「……んあ?」

自然な動作で目を開いた龍也の目に、天井が映った。
映った天井をボケーッとした表情で見始めてから幾らかすると、

「……ああ」

龍也は思い出す。
アリスの家に泊まった事を。

「そういや、アリスと巨大人形に付いての話を晩くまでしてたっけか」

頭を整理するかの様に龍也は寝るまでにあった事を言葉にしながらベッドから抜け出し、

「んー……」

上半身を伸ばして体を覚醒させていく。
ある程度体が覚醒した辺りで龍也は上半身を伸ばすのを止め、椅子に掛けてある学ランを着込んで部屋を後にして居間へと向かう。
そして、部屋を後にした龍也が居間に辿り着いたタイミングで、

「あら、おはよう。龍也」

テーブルの上に料理を並べているアリスが朝の挨拶の言葉を掛けて来た。
掛けられた挨拶の言葉に返すかの様に、

「ああ、おはよう」

龍也も挨拶の言葉を述べる。
その後、テーブルの上に並べられている料理に目を向け、

「お、サンドイッチか」

朝食が何であるかを確認していく。
聞こえて来た呟きで龍也の視線がテーブルの上に向いている事に気付いたアリスは、

「朝から重い物はどうかと思ったから、比較的軽い物にしたのよ」

朝食をサンドイッチにした理由を話し、

「それにしても、良いタイミングで起きて来たわね」

良いタイミングで起きて来たなと口にする。

「ん、そうか?」
「ええ、そうよ。寝るのが晩かったから朝ご飯を作る時刻をずらしたのに、丁度ご飯をテーブルに並べ始めた辺りで起きて来たじゃない」
「……何か、その言い方だと俺が食い意地を張ってる様に聞こえるんだけど」
「別にそんな積りで言った訳じゃ無いんだけど……思うところが在るの?」
「……ノーコメントで」

起きて来た龍也とテブールに朝食を並べていたアリスは軽い雑談を交わしながらそれぞれ椅子に腰を落ち着かせ、早速ご飯を食べ様とした時、

「……っと、飲み物はミルクで良いかしら?」

思い出したと言わんばかりにアリスは飲み物はミルクで良いかと問う。

「ん? ああ、それで良いぞ」
「了解」

問われた事に了承の返事を龍也がした事で、アリスは軽く指を動かす。
すると、棚の方に置かれていた何体かの人形が動き出して台所の方へと向かって行く。
人形達が台所に向かってから少しすると、人形達が協力し合うかの様にトレイを手に持って戻って来た。
戻って来た人形達はトレイの上に乗っかっているミルクが入った二つのコップをテーブルの上に置き、トレイを持って再び台所へと向かって行ってしまう。
おそらく、トレイを仕舞いに戻ったのだろう。
それはそれとして、テーブルの上にご飯が並べられた事で、

「「いただきます」」

龍也とアリスは朝食を食べ始めた。
























アリスの家で食事をし、アリスの家を後にした龍也は、

「アリスの作ったご飯、美味かったな」

アリスが作ってくれたサンドイッチに対する感想を呟きながら魔法の森を歩き回っていた。
言ってしまえば、食後の運動である。
尤も、食後の運動で魔法の森を歩き回ろうとする者はそう多くは無いであろうが。
兎も角、のんびりとした雰囲気で魔法の森を散策し始めてから少しすると、

「……ん?」

ふと、龍也は足を止めた。
何故足を止めたのか言うと、龍也の目に大きな茸が映ったからだ。
龍也を完全に覆い隠してしまう程の大きさを誇っている茸が。
普通の状況なら絶対に見る事が出来ない様な大きさの茸ではあるが、龍也の表情に驚きの感情は見られなかった。
それもそうだ。
ここ、魔法の森では巨大な茸が在っても何の不思議も無いのだから。
では、どうして龍也は不思議でも無いのに足を止めたのか。
答えは簡単。
見えている茸が只の大きな茸なのか、それとも茸に擬態した妖怪なのかが分からないからだ。
故に龍也は足を止めて巨大茸に視線を向けていたのだが、

「んー……普通の茸に見えるけどな……どうだろ?」

只の巨大茸か茸型の妖怪なのかの判別を付ける事が出来ないでいた。
暫しの間、巨大茸に視線を向けていた龍也は、

「……何時までも突っ立ってる訳にもいかねぇか」

意を決したかの様に足を動かし、移動を再開する。
そして、龍也が巨大茸の隣を通り過ぎ様としたタイミングで巨大茸から手足に目と口が生えたではないか。

「ッ!?」

突如として巨大茸が茸型の妖怪に変貌した事に少し驚きながらも茸型の妖怪の方に龍也が体を向けた瞬間、茸型の妖怪が体格の大きさを活かすかの様に襲い掛かった。
無論、襲い掛かる相手は龍也だ。
龍也と茸型の妖怪の距離はかなり近かったが、

「とお!!」

龍也は咄嗟に後ろに跳ぶ事で茸型の妖怪の攻撃を回避し、

「妖怪だったのか。全然分からんかった……」

軽い愚痴の様なもの零しながら地に足を着け、顔を上げる。
顔を上げた龍也の目には、今の攻撃を外した事など気にしていないと言わんばかりに自分の方に向かって来ている茸型の妖怪の姿が映った。
この儘何もしなければ茸型の妖怪の突撃を受ける事は必至なので、龍也は構えを取り、

「……りゃあ!!」

茸型の妖怪が自身の間合いに入ったのと同時に裏拳を放つ要領で腕を振るう。
振るわれた腕は見事と言った感じで茸型の妖怪に当たり、茸型の妖怪は砕け散りながら吹っ飛んで行った。
元が茸であるからか、耐久力自体はかなり低い様だ。

