龍也が新たに四枚のスペルカードを作成してから一日経った日の朝。
龍也は太陽の畑を後にし、幻想郷の何所かを歩いていた。
何故幽香の家に居ないのかと言うと、幽香の家で朝食を食べた後に龍也が旅を再開したからだ。
ともあれ、旅を再開した龍也は何時もの様に目的地を決めずに適当に足を進めている。
目的地を決めずに歩いているのは、何も考えずに気儘に歩いている方が旅を楽しめると言う想いが龍也にあるからであろう。
その様な想いで足を進めていた龍也がふと立ち止まって顔を上空に向け、
「にしても良い天気……ん?」
良い天気だと漏らした瞬間、龍也の目に黒い点の様なものが映り込んだ。
映った黒い点はどんどんと大きくなり、
「ッ!?」
大きくなった黒い点は龍也の目の前で急停止し、地面に着地した。
急停止をして着地した影響で、砂埃などが舞い上がる。
舞い上がった砂埃などを防ぐ為、龍也は片腕を目元へと持って行く。
片腕を目元へ持って行ってから少しすると砂煙が晴れたので、龍也は片腕を降ろして黒い点の正体を確認しに掛かる。
龍也の目に映り、猛スピードで突っ込んで来た黒い点の正体と言うのは、
「どうもー!! 清く正しい射命丸文でーす!!」
射命丸文であった。
取り敢えず、黒い点の正体が文である事を確認した後、
「やっぱりお前だったか」
予想出来ていたと言う表情を龍也は浮かべ、息を吐く。
「あや、お分かりでしたか?」
「俺の知り合いに超高速で突っ込んで来る奴はお前位しか居ないからな」
やって来た者が自分である事に当たりを付けていた龍也に文が少し驚いたと言った表情を向けると、龍也は文に当たりを付けた理由を話す。
一応、文以外にも魔理沙やフランドールと言った存在も超高速で突っ込んで来る者に当たる。
だが、この二人が超高速で突っ込んで来る頻度は文程多くは無い。
序に言えば、魔理沙もフランドールも予め自分の存在をアピールしてから突っ込んで来る事が殆どだ。
故に、龍也はやって来た者を文と判断したのである。
それはそれとして、行き成り突っ込んで来る方が隙間を使って予測出来ない場所から現れる何処かの妖怪よりはずっとマシだなと言う事を龍也は思いつつ、
「それよか、俺に何か用か?」
話を変えるかの様に自分に何か用かと文に尋ねたタイミングで、
「はい!! とても重要な用が在ります!!」
文は元気の良い返事をし、手帳とペンを取り出しながら自身の顔を龍也の顔に近付け、
「何でも少し前に異変が起き、起きた異変を解決したのが龍也さんだって言うじゃありませんか!!」
少し前に起きた異変に付いての話題を出して来た。
「あ、ああ。一応そうだな」
文の熱意に押される形で自分が異変を解決と言う部分を龍也が肯定すると、
「やはりそうでしたか!! 龍也さんが異変を解決したと言う噂を聞いた私は一目散に龍也さんが住んでいる無名の丘の洞窟に向ったのです!!
