「……ふあ?」
ふと、目を覚ました龍也は上半身を起こして周囲を見渡していく。
周囲を見渡した結果、今居る場所が何処かの部屋の中のある事が分かり、
「……ああ」
同時に思い出す。
プリズムリバー楽団のライブが終わった後にパーティが開かれ、パーティが終わると後片付けを手伝ってから紅魔館に泊まった事を。
「にしても、良く寝てた気がするなぁ……。かなり晩くまで後片付けをしてたから当然と言えば当然か」
良く寝たと言う感想を呟きながらベッドから降り、上半身を伸ばしていると、
「ん……?」
白い布が被さったバスケットが近くのテーブルの上に乗っかているのが龍也の目に映った。
目に映ったバスケットに興味を惹かれた龍也は上半身を伸ばすの止めてテーブルに近付き、
「よっと」
バスケットに被さっている布を取っ払う。
布を取っ払ったバスケットの中には、沢山のサンドイッチが敷き詰められていた。
おそらく、龍也のご飯として咲夜が持って来てくれたものだろう。
態々ご飯を持って来てくれた咲夜に龍也は感謝の念を抱きつつ、
「いったっだきまーす」
早速と言わんばかりにサンドイッチを食べ始めた。
どうやら、起きたばかりと言う事で龍也は腹を空かしていた様だ。
腹の中に食べ物を入れる事が最優先と言わんばかりの勢いでサンドイッチを食べつつ、椅子に腰を落ち着かせ様とした時、
「……ん?」
椅子の上に自分の衣服が畳まれた状態で乗っかっている事に龍也は気付く。
乗っかっている衣服を見るに、咲夜はご飯と一緒に洗濯した龍也の衣服も届けてくれた様である。
洗濯された衣服は畳まれているので全てを見る事は出来ないが、見えている部分は新品同然の様な状態だ。
一日足らずで結構汚れていた衣服を新品同然の様な状態にする辺り、流石は咲夜と言ったところか。
ともあれ、自分の衣服を綺麗に洗濯してくれた咲夜に龍也は再び感謝の念を抱きながら今後の予定を立てていく。
予定と言っても、食事を終えたら着替えて旅を再開する程度のものだが。
そんな予定を立てながら、龍也はサンドイッチを食べ続けていった。
食事を終え、執事服から何時もの服装に着替えた龍也は紅魔館の外に出て、
「んー……良い天気だ」
上半身を伸ばしながら良い天気だと呟きながら思う。
絶好の旅日和だと。
因みに、今日紅魔館を出る事はプリズムリバー楽団のライブが終わった後に紅魔館の面々には伝えて置いたので気兼ね無く出発する事が出来る。
それはそうと、降り注ぐ日光を満喫するかの様に上半身を伸ばしている龍也に、
「残念ね。有能な執事が居なくなってしまうわ」
何者かが龍也に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也が少し慌てた動作で体を後ろに向けると、
「咲夜」
咲夜の姿が龍也の目に映る。
どうやら、龍也に声を掛けて来た者は咲夜であった様だ。
咲夜が自分の背後に回った事に全く気付けなかった事から、龍也は時間を止めてやって来たのだろうと推察しつつ、
「執事になった積りは無いけどな」
執事になった積りは無いと返す。
執事を続ける気は無いと言う意思を龍也が示した為、
「あら、それは残念。龍也が居てくれたら私も結構楽が出来るんだけどね」
咲夜は少し残念そうな表情を浮べてしまう。
まぁ、紅魔館の雑事などを殆ど一人で行なっている咲夜の大変さの片鱗位は理解出来ていたからか、
「また人手が足りない時に紅魔館に来たら手伝い位はしてやるよ」
忙しそうにしていたらまた手伝い位はすると言う様な約束を龍也はする。
取り敢えず、また手伝ってくれると言う約束を龍也がしてくれたので、
「あら、それはありがとう」
礼の言葉を咲夜は述べた。
咲夜からの礼を受けた龍也は、
「紅魔館に泊まる時は何時も世話になってるからな。気にするな」
紅魔館に泊まる時は何時も世話になっているのだから気にするならと言う。
そして、
「それじゃ、またな」
別れの言葉を掛けて龍也が紅魔館を後にし様とした時、
「あ、そうそう」
何かを思い出したかの様な表情を咲夜は浮べた。
