深夜。
外を出歩く様な人間が殆ど居ない時間帯。
そんな時間に、外に出ていた一人の女が妖怪の群れに囲まれたいた。
普通に考えれば、絶体絶命のピンチと言った状況。
だと言うのに女は少しも焦っておらず、平時と変わらない様な状態を見せているではないか。
恐怖する事無く平時と変わらないと言った感じの女に腹を立てからか、妖怪達は一斉に女へと襲い掛かる。
襲い掛かって来ている妖怪を視界に入れた女は溜息を一つ吐き、手に持っている傘を構え、

「……しっ!!」

その場で一回転した。
すると、傘を振るった影響で女から突風が発生する。
突如として発生した突風の影響で、女に襲い襲い掛かっていた妖怪は全て吹っ飛んで行った。
取り敢えず外敵を一掃し終えた後、女は傘を下ろし、

「……ったく、厄介ね」

女、風見幽香は愚痴る様にそう呟いて思う。
こんな下級妖怪の更に下の奴等が襲い掛かって来るとはと。
下級妖怪の更に下が幽香に襲い掛かって来る事など、滅多に起きる事では無い。
なら、今回はその滅多が起きたのかと問われたら違うと言う答えが出て来る。
では、どうして下級妖怪の更の下の妖怪が幽香に襲い掛かって来たのか。
襲われた幽香本人はその答えが解っている様で、視線を上空に向け、

「何処の馬鹿かは知らないけど……厄介な事をしてくれたものね」

忌々しいと言った感じの表情を浮かべ、厄介な事をしてくれたなと漏らして空に浮かんでいる満月を注視する。
いや、幽香が注視しているのは満月では無い。
本来であれば綺麗な円を描いている満月がほんの僅かではあるが欠けているのだ。
満月と殆ど変わりはしないが、見えている月は欠けた満月。
今日、空に浮かぶ月は満月であると言うのに満月は欠けている。
と言う事は、満月は人為的な方法で欠けさせられたと言う事。
人為的な方法で欠けさせられた満月と襲い掛かって来た妖怪と言う二つの事項から、

「あれのせいで、狂い始めてる妖怪が居る……か」

満月が欠けているせいで狂い始めている妖怪が出始めた事を幽香は確信し、

「多分、妖精辺りはもう殆どが狂っているでしょうね」

妖精辺りは殆どが狂っているだろうと言う予想をする。
同時に、

「私は月がどうこうなっても狂う事なんて有り得ないけど……問題は花ね」

妖怪、妖精などが狂う事で花に出て来る問題を思い描いていく。
先程、妖怪を容易く一掃した様に幽香に取って狂った妖怪など何の相手にもならない。
赤子の手を捻る事よりも楽であろう。
だが、幽香が花を観賞している最中に妖怪などに襲い掛かられた場合。
遅い掛かって来た妖怪が花を踏み荒らしたり、戦闘の余波で花に被害が出る可能性が出て来るであろう。
いや、若しかしたら今この時にも狂った妖怪に花を荒らされているかもしれない。
その様な事態を少しでも考えてしまったからか、異変解決に行こうと言う想いが幽香の中で強くなり、

「異変解決は妖怪の仕事で無いと言うのに……」

異変解決は妖怪の仕事では無いと言う愚痴を零すも、直ぐにそれも仕方が無いかと言う判断を下した。
今現在見えている満月が僅かに欠けている事に人間が気付けるとは到底思えないからである。
それ程までに、今見えている満月は普通の満月と差が無いのだ。
幽香が満月が欠けていると言う月の異常に気付けたのも、妖怪だからの一言に尽きる。
おそらく、博麗の巫女である博麗霊夢も人間であるが故に月の異常には気付いていないであろう。
ある意味、これは人間ではなく妖怪が解決すべき異変だと感じたからか、

