霊夢、紫、藍、魔理沙、アリス、レミリア、咲夜、幽々子、妖夢の九人によるバトルロイヤルの様な弾幕ごっこに龍也が不意打ちを掛け、勝利を掻っ攫ってから暫らく。
龍也と幽香の二人はアリスの人形の後に続く様にして迷いの竹林の中を歩いていた。
そんな中で、
「しっかし、流石竹林って感じだな。何処を見ても竹ばっかりだ」
迷いの竹林に対する感想が龍也の口から零れた。
それが耳に入った幽香は、
「迷いの竹林って言う位だもの。竹の数が少なかったら拍子抜けじゃない」
迷いの竹林と言う名を冠しているのだから竹の数が少なかったら拍子抜けだと言い、
「ここ、迷いの竹林は本当に迷い易い所だから探索するのなら気を付けなさいよ」
ここを探索するのなら気を付けろと言う忠告の言葉を掛ける。
どうやら、この異変が終わった後に龍也が迷いの竹林を探索するであろう事を幽香は予測した様だ。
因みに、幽香の予測は合っていたからか、
「ああ、気を付けるよ」
龍也は気を付けると返した。
幽香と軽い雑談を交わしつつ、場所が場所なだけに目的地まではまだまだ掛かりそうだと言う事を龍也が思っていると、
「……っと」
アリスの人形が進行を止めたので、龍也は足を止める。
足を止めた龍也に続く様にして幽香も足を止め、
「着いたみたいね」
着いたみたいだと呟く。
龍也と幽香の目の前には、大きな屋敷が建っていた。
おそらく、この屋敷の中に異変を起こした者が居る筈。
やっと異変の首謀者が居る場所まで来たと言う事で、一寸した緊張感を龍也が抱き始めた瞬間、
「……ん?」
アリスの人形が龍也の頭の上に座り込んだ。
突然のアリスの人形の行動に龍也は少し驚くも、軽く頭を動かし、
「おーい……」
自分の頭に居座っているアリスの人形に声を掛ける。
しかし、アリスの人形は何の反応を返さず龍也の頭に居座った儘。
だからか、
「ふふ、どうやら龍也の頭が気に入ったみたいね。その子」
何処か微笑ましいと言った感じで幽香は龍也の頭の上がアリスの人形のお気に召したと称し、
「そこに見える表札を見るに、この屋敷は永遠亭と言うみたいね」
話を変えるかの様に見えている表札から屋敷の名前が永遠亭である事を龍也に教え、何かを考え込むかの様に黙ってしまった。
言うだけ言って黙り込んだ幽香が気に掛かった龍也は、
「ん? どうかしたのか?」
どうかしたのかと声を掛ける。
声を掛けられた幽香は龍也の方に顔を向け、
「私、迷いの竹林には何度も足を運んだ事があるの。ここでしか見られない花を見る為にね。けど、私はこの屋敷を見た事が一度も無い」
迷いの竹林には何度も足を運んでいると言うのに一度も永遠亭を見た事が無いと口にした。
「一度も無いのか? 何度もここに来た事があるのに」
「ええ、一度も無いのよ。何度もここに来た事があるのに」
一応一度も永遠亭を見た事が無いと言う部分の確認を取って来た龍也に、幽香は肯定の返事を返す。
返された返事を頭に入れた龍也は訝し気な表情を浮かべ、
「妙だな」
妙だと漏らす。
何度も迷いの竹林に足を運んだ事があると言うのに、一度も迷いの竹林に建っている永遠亭を見た事が無いと言うのは些か不自然であるからである。
幾ら迷いの竹林が非常に迷い易い場所であると言う事を踏まえたとしてもだ。
幽香が一度も永遠亭を見た事が無いと言う点に付いて龍也が少し頭を捻らせている間に、
「……おそらく、永遠亭に来ようと言う意志が無ければここを無意識に避けさせるって感じの術でも迷いの竹林全体に掛かってるんでしょ」
今まで一度も永遠亭を見付ける事が出来なかった理由に付いての自分なりの考えを幽香は話す。
確かに、幽香の話した通りなら幽香が今まで一度も永遠亭を見た事が無いと言うのにも一応の納得が出来る。
だとするならば、永遠亭に住む者はそれだけこの永遠亭と言う存在を隠して置きたいのだろうか。
ともあれ、永遠亭の中に入って異変を起こした者に話を聞けば色々と分かるであろうからか、
「……よし、行くか」
気持ちを切り替えるかの様に龍也は正面を見据え、これから永遠亭に乗り込むと言う意志を固めた。
永遠亭に乗り込むと言うのは幽香としても望むところである為、
「そうね、行きましょうか」
行くと言う部分に同意を示す。
そして、龍也と幽香は永遠亭の中へと入って行った。
永遠亭の中に入り、少し進んだ後、
「木の廊下に襖……純和風って感じだな」
龍也はそんな感想を漏らした。
それに続く様に、
「廊下には埃などが殆ど見られないから、少なくとも何者かの出入りがあるのは確かな様ね」
廊下に埃などが殆ど見られない事から、少なくとも何者かの出入りがある事は確かだと幽香は口にし、
「ここに異変の首謀者が居るかまでは分からないけど、この先から何かしらの力が存在している事は感じられるわね。最低でも、偽りの月をどうにかする事は
出来るでしょ」
この先に異変の首謀者が居るかまでは分からないが、最低でも偽りの月を何とかする事は出来るだろうと断言する。
