土で出来た拳が萃香に突き刺さってから少し経った頃、

「……ッ」

萃香に突き刺さっている土の拳がバランスを崩したかの様にどんどんと傾いて行ってしまった。
拳を放っている龍也も一緒に。
そして、傾いて行った土の拳が地面に激突したのと同時に土の拳が崩壊し、

「ぐあ……」

龍也は投げ出されるかの様に吹っ飛ばされて地面に激突し、地面を転がって行く。
地面を転がっている龍也には自力で転がりを止める力は残っていなく、転がりが自然に止まるのを待つしか出来なかった。
と言っても、大した時間を掛ける事無く転がりは止まったが。
しかし、転がりが止まった龍也の髪と瞳の色は元の黒色に戻ってしまっていた。
力の解放状態が解除され、文字通り瀕死の状態の龍也。
そんな状態だと言うのに、

「ぐぅ……ぅぅぅ……」

戦おうとする意思は現在の様で、龍也は何とか立ち上がろうとしていた。
立ち上がる為に体に力を入れれば体中に激しい痛みが走るが、

「づ……があ……ああ……」

龍也は走る痛みを無視するかの様に力を入れ続け、何とかと言った感じで立ち上がる。
立ち上がる事には成功した龍也ではあるが、今直ぐにでも倒れてしまいそうな位にふら付いていた。
おまけに少しでも気を抜けば意識を失ってしまいそうな状態でもあるので、

「が……ぐ……」

意識を保つ為に龍也は強くを目を開き、痛む右肩を左手で押さえながら土の拳を叩き込んだ場所へと足を進めて行く。
何故かと言うと、今現在の萃香がどうなっているのかを確認する為だ。
瀕死の状態と言う事もあり、龍也の足取りはかなり重い。
それでも一歩、また一歩と龍也は自分が土の拳を叩き込んだ地点にまで近付いて行った。
一歩一歩と足を進めたが龍也が土の拳を叩き込んだ地点まで残り半分と行った所にまで来た時、

「…………あ?」

突如、前のめりで倒れ込んでしまう。
無論、龍也がだ。
急に倒れ込んでしまった自分に龍也は驚くも、再び立ち上がる為に体を動かそうとしたが、

「あ……れ……?」

龍也の体は動かなかった。
手足は勿論、指先も。
体が全く動かないと言う事態に、

「ッ!!」

龍也は驚き、必死に体を動かそうと足掻き始める。
が、龍也がどれだけ体を動かそうとしても龍也の体は動かずに倒れた儘。
一向に動く気配を見せない自分の体に龍也は焦りを感じつつ、せめて萃香がどうなっているのかを確認する為に視線を動かそうとした刹那、

「ッ!?」

龍也の視界が少しずつ闇に染まり始めた。
同時に、龍也の意識が薄れていく。
体が動かないだけでも不味いと言うのに、意識を失ったら不味い処の騒ぎでは無い。
なので、薄れていく意識を繋ぎ止める為、

「ぐ……あ……」

龍也は必死になって抵抗するが、龍也の抵抗も空しく意識が薄れていくのも視界が闇に染まっていくのも止める事は出来なかった。
これではどう足掻いても体を動かす事も意識を保つ事も不可能だ。
だが、

「づ……ぐ……」

龍也は抵抗を続けていた。
動かない体を必死に動かそうとし、薄れていく意識を必死に繋ぎ止め様と。
しかし、龍也の体は龍也の抵抗に応えてはくれななかった。
まるで、抵抗など無意味だと嘲笑うかの様に。
体は全く動かず、時間と共に龍也の視界は闇に染まっていき、

「ちく……しょ……う……」

最後の頼みの綱でもあった意識も闇の中に沈んでしまった。























「……ッ!?」

突如、龍也は目を開いて跳ね起きたかの様に上半身を起こす。
上半身を起こした龍也の目には、

「襖……?」

襖が映った。
映った物が襖と言う事で、今居る場所は部屋の中かと龍也が考えた瞬間、

「おはよう……と言うよりはこんばんは、かしら?」

右隣の方から挨拶と言える様な声が龍也の耳に入る。
耳に入った声に反応した龍也は顔を右隣に動かす。
顔を動かした先には、

「アリス……」

アリスの姿が在った。
どうやら、龍也に声を掛けて来たのはアリスであった様だ。
自分に声を掛けて来たのがアリスである事を認識した後、龍也はアリスに今居る居場所が何所なのかと尋ね様としたが、

「……ん?」

尋ねる前にアリスが何か手作業をしている事に気付く。
今居る場所よりもアリスの手作業が気に掛かったからか、

「何やってるんだ?」

龍也はアリスに何をやってるんだと尋ねる。
尋ねられたアリスは今している手作業を一旦中断させ、

「何って……ボロボロに成った貴方の服を修繕しているのよ」

ボロボロに成った龍也の服を修繕しているのだと答えて手作業を再開させた。
アリスが自分の服を修繕している事を知った龍也は、

「……服?」

思わず視線を落とす。
視線を落とした龍也の目には、素肌の上から包帯を巻かれている自分の上半身が映った。
巻かれている包帯から誰かが怪我の治療をしてくれたのだろうと龍也は思い、礼を言う為にアリスに自分の怪我の治療をしてくれた者の名を聞こうとしたが、

「ッ!?」

聞こうとする前に龍也の頭にある可能性が過ぎり、慌てた動作で自分の下半身に視線を移す。
しかし、視線を移した龍也の目に映ったものは自分の下半身では無く布団。
十中八九、目に映った布団は龍也に掛けられている物だろう。
だが、龍也が見たいものは布団ではなく自分の下半身だ。
なので、龍也は少々乱雑な動作で自分の下半身に掛かっている布団を退ける。
布団を退けた事で露になった龍也の下半身は、上半身と同じ様に素肌の上から包帯が巻かれていた。
が、穿いているトランクスが脱がされた痕跡は全く見られなかったので、

