リグルを倒し、移動を再開した龍也と幽香は妨害と言える様なものを受けずに異変の首謀者が居る場所を目指して順調に進んでいた。
だが、何時までも妨害が無い順調な道中と言うものは在り得ない様で、

「あーあ、これで平和な道中も終わりか」
「あら、良いじゃない。異変の首謀者と戦う為の準備運動になって」

龍也と幽香の進行方向上に襲撃者、回転する謎の飛行物体が現れる。
無論、現れた回転する謎の飛行物体の数は一体や二体では無い。
複数だ。
おまけに、現れて早々に回転する謎の飛行物体は突撃や弾幕と言った攻撃を仕掛けて来た。
仕掛けられた攻撃を前にした龍也と幽香の二人は、

「……じゃ、やるか」
「ええ、やりましょうか」

軽く声を掛け合い、散開するかの様に一旦二手に別れて弾幕を放つ。
放たれた弾幕は次から次へと回転する謎の飛行物体に命中していき、回転する謎の飛行物体を撃ち落していく。
襲撃者の撃退と進行。
その両方を同時に行なっている龍也と幽香の二人の前に、今度は妖精達が現れる。
新たに現れた妖精達は、先程の妖精達と同じ様に白い塊を出現させて自分の周囲に展開させた。
展開された白い塊を見て、

「あれは少し面倒なんだよな……」

龍也は軽い愚痴の様なものを零し、白い塊の撃破を優先するかの様に弾幕の放ち方を変える。
少々用心深いかもしれないが、月に異常が出ているせいで妖精達の強さが上昇している可能性が考えられているのだ。
何時もの調子で進むよりはずっと良いだろう。
兎も角、龍也が少々用心深い戦い方で妖精達を全て撃退した瞬間、

「またか……」

再び回転する謎の飛行物体が現れた。
再度同じ敵が現れる事になったが、龍也と幽香のやるべき事に変わり無い。
降り掛かる火の粉は払うだけと言わんばかりの勢いで二人は回転する謎の飛行物体に弾幕を叩き込み、撃ち落していく。
それが終わると二人は弾幕を放つのを止め、再び先を急ぎ始めたが、

「……まただな」
「……ええ、またね」

龍也と幽香の進行方向上に妖精達がまた現れた。
回転する謎の飛行物体と妖精が現れると言う事態が繰り返された事で、こいつ等を一掃したら三度回転する謎の飛行物体が現れるのではと龍也が思っていると、

「ん……」

妖精達から白い塊が展開される。
展開された白い塊を見て、またあれを盾にする気かと龍也が考えた時、

「何……」

妖精達がリグルと同じ様に白い塊を龍也と幽香に向けて飛ばして来た為、龍也は驚きの表情を浮べてしまう。
何故ならば、妖精が白い塊を飛ばして来る事など想定の範囲外であったからだ。

「…………………………………………………………」

リグルと会うまでに出て来た妖精は白い塊を飛ばして来なかったが、今出て来た妖精は白い塊を飛ばすと言う事を可能としていた。
この事から、異変時の妖精は異変の首謀者の居る所から近ければ近い場所に居る程に強さを増すと言う推察は正しいのではないかと龍也は感じ始める。
萃香が起こした異変の時は大量の妖精に襲われる事が無かったから除外するとして、レミリアと幽々子が起こした異変。
どちらの異変も、先に進めば進む程に妖精は強くなっていったのだ。
一度や二度なら兎も角、三度も同じ事が続けば推察が正しいと断定しても良いだろう。
尤も、白い塊を放てる様に成った事が強さの上昇に繋がるかは分からないが。
まぁ、その答えは先に進めば出て来るであろう。
暫しの間思考に耽っていたせいで、龍也は白い塊が眼前に来るまで棒立ちで立っていた為、

「ッ!!」

慌てた動作で今居る場所から離れ、意識を切り替える。
取り敢えず白い塊を避けれて一安心するも束の間、妖精から弾幕が放たれた。
白い塊と弾幕と言う構成。
つい先程、リグルとの弾幕ごっこで見たなと言う感想を龍也が抱いたのと同時に、

