弾幕ごっこが影響したのか龍也の霊力の解放が影響したのかは分からないが、封印が破れた場所である襖の先に向って行く龍也と幽香。
襖の先には、今まで通って来た廊下と同じ様に長い廊下が存在していた。
但し、今までの廊下と違って今進んでいる廊下は随分と暗い。
更に言えば、ここの廊下からは外の景色を見る事が出来る。
となると、今まで通って来た廊下は中央部で襖の先に存在しているこの廊下は端と言う事になるのであろうか。
まぁ、外の景色は何かしらの術で見せている可能性があるが。
一通り新たに足を踏み入れた廊下を見渡した後、

「しっかし、随分と雰囲気が違う場所に出たな」

一寸した感想を龍也は漏らした。
龍也が漏らした感想に、

「そりゃ仮にも封印されていた場所だもの。雰囲気が違うのは当然ね」

仮にも封印されていた場所なのだから雰囲気が違うのは当然だと幽香は返す。

「ま、それもそうだな」

返された内容に納得したからか、それもそうだと言いながら龍也は前方を見据える。
そして、先に進む為に足を動かし始めた。
それに続く様にして、幽香も足を動かし始める。
封印されていた場所である事から、ここなら妖精も出て来ないだろうと思われたが、

「……って、こっちにも居るのかよ。妖精」
「ま、妖精は何所にでも居るからねぇ」

龍也と幽香の目に、進行方向上から現れた大量の妖精の姿が映った。
どうやら、封印された襖の先にも妖精が居た様である。
元々ここに居たのか、それとも封印を素通りしてここにやって来たのか。
どちらにしろ、戦闘は避けられないであろう。
すんなり先に進む事が出来なくなってしまい、一つの溜息が龍也の口から零れる。
その瞬間、妖精達はお約束の様に白い塊を自身の周囲に展開させて大量の弾幕を放って来た。
放たれた弾幕を見た龍也と幽香は空中に躍り出る事で妖精達からの弾幕を避け、二人はお返しと言わんばかりに妖精達に向けて弾幕を放つ。
二人が放った弾幕は白い塊を破壊し、妖精達に次々と命中して妖精達を撃ち落していった。
弾幕を放ち、妖精達を一掃し終えた後、

「熱烈な歓迎だったな」
「あら、異変解決に来てから妖精の弾幕による歓迎はずっとじゃない」

龍也と幽香は弾幕を放つのを止めながら軽口を叩き合い、決意新たにと言った感じで移動を再開する。
が、直ぐに白い塊と妖精が横一列になって現れて一斉に弾幕を放って来た為、

「……っと」
「おっと」

龍也と幽香は進行を中断するかの様に回避行動を取った。
新たに現れた白い塊と妖精の数は大した数では無かったので、直ぐに片付ける事が出来る。
そう思われたが、直ぐにそれは無理だと言う事を龍也と幽香は知る事となった。
何故ならば、一列に並んだ白い塊と妖精達が何セットも現れたからだ。
数だけは本当に多いなと言う感想を龍也と幽香は抱きつつ、改めてと言った感じで進行を再開しながら弾幕を放っていく。
放たれた弾幕は白い塊を破壊し、妖精達を撃ち落していった。
順調と言った感じで敵の数を減らし始めてから幾らかすると、

「……ん?」

龍也はある事に気付く。
気付いた事と言うのは、白い塊と妖精の関連性に付いて。
どうやら、この白い塊は妖精を倒すと勝手に自壊する様なのだ。
この事がもっと早くに分かれば少しは楽が出来たのにと言う事を龍也は思いつつ、弾幕を妖精達に集中させていく。
妖精に弾幕を集中させると言う方法を取り、白い塊を妖精と一緒に一掃して龍也と幽香が一息吐くかの様に弾幕を放つの止めたタイミングで、

「な、何でここに居るの!? あの子にはこっちに来させたら駄目だって言って置いたのに!!」

かなり慌てた様子の永琳が二人の前に現れた。
突如として現れた永琳に二人は少し驚きながらも進行を止め、

「……何だ、変に焦ってるな、あいつ」

疑問気な表情を浮べながら永琳が慌てている事に付いての疑問を龍也は幽香に問い掛ける。
問い掛けられた疑問に、

「ここに私達が来た事が、あいつに取って余程想定外な事だったんでしょ」

自分達がここに居る事が永琳に取って余程想定外であったのだろうと言う推察を幽香は漏らす。
永琳とはつい先程出会ったばかりであるが、知的で冷静と言う感じを龍也は受けていた。
龍也が受けた印象が正しかった場合、ここまで永琳が焦っているのはそれだけ龍也達がここ居る事は余程の事態なのだと考えられる。
現れた永琳が慌てている事に付いて自分なりの答えを龍也が出した瞬間、永琳から大量の弾幕が放たれた。
放たれた弾幕の量は多いものの、焦っている事もあってか比較的簡単に抜け道を見付けられたので、