「……ほっ」

龍也は安堵の息を一つ吐く。
同時に、

「それで、体の方はどう? 痛みとか大丈夫?」

アリスから体の痛みなどは大丈夫かと言う言葉を掛けられた。
掛けられた言葉に龍也は反応し、

「痛み……」

自分の体に意識を集中させていく。
まだ目を覚ましたばかりと言う事もあって体の感覚は鈍いが、体中に痛みが走っている事は分かった。
痛みが走っていると言っても十分に無視出来る範囲だったので、

「確かに痛みは在るけど、動けない……って程じゃない。全然平気だ」

龍也はアリスに痛みは在るけど全然平気だと返す。
現時点での龍也の状態を知ったアリスは、

「へぇ、結構な重傷を負っていたのにもうそこまで回復したのね」

感心したと言った表情を浮かべる。
アリスの台詞から、龍也はアリスが手当てをしてくれたのだと考え、

「若しかして、アリスが俺の手当てをしてくれたのか?」

自分の手当てしてくれたのはアリスなのかと問うと、

「私だけじゃ無いわ。包帯を巻いたのは私と咲夜だし、塗り薬を作ったのはパチュリーだしね」

龍也に包帯を巻いたのは自分と咲夜で、塗り薬を作ったのはパチュリーだと言う情報をアリスは話す。
その後、

「そうなのか。取り敢えず、ありがとな。包帯を巻いてくれて」
「どういたしまして。それにしても、結構早くに目を覚ましたわね。てっきり、意識を戻すまでに二日か三日は掛かると思ったんだけど……流石は
幻想郷中を自分の足で回っている旅人って感じかしら?」
「かもな。それよか、若しかして俺が気絶してからまだ一日も経ってないのか?」
「ええ、経ってないわ。因みに今の時間帯は夜よ」
「んー……結構早くに起きれたんだな、俺」

手当てをしてくれた事に対する礼を述べ、龍也がアリスと現状を確認する為の会話をしていると襖が開かれた。
襖が開かれた音に反応した龍也はアリスのとの会話を中断し、襖の方に視線を向ける。
視線を向けた先には水が入った桶を持ったフランドールと咲夜の姿が在った。
フランドールの手に持っている物を見るに、龍也の看病をしに来たのだろうか。
ともあれ、来てくれた事に対する出迎えの言葉を龍也が掛け様としたタイミングで、

「りゅ……龍ーーーー也ーーーー!!!!」

フランドールは持っていた桶を放り投げて龍也に向けて飛び込み、抱き付いて来た。
普段の状態ならば抱き付かれても何の問題も無いが、大怪我を負っている今の状態で抱き付かれた為、

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

龍也は大きな悲鳴を上げてしまう。
無論、余りの激痛で。
龍也の悲鳴が響き渡ったからか、

「あ、ご、ごめんなさい」

謝罪の言葉と共にフランドールは龍也から離れる。
因みに、フランドールが放り投げた桶は咲夜がキャッチしていた。
水を一滴も零さずに。
流石は完全で瀟洒なメイドと言ったところか。
それはそれとして、

「痛ぅ……」

フランドールに抱き付かれた事で全身に走った激痛に耐えている龍也の耳に楽し気な声が入って来た。
楽し気な声が声が気に掛かったからか、

「つつ……なぁ、外で何かやってるのか?」

龍也は外で何かしているのかと聞く。
聞かれた事に対する答えを、

「今は宴会をやっているわ。異変解決祝いのね」

一同を代表するかの様にアリスが述べる。
述べられた答えの中の異変解決と言う言葉が在った事から、異変が解決された事を知った龍也は、

「そっか……異変は無事に解決したのか」

何処か安心したかの様に息を一つ吐き、

「それで、誰が異変を解決したんだ?」

誰が異変を解決したのかと尋ねる。
やはりと言うべきか、異変を解決した者の正体に幾らからの興味を抱いている様だ。
そんな龍也にアリスは呆れた表情を向け、

「誰がって……貴方じゃないの。異変を解決したのは」

異変を解決したのは龍也だろうと言う。
そう言われた龍也は間の抜けた表情を浮かべ、

「……へ? 俺?」

確認を取るかの様に自分の人差し指で自分を指す。
龍也の記憶の中に自分が萃香を倒したと言う記憶は無いので、龍也がその様な行動を取るのも当然と言えば当然だ。
かと言って、アリスが嘘を付いているとは龍也には思えなかった。
だからか、

「本当に俺が解決したのか? 俺、決着が着く前に気を失ったんだが……」

龍也はアリスに決着が着く前に気絶してしまった事を伝え、アリスからもっと情報を聞き出そうとする。
どう言った経緯で自分が異変を解決した者に成ったのかを知る為に。
決着が着く前に龍也が気絶した事を知ったアリスは少し驚いた表情を浮かべ、

「あら、そうなの? けど今回の異変を起こした犯人……えっと、鬼の伊吹萃香だったわね。彼女は自分が起こした異変……短い頻度で連続して開かれている
宴会を止める為にやって来た龍也と戦い、負けたって言ってたわよ」

伊吹萃香が自分の負けを宣言していた事を話す。
アリスの話を聞いた龍也は益々訳が分からなくなってしまった。
龍也からしてみたら、気絶した自分は間違い無く敗者であるからだ。
序に言えば、龍也は最後の最後で放った一撃で萃香を倒せたとは思っていない。
だと言うのに、萃香は自分の負けだと宣言している。
今回の戦いの勝敗に付いての疑念を龍也が抱き始めたからか、

「だったら、本人から直接聞いて事の真相を確かめてみたらどうかしら? あの鬼もこの宴会に参加しているし」

事の真相を伊吹萃香本人から直接聞いたらどうだと言う提案を咲夜は行う。
確かに、咲夜の言う通り真実を知っているであろう萃香に真相を聞くのが一番だ。
善は急げと言う諺も在るので、龍也は早速萃香を探しに行く為に立ち上がろうとしたが、

「一寸待ちなさい。まだ貴方の服、修繕し終えて無いわよ」

アリスから龍也の服の修繕がまだ終わっていないと言う言葉を掛けられたので、龍也は立ち上がるのを止める。
幾ら素肌の大部分に包帯が巻かれているとは言え、流石にトランクス一丁で歩き回るのは龍也としても避けたい様だ。
取り敢えず、自分の服の修繕が終わるまでは部屋に留まるしかないかと思い始めた時、

