周囲に見える景色を見渡しながら、

「この森も相変わらずだな……」

この森も相変わらずだなと言う感想を龍也は呟いた。
現在、龍也は魔法の森に来ている。
来ていると言っても、何か目的が在って魔法の森に来ている訳では無い。
何時もの様に幻想郷の何所かを彷徨っていたら魔法の森が目に入ったので、何となく魔法の森に足を運んだだけ。
龍也らしいと言えば龍也らしいだろう。

「さて、ここを探索するなら擬態している妖怪には気を付けなきゃな……」

魔法の森を探索する際の注意点を口にしながら、龍也は足を動かしていく。
龍也が口にした通り、魔法の森には何かに擬態している妖怪が結構存在している。
例えば木、茸、切り株と言ったものに。
不用意にそう言ったものに近付いたら、行き成り正体を現して襲い掛かって来る事であろう。
とは言え、魔法の森には切り株は兎も角としても木、茸と言ったものは文字通り腐る程に存在している。
故に、近付くなと言うのは無理の一言。
なので、何時襲われるか分から無いと言う事を念頭に入れて置くのが一番の対策かも知れない。
と言った感じで龍也が魔法の森の探索を始めてから幾らか時間が経った頃、

「……ん?」

龍也の目に小さな人影が三つ程映った。
映った人影の大きさから、人里の子供が人里から抜け出して魔法の森にやって来たのではと言う考えが頭に過ぎった龍也は、

「……………………………………………………………………」

進行方向を変える。
無論、変えた進行方向の先は人影が映った場所だ。
そして、ある程度足を進めた辺りで龍也は気付く。
映っていた人影は人間の子供では無く、妖精であった事に。
何故、人間の子供では無く妖精である事に気付けたのか。
答えは簡単。
映った人影の背中から羽が生えているのが見えたからだ。
それはさて置き、妖精達は話し合いに集中しているせいか龍也が近くに来ている事に気付いてはいない。
自分の存在に気付かれて悪戯を仕掛けられても面倒なので、妖精達に気付かれる前に去った方が良いだろう。
だが、龍也には話し合いに夢中になっている妖精達に見覚えが在った為、

「……………………………………………………………………」

思わず考え込む様な体勢を取り、

「……えーと、サニーミルクにルナチャイルドにスターサファイアだったっけか?」

ふと、頭に浮かんだ名前を声に出す。
すると、三人の妖精達はビクッとしたかの様に体を震わせて龍也の方に体を向ける。
三人の反応を見るに三人の名前は龍也が声に出した名前、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアで合っていた様だ。

「あ、良かった。名前は今ので合ってたんだな」

声に出した名前が合っていた事で何処か安心したと言った表情を龍也が浮べていると、龍也の方に体を向けた三妖精を代表するかの様に、

「えっと……龍也……さん?」

サニーミルクは恐る恐ると言った感じで龍也の名前を漏らす。
漏らした名前が耳に入った龍也は少し驚いた表情を浮かべ、

「お、俺の事を覚えててくれたんだ。何時ぞやの雪合戦で会った切りだったのによ」

何時ぞやの雪合戦で会った切りだったのに良く覚えていたなと言う。
自分の事を覚えていた三妖精に少し驚いた表情を向けている龍也に、

「ええ、まぁ。それと"文々。新聞"に龍也さんの記事が載ってましたから」

"文々。新聞"に龍也の記事が載っていた事をスターサファイアが話す。
スターサファイアの話から察するにサニーミルク、ルナチャイルドの間でも"文々。新聞"は出回っている様だ。
いや、下手をしたら他の妖精達の間でも"文々。新聞"が出回っている可能性がある。
となると、龍也の知らない所で龍也は有名人になっている可能性が在るであろう。
だから、

「ああ、あれか……」

龍也は少々気恥ずかしい気分になってしまった。
が、何時までもその様な気分ではいられないので、

「それはそうと、お前等はここで何やってたんだ?」

気持ちを入れ替えるかの様に龍也は三妖精にここで何をしているのかと聞く。
聞かれた事に、

「私達は虫捕りに来たんです」

ルナチャイルドが虫捕りに来たのだと返すと、魔法の森に捕れる虫なんて居るのかと言う疑問を抱いた龍也は、

「虫捕り?」

思わず首を傾げてしまう。
そんな龍也を見て、

「はい。魔法の森に珍しい虫が存在していると言う噂を聞きまして」

魔法の森に珍しい虫が存在していると言う噂を聞いた事をサニーミルクは龍也に伝える。
伝えられた事を頭に入れた龍也が、魔法の森になら珍しい虫が存在していても可笑しくは無いと言う考えが頭に浮かんだ瞬間、