「よっと」
「っと」

龍也と幽香は余裕が感じられる動きで避けて永琳の弾幕を避けていく。

「な……」

容易く自分が放った弾幕を避けた龍也と幽香に永琳が驚きの表情を浮かべた時、

「そら!!」

龍也から永琳に向けて弾幕が放たれた。
放った弾幕が次々と永琳に当たっていったからか、

「くっ!!」

永琳は苦々しいと言った表情を浮べながら龍也から距離を取り、懐に手を入れ、

「薬符『壺中の大銀河』」

懐からスペルカードを取り出し、スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると無数の白い塊が現れ、現れた白い塊は龍也を取り囲んでいく。
周囲を囲まれた事で龍也は一旦弾幕を放つのを止め、

「………………………………………………………………………………」

警戒するかの様に周囲を見渡す。
何処から攻撃が来ても良い様に。
そんな警戒が幸を成したかは分からないが、取り囲んでいた白い塊が内側に弾幕を放ちながら外側に広まって行っているのが龍也の目に映った。
更に言えば、内側だけではなく外側にも弾幕が放たれているのが龍也の目に映っている。
因みに、放たれている弾幕の量は内側よりも外側の方が圧倒的に多い。
これでは、白い塊の包囲網から不用意に脱出し様ものなら外側に向けて放たれている大量の弾幕の餌食になってしまうだろう。
かと言って、内側に留まり続けても白い塊が邪魔で永琳に攻撃を当てるはかなり厳しい。
こうなったらダメージ覚悟で白い塊の包囲網から脱出して永琳に攻撃を加え様かと考えた刹那、

「……ん?」

龍也はある事に気付いた。
気付いた事は二つ。
一つは広まっている白い塊はある一定距離まで進むと消えると言う事。
二つ目は全ての白い塊が消えると永琳から再び白い塊が放たれ、放たれた白い塊が龍也を取り囲んで内と外に弾幕を放つと言う最初の展開に戻ると言うもの。
気付いた事から白い塊が消えて永琳から再び白い塊が永琳から放たれる間に攻撃すれば良いと龍也は判断し、落ち着いて弾幕を避けていきながら懐に手を入れる。
そして、

「ッ!!」

広がった白い塊が全て消えた瞬間、龍也は懐からスペルカードを取り出しながら永琳に超スピードで近付き、

「風拳『零距離突風』」

スペルカードを発動させ、自身の拳を永琳の腹部に叩き込んだ。
すると、龍也の瞳の色か黒から翠に変わって永琳の腹部に叩き込まれている拳から突風が放たれる。
放たれた突風の直撃を受けた永琳は遠くの方へと吹っ飛ばされて行ってしまう。
吹っ飛ばされて行く永琳を視界に入れながら何時反撃をして来ても良い様に龍也は身構えていたが、

「……あれ?」

永琳からの反撃は全く無かった。
それ処か、反撃する事無く吹き飛ばされた儘龍也の視界から消えてしまったのだ。
余りにも呆気無く決着が着いてしまった事で、

「…………思ってたより、ずっと楽に決着が着いたな」

何処か唖然とした表情を浮べながら、龍也はスペルカードの発動を止める。
スペルカードの発動を止めた事で龍也の瞳の色が翠から元の黒に戻ると、

「あの永琳って女、焦って全然実力を出せて無かった様だからね。こんなものでしょ」

焦って全然実力を出せなかった様だからこんなものだろうと言いながら幽香は龍也の隣に現れ、

「後、永琳の雰囲気と感じる力が一致しなかった。おそらく、偽りの月の維持か制御をしていたのでしょうね。焦り以外に呆気無く決着が着いたのは、
それが原因だと思うわ」

補足するかの様に焦り以外で永琳をあっさり倒せたであろう理由を話す。
話された内容を頭に入れた龍也は、

「成程」

納得した表情を浮かべ、

「と言う事は、もう月は戻ったのか?」

もう月は元に戻ったのかと問う。
問われた幽香は少し考える素振りを見せ、

「んー……発動していた術が消えたという感じは無かったわね。多分だけど……永琳の他にも偽者の月を維持する者が居る、若しくは術式が存在している筈よ」

自分なりの推察を述べる。
鈴仙曰く、永琳は鈴仙よりも強さも頭も上との事。
ならば、自分がやられた際の保険が在っても何の不思議も無い。
取り敢えず、まだ異変解決に成っていない事を知った後、

「となると、月を元に戻すには先に進むしかないって事か」

月を元に戻すには先に進む必要があると龍也は考え、前方を見据える。
龍也の考えに同意するかの様に、

「そうね。永琳の焦り様からこの先に何かがあるの確実。月を元に戻す何かがある……とは言い切れないけど、何かしらのものは手に入るでしょ。最悪、
手に入れたそれを月を元に戻す為の交渉材料に使えば良いしね」

幽香も前方を見据え、先に進む利点を述べた。
述べられた利点内容から先に進まない理由は無いから、我先に言わんばかりに龍也は移動を再開する。
移動を再開した龍也に置いて行かれない様に、幽香は龍也の後に付いて行く。
次で最後と言わんばかりの気持ちで龍也と幽香が再び先に進み始めてから幾らかすると、

