながら拳を振り被って来ていた。
突きが無くなって直ぐに隙間の包囲網から脱出した龍也を評価しつつ、

「……っと」

傘を盾の様に構えて龍也の拳を防ぐ。
傘から伝わって来る衝撃を感じ取りながら紫は傘を薙ぎ払う様に振るい、傘に拳を叩き込んでいる龍也は弾き飛ばす。
弾き飛ばされた龍也は空中で体を回転させながら体勢を立て直し、紫からある程度離れた場所の地に足を着ける。
龍也が地に足を着けたのを見て、

「成程……」

紫は土で拘束された理由を理解した。
理解出来た理由は、龍也の瞳の色に在る。
今現在の龍也の瞳の色は茶色。
つまり、今の龍也は玄武の力を使っているのだ。
ならば、地面に存在している土を操る事など龍也に取って造作も無い事だろう。

「ふむ……」

全方位から連続で迫り来る傘による刺突を避けている間に龍也が自分の力を変えたのだろうと言う事を紫は考えつつ、

「私の両足を拘束している土を破壊してもイタチごっこになるだけね。なら、状況を動かしましょうか」

自身の足を拘束している土を破壊してもイタチごっこになるだけだと判断し、状況を動かす為に懐に手を入れる。
懐に手を入れた紫を見て、

「……………………………………………………………………」

龍也は紫が何をする気なのかを察し、警戒するかの様に構えを取り直す。
龍也が構えを取り直している間に紫は懐からスペルカードを取り出し、

「式神『八雲藍』」

取り出したスペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、

「何!?」

紫の正面に体を丸めた藍が現れ、現れた藍は回転しながら龍也に向けて突撃を仕掛けて来た。
余りにも斬新なスペルカードに龍也は驚くも、

「とお!?」

反射的に体を真横に投げ出し、藍の突撃を避ける。
突撃を仕掛けて来た藍が龍也の体が在った場所にまで来た時、

「おや、相手は誰かと思ったら龍也だったか」

龍也の存在に気付いた藍は丸めていた体を伸ばし、龍也の方に体を向けた。
一旦攻撃が止んだからか、

「これ、どう言うスペルカードだよ!?」

龍也は思わず今紫が発動したスペルカードどう言ったものなかを尋ねる。
龍也が尋ねた事は、自分の手の内を明かせと言っている様なもの。
普通に考えれば教えてくれる訳が無いのだが、

「今、紫様が発動させたスペルカードは私を召喚して私で相手に突撃を仕掛けさせるタイプのスペルカードだな。後、私が攻撃をしている間に紫様は
攻撃をしたり休んだりと言った事をしているな」

藍は普通に今のスペルカードがどう言った効果で在るかを教えてくれた。
藍から教えられた情報を頭に入れた龍也は紫の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る紫からは、攻撃を仕掛けて来ると言った様子は見られなかった。
舐ているのか、それとも別の思惑が在るのか。
どちらかなのかは龍也には分からない。
時間さえあればその事に付いて考えたかもしれないが、

「ッ!!」

藍が再び体を丸めて突撃を仕掛けて来た為、考える事は出来なかった。
藍の突撃は中々に速く、狙いも正確だ。
下手に藍から意識を外せば、藍の突撃の直撃を受ける事は確実。
玄武の力の使用時に向上している防御力を便りに藍を受け止めると言う方法も在るが、それをしたら紫に対して無防備になってしまう。
そうなったら、紫は確実に無防備になった龍也に攻撃を仕掛けて来る。
幾ら防御力が向上していると言っても、態々攻撃の直撃を受けると言うのは得策では無い。
なので、

「く……」

龍也は回避行動以外の行動を取る事が出来なかった。
幸い、龍也は藍の突撃を避ける事は出来ている。
上手くいけばスペルカードの発動時間が終わるまで回避し続ける事は出来るであろうが、

「………………………………………………………………」

紫がスペルカードの発動が終わるまで何もしないと言う事は無いだろう。
ならば、早急に打開策の一つでも思い付く必要がある。
しかし、そんな都合良く打開策が思いつく訳が無いと思われたが、

「……あ」

龍也は打開策を思い付いた。
が、

「こんな手……効くかなぁ……?」

思い付いた打開策は、思い付いた龍也自身が不安を覚えるものであった様だ。
何とか他の打開策を思い付くまで粘ろうかと龍也は考えたが、

「何を考えているのかは知らないが、考え事に集中しているせいで周囲への警戒が疎かになっているぞ」

考え事をしている龍也の隙を突くかの様に藍がまた突撃を仕掛けて来た。
藍の接近に気付いた龍也は反射的に体を捻らせ、

「どおう!?」

間一髪と言ったところで藍の突撃を避ける。
他の打開策を思い付かせる為に頭を働かさせれば隙を生じさせる事になるので、

「……やってみるか」

龍也は思い付いた打開策を実行に移す事を決め、突撃を仕掛けて来た藍を探す様に顔を動かす。
顔を動かした結果、大きく旋回しながら自分の方に向けて再び突撃を仕掛け様としている藍の様子が龍也の目に映った。
藍が自分の方に向かって来ている事を理解した龍也は、紫の方へと向けて駆けて行く。
そして、紫の目の前にまで来た時、

「ッ!!」

龍也は一瞬で移動出来る移動術を使って紫の目の前から消える。
すると、

「え!?」
「ちょっ!?」

丁度、龍也の後を追っていた藍は紫と激突してしまった。
そう、龍也が思い付いた打開策と言うのは自分に向けて突っ込んで来た藍を紫に当てると言うものだったのだ。
割と使い古された様な手ではあったが、上手い事成功した様である。
藍と激突した事で紫が体勢を崩している間に龍也は懐からスペルカードを取り出しながら紫の背後に姿を現し、紫の背中に右手の掌を向け、

「霊撃『霊流波』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると龍也の右手から青白い閃光が迸る。
迸った閃光は紫と藍を呑み込み、二人を呑み込んでいた閃光が消えると、

「……良し」

多少ボロボロの状態になった紫と藍が姿を現した。
そんな二人の状態を見た龍也は自身が発動したスペルカードが直撃した事を確信し、

「どうする? まだやるか?」

右手を紫に向けた儘、まだやるかと問う。
問われた紫は、

「うぅー、何もここまでしなくても良いじゃない」

拗ねた声色でここまでしなくても良いだろうと口にし、戦意を消失させる。
紫から戦意が消失したのを感じ取った龍也は自身の力を消し、瞳の色が茶から黒に戻ったタイミングで、

「約束通り、色々と話して貰おうか」

紫に約束通り色々と話せと言う。

「分かったわよ」

話せと言われた紫は分かったと呟き、

「でも、話すのは面倒だから今から見える様にして上げるわ。今のが準備運動代わりになっただろうし、丁度良いでしょ」

話すのは面倒だからと言って指を鳴らす。
その瞬間、

「ぐっ!?」

龍也の視界が光で包まれた。























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