「あ、そうだ。龍也さんもご一緒しませんか?」

スターサファイアが龍也も一緒に虫捕りをしに行かないかと提案して来た。
その様な提案をされるとは予想していなかったからか、

「俺も?」

思わず驚いた表情を龍也が浮べる。
同時に、サニーミルクとルナチャイルドがスターサファイアを引っ張って龍也から少し離れ、

「一寸、何でこの人連れて行くのよ?」
「そうそう、何で?」

スターサファイアにどうして龍也を連れて行こうとしているのかを問う。
そう問うた二人の気持ちは解らなくも無い。
サニーミルクとルナチャイルドからすれば、態々人間である龍也を一緒に連れて行く意味が全く分からないのだから。
訳が分からないと言った表情を浮べているサニーミルクとルナチャイルドの二人に、

「ほら、新聞には滅法強い外来人って書いてたじゃない。だから、一緒に連れてけばボディガードみたいな事をしてくれるかなって思って」

人間である龍也を一緒に連れて行こうとした理由を口にすると、

「……ああ、そう言えばそんな事も書いてあったわね」

"文々。新聞"に載っていた内容の幾つかをサニーミルクは思い出す。
スターサファイアが口にした通り、龍也の実力ならばボディガードとしては申し分無いであろう。
懸念事項に"文々。新聞"に書かれていた情報が間違っていたらと言うのが在るが、それでも魔法の森に一人で入って来る位だ。
ある程度の強さは持ち合わせている筈。
ならば、龍也を一緒に連れて行く事も吝かでは無いとサニーミルクが考えた時、

「おーい……」

龍也が三妖精に声を掛けて来た。
声を掛けられた三妖精は、

「「「はい!?」」」

慌てた動作で龍也の方に体を向ける。

「ん? 何驚いてるんだ?」

慌てている三妖精に龍也は疑問を覚えるも、

「まぁ、いいか。俺は特に用事も無いから一緒に虫捕りをしに行っても良いぞ」

覚えた疑問を無視するかの様にこれと言った用事も無いで、虫捕りに付き合っても構わないと言う。
龍也の様子から自分達の相談事が聞かれた訳では無い事を察したサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人は先陣を切るかの様に、

「さ、早く行こう!!」
「行こ行こ!!」
「それじゃあ、行きましょう!!」

元気良く、そして急ぐかの様に魔法の森の奥地へと進んで行った。
どんどんと奥の方の進んで行っている三妖精を目に入れながら、

「妖精って言うのは元気だな、ほんと」

妖精と言う存在は元気だなと言う感想を龍也は抱きながら、三妖精の後を追う様に足を動かし始める。
























三妖精の提案に乗った龍也は、魔法の森を突き進みながら珍しい虫を探していた。
魔法の森を突き進んでいると言っても多少注意深く周囲の様子を伺えば、虫など幾らでも見付ける事が出来る。
しかし、見付けた虫の全てが三妖精の探している珍しい虫では無かった。
因みに、三妖精達が探している珍しい虫と言うのはカブトムシとクワガタを足し合わせた様な虫なんだとか。
そこ等では見掛けそうに無い無視でも、魔法の森でならば普通に見付かりそうだと言う事を龍也が改めて思っていると、

「龍也さーん、助けてくださーい!!!!」

何処からか助けを求める声が龍也の耳に入って来た。
それに反応した龍也が助けを求める声が聞こえて来た方に顔を向けると、巨大なクワガタに追い掛けられている三妖精の姿が目に映る。
目に映った光景から何であんな事に成ったんだと言う事を龍也が思った時、三妖精が龍也の背後に隠れるかの様に滑り込んで来たので、

「何で追われる事に成ったんだ?」

龍也は三妖精に巨大なクワガタに追われる事になった理由を問う。
理由を問われたサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人は、

