「んー……人里に来るのも何か久し振りな感じがするな」

龍也は人里の中を歩きながら、人里に来るのも久し振りな感じがすると呟く。
ここ最近は異変の解決に向かったり、異変解決の際に負った怪我の治療と言った感じで色々とトタバタしていたので久し振りと感じるのも無理はない。
兎も角、久し振りに人里に来たと言う想いが龍也には在るので、

「この町並み感が人里って感じだよなー」

キョロキョロと周囲を見渡していく。
それから幾らか時間が経つと、

「あ……」

龍也の腹から空腹を訴える音が鳴り響いた。

「あー……」

空腹を訴える音の発生源が自分の腹である事に気付いた龍也は周囲を見渡すのと足を進めるのを止め、自分の腹部に手を当てながら、

「そういや、ここに来るまで飲まず食わずで歩き続けて来たっけか……」

人里に着くまで飲まず食わずで歩き続けて来た事を思い出す。
これでは腹が空くのも無理はないだろう。
ともあれ、空腹である事を実感した龍也は、

「……何所かで何か食ってくか」

腹部から手を離して何所かでご飯を取る事を決め、再び周囲を見渡し始める。
が、

「この辺りに飯屋は無さそうだな」

今、龍也が居る場所の周囲には飯屋と言った類の店は見られなかった。
こうなったら、食事を取る事が出来る店を自分の足を使って探すしかないだろう。

「腹が減った状態で余り歩き続けたくないんだけど……仕方が無いか」

何処か諦めた様な表情を龍也は浮かべるも、直ぐに気分を変えるかの様に食事が取れる場所を探す為に再び足を動かして行く。
龍也が再び足を動かし始めてから少し経った頃、

「龍也兄ちゃーん!!」

龍也の耳に自分の名を呼ぶ声が入って来た。
それに反応した龍也は、

「ん?」

一旦足を止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には、人里に暮らす何人もの人間の子供の姿が映った。
目に映った子供の姿に見覚えがあった龍也は少し記憶を遡らせ、

「……ああ、あの時の子供達か」

思い出す。
人里から抜け出し、妖怪に襲われていた子供達を助けた時の事を。
助け出した直後は泣いたりもしていたが、こうやって元気そうにしていて何よりだと思いつつ、

「よ、寺小屋の帰りか?」

龍也は顔だけではなく体も子供達の方に向け、寺子屋の帰りかと声を掛ける。
掛けられた声に、

「うん!! これから家に帰ってお昼食べて皆で遊ぶんだ!!」

子供達を代表するかの様に、一番元気が有りそうな子が寺子屋の帰りである事を肯定しながら皆で遊ぶ事を教えてくれた。
皆で遊ぶ事が楽しみであるからか、子供達全員の表情が楽しみで溢れているのが見て取れる。
だとしたら、さっさと会話を切り上げて去るべきかと龍也が考えた刹那、

「ねぇねぇ、龍也兄ちゃん。僕も龍也兄ちゃんみたいに幻想郷を旅する事って出来るかな?」

子供の一人が自分も龍也みたいに幻想郷を旅する事が出来るかと聞いて来た。
聞かれた事に対し、

「旅……か。んー……幻想郷中を旅していると突然妖怪の群れに襲われるって事が結構あるからな。だから、旅をするんなら最低でもかなり強くなる必要が
在るな。勿論、ある程度のサバイバル知識も必要になるぞ」

旅をするのなら最低でもかなり強くなる事と、ある程度のサバイバル知識を身に付ける必要性が在ると言う。
サバイバル知識は兎も角、かなり強くなる必要性が在ると言われたからか、

「強くなるってどれ位?」
「そりゃ、やっぱり龍也兄ちゃんみたいにだろ」
「若しかしたら、博麗の巫女様位かもしれないわよ」
「魔法の森に住んでる、魔理沙の姉ちゃん位かもしれないぞ」
「人形劇をしに来てくれるお姉ちゃん位じゃない?」
「慧音先生位じゃないかな?」

子供達の間でどれだけ強くなれば良いのかと言う談義が始まった。
強さ談義はどうであれ、話が変な方向に向かってまた人里から抜け出すと言った事態に成ったら目も当てられないので、

