現在、龍也と幽香の二人は周囲に無数の目が存在している空間を降下して行っている。
勿論、この降下している空間は紫の隙間の中だ。
この様な空間に入り込んだら不気味だと言う様な感想を抱きそうなものだが、龍也は全く別の感想を抱いていた。
龍也が抱いている感想と言うのは、隙間の中に来るのは幻想入りした時以来だと言うもの。
ある意味、龍也に取って紫の隙間は始まり場所と言っても良い場所。
それ故に、龍也はその様な感想を抱いたのだろう。
そんな感想を抱き、過去に一寸した想いを龍也が向けている間に、

「お……」
「あら、意外と早くに着いたわね」

龍也と幽香の目には博麗神社が目に映った。
どうやら、隙間の出口に着いてしまった様だ。
長い様で短い移動だったなと言う事を龍也が思っていると、

「あ……」
「あら……」

博麗神社上空に龍也と幽香は出た。
序に言うと、地表まで結構な距離が在る。
幻想郷に来る前の龍也であったら、確実に墜落死している様な高さだ。
しかし、今の龍也に取ってはこの程度の高さなど大したものでは無い様で、

「たく、出口を開くならもっと地表の近くにで開けっての」

地表から離れた場所に出口を開いた紫に対する愚痴を零す余裕が龍也には存在していた。
ともあれ、出された場所が場所なだけに龍也と幽香は着地に備えて体勢を整えていく。
その間にアリスの人形は龍也の頭から離れ、アリスの元へと向かって行った。
そして、上空に出た二人が地に足を着けたタイミングで、

「よっ……と」

気絶している輝夜を龍也は地面に横たわらせる。
すると、

「「ん?」」

龍也と幽香の背後で何かが落下する音が発生した。
発生した音が気に掛かった龍也と幽香の二人は、背後に体を向ける。
体を向けた先にはてゐ、鈴仙、永琳の三人の姿があった。
どうやら、紫は幽香の頼みをちゃんと頼みを聞き入れた様だ。
落下して来た三人の姿を改めてと言った感じで龍也が観察している間に、

「お疲れ様」

労いの言葉を掛けながら紫は龍也の隣にまで足を運び、

「さて、どうして月を欠けさせる何て真似を仕出かしたのかって言う理由などを色々と聞かせて貰おうかしら」

月を欠けさせると言う異変を起こした理由を永琳から問い質そうとする。
自分達は敗者であり、数の利も劣っている状況。
更に言えば、永遠亭の姫である輝夜が龍也の直ぐ傍で気絶している。
以上の事を頭を入れた永琳は観念したかの様な表情を浮かべ、

「……はぁ、分かったわ」

溜息を一つ吐き、月を欠けさせると言う異変を起こした理由を話し始めた。





















永琳からの話を纏めると、今回の異変は輝夜を守る為に起こしたものらしい。
何でも、鈴仙、永琳、輝夜の三人は元々月に住んでいたとの事。
だが、色々遭ってこの三人は幻想郷にやって来たそうなのだ。
そして、幻想郷にやって来た三人は隠れる様に生活していた。
自分達の存在を秘匿するかの様に。
しかし、その様な生活を送れぬ理由が出来てしまった。
その理由と言うのは、月の住人が三人を月に連れ戻そうと言う情報を鈴仙がキャッチしたからだ。
月に戻る気が無い三人は何か対策を立て様とした時、永琳はある事を思い出す。
月の住人がこちら側に来る為には、満月が出ている必要があると言う事を。
つまり、満月さえ出ていなければ月の住人はこちら側に来る事が出来ないのである。
故に永琳達は今回の異変、満月を欠けさせると言う異変を起こしたのだ。
大まかではあるが、これが今回の異変を起こした理由だそうだ。
では、満月を元に戻してしまったら月の住人が幻想郷にやって来てしまうのではないか。
そんな可能性が永琳の話を聞いていた者達の頭に過ぎったが、その心配は無いと言う発言が紫から発せられた。
何でも、月から外の世界に行く事は出来ても月から幻想郷に行く事は出来ないらしい。
今居る面々の中で幻想郷に付いて一番詳しい者は紫だ。
ならば、別に満月を元に戻しても月の住人が幻想郷に来る事は無いのだろうと一同は判断する。
ともあれ、満月を欠けさせる必要性が無くなった事で永琳は天に浮かぶ偽者の満月を元の満月に戻した。
これで一件落着とは言え、今回の異変は下手をすれば幻想郷全土で暴徒が発生するかもしれなかった異変だ。
だからか、二度と今回の様な異変を起こすなと念を紫は永琳に押す。
永琳としても進んで異変を起こす気は無いので、押された念を何の抵抗も無く受け入れた。
と言った感じで異変の事後処理が終わった後、

「ま、こうなるわな」

想定通りと言った感じの事を龍也はポツリと漏らす。
何が想定通りなのかと言うと、現在の博麗神社で異変解決祝いの宴会が開かれている事。
まぁ、異変解決組は龍也と幽香の二人と別れてからは博麗神社で宴会の準備を進めていたのだ。
こうやって宴会が開かれているのは極々自然な流れであろう。
余談であるが、異変が解決したと言う事もあって夜が止まると言う事態も収まっている。
兎も角、宴会と言う事で、

「うん、美味い美味い」

龍也は食べ歩きをしながら宴会会場内を歩き回っていた。
すると、

「……お」

見知った顔を龍也は発見する。
折角見知った顔を発見したと言う事で、龍也は見知った顔が居る方に近付き、

「よっ」

軽い挨拶の言葉を掛けた。
掛けられた挨拶の言葉に反応したからか、

「あ、龍也」

挨拶の言葉を掛けられた者、ミスティアは龍也の方に体を向ける。
それに続く様にしてリグルも龍也の方に体を向けた。
どうやら、龍也が見付けた見知った顔と言うのはミスティアとリグルの二人の事であった様だ。
体を龍也の方に向けた二人であったが、リグルの直ぐにキョロキョロと周囲を見渡し始めた。
急に周囲を見渡し始めたリグルを不審に思ったからか、

「ん? どうかしたのか?」

どうかしたのかと言う言葉を龍也はリグルに掛ける。
掛けられた声に反応したリグルは恐る恐ると言った感じで、

「あ、あの怖いお姉さんは……」

怖いお姉さん、幽香の事を龍也に問う。
問われた事で龍也は弾幕ごっこでリグルを倒した後の幽香とリグルのやり取りを思い出し、

「幽香の事か? 幽香だったら……」

怖いお姉さんが幽香を指している事を理解しつつ、幽香を探すかの様に顔を動かしていく。
顔を動かし始めてから幾らかすると、龍也は紫と一緒に酒を飲んでいる幽香の姿を発見した。
なので、