急にその様な表情を浮べられた事が気に掛かった龍也は踏み止まるかの様に動きを止め、
「ん? どうした?」
どうしたのかと問う。
問われた咲夜は懐からスペルカードを取り出し、
「実は新しいスペルカードを作ったのだけど、テストがまだなのよ。だから、それのテストをしたいのだけど……お相手願えるかしら?」
新しく作ったスペルカードのテストをしたいから相手をしてくれないかと言う頼みを口にした。
何故自分にと言う疑問が龍也の頭に一瞬過ぎったが、直ぐにある事を理解する。
咲夜の立場上、紅魔館の面々に新技などのテスト相手を気軽にしてくれと頼める相手が居ないと言う事を。
紅魔館の主であるレミリア、その妹であるフランドールは言わずもがな。
パチュリーはレミリアの親友で紅魔館の客分、小悪魔はパチュリーの御付の仕事がある。
かと言って門番の職務が在る美鈴にテストの相手を頼むのはあれであるし、妖精メイドの実力ではテストにならない。
となれば、テストの相手としては紅魔館外の者が適役だろう。
咲夜が自分にテスト相手を頼んで来た理由に付いて龍也は色々と考えたが、どんな理由で咲夜がテストの相手を自分に頼んで来ようが龍也の答えは決まっている。
答えと言うのは、
「構わないぜ」
テストに付き合うと言うもの。
食後の運動をしたかった龍也に取って、新スペルカードのテスト相手はある意味渡りに舟だったのだ。
兎も角、自分のテストに付き合ってくれると言う返事をしてくれた龍也に、
「ありがと」
咲夜は軽い礼の言葉を述べる。
礼の言葉を受けた龍也は後ろに跳んで間合いを取り、
「じゃ、早速やるか?」
早速始めるかと聞く。
「そうね……」
聞かれた咲夜は少し考える素振りを見せ、
「行き成り始めるというのは少し芸が無いし……先ずは軽い準備運動から始めましょうか」
行き成り始めるのもあれなので、軽い準備運動から始め様と言ってスペルカードを懐に仕舞って構えを取る。
構えを取った咲夜に呼応するかの様に龍也も構えを取ると、咲夜は太腿に装備しているナイフを一本手に取り、
「じゃ……いくわよ」
挨拶代わりだと言う様にナイフを一本投擲した。
投擲されたナイフを避ける為に龍也が回避行動を取ったのと同時に、
「しっ!!」
龍也の直ぐ傍にまで迫って来ていた咲夜が蹴りを放つ。
ナイフを気を取られていたせいで反応が遅れてしまったものの、
「ッ!!」
何とかと言った感じで放たれた蹴りを龍也は己が腕で受け止める。
「流石ね。上手くナイフで気を引けたと思ったのだけど」
放った蹴りを上手く防いだ龍也に咲夜が称賛の言葉を掛けると、
「そいつは……どうも!!」
どうもと返しながら龍也は空いている手で蹴りを放っている咲夜の足を掴み、
「そら!!」
体を回転させながら後ろ斜め上空へと投げ飛ばす。
投げ飛ばされた咲夜は空中で体を回転させながら体勢を立て直し、何本かのナイフを龍也に向けて投擲する。
再び投擲されたナイフを避ける為に龍也が数歩後ろに下がっている間に咲夜は地に足を着け、地を蹴って龍也に近付いて行く。
その過程で地面に突き刺さっているナイフを一本引き抜き、
「しっ!!」
引き抜いたナイフで斬撃を放つ。
「っと!!」
放たれた斬撃を避ける為に龍也が体を傾けると、それを合図にしたかの様に咲夜はナイフによる斬撃を連続で繰り出した。
次々と繰り出される斬撃を後ろに下がり、体を逸らしながら龍也は避けて行く。
だが、この儘後ろに下がって行っては壁際に追い込まれてしまうので、
「ッ!!」
龍也は一度大きく後ろに下がって跳躍を行ない、咲夜を飛び越えて反対側へと降り立って振り返る。
振り返った先に居る咲夜は、既に龍也の方に体を向けていた。
お互い見詰め合う様な形になってから少し時間が過ぎた頃、
「……準備運動はこれ位で良いでしょう」
準備運動はこれ位で良いだろうと咲夜は呟いてナイフを仕舞い、懐からスペルカードを取り出す。
咲夜が取り出したスペルカードを見て、あれがテストをしたいと言っていたスペルカードかと考えた龍也は、
「……………………………………………………」