「外……?」
「……外みたいね」

外と思わしき場所に二人は出た。
屋敷の中から急に出たと言う事で二人は一旦止まり、周囲を見渡していく。
周囲を見渡し始めて直ぐに、

「あれは……」

龍也は何かを発見した。

「何か見付けたの?」

龍也が発見したものが気に掛かったからか、幽香は視線を龍也の方に向ける。
幽香に顔を向けられた龍也はある方向に向けて指をさし、

「月……」

一言、月だと呟く。
呟かれた内容を頭に入れた幽香は龍也が指をさしている方に顔を向ける。
顔を向けた幽香の目には満月が映り、

「偽者の……いや、違う。これは本物の月よ」

映った満月を見た幽香は、本物の満月であると断定した。

「本物の月……」

まだ偽者の月が存在していると言うのに、本物の月を見る事が出来る。
この事に龍也が疑問を抱いた瞬間、

「そう、あれは本物の月よ。地上から見える本物の月」

何者かが現れた。
現れた者は、腰を越す位にまで伸ばした黒い髪に豪華そうな着物を着た少女。
少女の現れた場所は丁度龍也と幽香が見ていた方であったからか、

「……誰だ、あんた?」

龍也は顔を動かすと言った事をせず、少女に何者だと言う問いを投げ掛けた。
投げ掛けられた疑問に答えるかの様に、

「私は蓬莱山輝夜。ここ、永遠亭の主……要するにお姫様よ」

少女、輝夜は軽い笑顔を浮べて簡単な自己紹介を行なう。

「あんたが……」

自己紹介内容のお姫様と言う部分が耳に入った直後、龍也は思い出す。
鈴仙と弾幕ごっこで戦う前に交わした会話を。
あの時、鈴仙が言っていた姫様と言うのは輝夜の事であろう。
姫様なる人物は輝夜であると言う判断を龍也が下したタイミングで、

「それにしても、人間と妖怪のお客様とはね」

意外と言った表情を浮べながら輝夜は龍也と幽香を視界に入れ、

「歓迎するわ」

歓迎すると言う言葉を発する。
どう言う理由や意図があれ、一応歓迎の言葉を掛けられたからか、

「そいつはどうも」

軽い礼の言葉を龍也は口にし、構えを取った。
行き成り戦う意思を見せた龍也を見て、

「あらあら、血気盛んね。月のせいかしら?」

月のせいで血気盛んに成っているのかと言う予測を輝夜は立てる。
輝夜が立てた予測を聞き、

「月……」

改めてと言った感じで幽香は月を注視する。
注視した結果、

「あの月は……龍也」

幽香は何かに気付き、龍也の頭を小突く。

「痛ッ、何すんだよ?」

小突かれた龍也は小突かれた部分を押さえ、幽香に文句の言葉を掛けると、

「何って、狂いそうに成ってたから正気に戻して上げたんじゃない」

狂いそうになっていたのだから正気に戻したと言う発言が幽香から返って来た。

「狂い……」

狂いそうと言う部分が気に掛かった龍也は、もう一度空に浮かぶ月を視界に入れる。
すると、狂いそうになると言う感覚を龍也は覚えた為、

「……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

霊力を解放し、狂いそうになるのを防ぐ。
突如として霊力を解放した事で龍也の頭の上に乗っかっていたアリスの人形が吹き飛ばされ、幽香の手の中に収まる。
また吹き飛ばされる事になったアリスの人形は抗議として龍也にポカポカと殴り掛かろうとしたが、

「貴女はこっちに居なさい。龍也の近くに居るとまた吹き飛ぶわよ」

龍也の近くに行けば再び吹き飛ばされると言う事を幽香はアリスの人形に言い、自身の手の中からアリスの人形が抜け出さない様に押さえる。
それはさて置き、霊力を解放して狂うのを防いでいる龍也を輝夜は観察し、

「ここから見える月、貴方には刺激が強過ぎた様ね。でも、霊力を解放して狂うのを防ぐ……か。中々の力技ね」

クスクスと笑いながらここから見える月は龍也には刺激が強過ぎた様だと言うからかいの言葉と、霊力の解放で狂うのを防いでいるのに感心したと言う言葉を零す。
零された言葉に返すかの様に、

「龍也は力尽くが好きみたいだからね」

龍也は力尽くが好きみたいだと言う事を幽香は呟く。

「あら、そうなの? でも、男の子って皆そんな感じがするのよね」
「そうね、確かに男の子って皆そんな感じがするわね」

男の子に関する話が出たから、輝夜と幽香は男の子は皆力尽くが好きそうだと言う会話を交わし始めた。
そんな時、

「……ふぅ」

龍也から解放されていた霊力が止んだ。
どうやら、もう霊力を解放していなくても龍也が狂気に囚われる事は無さそうである。
完全に狂気の中から脱したとも言える様な状態に龍也が成ったからか、

「さて、一応聞いて置きましょうか。貴方達は、一体何をしにここまで来たのかしら?」

話を変えるかの様に、輝夜は龍也と幽香に何をしにここまで来たのかを聞く。
聞かれた龍也は、

「月を元に戻しに」

間髪入れずに月を元に戻しに来たと言う。

「やっぱりね」

月を元に戻しに来たと言う答えは予想出来ていたからか、輝夜は特に驚いたと言った表情を浮べず、

「本物の月はここから見る事が出来ない。けど、私を倒せば月を元に戻せるわよ」

月の戻し方を龍也と幽香の二人に伝えた。
敵である龍也と幽香に自分達が仕出かした異変の解決方法を輝夜が教えてくれた理由は分からないが、月を元に戻す方法が知れたので、