「やれやれ……」

やはり魔法の森は油断出来ない場所だなと思いながら龍也は構えを解き、再び移動を再開し様とした刹那、

「何だ、茸の欠片が無数に飛んで来たから何事かと思って来てみたら龍也だったのか」

茸型の妖怪を吹き飛ばした方向から、龍也が居て少し驚いたと言った様な発言が聞こえて来た。
聞こえて来た声に自分の名が在ったからか、龍也は自然な動作で茸型の妖怪を吹っ飛ばした方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「……魔理沙」

背負い籠を背負った魔理沙の姿が在った。
龍也が魔理沙の存在を認識したからか、

「よっ」

魔理沙は片手を上げながら龍也に近付き、

「で、何があったんだ?」

何があったのかを問う。
問われた事は別に隠して置く事でも無いので、

「ああ、実は……」

つい先程起こった事を龍也は説明し始めた。
龍也からの説明を受け、

「成程ねぇ……」

納得したと言った表情を魔理沙は浮かべ、

「確かに、茸型の妖怪が擬態してると普通の茸との見分けが殆ど付かないからなぁ……」

通常の茸と擬態した茸型の妖怪は見分けが殆ど付かないので、分からないのも無理はないと呟く。
呟かれた魔理沙の台詞から察するに、魔理沙も目視で通常の茸と茸に擬態した茸型の妖怪を見分ける事は出来ない様だ。
だが、それではある疑問が出て来る。
疑問と言うのは、魔理沙はどうやって茸を収集しているのかと言う事だ。
魔理沙は茸を媒介とした魔法を使ったり、茸を使った魔法薬を作ったりしている。
当然、それ等に使う茸は魔法の森産が殆どだ。
となると、魔理沙は何らかの方法で通常の茸と茸に擬態した茸型の妖怪を見分ける事が出来るのであろう。
流石に使う茸の全てが茸に擬態した茸型の妖怪のを使っている訳では無いであろうし。
そこまで考えた龍也は、

「何か見破るコツって無いのか?」

魔理沙に見破るコツは無いのかと尋ねる。
すると、

「ああ、それなら簡単なのが在るぜ」

シレッとした表情で魔理沙は簡単に見破れる方法が在ると言う。

「簡単なのが?」
「ああ、弾幕を掠らせるんだ」

簡単な方法が在ると言われて興味を抱いた龍也に、魔理沙は弾幕を掠らせれば良いと言う情報を伝える。
伝えられた情報を頭に入れ、

「弾幕を?」
「おう。弾幕を掠らせてると妖怪だった場合、直ぐに正体を現すぜ」

疑問気な表情を浮べてしまった龍也に、魔理沙は弾幕を掠らせたらどうなるかを教えた。
内容を纏めるに、弾幕を掠らされた事で危機感を抱いた妖怪が正体を現すと言った感じであろうか。
真偽はどうであれ、良い情報が得られたので、

「ありがとな、魔理沙」

龍也は魔理沙に礼の言葉を述べる。

「ま、良いって事よ」

礼を述べられた魔理沙は満更でも無いと言った表情を浮かべ、

「あ、そうだ。今暇か?」

思い出したかの様に今暇かと聞く。

「ああ、暇だけど」
「じゃあさ、茸狩りに付き合ってくれないか?」

暇である事を龍也が瞬時に肯定したので、魔理沙は龍也に茸狩りに付き合ってくれないかと言う事を頼む事にした。

「茸狩り?」
「ああ、そうだ。魔法の媒介、魔法薬作成用、実験用と私が色々と使う為の茸のストックが切れちゃっててさ。だから、私は茸狩りに来たんだぜ。で、だ。
一人より二人の方が大量に運べるだろ」

何で茸狩りにと言った表情を浮べた龍也に、龍也を誘った理由を魔理沙は口にする。
要するに、人手が欲しい様だ。
何やら面倒臭そうな手伝いではあるが、つい先程魔理沙には通常の茸と茸に擬態した茸型の妖怪の見分け方を教えて貰った恩があるので、

「別に良いぞ。たった今世話になったばかりだし、それ位はさせて貰うさ」

茸狩りに付き合っても構わないと返す。
龍也が茸狩りに付き合う件を直ぐに了承した事で、

「やりぃ!!」

嬉しそうな表情を魔理沙は浮かべ、

「じゃ、早速行こうぜ」

善は急げと言わんばかりに魔法の森の奥地に向かうかの様に足を進めて行く。
そんな魔理沙を追う様に、龍也も足を進めて行った。
























「この茸で良いのか?」
「ああ、それで良いぜ」











「この茸は?」
「あ、気を付けろ。その茸は衝撃を与えると爆発するぜ」
「マジ?」
「マジ」











「あれは?」
「あれは皮膚接触でも毒が回る毒茸だな。だから、あれを取る時はこの手袋を使うんだ」
「それは……ゴム手袋か? 何処に在ったんだ、そんな物?」
「香霖の所に在ったぜ」
「成程。何でも在るんだな、あそこは」











「あの見るからに毒茸っぽい茸は?」
「あれは食用茸だぜ」
「マジで?」
「マジだぜ。見た目はあんなんだけど滅茶苦茶美味しいんだぜ」
「へぇー……」











「あれは?」
「おお!! あれは実験に最適な茸だ!! ラッキーだぜ!!」
「実験に最適な茸? どう言った感じで?」
「解り易く言えば、手の加え方によって様々な性質を持つ茸に変化するんだ」
「へぇー……」
「まぁ、手の加え方を間違えたら全く使えない茸や危険な毒茸に早変わりする事もあるけどな」











「あの見るからに毒茸っぽいのは……実は食用だったりするのか?」
「いんや、只の毒茸だぜ」
「そうか……」











「あの茸は……」
「馬鹿!! それは茸型の妖怪だ!!」
「え? 妖怪?」
「私は今両手が塞がってるんだ!! 龍也が撃退してくれ!!」
「あいよ!!」
























一寸したハプニングはあったものの無事に茸狩りを終え、魔理沙の家である霧雨魔法店に戻って来ると、

「いやー、龍也が居てくれたお陰で大量に持って帰る事が出来たぜ」

魔理沙はホクホク顔で茸を大量に持って帰ってこれたと言う。
因みに、魔理沙が背負っている背負い籠には溢れんばかりの茸が入っていた。
魔理沙がホクホク顔を浮べるのも無理はない。
それはそれとして、