「……ん」

そわそわとしているフランドールの姿が龍也の目に映った。
それを見た龍也はフランドールが何に対してそわそわしているのかを察し、

「フランドール、俺は大丈夫だから宴会に参加して来いよ」

フランドールに自分はもう大丈夫だから宴会に参加して来たらどうだと言う。
宴会に参加する様に言われたフランドールは、

「え、でも……」

心配気な表情を浮かべながら龍也の方に視線を向ける。
具体的に言えば、包帯が巻かれている部分に。
どうやら、龍也が負っている怪我を心配している様だ。
心配気な表情を浮かべているフランドールを見て、

「俺なら平気だって。さっき抱き付かれた痛みももう無いしよ。それにさ、宴会に参加すれば新しい友達が出来るかもしれないぞ」

龍也は軽く肩を動かしながら自分は全然平気だから気にせずに宴会に参加する様に促す。
新しい友達と言う単語に惹かれたからか、

「うん!!」

期待を籠めたかの様にフランドールは目を輝かせ、部屋の中から出て行った。
部屋から出て行ったフランドールを見届けた後、

「それにしてもお宅の所の主の妹、前に会った時にも思ったけど噂とは全然違うわね」

フランドールの性格などが噂と全然違う事に少し驚いたと言った表情をアリスは浮かべる。
確かに、フランドールが噂通りの存在なら先の様な対応はしないであろう。
先のフランドールと噂の中のフランドールを比べ、所詮噂は噂かとアリスが思っていると、

「妹様があそこまで変わられたのは、龍也のお陰だとお嬢様が仰っていたわ」

レミリアが龍也のお陰でフランドールは変わった言っていた事を咲夜が話す。
咲夜の話が耳に入ったアリスは、

「へぇー……」

何処か感心した様な表情を龍也へと向ける。
感心した表情を向けられた龍也は照れ臭そうに頬を指で掻き、

「俺としては只、背中を押してやっただけ何だけどな……」

大した事はしていないと呟く。
龍也の呟きを聞いた咲夜が、

「妹様が変わられたのは妹様に恐れる事無く接し、真っ向から戦ったからだと思うけどね」
「貴方、そんな事してたの? 今回の鬼と言い吸血鬼と言い、良く真っ向から戦う気になったわね」

フランドールが変わったであろう要因を話すと、アリスは向けていた表情を呆れたものに変えた。
身体能力がかなり高い鬼や吸血鬼に、態々真っ向から戦いを挑んだのだ。
呆れた表情の一つや二つ、浮かべもするだろう。
その様な表情を向けられた龍也が、

「あ……あはははは……」
「……男の子って、皆龍也みたいな感じなのかしら?」

思わず苦笑いを浮かべると、男の子は皆龍也の様なのかとアリスは考え始めた。
そんなアリスを見て、

「……さぁ、どうだろ?」

龍也は曖昧な返事を漏らし、

「そ、それはそうと咲夜。手当てしてくれたんだってな。ありがとう」

話を変えるかの様に咲夜に手当てをしてくれた事に対する礼を述べる。
些か話の変え方が強引ではあったが、

「どういたしまして」

述べられた礼を咲夜は気にする事無く受け止めれくれた。
何とか話題を変える事に成功した龍也が安心している間に咲夜はアリスの方に視線を向け、

「手伝いましょうか?」

龍也の服の修繕を手伝おうかと言う声を掛ける。
掛けられた声に反応したアリスは、

「んー……大丈夫よ。後少しで終わるから」

後少しで服の修繕は終わるので、手伝いは不要だと返す。
そう返したアリスの手元に在る龍也の服は殆ど元の状態に戻っていたので、

「結構ボロボロだったと思うんだけど……もう直るんだな」

龍也は少し驚いた表情を表情を浮かべる。
そして、龍也がアリスの裁縫技術に感心している間に、

「……良し、完了」

龍也の服の修繕が終わった。
後少しで終わると返して直ぐに服の修繕を終わらせたアリスに龍也がまたまた感心していると、

「はい」

修繕し終えた龍也の服をアリスは畳み、龍也へと手渡す。

「ああ、ありがと」

手渡された服を龍也が礼を言いながら受け取ったタイミングで、

「妹様には大丈夫だと言っていたけど、本当に大丈夫なの?」

咲夜が体は本当に大丈夫なのかと言う確認を取って来た。
龍也の怪我は決して軽いものとは言えないので、フランドールには強がりを言ったと思われても仕方が無いだろう。
それはそうと、自身の体に付いての話題を出された龍也は、

「ああ、大丈夫だ。痛むって言っても十分に我慢出来る範囲だしな」

正直に自分の体の状態を話す。
本人が大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろうと判断したからか、

「……そう。なら、貴方も宴会に参加しなさい」
「そうね、今回の主役は異変を解決した龍也何だから」

咲夜とアリスは今回の宴会は異変を解決した龍也が主役なのだから宴会に参加する様に言う。
長い時間気絶していた事もあって腹も減ってるので、

「そうだな……腹も減って来たし、着替えたら宴会に参加するよ」

龍也は宴会に参加する事を決める。
龍也の宴会参加の宣言を聞き届けた後、

「私達が居たら着替え難いでしょうから、私達は部屋から出るわね」
「あ、そうそう。一応は重傷なんだから余り重たい物は食べない様にね」

咲夜とアリスは部屋を後にする旨と余り重たい物を食べるなと言う言葉を残し、部屋から出て行った。
二人が部屋から出て行くのを見届けた龍也は立ち上がり、着替え始める。
普段であればワイシャツのボタンは一番上以外は閉めているのだが、今回は怪我をしてると言う事もあって学ランのボタンと同じ様に全てのボタンを閉めなかった。
着替えが終わると龍也は部屋から出て廊下を歩き、宴会が開かれている場所まで来た時、