取り敢えず、最低限の目的は達成するが出来そうなので龍也が一安心した瞬間、
「……ん?」
前方から妖精と思わしき一団が現れた。
但し、今まで現れた妖精と違って今回現れた妖精は、
「兎の耳を生やした妖精……」
兎の耳を生やしているのだ。
初めて見るタイプの妖精であるからか、龍也は少し驚いた表情を浮べてしまう。
その瞬間、現れた妖精は白い塊を自身の周囲に展開した。
今まで出て来た妖精が展開した白い塊は一重、二重であったが、今回現れた兎の耳を生やした妖精は違う。
白い塊を三重にして展開して来たのだ。
明らかに現れる妖精が強くなっていっている事を龍也が自身の目で見て実感している間に、展開されている白い塊から弾幕が放たれた。
放たれた弾幕を見た龍也と幽香は空中に躍り出て、妖精達からの弾幕を避ける。
弾幕を避け切った後、龍也は視線を眼下に向け、
「弾幕の量、密度、弾速が今まで出て来た妖精よりもずっと上だな」
弾幕の量、密度、弾速が今まで出て来た妖精よりもずっと上だと呟いた時、
「龍也。追加の妖精が来たみたいよ」
幽香から追加の妖精が来たと言う情報が伝えられた。
伝えられた情報を頭に入れた龍也が前方に視線を向けると、左右前方の方からも兎の耳を生やした妖精が迫って来ているのが目に映る。
流石にこの数の妖精から一斉に弾幕を放たれたら避けるのがかなり難しくなるからか、
「幽香、俺は左の方から来るのをやるからお前は右の方から来るのを頼む」
自分は左から来るのをやるので、幽香は右から来るのをやってくれてと言う頼みを龍也は行なった。
頼まれた事に異論は無いからか、
「了解」
了解と言う言葉と共に幽香は右前方の方に居る妖精達に向けて弾幕を放ち、次から次へと妖精達を撃ち落していく。
幽香の殲滅力の高さに龍也は少々驚くも、直ぐに気持ちを切り替えて左前方の方に居る妖精達を弾幕で撃ち落し始める。
しかし、現れた妖精の数が数である為か撃ち落し切る前に妖精達からの相当な量の弾幕が放たれてしまう。
だが、そこは龍也と幽香。
迫り来る大量の弾幕を器用に避け、自分達が放った弾幕を妖精達に当て続けていた。
そして、現れた妖精達を一掃し終えたタイミングで龍也は弾幕を放つのを止め、
「しっかし、こう言った屋敷の中でも妖精に襲われるとはな。紅魔館に居る妖精はメイドだったけど……若しかして、永遠亭も紅魔館と同じで妖精を労働力として
雇ってたりするのか?」
永遠亭も紅魔館と同じで妖精を労働力として雇い入れているのではと言う予測を立てる。
紅魔館には妖精メイド、阿求の屋敷には女中、白玉楼には人魂と言った感じで大きな館や屋敷にはお手伝いさんや小間使いと言った者が存在しているのだ。
となれば、ここ永遠亭にもそう言った存在が居る可能性は十分にあるだろう。
が、
「その可能性はかなり低いわね」
龍也が立てた予測を幽香がばっさりと否定した。
「え? 何でだ?」
「単純に、今出て来た妖精の服装に統一性が無いからよ。例えば、紅魔館に居る妖精メイド。あそこの妖精メイドは全員メイド服を着ているでしょ」
立てた予測を否定された事で疑問を抱いた龍也に、幽香は現れた妖精達の服装に統一性が無かった事を話す。
そう話された事で、龍也はつい先程倒した妖精の姿を思い返し、
「そういや……そうだな」
服装に統一性が無かった事を理解した。
では、どうして永遠亭の中に大量の妖精が出て来たのか。
新たに出て来た疑問に付いて龍也が考え様とした瞬間、
「おそらく、妖精を番犬代わりに使おうとしたんじゃないかしら?」
番犬代わりに使おうとしたのだろうと言う発言が幽香から発せられた。
確かに、異変時の妖精を大量に動員すれば番犬代わりにはなるだろう。
となると、龍也と幽香が永遠亭の中に入って来ている事は異変を起こした者に取って想定の範囲内であるのだろうか。
仮に想定内で無かったとしても、ここ永遠亭は敵の腹の中と言っても良い場所。
大量とも言える妖精の襲撃を受け、改めて敵の本拠地とも言える場所に乗り込んだ事を実感した龍也が決意新たにと言った表情を浮べた刹那、
「ッ!?」
突如として龍也の目の前に妖精が現れ、弾幕を放って来た。
突然の攻撃ではあったものの、龍也は反射的に今居る場所から離れて迫り来る弾幕を避けて反撃に移ろうとする。
だが、
「瞬間移動的な技でも使ったのかしら? それともこの辺りに召喚魔法の術式でも仕込まれていたのかしら?」
反撃に移る前に幽香が突然現れた妖精に付いての考察をしつつ、自分の傘で現れた妖精を叩き落としていた。
何やら出鼻を挫かれてしまった龍也ではあるが、助けて貰った事は事実であるので、
「ありがとな、幽香」
龍也は助けて貰った礼を幽香に述べる。
「どういたしまして」
述べられた礼に幽香がどういたしましてと返した後、二人は移動を再開した。
移動を再開してから少しすると、また白い塊を三重に展開した妖精が現れる。