「おーい、早く中に入ろうぜー」

両手で数多の茸を抱えている龍也が、早く家の中に入る様にと促す。
促された魔理沙は、

「それもそうだな」

確かにと言った感じの表情を浮べながらドアノブに手を掛け、ドアを開いて家の中へと入って行く。
家の中へと入って行った魔理沙を追う様に龍也も家の中へと入り、

「で、だ。俺の持ってるこの茸は何処に置けば良いんだ?」

魔理沙に自分が持っている茸は何処に置けば良いかを問う。
問われた魔理沙は軽く周囲を見渡し、

「あー……と、そこのテーブルの上にでも置いといてくれ」

近くに在るテーブルを指でさし、そこ置いておく様にと指示を出す。

「了解」

指示を出された龍也は了解と言う返事と共に手に持っている茸をテーブルの上に置き、

「あー……疲れた」

疲れたと漏らしながら息を一つ吐き、

「にしても、落とさなくて良かった。落としたら拾うの大変だっただろうし……」

抱えていた茸を途中で落としたら大変なので落とさなくて良かったと呟く。
魔理沙の家まで抱えていた茸を落とさない様に運ぶのは、中々に神経を使う作業であった様だ。
精神的な疲れを癒すかの様に龍也が上半身を軽く動かし始めた辺りで、

「ともあれ、お疲れさん。助かったぜ」

魔理沙が労いの言葉と共に飲み物を持って来た。
少々喉が渇いている事もあり、

「ああ、サンキュ」

龍也は飲み物を受け取り、飲み物を飲んでいく。

「初めて感じる味だったけど……何だったんだ、これ?」

渡された飲み物を飲み干すと初めて感じる味だったからか、龍也は魔理沙に何の飲み物であったのかを聞く。
聞かれた事に対する答えとして、

「あ、それか。私が作ったオリジナルドリンクだぜ」

オリジナルドリンクだと言う事を魔理沙は口にし、

「龍也の感想から察するに、ちゃんと飲める味みたいだな」

飲み物を飲んだ龍也の反応からちゃんと飲める物である事を察し、安心したかの様な表情を浮べた。

「……お前、俺を実験台にしたな」
「ははは。ま、ちゃんと飲めたんだから良いだろ」

魔理沙の発言を耳に入れた龍也は実験台にされた事を理解して突っ込みを入れたが、当の魔理沙は悪びれた様子を少しも見せずに飲めたのだから良いだろうと言い、

「さて、私も飲んでみるとするか」

話を変えるかの様に作成したドリンクを飲み、

「んー……私としてはもう少し甘い方が好みだな。次は砂糖か蜂蜜でも入れてみるかな」

作成したドリンクの改善点に付いて考えいく。
相変わらずとも言える魔理沙に龍也は呆れた感情を抱きつつ、

「……まぁ、良いか。じゃ、俺はそろそろ行くかな」

魔理沙にそろそろ出発すると言う旨を伝える。
そして、

「何だ、もう行くのか。別にもっとゆっくりして行っても良いんだぜ」
「遠慮しとくよ。どうせ、これから魔法の実験をする積り何だろ? それの邪魔をするのも悪いしな」
「あ、やっぱ分かるか?」
「そりゃな。お前、茸の量が増える度にわくわくして来たって表情を浮べたからな」
「え? そうだったのか?」
「ああ、そうだったぜ」
「ううー……何か恥ずかしいぜ……」
「じゃ、今度の宴会のその事を酒の肴にでもするか?」
「おい、馬鹿やめろ!!」
「はは、冗談だよ冗談」

魔理沙と軽い雑談を交わし、

「それじゃ、またな」
「ああ、またな」

龍也は霧雨魔法店を後にした。
























幻想郷中を適当に歩き回っていた龍也は、

「ありゃ、何時の間にか紅魔館の近くにまで来てたのか」

何時の間にか紅魔館の近くにまで来ていた事に気付いた。
気の向く儘、風の向く儘と言った感じで龍也は幻想郷中を彷徨っているので紅魔館には意図して近付いたと言う訳では無い。
だが、折角紅魔館の近くにまで来ているのにこの儘立ち去ると言うのもあれだ。
なので、

「折角だ。紅魔館に寄ってくか」

龍也は紅魔館に寄って行く事を決め、進行方向を紅魔館の方に変える。
そして、紅魔館の目前にまで辿り着くと美鈴が起きている事が分かったので、

「あ、起きてたのか。美鈴」

少し驚いたと言った表情を龍也は浮べた。
まるで寝ているのが当たり前と言った様な反応を龍也が示したからか、

「いやいやいや、そんな起きてる方が珍しいみたいな顔しないでくださいよー」

心外だと言わんばかりに美鈴は両腕を大きく動かす。
大きく腕を動かしている様子が職務はちゃんと全うしていると言っている様に見えた為、

「ははは、悪い悪い」

軽い謝罪を龍也は行なう。
その時、龍也の目に紅魔館の庭先が映った。
映った庭先では、妖精メイド達が忙しそうに動き回っている。
それが少々気に掛かった龍也は、

「妖精メイド達が忙しそうに動き回っているけど、何かあるのか?」

紅魔館で何かあるのかと美鈴に問う。
問われた美鈴は両腕を振るうのを止め、

「あ、実はですね。今夜、プリズムリバー楽団のライブがここ紅魔館で開かれるのですよ」

今夜プリズムリバー楽団のライブが紅魔館で開かれる事を龍也に教え、

「それで、紅魔館の内外で飾り付けや掃除などをしているのです」

補足する様に妖精メイド達がしている仕事の説明をする。

「成程……」

美鈴からの説明を受けた龍也は納得した表情を浮かべ、良いタイミングで紅魔館に来る事が出来たなと思った。
プリズムリバー楽団のライブは是非とも聴いて行きたいものであるからだ。
なので、何とかライブを聴かせて貰える様に頼んでみるかと龍也が考え始めたタイミングで、