「遊ぶのは良いけど、人里の外には絶対に出ない様にな。人里の外に出て妖怪に襲われても、また都合良く俺が助けれるとは限らないんだからな」

龍也は子供達に人里の外に絶対に出ない様にと釘を刺す。
釘を刺された子供達は、

『はーい!!』

元気良く返事をし、走りながら去って行った。
どうやら、遊ぶと言う単語で今直ぐにでも遊びたく成った様だ。
そんな子供達の様子を見て、

「俺にもあれ位の頃が在ったな……」

ポツリと自分にもあれ位の頃が在ったなと龍也は呟く。
元気一杯と言った感じの子供達の姿を見届けた後、

「……さて、俺もそろそろ行くか」

食事を取れる場所を探す為に、龍也はまた足を動かし始める。
もう少し歩けば飯屋などが見付かるだろうと予想しながら。
しかし、

「見付からねぇ……」

龍也の予想を裏切るかの様に、飯屋と言った類の店は見付からなかった。
歩いても歩いても食事を取る事が出来る店が見付からなかったので、

「この区画には飲食店が無いのかもな……」

この区画には飲食店が無いのではと龍也は考える。
もしそうならば、歩き続けても何の意味も無いだろう。
ならば、取れる手段は一つだけ。
手段と言っても、今居る区画を脱出する為に曲がり角を曲がるだけだが。
そして、善は急げと言わんばかりに龍也が目の前に見えた曲がり角を曲がると、

「おっと」
「……っと」

誰かにぶつかってしまった。
ぶつかった事で周囲に意識が少しも向いていなかった自分に龍也は呆れるも、

「すみません、大丈夫ですか?」

直ぐに謝罪の言葉と安否の確認をぶつかった相手に掛け、顔を上げる。
声を掛けられた相手は、

「いえ、こちらも不注意でした。貴方の方こそ大丈夫ですか?」

龍也と同じ様に謝罪と相手の安否を確認する言葉を返し、顔を上げて来た。
二人が殆ど同じタイミングで顔を上げた事で、

「慧音先生」
「おや、龍也君だったか」

二人は同時に自分がぶつかった相手が誰であるかを知り、

「すみません、慧音先生」
「いや、先程も言ったが私の不注意だ」

龍也と慧音は再び謝罪の言葉を述べて再び頭を下げる。
その時、この儘ではイタチごっこになりそうだと感じた慧音は顔を上げ、

「それはそうと、龍也君は何所かに行く積りだったのかな?」

話題を変える為、龍也に何所へ行く積りだったのかと聞く。
聞かれた事に、

「ああ、はい。ご飯を食べる為に飯屋を探していたところです」

龍也は顔を上げ、何所に行こうとしていたのかを話す。
龍也が何所に行こうとしていたのかを知った慧音は、

「実は私もご飯を取ろうと思っていてね」

自分も食事を取ろうと思っていた事を言い、

「良ければ一緒に蕎麦屋に行かないかい?」

一緒に蕎麦屋に行かないかと言う提案を行う。
食事を取れる場所が見付からず、迷っていた龍也に取って慧音の提案は渡りに船であったので、

「そうですね、御一緒させて頂きます」

一緒に蕎麦屋に行こうと言う慧音からの提案を、龍也は受け入れた。
自分の提案を龍也が受け入れたから、

「なら、早速行こうか。私に付いて来てくれ」

早速行こうと言いながら慧音は龍也に背を向け、足を進め始める。
さっさと歩き出した慧音の様子から慧音も空腹だったのかと思いつつ、慧音を見失わない様に龍也も足を動かし始めた。
二人が蕎麦屋を目指して足を進め始めてから少し時間が過ぎた辺りで、

「……っと、ここだここだ」

蕎麦屋に着いた事を慧音は口にし、店の中へと入って行く。
店に入った慧音に続く様にして龍也も店の中へと入り、席に着いて注文をする。
後は注文した物が来るまで待つだけと言う状態になった時、