白い塊を三重に展開して来る妖精はつい先程見ていた事もあってか、龍也と幽香は全く動揺した様子を見せずに弾幕を放って妖精達を撃ち落していく。
進行を妨害して来る妖精を蹴散らし、比較的順調な感じて先に進んでいると、
「あれれ、侵入者?」
肩口辺りにまで伸ばした黒い髪に兎の耳を生やし、人参を模した首飾りを付けている女の子が現れた。
明らかに妖精では無い存在が現れた事で二人は一旦進行を止め、
「あんた……ここの住人か?」
取り敢えずと言った感じで、龍也は女の子に永遠亭に住んでいる者かと問う。
問われた女の子は、
「うん、そうだよ。私は因幡てゐ」
肯定の返事と共に簡単な自己紹介を行い、
「それはそうと……お兄さんとお姉さんは侵入者だね」
龍也と幽香の二人が侵入者だと言う事を瞬時に見抜いて構えを取り、
「お師匠様からは侵入者は追い返せって言われてるからね。悪く思わないでよ」
弾幕を放ち始めた。
迫り来る弾幕を視界に入れた龍也と幽香は、弾幕を避ける為に回避行動を取って行く。
分かっていた事ではあるが、てゐが放つ弾幕は妖精とは比べ物に成らない程のものであった。
勿論、弾幕の量、弾速、密度と言ったものがだ。
とは言え、それでも全く対処する事が出来ない程では無かったので、
「……そら!!」
弾幕と弾幕の間に龍也は体を滑り込ませ、お返しと言わんばかりに弾幕を放つ。
自分が放った弾幕を避けつつ反撃して来るとは思わなかったからか、
「おお!!」
てゐは驚いた表情を浮かべ、弾幕を放つと言う行為を継続した状態で回避行動を取り始めた。
龍也とてゐの二人が放った弾幕の大半は相殺し合ったが、相殺されなかった弾幕は、
「ッ!!」
「わとと!!」
当然、二人の方へと向かっていく。
相殺されなかった余りの弾幕を避けつつ、
「んー……これじゃ千日手になるかな?」
千日手になりそうだと呟きながらてゐは懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、
「脱兎『フラスターエスケープ』」
スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると、てゐから一列に繋がった様に見える弾幕が幾つか放たれる。
新たに放たれた弾幕を見た龍也は慌てずに回避行動を取り、弾幕を避けていく。
自身が放った弾幕を大した苦も無く避けられたものの、てゐは変わらずに一列に繋がった様に見える弾幕を放ち続ける。
変わらずに放たれ続ける弾幕を避け、龍也がそろそろ反撃に移ろうかとしたタイミングで、
「ッ!?」
龍也の背中に何かが掠った。
何が掠ったのかを確認する為に背後に顔を向けると、てゐが放った一列に繋がった様に見える弾幕が龍也の目に映る。
てゐが放った弾幕は避けていると言うのに、何故てゐの弾幕が掠ったのかと言う疑問を龍也が抱いた刹那、
「ッ!! まさか!!」
龍也は何かに気付いたかの様に周囲を見渡す。
周囲を見渡すとてゐが放った一列に繋がった様に見える弾幕が壁になどにぶつかると反射している様子が龍也の目に映り、その弾幕に囲まれている事が分かった。
てゐから直接放たれる弾幕の軌道は読めたとしても、反射された弾幕の軌道は全くと言って良い程に読めないからか、
「く……」
次々とてゐの弾幕が龍也の体に掠り始める。
この儘ではてゐの弾幕の直撃を立て続けに受けてしまうので、龍也は何か打開策は無いかと頭を回転させていく。
頭を回転させている中で、
「放った弾幕が反射するとか、まるで咲夜の反射させるナイフみたい……ん?」
投擲したナイフを反射させると言う咲夜の技の一つを思い出し、気付く。
現状を打開するのに丁度良いスペルカードがあると言う事を。
思い立った何とやらと言った感じで龍也は懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、
「咆哮『白虎の雄叫び』」
スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動するのと同時に龍也の瞳の色が黒から翠に変わり、周囲に無数の超小型の竜巻が現れる。
現れた超小型の竜巻にてゐの弾幕が当たると、当たった弾幕は全てあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。
それを見たてゐは、
「げげ!?」
驚きの表情を浮べてしまう。
その間に龍也は弾幕を放つ。
放たれた龍也の弾幕も超小型の竜巻に当たり、全てあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。
龍也とてゐが放つ弾幕の粗全てがあらぬ方向へと飛んで行ってしまっているので、これからは自身の反射神経と動体視力を頼りに避けていくしかない。
自身のスペルカードであるが故にそれを知っている龍也は直撃だけは避けれてはいるものの、
「あ痛ッ!! 痛ッ!! いたたたたたたたたたた!!」