「お……」

追加の妖精達が現れ、現れた妖精達は一斉に白い塊と弾幕を放って来た。
一体や二体程度の数なら兎も角、弾幕と白い塊を放って来ている妖精の数は相当なもの。
これでは、弾幕や白い塊を避ける事がかなり厳しくなると誰もが思うだろう。
だが、

「……っと」

大量の弾幕と白い塊を、龍也は余裕が感じられる表情で避けていた。
どうやら、只数が多いだけの弾幕などは龍也に取って大した脅威には成らない様だ。
妖精達からの攻撃を順調に避けている龍也に向け、

「妖精がここまでの攻撃をして来る何て……月の異常を踏まえたとしても一寸驚きね」

同じ様に妖精達からの攻撃を余裕が感じられる動きで避けていた幽香が妖精の強さに驚いたと言った話題を出す。
やはりと言うべき、幽香も妖精達の強さに驚きの感情を抱いている様である。
それはそれとして、こうやって一緒に異変解決に赴いているのだ。
情報の共有はして置くべきだと龍也は判断し、

「異変の時って異変の首謀者に近付けば近付く程に妖精は強くなっていったからな。今回はそれにプラスして月の異常での相乗効果でこれだけの力を
持ったのかもしれないな」

異変時に置いての妖精に付いての情報と、今回の妖精達の強さの上昇に付いての自身の考えを伝える。
伝えられた内容を頭に入れた幽香は、

「ふむ、成程……」

納得したと言った表情を浮べつつ、

「けど、この辺りの妖精が元から強かったからこれだけの攻撃を行なえる様に成ったとも考えられないかしら?」

別の可能性を提示した。
異変の首謀者の居る所に近付いているのと月の異常はおまけ程度で、元々強かったからここまでの攻撃を行なえたのではと言う説。
確かに、幽香が提示した可能性も十分に考えられる。
何せ、チルノと言う妖精の中でも群を抜いた強さを誇っている者が居るのだ。
チルノには及ばずとも、それでも他の妖精とは比べ物にならない程の強さを持っている妖精が居たとしても何の不思議では無い。
どちらにしろ、妖精達の強さが今まで異変時よりも高いのであれば今回の異変解決は一筋縄ではいかないであろう。
とは言え、それは一人で異変解決に赴いた場合。
今回は一人ではなく、最初っから二人で異変解決に赴いているのだ。
故に龍也と幽香が考えた可能性が両方とも正しく、異変の元凶が居る場所までの道中に出て来る妖精が今までの異変の時よりも強かったとしても。
そこまで手古摺りはし無い筈と言う判断を龍也が下したタイミングで、

「……好い加減、鬱陶しくなって来たわね」

若干苛付いた声色で、鬱陶しくなったと言う言葉を幽香は漏らした。
鬱陶しいと言うのは龍也としても同意出来る部分であったからか、

「なら、そろそろ反撃開始といくか」

龍也はそう言いながら弾幕を放ち始める。
しかし、

「ち……」

妖精達から放たれる弾幕と白い塊の量が余りにも多い為、龍也の弾幕は妖精達には中々当たらなかった。
思っていた以上に妖精の数を減らせない事で龍也が悪態を吐くと、

「ふむ……この弾幕量だと量よりも質の攻撃をした方が良いわね」

量よりも質を優先した攻撃をした方が良いと幽香が零す。
幽香が零した発言が耳に入った龍也は納得した表情を浮かべ、

「確かにな」

弾幕を放つのを止める。
そして、高威力のレーザー辺りでも放とうかと考えた刹那、

「おっと」

直ぐ近くにまで妖精達の弾幕が迫って来ていた為、放とうとしていた攻撃を中断するかの様に回避行動を取った。
回避行動を取った事で妖精達の弾幕に当たる事は無かったが、

「ん?」
「あら?」

弾幕の代わりと言わんばかりに別の何かとぶつかってしまう。
何にぶつかった確認する為に顔を動かすと、幽香の姿が龍也の目に映った。
序に言うと、幽香は龍也と鏡写し様な体勢を取っている。
この事から、幽香も自分と同じ様に回避行動を取ったのだと言う事を龍也は推察しつつ、