「そう言えば、龍也君は無名の丘に在る洞窟に住んで居るんだったよね?」

慧音から龍也が住んで居る場所に付いての話題が出された。
出された話題と言うよりは問い掛けに近かったからか、

「そうですね、俺の住居は無名の丘に在る洞窟です。と言っても、余り居ませんけどね」

龍也は肯定の返事と共に余り無名の丘には居ない事を慧音に伝える。
が、

「あれ? 俺、無名の丘に住んでるって言った事在りましたっけ?」

直ぐに自分が住んでいる場所を慧音に教えたかと言う疑問を覚えた。
そんな龍也の疑問を晴らすかの様に、

「ああ、その事なら前に発刊された天狗の新聞に書かれていたよ」

龍也が住んでいる場所に付いての情報は天狗の新聞から得たと言う事を慧音は話す。
天狗の新聞と言う単語で"文々。新聞"の存在が龍也の頭の中に浮かび、

「そう言えば、あそこを住処にしてから直ぐに文のインタビューを受けたっけか」

浮かんだ事に呼応するかの様に洞窟を住処に決めてから直ぐに文のインタビューを受けた事を思い出した。
"文々。新聞"を見たのなら自分が何所に住んでいるのかを知っていても不思議は無いと龍也が納得している間に、

「後、少し前に天狗の新聞で外来人特集が組まれていただろう。あの特集は龍也君が中心に成っていたせいか、あれにも龍也君が何所に住んでいるかが
書かれていたからね。だから、結構記憶に残っていたんだよ」

補足するかの様に少し前に発刊された天狗の新聞に外来人特集と言う記事が組まれていた事を慧音は口にする。
外来人特集が組まれた天狗の新聞。
それは間違い無く、萃香が起こした異変を解決する為に紅魔館に赴いた際にパチュリーから見せられた"文々。新聞"の内容の事であろう。
序に言えばついこの前に無名の丘に帰った時に溜まっていた"文々。新聞"を全て読んだので、その記事は龍也に取っても記憶に新しい。
だからか、

「ああ、そう言えばそんな記事も組まれてましたね。俺の事が書かれた記事がメインだったので、気恥ずかしい気分になりましたけどね」

龍也は少し気恥ずかしそうに自身の頬を指で掻く。
同時に、あの特集が原因で近接戦込みの弾幕ごっこが流行ったのには驚いたと言う事を龍也が思っていると、

「ははは。まぁ、あの記事は君が助けた子供達の間では一寸した人気でね。多分、龍也君が助けた子供達は皆その号の新聞を持っていると思うよ」

慧音から外来人特集が組まれた号の新聞は龍也が助けた子供達は皆持っているだろうと言った情報が伝えられた。
自分が助けた子供達の間で自分がメインとなっている新聞が人気と言う事実が知った龍也は、

「それもそれで、何か気恥ずかしいですけどね」

またまた気恥ずかしい気分になり、それを誤魔化すかの様に注文する時に運ばれて来た水を飲み始める。
そして、龍也が水を全て飲み干したタイミングで、

「ま、人気が有るのは良い事だと思うけどね」

人気が有るのは良い事だと慧音は言い、

「あいつも、もう少し愛想良くすれば龍也君の様に人気者に成れるだろうがな……」

愚痴の様なもの零す。
零した愚痴が耳に入ったからか、

「あいつって誰ですか?」

龍也は慧音にあいつとは誰なのかを聞く。
聞かれた事に、

「ん、ああ。私の友人の事でね。良い奴何だが……少々素っ気無いところが在るんだ。いや……素っ気無いと言うよりは大人数と一緒に居る事を余り好まない
と言った方が正しいかな。私としてはもう少し人里……色んな人とも係わって欲しいんだが……まぁ、あいつには色々と複雑な事情と言うのが在ってね。余り
強くは言え無いんだよ」