知らないてゐは直撃を避ける事が出来ず、あらぬ方向に飛んで行っている弾幕をその身に受けていってしまう。
掠りはしているものの直撃だけは避けている龍也に対し、掠りも直撃もしているてゐ。
明らかに状況はてゐの圧倒的不利であるからか、
「あいたたた、これは……逃げるが勝ち!!」
てゐはスペルカードの発動を止め、一目散に逃げ出した。
逃げて言ったてゐを見た龍也がスペルカードの発動を止めると、超小型の竜巻や弾幕が消えて龍也の瞳の色が翠から元の黒色に戻る。
取り敢えず一段落着いたと言う事で龍也は一息吐き、
「どうする?」
幽香にどうするかと問う。
問うている事は勿論、逃げて行ったてゐをどうするかと言うもの。
「放って置きましょ」
逃げて行った者に興味は無いからか、幽香は放って置く様に言い、
「それにしても……因幡てゐ。因幡と言う名字に兎妖怪……まさかね」
因幡てゐと言う妖怪に付いて何か考え始める。
幽香の様子から、幽香はてゐに付いて何か知っているのではと龍也は思い、
「幽香、てゐに付いて何か知ってるのか?」
思った事を幽香に聞いてみる事にした。
「特に知っていると言う訳じゃ無いわ。只、彼女の名前が少し気に掛かっただけ」
聞かれた幽香は少々曖昧な言葉を口にし、
「それはそうと、早く先に進みましょ。本命は、この先に居そうだしね」
話を変えるかの様に早く先に進む様に促す。
確かに、てゐが言っていた事を考慮するとこの先に異変を起こした首謀者が居る可能性がかなり高い。
となれば、何時までもここに居ても仕方が無いので、
「そうだな、行くか」
先に進もうと言う幽香の意見に龍也が同意した事で、龍也と幽香は進行を再開した。
移動を再開してから少しすると妖精達がまた襲い掛かって来たが、二人は大した苦も無く現れた妖精達を撃退していく。
と言った感じで順調に先に進んでいた龍也と幽香の前に、
「ふふ、遅かったわね」
兎の耳を生やし、薄い紫色の髪を腰を越す辺りにまで伸ばした少女が現れた。
妖精では無い存在が現れたと言う事もあり、龍也と幽香は一旦止まり、
「あいつが今回の異変の首謀者だと思うか?」
「うーん……どうかしら?」
現れた少女が異変の首謀者であるかどうかの会話を交わしていく。
二人がそんな会話を交わしている間に、
「残念だけど、全ての扉の封印は完了したわ。これで、もう姫様を連れ出す事は出来ないわよ」
少女は胸を張りながら全ての扉は封印したので姫なる人物を連れ出す事は出来ないと語り、自慢気な表情を浮べる。
が、直ぐにやって来たのが男と女の二人組みであるからか、
「って、男女二人? こんな所に何しに来たの? デート?」
浮べていた表情を疑問気なものに変え、デートかと尋ねる。
デートするにしても屋敷の中は無いからか、
「デートするにしても、屋敷の中とか無いだろ」
「デートをするなら、私は花が一杯ある場所が良いわ」
龍也と幽香はデートでは無いと否定の言葉を述べた。
有無を言わずに否定の言葉を述べた為、少女は少々呆気に取られたものの直ぐに表情を戻し、
「じゃあ、何しに来たのよ? こんな竹林の奥に建ってる屋敷にまで」
デートではないのなら、何をしにここまで来たのかを問いを投げ掛けると、
「満月を元に戻しに来た」
ストレートに満月を元に戻しに来たと言う事を龍也は少女に伝える。
伝えられた事を頭に入れた少女は、
「ああ、あれの事。あれは私の師匠が生み出した地上を密室にする為の秘術よ」
何処か自慢気な表情で偽りの満月は地上を密室にする為に自分の師が生み出した秘術である事を話す。
「地上を密室に?」
少女の話を耳に入れた龍也が良く分からないと言った表情を浮かべた時、
「ええ、そうよ」
何者かが少女の隣に現れた。
現れた者は長い銀色の髪を三つ編みにし、赤と青の二色で構成されている服を来た女性。
つい先程少女が話した内容から、
「……あんたが、こいつの師匠か」
現れた女性が少女の師匠かと龍也は当たりを付けた。
付けた当たり正しかった様で、
「私の名前は八意永琳。お察しの通り、この子の師よ」
女性は簡単な自己紹介を行ない、少女の師である事を肯定する。
取り敢えず、永琳が今回の異変の首謀者である事が分かったからか、
「単刀直入に言わせて貰おうか。満月を元に戻せ」
話を戻すかの様に、龍也は永琳に向けて満月に元に戻す様に言い放つ。
しかし、
「それは駄目。満月を戻すにはまだ早いわ」
満月を元に戻すのはまだ早いと言う発言が永琳から発せられてしまった。
まぁ、口で言ったところで満月を元に戻してくれるとは欠片も思っていなかったからか、
「あっそ」
特に落胆したと言った様子を龍也は見せず、
「なら……力尽くになるぜ」
力尽くで満月を元に戻させると言う意志を伝え、構えを取る。
「あら、怖い。鈴仙、ここは任せたわよ。荒事とか得意でしょ?」
龍也から戦う意志を感じ取った永琳は軽い演技が入った口調で怖いと口にしつつ、少女にこの場を任せても良いかと聞く。