「なら、お前を倒して月を取り戻す」

宣戦布告の言葉を龍也は述べ、改めてと言った感じで構えを取り直す。
構えを取り直した龍也から戦意を感じ取ったからか、

「そうそう、そうこなくっちゃ」

少し嬉しそうな表情を浮かべながら輝夜は間合いを取り、

「永琳が屋敷から全然出してくれないから、退屈していたのよね」

屋敷から出る機会が全然無いから退屈していたと漏らし、懐に手を入れ、

「今まで、数多もの人間が解けなかった五つの難題。貴方達は幾つ解けるかしら?」

楽しみだと言う様な笑みを浮かべ、五つの難題を幾つ解けるかと言う問いを投げ掛けた。

「五つの難題?」

五つの難題と言う部分に引っ掛かりを覚えたからか、龍也はつい首を傾げてしまう。
引っ掛かりを覚えたと言っても、古文か古典だったかの授業で習った様な気がする程度ではあるが。
こんな事ならもう少し真面目に授業を受けて置けば良かったと言う軽い後悔を龍也がしている間に、輝夜は懐からスペルカードを取り出し、

「難題『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると、五色に光る弾と細長い弾が次々と輝夜から放たれる。
迫り来る弾を視界に入れつつ、

「っと」

龍也は慎重に回避行動を取っていく。
慎重さを重視しているのは、下手な動こうものなら容易く被弾してしまうからだ。

「あら、意外とやるわね」

一発も被弾せずに避け切っている龍也に輝夜が感心した感情を抱き始めた辺りで、龍也から弾幕が放たれる。
放たれた弾幕は輝夜が放っている弾を掻い潜る様にして輝夜へと迫って行った為か、

「意外と器用ね」

器用だと口にし、輝夜も回避行動を取っていく。
お互い弾幕、弾を放ち合いながら回避行動を取る。
こんな事を続けていても状況は動かないと判断した輝夜は、

「じゃ、次にいきましょうか」

懐に手を入れ、懐から二枚目のスペルカードを取り出し、

「難題『仏の御石の鉢 -砕けぬ意志-』」

取り出したスペルカードを発動させた。
すると今まで輝夜から放たれていた弾が消え、代わりと言わんばかりに白い塊が放たれる。
放たれた白い塊は輝夜を護る様に配置され、配置が済むと白い塊からレーザーが一斉に放たれた。

「ッ!?」

白い塊からレーザーが放たれたのを見た龍也は反射的に弾幕を放つのを止め、体の在る位置をずらす。
体の位置をずらしたお陰か、

「く……」

掠りはしたものの、龍也はレーザーの直撃を受ける事だけは避けれた様だ。
とは言え、レーザーの直撃を避けれたからと言っても安心する訳にはいかない。
何故ならば、白い塊からはまだレーザーが絶える事無く放たれているからだ。
一度でもレーザーの直撃を受けてしまえば体勢が崩れ、立て続けに他のレーザーに当たってしまうので、

「ちぃ!!」

龍也は細かく体を動かし、レーザーを避けていく。
暫しの間、レーザーを避ける事に集中していると突如としてレーザーが止んだので、

「そら!!」

反撃と言わんばかりに龍也は弾幕を放つ。
しかし、龍也が放った弾幕は全て白い塊に阻まれて輝夜本人に届く事は無かった。

「くそ……」

自身の攻撃を完全に防がれた事で龍也が悪態を吐いたタイミングで、再び白い塊からレーザーが放たれる。
迫り来るレーザーを見た龍也は弾幕を放つのを一旦止め、再び回避行動に専念し始めた。
同時に、どうやって輝夜に攻撃を当てるかを考えていく。
弾幕を放っても、輝夜を守護するかの様に配置されている白い塊に防がれてしまう。
となれば、先ずは白い塊を突破する必要が在る。
そこまで考えが至った辺りで、

「……ん?」

龍也はある可能性に思い至った。
思い至った可能性と言うのは、輝夜が展開している白い塊は破壊出来るかもしれないと言うもの。
妖精が放って来た白い塊もリグルが放って来た白い塊も破壊する事が出来た。
ならば、輝夜を護っている白い塊も破壊出来るのではないであろうか。
あくまで可能性が高いと言うだけだが、この儘ではジリ貧だ。
状況を打開するには多少の賭けはする必要が有ると龍也は判断し、