しかし!! 龍也さんはご不在でした」
若干演技掛かった口調で、文は龍也の家である無名の丘に在る洞窟まで赴いた事を話す。
無名の丘に足を運んで空振りを喰らった文に、
「まぁ、殆ど居ないからなぁ。無名の丘には」
殆ど無名の丘に居ないと言う事を龍也が伝えた瞬間、
「それでも諦めなかった私は幻想郷中を飛び回り!! 龍也さんを探しました!!」
伝えられた事を無視するかの様に文は龍也を探して幻想郷中を飛び回っていた事を語る。
文個人としては今語っている部分が山場であるからか、語りの口調に力強さが感じられた。
そんな文を見て、文ならアナウンサーなども平気でこなせそうだと言う事を龍也が思い始めた時、
「ですが、今日、やっと見付けました!! 龍也さんを!!」
語りが締めに入っていた様で、
「と、言う事で!! 是非とも私のインタビューに答えてください!!」
最後の仕上げと言わんばかりに自分のインタビューに答えてくれと文は口にした。
ここまで熱心に頼まれたのならインタビューに答えても良いかと龍也は考え、
「あ、ああ。別に良いぞ」
インタビューに答える件を了承する。
龍也がインタビューに答えると約束した事で、
「ありがとうございます!! では、早速インタビューの方に移らせて頂きます!!」
文は嬉しそうな表情を浮かべ、手帳にペンを走らせる準備をし、
「今回起こった異変はどの様な異変だったのですか?」
先ず今回の異変はどの様な異変だったのかを問う。
「色んな奴等を集めて宴会させる異変だな。因みに、短い頻度且つ連続的にだ」
「ほうほう。何とも平和的な異変ですね」
問われた事を龍也が簡潔に答えると、平和的な異変だと言う感想を文は抱きながら手帳にペンを走らせていく。
そして、手帳にある程度文字が書き込まれると、
「それで、犯人は誰だったんですか?」
誰が犯人なのかを聞く。
「伊吹萃香って言う鬼だよ」
異変を起こした犯人として伊吹萃香の名が龍也から紡がれた刹那、
「ほうほう、異変を起こした犯人は鬼の伊吹萃……え?」
手帳にペンを走らせていた文は急に動きを止めてしまった。
突如として動きを止めてしまった文を不審に思った龍也は、
「ん? どうした?」
どうしたのかと声を掛ける。
すると、先程まで在った元気が嘘の様な声色で、
「あ、あの、その伊吹萃香さんってこれ位の大きさで、こんな感じで二本の角が生えてたりしますか?」
身振り手振りで伊吹萃香の特徴を文は説明し出した。
文から伝えられて来る情報と頭に思い浮べた萃香の姿を龍也は比較し、
「ああ、合ってるぞ」
合っていると言う言葉を述べると、文は再び動きを止めてしまう。
その後、何かを考える体勢を取りながらブツブツと呟き始めた。
心焉に在らずと言った感じの文に、
「おーい、文?」
龍也は文の名を呼ぶ。
意識が自分の内に向いている時に自身の名を呼ばれたからか、
「ひゃい!?」
跳ね上がる勢いで文は背筋を伸ばした。
ここまで驚くとは思ってもいなかった龍也は、
「何、驚いているんだ?」
何に対して驚いているのかと言う疑問を投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に答えを返す為、文は一度深呼吸をし、
「いや、実はですね。今の妖怪の山を統治しているのは我々天狗なのですが、昔は鬼が統治していたのです。ですがある時、妖怪の山に居た鬼の全てが
何所かに消えてしまいましてね。それからと言うもの、鬼に代わって天狗が妖怪の山を統治する事になったのです」
嘗て、妖怪の山を統治していた者が鬼であった事を話す。
「ほうほう」
「ですが、姿を消した鬼が再び妖怪の山に戻って来るとなればそれはもう一大事です。下手をすれば全面戦争の恐れが……」