聞かれた少女、鈴仙は自身有り気な表情になり、
「お任せください、師匠!!」
任せて貰っても大丈夫だと断言した。
そう断言された事で、
「じゃ、任せたわよ」
この場を鈴仙に任せると言った発言をし、永琳は去って行く。
永琳の姿が完全に見えなくなった後、
「先に進みたければお前を倒して行け……って事だな」
先に進むには鈴仙を倒す必要が有ると龍也は零し、戦意を鈴仙へと向ける。
向けられた戦意に気付いた鈴仙は勝ち誇ったかの様な笑みを浮かべ、
「ええ、そう言う事。でも、貴方達にそれが出来るのかしら?」
自分を倒す事が出来るのかと言う挑発を行なう。
行なわれた挑発に対し、
「試してみるか?」
龍也も挑発を返すと、
「試させて上げるわ」
試させて上げると鈴仙は言い、先手必勝と言わんばかりに弾幕を放ち始めた。
鈴仙が放つ弾幕を見て、拳銃の弾に似ているなと言う感想を龍也は抱きつつ、
「……っと」
回避行動を取る。
その中で、龍也は鈴仙から放たれる弾幕の威力が低い事を感じ取った。
態々威力の低い弾幕で攻撃を仕掛けて来た理由に付いて、考えられる可能性は二つ。
一つは只の牽制と言う可能性。
もう一つは弾幕ごっこを仕掛けて来たと言う可能性だ。
先程現れたてゐがスペルカードを使って来た事や弾幕の威力を考えるに、鈴仙が弾幕ごっこで勝負を仕掛けて来た可能性の方が高いであろう。
普通に戦うよりも弾幕ごっこの方が消耗が少ないからか、特に異論を挟む事はせず、
「そら!!」
龍也も弾幕を放ち始めた。
迫り来る弾幕を避け、反撃までして来た龍也を、
「あら、思ってたよりもやるわね」
鈴仙は思っていたやると称する。
が、
「でもま、こんな所にまで来れるんだからこれ位は出来て当然か。幾ら相方に妖怪が居たとしても」
直ぐにこんな所にまで来る事が出来るのだからこれ位出来て当然かと思い直しつつ、
「処で、貴女は何もしないの?」
幽香の方に顔を向けて貴女は何もしないのかと言う疑問を投げ掛けた。
龍也と鈴仙が戦っている中、幽香は二人から離れた位置で観戦状態に入っているのだ。
望めば二対一と言う状況に幾らでも持ち込めると言うのに、何もしない幽香に疑問を抱くのはある意味当然の事。
そんな鈴仙の疑問に答えるかの様に、
「龍也、手助けは必要かしら?」
龍也に手助けは必要かと聞く。
聞かれた龍也は不敵な笑みを浮かべ、
「問題ねぇよ、幽香。俺一人で十分だ」
自分一人で十分だと断言した。
つまり、幽香は龍也の気持ちを汲んで手出しする事をしないのである。
人間である龍也の気持ちを妖怪である幽香が汲んだ事を知り、
「妖怪が人間の気持ちを汲むとはねぇ……」
少し意外と言った感想を鈴仙は抱いた。
兎も角、龍也とは一対一で戦える事を理解した鈴仙は、
「それはそれとして、手助けをしない事も手助けを拒んだ事も後悔させて上げるわ!!」
一人だけで自分と戦う道を選んだ事を後悔させてやると言い放ちながら弾幕の量と密度を上げる。
量と密度を上げられた事で回避も困難になると思われたが、
「生憎、これ位で後悔する程弱くは無い積りだぜ!!」
今までと変わらずに龍也は回避行動を取りながら弾幕を放っていた。
只、弾幕の量が増えて密度が上がっただけでやっている事は今までと何も変わりは無い。
だからか、鈴仙は懐に手を入れて懐からスペルカードを取り出し、
「散符『真実の月(インビジブルフルムーン)』」
スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、鈴仙から広範囲に放たれる弾幕が展開された。
とは言え、スペルカードで放たれた弾幕だ。
これだけで終わる筈が無いと龍也は判断し、弾幕を放つのを止めて警戒を強めていく。
そして、広範囲に放たれた弾幕が龍也の近くにまで迫って来た瞬間、
「なっ!? 消えた!?」
弾幕が全て消えてしまった。
突如として鈴仙が放った弾幕が消えてしまった事に龍也は驚くも、直ぐ周囲の確認に掛かる。
が、幾ら周囲を確認しても鈴仙が放った弾幕は見られない。
なので、仕方が無いと言った感じで龍也が視線を鈴仙の方に戻した刹那、
「ッ!?」
消えていた弾幕が再び姿を現した。
おまけに、再び姿を現した弾幕は回避不可能な距離にまで迫って来ていた為、
「くそ!!」
龍也は咄嗟に両腕を交差させ、防御の体勢を取る。
同時に、鈴仙の弾幕が龍也に体へと次々と着弾していき、
「ぐっ!!」
着弾する度に体中に走っていく衝撃を龍也は歯を喰い縛りながら耐えていく。
暫しの間、鈴仙の弾幕に耐えていると、
「……ん?」
ふと、体中に走っていた衝撃が止んだのを龍也は感じ取った。
それを不審に思った龍也が交差している腕の隙間から前方の様子を伺おうとしたタイミングで、
「ッ!!」
自身の方に向けて迫り来る弾幕が目に映ったので、龍也は再度防御を固める。
しかし、
「……あれ?」
弾幕が龍也の体を着弾する事は無かった。