「……よし」

レーザーを受けても体勢を崩さない様な心構えを取り、輝夜に向けて弾幕を放ち始めた。
回避行動に専念しなくなった事で龍也の体にレーザーが直撃し始めたが、

「ぐ……」

歯を喰い縛り、体勢を崩すのだけは避ける。
その一方で、龍也の弾幕が輝夜を護る様に配置されている白い塊に次々と命中していく。
そして、

「あら」

輝夜を護る様に配置されている白い塊の一部が破壊され、弾幕が輝夜本人に向かって行った。
迫り来る弾幕を輝夜は片腕で防ぎ、

「ふーん……力で強引に破って来たわね」

力で強引に破って来たと呟きながらもう片方の腕を懐に入れ、

「昔はそんな強引な男……全然居なかったわね」

少し昔の事に想いを馳せながらスペルカードを取り出し、

「難題『火鼠の皮衣 -焦れぬ心-』」

三枚目のスペルカードを発動させる。
新たなスペルカードが発動すると今度は火の玉を模した弾幕が現れ、現れた弾幕は龍也の方へと向って行く。
今までの弾幕とは明らかに毛色の違う弾幕であるから、

「………………………………………………………………」

龍也は一旦弾幕を放つのを止め、迫り来る弾幕の観察に意識を向ける事にした。
観察する為、火の玉の一つをギリギリで避けた瞬間、

「熱ッ!?」

かなりの熱さを龍也は感じ取り、反射的に今居る場所から大きく離れる。
それだけ、火の玉の熱量が凄まじいものであったのだ。
これでは火の玉を余裕を持って避けなければならないのだが、そうしなくても良い方法は在る。
方法と言うのは、自身の力を朱雀の力に変えると言うもの。
自身の力を朱雀の力に変えれば、炎を扱う力だけではなく炎などに対する強い耐性を得る事が出来る。
だとするならば、さっさと朱雀の力に変えれば良いと思われるであろうが、

「………………………………………………………………」

力を変える事を龍也は躊躇していた。
何故かと言うと、戦闘方法を提示した訳では無いとは言え弾幕ごっこで戦っているからだ。
以前妖夢と弾幕ごっこで戦った時、妖夢に自分や魔理沙は通常の弾幕ごっこでも近接戦込みの弾幕ごっこでも普通に能力を使っていると語った。
つまり、能力使用は弾幕ごっこのルールに反しないと言う事になる。
実際、龍也はその時の妖夢との近接戦込みの弾幕ごっこで自身の能力を使って戦った。
だが、妖夢と戦った時と今では決定的に違うものがる。
それは、龍也が自身の力を朱雀の力に変えたら今輝夜が発動しているスペルカードを只の弾幕に出来てしまうと言う点だ。
同じスペルカードで相手のスペルカードの特性を無効化したのなら兎も角、能力の使用だけで相手のスペルカードの特性を無効化する。
この部分に龍也は引っ掛かりを覚えているのだ。
暫しの間、考え事に集中していたせいか、

「ッ!?」

直ぐ目の前に火の玉が迫って来るまで、龍也は火の玉の接近に気付けなかった。
迫り来る火の玉を避ける為に龍也は反射的に回避行動を取ったが、

「熱ッ!!」

また火の玉をギリギリで避ける事になってしまい、熱さに耐える様な表情を浮べながら大きく距離を取る。
大きく距離を取りながら龍也は火の玉の放たれ方を観察し、

「思っていた以上に弾幕が激しいな……」

思わず弾幕が激しいと言う感想を漏らす。
これでは、大きな動きで回避行動を取っていたら輝夜に弾幕を当てる事はかなり厳しいであろう。
となれば、今までの様に迫り来る弾幕をギリギリで避けながら反撃すると言う方法を取るのが一番だ。
後は自身の力を朱雀の力に変えるかどうか選ぶだけ。
どちらを選ぶか龍也は少しの間、頭を捻らせ、

「……よし」

何か決意を固めた様な表情を浮かべ、弾幕と弾幕の間を体を滑り込ませる様に輝夜との距離を詰めて行く。
因みに、距離を詰めて行っている龍也の髪や瞳の色は元の黒の儘。
どうやら、龍也は自身の力を変えずに弾幕ごっこを続ける道を選んだ様だ。
ともあれ、朱雀の力を使っていない現状でその様な避け方をしていたら熱いだけであるが、

「ぐ……」

火の玉が近くを通り過ぎる度に感じる熱さを、龍也は歯を喰い縛る事で耐えていた。
火の玉の熱さで少しずつ体力が削がれていくのを感じるも、それを無視するかの様に、

「らあ!!」

龍也は輝夜に向けて弾幕を放つ。
放たれた弾幕の大半は火の玉とぶつかって相殺し合ったが、相殺されなかった弾幕は輝夜本人へと向って行く。
迫り来る弾幕を輝夜は片腕を防ぎ、

「へぇー……火の玉の熱さに耐えて攻撃を加えて来るか。勇気と言うか根性が有るわね」

火の玉の熱さに耐えている龍也を勇気や根性が有ると称すも、

「ま、鈴仙と永琳を倒して来たんだからそれ位は有って当然ね」

直ぐに鈴仙と永琳を倒して来たのだから勇気も根性も有って当然かと考え直しながら懐に手を入れ、

「さて、これも攻略されそうだから次にいきましょうか」

懐から四枚目のスペルカードを取り出し、

「難題『燕の子安貝 -永命線-』」

取り出したスペルカードを発動させた。
新たなスペルカードが発動した事で放たれている火の玉が全て消え、一つ白い塊が輝夜から放たれる。
放たれた白い塊は一つだけであったからか、直ぐに突破してやると言う意気込みで龍也が弾幕の射線を白い塊に向けた刹那、