「悪いな」

ぶつかった事に対する謝罪を行なう。

「別に気にする事は無いわ。私もぶつかった訳だし。それよりも正面を見てみなさい」

行なわれた謝罪に幽香は大した事は無いと返し、正面を見る様に促す。
促される形で正面を向いた龍也の目には、妖精の一団が正面に固まって弾幕を放っているのが映った。
まるで纏めて倒してくれと言わんばかりの配置に龍也は軽い笑みを浮かべ、片腕を前方に伸ばす。
すると、伸ばした龍也の片腕に合わせる様に幽香も片腕を前方に伸ばし、

「いくわよ」

いくわよと声を掛ける。
掛けられた声で幽香が何をし様としているのかを龍也は理解し、

「ああ」

ああと言う言葉と共に掌から霊力を放つ。
同時に、幽香の掌からも妖力が放たれる。
放たれた霊力と妖力は混じり合い、威力と大きさを激増させながら突き進んで行く。
弾幕と白い塊だけではなく、攻撃を行なって来た妖精をも呑み込みながら。
取り敢えず眼前の敵を一掃出来た事で満足気な笑み浮かべながら幽香は腕を下ろし、

「それじゃ、サクサク進んで行きましょう」

今までの遅れを取り戻すかの様にスピードを上げて移動を再開した。
スピードを上げた幽香に引き離されない様に龍也もスピードを上げ、

「あ、おい。待てよ」

幽香の後を追い掛ける。
龍也と幽香が放った合体技の様な攻撃で眼前の敵だけではなく進行方向上の敵も呑み込んだのか、移動を再開してからは何の邪魔も入らなかった。
だからか、

「この分だと、さっきの遅れを余裕で取り戻せそうだな」

つい先程妖精達を撃退する為に取られた時間を余裕で取り戻せそうだと龍也は呟く。

「そうね、取り戻す処かお釣りが来るわね」

龍也が呟いた事に幽香は同意を示しつつ、

「偽りの月じゃ無かったら、良い月夜の散歩に成ったんだけどねぇ……」

軽い愚痴の様なものを漏らす。

「ああ、月夜の散歩。あれ良いよな」
「まぁ、貴方は年がら年中幻想郷を歩いて回っている様なものなのだから月夜の散歩何て毎日やってる様なものでしょ」
「確かに毎日やってる様なものだけどよ、飽きないものだぜ」
「それは解るわ。私も年がら年中幻想郷を回っている様なものだけど、月夜の散歩は何度やっても飽きないのよね」

漏らされた月夜の散歩と言う部分から、龍也と幽香が月夜の散歩に付いての軽い雑談を交わしていると、

「あら、人間と妖怪がこんな時間に仲良くお散歩? 珍しいわね」

何者かが龍也達の進行方向上に現れた。
進行方向上に何者かが現れた為、龍也と幽香は動きを止めて現れた者の姿を確認する為に顔を上げる。
顔を上げた龍也の目には、

「……ミスティア?」

ミスティア・ローレライの姿が映った。
どうやら、現れた者はミスティアであった様だ。

「あれ、龍也じゃない。どうしたの? こんな時間にこんな所で」

ミスティアの方も龍也の存在に気付き、こんな所で何をしてるんだと言う疑問を抱く。
抱かれた疑問に対する答えを龍也は述べ様としたが、

「あら、この妖怪と知り合いなの? 龍也」

幽香からミスティアと知り合いなのかと言う事を聞かれた為、

「ああ、こいつはミスティアって言う妖怪だ。ミスティアは屋台をやっててな。俺はそこの常連」

反射的にミスティアの名とミスティアが屋台をやっている事を幽香に教える。
ミスティアが屋台をやっている事を知った幽香は、

「へぇ、妖怪が屋台をねぇ……」

少し意外と言った様な表情を浮べた。
それだけ、妖怪であるミスティアが屋台をやっている事は意外なのであろうか。
兎も角、ミスティアの事を幽香に伝えられたからか、

「ミスティア。今、俺と幽香は異変解決に向かっている最中でな。急いでいるから、何も言わずにここを通して欲しいんだが……」

龍也は話を戻すかの自分達は異変を解決する為に行動している事をミスティアに教え、先に進ませて欲しいと言う頼みを述べる。
頼まれた内容を耳に入れたミスティアは改めてと言った感じで龍也の方に体を向け、