「それはルナが……」
「ちょ、私のせい!?」
「そうでしょ!! ルナがドジッて木から滑ってあのクワガタの上に落ちたから!!」

理由の説明と同時に口喧嘩を始めた。
つまり、ルナチャイルドが木の上から巨大クワガタの上に落ちてクワガタの怒りを買ったせいで三妖精は追われる事となったのだ。

「成程……」

三妖精が巨大なクワガタに追われていた理由を龍也が理解した刹那、

「龍也さん!! 前!! 前!!」

スターサファイアから慌てふためいた声が発せられる。
発せられた声に促される形で龍也が正面に視線を向けると、巨大クワガタがもう間近にまで迫って来ているのが分かった。
更に言えば、巨大クワガタは持ち前のハサミを大きく開いている。
おそらく、あのハサミで龍也と三妖精を挟み込む積りなのだろう。
と言っても、態々ハサミに挟み込まれる気は龍也には全く無い。
なので、

「おっと」

龍也は自分の背後に隠れている三妖精を抱え、跳躍を行う。
その瞬間、龍也と三妖精の背後に在った木が真っ二つに斬り裂かれた。
しかも、綺麗な切り口で。
斬るのではなく圧し折るものだと思っていた龍也は、

「おお、凄い切れ味だな」

巨大クワガタのハサミの切れ味に感心したと言う感想を抱き、巨大クワガタから少し離れた場所に着地する。
そして、抱えていた三妖精を降ろし、

「大丈夫か?」

大丈夫かと言う声を掛け、三妖精からの反応を待つ。
声を掛けられたサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人は、

「あ……はい、大丈夫です」
「平気です」
「怪我も在りません」

無事であると言う答えを返す。
三妖精の無事を確認出来た後、龍也は巨大クワガタの方に顔を向け、

「さて……」

巨大クワガタ相手にどう戦うべきかと言う考えを廻らせていく。
真っ二つにされた木を見るに、ハサミに触れただけでも斬れてしまいそうだ。
だが、ハサミは巨大クワガタに取って絶対の武器とも言えるもの。
確実に巨大クワガタはハサミを主武装として使ってる来るだろう。
出来る事ならハサミを避けて巨大クワガタを側面から攻撃を加えるのが理想だが、森と言う地形を考えるにそれは現実的な方法では無い。
何故ならば、木の数が多過ぎて回り込むのに結構な時間が掛かってしまうからだ。
木を己が力で圧し折りながら最短距離で回り込めば良いと思うかも知れないが、龍也はその方法を取る気は無い。
何故かと言うと、避けれる自然破壊は避けたいと龍也は考えているからだ。
序に言えば、一応護衛対象である三妖精から離れ過ぎるのは良い方法とは言えないとも考えている。
故に、余り動き回らずに戦うのがベストかと言うところまで考えが至った時、

「……っと」

巨大クワガタが龍也達の居る方に向けて突撃を仕掛けて来た。
となれば、これ以上考え事をしている訳にもいかないので、

「………………………………………………………………」

龍也は決意を決めたかの様に前に数歩踏み出て、自身の力を変える。
玄武の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色が黒から茶に変わった刹那、

「……ッ」

何時の間にか龍也の目の前にまで迫って来ていた巨大クワガタが自前のハサミを大きく開いていた。
開かれたハサミを見た龍也は力を変えたタイミングとしてバッチリだと思いながら両手を伸ばし、

「せい!!」

巨大クワガタのハサミを素手で掴む。
そんな事をしたら龍也の手が斬れてしまうと思うかも知れないが、

「……やっぱりな」

龍也の手が斬れると言う事は無かった。
無論、通常の状態で巨大クワガタのハサミに触れたら龍也の手は斬れてしまっていた事であろう。
では、何故龍也の手が斬られていないのか。
答えは簡単。
玄武の力を使っている状態では防御力が高くなるからだ。
巨大クワガタからしてみたら自慢のハサミを防がれてしまった訳だが、

「お……」

防がれた事など関係無いと言わんばかりに巨大クワガタは龍也を押し潰そうと力を籠めていく。
切れ味の鋭いハサミにばかり目が行きがちではあるが、この巨大クワガタは龍也よりも体がずっと大きい。
ならば、体の大きさを利用した戦い方をしてくる事など自明の理。
つまり、龍也は自分から相手の土俵で戦う道を取ってしまったのだ。
だが、