「幽香ならあっちの方で紫と飲んでいるみたいだぞ」

龍也は幽香が何処で何をしているのかをリグルに教える。
取り敢えず、幽香が近くに居ない事を知れたからか、

「ほ……」

思いっ切り安心したかの様な表情をリグルは浮べた。
今までのやり取りでリグルの反応が気に掛かったミスティアは、

「何かあったの?」

龍也に何かあったのかと尋ねる。
尋ねられた事は別に隠して置く必要が在る訳でも無いので、

「ああ、実はな……」

リグルがどうしてあの様な反応をしたのかの理由を龍也はミスティアに教えた。
教えられた内容を頭に入れたミスティアは納得した表情を浮かべ、

「成程……」

成程と呟きながらリグルの方に体を向け、

「まぁ、仕方無いんじゃない?」

当たり障りの無い言葉を掛ける。

「ううー、人事だと思って……」
「はは……」

お気楽な感じの言葉を掛けて来たミスティアにリグルが何とも言えない視線を向けると、ミスティアは苦笑いを浮かべ、

「ま、それはそうと焼き八目鰻持って来たんだけど食べる?」

話を変えるかの様に持って来た焼き八目鰻を食べるかと言う提案をし出す。
まだまだ腹には余裕が在るし、ミスティアの焼き八目鰻は美味しい。
だからか、

「ああ、食べる食べる」

焼き八目鰻を食べる事を龍也は主張しながらミスティアが手に持っていた焼き八目鰻を受け取り、

「いっただっきまーす」

早速と言わんばかりに焼き八目鰻を食べ、

「うん、美味い」

美味しいと言う感想を漏らした。

「えへへ、ありがとう」

自分が作った物に美味しいと言う感想を言ってくれたからか、ミスティアは嬉しそうな表情を浮べる。
そのタイミングで、

「ねぇねぇ、私の分は?」

自分の分はどうしたと言う主張をリグルは行なう。
食べ物の話題が出たからか、リグルの機嫌が少しは直った様だ。
そんなリグルを見て、食い意地が張っているなと言う様な感想を龍也が抱いた時、

「はいはい、貴女にも上げるわよ」

分かっていると言う様な表情をミスティアは浮かべ、リグルに焼き八目鰻を手渡す。
手渡された焼き八目鰻を受け取ったリグルは、嬉しそうな表情を浮べて焼き八目鰻を食べ始めた。
それを見て、

「うんうん、こうやって焼き八目鰻の美味しさを広めていけば焼き鳥撲滅の日も遠くは無いわね」

焼き鳥撲滅も遠く無い事をミスティアは確信する。
流石にそれはまだまだ遠いのでは言う事を龍也は思いつつも、

「ま、頑張れ」

頑張れと言う言葉をミスティアに掛けた。
応援の言葉を掛けられたミスティアは、

「うん、頑張る!!」

笑顔を浮べながら頑張ると言い、

「そうそう、今度屋台で新メニューを出そうと考えているの。で、龍也はどんなのが良いと思う?」

唐突に、自分の屋台に出す新メニューはどんなのが良いかと言う事を龍也に聞く。
行き成りその様な事を聞かれ、龍也は少々驚くも、

「そうだな……サラダとかどうだ?」

サラダはどうだと提案する。

「サラダ……か。焼き八目鰻とセットで出すのも良いかもしれないわね」
「新メニューとは違うけど、酒の種類を増やすってのはどうだ?」

サラダを新メニューに加えると言う提案にミスティアが好感触を示している間に、龍也は酒の種類を増やしたらどうだを言ってみた。
すると、

「お酒の新メニュー……」

ミスティアは何かを考える体勢を取り、

「そうだ、あのお酒を復活させる事が出来れば……」

ある酒を復活させる出来ればと言う案を零す。
一体どんな酒を復活させる気なのかの興味が龍也にはあったが、それは復活した時の楽しみにして置こうと考えてその酒の詳細を尋ねると言う事はしなかった。
とある酒を復活させ様とミスティアが目論んでいる間に、

「んー……私は生野菜が良いかな。虫達でも食べれる様な」

焼き八目鰻を食べ終えたリグルが、自分は生野菜が良いと言う意見を出す。
どうやら、焼き八目鰻を食べながらでもリグルはミスティアの話を聞いていた様だ。

「えー……屋台で何の調理もしていない野菜を出すとか。それ以前に、虫が集っている屋台って……」

リグルの意見を耳に入れたミスティアが難色を示した為、

「一寸!! どう言う意味よ!!」

リグルがミスティアに喰って掛かった。

「どう考えても、虫が集っている屋台にお客さんは寄り付かないでしょ」
「何をー!!」

虫に関する話題でミスティアとリグルが喧嘩を始め様としたので、

「まぁまぁ……」

仲裁するかの様に龍也が二人の間に入る。
その瞬間、

「龍也!! 龍也だって虫は好きでしょ!!」

物凄い勢いでリグルは龍也の方に顔を向け、龍也も虫は好きだろうと言う言葉を掛けた。

「ああ、そうだな。カブトムシとかクワガタは好きだな」
「人間の男の子って、カブトムシやクワガタが好きなのが多いわよね」

好きな虫としてカブトムシとクワガタを上げた龍也に、人間の男の子はそれ系統の虫が好きだと言う感想をミスティアは抱く。

「ああ、確かに。人間の男の子そう言う虫は好きよねー」

ミスティアが抱いた感想にリグルは同意しつつ、

「じゃあ、蜻蛉は!? 蟷螂とか蝶々とか百足とか蛍とか蜂とか蜘蛛とか蛾とか蟻とかは!?」

他に好きな虫はいないのかと龍也に問う。

「……何か、虫って言うか昆虫じゃ無いのが混ざってなかったか?」

問われた龍也はリグルが上げた虫の中に昆虫では無いのが居ると言う突っ込みを入れつつ、ミスティア、リグルの二人と雑談を交わしていく。
二人と雑談を交わして幾らかすると、雑談も一段落着いたので龍也は二人と別れて再び宴会場内を歩き回り始める。
再び歩き回り始めてから少し時間が過ぎた辺りで、

「龍也」

何者かが龍也の名を呼んで来た。
自身の名を呼ばれた事で龍也は足を止め、自身の名を呼ぶ声が聞こえた方に体を向ける。
体を向けた先には、

「レミリア」

レミリアの姿が龍也の目に映った。
この事から、自身の名を呼んだ者がレミリアである事を龍也は理解し、

「よう」

改めと言った感じでレミリアに挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉に、

「ええ、こんばんは。龍也」

レミリアは挨拶の言葉を返し、

「無事に異変を解決して来た様ね」

異変の話題を出すも、

「ま、何れは私のものになる男なんだ。異変の一つや二つ、楽に解決出来て当然ね」

直ぐに何れは自分のものになる男なのだから異変を解決する事が出来て当然だと口にし、この話題を打ち切った。

「はは……」

相変わらずとも言えるレミリアの物言いに龍也が軽い苦笑いを浮べると、

「ふふ、やっぱり満月は本物に限るわね」

ご機嫌と言った感じの表情をレミリアは浮かべ、満月は本物に限ると言いながら顔を天に向ける。
顔を天に向けたレミリアに釣られる様にして龍也も顔を天に向け、天に浮かぶ満月に視線を移す。
偽者の満月と本物の満月。
この二つの違いを龍也は今一つ分からなかったが、