「あら、良い所に」

龍也と美鈴の近くに咲夜が現れた。
急に咲夜が現れた事で、

「はわあ!?」

美鈴は驚きの声を上げながら咲夜の方に体を向ける。
驚いている美鈴に、

「何を驚いてるのよ、美鈴」

何処か呆れた様な声色で咲夜は突っ込みを入れた。
突っ込みを入れられた美鈴に落ち着きを取り戻し、

「いえ、別に……」

何でも無いと返したが、

「まさか、また寝てたって事は……無いわよね? 美鈴」

そんな美鈴の挙動を不審に思った咲夜はジト目になり、再び突っ込みを入れる。
再び入れられた突っ込みに下手な発言を返したら自分の身が危なくなりそうだと言う事を美鈴は感じ取り、

「いえ、いえいえいえいえ!! 寝てません!! 寝てませんよ、私!! きっちりばっちり門番の職務を全うしてました!! そうですよね、龍也さん!?」

慌てて真面目に仕事をしていた事を主張し、龍也に同意を求めて来た。
確かに、美鈴はちゃんと起きていたので美鈴の主張は間違ってはいない。
ここで嘘を付いて美鈴を陥れる理由も無いので、

「ああ、ちゃんと起きてたぞ」

美鈴がちゃんと起きていた事を龍也は咲夜に教える。
が、美鈴の普段の勤務態度があれであるからか、

「ふーん……」

今一信じ切れないと言った視線を咲夜は美鈴に向けた。
今までのやり取りから、この儘では話が進みそうに無いと言う判断を龍也は下し、

「あー……それはそうと、良い所にってどう言う事だ?」

話を戻すかの様に良い所にとはどう言う意味なのかと聞く。
聞かれた咲夜は当初の目的を思い出したかの様に龍也の方へ体を向け、

「っと、話がずれていたわね。質問に質問で返す様で悪いんだけど、忙しそうにしている理由は知ってる?」

忙しそうにしている理由は知ってるかと言う確認を取る。

「ああ、忙しい理由なら美鈴から聞いてるぜ」
「なら話が早いわ。実はね、人手が足りないのよ」

美鈴から忙しい理由を聞いている事を龍也が伝えると、咲夜は人手が足りていないと言う事を口にした。
人手が足りないと口にされた事で、

「人手が……」

改めてと言った感じで龍也は紅魔館の庭先に視線を移す。
紅魔館の庭先では相変わらず沢山の妖精メイド達が動き回っている。
とてもじゃないが、人手が足りていない様には見えない。
だからか、

「ここから見る限りだと、人手は足りてる様に見えるけど?」

人手が足りていない様には見えないと言う疑問を咲夜に投げ掛ける。
すると、

「確かに見る限りでは人手が足りている様に見えるわ。けど、人手の粗全ては妖精メイド。妖精メイドも結構マシには成って来たけど、まだまだ手際が
悪かったり見てない所でサボろうとするのよ。だから、見た目程人手が足りていると言う訳じゃ無いの」

咲夜は妖精メイドの仕事っ振りを呟きながら溜息を一つ吐き、

「だからと言ってお嬢様に妹様、パチュリー様を働かせる訳にはいかない。それに美鈴は門番、小悪魔はパチュリー様のお付きがあるし」

自分以外に準備を行なえる者が居ないと漏らす。
妖精メイド達の仕事振りと咲夜以外に準備を行なえる者が居ない事を知った龍也は、

「成程」

人手が足りないと言う言葉の意味を理解した。
龍也の様子から、龍也が人手が足りていないと言う意味を理解した事を悟った咲夜は表情を戻し、

「だから、貴方にも準備や飾り付けなどを手伝って欲しいの。無論、それ相応のお礼はする積りよ」

改めと言った感じで龍也にも準備や飾り付けを手伝って欲しいと頼み込んだ。
態々こうやって頼み込んで来る辺り、準備などをする時間が本当にギリギリである事を龍也は何となくではあるが察し、

「別に良いぞ。手伝っても」

手伝いをしても良いと言う答えを返す。

「え、本当に手伝ってくれるの?」

直ぐに手伝ってくれると言う答えを出してくれた龍也に咲夜が思わず本当に手伝ってくれるのかと返した瞬間、

「ああ、良くここで飯を食わせて貰ったり寝床を貸して貰ったり本を読ませて貰ったりしてるからな。それ位はさせて貰うさ。あ、お礼はプリズムリバー楽団の
ライブを俺にも聴かせてくれよ」