少々言葉を濁した発言が慧音から返される。
返された発言から余り突っ込んで欲しくない話題である事を龍也は察し、話題を変え様としたタイミングで、

「お待たせしましたー」

注文した蕎麦が運ばれて来た。
なので、丁度話題を変え様としていた龍也は、

「いっただっきまーす!!」

早速と言わんばかりに蕎麦を食べ始める。
中々に速いペース蕎麦を食べていく龍也を見て、

「男の子は皆それ位のペースで食べるものなのかな?」

男の子は皆龍也の様なペースで食事を取るものなのかと言う感想を慧音は抱くも、蕎麦が運ばれて来たのに食べない訳にもいかないので、

「いただきます」

慧音も蕎麦を食べ始める。
腹が空いていた為か、龍也と慧音は特に会話を交わすと言った事をせずに黙々と言った感じで蕎麦を食べていく。
だからか、然程時間を掛けずに、

「「ごちそうさま」」

二人は蕎麦を完食する。
食べる物は食べたのでもうここには用は無いと言った感じで二人が立ち上がり、会計の済ませ様としたタイミングで、

「あ、ここの勘定は私が持つよ」

慧音が龍也の分も払うと言って来た。

「え? いや、流石に自分の分位は自分で払いますよ」

自分の分も慧音に払わせるのは流石に悪いと龍也は思い、自分の分は自分で払うと主張したが、

「私が誘ったんだから、ここは私に払わせてくれ。それに、年上の私が年下の君にお金を払わせるのもどうかと思うしね」

慧音から年下である龍也に金を払わせる気は無いと言う主張を返されてしまう。
そう返されてしまったら、何時までも自分の分は自分で払うと言い続けるのは失礼に成ると龍也は考え、

「そう言う事でしたら、お言葉に甘えさせて頂きますね」

慧音の言葉に甘える事にした。
蕎麦屋での勘定を慧音が払った後、龍也と慧音の二人は蕎麦屋の外に出る。
その後、龍也は軽く姿勢を正し、

「今日は御馳走様でした」

奢って貰った事に対する礼を慧音に述べ、

「それにしても、美味しかったですね。ここの蕎麦」

蕎麦が美味しかったと言う感想を漏らす。
蕎麦屋に対する好意的な感想が聞けた為、

「ここは少し贔屓にしている店でね。そう言って貰えると私も嬉しいよ」

慧音は嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな慧音を見ながら、今度人里に来た時もこの蕎麦屋で食べ様かと言う予定を龍也が立てていると、

「と、私はそろそろ寺子屋に戻らなければならないんだが……龍也君はどうする?」

これからどうするのかと言う問いを慧音が投げ掛けて来た。
投げ掛けられた問いに反応した龍也は、

「んー……」

少し考える素振りを見せ、

「俺は適当に人里内をブラブラした後、また旅を再開しますよ」

今後の計画を慧音に伝える。
それを合図としたかの様に、
   
「そうか。龍也君の強さなら大丈夫だろうが、道中気を付けて」
「ええ、ありがとうございます。それでは」

慧音と龍也は軽い別れの挨拶を交わし、それぞれが目指すべき方へと足を進めて行った。
























「……と、ここは阿求の屋敷か」

適当に人里内を彷徨っていた龍也は、何時の間にか阿求の屋敷の近くにまで来ていた。
折角なので人里を出る前に阿求の顔でも見て行こうかと龍也が考えた時、

「あれは……」

龍也の目に阿求の屋敷から出て来た女中の姿が映る。
買い物にでも行くのであろうか。
出て来た理由はどうであれ、屋敷の中に阿求が居るかどうかが聞けそうなので、

「すいませーん」

出て来た女中に龍也は声を掛ける。
声を掛けられた女中は足を止めて龍也の方に顔を向け、声を掛けて来たのが龍也である事に気付いたからか、

「あ、これは龍也様」

女中は頭を下げた。
相変わらず阿求の屋敷に居る者には様付けされるなと言う事を龍也は思いつつ、

「阿求居ますか?」

阿求が屋敷の中に居るのかどうかを問う。
問われた女中は、

「阿求様でしたら、今はお出掛けになっております」

頭を上げながら龍也に阿求が屋敷内に居ない事を教える。
女中から返って来た答えを聞き、

「そうですか……」

居ないのなら仕方が無いと言わんばかりに龍也が去ろうとした時、

「あの、宜しければ阿求様がお戻りになられるまで寛げる様に部屋を手配しますが……」

女中は阿求が戻るまで部屋を用意すると言う提案を行う。
女中の提案を受けた龍也は、提案を受け入れるか否かの判断を下す為に頭を回転させていく。
普段の状態であれば諸手を上げて提案を受け入れても良かったのだが、今回に限っては別。
何故ならば、早くを旅を再開したいと言う想いが龍也の中で強まって来ているからだ。
まぁ、偶々人里が目に入ったから人里に寄ったと言うだけで長期間滞在すると気持ちで人里に来た訳ではないので仕方が無いと言えば仕方が無いだろう。
しかし、折角の提案を断ると言うのも少々申し訳無い。
自身の想いと申し訳無さ。
この二つが龍也の心の中で鬩ぎ合った結果、