「おおう」

好き放題に騒いでいる面々の姿が龍也の目に映る。
この盛り上がりながら主役も何もあったものでは無いと龍也は思いつつ、食べ物が置いて在る場所へと向かう。
取り敢えず、先ずは野菜関係でも食べ様かと龍也が考え始めた瞬間、

「龍也さん」

龍也を呼ぶ声が聞こえて来た。
呼ばれた声に反応した龍也は足を止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「美鈴」

美鈴の姿が在った。
どうやら、龍也に声を掛けて来たのは美鈴であった様だ。
声を掛けて来たのが美鈴だと言うのを龍也が認識したのと同時に、

「御体の方は大丈夫ですか?」

美鈴は龍也に体の方は大丈夫かと尋ねる。

「ああ、大丈夫だ。動き回る程度の事は普通に出来るしな」
「それは良かったです。妹様が物凄く心配なさってましたから」

龍也から大丈夫だと言う答えが返って来た事で、美鈴がフランドールが心配していた事を伝えながら安心した表情を浮かべた。

「ああ、フランドールならさっき会ったぞ」
「あ、それは良かったです」

フランドールの話題が出た事で龍也が既にフランドールには会った事を伝えると、美鈴は安心したかの様に一息吐き、

「それはそうと、流石ですね。鬼と戦い、勝つなんて」

鬼である萃香と戦い、勝った事に称賛の言葉を述べる。
しかし、

「勝ったつっても俺はこんな状態だし……そもそも俺自身、俺が勝ったて言うのに懐疑的何だよな」

龍也は称賛の言葉を素直に受け止められないでいた。
まぁ、最初っから自分の勝利を疑っていたので当然と言えば当然だが。
自身の勝利に懐疑的に成っている龍也に美鈴が何か言葉を掛け様とした刹那、

「あら、思っていたよりも元気そうね」

パチュリーが龍也と美鈴の傍に現れた。

「パチュリー」
「パチュリー様」

突然現れたパチュリーに龍也と美鈴は少し驚いた表情を浮かべ、パチュリーが居る方に顔を向ける。
驚いた表情を浮かべた龍也と美鈴が気に喰わなかったからか、

「……何よ、その反応は。人をお化けみたいに」

パチュリーは不満気な表情になった。
明らかにパチュリーの機嫌が悪くなってしまったからか、

「わ、悪い悪い」
「す、すみません。パチュリー様」

龍也と美鈴は少々慌てた動作で謝罪の言葉を述べる。
二人から謝罪の言葉を聞いたからか、パチュリーの機嫌が幾分が良くなった。
それを見た龍也は、

「パチュリー、塗り薬を作ってありがとな」

パチュリーに塗り薬を作ってくれた事に対する礼を言う。
言われた礼に、

「別に礼を言われる程の事でも無いわよ。それに、薬を作るのはレミィから頼まれていた事だしね」

パチュリーは大した事でも無いし、レミリアから頼まれた事でもあるので礼は不要と返し、

「それにしても、もう動ける程に回復したのね。結構急いで作った薬だったんだけど……龍也って回復力が高い方?」

結構急いで作った薬であったのもう動ける程に回復している龍也に少し驚き、回復力は高いのかと聞く。

「んー……どうだろ?」

自身の回復力が高いのかどうかは分からないと龍也は呟き、

「そういや俺に使った塗り薬ってどんな薬なんだ?」

話題を変えるかの様に塗り薬はどんな薬だったのかと問う。
自分の体に塗られている薬であるから、塗り薬の効能に付いて幾らかの興味を持っている様だ。

「別に大した物では無いわよ。貴方に塗られている薬は消毒、痛み止め、自然治癒促進の三つの効果しか無いし」

問われた事にパチュリーは大した物では無いと答え、塗り薬の効能を龍也に教えると、

「……それでも十分に凄いだろ」

十分に凄いだろと言う発言が龍也の口から零れた。
確かに消毒、痛み止め、自然治癒促進の三つを持つ薬を短時間で作ったのであれば十分に凄いだろう。
が、パチュリーからしたら大した薬では無いらしい。
だからか、パチュリーなら万能の秘薬と言った様な物も作れるのではと言う事を龍也は考えていた。
そんな事を龍也が考えている間に、

「それはそうと、一箇所に留まって無いでもっと色々な所に顔を見せに行きなさい。今回の宴会の主役が貴方と言う事もあるけど、意識が戻ったと言う事を
伝える為にもね」

パチュリーは龍也に今回の宴会の主役と言う事と、意識が戻った事を伝える為に色々な所に顔を出す様に言う。
今回の異変を解決したが龍也と言う事が伝わっているのなら、龍也が気絶した事も伝わっていると考えるのが自然だ。
気絶した位で心配する輩が沢山居るとは思えないが、意識が戻った事を報告する位はした方が良いかもしれない。
序に言えば、早く腹に何か入れたかったので、

「そうだな、食べ歩きに合わせて顔を見せにいくか」

食べ歩きに合わせて顔を見せに行く事を龍也は決め、取り敢えず適当に顔を見せに行く為に足を進め始めたタイミングで、

「……と、そうだ。そういや、体調の方は大丈夫なのか?」

思い出したかの様に足を止め、パチュリーの方に体を向けて体調は大丈夫なのかと尋ねる。
パチュリーは喘息持ちで、体が強い方では無い。
更に言えば基本的に紅魔館の図書館で本を読み、殆ど外に出ない生活をパチュリーは送っているのだ。
その様な生活を送っているパチュリーが外に出て宴会に参加しているとなれば、心配の一つや二つはするだろう。
自身の体調を心配されたパチュリーは、

「ここ最近は体の調子が良いのよ。咳き込んだりも余りしないしね」

ここ最近は体の調子が良い事を龍也に伝える。
確かに、体調が良くなければ宴会の参加し様とはしないだろう。
こんな単純な事に気付けなかった自分の間抜けさに龍也が呆れた時、