初めて知り得た情報に龍也が関心を示している間に、文は下手をすれば全面戦争になる恐れがあると漏らした。
何やら一人で事を大事にし様としている文に、
「あー……文。多分、そんな状況にはなら無いと思うぞ」
全面戦争になる事は無いだろうと言う言葉を掛ける。
「……へ?」
「いやな、萃香と色々話をしたけど幻想郷や妖怪の山をどうこうし様って言う意思は感じられ無かったぞ」
龍也の言葉が耳に入った事で間の抜けた表情を浮べた文に、龍也は萃香に幻想郷や妖怪の山をどうこうする意思は感じれら無かったと言う事を伝えた。
一応、萃香の存在に害は無い言う事を伝えられた文であったが、
「そう……何ですか?」
今一信用し切れないと言った表情を浮べてしまう。
まぁ、嘗て妖怪の山の統治を行なっていた鬼の一人が幻想郷に姿を現したのだ。
幾ら龍也が危険は無いと言っても、天狗の文としては頭からそれを受け入れる事は出来ないのであろう。
若しかしたら鬼がまだ妖怪の山に居た時、文は鬼と何か確執があったのかもしれない。
そこまで考えた龍也はこれ以上は邪推だなと判断し、
「ああ。心配だったら博麗神社に行ってみたらどうだ? 萃香は博麗神社良く姿を現すみたいだからな」
心配ならば直接萃香と話してみたらどうだと言う提案を文にした。
確かに、事の真偽を確かめるには直接萃香に話を聞くのが一番であろう。
提案された事は尤もだと言う判断を文は下し、
「……分かりました。萃香さんに会ってみます」
インタビューを中断するかの様にペンと手帳を懐に仕舞い、翼を羽ばたかせて体を浮かび上がらせる。
そして、博麗神社に向けて素っ飛んで行った。
素っ飛んで行った文を見送った後、
「……さて、行くか」
龍也は旅を再開するかの様に足を動かし始める。
「……ん? あれは……人里か」
何時の間にか人里が見える場所に来ていた事に気付いた龍也は一旦足を止め、人里の様子を確認しに掛かる。
少々距離が離れてはいるものの、見た限りでは何時も通りの人里と言った感じだ。
まぁ、何時も通りでなかったら何らかの異変が起きていると言う可能性があったであろうが。
兎も角、折角人里の近くにまで来たのだ。
ここは人里の中をブラブラして回るのも一興であろう。
その様に考えた龍也は人里に赴く事を決め、進行方向を人里の方に向けて足を再び動かし始める。
そして、人里の中に入った龍也は適当に人里内を散策していく。
それから幾らかすると、
「龍也さん」
誰かが龍也の名を呼んで来た。
自身の呼ばれた事に反応した龍也は足を止め、声が聞こえて来た方に体を向ける。
体を向けた先には、
「阿求」
阿求の姿が在った。
どうやら、龍也に声を掛けて来た者は阿求であった様だ。
取り敢えず、龍也が阿求の存在を認識したからか、
「こんにちは、龍也さん」
改めてと言った感じで、阿求は龍也に挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉に、
「ああ、こんにちは」
龍也も挨拶の言葉を返す。
お互い軽い挨拶を交わした後、
「あの、龍也さん。少し良いですか?」
阿求は上目遣いで龍也を見ながら、少し良いかと問う。
別段、これから何かをしなければならない予定も無いので、
「ん、何だ?」
阿求に続きを話す様に龍也は促した。
続きを話す様に促された阿求は何処か期待を籠めた様な龍也を見詰め、
「実はですね、龍也さんに頼みたい事が在るんです」
頼みが在ると言う。
「頼みたい事?」
「はい、私を冥界の方へ連れて行って欲しいんです」
頼みとは何だと言った感じで龍也が首を傾げると、阿求の口から冥界に連れて行って欲しいと言う言葉が紡がれた。
「冥界に?」