少し警戒した表情を浮べながら構えを取り直した。
対する咲夜は取り出したスペルカードを龍也に見せびらかす様に構え、
「時符『プライベートスクウェア』」
スペルカードを発動させる。
が、
「……?」
何も起こらなかった。
スペルカードが発動した場合、弾幕が放たれたり技が放たれたりと言った何かしらの攻撃が行なわれるのが殆どだ。
だと言うのに、何も起こらない。
そんな現状に龍也が疑問を覚えた刹那、咲夜は動き始めた。
「なっ!?」
動き始めた咲夜を見た龍也は、驚きの表情を浮べてしまう。
何故ならば、動いている咲夜のスピードが余りにも速過ぎたからだ。
だからと言って、何時までも驚いてはいられない。
もう、目の前にまで咲夜が迫って来ていたのだから。
「ッ!!」
近付いて来ている事すら全く感知出来なかった事に龍也は驚くも、反射的に拳を放つ。
しかし、拳を放った時には既に咲夜の姿は目の前には無く、
「後ろ、取ったわよ」
姿が見え無くなった咲夜は龍也の背後に現れた。
龍也の首元にナイフを翳しながら。
少しでも動けば首をナイフで斬られてしまう様な状況下であったが、
「……何したんだ? 今」
特に気にした様子を龍也は見せず、今何をしたんだと咲夜に尋ねる。
尋ねられた咲夜は何処か楽し気な表情を浮かべ、
「ふふ……当ててみて?」
若干色っぽさが感じられる声色で当ててみろと言う。
そう言われた龍也は少し頭を回転させ、
「……自身の肉体を強化した?」
肉体強化をしたのではと言う考えを述べると、
「外れ」
外れと言う言葉が咲夜の口から紡がれた。
と言う事は、咲夜は肉体強化以外であのスピードを手にした事になる。
ではどうやってと言う疑問が頭に過ぎ様とした時、龍也は咲夜の能力を思い出す。
咲夜の能力は"時間を操る程度の能力"。
ならば、あのスピードは時間を操った事で出せたものではないかと龍也は推察する。
かと言っても時間を止め、止まった時間の中を動いていたと言う感じでは無かったので、
「……自分以外の時間の流れを減速させた?」
自分以外の時間を流れを減速させたから超スピードで動けたのではと言う答えを龍也が推察から導き出した時、
「正解」
正解と言う言葉と共に咲夜は龍也の首元からナイフを離す。
どうやら、自分以外の時間を減速させたと言う答えで合っていた様だ。
「てか、時間を止められるのは知ってたけど減速とかも出来たんだな」
「ええ。私は時間の停止、減速、加速、そして一寸した空間操作が出来るわ」
時間停止以外にも時間の減速が出来る事を知って驚いたと言った表情を浮べた龍也が咲夜の方に顔を向けると、咲夜は自分が出来る事を龍也に教え、
「普段は時間を減速させて食料を保存したり、逆に加速させて年代物のワインを作ったりしてるのよ。空間操作に関しては、紅魔館内部を広げるのに使っているわね」
補足するかの様に時間の減速と加速、及び空間操作を普段どの様にして使っているのかを伝えてナイフを仕舞う。
「はー……相変わらず便利だな、お前の能力」
「貴方の能力も大概便利だとは思うけどね」
時間停止以外にも色々と出来る事を知った龍也から便利だと言う感想が漏れると、龍也の能力大概便利だと咲夜は返し、
「そのせいか、時間の減速や加速を戦闘に応用させると言うのが中々思い付かなかったのよね」
話を変えるかの様に日常生活ばかりで時間の減速や加速を使っていたので、それ等を戦闘面で使おうとは中々考えられなかった事を話す。
「成程。それでつい最近時間を減速、加速させる技能を戦闘に利用し様と思い付いたって訳か」
今のスペルカードをここ最近の間に作ったのかと言った龍也に、
「そう言う事。それで色々調整し、技として完成させた後にスペルカードにして貴方で試してみたの。けど……使ってみた感じ、弾幕ごっこのルールに違反する
可能性がありそうなのよね」
咲夜は肯定の返事をするも、少し神妙そうな表情を浮べてこのスペルカードは弾幕ごっこのルール違反になるかもと零す。
咲夜が新たに作ったスペルカードにルール違反をする様な部分があったかと龍也が頭を悩ませそうになったタイミングで、