「……まぁ、この好調の反動がその内返って来そうだけどね」

溜息交じりで好調の反動がその内返って来そうだとパチュリーは呟く。
パチュリーの呟きに対し、

「「あ、あはははは……」」

龍也と美鈴の二人は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。























美鈴とパチュリーと会い、会話を交わしてから少し経った後、

「んー……このサラダ美味いな」

龍也はサラダを食べながら適当に宴会場内を歩き回っていた。
適当に歩いていれば自分が意識を取り戻した事が知れ渡るだろうなと考えながら。
そして、皿も上に乗っていたサラダが全てが無くなったタイミングで、

「よっ、龍也」

龍也の正面に魔理沙が現れ、声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は足を止め、

「よう」

片手を上げる。
お互い軽い挨拶をした後、

「しっかし、お前には美味しいところを持っていかれたな。私が異変を解決する積りだったんだがなぁ……」

魔理沙は少し悔しそうな表情を浮かべ、自分が異変を解決する積りであったと言う愚痴を零す。
魔理沙も魔理沙で今回の短い頻度で連続して開かれている宴会を解決する為に動いたので、龍也に先を越されたのが悔しい様だ。
自分が異変を解決した実感は無いのだけどな言う事を思いつつ、龍也が魔理沙に何か言葉を掛け様とした時、

「あら、もう動き回れる程に回復したのね。龍也」

龍也の背後から霊夢が現れた。
突如として自身の背後に現れた霊夢に龍也は少し驚くも、

「ああ、お陰様でな」

動き回れる程に回復した事を肯定し、軽く肩を動かしてみせる。
それを見て、

「……けど、本調子には程遠い様ね」

霊夢は龍也の状態が本調子には程遠い事を見抜いた。

「良く分かったな……」

こうも簡単に今の自分の体調を見抜いた霊夢に龍也が感心してると、

「そういや霊夢。お前、自分の神社に異変の元凶が居る事に気付かなかったらしいな。霊夢の勘にも陰りが見えたか?」

魔理沙が霊夢にからかいの言葉を掛ける。
からかいの言葉に、

「うぐ……」

霊夢は思わず押し黙り、顔を少し赤らめてしまう。
はっきり言って、自分の住んでいる場所に犯人が居る事に気付けなかったのは間抜けとしか言い様が無い。
尤も、それは龍也にも当て嵌まる。
暫らくの間、博麗神社に居候していたのに犯人が直ぐに近くに居た気付けなかったのだから。
兎も角、魔理沙にからかいの言葉を掛けられた霊夢であったが、

「……そう言うあんたこそ、色々動き回ってた割には結局私の神社に犯人が居る事に気付けなかったじゃない。魔理沙は何時から無駄足を踏むのが
好きになったのかしら?」

直ぐに魔理沙も自分と同じ様なものだと返す。
返された通り、魔理沙も博麗神社に異変の犯人が居る事には気付けなかったので、

「むぐ……」

魔理沙は言葉を詰まらせてしまった。
お互いがお互い痛い所を突かれ、何とも言えない空気が流れ始めたが、

「そ、そういや龍也はどうして博麗神社に犯人が居るって分かったんだ?」

魔理沙が話を変えるかの様に何で博麗神社に犯人が居る事が分かったんだと龍也に尋ねる。
尋ねられた龍也は、

「ああ、俺は幽々子に犯人の居場所を聞いたんだよ」

幽々子に犯人の居場所を聞いた事を話す。
すると、

「幽々子の奴、私には適当にはぐらかした事しか教えてくれなかったって言うのに。ずるいぜ」
「あら、魔理沙も? 私もよ。全く幽々子の奴、龍也だけに教える何て……」

魔理沙と霊夢は思いっ切り不満気な表情を浮かべた。
どうやら、幽々子が龍也にだけ情報を伝えたのが不満の様だ。
だから、

「……憂さ晴らしに、龍也でもぶっ飛ばそうかしら」
「お、良いな。それ」

霊夢と魔理沙は物騒な事を口にし、龍也の方に顔を向ける。
二人から物騒な視線を受けている龍也は、

「お、おい。俺、怪我人だぞ」

顔を引く付かせながら怪我人である事をアピールし始めた。
幾ら動き回れる程に回復したと言っても、今の龍也は軽く小突かれただけでも大ダメージを受けてしまう。
いや、下手をすれば布団の中に逆戻りしてしまうかもしれない。
龍也が身の危険を感じ、一歩後ろに下がろうとした瞬間、

「冗談よ。流石に怪我人相手にそんな事はしないわ」
「そうそう。怪我人を甚振る趣味も無いしな」

冗談だと言った言葉が霊夢と魔理沙の口から発せられた。
だが、言い換えれば龍也が万全の状態なら襲い掛かって来たと言う事になる。

「は、はは……」

もし、今の自分が万全の状態だったらと言う事を思わず考えてしまった龍也が苦笑いを浮かべている間に、

「そう言えば、幽々子と言えば紫よ紫」
「紫? 紫がどうかしたのか?」
「あいつ、犯人誰かと言う事もここに犯人が居るって言う事も最初っから分かってたみたいなのよ」
「ほんとか、それ?」
「ほんとよほんと。だから、紫の奴をボコボコにしてやったわ」
「あー……それで私がここに来た時に紫の奴がボロボロの状態で倒れてたのか」

霊夢と魔理沙は紫に付いて話していた。
まぁ、犯人の名前と居場所の両方を知っていたと言うのに黙っていたのだ。
紫をボコボコにした霊夢の気持ちも分からなくは無い。
それはそうと、紫に付いての話しに一段落着いたからか、

「そういや龍也。手に持ってる皿、空みたいだけど何を食ってたんだ?」

魔理沙は龍也に何を食べていたのかを聞く。
聞かれた事に、

「ああ、サラダを食ってた」

龍也はサラダを食べていたと言う答えを述べる。

「サラダか。折角の宴会何だから肉でも食ったらどうだ? 見ろ。あそこの貧乏巫女何て一心不乱に肉を食ってるぞ」

龍也がサラダを食べていた事を知った魔理沙は肉を食う様に言い、霊夢に指をさす。
指をさされた霊夢は、

「誰が貧乏巫女よ」

焼き鳥串を手に持ち、焼き鳥を食べていた。
確かに、魔理沙の言う通り霊夢は一心不乱に肉を食べている様である。

「誰がって、お前だよお前。生憎、私はお前がここで肉を食べている姿は宴会以外じゃ殆ど見た事無いぜ。てかお前、私との会話が終わった瞬間に
焼き鳥串へと手を伸ばしただろ」
「うぐ……」