頼まれた内容が予想外のものであったからか、少し驚いた表情を龍也は浮べてしまう。
そんな龍也に向け、
「はい。私が幻想郷縁起と言う物を書いているのはご存知ですよね?」
自分が幻想郷縁起と言う物を書いているのは知っているのだろうと言う確認を阿求は取りに掛かる。
「ああ、覚えてるさ。それに、前に阿求のインタビューを受けるって約束もしたしな」
「あ、覚えていてくれたんですね」
インタビューを受けると言う約束を龍也が覚えていたからか、阿求は嬉しそうな表情を浮べた。
が、直ぐに表情を戻し、
「で、今は幻想郷の地名とその地の情報を書いているんです。ですが、些か冥界の方の情報が不足していまして……。人里の自警団の方に護衛を頼めばある程度の
場所までになら普通に行けますが、冥界は空を飛べなければ辿り着けない場所に在ると聞き及んでいます。残念ながら私、自警団の方々を含めて人里に住んで居る
者達の中で空を飛べる者は殆ど居ません。その数少ない例外で長距離の飛行を可能としている者に寺子屋の慧音先生が居ます、本日の慧音先生は御忙しそうにして
いまして。それでどうし様かと悩んでいた時に龍也さんを見付けたんです」
龍也に冥界まで連れて行って欲しいと頼んだ理由を説明していく。
一通り阿求の説明を聞き、納得した表情を龍也が浮べている間に、
「あ、勿論龍也さんの御都合が付けばですが……」
自分を冥界に連れて行くのは、龍也の都合が付けばで良いと言う発言が阿求から発せられる。
阿求の発言から察するに、そう都合良く自分の頼みを聞いてくれる訳が無いと阿求は心の何所かで思っている様だ。
だが、そんな阿求の思いとは裏腹に、
「良いぞ。冥界に連れて行ってやるよ」
大した間を置く事無く、冥界に阿求を連れて行く件を龍也は承諾した。
「……え? 良いんですか?」
「ああ。別に大した用事も無いしな」
こうも簡単に承諾してくれた事で少し驚いた表情を浮べた阿求に、龍也が大した用事も無い事を伝えると、
「あ、ありがとうございます」
礼の言葉と共に阿求は頭を下げた。
「それで、今から行く……で良いのか?」
「ええ、今からでお願いします」
頭を下げている阿求に今から冥界に行くと言う事で良いのかと龍也が問うと、阿求は頭を上げながら肯定の返事を返し、
「あ、一旦屋敷の方に戻って出掛ける旨を伝えて来ますので待ってて貰えますか?」
続ける様にこれから屋敷に戻って出掛ける旨を伝えて来るのでここで待っていて欲しいと言う。
人里内を歩き回るのであれば兎も角、人里外に出るのだ。
最低でも、出掛けて来ると言う事は伝えた方が良いだろう。
と言うか、人里の中でも特に大きな屋敷に住んでいる阿求が行く先を告げずに行方を晦ませたら大騒ぎになる事は必至。
であるならば、屋敷の者に出掛ける旨を伝えると言う阿求の主張は理に適っているので、
「ああ、分かった」
特に文句の言葉を出す事無く、龍也はここで待つ件を承諾する。
すると、
「ありがとうございます。直ぐに戻って来ますので」
直ぐに戻って来ると声を阿求は龍也に掛け、走って自分の屋敷が在る方へと向かって行く。
阿求が走り去ってから幾らか経った頃、
「お、お待たせしました」
少々息を切らした阿求が戻って来た。
そんな阿求を見た龍也は、
「別にそんな急ぐ必要は無かったんだけどな」
息を切らす程に急ぐ必要は無いと言う様な事を漏らしながら体を屈め、阿求を背負う体勢を取り、
「ほら」
自分の背に乗る様に促す。
「はい。お願いしますね」
促された阿求はお願いしますと言う言葉と共に龍也の背中に乗っかると、龍也は大きく跳躍を行なう。
そして、ある程度の高度に達した辺りで龍也は霊力で出来た見えない足場を作り、
「よっ……と」
作った足場に足を着ける。
「わっ、人里がこんなに小さく……」