「うーん……残念だけど、今の私は屋台の店主ではなく一人の妖怪」

今の自分は一人の妖怪である事を主張しながら自身の翼を羽ばたかせ、

「こんな真夜中に人里の外を出歩くって事は、妖怪に襲ってくれと言ってる様なもの」

真夜中に人里の外を出歩くと言う事は妖怪に襲ってくれて言っているのも同じだと語り、

「そして、こんな真夜中に人里の外で妖怪と出会った人間は襲われて食べられちゃうんだけど……」

僅かに獰猛さが見られる表情で龍也を見詰め、龍也を食べてしまう様な事を口にし出した。
幻想郷中を己が足で歩いて回っている龍也にとって、妖怪に襲われる事など日常茶飯事だ。
だが、ミスティアの様に交友関係が在って仲の良い相手と殺し合いを演じた事など全くと言って良い程に無い為、

「…………………………………………………………」

何処かやり難そうな表情を龍也は浮かべる。
しかし、ミスティアに取って龍也は特別扱いするに値する人間であった様で、

「でも、龍也は私の屋台のお客様第一号でお得意様だから……弾幕ごっこでボコボコにするだけで許して上げる」

食べると事はせずに弾幕ごっこでボコボコにしてやると言い放った。
取り敢えず、ミスティアと殺し合いになる様な事態が避けられたが一戦交えると言う事までは避けられない様だ。
とは言え、ミスティアと殺し合いをするよりはずっとマシであるので、

「弾幕ごっこで俺をボコボコに……ね。そう上手くいくかな?」

乗り気な笑みを浮べつつ、龍也はミスティアに軽い挑発を行なう。
龍也からの挑発を受けたミスティアは少し後ろに下がり、

「ふーん、強気ね」

両腕を前方に突き出し、

「だったら……ボコボコにする序に、妖怪の怖さと強さを教えて上げる!!」

これが弾幕ごっこの開始の合図だと言わんばかりに大量の弾幕を放ち始めた。
迫り来る弾幕を龍也は視界に入れ、

「よっと」

的確な動きでミスティアの弾幕を避けていく。
弾幕を避ける龍也の動きから余裕を感じたミスティアは、

「あら、意外とやるじゃない」

少し驚いたと言った表情を浮かべ、

「なら、これならどう?」

弾幕と一緒に白い塊を飛ばして来た。
既にリグルと言う前例が在った為、龍也は特に動揺する事無く白い塊の射線上から離れたが、

「ッ!?」

直ぐに驚きの表情を浮べてしまう。
何故ならば、白い塊が通った場所には少し大きめの弾が設置されていたからだ。
また新たな能力が付加されたのかと言う事を思いつつ、

「移動制限か……」

移動制限をされた事を呟き、白い塊が通った部分に目を向ける。
目を向けた部分に在る弾はくっ付いている訳ではなく、弾と弾の間には龍也でも滑り込めそうな隙間があった。
弾幕の量などが多い為、上手くあそこに潜り込めばミスティアの視界から消える事が出来ると龍也は判断し、

「……………………………………………………………………」

弾と弾の間に自身の体を滑り込ませる。
すると、

「あ……あれ? ど……何処に行ったの?」

狙い通りと言うべきか、ミスティアは龍也の存在を見失ってしまった。
そして、見失った龍也を探すかの様にミスティアは弾幕を放つのを止める。
その瞬間、

「今だ!!」

龍也は滑り込んだ場所から抜け出し、弾幕を放つ。
姿が消えたと思ったら行き成り現れ、驚く暇も無く弾幕を放たれたからか、

「わっ!! わっ!! わっ!!」

ミスティアは驚きながら回避行動を取り始めた。
が、

「痛ッ!! 痛たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!!!」

取った回避行動は不十分なものであった為、ミスティアは龍也の弾幕を何発も受けてしまう。
この儘いけば、只の弾幕だけでミスティアを倒せそうな雰囲気であったが、

「くっ!!」

ミスティアは突き抜ける様な動きで弾幕の射線上から離脱した。
射線上からミスティアが逃れて行ったのを自身の目で捉えた龍也は一旦弾幕を放つのを止め、離脱したミスティアの方に顔を向けると、

「あ……あれ? 龍也って、若しかして凄く強い?」

龍也の強さに驚いたと言った様な表情をミスティアが浮べているのが分かった。
どうやら、ここまで龍也が戦えるのはミスティアに取って完全に想定外の事であった様だ。
それはそれとして、ミスティアが自分の強さに驚いている発言を零したのを聞き取った龍也は、