「ああ、そうだな」

場の雰囲気を壊さない為に、適当な相槌を打つ。
そんな感じで二人揃って満月を見始めてから幾ら経った頃、

「……ふむ、通常の満月も良いけど紅い満月も良いのよね」

ふと、紅い満月も良いものだとレミリアは呟いた。
呟かれた内容から、

「おい、また異変を起こす気か?」

また異変を起こす気かなのと龍也は考える。

「さて、それはどうかしら?」

龍也が考えた事にレミリアは少々意地が悪い笑みを浮かべながら曖昧な返事をし、

「それはそうと、少し口元が寂しくなって来たわね」

話を変えるかの様に少し口元が寂しくなったと漏らして指を鳴らした。
すると、咲夜が音も無く龍也とレミリアの傍に現れる。
現れた咲夜の手にはワインが入った二つのグラスが乗っかったお盆が在り、レミリアは特に何かを言うと言った事せずに一つのグラスを手に取ってワインを飲み、

「……うん、美味しい」

美味しいと言う感想を零す。
そして、

「どう、龍也も」

龍也にワインを飲む様に勧めた。
レミリアが漏らした通り口元が少々寂しかったし、紅魔館のワインや料理などは美味しい物ばかり。
となれば、レミリアの勧めを断る理由など無く、

「ああ、貰うよ」

貰うと言いながら龍也はワインが入ったグラスを手に取ってワインを飲み、

「……うん、美味い」

美味いと言う感想を零す。

「そうでしょうそうでしょう」

自分の館から持って来たワインに美味しいと言う感想を得られた事で機嫌が良くなっていっているレミリアを余所に、

「そういやこうやって飲み物とか運んでいるけど、お前はちゃんと飲み食い出来ているのか?」

龍也は咲夜にちゃんと飲み食い出来ているのかと問う。
問われた咲夜は軽い笑みを浮かべ、

「ええ、ちゃんと飲み食いはしてるわ。只、お嬢様にお呼ばれした時はそちらを優先しているだけで」

飲み食いはちゃんとしていると返す。
その後、

「折角だ。ワインだけじゃなく紅魔館から持って来た肉も持って来なさい」

レミリアは咲夜に紅魔館から持って来たワインだけはなく肉も持って来る様に指示を出した。
指示を出された咲夜は、

「畏まりました」

了承の返事と共に姿を消し、

「お待たせしました」

一瞬にも満たない時間で咲夜は再び姿を現す。
再び現れた咲夜の手には大きな皿が在り、皿の上には一口サイズに切り分けられた焼肉が何本もの串に纏められていた。

「あら、肉を全部切り分けたの?」
「はい。宴会と言う場ですので食べ易い様にと。あ、味付けは既に済ませております」

肉を全て切り分けている事に付いてレミリアが咲夜に聞くと、咲夜から宴会と言う場で皆が食べ易い様に切り分けたのだと言う答えが述べられた。
確かに、宴会と言う場なら食べ物は食べ易い物に限る。
だとするならば、焼いた肉を一口サイズに切り分けて串に刺して纏めると言う咲夜の取った手法は中々に良いものだろう。
ともあれ、折角焼肉を持って来てくれたのだ。
肉類は好きな部類に龍也の中には入っているので、

「じゃ、いっただっきまーす」

早速と言わんばかりに龍也は串を一本手に取り、焼肉を食べ始め、

「うん、美味い」

またまた美味いと言う感想が龍也の口から零れた。

「私の紅魔館から持って来た物だもの。美味しくて当然ね」

美味しいと言う感想が龍也の口から再び零れた事で、レミリアもまたまた気分を良くする。
気分や機嫌が良い二人が居る事で場の雰囲気が穏やかなものになり始めた辺りで、

「……っと、そうだ。咲夜、貴女も食べてなさい」

咲夜も食べる様にレミリアは勧めた。
主であるレミリアに食べる様に勧められたからか、

「では失礼して……」

一言、咲夜は失礼してと言って焼肉を食べ始める。
只一言だけ言って食べ始めた辺り、咲夜も結構腹を空かせていると考えられるだろう。
まぁ、咲夜も宴会準備組の一人なのだ。
更に言えば今回の宴会は突発的に開催が決まったものであり、咲夜の立場は従者。
宴会の準備に集中し過ぎて胃袋への補給が疎かになってしまっていても仕方が無い。
そんな感じで三人仲良く飲み食いしながら、

「しっかし、肉を全て一口サイズに切り分けるのってかなり大変だったろ」
「別にそこまで大変だったって訳じゃ無いわよ。アリスに妖夢、それと藍が手伝ってくれたから」
「ま、そいつ等位でしょうね。手伝う何て事をしてくれる殊勝な奴は」
「はは。まぁ、俺もそれ位なら手伝えそうだな」
「と言うより、切り分ける程度の事は出来て当然でしょ。まぁ、妖精メイドの中にそれすら出来ないのも居るけど」
「……妖精メイドの採用基準、真剣に考え様かしら」

龍也、咲夜、レミリアは雑談に華を咲かせていく。
雑談に華を咲かせて幾らか経つと雑談の内容にも一段落着いたので、龍也はレミリアと咲夜の二人と別れてまた宴会場内を彷徨い始めた。
宴会場内を見て回っていると魔理沙とアリスの姿が龍也の目に映る。
折角また見知った顔を見付けたので、龍也は二人に近付き、

「よっ」

軽く声を掛けた。
掛けられた声に反応した魔理沙とアリスは龍也の方に顔を向け、

「お、龍也じゃないか」
「あら、龍也じゃない」

龍也の存在を認識する。
その後、

「しっかし、今回は良く分からん異変だったな」

改めてと言った感じで魔理沙は今回の異変は良く分からないものだったと漏らし、魔理沙は天に浮かんでいる満月に目を向け、

「さっきまで満月と今の満月って何処が違うんだ? 私には良く分からん」

異変時の満月と今の満月、何処が違うのか分からないと言う感想を零した。
魔理沙の感想に龍也が共感を抱いた瞬間、

「貴女も魔法使いならそれ位分かりなさいよ」

魔法使いなら本物と偽者の月の違い位は気付けて当然と言う突っ込みがアリスから入る。
ある意味、魔法使い失格と言われた様なものであるからか、

「なにをー!!」

魔理沙はアリスに喰って掛かろうとした。
何やら喧嘩が始まりそうな雰囲気になり掛けて来たので、

「まぁまぁ……」

仲裁するかの様に龍也は魔理沙とアリスの間に入り、

「それよかアリス、人形ありがとな」

話を変えるかのアリスに人形を貸してくれた事に対する礼を述べる。

「どういたしまして。ま、役に立った様で何よりだわ」

述べられた礼にアリスはどういたしましてと返しつつ、

「そう言えばこの子一寸機嫌が悪かったんだけど、何かあったの?」

龍也に自身の人形の機嫌が悪かった事に付いて問うた。
問われた龍也は霊力の解放で二回程、アリスの人形を吹き飛ばした事を思い出し、

「ああ、実は……」

アリスの人形の機嫌が悪かったであろう理由を説明していく。
龍也からの説明を受けたアリスは納得した表情を浮かべ、

「それにしても、何でこの子は龍也の頭の上に居座る……何て事をしたのかしら?」

何故龍也の頭の上に居座る真似をしたのかと言う疑問を抱きながら自身の人形に視線を向ける。
自身の人形の行動に付いてアリスが考えている間に、

「そういやアリスの人形って結構自由に動き回ってたけど、完全自立型人形の作成はもう目前じゃないのか?」

完全自立型人形の作成はもう目前なのではと龍也は口にした。
異変解決時のアリスの人形は生きていると言っても良い程の立ち回りをしていたのだ。
龍也がそう思うのも無理はない。
しかし、