「えーと、ここからだと冥界は……」
あっと言う間に人里がかなり小さく見える高度にまで来た事に阿求が感心している間に、冥界への進行方向を探す為に龍也は顔を動かしていく。
ある程度顔を動かした辺りで冥界への進行方向を見付けたので、
「少し飛ばすから、確り掴まってろよ」
少し飛ばすから確り掴まっている様にと言う指示を龍也は阿求に出す。
「はい、分かりました」
出された指示を了承したと言う返事が阿求から返って来たので、龍也は霊力で出来た足場を強く蹴って冥界へと向かって行った。
龍也と阿求が冥界を目指して移動を始めてから暫らく経った頃、
「あの門の先が冥界だ」
「あの先が……」
二人は冥界へと続く巨大な門が見える距離にまで来ていた。
冥界へと続く門の大きさに阿求は少々圧倒されるも、
「それで、あの大きな門をどうやって開けるんですか?」
龍也にどうやって門を開けるのかと尋ねる。
門を開けて中に入ると言うのは当然とも言える発想なので、阿求がそう尋ねた事には何の不思議も無い。
しかし、
「いや、開けない」
開けないと言う言葉が龍也の口から発せられた。
「え?」
龍也から発せられた言葉を聞き、それではどうやって冥界に行くのかと言う疑問を阿求が抱いた時、
「あの門の上を通り越えて行く」
門の上を越えて行くと言いながら龍也は門の上を指でさす。
「……門の意味って在るんですか?」
門と言う存在を無視する様な冥界の入り方を知った阿求が冷静な突っ込みを入れると、
「安心しろ。俺も疑問に思っているから」
自分もこの門の存在意義に疑問を持っていると言う事を龍也は阿求に返し、高度を上げて門の上を越えて冥界へと入って行く。
そして、冥界に入った龍也は冥界の地に足を着け、
「ここが冥界だ」
今居る場所が冥界である事を阿求に教える。
「ここが……」
教えられた事を耳に入れた阿求は物珍しそうに周囲を見渡し、
「やはり、人魂や亡霊が多いですね」
人魂や亡霊が多いと言う感想を漏らす。
まぁ、冥界に人魂や亡霊の姿が全く見られなかったから異変かと疑うところではあるが。
それはそうと、冥界を物珍しい表情で見ている阿求に、
「で、これからどうするんだ? 冥界だけを探索するのか? それとも白玉楼の方にまで行くのか?」
冥界だけを探索するのか、それとも白玉楼まで行くのかと問う。
問われた阿求は、
「あ、白玉楼の方までお願いします。白玉楼の情報もそうですが、西行寺幽々子さんと魂魄妖夢さんの情報も些か不足しているので。序に言えば、冥界の
管理人である幽々子さんに話を聞かせて貰えれば冥界に付いて詳しく書けそうですし」
白玉楼まで連れて欲しいと言う答えを述べた。
「了解。ここから白玉楼までは結構距離が在るから、少し飛ばして行くぞ」
述べられた答えを聞いた龍也は了解と言う返事と共に少し飛ばす事を伝え、地を強く蹴って冥界を駆けて行く。
龍也の背中に乗り、流れる様に過ぎ去って行く冥界の景色を見ながら、
「冥界って、思っていたよりもずっと綺麗な所ですね」
ポツリと、思っていたよりも冥界は綺麗な所だと阿求は呟いた。
そんな阿求の呟きに反応したからか、
「ああ、俺も最初に来た時は驚いたよ。冥界ってこんな場所だったのかってな」
龍也は初めて冥界に来た時は自分も阿求と似た様な感想を抱いたと漏らし、
「それよか、舌を噛まない様に注意を」
舌を噛まない様にと言う注意を促し、掛ける事に意識を向けていく。
冥界での移動を始めてから幾らか経つと、龍也と阿求は先が見えない程に長い階段の前に辿り着いた。
「わ、凄く長い階段ですね」
先が見えない程に長い階段を見て驚いたと言った表情を浮べている阿求に、
「この階段を登り切った先に白玉楼が在るんだ」