「……さて」

決意を固めたかの様な表情を幽香は浮かべ、空中へと躍り出る。
そして、周囲を見渡し、

「場所は……あっちね」

天に浮かぶ満月を僅かに欠けさせると言う事を仕出かした者の居る場所に幽香は当たりを付け、当たりを付けた場所へと向って行く。
目的の場所を目指して移動を始めてから幾らか経つと、

「……ん?」

戦闘音が幽香の耳に入って来た。
耳に入った戦闘音の大きさから、近くで戦闘が起こっている事を幽香は察し、

「どれ……」

一旦進行を止めて戦闘音が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた幽香の目には、

「龍也」

四神龍也の姿が映った。
この事から、幽香は戦闘音の発生源は龍也であると断定する。
同時に、龍也が戦っている相手が少し気に掛かったので、

「何と戦っているのかしら?」

幽香は龍也の視線の先に顔を動かす。
すると、大量とも言える数の妖精が龍也の前方に居る事が分かった。
十中八九、龍也が戦っている相手は妖精であろう。
悪戯を仕掛けるのなら兎も角、妖精が大群で人間に襲い掛かると言う事は非常に考え難い事象である。
つまり、これは妖精も欠けた満月のせいで狂っていると言う事実に他ならない。
悪い予想が当たってしまったと言った表情を幽香は浮べたが、

「……そうだ」

然程時間を置かずに浮べていた表情を良い事を思い付いたと言ったものに変えた。
思い付いた事と言うのは、龍也を異変解決に連れて行こうと言うもの。
満月をほんの僅かだけ欠けさせると言う今回の異変。
上手くいけば、龍也をより強くする為のものになるかもしれない。
序に言えば、最後に龍也に会ってからどれだけ強くなったかを直接自身の目で確認する事が出来る。
龍也の強さ上昇と、現時点での強さの確認の両方が出来る為、

「……よし」

異変解決に龍也を連れて行く事を幽香は決め、龍也の傍に降り立つ様に降下して行った。























襲い掛かって来た大量の妖精を全て撃退し終えた後、

「……何だったんだ?」

龍也は何だったんだと呟く。
ここ等辺で野宿をし様とした矢先に龍也は大量の妖精に襲われた。
無論、襲い掛かって来た妖精は容易く撃退出来たが些か疑問が残る。
疑問と言うのは、大量の妖精に襲い掛かられたと言う部分。

「大量の妖精に襲い掛かられた事なんて異変の時位しか……まさか、異変が起きているのか?」

今まで大量の妖精に襲われた事など異変も時だけであった為、若しかしたら異変が起きているのではと龍也が考えた瞬間、

「正解」

正解と言う言葉が龍也の背後から聞こえて来た。
聞こえて来た言葉に反応した龍也が振り返ると、

「幽香」

幽香の姿が龍也の目に映った。
この事から、自分に声を掛けて来たのは幽香である事を龍也が理解したのと同時に、

「こんばんは、龍也」

幽香から挨拶の言葉が発せられたので、

「ああ、こんばんは」

取り敢えず、龍也も挨拶の言葉を返す。
お互い挨拶の言葉を交し合ったからか、

「それはそうと、正解って……異変が起きてるのか?」

話を戻すかの様に、龍也は幽香に異変が起きているのかと尋ねる。

「ええ、そうよ。あれを見なさい」

尋ねられた幽香は肯定の返事をし、空に浮かぶ満月を指でさした。
それに釣られる様に龍也は顔を空に向け、

「……満月がどうかしたのか?」

満月がどうかしたのかと言う疑問を口にする。
空に浮かぶ満月は、普通に綺麗な満月だ。
少なくとも、龍也の目にはそう映ってる。
満月を見た龍也の反応から、予想通りと言った表情を幽香は浮かべ、