「実はそうでも無いのよね。この子はあくまで私が出した命令を自分で考えて実行しているだけだし。前にも言ったと思うけど、今の私が作れるのは
半自立型人形だけよ」

アリスに取ってはそうでは無い様で、完全自立型人形の作成はまだまだ遠いと言った事をアリスは語った。
完全自立型人形と半自立型人形。
この二つには天と地程の差があるのだなと言う事をアリスが語った内容から龍也が思っていると、

「それにしても、精神に作用させる能力か。中々厄介な能力だな」

精神に作用する能力は少々厄介だと魔理沙は口にした。
どうやら、魔理沙もつい先程龍也がしていた説明を聞いていた様だ。
兎も角、魔理沙が口にした内容が耳に入ったからか、

「そうね、戦いの最中に精神が急に不安定になったら厄介この上ないわ」

気持ちを切り替えるかの様にアリスは魔理沙が口にした事に乗っかり、

「でも魔法使いはある程度の精神汚染耐性を持っているから、精神に作用する能力はそこまで脅威って訳では無いわね。ま、貴女は別でしょうけど」

からかうかの様な視線と言葉を魔理沙を向ける。

「おい、そりゃどう意味だ?」
「貴女の場合、精神汚染耐性で精神干渉系の力を防いでいるのではなく自身の膨大な魔力量で防いでいるって感じでしょ。前に私の家で私の許可無く少々危険な
魔導書を読んでた時、魔導書の力が貴女の魔力に負けたってのを見た事があったわよ」

からかいの言葉に反応した魔理沙が少し機嫌が悪くなったと言った感じでアリスの方に視線を向けると、アリスはからかいの意味を述べつつ、

「でもま、狂わされた精神を正常に戻す為に霊力を解放するってのは中々良い手ね。精神を元に戻すのに集中する為に無防備になるのがネックだけど、
霊力を解放した際の圧力で相手の動きをある程度妨げるが出来る。うん、悪くは無い手ね」

龍也が精神を正常に戻す為に霊力を解放したのは中々の手だと称した。
自分の事を無視された様な形になり面白く無さそうな表情を浮かべた魔理沙であったが、直ぐに何かを思い付いた表情を浮かべ、

「霊力の解放でいけるのなら魔力の解放でもいけるな。尤も、アリスの魔力量じゃあ厳しいだろうけどな」

アリスの魔力量では自分や龍也と違って狂った精神を元に戻すのは厳しいのではと言う。
その物言いにカチンと来たからか、

「お生憎様。私の魔力量でも狂った精神を元に戻す事は十二分に出来るわ」

アリスは直ぐに魔理沙が言った事に反論し、

「ま、魔力を効率的に扱う事の出来ない貴女では何かをする為に必要な魔力量の算出って言うのは出来ないでしょうけど」

お返しと言わんばかりに軽い挑発を行なう。
そして、

「そんな算出ばかりしてるからアリスは総魔力量が少ないんじゃないのか?」
「そりゃ貴女と比べたら少ないでしょうけど、そこ等の魔法使いや悪魔よりはずっと有るわよ」
「仮にそうだったとしても、魔力を出し惜しみして負けそうになっているアリスの姿が私には見えるぜ」
「あら、私には無駄に魔力を消費して肝心なところで魔力切れを起こして負けそうになっている魔理沙の姿が見えるわ」
「…………………………………………………………」
「…………………………………………………………」
「……やるか?」
「……やりましょうか?」

魔理沙とアリスは口喧嘩を経て実際の喧嘩に移行し様としていた。
なので、龍也は仲裁の言葉を二人に掛け様としたが、

「……止めましょうか。宴会と言う場でこんな不毛な事をするのは」
「……だな。宴会でこんな事をしていても不毛なだけだぜ」

その前にアリスと魔理沙がこれ以上は不毛と判断し、喧嘩しそうであった雰囲気を四散させる。
たった今まで喧嘩しそうな雰囲気だったと言うのに、急にそれを止めた。
女心と何とやらと言うのはこう言う事を言うのかと龍也が思っていると、

「魔力量で思い出したんだが、霊夢もそうだけど龍也も保有霊力量が多いよな。外来人って保有霊力量が多い奴ばかりなのか?」

ふと、外来人とは皆保有霊力量が多いのかと言う事を魔理沙は龍也に聞く。
聞かれた龍也は腕を組みながら過去の事を思い出していくが、

「んー……どうだろ?」

何とも言えない表情を浮べつつ、曖昧な返答をした。
人里で外来人に会った事が龍也には何度かある。
だが、霊夢、魔理沙、咲夜の程の霊力、または魔力を有している外来人を見た事は無かったのだ。
尤も、龍也が会った外来人が力を隠していたと言うのであれば話は別であるが。
ともあれ、龍也の曖昧な返答を耳に入れたアリスは、