「いえ、今日のところはこれで失礼します」

旅を再開したいと言う想いが鬩ぎ合いに勝った。
だが、それだけ言って去ると言うのもあれなので、

「阿求には宜しく言って置いてください」

阿求への言伝を龍也は女中に頼んだ。
頼まれた女中は、

「畏まりました。龍也様、旅の道中御気を付けて」

了承の返事と共に旅の道中気を付けてと言う言葉を掛ける。
掛けられた言葉に、

「ええ、ありがとうございます」

龍也は礼を言葉を返し、足を動かして阿求の屋敷から離れて行く。
そして、それから暫らく経った頃、

「あれは……団子屋か」

龍也の目に団子屋が映った。
先程、蕎麦屋で食事を取ったので腹は空いていないが、

「途中で小腹が空いた時用に買って置くか」

道中で小腹が空いた時用の為に買って置こうと龍也は考えながら団子屋の中に入り、

「すいませーん、三色団子十五人前お願いしまーす!! お持ち帰りで!!」

早速と言わんばかり注文を行う。
すると、

「はいよ!!」

店員から元気な声が聞こえて来た。
それから少し時間が経った辺りで、

「お待たせしましたー!!」

注文した団子を定員が包みに入れて持って来てくれたので、龍也は包みを受け取りながら定員に代金を渡して団子屋を後にする。
そして、

「……よし」

龍也は決意新たにと言った感じで、人里の出口へ向けて足を進めて行った。
























人里を後にしてから暫らく経った頃、

「んー……平和だ」

龍也は幻想郷の何所かに在る草原を歩きながら平和だと呟いた。
何故その様な事を呟いたのかと言うと、人里を出てから今まで一度も妖怪に襲われなかったからだ。
普段であれば既に妖怪の一体や二体に襲われていても可笑しく無いのに、今回に限っては襲われていない。
平和だと呟くのもある意味当然だろう。
無論、これから妖怪に襲われる可能性は十分にあるのだが、

「あー……」

襲われる可能性など知った事かと言わんばかりに、龍也は極めて呑気でお気楽な表情を浮かべていた。
それから幾らか時間が過ぎた辺りで、

「ん……」

龍也の目にある物が映る。
映った物と言うのは、少し大き目の岩。
大きさからして、岩の天辺に座っても十二分な広さが在る事が分かる。
だからか、

「……よし、あそこで少し休憩するか」

龍也は岩の上で休憩をする事を決め、跳躍を行って岩の上に降り立ち、

「よっこらせっと」

腰を落ち着かせ、視線を空へと移す。
青い空に白い雲、光り輝く太陽と言ったものを見ながら、

「あー……」

ボケーッとした表情を龍也は浮かべ始めた。
どうやら、降り注ぐ日光が中々に心地良い様だ。
暫しの間、龍也が空を見上げながらのんびりとしていると、

「……んあ?」

見ている空に黒い点らしきものが見えている事に龍也は気付いた。
同時に、見えている点が段々と大きくなっている事にも気付く。
黒い点が大きくなっている事から何者かが近付いて来ているのかと龍也が考えた時、黒い点が人影らしきものに見え始め、