「目を凝らして良く満月を見てみなさい。ほんの僅かだけど、欠けているから」

ほんの僅かだが満月が欠けている事を龍也に教え、目を凝らして満月を見てみろ言う。
そう言われたからか、龍也は目を細めて満月を注視し、

「……言われてみれば欠けてる様な気もするな」

何とも曖昧ではあるが、満月が欠けている様な気がすると漏らす。
自分では今一分からなかったが、幽香がそう言うのならそうなのだろうと龍也は思い、

「でも、それがどうかしたのか?」

視線を幽香の方に向けながら満月がほんの僅かに欠けている事がどうかしたのかと聞く。
野宿し様とした矢先に大量の妖精に襲われた以外、特に何かが起こったと言う訳でも無いので龍也が幽香にそう聞いたのは当然と言えば当然だ。
今一つ状況が掴めていないと言った感じの龍也に、

「今日の月は満月である日。だと言うのに、今見えている満月はほんの僅かだけど欠けてる。これはつまり、何者のかが人為的な方法で満月を欠けさせたと
言う事。本来満月が浮かぶ日に欠けた満月が浮かんでいるせいで狂い始めてる妖怪が出ているの。解り易く言えば偽りの月が浮かんでいる事で暴走してる」

幽香は今、何が起こっているのかを簡単に説明する。

「暴走? 何でまた」
「妖怪って言うのは、大なり小なり月に影響を受けている者が多いのよ。だから、月に何かしらの異常が起きればそれに呼応して狂う妖怪も少なくは無いのよ」

月に影響が出たら暴走をするのかと言う疑問を抱いた龍也に、妖怪は大なり小なり月に影響を受けている者が多いと言う事を幽香は教え、

「ある一定以上の力が有れば月に異常が出てもそう簡単に狂わなくなるし、月の影響を全く受け無い妖怪も存在するわ」

実力次第では月に異常が出たとしても簡単には狂わなくなるし、月の影響を全く受け付け無い妖怪が居ると言う補足を行なう。

「へぇー……」

妖怪に関する一寸した知識を教えられ、感心した表情を浮べている龍也に、

「人間に例えるなら、太陽が何ヶ月も見えなくなると言った状態かしらね。一寸大袈裟かもしれないけど」

月が欠けていると言う事態を人間に例えたらどう言う事態になるかを伝える。
人間で例えられたからか、

「そりゃ大変だ」

人為的な方法で満月が欠けさせられた現状の危険性を龍也は理解した。
もし、幽香の例え通り太陽が何ヶ月も見えなくなったら。
狂う人間は必ず出て来るであろう。

「そう、大変なのよ。今の時点でも下級妖怪の更に下の妖怪と妖精などが狂い始めている。これが続けば大変な事になるでしょうね」
「だな」

現在の状況を龍也が理解した事で満月が欠けた儘では大変な事態になる事を幽香が言うと、龍也から同意の言葉が発せられたので、

「と言う訳で、龍也。私と一緒に異変解決に行かないかしら?」

いけると判断した幽香は龍也に一緒に異変解決に行かないかと提案する。
事情を知ってしまった以上、この異変を放置すると言う事は龍也には出来ないので、

「分かった、一緒に行くよ」

幽香と一緒に異変解決に行くと言う提案に乗る事にした。
龍也が自身の提案に乗ってくれたので、幽香はご機嫌と言った表情を浮かべ、

「そうこなくっちゃ」

空中へと躍り出る。
それを追う様に龍也も空中に上がり、

「場所は分かるのか?」

月を欠けさせると言う事を仕出かした者が何所に居るのかを問うと、

「ええ、分かってるわ。付いて来て」

幽香は分かっていると口にし、移動を開始した。
なので、龍也も幽香の後を追う様に移動を開始する。
























龍也と幽香が異変解決に赴いてから幾らか経つと、二人の進行方向上に沢山の妖精が現れた。
無論、只妖精達が現れたと言う訳では無い。
妖精達は現れて早々に龍也達に向けて弾幕を放って来たのだ。
放たれた弾幕を見た龍也と幽香は回避行動を取り、