「……やるじゃねぇか」

龍也は巨大クワガタに押し潰される事は無かった。
それ処か、

「だが……悪いな」

己が腕力で巨大クワガタを持ち上げてしまったではないか。
持ち上げられた巨大クワガタは、持ち上げられた事が信じられないと言わんばかりに自分の足を激しく動かし始める。
しかし、足を必死になって動かして抵抗をしている巨大クワガタを無視するかの様に龍也は両腕に力を籠め、

「この程度の力じゃ……俺をどうにかする事は……出来ないぜ」

腰を少し落とし、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあ!!!!!!!!」

巨大クワガタを後ろ斜め上空に向けて投げ飛ばした。
龍也が巨大クワガタを投げ飛ばしてから少しすると、龍也達の後方で何かが落下する音が発生する。
十中八九、投げ飛ばした巨大クワガタが落下した音であろう。
なので、龍也は巨大クワガタが落下した地点に体を向け、

「………………………………………………」

少し警戒したかの様に構えを取った。
構えを取ってから少し時間が経っても何の反応も無かった為、龍也は完全に倒したと判断し、

「……大丈夫だったか、お前等?」

警戒心と構えを解いて三妖精に大丈夫かと声を掛ける。
声を掛けられた三妖精は、これと言った反応を見せる事なくポカーンとした表情で龍也を見ていた。
三妖精からの反応が無かった為、龍也は体を少し屈めて目線を三妖精と同じにし、

「おーい……」

もう一度声を掛ける。
すると、三妖精は意識を取り戻したかの様に目をパチクリさせ、

「あ、いえ。その、凄く強いなー……と思いまして……」

三妖精を代表するかの様にサニーミルが龍也の強さに関する発言を零す。
その発言が耳に入った龍也は屈めていた体を起こし、

「ま、強くなかったら幻想郷中を歩いて回るって事なんて出来ないしな」

強くなかったら幻想郷を旅するする事など出来ないと言う様な事を返した後、改めてと言った感じで周囲を見渡していく。
見渡した結果、先程の巨大クワガタの様な妖怪が近くには居ないと言う事が分かったので、

「……ふぅ」

自身を力を消す。
力を消し、龍也の瞳の色が茶から元の黒に戻ったタイミングで、

「さて、珍しい虫探しを再開し様ぜ」

龍也は三妖精に珍しい虫探しを再開し様と言う。
すると、三妖精は気を取り直したかの様に表情を戻し、

「「「はい!!」」」

元気良く肯定の返事をした。
























龍也が巨大クワガタを撃退した後、珍しい虫を探す為に龍也と三妖精は魔法の森を探索していた。
探索と言っても、適当に魔法の森の中を彷徨っていただけなのだが。
それはそれとして、幾ら探し回っても三妖精が探しているカブトムシとクワガタを足し合わせた虫を見付ける事は出来なった。
一応探している虫以外の珍しい虫を発見する事は出来たのだが、これは全くの余談である。
そして、探索途中で日が暮れてしまったので龍也達は解散する事なり、

「暗くなって来たし、何処か野宿出来る場所が見付かれば良いんだけどな……」

三妖精達と別れた龍也は野宿が出来そうな場所を探す為、魔法の森の中を歩き回っていた。
と言っても、今居る場所は魔法の森。
玄武の力を使って寝床である土で出来た家を生み出す為には、少々開けた場所を見付ける必要が在る。
だが、森の中ではそう簡単に開けた場所が見付かりはしないであろう。
しかし、

「んー……今日中に見付かれば御の字だな」

何時開けた場所が見付かるか分からないと言うのに、龍也はかなりお気楽な表情を浮べていた。
まぁ、空中に躍り出て野宿が出来そうな場所を探すと言う最終手段が残っているのでお気楽な表情を浮べているのだろう。
尤も、それをやったら負けた気分になるので龍也としては余りやりたくない手段ではあるが。
兎も角、野宿が出来そうな場所を探す為に草木を掻き分ける様に進み始めてから幾らか時間が経った頃、