「あれは……椛か?」

見え始めた人影から、黒い点の正体は椛ではないかと推察する。
すると、見えていた人影は龍也の直ぐ近くに降り立ち、

「こんにちは、龍也さん」

挨拶の言葉を掛けて来た。
龍也に声を掛けて来た者は、

「椛……」

龍也が推察した通り、椛であった様だ。
意外な所で会ったからか、

「奇遇だな、こんな所で会う何て」

こんな所で会う何て奇遇だと言う言葉を龍也が発したタイミングで、

「突然ですみませんが、文さんを見てはいませんか?」

椛は文を見ていないかと問うて来た。
そして、

「あ、文さんって言うのはですね……」

思い出したかの様に椛は文の事を伝え様とする。
が、

「文って言うのは烏天狗の射命丸文の事だよな?」

文の事を龍也が既に知っていた為、

「あ、文さんの事をご存知でしたか」

椛は少し驚いた表情を浮べた。
そんな椛に、

「ああ、前に文からインタビューを受けた時に知り合ってな」
「……そう言えば、前に文さんの新聞に龍也さんの記事が載ってましたね」

文からインタビューを受けた時に知り合ったと言う事を龍也が椛に伝えると、椛は文が発刊している"文々。新聞"に龍也の記事が載っていた事を思い出し、

「てっきり、あれは隠し撮りでもされたものかと思いましたが違ったんですね」

意外そうな表情を浮かべ、"文々。新聞"に掲載されていた写真は隠し撮りされた物では無かったのかと呟く。
椛が呟いた事が耳に入った龍也は、椛の文に対する信頼性の低さを感じつつ、

「因みに、一番最初のやつ以外は隠し撮りだな」

一番最初に自分の事が載った"文々。新聞"以外に載っている写真は全て隠し撮りである事を椛に教える。
隠し撮りで無かったのは一番最初のだけだと言う事を知った椛は、

「あの人は……」

頭が痛くなったと言う様な表情を浮かべ、自分の頭を手で押さえ始めた。
頭を押さえている椛を見て、これ以上余計な事は言わない方が良さそうだと龍也は判断し、

「それはそうと、文は俺も見てないな」

自分も文は見ていない事を口にする。
それを聞いた椛は自分の頭から手を離し、

「そうですか……」

がっかりとしたと言った感じで肩を落とした。
何やらさっきから椛の精神にダメージが行ってばかりだと龍也は感じつつも、

「何か遭ったのか?」

愚痴を聞いてやると言う心積もりで何か遭ったのかと椛に問う。
問われた椛は落としていた肩を上げ、

「あ、はい。実はですね、大天狗様から文さんにある書類を届ける様に命を受けたのです。ですが、妖怪の山に文さんが居なかったので能力を使って
探したのですが見付ける事が出来なくて。おそらく、上手い事私の能力の範囲外に逃れているのでしょうが。兎も角、能力を使っても文さんが何所に
居るのかを見付ける事が出来なかったのでこうやって直接探しに来たのです」

何が遭ったのか話し始めた。
要約すると、椛は大天狗の命令で文を探していたとの事。
白狼天狗である椛の本来の仕事は妖怪の山の哨戒や見回りと言ったものがメインなのだが、状況次第では妖怪の山を飛び出したりもするのだろう。
動くとなったらかなり動き回らなければならない椛の仕事も大変だなと思いつつ、

「……能力?」

椛の能力を知らない為、龍也は考え込む様な表情を浮べながら首を傾げてしまった。
首を傾げた龍也を見て、自分の能力の事を龍也に教えていない事を椛は思い出し、

「あ、私の能力は"千里先まで見通す程度の能力"です。解り易く言うのなら、遠見が出来る能力ですね」

簡単に自身の能力付いての説明を行う。

「へぇー、凄いな」

椛から能力の説明を受けた龍也が率直な感想を漏らした刹那、

「あ……」

何処からか空腹を訴える音が鳴り響き、

「あう……」

椛は顔を赤くしながら恥ずかしそうな表情を浮かべ、龍也の方に視線を向ける。
やはりと言うべきか、音の発生源は椛の腹であった様だ。

「いや……その、これは……」

腹を音を聞かれた事で何か言い訳を始め様としている椛を無視し、龍也は人里の団子屋で買った団子の包みを取り払い、

「団子在るけど……一緒に食うか?」

一緒に団子を食べないかと言う提案をした。
もう誤魔化し様が無いと判断したのか、それとも諦めたのかは分からないが、

「……いただきます」

観念したかの様に団子を食べると椛は口にし、龍也の隣に腰を落ち着かせる。
その間に龍也は団子串を一本手に取り、

「ほら」

団子串を椛に手渡す。

「あ、どうも」

手渡された団子串を受け取り、椛は団子を食べ始めた。
そして、龍也も団子串を手に取って椛と同じ様に団子を食べ始めると、

「それにしても、大天狗様は何で何時も私にこう言う事を頼むんでしょうか。確かに私と文さんはそれなりの付き合いはありますし、私の能力なら人探しは
持って来いでしょう。けど、私以外にも人探しが得意な者は居るでしょうに」