「外来人が人里の自警団に入ったり霊力などの力を扱い出したって言うのは聞いた事があるけど、龍也位の霊力を有している外来人が居るって言うのは
聞いた事が無いわね」

龍也位の霊力を有している外来人が居ると言う話は聞いた事が無いと漏らし、

「私も聞いた事が無いな。龍也位の霊力を有している外来人って言うのは」

それに続く様にして魔理沙も龍也位の霊力を有している外来人の存在を聞いた事が無いと口にした時、

「幻想入りして来た外来人は結構見て来たが、龍也程の霊力や戦闘能力を有している外来人は見た事が無いな」

龍也程の霊力や強さを持った外来人には会った事が無いと言う台詞が藍から発せられる。

「「「藍」」」

急に現れた藍に龍也、魔理沙、アリスの三人が少し驚いている間に、

「あ、すまないな。急に会話の中に入って」

藍は急に会話の中に入って来た謝罪を行なう。
謝罪が行なわれたタイミングで、

「そう言えば、八雲は幻想郷の創世に大きく係わっているんだったわね。創世時から今に掛けても、龍也位の霊力や強さを持った外来人を見た事が無かったの?」

幻想郷の創世に八雲が大きく係わっている事をアリスは思い出し、藍に幻想郷の創世から今に掛けても龍也の様な外来人を見た事が無かったのかと尋ねる。
尋ねられた事に、

「ああ、見た事は無いな。まぁ、私が知らないだけで紫様なら存じているかもしれないが」

肯定の返事と共に紫なら知っているかもしれないと言う事を藍は述べ、

「外来人、龍也に限らず霊夢、魔理沙、咲夜。この四人程の強さを持った人間など、ここ久しく見た事は無かったがね。あ、歴代の博麗の巫女を除いてだが」

歴代の博麗の巫女を除いて龍也、霊夢、魔理沙、咲夜の四人の様な強さを持った人間を久しく見ていないと言う発言で締め括った。

「確かに。人里の自警団の人達と比べても、今の四人は強さなどが大きく抜きん出ているものね」

藍の発言にアリスが同意を示した瞬間、

「藍様ー、お稲荷さんを持って来たましたー」

お稲荷が乗った皿を手に持った橙が龍也達の傍にやって来る。
やって来た橙を見た藍は軽い笑顔を浮かべ、

「お疲れ様、橙」

労いの言葉を掛けつつ、橙の顔をジッと見詰めた。
そして、

「……うん、完全に落ち着いた様だね」

安心したかの様に完全に落ち着いた様だと零す。

「落ち着いたって……何かあったのか?」

落ち着いたと言う部分が気に掛かった龍也が藍に何かあったのかと尋ねた。
尋ねられた事は別に隠して置く事では無いからか、

「ああ、本物の満月を直視した時に一寸狂い掛けてしまってね。まぁ、つい先程まで偽者の満月が在ったから仕方が無いと言えば仕方が無いが」

橙が狂い掛けてしまった事を藍は龍也に教える。

「成程」

藍から教えられた事を頭に入れた龍也は、納得した表情を浮かべた。
何せ、輝夜の所から見える月を見た龍也は人間だと言うのに狂い掛けてしまったのだ。
月の影響を受けている妖怪が急に本物の月を見たら多少なりとも精神に影響は受けるであろう。
まぁ、橙は妖怪ではなく妖獣なのだが月の影響を受けているのを考えるにその辺は妖怪も妖獣も変わらない様だ。

「でも、藍様は全然平気ですよね」
「ま、この程度で自分を見失っていては紫様の名に傷が付いてしまうからね」

本物だろうと偽者だろうと月の影響で自分を見失わない藍に橙が尊敬する様な視線を向けると、別に大した事では無いと言った雰囲気を藍は見せる。
と言っても、橙に尊敬の視線を向けられている事で藍は若干嬉しそうな顔をしていたが。
ともあれ、そこそこの人数が一箇所に集まっていたせいか、

「……ん? ここ等に在る食べ物や酒がもう殆ど無いな」

今まで飲み食いして物が殆ど無くなってしまった。
その事に付いて魔理沙が指摘を行なうと、

「ああ、それなら大丈夫」

アリスは大丈夫と言って軽く指を動かす。
すると、何体かのアリスの人形が食べ物やら酒やらを持って来た。

「ほう、見事なものだな」

食べ物やら酒を運んで来ている人形の動きを見て、藍が見事なものだ言う。

「人形遣いなら、これ位の事は朝飯前よ」

見事と言われたアリスがこの程度は大した事では無いと口にすると、アリスの人形が近くのテーブルの上に持って来た物を並べていく。
並べられていく物の中に焼き魚が在ったからか、

「お魚!!」

橙は思いっ切り目を輝かせた。
目を輝かせている橙は今にも焼き魚に食い付きそうだったので、

「こらこら、幾ら宴会と言う場でも行き成り食い付こうとするのは止めなさい」

藍が橙を軽く窘める。
窘められた橙が幾らかの落ち着きを取り戻したタイミングで、

「折角酒の追加が来たんだ。ここ等でいっちょ、乾杯でもしないか?」

酒の追加が来たのだから乾杯し様と言う提案を魔理沙は行ない、酒が入ったグラスを手に持つ。
乾杯をすると言う魔理沙の案に異論は無いからか、

「そうね、折角だしそうしましょうか」

アリスも乾杯する事に賛成の意を示し、酒が入ったグラスを手に取った。
魔理沙とアリスの二人が乾杯する気になっているからか、

「そうだな……そうするか」

龍也も乾杯する事に賛成の意を示す。
乾杯し様としている三人に続く様にして、

「この流れなら、私も乾杯しない訳にはいかないな」
「私も乾杯したいです」

藍、橙の二人も乾杯する事に賛成する。
そして、龍也、魔理沙、アリス、藍、橙の五人が酒のグラスを手に持つと、

「「「「「乾杯」」」」」

五人はグラスを合わせ、酒を飲み始めた。





















魔理沙、アリス、藍、橙の四人と乾杯した後、龍也は飲み食いをしながらこの四人と雑談を交わしていた。
それから幾らかすると龍也は四人と別れ、近くに在った酒瓶を手にして再び宴会場内を彷徨い始める。
そんな時、拝殿近くで霊夢が一人で酒を飲んでいるのが龍也の目に映った。
だからか、龍也は霊夢の近付いて行き、

「よっ」

軽く声を掛ける。
声を掛けられた霊夢は顔を上げ、

「あら、龍也じゃない」

龍也の存在を認識した。
同時に、龍也は霊夢の隣に腰を落ち着かせて持って来ていた酒瓶に口を付けて酒を飲み始める。
龍也が酒を飲んでいるのを横目で見た後、霊夢は騒いでる一角に目を向け直し、

「気楽に騒いじゃって。全く、誰が後片付けをすると思ってるのかしら」

愚痴るかの様に誰が後片付けをすると思っているのかと呟き、龍也の方に顔を向けて龍也の顔をジッと見詰め始めた。
ジッと見詰められた事で霊夢が何を言いたいのかを龍也は理解し、

「……分かってる、俺も手伝うよ」

溜息混じりに宴会の後片付けをする事を霊夢に約束する。
そう約束された霊夢は嬉しそうな表情を浮かべ、

「催促したみたいで悪いわね」

欠片も悪いと思っていないのに悪いわねと言い、

「それと、素敵な賽銭箱はそこよ」

賽銭箱の事を口にしながら賽銭箱が在る方向に指をさす。
たったこれだけ行動でこれまた霊夢が何を言いたいのかを理解した龍也は、

「わーったわーった。賽銭位、入れてやるよ」

根負けしたかの様に賽銭を入れると言いながら龍也はポケットの中から財布を取り出し、小銭を幾らか掴んで賽銭箱のへと放り投げる。
放り投げた小銭が賽銭箱の中に入ると、

「ありがと、龍也」

霊夢は満面の笑顔で礼の言葉を述べた。

「相変わらずだな、お前」
「そう思うんなら、龍也からも他の奴等に言ってよ。博麗神社に来たらお賽銭を入れる様にって」

賽銭を入れた事でご機嫌となった霊夢を龍也が相変わらずと称すと、そう思うのなら博麗神社に来る者達に賽銭を入れる様に言えと言う発言が霊夢から返って来る。
確かに、霊夢の発言通り博麗神社にやって来る者の中で賽銭をしていく者は殆どと言って良い程に居ない。
だとするならば、多少の賽銭の強請りには目を瞑るべきではないだろうか。
と言う様な事を龍也が考え始めた辺りで、