色々と世話になってるのでこの程度の事はすると言い、お礼として自分にもライブを聴かせて欲しいと言う要求をした。
龍也がした要求は予想の範囲内であったからか、

「了解。その件はお嬢様に伝えて置くわ」

龍也の頼みを咲夜は快く受け入れ、

「それじゃ、付いて来て」

龍也に背を向け、紅魔館の方へと足を進めて行く。
足を進め始めた咲夜を見た龍也は顔を美鈴の方に向け、

「じゃ、俺は行くけど美鈴も寝ない様に門番してろよ」
「だから、私は何時も真面目に門番をしてますよー!!」

美鈴と軽い会話を交わし、咲夜の後を追う様に足を動かして行った。
























紅魔館の中に入って少し経つと、咲夜はある部屋の前で立ち止まり、

「それじゃ、先ずはこれに着替えて」

何処からとも無く執事服を取り出し、龍也に執事服を着る様に言う。

「執事服か?」
「ええ、そうよ。一応は紅魔館で働くのだからそれなりの格好をして貰わないとね」

執事服を着る様に言われた龍也が疑問気な表情を浮べると、一応は紅魔館で働くのだから執事服を着る必要性が在る事を咲夜は述べ、

「それに……」

意味有り気な視線を龍也に向ける。

「……ん? どうかしたのか?」

咲夜からの視線に気付いた龍也がどうかしたのかと問うと、

「貴方が着ている服、結構汚れているわよ」

咲夜は龍也の服が汚れている事を指摘する。
そう指摘された龍也は視線を落として自分の学ラン、ワイシャツ、ズボンを観察していき、

「あ……」

気付いた。
着ている服が結構汚れている事に。
何時の間にここまで汚れたんだと思っている龍也に、

「どうせ、碌に洗濯とかしてなかったんでしょ?」

どうせ碌に洗濯をしていなかったのだろうと言う突っ込みを入れる。
入れられた突っ込みは的を射ていたからか、

「あー……ここ最近は水洗いとかせずに払い落とすだけだったからなぁ……」

頬を掻きながら視線を明後日の方向に向けた。
自身が行なった指摘が正しかった事を知った咲夜は呆れた表情を浮かべ、

「全く、洗濯位は定期的にしなさい」

洗濯位は定期的にしろと言う注意をし、

「っと、余り話し込む訳にもいかないわね。さっさと着替えて来なさい。それと、貴方が今着ている服は後で私が洗濯して置くわ」

執事服を龍也に押し付けながらさっさと着替える様に指示を出し、今龍也が着ている服は後で洗って置くと口にする。
汚れた衣服を洗ってくれるのであれば龍也としても大助かりなので、

「洗ってくれるのか、助かるぜ」

助かると呟きながら執事服を受け取り、

「じゃ、着替えるか」

着替える為に部屋の中へと入って行った。
それから少しすると着替え終わった龍也が部屋の中から出て来て、

「んー……やっぱりこう言った物は着慣れないな……」

こう言った服は着慣れていないと言った愚痴を零す。
が、そんな愚痴を無視するかの様に咲夜は龍也の執事服姿を観察し、

「あら、意外と似合ってるじゃない」

意外と似合っていると言う感想を漏らした。
似合っていると言う感想が耳に入った龍也は、

「そうか?」

疑問気な表情を浮べながら視線を落とし、自分が着ている執事服を目に入れる。
龍也本人としては余り似合っている様には思えないが、他の者が見たら似合っている様に見えるのだろうか。
と言ったどうでも良い事を龍也が考えている間に、

「取り敢えず、貴方の服を渡して頂戴」

元々着ていた服を自分に渡す様に咲夜は言って来た。
咲夜の発言で龍也は意識を戻し、脱いだ衣服を咲夜に渡す。
渡された衣服を受け取った咲夜は何かを思い出したかの様な表情を浮かべ、

「あ、そうそう。ポケットの中の物は全部出したかしら?」

受け取った衣服のポケットの中に入っていた物は全部出したかと問う。

「ああ、全部こっちに移したよ。」
「そう、なら良いわ。で、貴方にして貰いたい事だけど……」

問われた事を龍也が肯定すると、早速と言わんばかりに咲夜はある場所に向けて指をさし、

「先ず、ここから端までの窓拭き。その後に廊下の雑巾掛けをお願いね」

龍也にやって欲しい仕事の内容を伝える。
伝えられた内容を頭に入れた龍也は咲夜が指をさした方向に顔を向け、

「おおう……」

何とも言えない表情を浮かべた。
何故ならば、廊下の端が全く見えないからだ。
これは骨だと龍也が思い始めた時、

「ここが終わったら、外の手伝いもお願いね」

追加と言わんばかりに内部が終わったら外の手伝いもしてくれと言う要求を咲夜からお願いされてしまった。
中々のハードスケジュールではあるが、一度やると言ったのだ。
やると言った以上、今更撤回など出来る訳も無いので、

「あいよ、任せとけ」

任せとけと言う言葉を龍也は咲夜に返した。
妖精メイドと違って龍也になら安心して仕事を任せられるから、

「それじゃ、宜しくね」

何処か安堵した様な表情を咲夜は浮かべ、宜しくと言う言葉を残して姿を消した。
序に、今まで自分が居た場所にバケツと雑巾を残して。
確りと掃除道具を置いて行く辺り、流石は完全で瀟洒な従者と言ったところか。
ともあれ、さっさと掃除を始めなければプリズムリバー楽団のライブ開催にまで間に合わないので、

「それじゃ、やるか」

今直ぐにでも掃除を始める為に龍也は自身の力を変える。
青龍の力へと。
力の変換に伴い、瞳の色が黒から蒼に変わると、

「よ……っと」

龍也は掌をバケツに向け、掌から水を放つ。
放った水がバケツを満たしたタイミングで龍也は水を放つのを止め、雑巾を手に取る。
そして、手に取った雑巾を水に付けて絞った後、

「……さて、始めますか」

窓拭きを始め、

「しっかし、窓拭き何て何時以来だ? 少なくとも、学校での大掃除以来だよな」

窓を拭くと言う行為は久し振りだと呟く。
まぁ、龍也は幻想郷中を自分の足で旅をしている身。
窓拭きは勿論、掃除をする事だって滅多に無いだろう。
兎も角、窓を拭きながら少々懐かしい気分に浸っていた龍也ではあったが、

「……っと、モタモタしてる暇はないか。さっさとやらないと日が暮れるな、この距離じゃ」

この儘懐かしい気分に浸っていては終わるものも終わらなくなってしまうので、龍也は気持ちを入れ替えるかの様にペースアップを始めた。
























指定された窓を全て拭き終えた龍也は、

「……思ってたよりも時間が掛かったな」

思っていたよりも時間が掛かったと呟きながら、窓から見える外の景色に目を向ける。
目を向けた外の景色は良い天気と言える様なものであるが、龍也が紅魔館に来た時と比べて太陽の位置が大きく動いている事が分かった。
まだまだプリズムリバー楽団のライブが始まるまで時間は在るが、油断していたら直ぐに太陽は姿を隠してしまう事であろう。
だからか、