「……お?」

龍也は少し開けた場所に出た。
思っていたよりも早くに目的の場所を見付けられた龍也は少し気分を良くしながら開けた場所を数歩進んで行くと、

「ん? あれは……洋館?」

龍也の目に洋館が映る。
同時に、龍也は一旦足を止めて頭を回転させていく。
魔法の森に洋館。
これだけで、

「ああ、アリスの家か」

今、見えている洋館がアリスの家であると言う事を龍也は理解した。
何時の間にかアリスの家にまで来ていた事に少し驚くも、

「……折角だ。泊めてくれるかどうか聞いてみるか」

折角なのアリスに泊めてくれるかを聞きに行こうと龍也は考え、足を再び動かす。
そして、アリスの家のドアの前まで来たタイミングでノックをする。
ノックをしてから少しするとドアが開かれ、

「あら、こんな遅くに誰かと思ったら龍也じゃないの」

開かれたドアからアリスが顔を出した。
どうやら、今回は人形ではなくアリス本人がドアを開いてくれた様だ。
兎も角、家主であるアリスが顔を出してくれたので、

「よ、行き成りで悪いんだが泊めてくれないか?」

龍也は挨拶の言葉と共に泊めてくれないかと聞く。
行き成り泊めてくれと聞いて来た龍也に、

「本当、行き成りね」

呆れた視線を龍也に向けつつも、

「別に良いわよ。貴方に聞きたい事も在ったし」

聞きたい事も在るので泊まって行っても良いとアリスは返す。
直ぐに泊まっても良いと言う返事が返って来たので龍也は喜ぶも、

「俺に聞きたい事?」

聞きたい事が在ると言われたので、思わず首を傾げてしまう。
そんな龍也を見ながら、

「そ。と言ってもここで立ち話もあれだから、取り敢えず中に入って」

取り敢えず中に入れとアリスは促し、ドアを大きく開く。
なので、

「それじゃ、お邪魔しますよっと」

龍也は一声掛けながら足を進め、アリスの家の中へと入る。
龍也が完全に家の中に入ったのを確認した後、アリスはドアを閉めて居間に向けて足を進め始めた。
居間に向かって行ったアリスを追う様に龍也も足を進めて行く。
足を進めた二人が居間に着いた時、アリスは振り返り、

「飲み物は紅茶、お茶菓子はクッキーで良いかしら?」

飲み物と食べ物は紅茶とクッキーで良いかと尋ねる。

「ああ、それで良いぞ」

尋ねられた事にそれで良いと龍也が返すと、アリスは軽く指を動かす。
すると、居間に飾られていた人形の何体かが動き始めた。
おそらく、動き始めた人形が紅茶とクッキーを用意をしてくれるのだろう。
人形の動きから機械的なもの一切感じなかった龍也は、

「相変わらず凄いな、アリスの動かす人形は。まるで生きてるみたいだ」

自然とアリスの人形を操る技術を称賛する言葉を漏らした。
それが耳に入ったアリスは龍也の方に顔を向け、

「人形遣い何だし、この程度は……ね」

この程度は大した事は無いと言い、

「それじゃ、クッキーと紅茶が来るまで椅子に座って待っていましょうか」

クッキーと紅茶が来るまで椅子に座って待ってい様と口にし、椅子に腰を落ち着かせる。
腰を落ち着かせたアリスに続く様に龍也も椅子に腰を落ち着かせ、少しの間ボケーっとしていると、

「お……」

人形達がトレイに紅茶が入ったカップ、クッキーが入った小皿を乗せて運んで来ている様子が目に映った。
そして、運ばれて来た紅茶とクッキーがテーブルの上に並べられたタイミングで、