「やっほー!!」

何者かが上方から降って来た。
降って来た者が龍也の肩に乗っかって来た為、

「な、誰だ!?」

誰が自分の肩の乗っかって来たのかを龍也は確認し様としたが、

「あら、萃香じゃない」

確認する前に龍也の肩に乗っかった者の名を霊夢は紡ぐ。
紡がれた名で降って来た者が誰であるかを龍也が認識したのと同時に、

「どうしたの、急に?」

何をしにやって来たのかと言う事を霊夢は萃香に問う。
問われた萃香は楽しそうな声色で、

「いやー、楽しそうな雰囲気を神社から感じたからね。だからここに来たって訳」

博麗神社にやって来た理由を話しながら龍也の肩から降り、

「それにしても楽しそうだね。何の宴会?」

どう言った宴会なのかを尋ねて来た。

「異変解決の宴会よ」
「異変? 異変なんてあったの?」

尋ねられた事に霊夢がどう言った宴会をしているかの教えると、萃香は疑問気な表情を浮べる。

「ああ、偽者の満月が天に浮かぶって言うのがな。気付いてなかったのか?」

疑問気な表情を浮べてしまった萃香に龍也は異変の内容を教えつつ、異変に気付かなかったのかと聞く。
今回の異変は、妖怪の大半が瞬時に気付けたもの。
だと言うのに、萃香が月の異変に気付けなかったのは些か疑問が残る。
そんな龍也の疑問に答えるかの様に、

「あはは、実はついさっきまで寝てたからねー」

ついさっきまで寝ていた事を萃香は漏らし、

「それで、異変は誰が解決したんだい?」

異変を解決したのは誰だと言いながら龍也と霊夢の顔を交互に見ていく。
早く異変を解決した者を教えて欲しいと言った態度を萃香が取った為か、

「龍也と幽香よ」

若干呆れた声色で異変を解決した者は龍也と幽香である事を霊夢は萃香に教える。
教えられた事を頭に入れた萃香は満面の笑顔を浮かべ、

「流石、私に勝った男だ!!」

ご機嫌と言った感じで龍也の背中をバシバシと叩き、

「ご褒美に私の酒を上げよう!!」

そう言いながら瓢箪を取り出し、

「えい!!」
「もが!?」

取り出した瓢箪を龍也の口に突っ込んだ。
急に口の中に瓢箪を突っ込まれて龍也がもがいている間に、萃香は龍也の口の中から瓢箪を引っこ抜く。
同時に、

「ゲホ!! ゴホゴホ!! 何すんだよ!?」

龍也は咽ながら萃香に文句の言葉をぶつける。
行き成りこの様な事をされたら文句の一つや二つ、ぶつけたくもなるだろう。
しかし、文句の言葉をぶつけられた萃香は何処吹く風と言った感じで、

「ご褒美だよご褒美。異変解決の」

異変解決のご褒美だと言ってのけ、

「私特製のお酒、美味しかったでしょ?」

話を変えるかの様に自分特性のお酒は美味しかっただろうと口にする。
そう、萃香が龍也の口に突っ込んだ瓢箪の中には酒が入っていたのだ。
それはさて置き、無理矢理とは言え飲まされた酒は美味しかったからか、

「まぁ……美味かったな」

美味かったと言う感想を漏らした。
自分が飲ませた酒に対して美味しいと言う感想を返された事でご満悦と言った表情を浮べている萃香に、

「へぇー……美味しいお酒ねぇ……」

興味深そうな視線を霊夢は向ける。
霊夢からの視線に気付いた萃香は、

「駄目だよ。これは龍也へのご褒美だからね」

龍也へのご褒美なのだから霊夢には上げないと言い、瓢箪の中に入っている酒を飲み始めた。
龍也と萃香の二人だけが萃香特製の酒を飲んでいるからか、

「あーあ、こんな事だったら私が異変を解決すれば良かったわ」

愚痴るかのよ様に自分が異変を解決すれば良かったと呟く。
あの時、他の異変解決の面々と出会わなかったり戦ったりしなければ霊夢が異変を解決した可能性は十分に存在しているだろう。
と言っても、今更何を言おうが後の祭りではあるが。
萃香の酒が飲めなくて何処かしょ気ている霊夢に、

「まぁまぁ、宴会なんだし何時までもしょ気てたって良い事は無いよ」

萃香が慰めとも言える様な言葉を掛ける。
慰められた霊夢は気を取り直したかの様に龍也の方に顔を向け、

「それもそうね。と言う訳で龍也。貴方が持って来た酒瓶、頂戴」

龍也の持つ酒瓶をくれと言う頼みをし出した。
別に独り占めする気は無かったので、

「ほら」

持って来ていた酒瓶を霊夢の方へと放り投げる。
放り投げられた酒瓶は見事霊夢の手の中に収まり、

「ありがと」

礼の言葉を述べながら霊夢は受け取った酒瓶の酒を飲み始めた。
一人でぐいぐいと言った感じで酒を飲んでいる霊夢を釣られるかの様に、

「私等も飲もうよ、龍也」
「そうだな」

萃香と龍也も酒を飲み始めた。





















龍也が霊夢と萃香の二人と酒飲みをし始めてから幾らか経った頃。
龍也は二人と別れてまたまた宴会場内を彷徨っていた。
いや、食べ歩き飲み歩きをしていると言った方が正しいであろう。
兎も角、そんな感じで宴会場内を彷徨っていると、

「お……」

テーブルの上におにぎりが乗った皿が在るのを発見した。
色々食べたり飲んだりしていたが、腹にはまだまだ余裕が在る。
だからか、龍也はおにぎりを手に取っておにぎりを食べ様とした。
しかし、龍也がおにぎりを口に入れる前に、

「もーらい」

横から掠め取られてしまう。
誰が自分のおにぎりを掠め取ったのかを確認する為に龍也は顔を真横に向ける。
顔を向けた先には、

「幽々子」

幽々子の姿が在った。
横から食べ物を掠め取る者など限られていたからか、龍也は平時と変わらない様子で、

「相変わらずだな」

相変わらずだなと口にした。
そう口にされた幽々子は幸せそうな表情を浮べながらおにぎりを食べている。
この様子なら幽々子がおにぎりを食べ終えるまで碌に話しも出来なさそうだと龍也が思った時、

「幽々子様ー」

妖夢が幽々子の後方から現れ、

「頼まれていたお饅頭、お持ちしました!!」

頼まれていた物を持って来たと言い、妖夢は幾つかの饅頭が乗った皿を幽々子に差し出す。
その瞬間、皿の上に乗っかっていた饅頭が消えてしまった。
消えた饅頭が幽々子が隠し持ったのか既に口の中に入ったのかは分からないが、かなりの早業を見せた幽々子に龍也が呆れと感心を入り混ぜた様な感情を抱いた時、

