太陽が昇り始めた時間帯。
博麗神社の敷地内で、

「よっ、ほっ」

龍也は体を動かしていた。
体を捻ったり反らしたり、手足を伸ばしたりと言った基本的な事を。
何故、龍也はこんな日が昇り始めた時間帯に体を動かしているのか。
答えは簡単。
自分の体の調子を確かめる為だ。
萃香との戦いで負った怪我のせいで、龍也は博麗神社で安静にして過ごしていた。
正確に言うと、異変解決祝いの宴会を開いてからずっとであるが。
兎も角、ずっと安静にしていると言うのは退屈の一言。
故に、龍也はこうやって体を動かしているのだ。

「んー……一通り体を動かしたみたけど、痛みは感じ無いな」

体を動かしても痛みを感じ無い事を呟きつつ、龍也は一旦体を動かすのを止める。
そして、体を動かす事の代わりと言わんばかりに、

「しっ!!」

正拳突きを放つ。
その後、放った拳を戻し、

「りゃ!!」

蹴りを放った。
放った蹴りの感触を確かめながら、拳と同じ様に足も元の位置へと戻す。
再び体を動かしていない状態に成った龍也は精神を集中させ、

「………………………………………………………………」

霊力を解放させる。
すると、龍也の体中から青白い光が溢れ出す。
溢れ出した光は時間と共に力強さを増し、ある一定の強さを超えると龍也から突風が発せられた。
因みに、発せられている突風は霊力が解放された際に発生する余波だ。
霊力が解放され、青白い光と突風が発生してから少しすると、

「……ふぅ」

龍也は霊力の解放を止める。
霊力の解放を止めた事で、青白い光は消えて突風も止まった。
体を動かした時の感覚と霊力を解放させた時の感触を考え、

「……よし、治った」

治ったと言う結論を龍也は下す。
どれだけ体を動かしても痛みは感じず、霊力の解放も問題無く行えるのだ。
治ったと言う結論を下しても何の問題も無いであろう。

「これなら、直ぐにでも旅を再開出来そうだな」

もう旅を再開出来る事に喜んでいる龍也に、

「こんな朝っぱらから何やってるのよ?」

誰かがこんな朝っぱら何をやっているんだと言う声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には、

「霊夢」

霊夢の姿が映った。
どうやら、龍也に声を掛けて来たのは霊夢であった様だ。
取り敢えず声を掛けられたと言う事で、

「おはよう」

龍也は挨拶の言葉を述べる。

「ええ、おはよう。で、何やってたの?」

述べられた挨拶の言葉に霊夢も挨拶の言葉を返し、改めて何をやっていたのかを聞く。

「体の調子を確かめてたんだ」
「調子って……あんた、一応は大怪我を負っている身なんだから大人しくしてなさい」

聞かれた事に対する答えを龍也が正直に答えると、霊夢は呆れた表情になりながら大人しくしていろと言う突っ込みを入れる。
確かに、大怪我を負っているのに外に出て体の調子を確かめていたら突っ込みの一つや二つは入れたくもなるだろう。
が、そんな霊夢に向けて、

「ああ、それなら大丈夫だ。もう治ったみたいだしな」

もう治ったと言う事を龍也が口にした為、

「……え? もう治ったの?」

霊夢は少し驚いた表情を浮かべてしまった。
龍也が大怪我を負ってからまだ一ヶ月も経っていないと言うのに怪我が治ったと口にしたのだ。
驚くのも無理はない。

「確か、全治数ヶ月って言われていたけど……それを半月足らずで完治ねぇ。呆れた回復力ね」

全治数ヶ月の怪我を半月足らずで完治させた龍也を霊夢は呆れた回復力を持っていると言う感想を抱き、

「治ったのなら、もう包帯とかを巻いて上げなくても良いって事ね」

もう龍也に包帯などを巻いて上げなくても良いのかと呟く。

「ああ、そうだな。色々と看病してくれてありがとな、霊夢」

霊夢の呟きを肯定しつつ、龍也は色々と看病してくれた事に対する礼を述べる。
萃香との戦いで大怪我を負い、博麗神社で療養生活を送っていた龍也の看病してくれたのは他でも無い霊夢だ。
まぁ、博麗神社に住んでいるのは霊夢なので当然と言えば当然だが。
兎も角、自分の看病をしてくれた霊夢に龍也は恩義を感じている様だ。
それに気付いた霊夢は、