「よし、さっさと廊下の雑巾掛けもするか」

休憩を挟む事無く雑巾掛けをする事を龍也は決め、窓拭きで移動する際に一緒に持って来たバケツに目を向ける。
バケツの中に入っている水はまだまだ十二分に綺麗だ。
これならば水を入れ替える必要は無いであろう。
余計な手間が省けたと龍也は思いながらバケツの中に雑巾を入れ、水で濡れた雑巾を絞り、

「さて……とっと」

自身の力を変える。
青龍の力から白虎の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色が蒼から翠へと変わった。
何故、自身の力を変えたのか。
答えは簡単。
基本スピードを大きく上げ、雑巾掛けを早く終わらせる為だ。
紅魔館の廊下は縦は勿論横も意外と長いので、雑巾掛けをするのであれば何往復もする必要が出て来る。
なので、基本スビードを大きく上げる為に自身の力を白虎の力に変えた龍也の判断は中々理に適っているだろう。

「よし……」

準備が整った事で、体を屈めて早速雑巾掛けを開始し様とした瞬間、

「あ……」

龍也はある事に気付いた。
気付いた事と言うのは、雑巾の汚れをどうするかと言う事だ。
窓硝子自体は大して汚れてはいなかったのでバケツの中の水も綺麗な状態を保っていられたが、床の雑巾掛けともなれば話は別。
多くの者が靴を履いた儘の状態で行き来している床を雑巾掛けすれば、直ぐに雑巾は汚れてしまうだろう。
そして、汚れた雑巾で雑巾掛けをすれば汚れが広がるのは必至。
となれば、途中途中で雑巾を洗い直さなければ成らないのだが、

「どうやって、雑巾を綺麗にするべきだ……?」

どうやって汚れた雑巾を綺麗にするかと言う問題が在る。
はっきり言って雑巾が汚れたらバケツが置いて在る場所に戻り、雑巾を綺麗にしたら雑巾掛けを中断した所に戻って雑巾掛けを再開では効率が悪い。
いや、悪過ぎると言っても良い。
一応、バケツを一緒に持って雑巾掛けをすると言う方法も在るが、

「それやったら絶対バケツの中の水、零れるよなぁ……」

そんな方法を取ったら確実にバケツの中の水がばら撒かれるであろう。
そうなったら最後、余計な仕事が増えるだけ。
故に、龍也は頭を回転させ始めた。
何か良い方法は無いかと。
その結果、

「あ……」

ある方法が龍也の思い浮かんだ。
思い浮かんだ方法と言うのは、途中で自身の力を変えると言う方法だ。
どう言う事かと言うと、雑巾が汚れ始めたら青龍の力に変える。
変えた力で汚れた雑巾を綺麗にした後、自身の力を再び白虎の力に戻して雑巾掛けを再開。
これを雑巾掛けを完了させるまで繰り返すと言うのが思い付いた方法である。
正直に言って中々に面倒な方法ではあるがこれ以外に良い方法が思い付かなかったので、龍也は決意を固めたかの様な表情を浮かべ、

「よーい……ドン!!」

雑巾掛けを開始した。
























「あー……疲れた」

雑巾掛けを終えた龍也は疲れを吐き出すかの様に息を一つ吐き、自身の力を変える。
白虎の力から青龍の力へと。
力の変換に伴い、瞳の色が翠から蒼へと変わったのと同時に、

「よっと……」

雑巾を持っている手から水を生み出し、生み出した水で雑巾を包む。
そして、雑巾から手を離して雑巾を生み出した水の中に完全に入れ、

「さて……」

生み出した水の内部を乱回転させるかの様に動かす。
すると、水の中に入っている雑巾が滅茶苦茶に動き回り始めた。
それから少し時間が経った辺りで龍也は水を乱回転させるのを止め、生み出していた水を消す。
生み出されていた水が消えた事で水の中に入っていた雑巾は龍也の手に落ち、

「……良し、綺麗に成ってる」

落ちて来た雑巾が綺麗に成っている事を確認出来たからか、軽い笑みを浮かべる。
その後、バケツの方に手を向けてバケツの中に入っている水を浮かび上がらせ、

「バケツがある場所にまで戻って来た時はバケツの中の水で洗ってたからか、やっぱ結構汚れてるな」

バケツの中の水の汚れ具合に少し驚くも、直ぐに浮かび上がらせた水を消した。
窓拭きに雑巾掛けを終わらせ、汚れた雑巾を綺麗にしてバケツの中の水も処理出来たので、

「ふぅ……」

龍也は一息吐きながら自身の力を消す。
力を消し、瞳の色が蒼から元の黒に戻ったタイミングで、

「んー……力を短い頻度で頻繁に切り替えてたからか、変な疲労感が在るな……」

掃除で体を動かした際の疲労感とは別の疲労感が在る事を龍也は感じ取った。
感じ取った疲労感を力を短い時間で頻繁に切り替えたせいであると龍也は考え、

「出来る限り、力を短い頻度で頻繁に切り替える事は避けた方が良さそうだな」

今後、力を短い頻度で頻繁に切り替える事は出来る限り避けると言う事を決め、

「っと、今何時位だ?」

手に持っている雑巾を空になったバケツの中に入れて窓から外の景色に目を向ける。
目を向けた外の景色は、赤みが掛かっていた。
どうやら、もう日が暮れ始めた様だ。
取り敢えず、バケツと雑巾を適当な部屋に置いてから外の手伝いに向かおうと言う予定を龍也が立てたタイミングで、

「龍也」

誰かが龍也の名を呼んで来た。
呼ばれた名に反応した龍也はバケツと雑巾を運ぼうとしていた事を中断し、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には、