魔理沙からの突っ込みに、霊夢は何も言い返せないと言った感じで言葉を詰まらせてしまう。
どうやら、魔理沙が語った事は正しい様だ。
図星を突かれ、何も言えなくなった霊夢を余所に魔理沙は焼き鳥串を手に取り、

「ほら、龍也も食ったらどうだ? 良い物を食わなきゃ、治る怪我も治らないぜ」

龍也に手渡そうとする。
つい先程まで野菜ばかりを食べていた事もあってか、

「ああ、食う食う!!」

龍也は元気良く食べる事をアピールし、焼き鳥串を受け取って鳥肉を食べ始める。
同時に、魔理沙も焼き鳥串を手に取って鳥肉を食べ始め、

「お、美味いなこの焼き鳥」

焼き鳥が美味いと言う感想を漏らす。
魔理沙が漏らした感想が耳に入った霊夢は、

「そうそう。この焼き鳥を含め、肉類は全て紅魔館の連中が持って来た物らしいわよ」

今食べている焼き鳥を含めて肉類は全て紅魔館の面々が持って来た事を言う。
その事は予想出来ていた事であるからか、

「そうなのか。ま、そうだろうとは思ってたけどな」
「だな」

魔理沙と龍也は特に驚いた様子を見せなかった。
その後、

「全く、紅魔館の連中は羨ましいわね。豪華な物が食べ放題だ何て」
「でも、毎日毎日豪華の物ってのも飽きそうだけどな。偶には雑な物も食べたくなるだろうし」
「あー……分かる分かる。毎日毎日同じ物ってのも飽きるよな」

霊夢、龍也、魔理沙の三人は雑談を交わしながら食事を続けていく。























食事を取り、魔理沙と霊夢との雑談に一段落着いた後、

「さて、萃香は何所に居るかな?」

龍也は魔理沙と霊夢の二人と別れ、萃香を探す為に宴会場内を歩き回っていた。
腹も大分膨れたし、自分の意識が取り戻した事を広めるのも十分と感じたからだ。
しかし、幾ら歩き回っても、

「んー……ここ等辺には居ないのか?」

萃香の姿を見付ける事は出来なかった。
若しかしたら、盛り上がっている場所には居ないのかもしれない。
ならば、余り盛り上がっていない方に行こうかと龍也が考えた時、

「こんばんは、龍也」
「龍也さん、御体の方は大丈夫ですか?」

幽々子と妖夢が龍也の目の前に現れた。
二人が現れた事に気付いた龍也は足を止め、

「よう。ご覧の通り、動き回れる程には回復したぜ」

挨拶と共に動き回れる程に回復した事を話す。
龍也の回復具合を知った妖夢は、

「そうですか、それは良かったです」

安心したかの様に息を一つ吐き、

「それにしても、流石ですね。鬼に勝つとは。私も頑張らなくては」

龍也に称賛の言葉を掛け、自分も頑張らねばと気合を入れ始めた。
やはりと言うべきか、龍也と萃香の戦いは龍也の勝利で幕を降ろしたと言う話に成っている様だ。
だからか、

「……………………………………………………」

龍也は何とも言えない表情を浮かべてしまった。
それもそうだろう。
龍也自身、萃香に勝ったとは思えていないのだから。
故にその事を妖夢に伝え様としたが、

「はい、お口にチャック」

龍也が伝える前に幽々子は龍也の口に人差し指を突き付ける。
指を突き付けられ、言葉を発せられない状態に成っている龍也に、

「どうかしました?」

どうかしたのかと妖夢は問う。
問われた事に龍也では無く、

「うふふ、何でも無いわー」

幽々子が暢気な声色で何でも無いと答え、龍也から離れた。
ここで余計な事を口走れば幽々子に何を言われるか分かったものでは無いので、

「ああ、何でも無い」

龍也は幽々子に合わせる様に何でも無いと言う。
そのタイミングで、

「あ、そうだ」

妖夢は思い出したかの様に半霊を自身の目の前に移動させる。
目の前に移動させられた半霊の頭部と思わしき部分に、フルーツの盛り合わせが入った皿が乗っかっていた。
龍也の視線がフルーツの盛り合わせに向いている間に、