目の前にまで弾幕が迫って来ていたと言うのに弾幕が着弾しなかった事に龍也は疑問を抱き、もう一度と言った感じで前方の方に視線を戻す。
視線を戻した龍也の目には弾幕など一つも映ってはいなかったが、
「なっ!?」
直ぐに消えていた弾幕が姿を現し、龍也の体に着弾していった。
着弾する度に体中に走る衝撃に龍也は耐えつつ、鈴仙が発動したスペルカードに付いて考えていく。
今、発動されているスペルカードで最も注目すべき点は放たれた弾幕が出現と消失を繰り返すと言う部分。
これのせいで回避が難しくなっていると龍也が思ったタイミングで、
「……ん?」
龍也は気付く。
消えた弾幕が再び現れた時、現れた場所と消えた場所が一致しないと言う事を。
となると、消えた時も弾幕は移動し続けていると言う事になる。
ならば、消えている弾幕は龍也に害を成す事は出来ないと言う事になるのでは無いだろうか。
あくまでこれは可能性だが、この可能性が正しいか否かでこれから打つ手も変わって来る。
故に、
「……良し」
思い浮かんだ可能性が正しいか否かを確かめる為、龍也は再び弾幕が消えた瞬間に数歩間合いを詰めた。
間合いを詰めた事で、龍也の体は弾幕が在った場所に入り込んだが、
「……ダメージは無しと」
弾幕の直撃を受けた様なダメージは無し。
弾幕が在った場所に踏み込んでもダメージが無い事から、自分自身の中で可能性が確信にに変わっていくのを龍也は感じ取りつつ、
「……………………………………………………」
懐に手を入れて懐からスペルカードを取り出し、両腕を交差し直して再度防御の体勢を取って姿を現した弾幕を耐えていく。
そして、弾幕が自分の体に直撃すると言う感覚が無くなった刹那、
「霊撃『霊散波』」
スペルカードを発動させ、龍也は右腕を伸ばしながら鈴仙が居る方へと突っ込んで行く。
スペルカードが発動された事で龍也の右手の掌から青白い閃光が広範囲に迸る。
範囲、量、密度の三つが揃った弾幕の中へと突っ込ん来るとは想定していなかった為か、
「ッ!!」
青白い閃光の直撃を鈴仙は受けてしまう。
だが、
「くっ!!」
然程時間を掛ける事無く、鈴仙は青白い閃光の中から脱出してしまった。
まぁ、霊散波は威力よりも当て易さを重視した技だ。
青白い閃光に呑み込まれている最中に、青白い閃光の中から抜け出せても不思議は無い。
尤も、使ったスペルカードが霊散波ではなく霊流波だったら話は別であったであろうが。
兎も角、青白い閃光の中から鈴仙が抜け出したと言う事で龍也はスペルカードの発動を止め、
「……………………………………………………」
鈴仙の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る鈴仙は多少ボロボロの風貌に成ってはいるものの、まだまだ健在の様だ。
受けたダメージは鈴仙の方が多そうだが、まだまだ油断する事は出来ない。
気持ち新たにと言った感じで龍也が構えを取り直すと、
「まさか、あの量の弾幕を前にしても少しも臆せずに突っ込んで来るとはね……」
大量と言える程の弾幕を前にしても臆せずに突っ込み、攻撃を仕掛けて来た龍也に対する愚痴な様なものを鈴仙は漏らしていた。
漏らされた愚痴が耳に入った龍也は、
「……へ、あの程度で俺を止められるとは思うなよ」
強気な台詞を言いながら軽い笑みを浮べる。
まだまだ余裕と言った感じの態度を龍也が醸し出しているからか、
「……………………………………………………」
鈴仙は何かを考える様な体勢を取り、
「少し反則な様な気もするけど……」
何か決意を固めた様な表情に成りながら顔を上げ、龍也をジッと見詰め始めた。
ジッと見詰められていると言う事で、自然な感じで龍也と鈴仙の目が合った刹那、
「さぁ……狂いなさい」
鈴仙の瞳が紅く輝く。
その瞬間、
「ぐっ!?」
顔面を片手で押さえ、踏鞴を踏むかの様に龍也は後ろに下がって行ってしまう。
別に、鈴仙に臆したから龍也は後ろに下がったと言う訳では無い。
紅く輝いた鈴仙の瞳を見た瞬間に視界が歪み、平衡感覚が狂い、頭の中を掻き回されると言った様な状態に龍也は陥ってしまったのだ。
「が……ぐ……」
倒れる事だけは避け様と視界の歪み、平衡感覚の狂い、頭の中を掻き回される苦痛と言ったものに耐えている龍也に、
「私の能力は"狂気を操る程度の能力"。そして、私の目を直接見れば……狂う」
簡単に自分の能力に付いて鈴仙は教え、
「でも、安心しなさい。精神が崩壊するまで狂わせはしないから」
精神崩壊するまで狂わせはしないから安心する様に言い、右手を拳銃の形に変えて龍也に狙いを定める。
そして、
「これで……終わりよ」
止めの一撃を鈴仙が放とうとしたタイミングで、
「ふふ……」
幽香から笑い声が零れた。
幽香の相方である龍也が絶体絶命のピンチだと言うのに、笑い声を零した幽香を不審に思った鈴仙は、
「何が可笑しいの?」
止めを刺すのを一旦中断するかの様に幽香の方に顔を向け、何が可笑しいのかを問う。