「そうよねぇ……包帯の取り換え、薬塗り、汗拭き、胃に優しいご飯を作ったりと色々と龍也にはして上げたのよね、私」

これ見よがしに龍也の為に色々として上げたと言った事を話し始めた。
霊夢が話した事を聞き、

「ああ、今度来る時は賽銭を多目に入れとくよ」

今度博麗神社に来る時は賽銭を多目に入れると言う事を龍也が約束すると、

「うんうん、分かっているなら良いのよ」

霊夢は満面の笑顔を浮かべる。
霊夢の笑顔を見て、霊夢の機嫌を取るのはこれが一番だと龍也が思った時、

「……何か失礼な事、考えて無い?」

ジト目になった霊夢が何か失礼な事を考えていないかと問うて来た。
まるで心の内を読んだかの様な霊夢の問いに、

「お、思ってない思ってない!!」

慌てた動作で失礼な事は考えていないと言う主張を龍也は行う。

「本当かしら?」
「ほ、本当だって本当!!」

疑惑の目を向けて来る霊夢を何とか信じさせ様と龍也が躍起になり始めたタイミングで、

「……あ」

空腹を訴える音が響き渡った。
因みに、音の発生源は龍也の腹の中。
響き渡った腹の音のせいで場に何とも言えない空気が流れ始めたからか、

「そ、そうだ。腹減って来たんだけど、朝ご飯は出来たか?」

龍也は強引に話題を朝ご飯へと変える。
こんな強引な話題の変え方で霊夢も話題を変えてくれるとは思えなかったが、

「……はぁ、朝ご飯ね。出来てるわよ」

意外な事に霊夢は話題を朝ご飯の事に変え、朝ご飯が出来ている事を教えてくれた。
強引に話題を変えた龍也を哀れに思ったのか、それとも自分自身も腹が空いていたのか。
どちらかなのかは分からないが、龍也に取っては大きなチャンスであるので、

「ならさ、さっさとご飯を食べ様ぜ」

早くご飯を食べる様に霊夢へと促す。
すると、

「そうね、そろそろご飯にしましょうか」

促された事を受け入れたかの様に霊夢はそろそろご飯にし様と言い、神社の方に体を向けて足を進め始める。
取り敢えず先程までの話題が流れた様なので、龍也は安堵したかの様に息を一つ吐き、

「あ、おい。待ってくれよ」

霊夢の後を追い掛けて行った。























神社の中に入り、居間へと辿り着いた龍也は、

「おお……」

卓袱台の上に並べられている和食に目を奪われてしまった。
和食に目を奪われ、動きを止めてしまった龍也に、

「何ボーッと突っ立てるのよ。早く席に着きなさい」

霊夢は早く席に着く様に言って卓袱台の前に移動して腰を落ち着かせる。
移動した霊夢に反応した龍也は再起動したかの様に足を動かし、霊夢の反対側に回って腰を落ち着かせ、

「「いただきます」」

龍也と霊夢は朝食を食べ始めた。
朝食を食べ始めた龍也と霊夢は、

「お、今日は卵焼き何だな。何時もなら目玉焼きだって言うのに珍しいな」
「ああ、それ? 卵が一寸余ってから、卵を沢山使おうと思って卵焼きにしたのよ。男の龍也なら沢山食べれると思ってね」
「それで俺の卵焼きの量が多いのか。てか、余ってた卵って大丈夫なのか? 卵は痛み易いって聞いた事があるが」
「大丈夫よ。別に痛んではいないから」
「なら大丈夫か」
「と言うか、料理は出来ないのに卵が痛み易いってのは知っているのね」
「ま、その程度の事はな」