「ああ……回避不可能の攻撃は禁止だっけか」
何がルール違反になるのかに当たりが付いた。
弾幕ごっこでは絶対に回避出来ない様な攻撃は禁止されている。
今回、咲夜が発動させたスペルカードは直接攻撃を仕掛ける様なタイプでは無い。
だが、問題は発動した後。
自分以外の時間の流れが遅くなった状況下では好き放題攻撃が出来る為、これがルールに触れる可能性は大いにあるだろう。
時間の流れが遅くなった状況下では白虎の力を解放した状態でも咲夜の動きを捉え切れないかもしれないと言う事を龍也は感じつつ、
「だったら減速していられる時間を減らすか、減速の割合を減らしたらどうだ?」
ルール違反にならない様に減速していられる時間を減らすか、減速の割合を減らしたらどうだと言う提案を行なう。
龍也からの提案を受けた咲夜は少し考える素振りを見せ、
「……そうね。そうした方が良いかもしれないわね」
時間を減速させるスペルカードの性能を落とす事を決める。
折角作ったスペルカードなのだ。
幾らか性能を落としたとしても、使っていきたいのだろう。
兎も角、今のスペルカードの処遇を決めた後、
「それはそうと、何れは貴方へのリベンジを果たさせて貰うから覚悟して置いてね」
話は変えるかの様に咲夜は軽い笑みを浮かべ、龍也に向けて何れリベンジを果たす積りだから覚悟する様にと言ってのけた。
因みに、咲夜の言うリベンジとは過去に龍也と戦って負けた事に対するものだ。
まぁ、咲夜が自分にリベンジをしたいと言う気持ちは知っているので、
「なら、次も負けない様に俺も腕を磨かなきゃな」
龍也は咲夜と同じ様に軽い笑みを浮かべ、次も自分が勝つと言う様な宣言をする。
そして、門の方に体を向け、
「それじゃ、またな」
「ええ、またいらっしゃい」
咲夜と軽い挨拶を交わし、紅魔館を後にする様に足を進め始めた。
紅魔館へと続く門に着くと、立った儘寝ている美鈴の姿が龍也の目に映ったので、
「咲夜ー、美鈴が立った儘寝てるぞー」
龍也がその事を咲夜に伝えると、
「美鈴!!!!」
ナイフを両手に持った咲夜が門が在る場所まで超スピード迫り、
「ごめんなさーい!!!!」
咲夜の接近に気付いて飛び起きた美鈴の悲鳴が響き渡った。
何時もの様に適当に幻想郷の何所かを歩いていると、
「ここは……霧の湖か?」
龍也は何時の間にか霧の湖に来ていた事に気付いた。
まぁ、気付いたら知ってる場所に辿り着いていたと言う事は今までもそれなりにあったが。
兎も角、折角霧の湖に来たのだ。
暫らくの間、霧の湖を探索し様と思った瞬間、
「ッ!?」
背後から何かが迫って来ているのを龍也は感じ、少し慌てた動作で今居る場所から振り返る様にして離れる。
すると、龍也が居た場所に十数個の氷の塊が激突したではないか。
同時に、
「流石あたいのライバル!! よく避けたわね」
チルノが現れた。
チルノの言動から、氷の塊を放ったのがチルノである事を龍也は察し、
「お前な……」
行き成り攻撃を仕掛けて来たチルノに龍也が文句の言葉をぶつけ様とした時、
「チルノちゃん、行き成り弾幕を放つのは駄目だって……」
チルノを嗜めるかの様な言葉を口にしながら、大妖精がチルノの傍に降り立つ。
近くに降り立った大妖精に気付いたチルノは大妖精の方に体を向け、
「違うよ、あたいのライバルの腕が鈍ってないか試したんだよ」
自分のライバルである龍也の腕が鈍ってなかったかを確かめたのだと漏らす。
そして、
「またそんな事を言って。この前だって通りすがり妖怪にちょっかいを掛けて追い回されたのに……」
「大丈夫だよ。あたいは最強だから、妖怪何てチョチョイのチョイよ!!」
「チョチョイのチョイだったら追い回されたりしないと思うんだけどな……」
「何よ、大ちゃんはあたいの最強っ振りを疑ってるの?」
大妖精とチルノが喧嘩しそうな雰囲気を見せ始めてしまったので、
「まぁまぁ……」
仲裁するかの様に龍也は二人の間に入り、
「処で、俺に何か用でもあるのか」
話を変えるかの様に何か用でもあるのかと問う。