「あら、聞こえた? ごめんなさいね」
「もう一度聞くわ。何が可笑しいの?」
問われた幽香は少しも悪びれた様子が見られない謝罪を行なった為、鈴仙はもう一度何が可笑しいのかを問うた。
二度も同じ事を問われたからか、
「その程度で勝ったと思っている貴女が」
幽香は可笑しかったを鈴仙に教える。
「勝ったって……現に彼は……」
「貴女は四神龍也と言う存在を甘く見過ぎている」
既に戦闘不能の様な状態に成っている龍也に何が出来るのかと言う疑問を抱いた鈴仙に、幽香は龍也と言う存在を甘く見過ぎていると言う指摘を行なう。
「甘く見るも何も……ッ!?」
甘く見過ぎていると言う指摘に鈴仙が何かを返そうとした時、鈴仙は莫大な量の霊力を感じ取る。
慌てた動作で霊力の発生源に鈴仙が体を向けると、そこには体中から青白い光を溢れ出させている龍也の姿が在った。
龍也、幽香、鈴仙の中で霊力を扱うのは龍也だけなので、霊力の発生源が龍也なのは当然と言えば当然であるが。
それはそれとして、莫大な霊力を感じると言っても龍也は鈴仙の術中の中。
何をし様と無駄だと言う判断を鈴仙が下した時、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
突如として、爆発的な勢いで龍也の体から霊力が解放された。
「きゃ!?」
解放された霊力の勢いがかなりのものであったからか、鈴仙は解放された霊力の余波で少し吹き飛ばされてしまう。
しかし、
「く……」
直ぐに体勢を立て直し、鈴仙はこれ以上吹き飛ばされまいと全身に力を籠めて必死に耐えていく。
吹き飛ばされまい必死に成って耐えている鈴仙に対し、幽香は涼し気な表情で佇んでいた。
霊力が解放された余波で髪や衣服などが激しく靡いているが、幽香は全くに気にした様子を見せずに龍也を視界に入れながら思う。
保有霊力もかなりのものであると言う事を。
これだけの霊力を有しているのだから、戦闘能力も保有霊力に見合うだけのものを有しているのだろうと言う事を考えていると、
「……あら?」
目の前に何かが飛んで来たので、幽香は反射的に飛んで来たものを受け止め、
「何が飛んで来たのかしら?」
飛んで来たものが何なのかを確認する為に視線を落とす。
視線を落とした幽香の目には、アリスの人形が映っていた。
どうやら、龍也が霊力を解放した影響でここまで吹き飛ばされてしまった様だ。
「ま、このレベルの霊力の解放だったら吹き飛ばされるのも仕方が無い……ッ!?」
解放された龍也の霊力を考えたら吹き飛ばされるのも無理は無いと幽香が判断した瞬間、幽香は慌てた動作で龍也の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る龍也は、変わらずに霊力の解放を続けていた。
故に、
「……気のせい?」
ポツリと、気のせいかと呟く。
が、
「……………………………………………………………………」
気のせいと呟いた発言とは裏腹に、幽香は頭を回転させていた。
何に対して頭を回転させているのかと言うと、龍也の霊力の付いてである。
一瞬よりも短い一瞬ではあったが幽香は自身の目で見て、そして感じたのだ。
見たものは、龍也の霊力がどす黒い色をしていたと言う事。
感じたものは、龍也の霊力が霊力と言うには重く、濃く、禍々しく、死を感じた事。
明らかに普通の霊力とは違う霊力を一瞬よりも短い一瞬とは言え、自身の目で見て感覚で感じてしまったので、
「……………………………………………………」
幽香は龍也を視界に入れながら頭を回転させているのだ。
とは言え、今の龍也から発せられている霊力は色も感じ方も可笑しいところは無い。
だからか、
「……やっぱり気のせい?」
やはり気のせいなのかと幽香が結論着けたのと同時に、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!」
霊力の解放が止まり、龍也は鈴仙を直視した。
鈴仙を見ている龍也の瞳は揺らぎが無く、力強いもの。
完全に正常な状態に戻った様だ。
「な、自力で……」
自力で元の状態に戻ったからか、鈴仙は思わず驚きの表情を浮べつつ、
「そ、そうか」
理解した。
霊力を解放する事で、自分の術中から脱した事を。
「まさか、そんな力尽くな方法で狂気の中から脱する何て……」
力尽くな方法で狂気の中から脱した龍也に鈴仙が呆れと感心を混ぜた様な感情を抱いた刹那、龍也は懐に手を入れながら猛スピードで鈴仙に近付いて行った。
龍也の接近に気付いた鈴仙は気持ちを切り替えるかの様に迎撃行動に移ろうとしたが、その前に龍也は懐からスペルカードを取り出し、
「炎爆『爆発する剣の軌跡』」
スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、龍也の瞳の色が紅に変わって右手に炎の大剣が生み出された。
生み出された炎の大剣を龍也は両手で掴み、振り被る。