雑談を交わしながら箸を進めていく。
そして、龍也と霊夢が朝食を半分程平らげた辺りで、

「おっはよー!!」

元気な挨拶の声と萃香が居間へと入って来た。
やって来た萃香に反応した龍也と霊夢は一旦箸を止め、

「よう、萃香」
「あら、また来たの?」

萃香に声を掛ける。
萃香が起こした異変を龍也が解決して以降、萃香は度々博麗神社に足を運ぶ様になった。
因みに、博麗神社に足を運んでいない時は霧になって幻想郷中をブラブラとしているらしい。
それはそうと、居間にやって来た萃香は龍也の近くに移動し、

「怪我の方はどうだい?」

怪我の状態はどうだと尋ねる。
尋ねられた事に、

「もう治ったよ」

龍也はもう治ったと返す。

「お、もう治ったのかい。流石私に勝った男だ」

既に龍也の怪我が治った事を知った萃香は嬉しそうな表情を浮かべながら腰を落ち着かせ、

「霊夢霊夢、私のご飯は?」

霊夢に自分のご飯はと言う要求を行う。
何とも図々しい要求では在るが、

「そこにお茶碗が在るから勝手についで」

勝手につげと言う言葉が霊夢から発せられた。
ここで何を言っても無駄と判断したのか、それとも元々萃香が来る事を予想していたのか。
どちらかなのかは分からないが、ご飯を食べて行っても良いと言われた事で、

「はいはーい」

萃香は笑顔を浮かべながら空の茶碗を手に取り、ご飯をついでいく。
そして、ご飯をつぎ終えると、

「いっただっきまーす」

萃香もご飯を食べ始めた。
と言っても、白米だけでは味気無いからか、

「龍也の卵焼き、もーらい」
「俺の卵焼きは沢山在るから別に良いけどよ、せめて許可を貰ってから持ってけよ」
「はいはい……っと、霊夢の魚もーらい」
「こら!! 勝手に持ってくな!!」

龍也の卵焼きや霊夢の焼き魚に萃香は手を付けていく。
そんな萃香を見て、龍也はこいつも大概自由だなと思った。
尤も、幻想郷には自由人が割りと沢山居るが。
いや、殆どかもしれない。
兎も角、萃香が入って来て三人での食事となったが特に何かが起こったと言う事は無く、