「宜しければこれ、食べませんか?」

果物の盛り合わせを食べないかと言う提案を妖夢は行う。
妖夢から受けた提案で、龍也は野菜や肉は食べていたが果物と言った物を食していない事を思い出し、

「ああ、食う食う」

少し嬉しそうな表情を浮かべながら果物の盛り合わせを食べる事を決めると、

「でしたら、龍也さんが持っているお皿は私が持ちますね。持った儘では邪魔でしょうし」

龍也が持っている皿は自分が持つと言って妖夢は手を伸ばす。

「あー……そういやこの皿、持ちっ放しだったっけか。適当な所にでも置いてくれば良かったな」

龍也は軽い愚痴を零しながら手に持っている皿を妖夢に渡し、半霊に乗っかている果物が入った皿を受け取って果物を食べ始める。
果物を食べている龍也を見た幽々子は、

「妖夢ー……」

何か言いた気な表情を妖夢に向ける。
幽々子の視線に気付いた妖夢は呆れた表情を浮かべ、

「幽々子様、さっきまで色々と食べていたでしょうに」

さっきまで食べていただろうと言う突っ込みを入れた。

「あーん、妖夢酷いー」
「はいはい、酷くて結構ですから龍也さんが食べている物を横取りしたりはしないでくださいね」

幽々子と妖夢の漫才の様なやり取りを耳に入れながら、龍也は果物を食べていく。
そして、皿の中の果物が無くなったタイミングで、

「あ、龍也さん。空になったお皿は私が持ちますね」

空になった皿は自分が持つと妖夢は言う。
そう言われたからか、

「そっか。ありがとな」

龍也は礼の言葉を述べながら空になった皿を妖夢が持っている皿の上に乗せる。

「とと……」

乗せられた皿を落とさない様に妖夢がバランスを取っている間に、

「それはそうと、龍也。誰かを探していたんじゃないかしら?」

誰かを探しているのではと言う発言が幽々子の口から発せられた。
発せられた発言で、

「……あ、そうだ。萃香が何所に居るかを探してたんだ」

萃香を探していた事を龍也は思い出す。
どうやら、果物を食べる事に夢中で当初の目的を忘れていた様だ。

「あらあら。その発言を聞くに、食べるの夢中で当初の目的を忘れちゃったのかしらー?」
「うぐ……」

幽々子から当初の目的を忘れていた事を指摘された龍也は、言葉を詰まらせてしまう。

「ふふ、今の反応を見るに図星の様ね」

龍也の反応から図星を突けた事を確信した幽々子は機嫌が良さそうな笑みを浮かべ、

「そうそう、貴方の探し人は神社の裏手の方に居るわよ」

龍也に萃香が何所に居るのかを教える。
自分をからかっているかと思えば、気が変わった様に自分が知りたい情報を教えてくれた幽々子に、

「……舌戦じゃあ一生に勝てそうにねぇな」

龍也は舌戦では一生勝てそうにないと言う愚痴を零す。
そんな龍也の愚痴が聞こえた幽々子は、

「あら、女を言葉で楽しませるのも男の甲斐性よ」

女を言葉で楽しませるのも男の甲斐性だと言い、

「それと、もう少ししたらプリズムリバー三姉妹の演奏会が再開すると思うわ。余り長話していると聴き逃しちゃうかもしれないわよ」

もう少ししたらプリズムリバー三姉妹の演奏会が再会する事を伝える。

「再開って事は、もうプリズムリバー三姉妹の演奏会は開かれてたのか?」
「ええ。貴方が気絶している間にね」
「あー……そりゃ残念。なら、次は聴き逃さない様にするか」

自分が気絶している間にプリズムリバー三姉妹の演奏会が開かれていた事に龍也は残念がるも、直ぐに次は聴き逃さない事を決意し、

「それじゃ、色々ありがとな」

幽々子と妖夢に礼を言う。

「あら、お礼だったら美味しいご飯が良いわー」
「幽々子様、そんなお礼を強請る様な言い方は……。ともあれ、龍也さん。まだ怪我は治ってはいないので余り無理はしないでくださいね」

龍也の礼に二人がそれぞれ思い思いの言葉を返した後、龍也は博麗神社の裏手へと向かって行った。























幽々子と妖夢の二人と別れ、博麗神社の裏手に向かった龍也の目に、

「お、居た居た」

紫と一緒に酒を飲んでいる萃香の姿が映った。
なので、

「おーい、萃香ー」

龍也は声を萃香の名を呼びながら二人へと近付いて行くと、

「お、龍也じゃないか」
「あら、龍也じゃない」

萃香と紫の二人は龍也の存在に気付いたのかの様に顔を上げ、

「折角来たんだ。私の隣に座りなよ」

自分の隣を軽く手で叩き、萃香は龍也に自分の隣に腰を落ち着かせる様に言う。
そう言われた龍也は特に抵抗する事も無く萃香の隣に腰を落ち着かせ、

「なぁ、萃香。一つ聞きたい事が在るんだが良いか?」

聞きたい事が在るのだが良いかと聞く。

「聞きたい事? 構わないよ。何でも聞きな」
「なら聞くが、何で俺が勝った事になってるんだ? 俺、途中で気絶したんだがな」

聞かれた萃香は何でも聞きななと言ってくれたので、龍也は疑問に思っている事をストレートに尋ねる。
尋ねられた事に、

「ああ、それは簡単。私は龍也より先に意識を失ったからだよ」

答えは簡単と言わんばかりの表情で、萃香は自分が龍也よりも先に気絶した事を話す。

「……え?」

萃香が先に気絶したと言う事実を知った龍也が唖然とした表情を浮かべしまう。
土の拳を叩き込んだ後の萃香の状態を龍也は確認出来てはいない。
しかし、それは萃香も同じ筈である。
萃香の方も土の拳が叩き込まれた後の龍也の様子は分からなかった筈だ。
だと言うのに、何故萃香は自分の方が先に気絶したと言えたのだろうかと言う疑問を龍也が抱いた時、

「戦いの結末を私は見ていて、それを私が萃香に伝えたからよ。因みに経緯としては土の拳を叩き込まれた萃香が気絶し、萃香の方に近付いて行った龍也が
途中で気絶。で、その瞬間に萃香が意識を取り戻したって訳」

紫は龍也の抱いている疑問が解っているかの様に龍也と萃香の戦いの結末を口にする。
萃香だけ主張だけなら兎も角、戦いの結末を見ていた紫も萃香が先に気絶した主張したとなれば信憑性も増す。
だが、

「それで俺の勝ちねぇ……」

萃香が先に気絶したから自分の勝ちと言う結果に龍也は納得出来ないでいた。
勝った龍也は大怪我を負って全身に包帯を巻いているに対し、負けた萃香は傷らしい傷を負ってはいない。
おまけに、戦いの中身は萃香が龍也を終始圧倒していたと言っても良い様なもの。
これで龍也に勝った思えと言うのは少々無理があるだろう。

「……………………………………………………………………」

少しの間今回の戦いに付いて考えを廻らせた後、龍也は萃香の方に視線を向ける。
視線を向けられた萃香は、

「ん? 何か用かい?」

首を傾げながら何か用かと問う。
萃香の反応から自分との会話に付き合ってくれると言う事を龍也は感じ、

「あの戦い、幾ら俺が俺の負けだと主張してもお前はお前の負けを撤回したりはしないだろ?」

自分との戦いの勝敗を撤回する気はないのだろうと言う事の確認を取りに掛かる。
確認を取られた萃香は、

「そうだね、あれは私の負けだよ。例え、私以外の皆が違うと言ってもね」

肯定の返事を返した。
返って来た答えは予想出来ていたからか、龍也は驚いた様子を見せず、

「だから今、宣言する!!」

予定調和と言わんばかりに萃香に向けて宣言すると言い放つ。
急に宣言をすると言われ、萃香は思わず鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情を浮かべてしまう。
その間に、