龍也が振り被った炎の大剣を鈴仙は視界に入れ、炎の大剣が振るわれたタイミングで、
「……今!!」
後ろに飛び、炎の大剣による斬撃を避けた。
そして、攻撃をし終えた隙を突くかの様に鈴仙が反撃をし様とした瞬間、
「ッ!?」
振るわれた炎の大剣の軌跡が爆発を起こす。
剣の軌跡が爆発を起こすと言うのは全く予測していなかったからか、鈴仙は何の抵抗も無く起きた爆発に呑み込まれてしまった。
起きた爆発が晴れると、鈴仙は墜落していってしまう。
それを追う様に龍也は降下し、床に足を付けると、
「あいたたたたたた……」
落下した際に頭をぶつけたからか、頭を擦っている鈴仙の姿が目に映った。
頭を擦っている鈴仙が隙だらけであったからか、龍也は炎の大剣を右手で持ちながら鈴仙に突き付け、
「どうする? 続けるか?」
続けるかを問う。
自分が何か行動を起こそうすれば、直ぐにでも炎の大剣による斬撃が飛んで来るであろう事が理解出来たので、
「……降参、私の負け」
鈴仙は自分の負けを宣言した。
勝負が決したと言う事で、龍也はスペルカードの発動を止める。
スペルカードの発動が止まった事で炎の大剣が消え、龍也の瞳の色が紅から元の黒へと戻った。
その後、龍也は周囲を見渡し、
「後は……どっかに行った永淋を倒せば異変解決か?」
「さっきの言動をそ儘受け取ればそうなるわね」
後は永琳を倒せば異変解決かと呟くと、龍也の呟きに同意しながら幽香は床に足を着ける。
すると、幽香の手の中にいたアリスの人形が飛び出して龍也の胸をポカポカと殴り始めた。
「お、おい。どうしたんだ?」
どうして殴られているんだと言った表情を浮べている龍也に、
「貴方が霊力を解放した時に吹っ飛ばされたのよ」
アリスの人形が龍也を殴っているであろう理由を幽香は教える。
教えられた内容を頭に入れた龍也は霊力を解放した時の事を思い出し、
「……あー、そういや霊力を解放した時に何か吹っ飛ばした様な気が。ごめん、悪かったって」
吹き飛ばしてしまった事に対する謝罪を行なう。
一通り殴って満足したのか謝罪を受け入れたかは分からないが、アリスの人形は再び龍也の頭の上に乗っかった。
取り敢えず一段落着いたので、龍也達は再び先へと進もうとする。
そんな二人を見て、
「貴方達、分かっているの? 師匠は力も頭も私とは比べ物にならないのよ。幾ら私に勝てたからって……」
この先に居るであろう永琳の強さに付いて鈴仙は少し話し出した。
鈴仙が話した事が耳に入った龍也は進もうと言う行為を中断するかの様に鈴仙の方に体を向け、
「だから?」
だからどうしたのだと言う表情を浮べる。
「え? 私の話を聞いてなかったの? 師匠は私なんかよりもずっと強くて……」
まるで話を聞いてなかったかの様な反応をした龍也に、鈴仙はもう一度同じ事を言おうとしたが、
「だから何だよ。お前の師匠が幾ら強かろうが凄かろうが関係ねぇよ。お前の師匠を倒さなければ月が元に戻らないって言うんであれば……倒す。それだけだ」
鈴仙の話を遮るかの様に、龍也はそう言い切った。
絶対に勝つと言う意志を自身の目に宿して。
何の根拠も無いと言うのに、自信満々で永琳を倒せると言い切った龍也を鈴仙はポカーンとした表情で見ていた。
「ん? どうかしたか?」
「……別に」
ポカーンとした表情で自分を見ている鈴仙に龍也がどうかしたのかと聞くと、別に言いながら鈴仙が顔を逸らした時、
「処で龍也」
幽香が龍也に声を掛ける。
「ん?」
「あれ、何だと思う?」
声を掛けられた龍也が幽香の方に顔を向けると、幽香はある方向に向けて指をさす。
指をさされた方向には、破壊された襖が在った。
弾幕ごっこでの流れ弾が襖に当たり、襖を破壊してしまったのだろうか。
龍也と幽香に釣られる様にして壊れた襖の方に視線を向けた鈴仙は、
「ああー!! 封印が破れてる!! 弾幕ごっこの影響!? それとも霊力が解放されたせい!?」
大きな声を上げ、狼狽えた様子を見せ始める。
狼狽えている鈴仙を見て、弾幕ごっこをする前に交わしていた会話を龍也は思い出し、
「若しかして、この壊れた襖の先が正解のルートか?」
壊れた襖の先が正解のルートではないかと呟き、考え始めた。
龍也が呟いた言葉が耳に入った鈴仙はしまったと言う表情を浮かべ、慌てて口元を両手で押さえる。
が、既に遅かった様で、
「そうね、この子の慌て振りから察するに壊れた襖の先が正解ルートね」
鈴仙の慌て様から、幽香は壊れた襖の先が正解のルートである事に確信を得た。
だからか、
「んじゃ、行くか」
「そうね、行きましょうか」
龍也と幽香は早速と言わんばかりに壊れた襖の方へと足を進めて行く。
壊れた襖の奥へと二人が行ってしまった後、
「ああー!! 師匠に怒られるー!!!!」
悲痛とも言える鈴仙の叫び声が廊下を反響していった。
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