「ま、弱かったら幻想郷中を旅して回る事何て出来やしないしな」

弱かったら幻想郷中を旅して回る事など出来ないと言う事をミスティアに伝える。

「龍也が幻想郷を旅してるのは屋台で聞いてたからそこ等の人間よりは強いと思ってたけど、こんなに強いとは思ってなかったわよー!!」
「なら降参するか?」

伝えられた事に返すかの様に龍也がこんなに強いとは思わなかったと言う事をミスティアが口にすると、龍也が挑発気味な声色で降参するかと問う。
問いと言うか挑発を受けた事で、ミスティアは挑発に乗ったと言う表情を浮かべ、

「冗談!! これ位で降参する私じゃ無いわ!!」

降参する気は無いと言う主張をしながら懐に手を入れてスペルカードを取り出し、

「鷹符『イルスタードダイブ』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動されるのと同時にミスティアから弾幕が放たれたので、龍也は回避行動を取ったが、

「視界が……暗くなった……」

急に視界が暗くなったので、訝しげな表情を浮べながら周囲の様子を伺う。
伺った結果、暗くなっているのは一部分だけだと言う事が分かった。
しかし、一部分と言ってもミスティアの姿は完全に見えなくなってしまっている。
これではミスティアが何処から攻撃を仕掛けている分かったものでは無いので、

「………………………………………………………………」

龍也は周囲を警戒するかの身構える。
身構えてから少し経った頃、

「ッ!?」

突如として、龍也の目の前に弾幕が現れた。
現れた弾幕を反射的に体を逸らす事で龍也は避け、弾幕が飛んで来た場所からミスティアの大体の位置を予測し、

「しっ!!」

予測した位置に向けて弾幕を放つ。
放たれた弾幕は直ぐに暗闇の中に入って見えなくなり、弾幕の行方が分からなくなってしまったが、

「あ痛!!」

暗闇の中から痛みを訴える声が聞こえて来た為、放った弾幕がミスティアに当たった事が分かった。
とは言え、聞こえて来た声から察するに全弾命中したと言う訳でも無さそうだ。
目視出来ないだけでここまで命中精度が落ちた事に龍也が何とも言えない表情を浮べている間に、

「うわ、これでも当てて来るの!?」

ミスティアから驚きの声が上げられる。
ミスティアとしては、今のスペルカードで龍也からの攻撃を完全に遮断する気であった様だ。
だと言うのに、龍也は弾幕を当てて来た。
だからか、

「夜盲『夜雀の歌』」

ミスティアは新たなスペルカードを発動させる。
すると、

「更に……暗くなっていって……ッ!?」

周囲を覆っていた暗闇が龍也の直ぐ傍にまで範囲を広げて来た事で、龍也は弾幕を放つのを一旦止めて周囲の警戒をし始めた。
目視出来る範囲は自身の間合いと同じかそれ以下である為、頼りなるのは己が動体視力と反射神経。
そして、今までの戦いで培って来た戦いの勘。
気持ちを切り替えるかの様に、今必要なものを龍也は頭に思い浮べていき、

「………………………………………………………………」

何時攻撃が来ても良い様に心を落ち着かせていく。
それから大した時間を置く事も無く迫り来る弾幕が龍也の目に映り、

「ッ!!」

龍也は反射的に体を逸らす。
無論、これだけでは終わらない。
次から次へと弾幕が龍也に向けて迫って来ているのだ。

「く……」

迫り来る弾幕をハラハラさせる様な動きで龍也は避けて行ったが、それも長くは続かず、

「ぐっ!!」

弾幕が龍也の体を掠り始めていく。
放たれる弾幕が龍也の目に映り、回避行動に移るまでの時間はかなり短い。
完全に回避し続けるのはかなり厳しいだろう。
更に言えば、回避から掠りに変わったのだ。
これから直撃に変わる可能性は十分に存在している。
そうなれば弾幕を立て続けに受け、敗北してしまう事であろう。
だとすると、早急に現状を打開する必要がある。
だが、視認出来る範囲が狭すぎて迫って来る弾幕からミスティアの居る位置を特定するのはかなり厳しい。
ならば、多少位置の特定が出来なくても問題無い攻撃をすれば良い筈。
そう考えた龍也は懐に手を入れ、スペルカードを取り出し、