「ありがと」

龍也は紅茶とクッキーを運んで来てくれた人形達に軽い礼を述べ、

「それで、聞きたい事って何だ?」

話を進めるかの様に自分に聞きたい何だとアリスに問う。
問われたアリスは表情を少し真剣なものに変え、

「今、私は人形の巨大化させると言う実験をしているの」

今、自分がしている実験を龍也に教える。

「人形の巨大化?」

急にアリスがしている実験に付いて教えられた事で疑問気な表情を龍也が浮べた為、

「ええ。ほら、前の異変で貴方が戦った鬼の伊吹萃香。彼女、自身を巨大化させる術を持っているでしょ?」

確認を取るかの様にアリスは龍也が戦った萃香は自身を巨大化させる術を持っているのだろうと聞く。
そう聞かれた事で、萃香と戦った時の事を龍也は思い出し、

「ああ、そうだな」

肯定の返事をする。
聞いた事に肯定の返事をされたので、

「自身を巨大化させる事が可能なら、私の人形でも同じな様な事が出来るのではと思ったのよ。で、完全自立型人形研究の息抜きを兼ねて色々と
実験しているんだけど……」

何故自分が今している実験に付いて教えたのかと言う理由を説明し、一旦話しを切るかの様に紅茶を一口飲み、

「でも、中々上手くいかないのよねぇ……」

溜息を一つ吐きながら実験が中々上手くいってはいないと言う愚痴を零す。
愚痴を零したアリスの表情から、本当に人形巨大化の実験が上手くいっていない事を龍也は察しつつ、

「……あ、聞きたい事ってそれか。前に俺がロボットの話をしたから、俺からなら何か参考になる話を聞けるかもしれないって思ったんだろ?」

自分に実験内容を教えて来た理由に気付いた。
その瞬間、アリスは期待を籠めた目で龍也を見詰め、

「ええ、何かないかしら?」

何か良いアイディアは無いかと言う。
アイディアは無いかと言われた龍也は、

「そうだな……そう言うのはロボット物よりヒーロー物だろ……」

巨大化と言ったらロボット物よりもヒーローの物だろうと呟く。

「ヒーロー物……」

今まで龍也が話してくれたジャンルとは違うジャンルの話が聞けそうだからか、アリスは少し身を乗り出した。
そんなアリスの期待に応えるかの様に、

「ヒーロー物で巨大化する際のお約束としては、何らかのアイテムを使って変身して巨大化するって言うパターンが多いな」

龍也はアリスにヒーロー物で巨大化する際のお約束を伝える。
伝えられた事を頭に入れたアリスは何かを考え込む様な体勢を取り、

「アイテム……何らかの物を媒介とし、それをエネルギーとして人形に働き掛ける? いや、でもそんなアイテム何所に……私がそのアイテムを作るなり
エネルギーを媒介として巨大化する術式を探すなり生み出したりすれば……。でもそれ等を生み出す際の素材と労力を考えたら……と言うか、私はそれが
専門って訳じゃ無いし……」

ブツブツと何かを呟き始めた。
アリスの呟きから察するに、何らかのアイテムを使って人形を巨大化させると言う方法は中々に難しい様だ。
だからか、

「他には……あ、人形の素材を収縮自在の物に変えてアリスが操って巨大化させるって言うのはどうだ?」

何らかのアイテムで巨大化させるのではなく、人形自体に巨大化させる為のギミックを仕込むのはどうだと言うアイディアを龍也は出す。
龍也から新たなアイディアが出された事で、

「収縮自在の物……ゴム製? いや、ゴム製だったら強度に問題があるし手に入れる手段が……香霖堂になら置いて在りそうね。でも、やはり強度の
問題が……合成で強度不足を何とかする? と言っても簡単な合成なら兎も角、本格的な合成は専門家じゃない私で何処まで出来るか……」

アイテムで人形を巨大化させる事より、人形自体に巨大化させるギミックを仕込むと言う方法にアリスは考えをシフトし始めた。
しかし、これもアリスに取っては中々に難しい方法の様である。
まぁ、今回アリスが作ろうとしている人形は何時も作っている通常用、戦闘用、弾幕ごっこ用の物とは違う人形なのだ。
作成が難しいと感じるのも無理はない。
この案もアリスを悩ませるだけだと言う事を龍也は感じ、

「後は……人形を巨大化させるって言うのからは離れるけど、最初から巨大な人形を作ると言う手段があるな」

最初から巨大な人形を作れば良いのではと言うアイディアを繰り出した。
人形を巨大化させると言う本来の目的からは外れるものの、巨大人形を作ると言う点に関しては一番現実的であるから、