問われた事にチルノは何かを思い出した懐に手を入れ、
「あ、そうだ。龍也、これ見てよこれ」
懐から紙切れを取り出し、取り出した紙切れを龍也に手渡した。
手渡された紙切れを龍也は受け取り、受け取った紙切れを一通り観察して紙を裏返す。
裏返した紙切れには、
「……ん? 36+57」
簡単な足し算が書かれていた。
「これがどうかしたのか?」
「これの答え分かる?」
書かれている足し算がどうかしたのかと聞くの、チルノが足し算の答えが分かるかと聞いて来たので、
「これの答えか? 93だろ」
紙切れに書かれていた足し算の答えを述べる。
足し算の答えを即答したからか、
「凄ーい、こんな簡単に答えるなんて流石あたいのライバル」
「凄い……」
チルノと大妖精の二人は尊敬の眼差しを龍也に向けた。
どうやら、妖精にとっては二桁同士の足し算は難しい様だ。
それはそれとして、二桁同士の足し算の答えを即答した位で尊敬された事を龍也は意外に思いつつも、
「てか、どうしたんだこれ?」
改めてと言った感じで紙切れに書かれている計算式がどうしたのかと尋ねる。
尋ねられた事に反応したチルノは少し神妙そうな表情を浮かべ、
「実はね……」
事情を話し始めた。
チルノの話を纏めると、道を歩いていたら人間にこれを渡されてずっと悩んでいたとの事。
どう言った経緯でこの計算式が書かれた紙を渡されたのかは分からないが、
「大ちゃんに聞いても分からないって言うし」
「一桁同士の計算なら大丈夫なんですけど……」
チルノと大妖精が悩んでいる様だったので、
「……若しかして筆算って知らないのか?」
若しかしてと考えた龍也が筆算の存在を口にすると、
「「筆算?」」
チルノと大妖精の二人は首を傾げてしまった。
やはりと言うべきか、チルノも大妖精も筆算の事を知らなかった様だ。
だから、龍也は近くに落ちていた木の枝を拾い、
「筆算って言うのはな……」
地面に筆算での計算方法を書きながら筆算に付いての説明を行なう。
そして、一通り筆算に付いての説明を終えた後、
「すっげー!! これならどんな数も計算できる」
「こんなやり方があったんですね」
チルノと大妖精は大喜びと言った様子を見せ始めた。
大喜びする程に筆算は二人に取って画期的なものであったのだろうか。
ともあれ、筆算さえ出来ればもう二桁同士の足し算など敵では無いと判断したからか、
「これならどんな問題が来ても平気ね!! 待ってろよー!!」
チルノは元気な声を上げながら何処かへと向かって行き、
「待ってよ、チルノちゃーん!!」
そんなチルノを大妖精は慌てた動作で追い掛けて行った。
去って行ったチルノと大妖精に元気一杯だなと言う感想を抱きながら龍也は周囲を見渡し、
「……さて」
気持ちを入れ替えるかの足を進め様としたタイミングで、霧の湖から魚が一匹跳び上がる。
飛び上がった魚が目に映ったからか、龍也は急に空腹感を覚え、
「……魚でも釣って食べるか」
霧の湖に居る魚を釣って食べる事を決め、自身の力を変えた。
玄武の力へと。
力を変換させた事で瞳の色が黒から茶に変わったのと同時に、龍也は土で出来た棒状の物体を生み出し、
「えー……と……」
何かを探すかの様に顔を動かしていくと少し離れた場所に在る木に蔓が絡まっているの発見したので、
「良し」
発見した蔓を取る為に足を進めて行き、木から取り払った蔓を土で出来た棒状の物体を土で出来た棒状の物体の先端に括り付ける。
しかし、これだけでは釣りは出来ないので、
「よっと」
龍也は土で出来た釣り針を生み出し、生み出した釣り針を蔓の先端にくっ付けた。
これで釣りをする為の準備が整ったからか、龍也は湖に近付き、
「そら」
土と蔓で構成された釣竿を湖に向けて振るう。
通常、土で出来た釣竿や釣り針で釣りをしたら土で出来ている部分が崩れたり溶けたりしてしまう事は必至。
だが、龍也が使っている土と蔓で構成されている釣竿にその様な事は起こらなかった。
何故ならば、釣竿の土で構成されている部分は全て龍也が制御しているからだ。