椛は愚痴を零し始める。
それを耳に入れながら、ストレスとか色々と溜め込んでいたんだなと言う事を龍也は察しながら、

「あれ、基本的に白狼天狗って暇だって前に言ってなかったけか?」

以前、白狼天狗は暇だと言っていなかったかと言う指摘を行う。
中々に痛い所を突かれたからか、椛は苦笑いを浮かべ、

「いや、まぁ……そうなんですけどね」

言葉を詰まらせ始めた。
椛の表情から察するに、幾ら暇でも妖怪の山から出る様な仕事はしたくは無いと言ったところであろうか。
ともあれ、龍也が細かい指摘をした事で場の空気が微妙なものに成ってしまったので、

「あー……と、そう言えば椛って文と知り合いなのか?」

話題を変えるかの様に龍也は椛に文と知り合いなのかと言う疑問を投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に、

「ええ、まぁ。一応、先輩後輩の間柄ですね。それが縁で私も"文々。新聞"を購読しているのですが……後、同じ大天狗様が上司です」

椛は不本意だと言う表情を浮べながら文とは先輩後輩の間柄で、同じ大天狗が上司である事を話し、

「大体、文さんは能力は有るのに仕事に手を抜き過ぎなんです。もう少し真面目に仕事をですね……」

再び愚痴を零し始めた。
零された愚痴を耳に入れ、偶にはこんな日も良いかと龍也は思いつつ、

「まぁまぁ」

適当に椛を宥めながら団子串を手に取り、

「ほら」

再度、椛に団子串を手渡す。
団子串を手渡された椛が、

「あ、ありがとうございます」

礼の言葉と共に団子串を受け取ったタイミングで、

「ずっと力を入れっ放しってのも疲れると思うけどな」

龍也はずっと力を入れっ放しと言うのも疲れると思うと返す。
確かに、龍也が返した発言は一応理に適ってはいるのだが、

「まぁ、そうですけどね。それでも、あの人は普段から手を抜き過ぎなんですよ。そもそもですね……」

当の文本人は普段から手を抜いている情報が椛の口から出て来た為、

「ははは……」

思わず龍也は苦笑いを浮べてしまうも、椛の愚痴に耳を傾けていった。
























人里で買った団子が全て無くなった辺りで、

「す、すみません。何か愚痴に付き合って貰っちゃって」

椛は龍也に自分の愚痴に付き合わせた事に対する謝罪を行う。
椛から謝罪を受けた龍也は、

「良いって良いって。俺の方も前に組み手に付き合って貰ったんだ。お互い様だよ」

自分の組み手に付き合って貰った事も在るので、愚痴に付き合った事などお互い様だと返す。
すると、

「そう言って頂けると、助かります」

安心したかの様な表情を椛は浮べながら上半身を伸ばし、

「……と、そろそろまた文さんを探しに行かないと」

文の捜索を再開すると言った旨を口にする。

「そういや、文を探してたんだったな。悪いな、何か付き合わせちゃって」
「いえ、私としても良い休憩になりましたし。それに、色々と愚痴を聞いて貰ってすっきりしましたので気にしないでください」

文を探すと言う仕事の足止めをしてしまった事に対する謝罪を龍也は行うが、椛は自分に取って特になる事があったので気にするなと言い、

「お団子、ありがとうございました。それとゴミの方は私の方で処分して置きます」

御馳走になった礼と串、包みと言ったゴミは自分が処理すると述べながらそれ等を手にして立ち上がり、

「それでは、また」

一声掛けてから空中へと躍り出て、何所かへと素っ飛んで行った。
素っ飛んで行った椛を見送った後、

「さて……と」

龍也は立ち上がって岩の上から飛び降り、

「俺も行くかな」

軽く上半身を伸ばし、足を動かして旅を再開する。























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