「……今の所はそれが現実的かな」

取り敢えずその案で人形を作る事を決めたかの様にアリスはメモ帳を取り出し、

「巨大な人形を作るにしろ人形を巨大化させるにしろ、何か気を付ける点って在るかしら?」

通常の人形と比べて人形の巨大化、巨大人形作成の際に気を付ける点は在るかと龍也に問う。
問われた龍也は少し頭を捻らせ、

「そうだな……先ずは下半身の強化だな。大きさに比例するかの様に下半身に掛かる負担が大きくなる。だから、下半身は出来るだけ頑丈にした方が良いと思うぜ」

人形の下半身を強化する必要性が在ると話す。

「……成程、確かに下半身の強化は重要ね。巨大な人形だったら何時も使う人形の様に私が空中に浮かせ続けるの難しいでしょうし」

龍也の話を聞き、アリスは納得した表情を浮べてメモ帳にペンを走らせていく。
メモ帳にペンを走らせていくアリスを見て、

「あ、そう言えば戦闘は想定しているのか? その巨大人形って」

龍也は思い出したかの様に巨大人形は戦闘を想定して作るのかと言う疑問を投げ掛ける。
アリスの戦闘スタイルは何体もの人形を展開し、人形をメインにして戦いを繰り広げると言うもの。
となれば、龍也が投げ掛けた疑問は至極当然とも言えるだろう。
だからか、

「ええ、それも想定しているわ」

さも当然と言った表情で、アリスは戦闘行動も想定していると返す。
それを知った龍也は、

「だったら懐に入られた時の対策が必要だな。巨体って事は懐が隙に成り易いし」

懐に入られた際の対策が必要だと言い、

「例えば……腹部から攻撃が出る様にするとか、巨大な人形から小型の人形が展開出来る様にするとか、頭部から攻撃が出来る様にするとかさ」

具体的な対策案をアリスに伝える。
今、伝えた内容は即興で考えて伝えられたものなのだが、

「ふむふむ……」

アリスに取っては新鮮な内容であった様で、真剣な表情で今伝えられた内容もメモ帳に書き込んでいく。
真剣な表情を浮べながらメモ帳にペンを走らせていくアリスを見ながら、

「それと、バリアの様なのが展開出来ると言うのも良いかもな。他には……」

思い付く限りのアイディアを口にしていった。
























一通り龍也がアイディアを出し終えた後、

「……ふぅ、かなり参考になったわ。ありがとう、龍也」

アリスは満足気な表情を浮かべ、龍也に礼の言葉を掛ける。
礼の言葉を掛けられた龍也は、

「……ああ」

何とも眠そうな表情で、曖昧な返事を返す。
そんな龍也の表情を見たアリスは現在の時刻が何時であるかの気付き、

「もう日付が変わっていたわね。ごめんなさい、こんな遅くにまで付き合せて」

謝罪の言葉を述べた。
種族が魔法使いであるアリスは食事、睡眠と言ったものは不要である。
が、龍也は別。
種族が人間である龍也は食事も睡眠も必要なのだ。
と言っても、アリスは普通に食事も睡眠も取っている。
本人曰く、食事や睡眠を取った方が色々と効率が良いとの事。
それはそれとして、眠い表情を浮べている龍也ではあるが、

「いや、気にすんな。俺は世話になる立場なんだしさ」

少し意識を取り戻したかの様に、自分は世話になっている立場なのだから気にすると返す。
しかし、そう返した龍也の表情は相も変わらず眠たそうな儘であった。
だからか、

「それじゃ、部屋に案内するわね」

部屋に案内すると言ってアリスは立ち上がった。
立ち上がったアリスに続く様に、

「おーう……」

何とかと言った感じで龍也も立ち上がる。
放って置いたら途中で倒れて眠ってしまいそうであったからか、

「ほら、途中で倒れて寝たりしないでよ」

アリスは龍也の手を掴み、部屋まで案内すると言った様に足を進めて行く。
アリスに連れられる形で龍也も足を進めてから少しすると、

「はい、着いたわよ」

目的の部屋に辿り着いた。
同時に、部屋へと続くドアを開き、

「大丈夫? ベッドまで行ける?」

ベッドまで行けるかとアリスは龍也に尋ねる。
尋ねられた龍也は、

「おーう……」

力が感じられない声色で大丈夫と言い、部屋の中に入って学ランを脱ぐ。
そして、脱いだ学ランを椅子に掛け、

「おやすみー……」

就寝の言葉と共に龍也はベッドの中に入り込んだ。
取り敢えず、ベッドの中に入る込むのを見届けたからか、

「おやすみ」

アリスもおやすみと言う言葉を掛け、ドアを閉める。
ドアが閉められた事で部屋の中に殆ど光が差し込まなくなったので、龍也は直ぐに夢の世界へと旅立って行った。























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