「そら」
「いくわよ」

お返しと言わんばかりに弾幕を放ち、妖精達を撃ち落していく。
だが、幾ら妖精達を撃ち落しても次から次へと追加の妖精が現れて来る。
この儘龍也と同じ場所で弾幕を放っていても埒が開かないと判断した幽香は、

「私は左から来るのをやるから、龍也は右の方から来るのをお願い」

龍也にそう指示を出す。
妖精は左右前方から現れて来るのが殆どなので、出て来たところを叩くと言う方法は中々に効率的だ。
なので、

「あいよ」

異論を挟む事無く龍也は幽香の指示を受け入れて右側に向かい、右側から現れて来る妖精を撃ち落していく。
対する幽香も、左側から現れて来る妖精を撃ち落していた。
二方向に分かれ、妖精達を撃ち落している中で、

「んー……何か妖精が思っていたよりも強いな……」

妖精が思っていたよりも強いと言う感想を龍也は漏らす。
異変時は妖精の強さが上がるが殆どだが、それを踏まえても今相手にいている妖精達は思っていた以上に強いと龍也は感じた様だ。
現れて来る妖精達の強さには幽香も思うところが在ったからか、

「狂った影響で普段よりも実力が上がってるのかしら?」

妖精達の強さの上昇は狂った影響ではないかと言う推察をする。

「そうなのか?」

幽香の推察は説得力が在った為、龍也が思わずそう問うと、

「可能性でしかないわね」

あくまで可能性でしかないと幽香は返し、一列に並んでいる妖怪に目を向けて弾幕を放つのを止め、

「でも、本当に狂った影響で強くなったとしても……」

代わりと言わんばかりに掌からレーザーを放ち、一直線に並んでいた妖精を薙ぎ払った後、

「私達の敵では無いわ」

自分と龍也の敵では無いと断言し、レーザーを放つのを止める。
確かに、幽香が断言した通りこの程度の相手に苦戦する事も無いので、

「だな」

同意する発言を龍也はしながら放つ弾幕の量を増やしていく。
そして、視界上から妖精の姿が見えなくなると龍也は弾幕を放つのを止め、

「取り敢えず、これで一段落か」

一息吐き、弾幕を放つ為に上げていた腕を降ろす。
しかし、

「……一段落着いて無かったな」

腕を降ろした直後に追加の妖精達が現れてしまった。
すんなり進めさせてはくれないかと思いながら顔を上げた龍也の目に、

「何だ、あれ?」

妙な物が映った。
映っている物と言うのは、白い塊。
現れた妖精達の周囲に白い塊が展開されているのだ。
目に映っている白い塊は何だと言う疑問を龍也が抱いたのと同時に、白い塊から弾幕が放たれた。
白い塊から攻撃が行なわれた事で、あれはオプション兵装の類かと龍也は考えつつ、

「……っと」

回避行動を取り、迫り来る弾幕を避けていく。
攻撃を加えて来た事から白い塊はオプション兵装の様な物と龍也は判断し、弾幕を放つ。
放たれた弾幕は白い塊を容易く突破し、妖精達を撃ち落していく。
次から次へと撃ち落されていく妖精達を見て、

「んー……大して硬くは無いんだな」

妖精の周囲に展開されている白い塊は大して硬くは無いなと呟く。
そんな龍也の呟きを聞いた幽香は、

「狂った影響で強さが上がっただけじゃなく、何らかの特殊能力も付与されたのかしら? 妖精がオプション兵装を生み出す何て話、聞いた事が無いし」

狂った事で強さが上昇しただけではなく、何らかの特殊能力が付与されたのではと考えていく。
龍也と幽香が一寸した考え事に意識を向けている間にも、襲撃者である妖精達がまた現れて来る。
おまけに、妖精達だけではなく回転する謎の飛行物体まで現れたではないか。
この儘考え事に意識を向けていては被弾してしまうのではないかと思われたが、