「……………………………………………………………………」

一旦動きを止め、右手を前方に突き出した。
動きを止めてしまった事で龍也の体に次々とミスティアの弾幕が命中していくが、龍也はそれを無視するかの様に正面だけを見据える。
只弾幕をその身に受けると言う事をし始めてから幾らかすると、龍也は目付きを鋭くさせ、

「霊撃『霊流波』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動したのと同時に、龍也の右手から青白い閃光が迸る。
迸った閃光はミスティアの弾幕を呑み込みながら突き進んで行き、

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

何者かを呑み込んだ。
聞こえて来た悲鳴から察するに、呑み込まれた者はミスティアの様である。
まぁ、これは龍也とミスティアの弾幕ごっこなので呑み込まれた者がミスティアであるのは当然と言えば当然なのだが。
兎も角、発動させたスペルカードが直撃したのを龍也が感じている間に、

「お……」

暗闇が晴れ、視界が良好になり、

「あれは……ミスティア?」

森の中へと墜落して行っているミスティアの姿が龍也の目に映った。
どうやら、今のスペルカードで決着が着いた様だ。
決着が着いたと言う事で龍也はスペルカードの発動を止め、

「さて……」

墜落して行ったミスティアを追う様に降下して行った。
























「あ痛たたたたた……龍也って、こんなに強かったの……」

墜落した際にぶつけた頭を擦りながら龍也の強さが想定外と言った事を漏らしているミスティアに、

「大丈夫か、ミスティア?」

ミスティアを追う様に降下した龍也が森の中に足を着け、ミスティアに手を差し伸べる。
差し伸べられた龍也の手をミスティアは掴み、

「あ、ありがと」

礼の言葉を述べながら立ち上がり、

「ふう……」

服に着いた土汚れなどを手で払っていく。
そして、ある程度土汚れが払われた辺りで、

「そう言えば、龍也って何所に行こうとしてたの?」

ミスティアは龍也に何所に行こうとしていたのかを問う。
問われた事に対する答えとして、

「何所っつっても……異変解決に向かってるんだ。さっきも言ったろ」

異変解決に向かっている事を改めて教えると、

「そう言えば、そんな事も言っていた様な……。と言うか、異変なんて起きてたの?」

驚きの表情をミスティアは浮べてしまった。
どうやら、ミスティアは異変が起きていた事を知らなかった様だ。
今回の異変は妖怪ならば気付いて当然と言えるものであったからか、

「あら、気付いてなかったの?」

龍也と同じ様に森の中に地に足を着けた幽香が呆れた表情でそう言い、

「ほら、あの満月を見なさい。ほんの僅かだけど、欠けているでしょう」

ミスティアに天に浮かぶ満月を見る様に促す。
促されたミスティアは顔を天に向け、

「……あ、ほんとだ。欠けてる」

満月が欠けている事に気付く。
妖怪だと言うのに、こうやって指摘されるまで満月が欠けている事に気付かなかったミスティアに、

「人間が気付かないのなら未だしも、妖怪である貴女が気付かない何てね……」

呆れた表情を幽香が向けると、

「あううぅぅ……」

ションボリとした表情をミスティアは浮べてしまう。
落ち込んでしまったミスティアに、

「まぁまぁ、偶にはこう言う事もあるって」

龍也は慰めの言葉を掛け、

「それよか、進路ってどっちだっけ?」

幽香に進路はどっちだっけかと言う事を聞く。
弾幕ごっこをしている最中に進行方向が分からなくなったのだと言う事を幽香は察し、

「あっちよ」

ある方向に向けて指をさす。
指がさされた方向に顔を向け、決意新たにと言った表情を龍也が浮べた時、

「龍也」

ミスティアが龍也に向けて声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也がミスティアの方に顔を向けたタイミングで、

「異変解決……頑張ってね」

ミスティアの口から頑張ってと言う応援の言葉が発せられる。

「ああ」

応援の言葉に龍也はああと返し、跳躍を行なう。
跳躍を行った龍也を追う様に幽香は空中へ躍り出る。
そして、龍也と幽香は再び異変を起こした者が居る場所へと向かって行った。























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