故に、土で出来ている釣竿の事は気にせずに龍也はのんびりとした雰囲気で釣りを楽しんでいく。
が、土と蔓で構成された釣竿が無事である事の代わりと言わんばかりに、
「……釣れないな」
どれだけ待っても魚は一匹も釣れなかった。
場所が悪いのか、それとも自分の釣りの腕が悪いのか。
一体悪いのはどちらなのかと言う事を龍也が考え様とした刹那、
「釣れてるかしら?」
何者かが龍也に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は顔を声が聞こえて来た方に向ける。
顔を向けた先には白い髪にモンペを着込み、お札の様なリボンを付けた少女の姿が在った。
現れた少女の手には釣り道具が在った為、彼女も釣りに来たのかと龍也は思いつつ、
「いや、全然だ」
全く釣れていないと返す。
すると、
「そう」
少女はそれだけ言って龍也の隣に腰を落ち着かせて釣りを始め、
「そう言えば、初めて見る顔ね」
ふと思い出したかの様に初めて見る顔だと口にする。
そう口にされた事で、龍也は自己紹介をしていなかった事に気付き、
「あ、俺は龍也。四神龍也。あんたは?」
軽い自己紹介を行ない、少女の名前を問うた瞬間、
「四神龍也……若しかして慧音が言ってた……」
四神龍也と言う名前を慧音から聞いた事があると少女は呟く。
少女の口から知っている者の名が発せられた為、
「あれ、慧音先生の知り合いなのか?」
思わず慧音の知り合いなのかと龍也は尋ねる。
「ええ、まぁね」
尋ねられた事を少女は肯定し、
「あ、私の名前は妹紅。藤原妹紅」
龍也に自分名を教える。
自分の隣で釣りをしている少女、妹紅の名を頭に龍也が頭に入れている間に、
「慧音が言ってわよ。貴方に自分の生徒の命を救われたって」
嘗て妖怪に襲われてた人里の子供を助けたと言った話題を妹紅は出して来た。
その話題を皮切りにしたかの様に、
「ああ、あの時の事か……」
「外来人は人里の自警団の人間みたく強くは無いって聞いてたけど、貴方はそうじゃ無いみたいね」
「あー……良く言われるけど、そんなに珍しいのか? 俺の様な人間……てか外来人って」
「そうね、龍也の様に強い外来人は見た事は無いわね」
龍也と妹紅は雑談を交わしていく。
そんな雑談を交わしている最中にも妹紅は魚を次々と釣り上げていたので、
「……良く釣れるな」
未だに魚を一匹も釣り上げられていない龍也は良く釣れるなと言う言葉を掛ける。
掛けられた言葉に反応した妹紅は龍也の方に顔を向け、
「ま、経験の差……かしらね」
経験の差かもしれないと漏らし、また一匹魚を釣り上げた。
それから幾らかの時間が経っても、
「…………………………………………」
「ま、まぁ、今日は運が悪かっただけよ」
一匹も魚を釣り上げる龍也は出来なかったので、妹紅は龍也を慰め始める。
同時に、龍也の腹が空腹を訴えたからか、
「あー……釣った魚、焼き魚にするけど食べてく?」
釣った魚を焼き魚にするので食べてくかと聞く。
「……食べてく」
聞かれた龍也は食べてくと漏らし、釣りを止める。
龍也が釣りを止めた事で妹紅も釣りをする事を止め、予め拾って来ていた枝を一箇所に集め、
「後は火を点けてっと……」
指先から炎を放ち、集めた枝に火を点けた。
「お、自分で炎が出せるんだ」
「私は人里で暮らして居る訳じゃ無いから、この程度の技能は身に付けて置かないとね」
龍也と軽い会話を交わしつつも妹紅は魚を焼く準備をし、魚を焼いていく。
魚を焼き始めてから幾らかすると魚が良い感じの焼けて来たので、
「そろそろ食べ頃よ」
妹紅は食べ頃だから魚を食べる様に促す。
食べる様に促された龍也は早速と言わんばかりに焼き魚を手に取り、
「いっただっきまーす!!」
焼き魚を食べ始めた。
ガツガツと言った音が聞こえそうな勢いで。
物凄い勢いで焼き魚を食べている龍也を見て、
「男の子って良く食べるわね」
男の子は良く食べるなと言う感想を抱き、妹紅も焼き魚を食べ始めた。
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