「なっ!?」

白い塊から無数のレーザーがあらゆる方向へと放たれた。
放たれたレーザーは龍也の弾幕を打ち消し、龍也本人へと向かって行く。
弾幕が打ち消された時点で龍也は弾幕を放つのを止め、回避行動を取ったが、

「ぐあ!!」

レーザーを避け切る事が出来ず、何本のレーザーの直撃を受けてしまう。
レーザーの直撃を受けたものの、体勢を崩しただけで戦闘不能になる程のダメージは受けていない。
だが、レーザーの直撃を何度も受ければ話は変わって来る。
確実に戦闘不能になる程のダメージを負う事になるだろう。
そして、龍也を戦闘不能にするレーザーは今この瞬間にも迫っているのだ。
体勢を崩している龍也に向けて。
これではレーザーの直撃を受けるのを待つだけであったのだが、

「ちぃ!!」

龍也は崩れた体勢の儘、一瞬で移動する移動術を使って今居る場所から離れる。
お陰でレーザーの直撃を受ける事だけは避けれたが、直撃を避ける為に適当に動いたせいで、

「ッ!?」

目の前にレーザーが在る地点に龍也は出てしまった。
おまけに体勢は崩れた儘の状態で。
だからか、龍也は再び一瞬で移動出来る移動術を使って回避行動を取る。
しかし、再び回避行動を取った先にもレーザーが在ったのだ。
当然、それを回避する為に龍也はまたまた回避行動を取ったのだが、

「くそ!!」

これまたレーザーが近くに在る場所に出てしまった。
レーザーを避ける為に一瞬で移動出来る移動術を連続で使う。
現れては消え現れては消えと言った感じでレーザーを避けていく龍也を見て、

「あら、随分速く動き回るわね。てっきり力尽くで来るのかと思ってたから少し吃驚したわ」

何処か感心したと言った表情を輝夜は浮べる。
そんな輝夜に対し、龍也は必死とも言える表情でレーザーを避けていた。
必死な表情で避けているのも無理はない。
何せ、体勢を立て直せていない状態で回避行動を取り続けているのだから。
おまけに、今の状態で一度でもレーザーの直撃を受ければ立て続けにレーザーの直撃を受ける事は確実。
必死にもなるだろう。
それはさて置き、一瞬で移動出来る移動術を使って回避行動を取り始めてから幾らかった頃、

「……ん?」

白い塊から放たれるレーザーが突如として止んだ。
理由はどうであれレーザーが止んだ事で龍也は回避行動を取るのを止めて体勢を立て直し、白い塊を弾幕で破壊し様とした瞬間、

「何!?」

輝夜の前方に在った白い塊が消えてしまった。
いざ攻撃するタイミングで攻撃目標が消えてしまった事で、龍也は思わず動きを止めしまう。
その間に再び一つの白い塊が輝夜から放たれ、放たれた白い塊は輝夜の前方で止まり、

「ッ!!」

先程と同じ様に無数のレーザーがあらゆる方向に放たれた。
放たれたレーザーを見た龍也は反射的に回避行動を取る。
但し、今度は一瞬で移動出来る移動術を使わずにレーザーを避けている様だ。
避けている中で、龍也はどうやってこのスペルカードを攻略するかの答えを出す為に頭を回転させていく。
一度白い塊が消え、もう一度現れたのを見るにレーザーを出している白い塊の破壊は余り意味は無いだろう。
となれば、白い塊の破壊するより輝夜に攻撃を集中させる方が良いかもしれない。
そう考えた龍也は自身の正面から白い塊を外す様に移動し、回避行動を取りつつ大量の弾幕を放つ事にした。
輝夜のレーザーで龍也の弾幕の大半が打ち消されてしまったものの、幾らかの弾幕は輝夜へと向って行く。
無論、輝夜のレーザーも龍也へと向かって行ったが。
基本動き回っている龍也はレーザーを避ける事が出来たが、一箇所に留まって攻撃を放っている輝夜は弾幕を避ける事が出来ず、

「あ痛ッ!!」

弾幕の直撃を受けてしまった。
と言っても、弾幕の数は大したものでは無かったので大きなダメージを無い様だが。
兎も角、ダメージを受けてしまった事で、

「……ふふ、やるじゃない」

輝夜は称賛する様な言葉を龍也に述べながら懐に手を入れ、

「でも、これをクリアする事が出来るかしら?」

懐から新たなスペルカードを取り出し、

「難題『蓬莱の弾の枝 -虹色の弾幕-』」

五枚目のスペルカードを発動させた。
新たなスペルカードが発動された事で白い塊と放たれていたレーザーが消え、新たな白い塊が輝夜から放たれる。
が、今回放たれた白い塊の数は七。
放たれたそれ等は輝夜を護る様に配置され、それぞれの白い塊から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色の弾幕が放たれた。
迫り来る弾幕を見た龍也はまるで虹の様だと言う感想を抱きつつ、初めて美鈴と戦った時の事を思い出す。
思い出した事で美鈴との戦いに感慨に耽そうに成った時、目の前にまで輝夜の弾幕が迫って来ている事に気付いたので、