「狂った影響で強さの上昇だけじゃなくて特殊能力が付与されるって事は、妖怪にも何らかの特殊能力が付与されるって事か?」
「狂っているのが妖精だけじゃなく、妖怪もだからか可能性は十分に在るわね」

二人は雑談を交えながら襲撃者である妖精と回転する謎の飛行物体を容易く撃退していた。
一人なら兎も角、二人であるならば多少意識を他に向けても襲撃者の対処は問題無い様だ。
それから幾らかすると敵襲が止んだので、龍也と幽香は迎撃行動を止める。
襲撃者が現れなくなった事で暫らくに平和に進められそうであったが、

「こんな夜更けにこんな場所で何をしてるのかしら?」

何者かが進行方向上に現れた為、平和に進めると言う淡い希望は打ち砕かれてしまった。
が、その程度の事で一々落ち込む気は無い龍也と幽香は一旦進行を止めて現れた者の姿を確認しに掛かる。
現れた者は肩口に届くか届かない位の長さの緑色の髪に触角を生やし、白いシャツに黒い短パンに黒いマントを身に付けた少女であった。
少女の風貌と少女から感じられる妖力から、

「お前……妖怪か」

少女を妖怪と仮定した龍也に、

「私の名前はリグル・ナイトバグ。察しの通り妖怪よ」

少女は軽い自己紹介を行ない、妖怪である事を肯定すると、

「ふーん……貴女、虫妖怪ね」

リグルがどの様な妖怪であるかを幽香を察し、

「花を食い荒らすような悪い害虫は……退治するに限るわね」

傘を構えながら少し獰猛さが感じられる笑みを浮かべる。
その瞬間、

「ちょ、一寸!! この人怖いんだけど!!」

リグルは怯えた表情を浮べながら後ろに下がり、

「大体、私は虫妖怪だけど蛍の妖怪なんだから花を食い荒らす様な事はしないって!!」

虫妖怪だが自分は蛍の妖怪なので花を食い荒らす様な事はしないと言う主張を行なう。

「へー、蛍の妖怪なのか」

蛍など滅多に見た事が無いからか、龍也は若干興味深そうな視線をリグルに向けた。
龍也の視線から、男の方なら自分の味方のなってくれるとリグルは感じたからか、

「そうそう、蛍の妖怪!! 幾ら私が"蟲を操る程度の能力"を持っているからってそんな、花を食い荒らす何て真似は……」

必死に自分が無害な存在である事を主張していく。
だが、

「へぇー……"蟲を操る程度の能力"ね……」

余計な部分まで喋ってしまった事で幽香の気を悪い方向に引いてしまった。
幽香からの視線が強まった事を感じ取ったリグルは、

「……あ」

気付く。
やろうと思えば花を食い荒らす害虫を何時でも嗾けれると言ってしまった事に。
勿論、リグルは弁明し様としたが、

「後顧の憂いはここで絶って置くべきかしら……ね」

弁明する前に幽香は軽い殺気をリグルに叩き付ける。
軽い殺気と言っても、それは幽香基準であったからか、

「ひぃー!! だ、弾幕ごっこで勝負よ!!」

怯えた表情を浮べながらリグルは弾幕ごっこで勝負だと言い、大量の弾幕を放って来た。
迫り来る弾幕を視界に入れ、

「……どうしてこうなった」

どうしてこうなったと呟きながら龍也は回避行動を取る。
まぁ、上手くいけば戦闘を避ける事が出来たかもしれないのだ。
愚痴の様なものを呟くのも仕方が無いと言えば仕方が無いだろう。
とは言え、どれだけ愚痴を呟いたとしても弾幕ごっこが中止になると言う訳でも無い。
だからか、龍也は覚悟を決めたと言う様な表情を浮べて弾幕を放つ。
放たれた弾幕はリグルの弾幕を掻い潜る様にリグルへと迫り、