「「「ご馳走様」」」

三人は無事に朝食を取り終えた。
その瞬間、

「じゃ、龍也。食器洗い、お願いね」

空になった食器を洗う様に霊夢は龍也に言う。
居候させて貰った上に怪我の看病までして貰ったのに食器洗い程度の事をしないと言うのは在り得ないので、

「ああ、了解」

食器洗いをする事を龍也は受け入れ、卓袱台の上の食器を一箇所に纏めていき、

「よっと」

纏め終えた食器を手に思って台所へと向かい、台所に着いたのと同時に食器を洗いを始める。

「あー……ここ暫らくは余り体を動かして無かったから、こう言うのも新鮮に感じるな」

ずっと大人しくしていたせいか、食器洗いでも新鮮に感じると言う感想を抱きながら龍也は手を動かしていく。
少々楽しみながら食器洗いをしていたからか、

「……っと、もう終わりか」

大した時間を掛けずに食器を洗い終える事が出来た。
食器洗いを終えた龍也は居間へと戻り、

「食器洗い終わったぞ」

霊夢に食器洗いを終えた旨を伝える。

「あら、早かったわね」

龍也が思っていたよりも早くに食器洗いを終えたからか、霊夢は少し驚いた表情を浮かべてしまった。
が、霊夢は直ぐに浮かべていた表情を戻し、

「で、あんたはもう旅に出る気?」

もう旅に出る気かと問う。
旅に出る気かと問われた龍也は、

「ああ、その積りだ」

肯定の返事をし、

「……と、そうだ。俺の体に巻かれている包帯はどうしたら良い? 捨てても良いのか?」

思い出したかの様に自分の体に巻かれている包帯は捨てても良いのかと聞く。
包帯に付いて聞かれた霊夢は少し考える素振りを見せた後、

「んー……包帯はあんたが使っている部屋にでも置いといて。洗えばまだ使えるでしょ」

洗えばまだ使えるだろうと言う事で、包帯は捨てなくても良いと言う。

「了解、分かったぜ」

言われた事に龍也は了解の返事をし、自分が使っている部屋へと向って行く。

「何だ、もう行っちゃうのか。折角、龍也と酒盛りでもし様と思ってたのに」
「……酒盛りのお酒、まさか私のお酒を使う積りだったんじゃ無いでしょうね?」

後ろで酒に関する会話を交わしている萃香と霊夢を耳に入れながら。























使わせて貰っている部屋に辿り着き、部屋の中に入った龍也はワイシャツ、シャツ、ズボン、靴下と言った物を脱ぎ始める。
服を脱ぎ、トランクス一丁と言った格好に成ったのと同時に龍也は体中に巻かれている包帯を取りに掛かった。
そして、体中に巻かれた包帯を取り終えた龍也は自分の体に視線を向け、

「おー、綺麗に治ってるもんだな」

綺麗に治ったと言う感想を漏らす。
龍也がそう漏らした通り、龍也の体には萃香との戦いで負った傷は殆ど見られなかった。
それだけパチュリーが作った塗り薬が凄いのか、それとも龍也の回復力が凄いのか。
どちらかなのかは分からないが、

「パチュリーに感謝だな」

龍也は取り敢えずパチュリーに感謝する事にし、脱いだ服を再び着始め、

「よっ……と」

最後の仕上げと言わんばかりに学ランを着込む。
当然、学ランのボタンは全て開けているが。
兎も角、着替えが終わった事で龍也は部屋から出て玄関を通って外に出る。
外に出たのと同時に、

「んー……良い天気だ」

良い天気だと漏らしながら龍也は上半身を伸ばす。
本日の天気は雲が殆ど見られない晴天。
旅をするのにはこれ以上無いと言える程の天気だ。

「さて……」

満足したから、龍也は上半身を伸ばすの止めて足を進めて行ったが、

「……と、そうだ」

石段まで残り半分と言った所にまで辺りで何かを思い出したかの様に足を止め、

「萃香、居るかー?」

萃香の名を呼ぶ。
すると、龍也の目の前に霧が集まっていき、

「私に何か用かい? 龍也」

集まった霧は萃香になり、何か用かと聞く。
聞かれた龍也は、

「実はさ、一寸お前に頼みが在るんだけど良いか?」

少し申し訳が無さそうな態度で萃香に頼みが在ると言う事を口にした。

「頼みかい? 龍也の頼みだったら何でも聞いて上げるよ」
「ならさ、俺と一寸組み手してくれないか?」

自分の頼みを聞いてくれるという旨を萃香が言ってくれたので、龍也は頼みたい事の内容を伝える。

「組み手かい?」
「ああ、そうだ。体は治ったんだが、ここ暫らくは体を動かして無かったからな。戦いの勘が鈍ってないかを確認して置きたいんだ」

伝えられた内容を聞いて首を傾げた萃香を見た龍也が組み手をしてくれと頼んだ理由の説明を行うと、

「ふむふむ、それで組み手をね。良いよ良いよ。それじゃ、早速始め様か」

合点が言ったと言う表情になりながら萃香は組み手の件を了承し、間合いを取るかの様に後ろへと跳ぶ。
互いの距離が離れたのと同時に二人は構えを取り、ジリジリと間合いを詰めて行く。
二人の間合いがある程度詰まった辺りで、