「レミリア」

レミリアの姿が龍也の目に映った。
周囲には自分とレミリア以外の者が居ないので、声を掛けて来た者がレミリアであると龍也が判断した時、

「執事服、似合ってるじゃない」

執事服姿を褒める言葉をレミリアは述べる。
咲夜に続いてレミリアにも執事服姿を褒められた龍也ではあったが、

「そうか?」

自分では似合っているとは今一思えなかったので視線を落とし、改めてと言った感じで自分の執事服姿を観察していく。
そんな龍也を見ながら、

「ええ、良く似合ってるわ。何時私のものにして私専属の執事長にしても良い位にね」

何時でも自分のものにし、自分専属の執事長にしても良い位には似合っているとレミリアは口にする。

「……ん? お前専属って、咲夜が居るだろ」

レミリアが口にした中に気になった部分が在ったので、龍也はその事に付いて聞いてみる事にした。
聞かれた事に、

「あら、メイドと執事の二人を自分の専属にするって言うのは中々に素敵じゃない?」

メイドと執事の二人を自分の専属にするのは中々に素敵だろうとレミリアは言い、

「で、どう? 龍也、私のものにならない?」

龍也に自分のものにならないかと問う。
問われた龍也は、

「悪いが断る」
「あら、それは残念」

お約束とも言えるやり取りをレミリアと交わす。
その後、

「それにしても、咲夜と妖精メイド達だけじゃ準備が間に合わないのかしら?」

咲夜と妖精メイド達だけでは準備が間に合わないのかと言う疑問をレミリアは呟いた。
確かに、人手と言う点なら十二分に足りているであろう。
咲夜は一人しか居ないが、妖精メイドは大量の居るのだから。
だと言うのに、龍也にまで手伝わせた理由が解らないと言った表情を浮べているレミリアに、

「何でも、妖精メイド達は大して役に立って無いって話らしいぞ」

こうやって自分が手伝いをしている理由を龍也は簡潔に話す。
龍也からの話しを頭に入れたレミリアは何か考える様な仕草を取り、

「妖精メイドの教育方針、本気で考えた方が良いかしら?」

妖精メイドの教育方針を本気で考えた方が良いかと思案し始めた。

「そうしとけ。咲夜の負担が溜まらない内にな」
「そうしとくわ。それはそれとして……」

思案し始めた事に龍也が賛成の意を示した事で、レミリアは本格的に妖精メイドの教育方針に付いて考える事を決めながら懐に手を入れ、

「はい、これを貴方に渡して置くわ」

ある物を掴みながら懐から手を出し、掴んだ物を龍也に手渡す。
手渡された物を見て、

「これは……チケットか?」

レミリアが手渡して来た物がチケットである事に龍也が気付くと、

「そ、プリズムリバー楽団のね」

補足する様にチケットはプリズムリバー楽団の物である事を説明し、

「ま、報酬としては安いかもしれないけど受け取って置きなさい」

報酬としては安いかもしれないが受け取って置け言う。
元々プリズムリバー楽団のライブを聴いて行く事が手伝いをしていた目的でもあったので、

「サンキュ」

龍也は礼の言葉を口にしながらチケットを受け取り、受け取ったチケットを懐に仕舞う。
そして、

「……っと、俺はこれから外の手伝いに行かなきゃならないけどお前はどうする?」

レミリアに今後の予定を尋ねる。

「ふむ……外はまだ日が出ている事だし……私はパチェの所にでも行っていましょうか」

尋ねた事にパチュリーの所に行くと返されたので、

「そっか。それじゃ、また後でな」
「ええ、また後でね」

軽い挨拶をレミリアと交わし、龍也は雑巾とバケツを手に持って移動を始めた。
雑巾とバケツを適当な部屋に置き、外の手伝いに向かう為に。
























龍也が紅魔館内部の掃除をしている間に外の準備は結構進んでいた様で、外の準備は然程時間を掛けずに終わらせる事が出来た。
それだけ、咲夜が頻繁に外へと顔を出していたのであろうか。
兎も角、準備を終わらせる事が出来たので龍也が固まった体を解すかの様に軽く上半身を伸ばしていると、

「お疲れ様」

龍也の隣に咲夜が音も無く現れ、労いの言葉を掛けて来た。

「っと、咲夜か。どうしたんだ?」

行き成り現れた咲夜に少し驚くも、龍也はどうしたんだと問う。
問われた咲夜は、

「もう全ての準備が終わったから、後は好きにして良いって言いに来たのよ」

全ての準備が終わったのでもう好きにして良いと言いに来たのだと口にする。

「そうか」

やるべき事が終わったのを知った龍也は上半身を伸ばすのを止め、

「じゃ、俺はお役御免って事だな」

自分はもうお役御免だろうと聞く。

「ええ、そうなるわね」

聞かれた事を咲夜は肯定し、

「ともあれ、お陰で助かったわ。ありがとね、龍也」

手伝ってくれた事に対する礼を述べる。
述べられた礼に、

「どういたしまして」

どういたしましてと龍也は返し、

「……っと、そうだ。ライブは外でやるのか?」

思い出したかの様にライブを開く場所に付いての確認を取りに掛かる。

「ええ、そうよ。お嬢様が野外ライブを御所望したからね」
「了解。じゃ、俺はライブが始まるまで適当に歩き回っているけどお前はどうする?」
「そうね……取り敢えず、お嬢様に準備が終わった事をお伝えしに行こうかしら」
「レミリアだったら、パチュリーの所に居ると思うぞ」
「パチュリー様の所……なら、図書館ね。情報、ありがと」
「何、気にすんな」

ライブ場所の確認が取れた後、龍也は咲夜と軽い雑談を交わし、

「それじゃ、またな」
「ええ、またね」

咲夜と別れ、ライブが開かれる紅魔館の庭先を適当に歩き回る事にした。
























紅魔館の庭先をある程度散策した龍也は、

「ライブが終わった後、ここで宴会……てかパーティでも開くのかね?」

ライブの後にパーティでも開くのかと言う推察を行なう。
何故そう言った推察をしたのかと言うと、紅魔館の庭先には幾つものテーブルが置かれていたからだ。
おそらく、ライブが終わった後に料理がテーブルの上に並べられる事であろう。
今から出される料理が楽しみだと言った表情を龍也が浮べながら足を動かしていると、