「あう!!」

リグルに弾幕が命中していく。
被弾し始めた事でこの儘では不味いとリグルは判断し、攻め手を変えるかの様に弾幕の他に白い塊を放ち始めた。
放たれた白い塊を見て、

「あれは……」

先程まで撃退していた妖精の事を龍也は思い出し、一旦弾幕を放つのを止める。
妖精同様リグルも狂っているのかと龍也は考えたが、普通に会話をする事が出来るので狂っていると言う考えを却下した。
となれば、偽りの月が空に浮かんで事で妖怪妖精問わずに白い塊を放つ能力を得たと考えるのが妥当であろうか。
リグルも他の妖精達と同じ様に白い塊を放つ能力を得たのかと言う部分にまで思考を走らせた辺りで、

「……っと」

リグルから放たれた白い塊が近くにまで迫って来たので、龍也は意識を現実に戻す。
迫って来ているものは弾幕と白い塊。
弾幕と白い塊を避ける事は然程難しくは無いが、問題は白い塊。
白い塊が妖精達が同じものであるならば、リグルが放った白い塊からも弾幕が放たれる可能性は十分に在る。
だとしたら、不用意な回避行動が逆に危機を招く結果になるであろう。
そう思い、白い塊から弾幕が放たれるのを想定して龍也が身構えると、

「やっぱりな」

龍也の想定通りと言った感じで白い塊から弾幕が放たれる。
なので、先ずは白い塊を破壊し様と龍也が白い塊に狙いを定めて弾幕を放とうとした瞬間、

「なに……」

上空からレーザーが照射され、白い塊が薙ぎ払われた。
急にレーザーが照射された事に龍也は驚くも、レーザーを照射させた者が誰なのかを確認する為に顔を上げる。
顔を上げた龍也の目には、傘を下方に向けて構えている幽香の姿が映った。
映った幽香の姿から、幽香が白い塊を破壊してくれたのだと言う事を龍也は理解し、

「サンキュ!!」

礼の言葉を述べ、再びリグルに向けて弾幕を放つ。
再度放たれた弾幕を見たリグルは弾幕と白い塊を放つの止め、後ろに下がりながら回避行動を取り始めたが、

「あう!!」

迫り来る弾幕を全て回避する事は出来なかった様で、何発か被弾してしまった。
弾幕ごっこでの弾幕なので大したダメージは無いと言っても、この儘被弾し続けたら敗北してしまう。
だからか、状況を打開する為にリグルは懐に手を入れながら更に後ろへと下がり、

「蛍符『リトルバグストーム』」

懐からスペルカードを取り出し、スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動されたと言う事で龍也が一旦弾幕を放つのを止めると、リグルから大量の弾幕が円を描く様に発射された。
発射された弾幕はリグルからある程度離れると一旦止まり、止まった弾幕は別れる様に飛んで行き、

「序にこれも!!」

更に、リグルから白い塊が放たれた。
弾幕、白い塊と言う攻撃方法は先程と同じである。
が、今回はスペルカードで放たれた弾幕なので先程と同じ様にいかないであろう。
下手な行動を取れば弾幕が立て続けに命中し、撃墜される可能性も十分に考えられる。
相手の攻撃パターンを見極めると言うのも手だが、今回の異変の性質上余り時間を掛けるのは余り宜しくない。
なので、龍也は正面から攻める事を決めて懐に手を入れる。
そして、懐からスペルカードを取り出し、

「炎鳥『朱雀の羽ばたき』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動したのと同時に龍也の瞳の色が黒から紅に変わり、龍也から炎で出来た大きな鳥が放たれる。
放たれた炎の鳥は弾幕、白い塊を物ともせずにリグルに向かって突き進んで行く。
自分の攻撃など物ともせずに突き進んでくる炎の鳥を見たリグルは慌てて回避行動を取ったが、