「っと!!」

弾幕を放つのを止め、龍也は回避行動を取る。
第一陣を回避し切った安心するも束の間、今度は白い塊から弾幕が明後日の方向へと放たれ始めた。
おまけに、輝夜本人も龍也に向けて弾幕を放って来たではないか。
補足すると、輝夜から放たれて来た弾幕も赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と虹を思わせる色合いをしている。

「く……」

今の回避行動では確実被弾してしまうので、龍也は回避パターンを変えていく。
回避パターンを変えたお陰で比較的余裕を持って回避行動を取れていたのだが、

「が!?」

突如として、龍也の背中に何かが着弾した。
不意打ちとも言える様な攻撃で体勢を崩しそうに成ったものの、体勢が崩れるのを龍也は何とか堪え、

「何が……」

視線を背後に向ける。
すると、輝夜が放ったであろう弾幕が龍也の目に映った。
何故輝夜の弾幕が背中に当たったのかを考え様とした刹那、龍也の頭にある考えが過ぎる。
過ぎった考えと言うのは、背中に当たった弾幕は明後日の方向に放たれた弾幕ではないかと言う事。
それが正しいかどうかを確認するかの様に、龍也は周囲を見渡す。
見渡した結果、明後日の方向に飛んで行った弾幕が自身の背中に当たった事が分かった。
咲夜やてゐの反射させるナイフや弾幕と似た様なタイプだと龍也は判断し、どう回避して攻撃を加えるかと言う事に付いて思考を廻らせていく。
しかし、幾ら頭を回転させても突破口ではなくこのスペルカードが厄介だと言う事しか分からなかった。
分かった事と言うのは下手に動こうものなら退路が塞がれ、集中砲火を受ける事になると言うのが一つ。
二つ目は輝夜に攻撃を加え様にも、白い塊が盾になっているのでそれも出来そうに無いというもの。
白い塊を破壊し様にも時間が掛かり過ぎて弾幕の餌食になるであろうし、白い塊が無い場所に回り込もうにも弾幕の量が多過ぎて確実に被弾してしまう。
全くと言って良い程に打開策が浮かばなかった事で、

「くそ……」

龍也は悪態を吐く。
とは言え、悪態を吐いたところで状況が変わる訳でも無い。
打開策が浮かばず、只回避するだけに徹している龍也を見て、

「あらあら、ここまでかしら?」

挑発気味の言葉を輝夜は零す。
零された挑発は龍也の耳に入ったが、それに対して何かを返すと言う事を龍也は出来ないでいた。
何故かと言うと、他の事に気を回せば確実に被弾すると感じているからだ。
言うなれば、龍也はギリギリの状態で回避行動を取っているのである。
そして、そんな状態だと言うのに輝夜の挑発で何も返さずとも幾らか心を乱してしまった為、

「ぐっ!!」

今まで避ける事が出来ていた弾幕が龍也の体を掠り始め、

「ぐあ!!」

ついには避ける事が出来ていた弾幕の直撃も受ける様になってしまう。
この儘では立て続けに弾幕を受けて敗北してしまう事になる未来が予測出来たからか、龍也は一旦仕切り直そうと距離を取ろうとした時、

「がっ!?」

幾つかの弾幕が龍也の後頭部に直撃してしまった。
弾幕が直撃した場所が場所なだけに龍也はふら付いてしまったが、

「ッ!!」

反射的に今居る場所から離れる。
同時に、龍也の体があった場所に幾つかの弾幕が通過して行った。
離れたお陰で集中砲火を浴びると言う事態は避けれた様だが、迫り来る弾幕を対処すると言う事態まで避けれた訳では無い。

「くそ!!」

全くと言って良い程に状況が変わっていない事に龍也は悪態を吐きつつ、再び回避行動を取り始めた。
勿論、突破口を見付ける為に頭を回転させながら。
だが、幾ら回避行動を取り続けて頭を回転させても有用な手を何一つ思い付けなかった。
ジリ貧と言っても良い状況から脱する事が出来ずに苛立ちがどんどんと溜まっていった頃、

「…………止めだ」

止めだと言う発言が龍也の口から紡がれる。
紡がれた言葉が耳に入った輝夜は、

「あら、ギプアップ宣言?」

何処かがっかりとした表情を浮べながらギブアップかと聞く。
不利な状況下で止めだと言えば、ギブアップ宣言と取られても可笑しくはないだろう。
ともあれ、ギブアップを疑われているからか、

「ちげーよ」

否定の言葉を龍也は述べながら龍也は懐に入れ、

「こう……ごちゃごちゃ考えるのをだよ」

止めだの意味を輝夜に教え、思った。
本当に、

「俺らしくなかったぜ」

自分らしくなかったと。
思った事に納得が出来たからか、龍也は憑き物が落ちた様な表情を浮かべ、

「思考が堂々巡りなるなら……力尽くで真っ向から叩き潰せば良いだけだ!!!!」

これから何をするかを口にしながら懐からスペルカードを取り出し、

「憤怒『朱雀の怒り』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が黒から紅に変わって輝きを発し始め、髪の色も黒から紅へと変わった。
その瞬間、龍也から高密度、広範囲の炎の弾幕が放たれる。
放たれた弾幕の幾らかは輝夜の弾幕とぶつかり合って相殺し合ったものの、それでも大量の弾幕が輝夜を護る様に配置されている白い塊に命中していき、