「ッ!!」

龍也は地を蹴って一気に萃香へと肉迫し、飛び蹴りを放つ。
放たれた飛び蹴りを萃香は腕で受け止め、

「そら!!」

蹴りを受け止めている腕を動かして龍也を弾き飛ばす。
弾き飛ばされ、強制的に距離を離された龍也を追う様に萃香は地を蹴り、

「しっ!!」

龍也に向けて拳を振るう。
振るわれた拳を、

「ぐっ!!」

掌で受け止めながら龍也は地に足を着け、拳を受け止めている手に力を籠めていく。

「お……」

龍也が力を籠めた事に気付いた萃香は面白いと言った表情を浮かべ、拳を放っている腕に力を籠める。
二人とも力を籠めた事で、拳を受け止めている龍也と拳を放っている萃香は奇しくも力比べをしている様な状態になった。
そんな状態になってから少しすると、

「「……ッ!!」」

龍也と萃香の二人は弾かれる様にして間合いを取る。
間合いを取った二人が地に足を着けたのと同時に萃香は拳に炎を纏わせながら拳を引き、

「そら!!」

炎を纏わせている拳を放ち、拳の先から掌サイズの炎の塊を飛ばす。
迫り来る炎の塊を視界に入れた龍也は、

「りゃあ!!」

手の甲を使って炎の塊を上空へと弾き飛ばした。
取り敢えずこれで一安心と龍也が思った刹那、

「油断大敵……だよ」

油断大敵と言う言葉と共に萃香の拳が龍也の腹部に叩き込まれ、

「がは!!」

龍也は殴り飛ばされてしまう。
どうやら、飛ばした炎の塊を隠れ蓑にして萃香は龍也の懐に入り込んだ様だ。
それはそれとして、萃香に殴り飛ばされた龍也は、

「づう!!」

地面に片手を着け、強引に減速させて行く。
そして、完全に止まったタイミングで、

「……ん?」

龍也の体に影が掛かる。
掛かった影が気になった龍也が顔を上げると、

「ッ!?」

拳を振り被りながら降下して来ている萃香の姿が目に映った。
その瞬間、龍也は反射的に地面を片手で弾いて体を横に投げ出す。
同時に、萃香の拳が地面に激突する。
攻撃を外し、まだ次の攻撃に移れない萃香に龍也は地面を弾いていない方の手を向け、

「らあ!!」

掌から霊力で出来た弾幕を放つ。
放たれた弾幕は次々と萃香に激突して爆発と爆煙を発生させていくが、

「ぐ……」

体を投げ出させた龍也が地面に激突してしまった衝撃で、龍也から放たれていた弾幕が止んでしまう。
弾幕が止み、地面に激突して倒れこんだ龍也が立ち上がった時、

「まだまだ!!」

爆煙を突き抜ける様にして萃香が飛び出して来た。
飛び出した萃香は拳を振り被り、龍也の居る場所へと向かって行ったが、

「……………………………………………………」

龍也は萃香が飛び出して来るのは予想出来ていたと言わんばかりに拳を引き、

「……しっ!!」

萃香が自分の間合いに入ったのと同時に拳を放つ。
迫り来る龍也の拳に合わせるかの様にして、萃香も拳を放った。
放たれた二つの拳は激突し、大きな激突音と衝撃波が発生する。
発生した衝撃波と激突音を無視するかの様に龍也と萃香は拳を合わせていたが、龍也は唐突に自分の拳を萃香の拳から離し、