「あう!!」

炎の鳥から逃げる事が出来ず、炎の鳥の突撃をまともに受けてしまった。
直撃を受けたリグルは森の中に墜落してしまったので、龍也は後を追う様に森の中に降下していく。
降下し、地に足を着けた龍也は墜落したリグルを探す為に森の中を探索する。
木々が中々に生い茂っている為、リグルを見付け出すのには些か時間が掛かると思われたが、

「痛たたたたた……」

大した時間を掛ける事無く、頭を擦っているリグルを見付ける事が出来た。
墜落した際に頭を打ったのだろうか。
ともあれ、リグルを見付けた事で、

「よう」

龍也はリグルに一声掛け、リグルに近付いて行く。
声を掛けられた事で龍也の存在に気付いたリグルは頭を擦るのを止めて顔を上げ、

「あー……」

何かを考える様な素振りを見せた後、

「……降参。私の負け」

項垂れるかの様に自分の負けを宣言し、戦意を消す。
リグルから感じていた戦意が無くなった事で、龍也は発動させていたスペルカードを止めた。
すると、上空を飛んでいた炎の鳥が消失して龍也の瞳の色が紅から元の黒色に戻る。
取り敢えず、弾幕ごっこが終わった事で戦闘体勢を龍也が完全に解いた辺りで、

「ん?」

龍也の傍に何者かが降り立った。
降り立った者が誰であるかを龍也は何となくでは分かったので、

「さっきはありがとな、幽香」

降り立った者の方に振り返ると言った事はせずに、援護攻撃をしてくれた幽香への礼の言葉を述べる。
述べられた礼に対し、

「どういたしまして」

幽香はどういたしましてと返し、龍也の隣に並び立つ。
やはりと言うべきか、先程降り立った者は幽香であった様だ。
それはそうと、龍也の隣に降り立った幽香は獰猛さが感じられる笑みを浮かべ、

「さて……」

一歩、リグルの方に大きく歩み寄る。
その刹那、

「ひ、ひいー!! 命だけはお助けを!!」

リグルは怯えた表情を浮べながら後退って行く。
リグルの怯え様から、何だか弱い者虐めをしている気分になった龍也は幽香を止め様としたが、

「何を怯えているのよ、貴女」

龍也が何かを言う前に、幽香は何処か飽きれた感じ何を怯えているんだとリグルに声を掛ける。
てっきり叩き潰されるのではと思っていたリグルは、

「……え」

間の抜けた表情を浮べてしまった。
そんなリグルが面白かったかったからか、幽香は笑みを浮かべ、

「さっきのは冗談よ。虫が居なければ花にも悪いしね」

冗談だと言いながら無視の存在が無ければ花にも悪い事を話す。
幽香の話を聞き、居る必要が在ると言う虫は花粉などを運ぶ虫だろうと龍也が思っていると、

「じゃ、じゃあ……」

希望に満ちたかの様な表情をリグルは浮べたが、

「但し……花を食い荒らすような真似をしたらどうなるか……解ってるわよね?」

警告とも言える脅しが若干の殺気と共に幽香の口から紡がれた。
紡がれた発言を頭に入れた龍也が改めて幽香にとって花は何よりも大切なものなのだと思っていると、リグルは慌てて立ち上がりながら姿勢を正し、

「はい!!!!」

気合が入った声で肯定の返事をする。
発せられた返事を耳に入れた幽香は満足気な表情を浮かべ、

「それじゃ、先へ進みましょ。龍也」

龍也に先へ進む様に促す。
もうここでしなければ成らないことは何も無いので、

「ああ、そうだな」

先に進むと言う件を龍也は了承する。
お互い先に進む事に異議無しと言う事で、龍也と幽香は一緒に空中へと上がり、

「目的地は……こっちで良いんだよな」
「ええ、こっちで良いわ」

再び偽りの月を空に浮べた者が居る方へ向かって行った。























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