「ッ!?」

白い塊を破壊した。
白い塊が破壊されたとなれば、輝夜が放てる弾幕の量は大きく減ってしまう。
かと言って白い塊を再配置する為に少々時間が掛かり、炎の弾幕の直撃を受けるのは確実。
攻撃をしたいが態々龍也の攻撃を受ける気は輝夜には無いので、仕切り直しをするかの様に輝夜は龍也から距離を取ったが、

「なっ!?」

輝夜が距離を取っている最中に、朱雀を模した炎の塊が龍也から放たれた。
放たれた炎の塊を見た輝夜は直感的に拙いと感じ、炎の塊の射線外に逃れ様としたが、

「しまっ!!」

今の輝夜は炎の弾幕から逃れる為に距離を取ろうとしている最中であるからか、新たな回避行動を取る事が出来ない様だ。
が、それでも何とか回避し様と輝夜は足掻いていた。
しかし、そんな輝夜の努力も空しく、

「ッ!?」

輝夜は朱雀を模した炎の塊に呑み込まれてしまう。
本命とも言える攻撃が直撃した事で一安心と言った表情を浮かべると、朱雀を模した炎の塊が大爆発を起こした。
そして、爆発を起こした場所から何かが墜落して行っているのが龍也の目に映る。
目に映ったものが何なのかを確認する為に目を凝らすと、墜落して行っているのは輝夜である事が分かった。
墜落して行っている輝夜の様子を少しの間観察しても、復帰して来る様子は見られない。
気絶でもしたのだろうか。
だとしたら、輝夜は地面に激突してしまう事であろう。
流石に輝夜が地面に激突するのを指を銜えた儘見ていると言うのはあれであるからか、龍也はスペルカードの発動を止める。
スペルカードの発動が止まると龍也の髪の瞳の色が元の黒色に戻ると、場に残っていた無数の炎の弾幕が消失した。
場から完全に弾幕などが消えた事を確認した後、龍也は一瞬で移動出来る移動術を使って輝夜の傍に向かい、

「よ……っと」

落下して行っている輝夜の手を掴み、輝夜が落下するのを防ぐ。
取り敢えず決着が着いたと言う事で、

「ふぅ……」

疲れを吐き出すかの様に龍也が一息吐くと、

「お疲れ様」

労いの言葉を掛けながら、幽香が龍也の近くへとやって来る。
幽香が近くにやって来たのを感じ取った龍也は幽香の方に体を向け、

「ああ……って痛え!!」

何か言葉を掛け様とした瞬間、幽香の手の中からアリスの人形が飛び出して龍也の胸部をポカポカと殴り始めた。
再びアリスの人形に殴られる事態になり、龍也が疑問気な表情を浮べてしまったからか、

「その子、貴方が霊力を解放した時にまた吹き飛ばされたみたいよ」

何故、アリスの人形がまた龍也に殴り掛かったのかを龍也は幽香に説明する。
幽香の説明を受けた龍也は、本物の月を見て狂いそうになった時に霊力を解放した事を思い出す。
だからか、

「ごめん!! ごめんって!! 俺が悪かったって!!」

龍也は再び謝罪の言葉をアリスの人形に掛けるが、アリスの人形は中々殴るのを止めなかった。
まぁ、同じ方法で二回も吹き飛ばされる事となったのだ。
中々怒りが晴れなくても無理はない。
怒り心頭と言った感じのアリスの人形にどう声を掛けてものかと龍也が思案している間に落ち着いたからか、

「お……」

アリスの人形は龍也を殴るのを止め、龍也の頭頂部に乗っかった。
殴るのを止めてくれたのでアリスの人形の怒りが収まったと龍也は判断し、

「……で、だ。これで異変は解決したのか?」

話を変えるかの様に異変はこれで解決したのとかと幽香に聞く。
聞かれた幽香は天に浮かぶ月に目を向け、

「ここから見える月は本物。けど、ここ以外の場所から見える月が本物に成っているかどうかまでは分からないわね」

幻想郷に本物の月が戻っているかどうかまでは分からないと言い、

「紫ー、どうせ見てるんでしょ。この屋敷の居る連中、私達を含めた関係者全員隙間で神社に送ってくれないかしら?」

自分達を含めて永遠亭に居る関係者を隙間で博麗神社に送ってくれないかと漏らす。
すると、龍也と幽香の真下に大きな隙間が開かれた。
やはりと言うべきか、幽香が漏らした通り紫は龍也達の動向を監視していた様だ。
監視されていたと言う部分に少々思うところがあるものの、紫が監視していたお陰で帰りはかなりの楽が出来る。
自分自身の中で監視されていた事に対する折り合いを龍也が着けたタイミングで、

「さて、それじゃ行きましょうか」

行こうと言葉を幽香が掛けて来た。
確かに、何時までのここに居ると言う訳にもいかないので、

「そうだな」

同意の返事を龍也は返す。
そして、龍也と幽香は降下して隙間の中に入って行った。























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