「俺は今よりもっともっと強くなる!! そして、再びお前に戦いを挑み……勝つ!!」

龍也は宣戦布告とも言える言葉を萃香に叩き付けた。
龍也から宣戦布告を叩き付けられた萃香は、勝つと言う言葉の中身を直感的に理解したから、

「……あ、あははははは」

満面の笑みを浮かべ、

「やっぱり龍也は良い男だねぇ。ホント……攫って私のものにしたくなる程に」

益々龍也の事を気に入ったと言う言葉を漏らす。
そして、萃香は身を乗り出す様に龍也に近付け、

「ねぇ、私に攫われてみない?」

自分に攫われてみないかと聞く。
そう聞いて来た萃香には、不思議な色っぽさが在った。
だからか、

「あ……いや……」

龍也は思わず顔を赤らめてしまう。
顔を赤らめた龍也を見て、萃香が更なる言葉を掛け様とした時、

「あら、駄目よ」

レミリアが龍也と萃香の間に割って入る様にして現れた。
突如として現れたレミリアに龍也は少し驚くも、

「よぉ、レミリア。こんばんは」

取り敢えず、挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉に返す様に、

「ええ、こんばんは。龍也」

レミリアも挨拶の言葉を述べ、龍也の隣に腰を落ち着かせた。
腰を落ち着かせたレミリアは龍也の顔を覗き込み、

「思っていたより元気そうね。良かったわ」

龍也が思っていた以上に元気そうであった為、良かったと呟きながら軽い笑みを浮かべたタイミングで、

「どうして駄目なのさ? 私が龍也を攫うのがさ」

萃香は当然とも言える疑問をレミリアに投げ掛ける。
正確に言えば、萃香の取っての当然の疑問だが。
兎も角、レミリアは投げ掛けられた疑問に、

「決まってるじゃない、龍也は何れ私のものになるからよ」

さも当然と言った雰囲気で、龍也は何れ自分のものになるからだと言う事を教える。
つまり、レミリアは何れ自分のものになる龍也を攫うなと言っているのだ。
だが、それは龍也がまだ誰のものにもなっていないと言っているのと同じ。
レミリアの台詞から萃香はその事を理解し、

「何れってっ事は、まだ龍也は誰のものにもなっていないと言う事。だったら、私が龍也を攫っても何の問題も無いよね」

自分が龍也を攫っても問題は無いだろうと言う主張を行う。
そんな萃香の主張を皮切りにしたかの様に、

「随分と突っ掛かって来るわね。貴女の様な泥臭い土着の民に対し、私は誇り高い貴族。私と貴女じゃ格が違うじゃない。格上言う事は素直に聞くものよ」
「へぇ……言ってくれるじゃないか。吸血鬼風情が、鬼である私より上の積りかい?」
「あら、学が無いわねぇ。吸血鬼には鬼と言う字が入っているじゃない。そんな事も解らないの?」
「入っているだけ……でしょう。たかが鬼と言う字が入っているだけで鬼である私より上だと思うとは……貴女の言う通り格が違うわね」
「それはそうでしょう。高貴なる者である私と泥臭い貴女とじゃねぇ……」
「ふーん……その高貴なる者とやらは口だけは随分と達者な様だ。口だけは……ね」
「あら、口だけが達者とは言ってくれるじゃない。それなら、達者なのが口だけかどうか……その身に解らせて上げ様か?」
「……さて、解らさられるどっちかな?」

レミリアと萃香の間に少々殺伐とした雰囲気が漂い始めた。
二人の間に居る龍也の事など関係無しに。
丁度殺伐とした雰囲気の中の中間地点に居る龍也は、

「お、おい……」

漂っている雰囲気を払拭させる為、何か言葉を掛け様とする。
が、龍也が何か言葉を掛ける前に萃香とレミリアは立ち上がって空中へと躍り出た。
空中に躍り出た二人がある程度の高度に達すると、萃香とレミリアは高度を上げるのを止めて弾幕の放ち合いを始める。
弾幕の放ち合いを二人を見て、龍也は慌てた動作で立ち上がろうとしたが、

「……ん?」

立ち上がる前に二人が放っている弾幕に籠められている妖力や魔力と言ったものが弱い事に気付く。
どうやら、二人は弾幕ごっこで戦っている様だ。
弾幕ごっこなら余計な被害が出る事は無いと判断した龍也は一息吐き、

「……どうしてこうなった」

どうしてこうなったのだと漏らす。
自分は萃香に勝敗の件を聞きに来ただけなのにと思っている龍也に、

「あらあら、一人の男を巡って二人の女が争う。モテモテね、龍也」

紫は空気を読んでいない様な言葉を掛ける。
確かに、先程までの会話を聞けば萃香とレミリアが龍也を取り合っている様に聞こえるだろう。
とは言え、下手な事を言えば紫にからかわれる事は明白なので、

「あー……はいはい、そうですね」

素っ気無い反応を龍也は返す。

「あら、冷たい反応」

龍也から返って来た反応が気に入らなかったからか、紫は不満気な表情を浮かべ、

「幽々子の言う通り、前触れなく肌を見せる様な事をしないと駄目かしら?」

自身の着ている服を少し肌蹴させた。
それを見た龍也は、

「ちょ!? おま!?」

面白い位に動揺し始める。
龍也が動揺した事に満足したからか、

「うふふ、冗談よ冗談」

紫は服を肌蹴させるのを止め、上空で弾幕ごっこをしている萃香とレミリアの方に視線を向けた。

「お前な……」

当たり前と言って良い程に掴み所が無い紫に龍也は呆れた感情を抱きつつ、紫と同じ様に弾幕をごっこをしている二人に視線を向ける。
そして、龍也と紫はプリズムリバー三姉妹の演奏会が始まるまで萃香とレミリアの弾幕ごっこを観戦する事にした。























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