「組み手に付き合ってくれて、ありがとな」

組み手に付き合ってくれた事に対する礼を述べ、拳を下ろして構えを解いた。
龍也が構えを解いた事で、

「私としては、もっと続けても良かったんだけどね」

萃香も拳を下ろして構えを解く。
尤も、構えを解いた萃香の表情は少々不満気なものであったが。
兎も角、当初の目的は達成されたと言う事もあり、

「それで、組み手をしてみた感想はどうだったい?」

萃香は龍也に組み手をしてみた感想を尋ねる。
組み手の感想を尋ねられた事で、

「絶好調。戦いの勘も余り鈍ってなかったし、体も思い通りに動いたしな」

龍也は絶好調と言う答えを返し、

「それじゃ、そろそろ行くかな」

改めて出発する旨を口にした瞬間、

「騒がしいと思って外に出て来て見たら、何をやってるのよあんた等?」

何をやっているんだと言う声と共に、霊夢が現れた。
突如として現れた霊夢の方に龍也と萃香は顔を向け、

「ああ、戦いの勘が鈍っていないかを確かめる為に萃香に組み手の相手をして貰ってたんだ」
「そうそう。中々に楽しいものだったよ」

何をしていたかを霊夢に話す。
二人が行っていた事を知った霊夢は、

「ふーん……」

周囲を見渡し、

「ま、掃除する前で良かったわ」

掃除をする前で良かったと呟く。
確かに、掃除が終わった後に龍也と萃香が戦ったら掃除はやり直しになってしまうだろう。
もし、二人の戦いが掃除の後に起きていたら。
龍也と萃香の二人は怒り心頭の霊夢に襲われる事になったであろう。
思わずそうなった時の事を考え、龍也が渇いた笑みを浮かべている間に、

「……そうだ、萃香。あんたの能力なら楽に塵とか集められるんじゃない?」

霊夢は良い事を思い付いたと言わんばかりの表情を浮かべ、萃香の能力なら楽に塵などを集められるのではと聞く。
聞かれた事に、

「勿論。それ位なら楽勝だよ」

萃香が肯定の返事をしたので、

「ならやってよ。只で飲み食いしてるんだから、それ位はしてくれるわよね?」

只で飲み食いしているのだから、能力を使って塵などを集める様に霊夢は指示を出す。

「鬼を顎で使おうだ何て良い度胸してるね、この巫女は。でもま、只で飲み食いしているのは事実だしこれ位の事はしてやるかね」

指示を出された萃香は少々不満気な表情を浮かべたものの、只で飲み食いしているのは事実なのでこれ位はやると言って能力を発動させる。
すると、塵やら何やらが瞬く間に一箇所に集まっていき、

「これで良いかい?」

集まった塵等を見てこれで良いかいと萃香は霊夢に言う。

「ええ、良いわ」

一箇所に纏められた塵等を見た霊夢が満足気な表情を浮かべた後、

「あ、そうそう。龍也、あんたここ最近……無名の丘に在る洞窟に帰ってる?」

思い出だしたかの様に無名の丘に在る洞窟に帰っているのかと問う。

「いや、ここ最近は帰ってないな」
「へぇー、龍也って洞窟に住んでいるだ」

龍也が問われた事を肯定すると、萃香は興味深そうな視線を龍也に向ける。
そんな萃香を無視するかの様に、

「なら、近日中に帰った方が良いわ。そろそろお札に霊力補充して置かないと、結界を張らなくなるわよ」

霊夢は続ける様にしてお札に霊力を補充しなければ結界を張らなくなる事を龍也に伝えた。
龍也が自分と家としている洞窟はドアや扉と言った物は無く、結界がそれ等の代わりをしている。
つまり、結界が張られなくなると龍也の家である洞窟は丸裸になってしまう。
そうなったら最後、泥棒等が入り放題となってっしまうので、

「だったら、さっさと帰った方が良いな」

今直ぐに無名の丘の洞窟に帰る事を決め、跳躍を行って空中へと躍り出て、

「よ……っと」

ある程度の高度に達したのと同時に足元に霊力で出来た見えない足場を作り、そこに足を着けて周囲を見渡していき、

「……見っけ」

無名の丘が在る方向を発見した。
無名の丘を発見した龍也から出発すると言う気配を感じ取った霊夢と萃香は、

「次来る時、お賽銭は奮発しなさいよねー」
「またね、龍也ー」

それぞれ見送りの声を掛ける。
掛けられた声に声に反応した龍也は視線を霊夢と萃香の方に向け、

「おう、またな」

またなと言う言葉を返し、無名の丘へと向かって行った。
龍也が去った後、

「さて、掃除する必要も無くなったからゆっくりお茶でも飲みましょうか」

霊夢は掃除する必要が無くなったので、のんびりと茶を飲む事を決めて神社の方へと向って行く。
龍也、霊夢が居なくなった事で一人取り残された萃香は、

「それじゃ、私も行こうかな」

自身の体を霧に変え、姿を消した。























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