階段を登り切った先に白玉楼が在る事を龍也は教える。
「この階段の先にですか……」
目的地である白玉楼の場所を知った阿求は、何とも言えない表情を浮べた。
それもそうだろう。
白玉楼へと続く階段は普通の登って行ったらどれだけの時間が掛かるのかは分からないのだから。
阿求の表情から、阿求が抱いている思いを察したからか、
「ま、普通に登ったら白玉楼に着く頃には確実に日が暮れているだろうな」
龍也は普通に登って行ったらどうなるかを口にし、
「だから、ここまで来た時と同じ様に飛ばして行くからな。舌を噛まない様に気を付けろよ」
ここまで来た時と同じ様に飛ばして行くので、舌を噛まない様にと言う注意を阿求にする。
「あ、はい。気を付けます」
少々階段の方に意識を取られていた様であったが、自分の注意を聞き入れたと言う返事が阿求から返って来たので、
「よし、それじゃ行くか」
行くかと言う言葉と共に龍也は跳躍し、ある程度の高度に達した辺りで霊力で出来た見えない足場を作り、
「よっと」
作った足場に足を着け、
「ッ!!」
駆ける様にして階段の天辺を目指して行く。
そして、階段の天辺を目指し始めてから暫らくすると白玉楼へと続く門の前に着いたので、
「到着……っと」
門の前に龍也は着地し、背負っていた阿求を降ろす。
降ろされた阿求は改めてと言った感じで白玉楼へと続く門を見詰め、
「私の所よりも大きな門ですね……」
自分の屋敷の門よりも大きいと言う感想を抱いた。
「阿求の屋敷の門も十分に大きいとは思うけどな」
阿求が抱いた感想に龍也はそう返し、門を開く。
門を開くと白玉楼の庭が二人の目に映り、
「わぁ……」
阿求は感嘆の声を漏らした。
大きな屋敷に住み、立派な庭を持っている阿求から見ても白玉楼の庭は目を奪われる程の様だ。
見えている庭に惹かれるかの様に白玉楼の庭へと入って行ったので、阿求の後を追う様にして龍也も白玉楼の庭に入って行く。
「凄く綺麗に整えられてますね……」
白玉楼の庭をキョロキョロと見渡しながら進んで行く阿求と、その阿求に付いて行く龍也。
のんびりとした雰囲気で龍也と阿求が足を進めていた時、
「ッ!!」
何処からか殺気が放たれているのを龍也は感じ取った。
その瞬間、龍也は自身の力を朱雀の力に変えながら阿求の前に躍り出る。
躍り出た龍也の瞳の色が黒から紅に変わったのと同時に、龍也は殺気を放って来た者を二つの目で捉えた。
殺気を放って来た者は刀を振るって来ている様なので、両手から二本の炎の剣を生み出し、
「ぐ!!」
振るわれた刀を二本の炎の剣で受け止める。
「曲者め!! 白玉桜に一体何の……って、龍也さん?」
「やっぱり妖夢か」
刀を振るって来た者が龍也の存在を認識すると、龍也も刀を振るって来た者が妖夢である事を認識した。
互いが互いの存在を認識した後、龍也と妖夢は激突させていた自分の得物を離す。
取り敢えず、妖夢から殺気が感じられなくなったので、
「まぁ、勝手に入って来た俺達も俺達だが……せめて相手を確認してから斬り掛かってくれ」
斬り掛かるにしてもせめて相手を確認してくれと言う。
言われた事に、
「す、すみません」
謝罪をし、妖夢は楼観剣を鞘に収める。
妖夢が自身の得物を納めた事で、龍也は生み出していた二本の炎の剣を消し、
「怪我は無いか? 阿求」
振り返って阿求に怪我は無いかと聞く。
「あ、はい。怪我は無いです。それよりも龍也さん、瞳の色が……」
聞かれた事を阿求は肯定し、龍也の瞳の色に付いて尋ね様として来たので、
「ああ、これか。俺の能力の影響だな」
瞳の色が変わっているのは能力の影響だと言う説明をしながら龍也は自身の力を消す。
自身の力を消した事で龍也の瞳の色が元の黒色に戻ったのを見て、
「あ、戻った」