「こんばんは、龍也さん」

挨拶の言葉を妖夢は龍也に掛けた。
掛けられた声に反応した龍也は妖夢の方に顔を向け、

「ああ、こんばんは」

挨拶の言葉を返す。
お互い挨拶の言葉を掛け合った後、

「流石ですね、龍也さん。異変を見事に解決されて。私ももっと精進せねば」

異変を解決した龍也に妖夢が称賛の言葉を掛ける。

「流石って言われても……妖夢だってあそこで霊夢達と戦っていなければ十分に異変は解決出来ただろ」
「勿論、異変を解決する自信は有りました。ですが、私の自信はどうであれ実際に異変を解決したのは龍也さんです」

流石と言われるまでも無いと呟いた龍也に、異変を解決したのは龍也なのだから流石と言うべき程なのだと言う様な事を妖夢は言い切った。
今更何を言っても龍也が異変を解決したと言う事実に変わりは無いので、異変を解決した龍也に称賛の言葉を掛けるのは当然と言う事なのだろうか。
妖夢らしいと言えば妖夢らしいと言う感想を龍也が抱いていると、

「そうよねー、妖夢ったら自信満々な表情で異変解決するって言ってたのに」

茶々を入れながら幽々子が二人の会話の中に入って来た。
幽々子が茶々を入れながら会話の中に入って来た事で、

「いや、確かお前も皆で戦い合う様に煽ってたんだよな。妖夢が異変を解決出来なかった要因はお前にも有るんじゃないのか?」

妖夢が異変を解決出来なかった要因は幽々子にも有るのではと言う突っ込みを龍也が入れる。
すると、

「いえ、あの戦いを制して異変の首謀者を倒すと言った事が出来なかったのは私が未熟であったからです。決して、幽々子様のせいではございません」

自分が未熟だから異変を解決出来なかったと言う答えが妖夢から返って来た。
どうやら、妖夢の中では異変を解決出来なかった責は全て自分に在ると考えている様だ。
それで妖夢が納得しているそれで良いかと龍也は思い、

「そういや、白玉楼からは何を持って来たんだ?」

話を変えるかの様に白玉楼からは何を持って来たのかを聞く。

「白玉楼から以前紫様から頂いた外の世界の食べ物などを中心に持って来ました」
「ああ、どっかで食べた事が在るなと思う物が幾らか在ったけどあれは白玉楼から持って来た物だったのか」

聞かれた事に対する答えを妖夢から聞いた龍也は、納得した表情を浮かべながら宴会場内で外の世界で食べた事が在った物が在ったと呟く。
龍也の呟きから、

「そう言えば、龍也は外来人だったわね」

龍也が外来人である事を幽々子は思い出し、

「羨ましいわー、さぞや外の世界でしか食べられない物を沢山食べて来たんでしょうねー」

羨む様な視線を龍也に向ける。
幽々子からの視線が鬱陶しかったからか、

「……紫にでも頼め」

取り敢えず、紫にでも頼めと言う発言を龍也は発した。
龍也からその様な発言が発せられた後、

「そうねー、そうしましょうか」
「外の世界の食べ物……特に魚は幻想郷では見ない物が多いので調理が少々大変なのが結構在るんですよね」
「幻想郷に海は無いからなー」

幽々子、妖夢、龍也の三人は雑談を交わしながら飲み食いしていく。





















妖夢、幽々子と言った白玉楼の面々との雑談などに一段落着くと、予定調和と言わんばかりに龍也は二人と別れて宴会場内を彷徨い始める。
自由気儘と言った感じで宴会場内を回っていると、永遠亭のメンバーが固まっているを発見した。
折角なので龍也は発見した永遠亭のメンバーが居る所に近付き、

「よっ」

軽い挨拶の言葉を掛ける。
挨拶の言葉を掛けると、一同を代表するかの様に永琳は龍也の方に顔を向け、

「あら、いらっしゃい」

来訪を歓迎すると言った言葉を掛けた。
その様な言葉を掛けられた後、龍也は輝夜をジッと見詰める。
すると、龍也からの視線に気付いた輝夜は、

「私の顔に何か付いてる?」

龍也に自分の顔に何か付いているのかと問う。

「お前があのかぐや姫だって事に驚いてるんだよ」

問われた龍也は輝夜がかぐや姫である事に驚いているんだと返す。
そう、輝夜は絵本や古文なのでも有名なかぐや姫であったのだ。
余談ではあるが、輝夜の正体がかぐや姫である事を知った龍也は大いに驚いたものだ。
ともあれ、龍也が自分の事を見ていた理由を知った輝夜は色っぽい笑みを浮かべ、

「……若しかして、この私に見惚れちゃったのかしら?」

からかいの言葉を掛けた。

「別に」
「あら、淡白な反応。からかい甲斐がないわねぇ」

掛けられたからかいの言葉に龍也は淡白な反応をしたからか、輝夜は若干不満気な表情を浮べながら酒を飲み、

「それにしても、幻想郷に居れば月の追っ手を心配しなくても良いなんてね」

何処か遠くを見る感じで天に浮かぶ満月を視界に入れる。
そんな輝夜を見ながら、

「私の数十年は何だったんでしょうか?」

ポツリと、自分の数十年は何だったんだろうかと鈴仙は呟いた。
永遠亭の面々は月の住人に自分達の存在を隠す為、他との接触を出来る限り断っていたのである。
しかし、そんな事をする必要が無いと言うのが今日分かったのだ。
鈴仙がそんな事を呟くのも無理はない。
だが、

「貴女はたかだか数十年でしょ。私と永琳なんて千年以上も永遠亭に篭っていたのよ。千年以上」

数十年程度ならまだマシだと言う突っ込みが輝夜から入る。
確かに、数十年永遠亭に籠もっていた鈴仙の方が千年以上永遠亭に籠もっていた輝夜と永琳よりはずっとマシだろう。
千年以上の時を無駄にした言う様な事を口にした輝夜に、

「まぁ、姫様は元々引き篭もり気味でしたけどね」

輝夜は元々引き篭もり気味だったと永琳は漏らし、

「もう引き篭もってる必要も無いし、何かやった方が良いのかしらね?」

何かやった方が良いかと零しながら何かを考える体勢を取った。
もう引き篭もっている必要性も無いので、何所かしらと繋がりを持とうと永琳は考えている様だ。
とは言え、繋がりを持とうとしてもそう簡単に持てないであろう。
故に永琳は頭を悩ませているのである。
どの様にして他所と繋がりを持とうかと考えている永琳に向け、

「だったら医者でもやったらどうだ?」

医者をしたらどうだと提案を龍也は行なう。

「医者を?」
「ああ。確か、あんた医者なんだろ?」

龍也からの提案を受けた永琳が少し疑問気な表情を浮かべたからか、龍也は確認を取るかの様に医者だろうと聞く。
因みに、永琳が医者だと言うのを龍也が知っているのは宴会が始まる前に永遠亭の面々が軽い自己紹介を行なったのを耳に入れたからだ。
ともあれ、聞かれた事に対し、