「あいつ等は……」

龍也の目にある人物が映った。
映った人物はルナサ、メルラン、リリカのプリズムリバー三姉妹である。
折角見掛けたと言う事もあってか、龍也はプリズムリバー三姉妹に近付き、

「よう」

声を掛けた。
掛けられた声に反応したルナサ、メルラン、リリカの三人は顔を上げ、

「あ、龍也」

三姉妹を代表するかの様にルナサが龍也の呼ぶ。
それでプリズムリバー三姉妹が自分の存在を認識したのだと判断した龍也は、

「よ、何してたんだ?」

何してたんだと問う。
問われた事に、

「本番前のリハーサルよ。楽器の調子の確認も兼ねてね」
「余り音を出さない様にだけどねー。それが一寸不満」

ルナサとメルランの二人が本番前のリハーサルをしていたと言う答えを述べた時、

「それはそうと、龍也は何でそんな格好をしてるの? 転職?」

リリカから龍也の格好に関する突っ込みが入った。
リリカの突っ込みで未だ執事服の格好である事を龍也は思い出し、

「いんや、一寸ここで軽いバイトをしてたんだ」

転職ではなく軽いバイトをしていた事を話す。
取り敢えず、龍也が執事服を着ている理由を知れた事で、

「ふーん……」

ルナサは納得したと言った表情を浮かべ、

「それはそうと、ライブ。龍也も聴いてくの?」

龍也もライブを聴いていくのかと尋ねる。

「ああ、その積りだ」

尋ねた事に龍也から肯定の返事が返って来たからか、

「なら楽しみにしててー。新曲が沢山在るからー」
「そうそう、まだ何処にも披露していないものよ。楽しみにしてなさい」

メルランとリリカがまだ何処にも披露していない新曲が多数在るので楽しみにする様に言って来た。
まだ何処にも披露していない新曲に心惹かれた龍也は、

「なら、楽しみにさせて貰うぜ」

楽しみにさせて貰うと口にし、

「じゃ、リハーサルの邪魔をするのも悪いから俺はもう行くな」

プリズムリバー三姉妹と別れて再び紅魔館の庭先の散策を再開し始める。
散策を再開してから幾らかすると、まだ空に見えていた太陽が完全に姿を隠してしまっていた。
と言う事は、そろそろプリズムリバー楽団のライブが始まるのかもしれない。
そう考えた龍也が何処かに腰を落ち着かせ様かと考えた瞬間、

「龍ー也ー!!!!」

フランドールが龍也に向けて飛び込んで来た。
フランドールの接近に気付いた龍也は慌ててフランドールの方に体を向け、

「うおう!?」

飛び込んで来たフランンドールを抱き止める。
が、飛び込んで来たフランドールの勢いが強過ぎた為、

「と……おお!?」

少し地面を削りながら強制的に後ろに下がらされてしまった。
ともあれ、何とかフランドールを抱き止められて一安心と言った表情を浮べている龍也に、

「もう!! 来てるなら来てるって言ってよ、龍也!!」

フランドールが文句の言葉を掛ける。
どうやら、紅魔館に来ていたと言う事を自分に教えなかったのがフランドールには不満である様だ。
ここで下手な事を言ってフランドールの怒りを買うのもあれなので、

「あー……悪い、悪かったって」

龍也は謝罪の言葉を述べながら抱き止めているフランドールを地面に下ろす。
そのタイミングで、

「こんばんは、龍也」
「こんばんはです、龍也さん」

パチュリーと小悪魔の二人が現れ、挨拶の言葉を掛けて来た。
掛けられた挨拶の言葉に反応した龍也は二人の方に体を向け、

「ああ、こんばんは」

挨拶の言葉を返す。
すると、パチュリーは龍也の姿を観察し、

「レミィが言った通り、似合ってるじゃない。その執事服姿」

執事服姿が似合っていると言う言葉を掛ける。
咲夜、レミリアに続いてパチュリーにも執事服姿を褒められた龍也ではあったが、

「そんなに似合ってるか? こう言った格好は着慣れていないんだけどな……」

自分では今一似合っているとは思えなかったので、つい疑問気な表情を浮べてしまう。
そんな龍也に向け、

「ええ、似合ってるわよ」
「お似合いですよ、龍也さん」

パチュリーだけではなく小悪魔からも龍也の執事服姿を褒める発言を掛けられた。
こう何度も執事服姿が似合っていると言われたからか、若しかしたら本当に似合っているのではないかと龍也が思い始めた時、

「ね、ね、龍也」

龍也の服の裾をフランドールが引っ張り、

「私、あっちの方に行ってみたい」

あっちの方に行ってみたいと言いながらある方向に向けて指をさす。
指をさされた方向には大きなステージにが在った。
更に言えば、ステージの方には幾らかの人だかりも見える。
そろそろライブが始まる頃なのだろうか。
ならば、フランドールが指をさした方向に向かうのは中々に良いタイミグなので、

「んじゃ、行くか」

龍也はステージ方に向かう事を決める。
だからか、

「うん!!」

嬉しそうな表情をフランドールは浮べ、早く行く様に龍也の手を取って急かし始めた。

「分かった、分かったって」

フランドールに急かされている龍也は分かったと言いながらパチュリー、小悪魔の方に顔を向け、

「それじゃ、また後でな」

別れの挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉に、

「ええ、また後でね」
「妹様の事、宜しくお願いしますねー」

パチュリーと小悪魔はそう返し、何処かへと向かって行った。
それはそれとして、龍也とフランドールの二人がステージ方に向かってから少しすると、

「それじゃ、プリズムリバー楽団のライブを始めるよー!!」

ステージの方からライブを始めると言う声が響き渡る。
響き渡った声でライブが始まる事を知った龍也は、

「じゃ、ここでライブを聴こうぜ」

フランドールにこの場に留まってライブを聴こうと言う提案を行なう。

「うん!!」

龍也からの提案をフランドールは受け入れ、ステージの方に目を向ける。
こうして、龍也はフランドールと一緒にプリズムリバー楽団のライブに耳を傾けていった。























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