少し興味深そうな視線を阿求は龍也に向ける。
ここで自分の能力付いて説明したら色々と長くなってしまうからか、
「ま、能力も含めてインタビューを受けた時に話すよ」
能力含めて自分の事はインタビューを受けた際に話すと口にした。
「それで、お二人は白玉桜に何の御用ですか?」
龍也と阿求の会話に一段落着いたからか、妖夢は二人に何をしに白玉楼に来たのかと言う疑問を投げ掛ける。
白玉楼の庭に入って早々に得物のぶつけ合いをしただけで、ここに来た事情を説明をしていない事に気付いた龍也は、
「ああ、実は……」
妖夢に白玉楼へとやって来た理由を説明していく。
「成程……幻想郷縁起の執筆の為に。それでしたら幽々子様に御取次ぎを……」
龍也から説明を受けた妖夢は納得した表情を浮かべ、幽々子に取次ごうした瞬間、
「別に構わないわ、妖夢」
妖夢の背後から幽々子が現れた。
幽々子が現れた事で、妖夢は体を背後に向け、
「幽々子様、宜しいので?」
確認を取るかの様にインタビューを受けても良いのかと問う。
「構わないわ。それにインタビューを受ける何て楽しそうじゃない」
問われた幽々子はインタビューを受けるのは楽しそうだと言い、
「でも、ここでインタビューを受けるのもあれね。居間でしましょう」
庭で話しをするのもあれなので、インタビューは居間でし様と提案し、
「と言う訳で妖夢。お茶とお茶菓子を準備をして頂戴」
お茶とお茶菓子の準備をする様にと言う指示を妖夢に出す。
「畏まりました。直ぐに用意致します」
指示を出された妖夢は了承の返事と共に頭を下げ、白玉楼の玄関へと急ぎ足で向かって行った。
白玉楼の玄関へと向かって行った妖夢を見届けた後、
「ごめんなさいね。妖夢が突然斬り掛かった様で」
妖夢が突然斬り掛かった事に対する謝罪を幽々子は述べる。
「ま、勝手に入った俺達も俺達だしな。それに、俺も阿求も怪我は無かったし気にするな」
「私は龍也さんに護って頂いた立場ですし、龍也さんが気にしていないのなら私も特に何かを言う気はありません」
「ありがとう」
妖夢が斬り掛かって来た事に関しては龍也と阿求も気にしていない様であったので、幽々子は二人に礼の言葉を口にし、
「妖夢ももう少し落ち着きがあればねぇ……」
軽い愚痴の様なものを零した。
ともあれ、何時までも外で突っ立っている訳にもいかないので、
「それじゃ、早く中に入りましょうか」
早く白玉楼の中に入る様に言い、幽々子は体を白玉楼の方に向けて足を動かし始める。
そんな幽々子の後を追う様に、龍也と阿求も足を動かし始めた。
白玉楼で幽々子と妖夢にインタビューをした後、龍也と阿求は白玉楼を後にした。
そして、その儘冥界も後にして人里まで戻ると、
「到着っと」
龍也は阿求の屋敷の前に降り立ち、阿求を背中から降ろす。
背中から降ろされ、地に足を着けた阿求は、
「本日はありがとうございました、龍也さん」
礼の言葉を述べ、龍也に頭を下げる。
「どういたしまして」
「あ、宜しければ今日は泊まっていきませんか? 今日はもう晩いですし」
述べられた礼に龍也がどういたしましてと返すと、阿求は頭を上げて自分の屋敷に泊まっていったらどうだと言う提案を行なう。
もう日が落ちており、腹が減って来ている事もあるからか、
「そうだな……じゃ、泊まらせて貰うよ。腹も減って来てるしな」
大した時間を掛けずに阿求の屋敷に泊まる事を龍也は決める。
その後、
「それじゃ、屋敷の者に今日の晩ご飯は豪華な物にする様に言って置きますね」
「お、それは楽しみだな」
阿求と龍也はそんな会話を交わしながら屋敷の方へと足を進めて行った。
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