「そうね。本業は薬師だけど、医者……つまりは医療行為も出来るわ」

本業は薬師だが医療行為も出来ると言う事を永琳は語る。
取り敢えず、永琳が医者だと言う確証が取れたからか、

「だったら人里で病人や怪我人を見たり、薬を売ったりとかをやったら良いんじゃないか? 人里の方には医術などに関する深い知識や技術を持つ者は殆ど
居ないって話らしいぜ」

人里には医術などに関する深い知識や技術を持ってる者が殆ど居ないと言った事を龍也は永琳に教えた。

「……人里に医者が不足してると言うのなら、そっち方面で交流を図ると言うのは中々良い案ね」

龍也から教えられた内容を受け、医療を武器に交流を図るのは中々良い手だと判断し、

「他にも龍也が言った通り薬品などを売ると言う方法も取れるわね。これは直接人里に持って行った方が良さそうだから……鈴仙にも手伝わせましょうか」

今後の予定を立てていく。

「……え、師匠。私も人里に行って薬の売買としなきゃならないですか?」
「当たり前でしょ。人手が多い方が沢山薬を売る事が出来るんだから」

自分も人里で薬の売買する事を決められて難色を示している鈴仙に、永琳は若干呆れた声色で人手が多い利点を説明する。
鈴仙が永琳に説得され切るのも時間の問題かと思われた時、

「お兄ーさん」

お兄さんと言う言葉と共に何者かが龍也の背後から抱き付いて来た。
急に抱き付かれた龍也は、自分に抱き付いて来た者を確認する為に背後へと顔を向ける。
顔を向けた龍也の目に、

「てゐか」

てゐが映った。
どうやら、龍也に抱き付いて来たてゐであった様だ。
それはさて置き、龍也が自分の存在を認識したのを理解したてゐは、

「お兄さんにお得な情報を持って来たよ」

人懐っこい笑みを浮かべながら龍也にお得な情報を持って来たと言い、小型の賽銭箱を龍也に見せる。

「……何だこれ?」
「ここにお金を入れるとお兄さんに幸運が訪れるよ」

行き成り賽銭箱を見せ付けられて疑問を抱いた龍也に、賽銭を入れると幸運が訪れると言った事を言い出した。
まるで何処かの巫女の様な事を言い出したてゐに龍也が呆れた感情を抱いていると、

「また貴女は……」

鈴仙は何か言いた気な視線をてゐに向ける。
何時もこんな事をしているのだろうか。
兎も角、賽銭箱に金を入れてくれと主張しているてゐを視界に入れながら龍也はてゐの賽銭箱の中に金を入れるか否かに付いて考えていく。
暫しの間考えを廻らせた結果、別に良いかと言う判断を龍也は下した。
その様な判断を下し理由としては金欠と言う訳では無いし、博麗神社の賽銭箱よりはご利益は幾らか有りそうに感じたからだ。
と言う訳で龍也はポケットから財布を取り出し、財布の中の小銭を幾らかてゐの賽銭箱の放り込む。
自分の賽銭箱に小銭が入ったのを確認したてゐは、

「えへへ」

嬉しそうな表情を浮べながら鈴仙へと近付く。
そして、

「とりゃ!!」

鈴仙のスカートを捲り上げた。

「……え? きゃあ!?」

スカートを捲り上げられた事に気付いた鈴仙は慌ててスカートを押さえ、

「てゐ!!」

顔を真っ赤にしながらてゐを睨み付ける。
睨み付けられたてゐは一目散と言った感じで逃げ出した為、

「待ちなさい!!」

待ちなさいと言う言葉と共に鈴仙はてゐを追い掛け始めた。
追いかけっこを始めたてゐと鈴仙を視界に入れながら、

「……今のが幸運か?」

ポツリと今のが幸運かと龍也は照れ臭そうに漏らす。
若干顔を赤く染めながら。
そんな龍也を見て、

「……若いわね」
「少々初心な気もしますが……龍也位の年頃の男の子なら妥当な反応でしょう」

若いと称した輝夜に、永琳は龍也位の年頃の男の子なら妥当な反応と返した。





















「随分ご機嫌ね、幽香」

一緒に酒を飲んでいる幽香に、紫はご機嫌ねと言う。
そう言われた幽香は紫の方に顔を向け、

「そりゃそうよ。直接、龍也が強くなっていく様子を見れたんですもの」

ご機嫌である理由を話す。

「成程。それはご機嫌にもなるわね」

幽香から話された内容を頭に入れた紫が納得した表情を浮べると、

「龍也の成長スピードは私の想像以上。これは解っていた事だけど。ふふ、私が思っているよりも早くに龍也とは戦えそうね」

幽香は思っていたよりも龍也と戦えそうだと口にする。
その後、

「やれやれ、龍也も厄介なのに目を付けられわね。同情するわ」
「あら酷い。私の様な良い女に目を付けられたんだもの。龍也は幸せ者よ」

紫と幽香は軽口を叩き合いながら酒を飲む。
そして、

「今回のが激闘や死闘だったら龍也はもっと強くなったでしょうけど……弾幕ごっこでも龍也の強さを上げる事が出来ると言うのがはっきりと解ったから
まぁ、良いかしら」

今回の異変で激闘や死闘と言うのが起こらなかったのが一寸した不満だと言う様な事を幽香は零す。
すると、

「激闘や死闘を望むなんて。血の気が多い事」
「あら、貴女だって血の気は多い方でしょうに」
「まさか。私の様な淑女が血の気が多いだなんて」
「嘘ばっかり。何時だったか、貴女は相当なやんちゃをしたらしいじゃない」
「これでも長く生きている妖怪ですもの。ほろ苦い青春の一ページや二ページ、存在しますわ」
「あれがほろ苦い青春の一ページや二ページで済む事なのかしら?」
「ふふ、だったらほろ苦い青春の三ページってところかしら……ね」
「相変わらず煙に巻くのが……いえ、曖昧にするのが上手いわね」
「俗に言う、処世術と言うやつですわ」
「とんだ処世術もあったものね。力尽くと言う方法もあるでしょうに」
「力尽くだ何て……嫌ですわ、はしたない」
「はしたないと言うけど、力尽くが嫌いと言う訳でも無いでしょ」
「そうね、軽い運動はそれなりに好きでしてよ」
「軽い運動はそれなりに……ね」
「ええ、それなりに」
「ふふ……」
「うふふ……」

紫と幽香は軽い会話を交わし、酒を飲む。
飲んだ酒が喉を通り越した辺りで、

「……ふふ、強くなりなさい龍也。龍也が私と対等以上の強さを身に付けた時。その時こそ、私と龍也が戦う時よ」

そんな呟きが幽香の口から紡がれ、紡がれた呟きは夜の闇の中に消えていった。























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